説明

溶接トーチ

【課題】トーチボディ20の絶縁部材11外周部が自動溶接機3の溶接トーチ取付部30に把持されて使用したときに、溶接トーチ取付部30に対するトーチボディ20の空転を防止して、溶接位置狙いずれを防止する溶接トーチを提供する。
【解決手段】管状導電部材50と、この管状導電部材50の外周部を覆う絶縁部材11と、を備えて、基端に給電部材13が接続されて他端にコンタクトチップ14が接続されるトーチボディ20を備えた溶接トーチ1において、管状導電部材50の外周部が粗面に形成されて、絶縁部材11の外周部が自動溶接機3の溶接トーチ取付部30に把持されて使用したときに、溶接トーチ取付部30に対する管状導電部材50の空転を防止して、溶接位置狙いずれを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動溶接機に取り付けて使用する溶接トーチの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
造船や橋梁等の構造部材の溶接は、溶接トーチを自走台車などの自動溶接機に取り付けて溶接作業を行うことが一般に行われている。(例えば、特許文献1参照。)。図4(a)は溶接トーチを自動溶接機に取り付けて、構造部材の溶接を行う使用状態図を示す。図4(b)は、図4(a)におけるトーチ取付部30のA−A断面の部分拡大図である。図4(a)において、溶接線方向をZ方向、鉛直方向をY方向、YZ平面に直角な方向をX方向としている。自動溶接機3は、溶接トーチ1の位置調整をするためのY方向調整器31及びX方向調整器32が設けられ、X方向調整器32に取り付けられた連結アーム33の先端部に溶接トーチ1のトーチ角度を調整するための回転支持軸34を介して、トーチ取付部30が備えられている。
【0003】
図5は従来の溶接トーチの部分断面図を示す。トーチボディ10は、管状導電部材12と管状導電部材12の外周を覆う絶縁部材11とを備えており、管状導電部材12の内径部は、溶接ワイヤ通路部材19が挿入されている。溶接電源(図示省略)からの溶接電力を溶接トーチ1に供給するためのコンジットケーブル15の銅より線16の先端部が給電部材13の基端部にかしめられている。トーチボディ10の基端側外周部は、絶縁部材11が剥がされており、給電部材13先端の内径部に着脱可能に固定されている。給電部材13及び銅より線16のかしめ部は、半割構造の絶縁カバー17に覆われて、固定ネジ17aで固定されている。トーチボディ10の先端部には溶接ワイヤに電力を供給するコンタクトチップ14がねじ込まれている。
【0004】
トーチボディ10は、図5では直線形状のものを例示しているが、トーチ傾斜角度を持たせたりトーチ角度調整を簡便にしたりするため、管状導電部材12を曲げ加工したものも製作されている。溶接作業時には、管状導電部材12が200℃程度の高温になるため、絶縁部材11には耐熱性のある材料が用いられる。製造上の簡便さから、一般に、絶縁部材11の材料としてフッ素樹脂チューブが用いられて、管状導電部材12の外周に被せられている。溶接作業時に高温になることから、絶縁部材11と管状導電部材12とを接着剤で固定することはなされていない。
【0005】
図4(b)に示すとおり、下ホルダ35の連結アーム33方向端面に回転支持軸34が形成され、連結アーム33先端部内径に挿入されて、固定ネジ33aで固定される。下ホルダ35の連結アーム33に対して直角方向端面に、回転支持軸34に対して直角方向に、絶縁部材11の外径と同じ径の半円溝35aが形成されている。上ホルダ36は、下ホルダ35に対向して配置され、絶縁部材11の外径と同じ径の半円溝36aが形成されている。絶縁部材11外周部が下ホルダ35の半円溝35aと上ホルダ36の半円溝36aとの間に挟まれて、取付ボルト37を締め付けることにより、溶接トーチ1が自動溶接機3に取り付けられる。上ホルダ36と下ホルダ35とが互いに対向する面は、絶縁部材11外周部が下ホルダ35の半円溝35aと上ホルダ36の半円溝36aとの間に挟まれたときに、0.5〜5mm程度距離が空くように形成されて、絶縁部材11外周部の保持力を確保している。この状態で、図4(a)のZ方向に自動溶接機3が走行して溶接作業が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−132234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動溶接機3のトーチ取付部30で溶接トーチ1の絶縁部材11を把持した状態で、図4(a)のZ方向に自動溶接機3が走行して1m〜10m程度の自動溶接作業が行われる。このとき、コンジットケーブル15が自動溶接機3によって引きずられることにより、コンジットケーブル15にねじれが加わる。コンジットケーブル15の銅より線16先端部が給電部材13を介して管状導電部材12に固定され、絶縁部材11の外周部が溶接トーチ取付部30で自動溶接機3に固定されていることから、管状導電部材12と絶縁部材11との間にねじりトルクが発生する。
【0008】
このねじりトルクが、上ホルダ36と下ホルダ35との狭持力によって発生する管状導電部材12と絶縁部材11との間の摩擦力を上回ると、管状導電部材12が軸中心に空転してしまう。溶接ワイヤ41はスプール(図示省略)やペールパック(図示省略)から繰り出されるため、図6に示すように、コンタクトチップ14先端から溶接ワイヤ41が曲がった状態で送出される。溶接作業中、管状導電部材12が固定されていれば、溶接ワイヤ41の送出方向も固定されるが、管状導電部材12が空転してしまうと溶接ワイヤ41の送出方向も回ってしまい、溶接位置狙いずれが発生する。このため、溶接作業中に作業者が自動溶接機3の走行に合わせてコンジットケーブル15をたぐり寄せ、コンジットケーブル15のねじれをもどす作業が行われていた。管状導電部材12が空転すると、絶縁カバー17も管状導電部材12とともに回転するため、自動溶接機3の操作部スイッチ(図示省略)と絶縁カバー17とが干渉し、自動溶接機3の異常動作が発生する可能性があった。
【0009】
本発明は、管状導電部材12が絶縁部材11に対して空転することを防止することにより、溶接位置狙いずれを防止する溶接トーチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、
管状導電部材と、この管状導電部材の外周部を覆う絶縁部材と、を備えて、基端に給電部材が接続されて先端にコンタクトチップが接続されるトーチボディを備えた溶接トーチにおいて、
前記管状導電部材の外周部が粗面に形成されていることを特徴とする溶接トーチである。
【0011】
第2の発明は、
前記管状導電部材の外周部に、高さが前記絶縁部材の厚さより小さい突起が形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする第1の発明に記載の溶接トーチである。
【0012】
第3の発明は、
前記管状導電部材の外周部に溝又は穴が形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする第1の発明に記載の溶接トーチである。
【0013】
第4の発明は、
前記溝の長手方向は、前記管状導電部材の軸直角面に対して傾斜していることを特徴とする第3の発明に記載の溶接トーチである。
【0014】
第5の発明は、
前記管状導電部材の外周部にローレットが形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする第1の発明に記載の溶接トーチである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶接トーチは、管状導電部材が絶縁部材に対して空転することを防止することができるため、溶接作業中にコンジットケーブルにねじれ力が発生しても、溶接位置狙いずれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1の溶接トーチの部分断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2の溶接トーチの部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3の溶接トーチの部分断面図である。
【図4】従来技術の溶接トーチを自動溶接機に取り付けた使用状態図及び溶接トーチ取付部のA−A断面部分拡大図である。
【図5】従来技術の溶接トーチの部分断面図である。
【図6】図4における溶接ワイヤ先端部近傍の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態1のトーチボディ20部の軸直角断面を示す図である。トーチボディ20は、管状導電部材50と管状導電部材50の外周を覆う絶縁部材11とを備えており、管状導電部材50の内径部は、溶接ワイヤ通路部材19が挿入されている。管状導電部材50の外周面には、径方向に突出した突起51が1箇所以上設けられている。突起51の形状は円筒状又は円錐状、あるいは軸方向に伸びるリブ状のものでも良い。突起51の径方向高さは、絶縁部材11の厚さより小さいことが望ましい。
【0018】
以下、動作を説明する。絶縁部材11の外周部が自動溶接機3の上ホルダ36の半円溝36aと下ホルダ35の半円溝35aとの間に狭持されると、絶縁部材11の内径部が管状導電部材50外周面の突起51に引っかかり、管状導電部材50と絶縁部材11との間の摩擦力が増大する。この結果、溶接トーチ1が自動溶接機3に保持されて自動溶接作業が行われたときに、コンジットケーブル15が自動溶接機3によって引きずられることにより、コンジットケーブル15にねじれが加わって、管状導電部材50と絶縁部材11との間にねじりトルクが発生しても管状導電部材50が絶縁部材11に対して空転することを防止できる。したがって、コンタクトチップ14の先端から送出される溶接ワイヤ41の送出方向が一定し、溶接狙いずれが発生することを防止するという効果を奏する。管状導電部材50が絶縁部材11に対して空転することを防止できるため、作業者が自動溶接機3の走行に合わせてコンジットケーブル15をたぐり寄せ、コンジットケーブル15のねじれをもどす作業をなくすという効果を奏する。管状導電部材50の空転に伴って絶縁カバー17が軸中心に回転することを防止できるため、自動溶接機3の操作部スイッチと絶縁カバー17とが干渉し、自動溶接機3の異常動作が発生することを防止できるという効果を奏する。
【0019】
[実施の形態2]
図2は、本発明の実施の形態2のトーチボディ20部の軸直角断面を示す図である。トーチボディ20は、管状導電部材50と管状導電部材50の外周を覆う絶縁部材11とを備えており、管状導電部材50の内径部は、溶接ワイヤ通路部材19が挿入されている。管状導電部材50の外周面には、溝52が1箇所以上設けられている。溝52の形状は円形でもよいし、軸方向に伸びる長溝状のものでも良い。動作及び効果は実施の形態1の溶接トーチの動作及び効果と同じであるので説明を省略する。
【0020】
[実施の形態3]
図3は、本発明の実施の形態3のトーチボディ20部の軸直角断面を示す図である。トーチボディ20は、管状導電部材50と管状導電部材50の外周を覆う絶縁部材11とを備えており、管状導電部材50の内径部は、溶接ワイヤ通路部材19が挿入されている。管状導電部材50の外周面には、ローレット53が形成されている。ローレット53の形状は平目でもよいしアヤ目でもよい。動作及び効果は実施の形態1の溶接トーチの動作及び効果と同じであるので説明を省略する。
【符号の説明】
【0021】
1 溶接トーチ
3 自動溶接機
10、20 トーチボディ
11 絶縁部材
12 管状導電部材
13 給電部材
14 コンタクトチップ
15 コンジットケーブル
16 銅より線
17 絶縁カバー
17a 取付ネジ
19 溶接ワイヤ通路部材
30 トーチ取付部
31 Y方向調整器
32 X方向調整器
33 連結アーム
33a 固定ネジ
34 回転支持軸
35 下ホルダ
35a 半円溝
36 上ホルダ
36a 半円溝
37 取付ボルト
41 溶接ワイヤ
50 管状導電部材
51 突起
52 溝
53 ローレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状導電部材と、この管状導電部材の外周部を覆う絶縁部材と、を備えて、基端に給電部材が接続されて先端にコンタクトチップが接続されるトーチボディを備えた溶接トーチにおいて、
前記管状導電部材の外周部が粗面に形成されていることを特徴とする溶接トーチ。
【請求項2】
前記管状導電部材の外周部に、高さが前記絶縁部材の厚さより小さい突起が形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記管状導電部材の外周部に溝又は穴が形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記溝の長手方向は、前記管状導電部材の軸直角面に対して傾斜していることを特徴とする請求項3に記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記管状導電部材の外周部にローレットが形成されて、前記絶縁部材の外周部が自動溶接機の溶接トーチ取付部に把持されて使用したときに、前記取付部に対する前記管状導電部材の位置ずれを防止することを特徴とする請求項1に記載の溶接トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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