説明

溶接方法

【課題】2つの電極を並べた状態で溶接を行うと、溶接ロボットの1つの自由度が拘束されてしまい、溶接ロボットとしての動作の自由度を下げてしまう。その結果、溶接部位でのロボットの姿勢に制約が生じ、溶接可能な範囲を狭めてしまう。
【解決手段】本発明の溶接方法は、1台の溶接ロボットシステム(a)による単電極(18a)の移動に他の溶接ロボットシステム(b)による単電極(18b)の移動を追従させ、1台の溶接ロボットシステム(a)の単電極(18a)と他の溶接ロボットシステム(b)の単電極(18b)とが、同一溶接線に対して、同一方向に同時に溶接を行う構成により、タンデム溶接専用トーチを用いる場合に比べてロボットの自由度が拘束されず、溶接可能範囲が広くなり、ロボットの姿勢についての制約が解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットシステムを複数使用し、それらに搭載された溶接電極を用いて1つの溶接線に対して同時溶接する溶接方法および溶接システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生産現場の溶接工程においては、溶接ロボットを導入して自動化や省人化が進められてきた。さらに、近年では、溶接工程の高効率化を狙って、消耗式溶接電極(すなわち、溶接ワイヤ)が溶融して母材に移行する量が多い、いわゆる高溶着溶接を行う傾向にある。高い溶接品質を保ったまま高溶着溶接を行うための溶接方法としては、溶接線上に2電極を並べて1プール2アーク溶接を行う、「タンデム溶接」が採用されることが多い。
【0003】
2電極一体型のトーチ、または、近接して固定配置した2つの単電極トーチを以下の説明の便宜上、これらを総称して「タンデム溶接専用トーチ」と呼ぶ。タンデム溶接専用トーチを溶接ロボットに搭載し、必要な機器で構成した溶接システムにより、タンデム溶接を実際の生産の溶接工程に適用している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来のタンデム溶接用に使用されるタンデム溶接専用トーチは、2つの電極の相対位置が固定されている。タンデム溶接専用トーチを溶接ロボットに搭載して溶接を行う溶接システムの場合、タンデム溶接を行うために溶接線上に沿って2つの電極を並べた状態とするため、ロボットの1つの自由度が拘束されてしまう。従って、ロボットとしての動作の自由度を下げてしまう。その結果、溶接部位でのロボットの姿勢に制約が生じ、溶接可能な範囲を狭めてしまうといった課題がある。これは、単電極トーチを搭載した溶接ロボットではなかった課題である。
【0005】
また、タンデム溶接専用トーチを搭載したロボットでは、トーチ回りの寸法が大きくなることが避けられず、溶接対象物の近辺に障害物があるとそれに当たってしまう。そのため、そのような溶接対象物に対しては溶接を行うことができないといった課題がある。これも、従来の単電極トーチを搭載した溶接ロボットよりも顕著になった課題である。
【0006】
これらの課題は、単電極トーチを搭載した溶接ロボットでは問題なく溶接できた部位(箇所)であったにもかかわらず、高効率化を目指してタンデムアーク溶接法を採用し、タンデム溶接専用トーチを搭載したために生じるものである。そのため溶接できる部位が減ってしまう事態を生み出す。
【0007】
溶接ロボットを導入する際の本来の目的は、省人化や自動化である。しかし、溶接できない部分が残ってしまうと、そこは人手による溶接をせざるを得ない。そして、自動化できる部位の割合が減り、人手に頼る割合が増えてしまい、本来の目的に反する状況が生じてしまう。
【0008】
さらに、タンデム溶接専用トーチでは、溶接中の2電極の位置関係が固定されているため、溶接対象である溶接継手の溶接線に対して各電極の位置は相対的に決まってしまう。そのため、各電極の位置を調整できる範囲は狭い。その上、2電極は同じように運棒(移動)するしかないので、溶接対象である継手に必要となる溶接を適正に行うための制約となっていた。
【0009】
すなわち、溶接継手に対する電極の角度や突き出し長さを、片側の電極に関して変更すると、他方の電極についてもそれにつれて変わってしまい、各々を個別に適正に調整することはできない。
【0010】
また、片側電極をウィービングすると、他方の電極も同じウィービングをせざるを得ない。ましてや、片方だけウィービングし、他方はウィービングしないということはできない。これは、対象の溶接継手に対する適正な溶接条件を決定するときの制約となり、タンデム溶接の難しさを助長する結果となっている。
【0011】
これと同様な問題がアークセンサにもある。2つの電極の溶接電流や溶接電圧を用いてアークセンサ機能による溶接位置補正を行うことは現行でも可能である。しかし、タンデム溶接専用トーチの場合1台の溶接ロボットに2つの電極が搭載されているため、2つの電極について別個に位置補正を行うことはできない。
【0012】
なお、タンデム溶接専用トーチでは、2電極の位置関係が固定されてはいるが、使用するにつれ若干の変形が生じることは避けられない。その場合、単に両電極の位置を同じように補正しただけでは、溶接ねらい位置がずれてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4089755号公報
【発明の概要】
【0014】
本発明は、複数のロボットが、自由度が拘束されず、溶接可能範囲を狭めることがない溶接方法および溶接システムを提供するものである。
【0015】
本発明の溶接方法は、単電極を用いて溶接を行う溶接ロボットを複数台使用して溶接を行う溶接方法であって、1台の溶接ロボットによる単電極の移動に他の溶接ロボットによる単電極の移動を追従させ、1台の溶接ロボットの単電極と他の溶接ロボットの単電極とが、同一溶接線に対して、同一方向に同時に溶接を行う構成を有する。そして、本発明の溶接方法は、複数の前記溶接ロボットシステムのうち少なくとも1台の前記溶接ロボットシステムは前記ウィービング動作を行いながら溶接を行い、他の前記溶接ロボットシステムは前記ウィービング動作を行わない構成を有する。
【0016】
かかる構成によれば、複数のロボットがそれぞれ最適な姿勢で、自らの単電極の位置と姿勢を決めればよく、タンデム溶接専用トーチを用いる場合に比べてロボットの自由度が拘束されず、溶接可能範囲を狭めることがない。このため、ロボットの姿勢についての制約が解消する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における溶接システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1における消耗式溶接電極の動作を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1におけるプログラムの一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1における補間処理のフローを示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1における消耗式溶接電極の他の動作を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1におけるプログラムの他の例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1における溶接の具体例を示す図である。
【図8A】図8Aは、本発明の実施の形態2におけるウィービング処理のフローを示す図である。
【図8B】図8Bは、本発明の実施の形態2におけるウィービング処理のフローを示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2における溶接の具体例を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2における溶接の他の具体例を示す図である。
【図11A】図11Aは、本発明の実施の形態3におけるアークセンサ処理のフローを示す図である。
【図11B】図11Bは、本発明の実施の形態3におけるアークセンサ処理のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態を用いて図を参照しながら説明する。しかし、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における溶接システムの概略構成を示す図である。図1は、同一機器による構成の溶接ロボットシステム2台で構成した例を示している。なお、構成する機器の仕様によっては溶接ロボットシステム相互の接続方法は異なる場合があり、図1の構成はあくまでも一例である。
【0020】
また、図1では、説明の便宜上、2台の溶接ロボットシステムで構成した例を示しているが、必ずしも2台に限定するものではなく、3台以上のより多い溶接ロボットシステムで構成することも可能である。
【0021】
なお、実用上の溶接システムでは、マニピュレータを搭載してマニピュレータの位置を移動させる移動装置や、溶接対象である母材を搭載してその姿勢を変えるポジショナや、母材を搭載するための冶具などを構成要素として有する場合が多い。しかし、本実施の形態の説明に関しては必要な要素ではなく、ここでは説明の簡単化のため省略している。
【0022】
また、図1において、説明の都合上、一方の溶接ロボットシステムをaと呼ぶこととし、溶接ロボットシステムaの各部の符号には添え字aを付す。また、他方の溶接ロボットシステムをbと呼ぶこととし、溶接ロボットシステムbの各部の符号には添え字bを付す。これにより2つの溶接ロボットシステムを区別して説明する。
【0023】
先ず、溶接ロボットシステムaの構成について説明する。溶接ロボットシステムaは、マニピュレータ11aと溶接電源装置12aとを備えている。溶接電源装置12aに設けられているトーチ端子121aには、ケーブル123aが接続されている。溶接電源装置12aに設けられている母材端子122aには母材Wが接続されている。マニピュレータ11aには、ワイヤ送給装置14aが取り付けられている。マニピュレータ11aは、制御装置10aにより動作が制御される。ケーブル123aは、タッチセンサユニット13aを用いる場合にはこれを経由して、ワイヤ送給装置14aに設けられた給電端子141aに接続される。このケーブル123aは、タッチセンサユニット13aを用いない場合には直接給電端子141aに接続される。
【0024】
ワイヤ送給装置14aと単電極溶接トーチ16aは、トーチケーブル15aで接続されている。トーチケーブル15aの中を溶接ワイヤである消耗式溶接電極18aが通る。溶接対象物である母材Wに一端が接続されているケーブル124aは、他端が溶接電源装置12aに設けられている母材端子122aに接続されている。
【0025】
溶接を行う際は、溶接電源装置12aにより消耗式溶接電極18aと母材Wとの間に電力を供給してアークを発生させる。アークが発生することにより、トーチ端子121aから、消耗式溶接電極18aと母材Wを経由して、母材端子122aにつながる溶接電流の回路を構成する。この溶接電流の回路に溶接電流が流れる。
【0026】
また、溶接電源装置12aによりワイヤ送給装置14aを制御することにより、消耗式溶接電極18aが母材Wへ連続的に送給される。そして、マニピュレータ11aが制御装置10aにより動作を制御されることで、消耗式溶接電極18aが母材Wの溶接線に沿って移動する。このことによりアーク溶接が行われる。
【0027】
制御装置10aは、図示しないメモリに予め記憶された動作プログラムに基づいてマニピュレータ11aの動作を制御する。さらに、制御装置10aは、溶接電源装置12aに溶接電流や溶接電圧などの指令を与える。溶接電源装置12aは、その指令に応じて溶接電流や溶接電圧を制御する。
【0028】
アークセンサ17aは、溶接電源装置12aの内部または上記した溶接電流の回路のいずれかの部位で計測した溶接電流/溶接電圧に、制御装置10aの要求に応じて計測データに所定の処理を加えて溶接線からのずれに相当するデータに変換し、制御装置10aに送る。制御装置10aは、受信した溶接線からのずれに相当するデータに基づいてマニピュレータ11aの動作を制御し、溶接線からのずれを修正する。なお、アークセンサ17aは、必ずしも用いる必要はないが、本実施の形態では用いている。
【0029】
なお、溶接ロボットシステムbは、溶接ロボットシステムaと共通の母材Wに対して溶接を行うものであり、溶接ロボットシステムaと同一の構成を有している。従って、溶接ロボットシステムbを構成する個々の機器の説明は省略する。
【0030】
また、図1において、制御装置10aと制御装置10bとは、ロボット間通信ケーブルXで接続されている。
【0031】
本実施の形態では、従来のタンデムアーク溶接と同じように、2つの消耗式溶接電極18a、18bを溶接線上に溶接進行方向に近接して並べるように配置させるためには、溶接進行方向に対して、一方が先行し、他方が後行している状態で、溶接進行方向に移動しながら両方の消耗式溶接電極18a、18bにアークを発生させる。すなわち、図1の構成において、例えば一方の溶接ロボットシステムaのマニピュレータ11aによる単電極溶接トーチ16a内の消耗式溶接電極18aの移動に、他方の溶接ロボットシステムbのマニピュレータ11bによる単電極溶接トーチ16b内の消耗式溶接電極18aの移動を追従させる。消耗式溶接電極18aと母材Wとの間に発生するアークと消耗式溶接電極18bと母材Wとの間に発生するアークの、これら2つのアークにより1つの溶融プールを形成しながら溶接を行う。これにより、従来のタンデム溶接のような溶接を行うことができる。
【0032】
次に、図1に示す溶接システムの動作について、図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態における消耗式溶接電極の動作を示す図である。なお、図2では、図1に示す溶接ロボットシステムaが溶接進行方向に対して先行となり、溶接ロボットシステムbが溶接進行方向に対して後行となる場合について説明する。
【0033】
図2において、P210、P211、P212およびP213は、1つの溶接線の溶接を行う場合に、溶接線の溶接の前後における消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bのプログラムされた位置を時系列的に示している。
【0034】
図2において、図1の制御装置10aと制御装置10bにプログラムの実行開始信号が入力されると、マニピュレータ11aとマニピュレータ11bが動作を開始し、やがて、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bはP210で示す位置に到達する。この位置は、溶接を行う前の時点の位置であり、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは別々の座標位置にある。マニピュレータ11aとマニピュレータ11bの動作が続いて、P211に示すように消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは、溶接線L上に到達して、ある間隔をおいて近接する。その後、両方とも溶接を開始してアークを発生し(P211は溶接始点位置)、各々に指定された溶接条件で溶接を行う。消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは、溶接条件として指定された溶接速度で溶接線Lに沿って移動する。消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bがP212の位置に到達すると、両方の溶接ロボットシステムとも溶接を終了する。その後、溶接線Lから退避移動をし、P213に示すように、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは空中で別々の離れた位置に移動する。
【0035】
このような動作を行うための動作プログラムの一例を、PRG2として図3に示す。なお、このプログラムは、例えば制御装置10aまたは制御装置10b内に記憶されるものである。
【0036】
図3において、命令L201は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bとがP210で示す位置に移動することを指令するものである。命令L202は、溶接を行う際に使用する溶接条件を指定するものである。命令L203は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bがP211で示す位置に移動することを指令するものである。命令L204は、先行電極である消耗式溶接電極18aが溶接を開始することを指令するものである。命令L205は、後行電極である消耗式溶接電極18bが溶接を開始することを指令するものである。命令L206は、2つの消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極がP212で示す位置に移動することを指令するものである。命令L207は、先行電極である消耗式溶接電極18aが、溶接を終了することを指令するものである。命令L208は、後行電極である消耗式溶接電極18bが溶接を終了することを指定するものである。命令L209は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極が、P213で示す位置に移動することを指令するものである。
【0037】
ここで、P210、P211、P212、P213は、溶接ロボットの動作としてプログラムされている教示ポイントを表している。各教示ポイントは、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極のそれぞれの位置を特定するために必要なデータで構成されている。なお、この電極の位置を特定するために必要なデータとしては、マニピュレータの取り付け位置を中心に置いた直交座標系(ロボット座標系と呼ぶ)における消耗式溶接電極の座標値(X、Y、Z)とオイラ角(φ、θ、ψ)の組みせ、あるいは、マニピュレータを構成する各軸の位置データの組などで表すものなどがある。また、このほかに、シフト軸やポジショナ軸がある場合は、それらの位置データを含む。しかし、本実施の形態においては、どのような表現形式を使用しても良い。
【0038】
次に、図4に示すフローチャートを用いて、1つの教示点から次の教示点まで移動するための一単位の補間処理について説明する。例えば、補間の開始位置が図2に示すP211の位置であり、終了位置が図2に示すP212である場合の補間処理である。なお、先に述べたように、ここでは、P211は溶接始点位置、P212は溶接終点位置である。
【0039】
図4に示すフローチャートに従って行われる処理は、一方の制御装置で行うものであり、その溶接ロボットシステムをマスタと呼び、他方の溶接ロボットシステムをスレーブと呼ぶことにする。マスタで処理を行うため、プログラムおよび溶接条件等のパラメータは、マスタの制御装置の図示しないメモリ内に格納されている。マスタとスレーブとの違いは、制御を主となって行うものと、それに従うものという役割の違いであるが、予め決めてさえおけば、どちらの溶接ロボットシステムもマスタにもスレーブにもすることができる。そして、機器の仕様上に本質的違いは必要ない。本実施の形態では、溶接ロボットシステムaをマスタ、溶接ロボットシステムbをスレーブとして説明する。さらに、溶接制御上、マスタが先行であっても後行であっても、確定していればどちらでもかまわない。これはプログラム内の命令で設定できるが、それがない場合のデフォルトは、マスタが先行となる。ここでは、先行がマスタ、すなわち溶接ロボットシステムaであるものとして説明する。
【0040】
図4に示すフローチャートの処理としては、S010からS290までが示されている。そして、処理の間、図4の左側に示しているように、図示しないメモリからプログラムおよび溶接条件等のパラメータを読み込んで、処理を進め、S260とS270で図4の右側に示した2つの溶接ロボットシステムの駆動系への動作指令を行っている。メモリから読み込む溶接条件は、マスタ教示ポイント、スレーブ教示ポイント、溶接電流、溶接電圧、溶接ワイヤ送給速度などである。溶接ロボットシステムの駆動系への動作指令は、マスタロボットの駆動機構およびスレーブロボットの駆動機構へ出力される。
【0041】
図4において、まず、プログラムに登録されたマスタの教示ポイントおよび溶接条件として指定された溶接速度などを使って、マスタの補間動作のために必要な初期計算を行う(S010)。この計算の中で、全補間回数Nを計算している。また、その後の補間位置計算の回数をカウントする補間カウンタnをゼロリセットしている。
【0042】
次に、プログラムに登録されたスレーブの教示ポイントおよび溶接速度などを使って、スレーブの補間動作のために必要な初期計算を行なう(S020)。全補間回数Nは与えられた値として行う。これにより、マスタとスレーブの補間動作が同じ全補間回数、つまり、同じ時間の間に行なわれる。
【0043】
次に、S050からS070の間で、補間位置を算出している。まず、補間回数をインクリメントした後(S050)、更新された補間回数と先に求めた補間初期計算の結果を使って、マスタの補間位置を算出する(S060)。その後、同じようにスレーブの補間位置を算出する(S070)。
【0044】
次に、S060で計算されたマスタの補間位置をマスタロボットの駆動機構へ駆動指令として出力する(S260)。次に、S070で計算されたスレーブの補間位置をスレーブの駆動機構へ駆動指令として出力する(S270)。
【0045】
この一連の処理はマスタである溶接ロボットシステムaで行うので、スレーブである溶接ロボットシステムbの駆動機構への指令は、ロボット間通信ケーブルXを介してマスタからスレーブへ送られる。スレーブでは、それを受け取り、その指令に従って自らの駆動系を動作させる。
【0046】
次に、補間カウンタnが全補間回数Nより大きいかどうかを判断し(S280)、補間カウンタnが全補間回数Nより大きくない場合、すなわち補間カウンタnが全補間回数N未満のときは(S280のNo)、S050に戻り、補間計算を繰り返す。これにより、溶接の始点位置(P221)から順次、溶接の終点位置(P212)に向かう動作を実現する。
【0047】
S280で補間カウンタnが全補間回数Nの場合(S280のYes)、終点位置に到着したときの処理を行い、一単位としての補間動作を終了する(S290)。
【0048】
実際の動作では、この1単位の補間動作の前後および途中に溶接制御が行われる。溶接制御は、プログラム内の命令で指定された溶接条件の設定内容に従って、溶接の開始/終了の指令や、図4の左側に示すように、溶接電流/溶接電圧の指令、溶接ワイヤ送給速度の指令などを溶接電源装置へ送る。
【0049】
上記のように、プログラムおよび溶接条件等のパラメータはすべてマスタである溶接ロボットシステムaの制御装置10aのメモリ内にあるので、スレーブである溶接ロボットシステムbの溶接電源装置12bへの指令は、ロボット間通信ケーブルXを介してマスタ(溶接ロボットシステムa)からスレーブ(溶接ロボットシステムb)へ送られる。スレーブではそれを受け取り、その指令に従って溶接電源装置12bに指令する。
【0050】
本実施の形態における、別の動作例を図5に、そのプログラム例を図6に示す。図2と図3の場合と異なる主な点は、両電極による同時溶接と一方の電極だけによる溶接をきりかえる点である。
【0051】
図5において、P1010、P1011、P1012、P1013、P1014、およびP1015は、1つの溶接線Lに対する溶接およびその溶接の前後の消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bのプログラムされた位置を時系列的に示している。
【0052】
図5において、制御装置10aと制御装置10bにプログラムの実行開始信号が入力され、マニピュレータ11aとマニピュレータ11bが動作を開始すると、やがて、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bはP1010の位置に到達する。このように、溶接を行う前の時点では、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは、P1010に示すように別々の位置にある。
【0053】
その後、動作を続けて、P1011に示すように消耗式溶接電極18aが溶接線L上に到達し、消耗式溶接電極18bは、溶接線L近傍の空中まで到達する。ここで、消耗式溶接電極18aのみが溶接を開始してアークを発生する。そして、消耗式溶接電極18aのみで溶接を進め、P1012で、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは溶接線L上で近接する。ここで、消耗式溶接電極18bも溶接を開始してアークを発生する。
【0054】
両電極で溶接を進めるが、やがて、P1013に到達すると、消耗式溶接電極18aのみが溶接を終了する。その後、消耗式溶接電極18bのみが溶接を行い、溶接線上を移動する一方で、消耗式溶接電極18aは空中に退避する。これがP1014の位置である。ここで、消耗式溶接電極18bも溶接を終了する。
【0055】
その後、P1015のように、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bは、空中で別々の離れた位置に移動する。
【0056】
このような動作を行うための動作プログラムの一例を、PRG10として図6に示す。なお、このプログラムは、例えば制御装置10a内に記憶されるものである。
【0057】
図6において、命令L1001は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bとがそれぞれP1010で示す位置に移動することを指令するものである。命令L1002は、溶接を行う際に使用する溶接条件を指定するものである。命令L1003は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bがP1011で示す位置に移動することを指令するものである。命令L1004は、先行電極である消耗式溶接電極18aが溶接を開始することを指令するものである。命令L1005は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bがP1012で示す位置に移動することを指令するものである。命令L1006は、後行電極である消耗式溶接電極18bが溶接を開始することを指令するものである。命令L1007は、2つの消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極がP1013で示す位置に移動することを指令するものである。命令L1008は、先行電極である消耗式溶接電極18aが、溶接を終了することを指令するものである。命令L1009は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極が、P1014で示す位置に移動することを指令するものである。命令L1010は、後行電極である消耗式溶接電極18bが溶接を終了することを指令するものである。命令L1011は、消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極が、P1015で示す位置に移動することを指令するものである。以上、図5からもわかるように消耗式溶接電極18aと消耗式溶接電極18bの2つの電極の位置の座標はそれぞれ異なっている。
【0058】
図5および図6で示すような溶接を行う場合も、1単位の動作の前後および途中に、図2と図3を用いて説明した場合と同様に、1単位の補間動作として図4に示すフローチャートの処理を実施する。その前後および途中に行なわれる溶接制御は、プログラム内の命令で指定された溶接条件の設定内容に従って、溶接の開始/終了の指令や、溶接電流/溶接電圧の指令を、例えば溶接電源装置12aへ送ることで実現している。
【0059】
以上のように、マスタの動作に合わせてスレーブを動作させることで、2台の溶接ロボットシステムa、bの2つの消耗式溶接電極18a、18bをある間隔をおいて近接した位置に配置して動作させることができる。これにより、2台の溶接ロボットシステムa、bを使って、従来のタンデムアーク溶接法と同様、1プール2アーク溶接を行うことができる。
【0060】
また、従来のタンデムトーチや2トーチを用いる溶接方法では、2つの消耗式溶接電極の位置関係は固定されているため、各々別個の姿勢をとらせることは不可能であった。しかし、本実施の形態では、上記のように、各教示ポイントは、2つの消耗式溶接電極18a、18bの位置を特定するために必要なデータ(座標値(X、Y、Z)とオイラ角(φ、θ、ψ)の組みせ等)で構成されており、各々別個の最適な姿勢をとらせることも可能である。このためタンデム溶接専用トーチを用いる場合に比べてロボットの自由度が拘束されず、溶接可能範囲を狭めることがない。これによりロボットの姿勢についての制約が解消する。
【0061】
本実施の形態を利用して、例えば、図7に示すように、継手にあわせて各々の単電極溶接トーチ16a、16bに各々別個の姿勢をとらせることも可能となり、溶接施工上の利便性が向上する。図7では、レ形開先のある隅肉溶接継手を溶接する場合を示している。開先部G1の上に、一定の脚長の隅肉溶接ビードを盛る必要があることを想定したものである。図7では、先行の消耗式溶接電極18aが開先部G1の第1溶接W1を行い、後行の消耗式溶接電極18bが隅肉部分の第2溶接W2を行っている。その際に、後行の消耗式溶接電極18bを消耗式溶接電極18aに対して傾きを大きくすることにより平坦に近いビード形状を得ようとしているところを示している。
【0062】
また複数の電極で溶接することが難しい狭隘部などに対しては、2台の溶接ロボットシステムa、bのうち1台で溶接を行うことができるので、全体としての自動化率を低下させずに済む。
【0063】
また、本実施の形態における溶接方法および溶接システムは、タンデム溶接用トーチや2トーチ溶接用の取り付け機構といった特殊な機器を使用せずに、単電極で溶接を行う標準的な溶接ロボットシステムを用いたものである。このように、標準的な機器で構成されていることから、交換部品等を安価に入手し易く、メンテナンス性が良いものである。
【0064】
さらに、タンデム溶接用トーチや2トーチ溶接用の取り付け機構といった特殊な機器を使用する場合と比べて、トーチ周辺がコンパクトである。従って、タンデム溶接用トーチや2トーチ溶接用の取り付け機構を使用した場合には、溶接箇所の周辺部材等に当たってしまうために溶接ができなかった部位の溶接も可能となり、利便性が高いものとなる。
【0065】
通常は単電極で溶接を行う溶接ロボットシステム2台を、必要に応じてタンデム溶接を行わせることができるので、自由度の高い溶接システムを構築することができる。特に、溶接ロボットシステムを移動台に載せて移動可能とした溶接システムにおいては、溶接対象物や溶接箇所によって単電極による溶接やタンデム溶接を実現でき、非常に有用である。
【0066】
(実施の形態2)
本実施の形態において、実施の形態1と同様の箇所については同一の符号や名称を用いて詳細な説明を省略する。本実施の形態が実施の形態1と異なる主な点は、ウィービング動作を行う点である。
【0067】
図3に示す、プログラムの一例であるPRG2において、命令L202は、溶接の際に用いる溶接条件を指定するものである。この溶接条件として、溶接速度、先行電極と後行電極の溶接電流や溶接電圧、ウィービング動作を行う場合のウィービングパラメータ等の組を指定することによりウィービング動作を行う。溶接電流、溶接電圧はもとより、本実施の形態の溶接方法および溶接システムは、図1に示すように2つの溶接ロボットシステムa、bを用いることから、ウィービングパラメータ等も先行電極と後行電極とで別個の値を指定することができる。
【0068】
図8A、図8Bに、先行電極と後行電極とで異なるウィービングパラメータによるウィービング制御を行う場合のフローチャートを示す。処理としては、S010からS290までが示されている。そして、処理の間、図8Aのフローチャートの左側に示したように図示しないメモリからプログラムおよび溶接条件等のパラメータを読み込んで処理を進め、図8Bのフローチャートの右側に示したように溶接ロボットシステムの駆動系へ動作指令を行っている。
【0069】
図8A、図8Bにおいて、まず、動作プログラムに登録されたマスタの教示ポイント、および溶接条件として指定された溶接速度などを使って、マスタの補間動作のために必要な初期計算を行なう(S010)。この計算の中で、全補間回数Nを計算している。また、その後の補間位置計算の回数をカウントする補間カウンタnをゼロリセットしている。
【0070】
次に、プログラムに登録されたスレーブの教示ポイントおよび溶接速度などを使って、スレーブの補間動作のために必要な初期計算を行なう(S020)。全補間回数Nは与えられた値として行う。これにより、マスタとスレーブの補間動作が同じ全補間回数、つまり、同じ時間の間に行なわれる。
【0071】
次に、制御装置10a、10bの図示しないメモリから、1組のウィービングパラメータ、すなわち先行電極用のウィービングパラメータと後行電極用のウィービングパラメータを読み込む(S030)。
【0072】
次に、先行・後行とマスタ・スレーブの関係が設定されている情報を使って、マスタのウィービング初期計算とスレーブのウィービング初期計算をする(S040)。前記のデフォルトの状態であれば、先行のウィービングパラメータはマスタに、後行のウィービングパラメータはスレーブに割り振られる。ウィービング初期計算とは、マスタおよびスレーブのそれぞれの1ピッチあたりの補間回数Mm、Msや、1補間ごとのウィービング成分の算出式を決定する処理である。この計算の中で、マスタおよびスレーブのそれぞれの1ピッチ内補間カウンタmm、msをゼロリセットする。
【0073】
次に、S050からS070の間で、補間位置を算出する。まず、各補間回数をインクリメントした(S050)後、更新された補間回数と先に求めた補間初期計算の結果を使って、マスタの補間位置を算出する(S060)。さらに、同じようにスレーブの補間位置を算出する(S070)。
【0074】
次に、マスタのウィービングあり/なしを判断する(S140)。S140でマスタのウィービングがない場合は(S140のNo)、S180からのスレーブのウィービング処理にジャンプする。S140でマスタのウィービングがある場合は(S140のYes)、1ピッチの途中かどうかを判断する(S150)。S150で1ピッチの途中ならば(S150のYes)、S170にジャンプし、すでにS160で求めてある溶接線方向にあわせて補間位置ごとのウィービング成分の計算を行なう。S150で1ピッチの途中でなければ(S150のNo)、新たなウィービングピッチに移るため、円弧などのピッチごとに溶接線方向が変わるときのために、溶接線方向を算出しなおす(S160)。その後、補間位置ごとのウィービング成分の計算を行なう(S170)。
【0075】
次に、スレーブのウィービングあり/なしを判断する(S180)。S180でスレーブのウィービングがない場合(S180のNo)は、S220からの指定位置の決定処理にジャンプする。S180でスレーブのウィービングがある場合(S180のYes)は、1ピッチの途中かどうかを判断する(S190)。S190で1ピッチの途中ならば(S190のYes)S210にジャンプし、すでにS200で求めてある溶接線方向にあわせて補間位置ごとのウィービング成分の計算を行なう。S190で1ピッチの途中でなければ(S190のNo)、新たなウィービングピッチに移るため、円弧などのピッチごとに溶接線方向が変わるときのために、溶接線方向を算出しなおす(S200)。その後、補間位置ごとのウィービング成分の計算を行なう(S210)。
【0076】
次に、マスタの補間位置にマスタのその補間位置におけるウィービング成分を加算してマスタの指令位置を求める(S220)。次に、スレーブの補間位置にスレーブのその補間位置におけるウィービング成分を加算してスレーブの指令位置を求める(S250)。
【0077】
次に、マスタの指令位置をマスタの駆動機構へ指令出力することにより、マスタサーボ指令を行なう(S260)。次に、スレーブの指令位置をスレーブの駆動機構へ指令出力することにより、スレーブサーボ指令を行なう(S270)。
【0078】
なお、この一連の処理はマスタで行うので、スレーブの駆動機構への指令は、ロボット間通信ケーブルXを介してマスタからスレーブへ送られ、スレーブではそれを受け取り、その指令に従って自らの駆動系を動作させる。
【0079】
次に、補間カウンタnが全補間回数Nかどうかを判断する(S280)。S280で補間カウンタnが全補間回数N未満のとき(S280のNo)は、S050に戻って補間計算を繰り返す。これにより、始点位置から順次終点位置に向かう動作を実現する。S280で補間カウンタnが全補間回数Nのとき(S280のYES)は、終点位置に到着したときの処理を行い、一単位としての補間動作を終了する(S290)。
【0080】
以上のような処理を行うことで、先行と後行で異なるウィービングを行うことができる。これにより、例えば、図9に示すような継手に合わせたウィービング溶接施工を実現することができる。図9は、レ形開先のある隅肉溶接継手の場合であり、開先部G2の上に一定の脚長の隅肉溶接ビードを盛る必要があることを想定したものである。図9では、先行の消耗式溶接電極18aが開先部G2の第1溶接W1を行い、後行の消耗式溶接電極18bが隅肉部分の第2溶接W2を行っている。その際に、開先部G2を溶接する先行の消耗式溶接電極18aは小さな振幅でウィービングWVaを行う。後行の消耗式溶接電極18bは先行の消耗式溶接電極18aに対して大きな振幅でかつ傾きをつけてウィービングWVbを行う。これにより、平坦に近い隅肉ビードを溶接している。
【0081】
なお、先行と後行の両方でウィービングを行っても良いし、また、どちらか1方のみウィービングを行うようにしてもよい。特に、図10に示すように開先幅がさらに狭くなっていて、十分にウィービングする余裕がないような開先部G3の場合には、先行の消耗式溶接電極16aはウィービングせず、後行の消耗式溶接電極16bのみウィービングWVbをするという選択も可能である。
【0082】
(実施の形態3)
本実施の形態において、実施の形態1および実施の形態2と同様の箇所については同一の符号や名称を用いて詳細な説明を省略する。本実施の形態が実施の形態1および実施の形態2と異なる主な点は、アークセンサ機能を利用する点である。
【0083】
本実施の形態では、図1に示すアークセンサ17a、17bを用いて、溶接線からのずれに相当するデータを制御装置10a、10bに送る。図11A,図11Bに、アークセンサ機能を利用する制御を行う場合のフローチャートを示す。
【0084】
本実施の形態では、図11Aのフローチャートの左側に示したように、図示しないメモリからプログラムおよび溶接条件等のパラメータを読み込んで処理を進め、図11Bのフローチャートの右側に示したように溶接ロボットシステムa、bの駆動系へ指令を行っている。
【0085】
図11A、図11Bにおいて、S010からS070については、図8A、図8Bと同じなので説明を省略する。S080からS115までがアークセンサ処理である。この間で、図示しないメモリからアークセンサに関する溶接条件等のパラメータを読み込んで処理を進める。本実施の形態では、図8A、図8Bの場合と同様にマスタが先行することを想定している。本実施の形態においても、溶接ロボットシステムaがマスタで、溶接ロボットシステムbがスレーブである。
【0086】
まず、マスタのアークセンサに関する溶接条件等のパラメータを読み込み、マスタのアークセンサの有効無効を判断する(S080)。S080でマスタのアークセンサが無効の場合(S080のNo)、S100のスレーブのアークセンサ判定にジャンプする。S080でマスタのアークセンサが有効な場合(S080のYes)、マスタのアークセンサからマスタの溶接線からのずれに相当するデータを読み込み、マスタの位置の補正を計算する処理を行う。すなわち、マスタのアークセンサによるマスタ軌跡補正を算出する(S085)。
【0087】
次に、マスタのアークセンサによるマスタ軌跡補正をスレーブに反映するか、すなわち、マスタのアークセンサ補正をスレーブでも利用するかを判断する(S090)。S090でマスタのアークセンサによるマスタ軌跡補正をスレーブに反映しない場合、すなわちマスタのアークセンサ補正をスレーブでは利用しない場合(S090のNo)は、S100のスレーブのアークセンサ判定にジャンプする。S090でマスタのアークセンサによるマスタ軌跡補正をスレーブに反映する場合、すなわちマスタのアークセンサ補正をスレーブでも利用する場合(S090のYes)は、上記の読み込んだマスタの溶接位置の溶接線からのずれに相当するデータを使って、あるいは、S085で算出したマスタ位置の補正を使って、スレーブの位置の補正を計算する。すなわち、マスタのアークセンサによるスレーブ軌跡補正を算出する(S095)。
【0088】
次に、スレーブのアークセンサに関する溶接条件等のパラメータを読み込み、スレーブのアークセンサの有効無効を判断する(S100)。S100で、スレーブのアークセンサが無効の場合(S100のNo)、アークセンサ関係の処理を終わり、S140の処理へジャンプする。S100で、スレーブのアークセンサが有効の場合(S100のYes)、スレーブのアークセンサからスレーブの溶接線からのずれに相当するデータをスレーブの制御装置10bが読み込む。さらに、読み込んだデータをロボット間通信ケーブルXを介してスレーブからマスタに送り、マスタはスレーブ位置の補正を計算する。すなわち、スレーブのアークセンサによるスレーブ軌跡補正を算出する(S105)。
【0089】
さらに、スレーブのアークセンサによるスレーブ軌跡補正をマスタに反映するか、すなわち、スレーブのアークセンサ補正をマスタでも利用するかの判断を行う(S110)。S110で、スレーブのアークセンサによるスレーブ軌跡補正をマスタに反映しない場合、すなわちスレーブのアークセンサ補正をマスタでも利用しない場合(S110のNo)は、アークセンサ関係の処理を終わり、S140の処理へジャンプする。S110で、スレーブのアークセンサによるスレーブ軌跡補正をマスタに反映する場合、すなわちスレーブのアークセンサ補正をマスタでも利用する場合(S110のYes)は、上記の読み込んだスレーブの溶接位置の溶接線からのずれに相当するデータを使って、あるいは、S105で算出したスレーブ位置の補正を使って、マスタの位置の補正を計算する(S115)。
【0090】
S140からS250については、図8A、図8Bと同じであるので説明を省略する。その後、S220で求めたマスタの指令位置に、マスタおよびスレーブのアークセンサによるマスタ位置の補正(マスタ軌跡補正)をそれぞれ加算し、マスタの指令位置を更新する(S255)。次に、S250で求めたスレーブの指令位置に、マスタおよびスレーブのアークセンサによるスレーブ位置の補正(スレーブ軌跡補正)をそれぞれ加算し、スレーブの指令位置を更新する(S256)。S260からS290については、図8A、図8Bと同じであるので説明を省略する。
【0091】
以上のように、本実施の形態では、両方の溶接ロボットシステムa、bで各々アークセンサ機能を行った。しかし、複数の溶接ロボットシステムで各々アークセンサ機能を行っても良い。あるいは、2台の溶接ロボットシステムa、bのうちどちらか一方の溶接ロボットシステムでアークセンサ機能を行って補正情報を得て溶接位置の補正を行い、他方の溶接ロボットシステムは、一方の溶接ロボットシステムから補正情報を取得してこの補正情報に基づいて溶接位置を補正するようにしてもよい。
【0092】
また、複数の溶接ロボットのうち1台ないしは複数の溶接ロボットでアークセンサ機能を行い、1台ないしは複数の溶接ロボットのうちの各々の溶接ロボットがアークセンサ機能による補正情報により溶接線に対する単電極の位置を補正する。この際に、アークセンサ機能を行わない他の溶接ロボットは、1台ないしは複数のアークセンサを行う溶接ロボットから補正情報を得て、この補正情報に基づいて溶接線に対する単電極の位置を補正するものであってもよい。
【0093】
また、上記の実施の形態では、2台のロボットを用いて一方に対して他方を追従させるものとして説明したが、3台以上のロボットを用いて1台のロボットに対して2台以上のロボットを追従させることができるのは当然である。
【0094】
以上のように、本発明の溶接方法および溶接システムは、マスタに対してスレーブの溶接ロボットシステムを追従させて溶接をするので、複数の溶接ロボットシステムを任意の組み合わせで溶接を行うことができ、システム全体としての効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の溶接方法および溶接システムは、システム全体としての効率を高めることができるので、溶接ロボットシステムを複数用いて高溶着溶接を行う溶接方法および溶接システム等として産業上有用である。
【符号の説明】
【0096】
10a,10b 制御装置
11a,11b マニピュレータ
12a,12b 溶接電源装置
121a,121b トーチ端子
122a,122b 母材端子
124a,124b ケーブル
13a,13b タッチセンサユニット
14a,14b ワイヤ送給装置
141a,141b 給電端子
15a,15b トーチケーブル
16a,16b 単電極溶接トーチ
17a,17b アークセンサ
18a,18b 消耗式溶接電極
a,b 溶接ロボットシステム
W 母材
L 溶接線
X ロボット間通信ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単電極を用いて溶接を行う溶接ロボットシステムを複数台使用して溶接を行う溶接方法であって、
1台の前記溶接ロボットシステムによる前記単電極の移動に他の前記溶接ロボットシステムによる前記単電極の移動を追従させ、前記1台の溶接ロボットシステムの前記単電極と前記他の溶接ロボットシステムの前記単電極とが、同一溶接線に対して、同一方向に溶接を行い、
複数の前記溶接ロボットシステムのうち少なくとも1台の前記溶接ロボットシステムは前記ウィービング動作を行いながら溶接を行い、他の前記溶接ロボットシステムは前記ウィービング動作を行わない溶接方法。
【請求項2】
1台の溶接ロボットシステムの単電極からアークが発生し、かつ、他の溶接ロボットシステムの単電極からもアークが発生した状態で、前記1台の溶接ロボットシステムの前記単電極と前記他の溶接ロボットシステムの前記単電極とが、同一溶接線に対して、同一方向に同時に溶接を行う請求項1記載の溶接方法。
【請求項3】
1台の溶接ロボットシステムの単電極と他の溶接ロボットシステムの単電極とが、近接して、同一溶接線の少なくとも一部分に対して、同一方向に、同時に溶接を行う請求項1または2記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2011−140070(P2011−140070A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89863(P2011−89863)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2011−501477(P2011−501477)の分割
【原出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】