説明

溶接型ひずみゲージおよび溶接型ひずみゲージの製造方法

【課題】簡易な構成により、小型化や薄型化を図ることができると共に、製造コストを節減することができる溶接型ひずみゲージおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶接型ひずみゲージは、表面に受感部31を有すると共に裏面に接着剤4が塗布されたゲージベース3を加熱し、接着剤4を半硬化状態とする半硬化工程と、ゲージベース3を金属パイプ1に挿入し、接着剤4を介してゲージベース3の裏面を金属パイプ1の内側面に当てる当接工程と、金属パイプ1の内側面に配置されたゲージベース3の面に向かって金属パイプ1を押し潰す押圧工程と、押し潰された金属パイプ1を再加熱して、接着剤4を硬化させる再硬化工程とにより、溶接型ひずみゲージが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パイプの内側面に設けられたゲージにより該金属パイプが溶接された対象物のひずみを検出する溶接型ひずみゲージおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶接型ひずみゲージでは、ゲージベースと金属パイプの接続に高温用の加熱硬化型接着剤が用いられる。かかる加熱硬化型接着剤は、加圧状態で高温加熱して接着する必要があるため、接着剤を塗布したゲージベースを金属パイプへ所定の圧力で加圧した状態に保持しつつ、高温で加熱することにより接着剤を硬化させ、ゲージベースを金属パイプに接着させる。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、接着剤を塗布したゲージベースを金属パイプへ接着させる際に、ゲージベースの表面に加圧板を配置し、該加圧板を湾曲した板ばねで付勢して押圧させながら、接着剤を加熱硬化させてなる。
【特許文献1】特開2004−117083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の溶接型ひずみゲージでは、ゲージベースの接着の際に、加圧板や板ばね等の治具を用いる必要があり、接着後にこれらの治具を金属パイプ内から除去する必要もある。さらに、治具挿入のために空けていた金属パイプ内の空間は、充填材等により塞ぐ必要もある。このように、従来の溶接型ひずみゲージおよびその製造方法では、製造工程が複雑で製造に要する労力、費用や時間などのコストが嵩むという問題がある。
【0005】
また、従来の溶接型ひずみゲージでは、金属パイプ内に加圧板や板ばねを挿入するためのスペースを確保しなければならないため、ゲージ全体の小型化や薄型化を図ることが困難である。
【0006】
以上の事情に鑑みて、本発明は、簡易な構成により、小型化や薄型化を図ることができると共に、製造コストを節減することができる溶接型ひずみゲージおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明は、対象物のひずみを検出する溶接型ひずみゲージであって、金属パイプと、表面に抵抗体から成る受感部を有し、裏面に塗布された接着剤により該金属パイプの内側面に接着されるゲージベースとを備え、前記ゲージベースは、前記金属パイプ内に収納された状態で該金属パイプを押し潰すことにより、該金属パイプの内側面に圧着されて成ることを特徴とする。
【0008】
かかる第1発明の溶接型ひずみゲージによれば、金属パイプを押し潰すことにより、接着剤が塗布されたゲージベースを金属パイプの内側面へ押し付けた状態に維持する。そのため、ゲージベースの接着の際に、板ばね等の治具が不要となり製造過程を簡素化することができる。さらに、金属パイプは、治具挿入のスペースが不要となると共に、ゲージは押し潰された状態で用いられることから、ゲージ全体の小型化および薄型化を図ることができる。このように、第1発明の溶接型ひずみゲージによれば、簡易な構成により、小型化や薄型化を図ることができると共に、製造コストを節減することができる。
【0009】
第2発明の溶接型ひずみゲージは、第1発明の溶接型ひずみゲージにおいて、前記ゲージベースの裏面に塗布された接着剤を予め加熱して半硬化状態とした上で、該接着剤を介して該ゲージベースの裏面を前記金属パイプの内側面に当て、該金属パイプを押し潰して成ることを特徴とする。
【0010】
かかる第2発明の溶接型ひずみゲージによれば、接着剤を半硬化状態としておくことで、接着剤の流動性や粘着性を抑えることができる。これにより、金属パイプにゲージベースを挿入する際の取り扱いを容易として、製造過程を簡素化することができる。さらに、微小な金属パイプへの挿入が可能となり、ゲージ全体の更なる小型化を図ることもできる。
【0011】
第3発明の溶接型ひずみゲージは、第1または第2発明の溶接型ひずみゲージにおいて、前記受感部の表面に離型性を有する緩衝材を配置した上で、前記金属パイプを押し潰して成ることを特徴とする。
【0012】
かかる第3発明の溶接型ひずみゲージによれば、緩衝材を受感部の表面に配置した上で金属パイプを押し潰すため、受感部が損傷を受けることを回避することができる。さらに、緩衝材は、離型性を有するため、押し潰された金属パイプの内面が受感部と密着することを回避することができ、ひいては、金属パイプと受感部との接触による測定精度の低下を抑制し、測定精度を維持することができる。このようにゲージの小型化・薄型化や製造コストの節減が可能になることに加えて、測定精度も維持することができる。
【0013】
第4発明は、対象物のひずみを検出する溶接型ひずみゲージの製造方法であって、表面に抵抗体から成る受感部を有すると共に裏面に接着剤が塗布されたゲージベースを加熱し、該接着剤を半硬化状態とする半硬化工程と、前記半硬化工程を経た前記ゲージベースを金属パイプに挿入し、前記接着剤を介して該ゲージベースの裏面を該金属パイプの内側面に当てる当接工程と、前記当接工程により前記金属パイプの内側面に配置された前記ゲージベースの面に向けて該金属パイプを押し潰す押圧工程と、前記押圧工程により押し潰された金属パイプを再加熱して、前記接着剤を硬化させる再硬化工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
第4発明の溶接型ひずみゲージの製造方法によれば、金属パイプを押し潰すことにより、接着剤が塗布されたゲージベースを金属パイプの内側面へ押し付けた状態に維持するため、ゲージベースの接着の際に、板ばね等の治具が不要となり製造過程を簡素化することができる。さらに、金属パイプは、治具挿入のスペースが不要となると共に、ゲージは押し潰された状態で用いられることから、ゲージ全体の小型化および薄型化を図ることができる。
【0015】
また、接着剤を半硬化状態としておくことで、金属パイプにゲージベースを挿入する際の取り扱いを容易として、製造過程を簡素化することができる。さらに、金属パイプの径が微小でもゲージベースの挿入が可能となり、ゲージ全体の更なる小型化を図ることもできる。
【0016】
このように、簡易な構成により、小型化や薄型化を図ることができると共に、製造コストを節減することができる。
【0017】
第5発明の溶接型ひずみゲージの製造方法は、第4発明の溶接型ひずみゲージの製造方法において、前記押圧工程で前記金属パイプを押し潰す前に、前記受感部の表面に離型性を有する緩衝材を配置しておくことを特徴とする。
【0018】
第5発明の溶接型ひずみゲージの製造方法によれば、予め緩衝材を受感部の表面に配置した上で金属パイプを押し潰すため、受感部が損傷を受けることを回避することができる。さらに、緩衝材は、離型性を有するため、押し潰された金属パイプの内面が受感部と密着することを回避することができ、ひいては、金属パイプと受感部との接触による測定精度の低下を抑制し、測定精度を維持することができる。このように、ゲージの小型化・薄型化や製造コストの節減が可能になることに加えて、測定精度も維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態としての溶接型ひずみゲージの構成について、図1〜図4を参照して説明する。
【0020】
図1を参照して、本実施形態の溶接型ひずみゲージの全体的な構成について説明する。溶接型ひずみゲージは、金属パイプ1と、金属パイプ1の端縁に溶接されたベースプレート2と、金属パイプ1内に設けられたゲージベース3(図2および図3参照)とを備え、ベースプレート2を金属製の被測定対象物へ溶接することにより、該対象物に生じたひずみをゲージベース3により検出する。
【0021】
図2に図1のII−II線断面図で示すように、金属パイプ1は、例えばステンレス製の楕円形断面のパイプであって、後述するようにゲージベース3が内蔵された領域のみ扁平に押し潰されている。
【0022】
ベースプレート2は、例えばインコネル等の材質からなる薄肉の長方形平板であって、その長手方向の中心線に沿って金属パイプ1の端縁部分(曲率が最小となる外側面)と当接し、当接部分が電子ビーム溶接等により溶接されて溶接部21となっている。溶接部21の両側に広がるフランジ部22a,22bは、対象物にスポット溶接等により固定される部分であって、対象物に生じたひずみを、金属パイプ1を介してゲージベース3へ伝達する。
【0023】
ゲージベース3は、ポリエステル、エポキシ、ポリイミド樹脂フィルム材等の絶縁性硬質材より構成される板状であって、その表面に受感部31とゲージリード32とタブ33とを備える。一方、ゲージベース3の裏面は、その長手方向と金属パイプ1の軸方向とが平行になるように、後述する接着剤4により金属パイプ1の内側面に接着される。ここで、接着剤4は、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等から選択される高温用接着剤であって、加熱による硬化作用で接着する。
【0024】
受感部31は、ゲージベース3のひずみに応じた抵抗値変化を示すひずみ測定子であって、所定寸法の略櫛形状とされ、所定の抵抗値に調整された銅ニッケル合金箔や線材等により構成される。受感部31は、ゲージベース3と同質の接着剤により接着されている。
【0025】
図3に図1のIII−III線断面図で示すように、受感部31の表面側には、受感部31を全体的に覆って保護するためのカバーフィルム34が設けられおり、さらにカバーフィルム34の外側にはケージベース31の表面全体を覆うようにフッ素樹脂からなる離型性緩衝材5が設けられる。
【0026】
図4に示すように、ゲージリード32は、ケージベース3の表面に形成された配線パターンであって、受感部31とタブ33とを電気的に接続する。タブ33は、受感部31に生じた電気信号を外部に出力するための端子部である。
【0027】
次に図5を参照して、溶接型ひずみゲージの製造方法について説明する。
【0028】
まず、前処理工程として、図5(a)に示すように、ゲージベース3のタブ33に、ケーブルX等を半田付けして接続した上で、受感部31の抵抗値を所望の抵抗値に合わせる。そして、ゲージベース3の受感部31およびゲージリード32をカバーフィルム34で覆う。
【0029】
次いで、図5(b)に示すように、ゲージベース3の裏面全体に接着剤4を塗布する。これにより、接着剤4がゲージベース3の微小孔に含浸して封孔処理される。
【0030】
以上の前処理工程に続く半硬化工程では、裏面に接着剤4が塗布されたゲージベース3全体を加熱して、接着剤4を半硬化状態(プリプレグ)とする。例えば、約120℃で2時間程度加熱することにより、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等から選択される高温用接着剤4を半硬化状態とすることができる。ここで、半硬化状態の接着剤4は、流動性や粘着性が大幅に低下するため、ほぼ流動性や粘着性が無い状態となる。
【0031】
次いで、図5(c)に示すように、半硬化工程を経たゲージベース3に対して、カバーフィルム34で覆われた受感部31およびゲージリード32を、離型性緩衝材5でさらに覆う。
【0032】
これに続く当接工程では、図5(d)に示すように、ゲージベース3を予め先端部を封止した金属パイプ1へ挿入し、半硬化状態となっている接着剤4を介してゲージベース3の裏面を金属パイプ1の内側面(曲率が最小となる内側面部分)に押し当てる。
【0033】
かかる当接工程において、接着剤4は、ほぼ流動性や粘着性が無い半硬化状態となっているため、接着面が金属パイプ1へ触れても接着剤4の一部が金属パイプ1に付着することがなく、接着剤4自体がゲージベース3から脱落することもない。これにより、接着剤の付着や脱落による減量で生じる接着不良を回避することができる。このように、接着剤4を半硬化状態にしておくことで、接着剤4が塗布されたゲージベース3の取扱いが容易となり、微小な金属パイプ1への挿入も可能となる。
【0034】
当接工程に続く押圧工程では、図5(e)に示すように、金属パイプ1の先端側を所定範囲に亘って押し潰す。具体的には、図示しないプレス装置により、2kg〜3kgの圧力で、金属パイプ1内に配置されたゲージベース3の面に向かって金属リンク1を押し潰す。また、その押圧範囲は、ベースプレート2全体を含み、且つゲージベース3のタブ33を除いた領域となっている。
【0035】
かかる押圧工程では、金属パイプ1を押し潰すことにより、接着剤4が塗布されたゲージベース3を金属パイプ1の内側面へ押し付けた状態に維持することができる。そのため、ゲージベース3と金属パイプ1との接着のために、板ばね等の治具が不要となり製造過程を簡素化することができる。金属パイプ1は、治具挿入のスペースが不要となると共に、ゲージは押し潰された状態で用いられることから、ゲージ全体の小型化および薄型化を図ることができる。具体的には、従来、極小値が直径2mmであった金属パイプ1の直径を1mmに小型化することができる。
【0036】
また、加圧範囲をタブ33を除いた領域とすることで、半田付け等により肉厚となっているタブ33を除外して金属パイプ1全体を押し潰すことができ、ベースプレート2に接続された測定部分を限りなく薄くすることが可能となる。具体的には、金属パイプ1が押し潰されることにより、測定部のゲージの厚さを0.45mm程度まで薄型化することが可能となる。これにより、測定対象物の表面と受感部31との距離を、従来の約0.55mmから約0.18mmに小さくすることができ、該距離に応じて生じ得る測定誤差の低減を図ることができる。
【0037】
さらに、予め離型性緩衝材5がベースプレート2の上面と金属パイプ1の内側面との間に配置されているため、金属パイプ1を押し潰しても、受感部31が損傷を受けることを回避することができる。さらに、離型性緩衝材5の離型作用により、押し潰された金属パイプ1の内面が受感部と密着することを回避することができ、ひいては、金属パイプ1と受感部31との接触による測定精度の低下を抑制し、測定精度を維持することもできる。
【0038】
加圧工程に続く再加熱工程では、加圧工程により押し潰された金属パイプ1を再加熱して、接着剤を完全に硬化させる。具体的に、再加熱工程では、金属パイプ1全体を、約120℃で2時間程度加熱する。これにより、まず、加熱の初期の段階で、接着剤4が流動性を持ち、金属パイプ1の内側面とゲージベース3の裏面との間に隙間なく行き亘る。その後、加熱による接着剤の硬化作用により、ゲージベース3と金属パイプ1の内側面とが接着される。
【0039】
以上説明した溶接型ひずみゲージの製造方法によれば、製造工程を簡略化することができ、製造に要するコストを節約することができると共に、ゲージを簡易な構成とすることができ、ゲージの小型化や薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態の溶接型ひずみゲージの全体構成図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】図1のIII−III線断面図。
【図4】本実施形態のゲージベースを示す平面図。
【図5】本実施形態の溶接型ひずみゲージの製造工程を示す説明図。
【符号の説明】
【0041】
1…金属パイプ、2…ベースプレート、3…ゲージベース、4…接着剤、5…離型性緩衝材、21…溶接部、22a,22b…フランジ部、31…受感部、32…ゲージリード、33…タブ、34…カバーフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物のひずみを検出する溶接型ひずみゲージであって、
金属パイプと、表面に抵抗体から成る受感部を有し、裏面に塗布された接着剤により該金属パイプの内側面に接着されるゲージベースとを備え、
前記ゲージベースは、前記金属パイプ内に収納された状態で該金属パイプを押し潰すことにより、該金属パイプの内側面に圧着されて成ることを特徴とする溶接型ひずみゲージ。
【請求項2】
請求項1記載の溶接型ひずみゲージにおいて、
前記ゲージベースの裏面に塗布された接着剤を予め加熱して半硬化状態とした上で、該接着剤を介して該ゲージベースの裏面を前記金属パイプの内側面に当て、該金属パイプを押し潰して成ることを特徴とする溶接型ひずみゲージ。
【請求項3】
請求項1または2記載の溶接型ひずみゲージにおいて、
前記受感部の表面に離型性を有する緩衝材を配置した上で、前記金属パイプを押し潰して成ることを特徴とする溶接型ひずみゲージ。
【請求項4】
対象物のひずみを検出する溶接型ひずみゲージの製造方法であって、
表面に抵抗体から成る受感部を有すると共に裏面に接着剤が塗布されたゲージベースを加熱し、該接着剤を半硬化状態とする半硬化工程と、
前記半硬化工程を経た前記ゲージベースを金属パイプに挿入し、前記接着剤を介して該ゲージベースの裏面を該金属パイプの内側面に当てる当接工程と、
前記当接工程により前記金属パイプの内側面に配置された前記ゲージベースの面に向けて該金属パイプを押し潰す押圧工程と、
前記押圧工程により押し潰された金属パイプを再加熱して、前記接着剤を硬化させる再硬化工程と
を備えることを特徴とする溶接型ひずみゲージの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の溶接型ひずみゲージの製造方法において、
前記押圧工程で前記金属パイプを押し潰す前に、前記受感部の表面に離型性を有する緩衝材を配置しておくことを特徴とする溶接型ひずみゲージの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−133876(P2010−133876A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311564(P2008−311564)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000151520)株式会社東京測器研究所 (29)
【Fターム(参考)】