説明

溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法

【課題】部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法を提供する。
【解決手段】第1発明の溶接継手構造1は、第1母材部2と、第1母材部2と重ね合わされた第2母材部3と、第1母材部2の表面と第2母材部3の端面との隅に形成された溶接金属4とを備える。そして、第2母材部3の端面は、第1母材部側2がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しており、溶接金属4ののど厚a1は、第2母材部3の厚さd2以上の大きさを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材同士を溶接して接合する方法の1つとして、従来、重ね隅肉溶接が知られている。この重ね隅肉溶接は、ある部材(以下、「第1部材」)に他の部材(以下、「第2部材」)を重ね合わせ、第1部材の表面と第2部材の端面との隅に溶接を施すものである。
【特許文献1】特開平8−25080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような重ね隅肉溶接によって形成された溶接継手において強度を向上させるためには、隅肉(溶接金属)の「のど厚」を大きくすることが有効である。しかし、のど厚を大きくするためには、隅肉の脚長を大きくする必要がある。隅肉の脚長を大きくするには、第2部材の厚さを大きくする必要があるが、材料費の増大や生産性の低下を招く恐れがある。
【0004】
本発明の課題は、部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1発明の溶接継手構造は、第1母材部と、第1母材部と重ね合わされた第2母材部と、第1母材部の表面と第2母材部の端面との隅に形成された溶接金属とを備える。そして、第2母材部の端面は、第1母材部側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しており、溶接金属ののど厚は、第2母材部の厚さ以上の大きさを有する。
【0006】
この溶接継手構造では、第2母材部の端面は、第1母材部側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しているため、第2母材部の端面が第1母材部の表面に対して垂直な場合よりも、溶接金属ののど厚を大きくすることができる。このため、第2母材部の厚さの増大を抑えながら、溶接金属ののど厚を第2母材部の厚さ以上の大きさにして溶接金属の強度を向上させることができる。これにより、この溶接継手構造では、部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる。また、溶接金属ののど厚を第2母材部の厚さ以上にすることによって、溶接金属が最弱断面となることを抑えることができる。このため、この溶接継手構造では、溶接金属の脚長のバラツキに因る強度のバラツキを低減させることができる。
【0007】
第2発明の溶接継手構造は、第1発明の溶接継手構造であって、第1母材部の厚さは、第2母材部の厚さより小さい。
【0008】
この溶接継手構造では、第1母材部の厚さが第2母材部の厚さより小さいため、第1母材部の材料費が低減されている。このため、この溶接継手構造では、製造コストを低減させることができる。また、第1母材部の厚さは、溶接金属ののど厚に影響を与えないため、溶接金属の強度を低下させる恐れが少ない。
【0009】
第3発明の溶接継手構造は、第2発明の溶接継手構造であって、第2母材部は、第1母材部の外表面に接するように重ね合わされている。そして、溶接金属は、第1母材部の外表面と第2母材部の端面との隅に形成されている。
【0010】
この溶接継手構造では、第2母材部や溶接金属よりも第1母材部の外表面から亀裂が生じやすくなっている。このため、亀裂が発生したとしても第1母材部の外表面に生じるため、外部から視認し易くなっており、安全性を向上させることができる。
【0011】
第4発明の重ね隅肉溶接方法は、第1部材と第2部材とを重ね合わせる工程と、第1部材の表面と第2部材の端面との隅を隅肉溶接する工程とを備える。そして、第2部材の端面は、第1部材と第2部材とが重ね合わされた状態において、第1部材側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜している。
【0012】
この重ね隅肉溶接方法では、第2部材の端面は、第1部材側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しているため、第2部材の端面が第1部材の表面に対して垂直な場合よりも、のど厚の大きな溶接金属を容易に形成することができる。これにより、この重ね隅肉溶接方法では、部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶接継手構造では、溶接金属ののど厚を大きくすることができるため、第2母材部の厚さの増大を抑えながら、溶接金属ののど厚を第2母材部の厚さ以上の大きさにして溶接金属の強度を向上させることができる。これにより、この溶接継手構造では、部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<溶接継手構造の構成>
本発明の一実施形態に係る溶接継手構造1を図1に示す。この溶接継手構造1は、第1母材部2と、第1母材部2と重ね合わされた第2母材部3と、第1母材部2の表面と第2母材部3の端面との隅に形成された溶接金属4とを備える。
【0015】
第2母材部3は、第1母材部2の表面に接するように重ね合わされており、溶接金属4は、第1母材部2の表面と第2母材部3の端面との隅に形成されている。この第2母材部3の端面は、第1母材部2側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しており、溶接金属4ののど厚a1は、第2母材部3の厚さd2以上の大きさになっている。
【0016】
ここで、第2母材部3の端面の傾斜は、溶接金属4ののど厚a1が、第2母材部3の厚さd2以上となるように設定されている。例えば、溶接金属4の脚長a2,a3が等脚の場合には、第2母材部3の端面と第1母材部2の表面とのなす角が67.4度以下であればよいことが計算によって求められる。なお、ここでいう「のど厚」とは、溶接金属4のサイズで定まる三角形断面の継手のルートP1から図った高さ(図1の符号a1参照)を意味しているが、溶接金属4の断面ルートから表面までの最短距離がのど厚として用いられてもよい。
【0017】
また、第1母材部2の厚さd1は、第2母材部3の厚さd2より小さく、第2母材部3および溶接金属4より優先して亀裂が発生するような大きさに設定されている。
【0018】
<重ね隅肉溶接方法の内容>
上記の溶接継手構造1は、図2に示す重ね隅肉溶接方法によって形成される。この重ね隅肉溶接方法は、図3に示すように、第1部材11と第2部材12とを重ね合わせる第1工程S1と、第1部材11の表面と第2部材12の端面13とによって構成される隅を隅肉溶接する第2工程S2および第3工程S3とを備える。
【0019】
第1工程S1では、第1部材11と第2部材12とがセッティングされる。ここでは、第1部材11の表面に第2部材12の先端部が重なるように、第1部材11と第2部材12とが重ね合わされる。第2部材12の先端部は、その端面13が傾斜するように加工されており、第1部材11と第2部材12とが重ね合わされた状態において、第2部材12の端面13は、第1部材11側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜している。なお、ここでの第2部材12の端面13の角度θ1は、上述した第2母材部3の端面の角度に対応する角度であるが、溶接時の溶け込みによって第2部材12の端面13と第2母材部3の端面とは完全には一致しないため、溶接後に上記の第2母材部3の端面の角度となるように角度θ1が設定されてもよい。例えば、角度θ1が70°以下に設定されればよい。
【0020】
第2工程S2および第3工程S3では、図4に示すように、第1部材11の表面と第2部材12の端面13との隅を溶接する隅肉溶接が行われる。ここでは、溶接トーチ14が第1部材11および第2部材12に接近して、溶接トーチ14の先端から突出する溶接ワイヤ15の先端が、第1部材11の表面と第2部材12の端面13との隅に差し込まれ、溶接が開始される。そして、溶接トーチ14が溶接を行いながら移動することにより、第2部材12の端面13と第1部材11の表面との間の空間およびその外側の部分までに亘って溶接金属4(図1参照)が形成され、上述した溶接継手構造1が形成される。なお、この隅肉溶接の工程では、第2工程S2における第1の隅肉溶接と、第3工程S3における第2の隅肉溶接とが行われる。
【0021】
まず、第1の隅肉溶接では、図4(a)に示すように、溶接ワイヤ15の先端が第1部材11と第2部材12とのルートP1に近接してルートP1に沿って(図4の紙面に垂直な方向に)移動することにより、第1部材11と第2部材12とのルートP1近傍の空間に溶接金属(以下、「第1層16」と呼ぶ)が形成される(図4(b)参照)。ここで、溶接トーチ14は所定の第1角度θ2で傾斜した状態であり、ウィービングを行わずに移動する。
【0022】
第1の隅肉溶接が終了すると、次に、第2の隅肉溶接が行われる。第2の隅肉溶接では、図4(b)に示すように、第1の隅肉溶接によって形成された第1層16の外側にさらに溶接が施され第2層が形成される。このとき、溶接トーチ14は、第1層16の外側に沿って第2部材12の端面13に平行に移動する。溶接トーチ14は、上記の第1角度θ2より大きな第2角度θ3で傾斜しており、第1の隅肉溶接が行われる場合よりも起立した状態で移動する。また、溶接トーチ14は、所定の周波数および振幅でウィービングしながら移動する。この第2の隅肉溶接で形成された第2層は第1層16と溶融して第1層16と共に溶接金属4となる。
【0023】
なお、この重ね隅肉溶接方法は溶接ロボットによって自動的に行われるが、手作業での溶接において用いられることも可能である。
【0024】
また、この重ね隅肉溶接方法で溶接される第1部材11と第2部材12とは平板に限らず管状の部材であってもよい。例えば、図5に示すように、円管状のフランジ部材17とチューブ材18との接合に本発明に係る重ね隅肉溶接方法が利用可能である。なお、図5(a)はフランジ部材17とチューブ材18とを含む油圧シリンダの一部の外観斜視図であり溶接前の状態を示している。図5(b)は、溶接後の接合部分の断面図である。ここでは、フランジ部材17の先端部がチューブ材18の外周面(外表面)に重ねられており、チューブ材18の外周面とフランジ部材17の端面との隅に沿って溶接金属19が形成されている。
【0025】
さらに、この溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法は、中空の円管同士の接合に限らず、中実の筒材の外周面に中空の円管材を重ねて接合する場合にも適用可能である。
【0026】
<特徴>
(1)
本発明の溶接継手構造1および重ね隅肉溶接方法では、端面13が傾斜した第2部材12を第1部材11に重ねて隅肉溶接することによって、溶接金属4ののど厚a1を大きくすることができる。これにより、第2部材12の板厚の増大を抑えながら、強度を向上させることができる。
【0027】
なお、一般的に、溶接継手構造として、裏波溶接によって接合された突合わせ継手構造が用いられることも多いが、このような構造は、強度には優れるが、裏面を平坦に加工する必要があるため、生産性に劣るという問題がある。また、溶接金属ののど厚を大きくして溶接金属の強度を向上させるためには突き合わされる両方の母材の板厚を増大させる必要があり、材料費が増大してしまう。これに対して、本発明の溶接継手構造1および重ね隅肉溶接方法では、溶接金属の強度を確保しながら、突合わせ継手構造よりも板厚を低減させることができ、材料費を削減することができる。また、裏波溶接後に必要とされるような加工が不要であり、生産性も高い。
【0028】
(2)
本発明の溶接継手構造1および重ね隅肉溶接方法では、第1部材11に垂直な端面を有する第2部材12を溶接する場合と比べて、少ない溶接量でのど厚a1を大きくすることができる。このため、生産性を向上させることができる。
【0029】
(3)
本発明の溶接継手構造1および重ね隅肉溶接方法では、のど厚a1を第2母材部3の厚さd2よりも大きくすることによって、溶接継手構造1における最弱断面を溶接金属4ではなく第1母材部2に位置させることができる。これにより、溶接継手構造1における疲労強度は、溶接金属4よりも第1母材部2の影響を受けやすくなるため、バラツキの生じ易い溶接金属4の脚長a2,a3の影響を受けることが抑えられ、溶接継手構造1の強度のバラツキが低減される。
【0030】
(4)
この溶接継手構造1では、最弱断面が第1母材部2に位置することによって、亀裂が他の部分よりも第1母材部2から優先的に発生することになる。このため、溶接金属4のルートから溶接金属4の内部において亀裂が発生する場合と比べて、亀裂の発生を容易に発見することができる。
【実施例1】
【0031】
次に、本発明の一実施例を説明する。
【0032】
〔条件〕
この実施例では、図3において、厚さd1が6mmである板状の第1部材11と、厚さd2が9mmである板状の第2部材12とを用いて重ね隅肉溶接を行う。第2部材12の端面13の傾斜角度θ1は60度である。溶接は溶接ロボットによる自動溶接によって行われ、溶接金属4の脚長a2,a3(図1参照)が9×9mmの等脚形状となるように溶接条件が設定される。具体的な溶接条件は以下の通りである。
【0033】
[第1の隅肉溶接での溶接条件]
溶接電流:275A
溶接電圧:28V
溶接トーチ14の移動速度:33cm/min
ウィービングなし
溶接トーチ14の傾斜角度(第1角度θ2):30°
[第2の隅肉溶接での溶接条件]
溶接電流:320A
溶接電圧:32V
溶接トーチ14の移動速度:35cm/min
ウィービング周波数:3Hz
ウィービング振幅:1.5mm
溶接トーチ14の傾斜角度(第2角度θ3):55°
〔結果〕
上記の条件で重ね隅肉溶接を行った結果、溶接金属4ののど厚a1が11mmである溶接継手構造1が得られた。
【0034】
また、得られた溶接継手構造1に対して、第2母材部3を固定して第1母材部2に繰り返し荷重(図6の矢印F1参照)を負荷する疲労試験を行った結果、第1母材部2と溶接金属4との止端部P2から亀裂C1が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、部材の厚さの増大を抑えると共に強度を向上させることができる効果を有し、溶接継手構造および重ね隅肉溶接方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る溶接継手構造の断面図。
【図2】本発明に係る重ね隅肉溶接方法のフローを示す図。
【図3】第1工程における第1部材と第2部材とを示す図。
【図4】隅肉溶接における第1部材および第2部材と溶接トーチとを示す図。
【図5】本発明に係る溶接継手構造が適用可能な油圧シリンダの一部を示す図。
【図6】実施例1における溶接継手構造を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 溶接継手構造
2 第1母材部
3 第2母材部
4 溶接金属
11 第1部材
12 第2部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1母材部と、
前記第1母材部と重ね合わされた第2母材部と、
前記第1母材部の表面と前記第2母材部の端面との隅に形成された溶接金属と、
を備え、
前記第2母材部の端面は、前記第1母材部側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜しており、
前記溶接金属ののど厚は、前記第2母材部の厚さ以上の大きさを有する、
溶接継手構造。
【請求項2】
前記第1母材部の厚さは、前記第2母材部の厚さより小さい、
請求項1に記載の溶接継手構造。
【請求項3】
前記第2母材部は、前記第1母材部の外表面に接するように重ね合わされており、
前記溶接金属は、前記第1母材部の外表面と前記第2母材部の端面との隅に形成されている、
請求項2に記載の溶接継手構造。
【請求項4】
第1部材と第2部材とを重ね合わせる工程と、
前記第1部材の表面と前記第2部材の端面との隅を隅肉溶接する工程と、
を備え、
前記第2部材の端面は、前記第1部材と前記第2部材とが重ね合わされた状態において、前記第1部材側がその反対側よりも奥側に位置するように傾斜している、
重ね隅肉溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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