説明

溶接装置

【課題】鉄筋等の棒鋼の寸法にばらつきがあっても係止部材と棒鋼を精度良く位置合わせしてフラッシュ溶接する。
【解決手段】プレート部4と円柱状のボス5を有する係止部材2のボス5と棒鋼3をフラッシュ溶接により接合するとき、位置調整機構部9のZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32を操作してZ方向可動ブロック24を固定ブロック23に沿って垂直方向に移動し、X方向可動ブロック31をZ方向可動ブロック24に沿って水平方向に移動させて係止部材2を保持した固定クランプ手段10を移動して係止部材2のボス5の中心を棒鋼3の中心と一致させて簡単な操作でボス5と棒鋼3を位置合わせし、ボス5と棒鋼5の位置合わせ時間を大幅に短縮して操作効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば構造物の耐震性能を高めるために主筋又は配力筋間を連結するせん断補強筋の作製に使用する溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造の構造物などの内部に配置される鉄筋は、軸方向力又は曲げモーメントを負担する主筋と、主筋と直角方向に配置し、主筋の位置を確保し、直角方向へも応力を伝える配力筋と、主筋間や配力筋間を連結するせん断補強筋などから構成している。例えば特許文献1には楕円形又は半楕円形の平鋼からなる係止板に鉄筋等の棒鋼を接合したせん断補強筋の溶接装置が開示されている。このせん断補強筋の溶接装置は、図5に示すように、ベース7の上面に絶縁材を介して固定された固定ブロック40に固定され係止板41を位置決めして保持する位置決めブロック13と、位置決めブロック13に対向して設けられ、クランプシリンダ14に連結されたクランプジョー15とで係止板41を固定し、すえ込みシリンダ20により前後退する可動ブロック16に絶縁材を介して固定された保持ブロック17とクランプシリンダ18に連結されたクランプジョー19とで棒鋼3を挟み込んで固定し、固定ブロック40と可動ブロック16との間に溶接電源を接続して係止板41と棒鋼3をフラッシュ溶接により接合している。
【特許文献1】特開2005−95938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この平鋼から係止板41に棒鋼3を直接接合すると、係止板41と棒鋼3の接合部にバリが生じ、このバリを除去することは容易でなく、バリの除去作業に多くの時間を要するとともに作製したたせん断補強筋で主筋間や配力筋間を連結したとき、係止板41の棒鋼3と接合した部分に応力が集中し、係止板41が破損する可能性がある。これを防止するため、図1に示すように、プレート部4に円柱状のボス5を有する係止部材2を使用し、この係止部材2のボス5に棒鋼3を接合したせん断補強筋が提案されている。このボス5に接合する鉄筋等の棒鋼3は外径寸法にばらつきがあるとともに多少の曲がりがある。このため係止部材2のボス5に対して棒鋼3を位置合わせしたとき、図6(a)に示すように、ボス5と棒鋼3の間に芯ずれが生じる場合が多い。この芯ずれを防止するため、図6(b)に示すように、係止部材2を位置決めする位置決めブロック13と係止部材2の間やクランプジョー19と係止部材2の間にスペーサー42を挿入してボス5と棒鋼3の芯出しをしている。
【0004】
このようにスペーサー42を使用して係止部材2のボス5と棒鋼3の芯出しをしていると、ボス5と棒鋼3の間に生じる芯ずれ量はその都度異なり、多数の異なる厚さのスペーサー42を準備する必要があるとともにボス5と棒鋼3の芯出しに多くの時間を要し、せん断補強筋の製造能率が低下してしまうという短所がある。
【0005】
この発明は、このような短所を改善し、鉄筋等の棒鋼の寸法にばらつきがあっても係止部材と棒鋼を精度良く位置合わせすることができる溶接装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の溶接装置は、プレート部と円柱状のボスを有する係止部材のボスと棒鋼をフラッシュ溶接により接合する溶接装置において、固定電極を有する固定クランプ手段と、可動電極を有する可動クランプ手段と、すえ込み手段及び位置調整機構部を有し、前記固定クランプ手段は、プレート部と円柱状のボスを有する係止部材を保持し、前記可動クランプ手段は、固定クランプ手段で保持した係止部材のボスに接合する棒鋼を保持し、前記すえ込み手段は、前記可動クランプ手段を固定クランプ手段側に前進させ、前記位置調整機構部は前記可動クランプ手段で保持した棒鋼の先端部に対して前記固定クランプ手段で保持している係止部材のボスを位置合わせするものであり、垂直方向位置調整部と水平方向位置調整部を有し、前記垂直方向位置調整部は、固定ブロックに垂直方向リニアガイドで連結された垂直方向方向可動ブロックと、該垂直方向可動ブロックを固定ブロックに沿って垂直方向に移動させる垂直方向調整ネジを有し、前記水平方向位置調整部は、前記垂直方向可動ブロックに水平方向リニアガイドで連結され、前記可動クランプ手段を保持する水平方向可動ブロックと、該水平方向可動ブロックを前記垂直方向可動ブロックに沿って水平方向に移動させる水平方向調整ネジを有することを特徴とする。
【0007】
前記垂直方向調整ネジと水平方向調整ネジの取付部に、フラッシュ溶接時の火花を遮断する保護プレートを有する。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、プレート部と円柱状のボスを有する係止部材のボスと棒鋼をフラッシュ溶接により接合するとき、位置調整機構部の垂直方向調整ネジと水平方向調整ネジを操作して垂直方向可動ブロックを固定ブロックに沿って垂直方向に移動し、水平方向可動ブロックを垂直方向可動ブロックに沿って水平方向に移動させて係止部材を保持した固定クランプ手段を移動して係止部材のボスの中心を棒鋼の中心と一致させようにしたから、簡単な操作でボスと棒鋼を位置合わせでき、ボスと棒鋼の位置合わせ時間を大幅に短縮して操作効率を向上することができる。
【0009】
また、垂直方向調整ネジと水平方向調整ネジの取付部に、フラッシュ溶接時の火花を遮断する保護プレートを有することにより、棒鋼とボスの接触部を加熱しているとき大量の火花が飛び散っても、飛散する火花が垂直方向調整ネジと水平方向調整ネジのネジ部に入り込むことを防ぐことができ、安定して固定クランプ手段を移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1はこの発明のせん断補強筋の構成図である。図に示すようにせん断補強筋1は、係止部材2と、係止部材2に接合された棒鋼3とを有する。係止部材2は、銑鉄や鋼を使用して鋳造法や鍛造法あるいは機械加工により形成され、プレート部4と円柱状のボス5を有する。プレート部4は、長手方向の一方の端部が半円形で先細に形成され、長手方向の中心より他方の端部側にボス5が設けられている。ボス5は接合する棒鋼3とほぼ同じ外径を有する。棒鋼3は係止部材2のボス5の先端部にフラッシュ溶接により接合される。
【0011】
このせん断補強筋1の係止部材2と棒鋼3を接合してせん断補強筋1を作製する溶接装置6は、図2の構成図に示すように、ベース7の上面に固定された保持ブロック8に絶縁材を介して取り付けられた位置調整機構部9と、固定クランプ手段10と可動クランプ手段11及びすえ込み手段12とを有する。固定クランプ手段10は、位置調整機構部9に固定され、係止部材2を位置決めして保持する位置決めブロック13と、位置決めブロック13に対向して設けられ、クランプシリンダ14に連結されたクランプジョー15とを有し、係止部材2を保持する。可動クランプ手段11は、固定クランプ手段10と対向してベース7の上面に移動自在に取り付けられた可動ブロック16に絶縁材を介して固定され、棒鋼3を保持する保持ブロック17と、保持ブロック17に対向して設けられ、クランプシリンダ18に連結されたクランプジョー19とを有し、棒鋼3を保持する。すえ込み手段12は、可動ブロック16に連結されたすえ込みシリンダ20を有し、可動クランプ手段8を固定クランプ手段7側に前進させる。
【0012】
固定クランプ手段10で保持する係止部材2を位置決めする位置調整機構部9は、図3(a)の側面図と(b)の平面図に示すように、ベース7の表面に対して垂直方向であるZ方向で固定クランプ手段10の位置を可変するZ方向位置調整部21と、ベース7の長手方向であるY方向と直交する水平方向であるX方向で固定クランプ手段10の位置を可変するX方向位置調整部22を有する。
【0013】
Z方向位置調整部21は、固定ブロック23とZ方向可動ブロック24とZ方向調整ネジ25を有する。固定ブロック23は、ベース7に絶縁材を介して固定された支持ブロック26に固定され、固定クランプ手段10側にはZ方向可動ブロック24がZ方向リニアガイド27で連結されている。Z方向可動ブロック24はZ方向が固定ブロック23より小さく形成され、リニアガイド27により固定ブロック23に沿ってZ方向に摺動自在になっており、上面にZ方向調整ネジ25と係合する台形の送りネジを有する。Z方向調整ネジ25は中間部に上ブロック28の厚さに対応した間隔をおいて係止溝を有し、軸部と嵌合する貫通孔を有する保護プレート29を取り付けた状態で上ブロック28の取付孔に挿入し、上下の係止溝に止め輪30を取り付けて上ブロック28に回転自在に取り付けられ、Z方向可動ブロック24の送りネジと係合してZ方向可動ブロック24を固定ブロック23に沿って垂直方向に移動させる。保護プレート29は上ブロック28に固定され、Z方向調整ネジ25のネジ部を保護する。
【0014】
X方向位置調整部22は、X方向可動ブロック31とX方向調整ネジ32を有する。X方向可動ブロック31は、X方向がZ方向可動ブロック24より小さく形成され、Z方向可動ブロック24とX方向リニアガイド33でX方向に摺動自在に連結され、他方の面には固定クランプ手段10が固定されている。このX方向可動ブロック31の側面にX方向調整ネジ32と係合する台形の送りネジを有する。X方向調整ネジ32は中間部に横ブロック34の厚さに対応した間隔をおいて係止溝を有し、軸部と嵌合する貫通孔を有する保護プレート35を取り付けた状態で横ブロック34の取付孔に挿入し、各係止溝に止め輪36を取り付けて横ブロック34に回転自在に取り付けられ、X方向可動ブロック31の送りネジと係合してX方向可動ブロック31をZ方向可動ブロック24に沿って水平方向に移動させる。保護プレート35は横ブロック34に固定され、X方向調整ネジ32のネジ部を保護する。
【0015】
この溶接装置6で係止部材2に棒鋼3を接合するときは、係止部材2を固定クランプ手段10で保持し、棒鋼3を可動クランプ手段11で保持し、棒鋼3の先端部を係止部材2のボス5と対向させて配置して、図4(a)に示すように、すえ込み手段12で可動クランプ手段11を固定クランプ手段10側に前進させ、可動クランプ手段11で保持した棒鋼3の先端部を固定クランプ手段10で保持している係止部材2のボス5に軽く接触させる。この状態で操作者がボス5と棒鋼3の接触状態を確認し、図4(a)に示すように、ボス5と棒鋼3に芯ずれが生じている場合は、位置調整機構部9のZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32を操作してZ方向可動ブロック24を固定ブロック23に沿って垂直方向に移動し、X方向可動ブロック31をZ方向可動ブロック24に沿って水平方向に移動させて固定クランプ手段10を移動し、図4(b)に示すように、固定クランプ手段10で保持している係止部材2のボス5の中心を棒鋼3の中心と一致させる。
【0016】
このようにZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32を操作して固定クランプ手段10を垂直方向と水平方向に移動して係止部材2のボス5を棒鋼3に位置合わせするから、簡単な操作でボス5と棒鋼5を位置合わせでき、ボス5と棒鋼3の位置合わせ時間を大幅に短縮して操作効率を向上することができる。
【0017】
棒鋼3に対してボス5を位置合わせした後、溶接電源から固定クランプ手段10に設けた固定電極と可動クランプ手段11に設けた可動電極に電圧を印加して棒鋼3の先端部と係止部材2のボス5の接続部に大電流を流して集中的に加熱する。この加熱により接触部が溶融して火花となって飛び散り、その接触が断たれると、さらに可動クランプ手段11を前進させ、棒鋼3の先端部と係止部材2のボス5の間で接触と火花飛散を繰り返して接触部を加熱する。この棒鋼3とボス5の接触部を加熱しているとき大量の火花が飛び散るが、飛散する火花がZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32のネジ部に入り込むことを保護プレート29,35で防ぐ。
【0018】
棒鋼3とボス5の接触部の加熱により棒鋼3と係止部材2のボス5との接触部の温度が適温に達したとき、可動クランプ手段11を急激に前進させ、棒鋼3と係止部材2のボス5の接触部に対して急激に圧力を加えてすえ込み(アプセット)により係止部材2のボス5に棒鋼4を圧接して機械的特性に優れた溶接継手を得る。
【0019】
前記説明では、操作者がZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32を操作して固定クランプ手段10を垂直方向と水平方向に移動して係止部材2のボス5を棒鋼3に位置合わせする場合について説明したが、ボス5と棒鋼3の水平方向であるX方向と垂直方向であるZ方向の芯ずれ量をセンサーで検出し、検出した芯ずれ量に応じてZ方向調整ネジ25とX方向調整ネジ32をサーボモータで回転して固定クランプ手段10を移動するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明のせん断補強筋の構成図である。
【図2】この発明のせん断補強筋を作製する溶接装置の構成図である。
【図3】溶接装置の位置調整機構部の構成を示す断面図である。
【図4】位置調整機構部で棒鋼に対するボスの位置合わせ動作を示す平面図である。
【図5】従来のせん断補強筋を作製する溶接装置の構成図である。
【図6】従来の溶接装置で棒鋼に対するボスの位置合わせ動作を示す平面図である。
【符号の説明】
【0021】
1;せん断補強筋、2;係止部材、3;棒鋼、4;プレート部、5;ボス、
6;溶接装置、7;ベース、8;保持ブロック、9;位置調整機構部、
10;固定クランプ手段、11;可動クランプ手段、12;すえ込み手段、
13;位置決めブロック、14;クランプシリンダ、15;クランプジョー、
16;可動ブロック、17;保持ブロック、18;クランプシリンダ、
19;クランプジョー、20;すえ込みシリンダ、21;Z方向位置調整部、
22;X方向位置調整部、23;固定ブロック、24;Z方向可動ブロック、
25;Z方向調整ネジ、26;支持ブロック、27;Z方向リニアガイド、
28;上ブロック、29;保護プレート、30;止め輪、
31;X方向可動ブロック、32;X方向調整ネジ、33;X方向リニアガイド、
34;横ブロック、35;保護プレート、36;止め輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート部と円柱状のボスを有する係止部材のボスと棒鋼をフラッシュ溶接により接合する溶接装置において、
固定電極を有する固定クランプ手段と、可動電極を有する可動クランプ手段と、すえ込み手段及び位置調整機構部を有し、
前記固定クランプ手段は、プレート部と円柱状のボスを有する係止部材を保持し、
前記可動クランプ手段は、固定クランプ手段で保持した係止部材のボスに接合する棒鋼を保持し、
前記すえ込み手段は、前記可動クランプ手段を固定クランプ手段側に前進させ、
前記位置調整機構部は、前記可動クランプ手段で保持した棒鋼の先端部に対して前記固定クランプ手段で保持している係止部材のボスを位置合わせするものであり、垂直方向位置調整部と水平方向位置調整部を有し、
前記垂直方向位置調整部は、固定ブロックに垂直方向リニアガイドで連結された垂直方向方向可動ブロックと、該垂直方向可動ブロックを固定ブロックに沿って垂直方向に移動させる垂直方向調整ネジを有し、
前記水平方向位置調整部は、前記垂直方向可動ブロックに水平方向リニアガイドで連結され、前記可動クランプ手段を保持する水平方向可動ブロックと、該水平方向可動ブロックを前記垂直方向可動ブロックに沿って水平方向に移動させる水平方向調整ネジを有することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記垂直方向調整ネジと水平方向調整ネジの取付部に、フラッシュ溶接時の火花を遮断する保護プレートを有する請求項1記載の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−289995(P2007−289995A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120046(P2006−120046)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)