溶接装置
【課題】溶接欠陥を予防するための条件設定を簡単に行なえる溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接装置の制御装置は、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベースを参照し溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出する(S11)。そして、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し(S13)、判定結果が安全領域に属しない場合に溶接条件の変更候補を表示部に表示させる(S16)。特別な追加装置を必要とせず、現状の溶接装置の構成を大きく変えなくても、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成する条件をユーザが簡単に溶接装置に設定できる。
【解決手段】溶接装置の制御装置は、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベースを参照し溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出する(S11)。そして、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し(S13)、判定結果が安全領域に属しない場合に溶接条件の変更候補を表示部に表示させる(S16)。特別な追加装置を必要とせず、現状の溶接装置の構成を大きく変えなくても、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成する条件をユーザが簡単に溶接装置に設定できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーク溶接を行なう溶接装置に関し、特に異種金属の溶接に使用することができる溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接欠陥の一つに溶接割れがある。従来、溶接割れの予防には、母材成分や溶接ワイヤ成分、継手形状、溶接条件のいずれかが変わるたびに試験溶接を行なって溶接割れが発生しないことを確認してから溶接作業が行なわれていた。
【0003】
しかし、試験溶接をする方法では、溶接割れが発生していないことを確認する作業が溶接作業の前に行なわれるので、作業能率が悪化するという問題があった。また、試験溶接のために材料を無駄にしてしまうという問題もあった。
【0004】
このような問題に対して、特開平11−314155号公報(特許文献1)は、溶接割れの発生を事前に予測して、溶接割れを生じさせないで溶接作業を能率的に行なえるようにした予測診断方法を開示している。
【0005】
他にも、溶接条件等から溶接金属の材質予測を行なうことが検討されている。溶接条件等から溶接金属の材質予測する目的は、溶接割れ発生の予測や診断をするため、または溶接金属の強度や靱性の機械的特性を予測して所望の目標値となっているかを判定するためである。
【0006】
いずれの場合も、実験結果やこれまでの経験の蓄積から、割れが発生する/しない、機械的特性がどのようになるというデータベースを作成したり、予測式を立てたりして、新たに設定した溶接条件での溶接金属の割れの発生の可能性や機械的特性の予測や診断を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−314155号公報
【特許文献2】特開平8−136530号公報
【特許文献3】特開2004−4034号公報
【特許文献4】特開2007−181876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法では、溶接の都度、実験結果や経験から溶接割れの発生の有無を決定している。そのため、データベースに情報がない条件や、または予測式が導けていない条件に関しては精度良く割れ等の予測または診断を行なうことができない。また、割れ等が発生することに対する予測または診断を行なうために溶接装置とは別に特別な演算装置が必要になる場合もある。
【0009】
ところで、ステンレス鋼は、耐食性、耐熱性等の優れた性質により、幅広く使用されている。しかし、炭素鋼が同時に使用され、ステンレス鋼と炭素鋼など異種金属の溶接が必要となる場合がある。
【0010】
ステンレス鋼と炭素鋼の溶接や成分の異なるステンレス鋼同士の溶接などの異種金属の溶接では、溶接材料の選定を誤ると、溶接によりステンレス鋼が炭素鋼等の希釈を受けるので、溶接金属中のNi、Cr含有量が減少し、脆く割れやすい組織になる。
【0011】
すなわち、異種金属の溶接は溶接金属部分の組成が母材と変化する。母材と組成が異なるために、溶接金属部分の組成が適切でなければ、割れや、靱性の低下による強度の低下等の溶接欠陥(以下、溶接欠陥という。)が発生してしまう。したがって、溶接金属部分の組成を改善するための異材溶接用の溶接ワイヤがいろいろ存在する。
【0012】
溶接割れを予防するには、溶接速度や溶接電流などの溶接条件を適切に設定するとともに、適切な溶接ワイヤを選択する必要がある。
【0013】
しかしながら、溶接装置のユーザにとって、異種金属を溶接するためにどのような溶接ワイヤを選択すればよいかは難しい問題であり、また溶接条件をどのように設定すればよいかも難しい問題である。
【0014】
この発明の目的は、溶接欠陥を予防するための条件設定を簡単に行なえる溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、要約すると、溶接装置であって、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部と、各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベースと、ユーザに情報を提示する表示部と、入力部、データベース、および表示部と通信し、使用母材と使用溶接ワイヤと溶接条件との適否を判定する制御装置とを含む。制御装置は、入力部から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベースを参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出し、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し、判定結果が安全領域に属しない場合に使用溶接ワイヤまたは溶接条件の変更候補を表示部に表示させる。
【0016】
好ましくは、制御装置は、判定結果が安全領域に属しない場合には、判定結果を作業者に報知するとともに、溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域に属することとなる安全溶接条件を探索し、安全溶接条件を表示部に表示させる。
【0017】
好ましくは、制御装置は、判定結果が安全領域に属しない場合には、判定結果を作業者に報知するとともに、データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域に属することとなるか否かを判定し、判定結果が安全領域に属することとなる溶接ワイヤの情報を表示部に表示させる。
【0018】
好ましくは、溶接装置は、溶接トーチと、溶接トーチに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源と、溶接トーチが取り付けられたマニピュレータと、マニピュレータを制御するロボット制御装置とをさらに含む。入力部および表示部は、ロボット制御装置にデータを入力するためのティーチペンダントに設けられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特別な追加装置を必要とせず、現状の溶接装置の構成を大きく変えなくても、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成する条件をユーザが簡単に溶接装置に設定できる。また、溶接条件設定時に警告が出力されるため、効率的に溶接作業が行なえ、試験溶接などで母材や溶接ワイヤを無駄に消費せずにすむ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の溶接装置が組み込まれたアーク溶接ロボット装置51の構成図である。
【図2】図1のティーチペンダントTPの一般的な構成を示したブロック図である。
【図3】実施の形態1でティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3のステップS11の処理を詳細に示したフローチャートである。
【図5】母材成分が登録されているデータベースの例である。
【図6】溶接ワイヤの成分が登録されているデータベースの例である。
【図7】図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種およびワイヤ種類に対応するデータの第1例を示す図である。
【図8】継手形状の一例を示した図である。
【図9】溶接電流Iと希釈率Rの関係の例を示した図である。
【図10】溶接速度Vと希釈率Rとの関係を示した図である。
【図11】図7に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。
【図12】溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。
【図13】図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種、ワイヤ種類に対応するデータの第2例を示す図である。
【図14】図13に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。
【図15】溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。
【図16】分かりやすくするために図15のシェフラー状態図から安全領域とプロット点のみを示した図である。
【図17】実施の形態2においてティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図18】図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309に交換した第1交換例を示す図である。
【図19】第1交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。
【図20】第1交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。
【図21】図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309Lに交換した第2交換例を示す図である。
【図22】第2交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。
【図23】第2交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付して、その説明は繰返さない。
【0022】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態の溶接装置が組み込まれたアーク溶接ロボット装置51の構成図である。
【0023】
図1を参照して、アーク溶接ロボット装置51は、ティーチペンダントTPと、ロボット制御装置RCと、溶接電源WPと、マニピュレータMと、溶接トーチTとを含む。
【0024】
マニピュレータMは、ワークWに対してアーク溶接を自動で行なうものであり、上アーム53、下アーム54及び手首部55と、これらを回転駆動するための複数のサーボモータ(図示せず)とによって構成されている。
【0025】
溶接トーチTは、マニピュレータMの手首部55の先端部分に取り付けられており、ワイヤリール56に巻回された溶接ワイヤ57をワークWの教示された溶接線に導くためのものである。溶接電源WPは、溶接トーチTとワークWとの間に溶接電圧を供給する。
【0026】
コンジットケーブル52は、内部に溶接ワイヤ57を案内するためのコイルライナ(図示せず)を備えており、溶接トーチTに接続されている。またコンジットケーブル52は、溶接電源WPからの電力およびガスボンベ58からのシールドガスを溶接トーチTに供給する。
【0027】
ティーチペンダントTPは、マニピュレータMの動作、アーク溶接を行なわせるために必要な溶接条件(溶接電流値、溶接電圧値、溶接速度)等を教示データとして設定するためのものである。ティーチペンダントTPは、教示データ等が表示される表示部41と、教示データを入力するための入力部42であるキーボードとを含む。作業者は、このティーチペンダントTPを用いて、マニピュレータMの動作とともに上記溶接条件を設定した作業プログラムを作成する。
【0028】
ロボット制御装置RCは、マニピュレータMに溶接動作の制御を実行させるためのものである。ロボット制御装置RCは、内部に主制御部、動作制御部およびサーボドライバ(いずれも図示せず)等を備えている。そして、ロボット制御装置RCは、作業者がティーチペンダントTPによって教示した作業プログラムに基づき、サーボドライバからマニピュレータMの各サーボモータに動作制御信号を出力し、マニピュレータMの複数の軸をそれぞれ回転させる。ロボット制御装置RCは、マニピュレータMのサーボモータに備えられたエンコーダ(図示せず)からの出力によって現在位置を認識しているので溶接トーチTの先端位置を制御することができる。
【0029】
本実施の形態では、ティーチペンダントTPでは上記の教示データを設定するだけでなく、溶接条件が使用する母材や溶接ワイヤに対して適切なものであるか否かの判定を、溶接作業の開始前に行なって作業者にその判定結果を報知する。また好ましくは、判定結果が不適である場合には、適切な溶接条件や溶接ワイヤについての情報を作業者に提示する。
【0030】
図2は、図1のティーチペンダントTPの一般的な構成を示したブロック図である。
図2を参照して、ティーチペンダントTPは、CPU40と、入力部42と、表示部41と、データベース43と、通信インターフェース部44とを含む。
【0031】
CPU40はデータバスやアドレスバス等によって入力部42と、表示部41と、データベース43と、通信インターフェース部44とに接続され、各部とデータ授受を行なう。
【0032】
データベース43には、たとえばCPU40で実行されるプログラムや参照されるマップ等のデータが格納されている。通信インターフェース部44は、ロボット制御装置RCとの通信を行なう。なお、図示しないが、CPU40は、入出力ポートからデータ入力信号やデータ出力信号を授受する。
【0033】
ティーチペンダントTPは、このような構成に限られるものでなく、複数のCPUを含んで実現されるものであっても良い。また、データベース43は図1のロボット制御装置RCに配置しても良い。さらにティーチペンダントTPは表示部41と入力部42のみとし、他の部分を図1のロボット制御装置RCに配置しても良い。
【0034】
図3は、実施の形態1でティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。なお、この処理は、図1のロボット制御装置RCや溶接電源WPに組み込まれたコンピュータによって実行されても良い。
【0035】
図3を参照して、このフローチャートの処理が開始されると、ステップS11において、溶接パラメータの入力および溶接金属の組成演算処理が実行される。
【0036】
図4は、図3のステップS11の処理を詳細に示したフローチャートである。
図4を参照して、ステップS1において、母材材質が設定され、ステップS2において溶接ワイヤ種類が設定される。そしてステップS3において設定された母材および溶接ワイヤの種類に対応する母材成分および溶接ワイヤ成分がデータベースから取得される。
【0037】
図5は、母材成分が登録されているデータベースの例である。図5を参照して、母材の鋼種である鋼板SPCC、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS409、フェライト系ステンレス鋼SUS430の各々について、ニッケル、クロム、炭素、マンガン、シリコン、モリブデン、ニオブの成分(%)が登録されている。
【0038】
図6は、溶接ワイヤの成分が登録されているデータベースの例である。図6を参照して、溶接ワイヤの種類(JIS規格)であるYS308,YS308L,YS309,YS309L,YS310,YS430の各々について、ニッケル、クロム、炭素、マンガン、シリコン、モリブデン、ニオブの成分(%)が登録されている。
【0039】
図4のステップS3では、図5、図6で示したデータベースから対応する鋼種、ワイヤ種類の成分が読み出される。
【0040】
図7は、図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種およびワイヤ種類に対応するデータの第1例を示す図である。図7には、母材Aとして鋼種SUS409が設定され、母材Bとして鋼種SUS430が設定され、溶接ワイヤ種類としてYS309が設定された例が示される。なお、クロム当量、ニッケル当量が記載されているが、後に図11、図12を用いて説明する。
【0041】
続いて、ステップS4〜ステップS7において溶接条件が設定される。ステップS4では溶接電流が設定される。なお、溶接電流に代えてワイヤ送給速度を設定するようにしてもよい。次にステップS5において溶接電圧が設定され、ステップS6では溶接速度が設定される。さらにステップS7では溶接継手の形状が設定される。
【0042】
図8は、継手形状の一例を示した図である。図8では、突合せ継手の例が示されている。図8において母材の溶込部SA,SBと溶接ワイヤの余盛部SCとが混ざり合って溶接金属となる。
【0043】
続いて図4のステップS8においてワイヤ溶着量を計算する。ワイヤ溶着量は、図8の余盛部SCの量に相当する。ワイヤ溶着量は、ワイヤ送給速度およびワイヤ径(または溶接電流)と溶接速度とによって定まる値である。ワイヤ溶着量は、たとえば溶接電流と溶接速度とに対応して予め求められており、データベース中にマップとして保存されている。したがって、溶接電流と溶接速度とが得られれば、ワイヤ溶着量を求めることができる。
【0044】
続いて、ステップS9において溶込形状をデータベースから取得する。溶込形状には、たとえば、部分溶込、完全溶込などがある。データベースには、各種継手の溶込形状による母材の溶融量がデータとして登録されている。母材の溶融量は溶接速度および溶接電流に対応して登録されていても良い。
【0045】
そして、ステップS10において希釈率を計算する。希釈率をR、溶込部SA,SB、余盛部SCとすると、希釈率Rは次式(1)であらわされる。
R=(SA+SB)/(SA+SB+SC)×100 (%) ・・・(1)
なお、希釈率Rは、溶接電流Iや溶接速度Vの関数としても規定することができる。溶接電流や溶接速度が変化すると、余盛部SCの量が変化するので希釈率Rも変化する。
【0046】
図9は、溶接電流Iと希釈率Rの関係の例を示した図である。図9の例では、溶接速度V=20cm/minに固定されている。溶接電流Iが大きくなると対応する溶接ワイヤの送給量も多くなり余盛部SCは大きくなるが、溶込部SA,SBも大きくなるので、結果として希釈率Rも大きくなる傾向となる。溶接電流Iに対して希釈率Rを定義したマップとしてデータベース中に記録しておいても良いし、図9に示されるようにR=0.1125×I+11.785のようにデータから近似式を求めてこれによって希釈率Rを算出するようにしても良い。
【0047】
図10は、溶接速度Vと希釈率Rとの関係を示した図である。図10の例では、溶接電流I=203Aに固定されている。溶接速度Vが大きくなると、溶接ワイヤの送給量が同じである場合は、余盛部SCが小さくなるので、希釈率R(%)は大きくなる。溶接速度Vに対して希釈率Rを定義したマップとしてデータベース中に記録しておいても良いし、図10に示されるようにR=0.4747×V+22.394のようにデータから近似式を求めてこれによって希釈率Rを算出するようにしても良い。
【0048】
図9、図10に示すように、溶接金属の組成に問題があれば、溶接電流Iまたは溶接速度Vを変えることによって希釈率Rを変えて、組成の改善を図れる可能性があることがわかる。
【0049】
図11は、図7に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。図11に示した数値は、希釈率30%の場合を示し、各成分において、次式(2)に希釈率R=30(%)を代入して得られる。
溶接金属成分=(母材A成分×R/2+母材B成分×R/2+ワイヤ成分×(100−R))/100 ・・・(2)
そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。結局、母材がSUS409およびSUS430でワイヤ種類YS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は12.032%であり、クロム当量は21.605%であることが図11には示されている。
【0050】
このようにして得られたニッケル当量とクロム当量を溶接金属の割れ発生の有無の判断に用いる。図8に示すように、溶接ビードの断面は、余盛部SCと溶込部SA,SBから形成される。余盛部SC及び溶込部SA,SBは、溶接ワイヤの成分と母材A,Bの成分とが溶け合った金属組織となる。この金属組織が、完全オーステナイト組織になると高温割れが生じやすくなる。また、金属組織にマルテンサイトが析出すると硬化して低温割れが生じやすくなる。
【0051】
図12は、溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。なお、図12には、母材Aに相当する点P1、母材Bに相当する点P2、溶接ワイヤに相当する点P3および溶接金属に相当する点P4が記入されている。
【0052】
割れを防止するためには、シェフラーの状態図を用いて溶接部の金属組織を推定し、この金属組織が同図上に示す安全領域SRに入るように溶接材料等を設定することが大切である。図中(A)はオーステナイト組織となる領域を示し、(F)はフェライト組織となる領域を示し、(M)はマルテンサイト組織となる領域を示す。また(A+M)、(M+F),(A+M+F)は、各組織が混合した組織となる領域を示す。
【0053】
安全領域SRは、オーステナイト組織(A)に少量のフェライト組織(F)が混合した金属組織の領域である。割れを防止するための1つの目安として、溶接部の金属組織が安全領域SR内にあることが大切である。この安全領域SRの範囲は絶対的なものではなく、書籍、溶接材料用資料等によってズレがある。同図において、横軸は金属組織のクロム当量を示し、縦軸は金属組織のニッケル当量を示す。クロム当量およびニッケル当量はそれぞれ次式(3)、(4)で定義される。
クロム当量=%Cr+%Mo+1.5×%Si+0.5×%Nb ・・・(3)
ニッケル当量=%Ni+30×%C+0.5×%Mn ・・・(4)
ここで、%は質量%を示す。溶接部のクロム当量及びニッケル当量をプロットした点が金属組織の状態を示し、この点が安全領域SR内にあるときには割れが発生する可能性は低い。
【0054】
図12に記入されているように、母材A(SUS409)のプロット位置は、クロム当量及びニッケル当量からP1点となる。同様に、母材B(SUS430)のプロット位置は、クロム当量及びニッケル当量からP2点となる。さらに溶接ワイヤ(YS309)のプロット位置は、P3点になる。母材A,Bが均等に溶融すると仮定すると、仮想の母材成分はP1,P2の中点P12であるので、溶接部の金属組織の状態は、線分P12−P3上に位置する。溶接部の金属組織は、母材成分と溶接ワイヤ成分とが溶け合ったものであり、図8で上述した溶込部SA,SBと余盛部SCとの体積比によって線分P12−P3上を移動する。図12においては、溶接金属の成分は図11に相当する点P4であり、安全領域SRに入っているので割れが発生する可能性は低い。
【0055】
したがって、溶接開始前に割れが発生する可能性は低いことがわかっているので安心して作業を進めることができる。
【0056】
以上の処理が、図3のステップS12およびステップS13で行なわれる。図12に示した例では溶接金属のニッケル当量とクロム当量から決まる点P4が安全領域SRに入っているので、ステップS13からステップS19に処理が進み、溶接条件の設定は終了する。
【0057】
次に、溶接金属のニッケル当量とクロム当量から決まる点が安全領域SRに入らなかった例について説明する。
【0058】
図13は、図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種、ワイヤ種類に対応するデータの第2例を示す図である。図13には、母材AおよびBとして鋼種SUS409が設定され、溶接ワイヤ種類としてYS308が設定された例が示される。
【0059】
図14は、図13に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。図14に示した数値は、希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。結局、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS308を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%であり、クロム当量は18.362%であることが図14には示されている。
【0060】
図15は、溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。なお、図15には、母材Aに相当する点Q1、母材Bに相当する点Q2、溶接ワイヤに相当する点Q3および溶接金属に相当する点Q4が記入されている。
【0061】
母材Bは、この例では母材Aと同じであるので、仮想の母材成分はQ1(=Q2)であるので、溶接部の金属組織の状態は、線分Q1−Q3上に位置する。溶接部の金属組織は、母材成分と溶接ワイヤ成分とが溶け合ったものであり、図8で上述した溶込部SA,SBと余盛部SCとの体積比によって線分Q1−Q3上を移動する。図15においては、溶接金属の成分は図14に相当する点Q4であり、安全領域SRに入っていないので割れが発生するおそれがある。そこで、図3のフローチャートにおいては、ステップS13からステップS14に処理が進んで、ティーチペンダントTPにアラーム表示がされる。例えば、「低温割れが発生する可能性があります。」というような警告表示が表示部41に表示される。
【0062】
ここで、溶接部の割れを防止するためには、溶接部の金属組織の状態位置を、図15に示す安全領域SR内に入れなければならない。そこで、ステップS15において、安全領域SRに入る希釈率から電流または速度を逆算する。
【0063】
図16は、分かりやすくするために図15のシェフラー状態図から安全領域とプロット点のみを示した図である。図16において、母材AおよびBに相当する点Q1、溶接ワイヤに相当する点Q3および溶接金属に相当する点Q4が記入されている。希釈率100%の点は点Q1である。希釈率0%の点は点Q3である。点Q4の希釈率Rは、(線分Q3−Q4の長さ)/(線分Q3−Q1の長さ)×100 (%)となる。
【0064】
ところで、溶接速度や溶接電流を変更すると希釈率が変化し、溶接金属の組成は線分Q1−Q3上を変化する。変化後の点が安全領域SRに入れば溶接割れは生じなくなる。安全領域SRの境界と線分Q1−Q3との交点である点Q5の希釈率Rは、(線分Q3−Q5の長さ)/(線分Q3−Q1の長さ)×100 (%)となる。
【0065】
このようにして安全領域SRに入るための希釈率の限界値が求まる。この値に対応する溶接電流や溶接速度は図9、図10のマップから求めることができる。
【0066】
図3のステップS16において、ティーチペンダントTPに溶接条件の変更候補となる溶接電流や溶接速度が表示される。たとえば、「溶接電流を120アンペア以下に下げて、希釈率(溶込み)を小さくすることをお勧めします。」または「溶接電流の推奨範囲は120アンペア以下です。」などのように表示すると良い。そしてステップS17において、ティーチペンダントTPの表示部41を用いて溶接条件の変更を行なうか否かの問い合わせが行なわれる。表示部41に、たとえば「溶接条件を変更しますか?」というように表示させ、変更の有無についてユーザからの入力を待つ。
【0067】
ステップS18において、ユーザが変更を選択する場合には、ステップS18からステップS11に処理が戻り、溶接パラメータの再入力が行なわれる。この時には、ステップS16においてユーザに提示された変更候補が参考にされる。変更候補の数値をボタンで簡単に選択することができるようにしてもよい。一方、必ずしも良い条件があるとは限らないので、ユーザが変更しないことを選択する可能性もある。その場合にはステップS18からステップS19に処理が進み、溶接条件の設定は終了する。
【0068】
以上説明したように、実施の形態1に示した溶接装置は、特別な追加装置(ハードウエア)を必要とせず、現状のロボット溶接システムにソフトウエアとデータを追加するのみで、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成することができる。また、溶接条件設定時に警告が出力されるため、効率的に溶接作業が行なえ、母材や溶接ワイヤを無駄に消費せずにすむ。
【0069】
[実施の形態2]
実施の形態1では溶接割れの可能性がある場合には、溶接条件を変更する候補を示した。その代わりに、溶接ワイヤを変更することも考えられる。
【0070】
図17は、実施の形態2においてティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。なお、図17のフローチャートの処理は、図3のフローチャートの処理に代えて実行されるものである。図17のフローチャートは、図3のフローチャートのステップS15,S16の処理に代えてステップS15A,S16Aの処理を実行している。他の処理については、図3で説明しているので、ここでは説明は繰返さない。
【0071】
ステップS15Aでは、シェフラー状態図の安全領域SRに入る溶接ワイヤをデータベースに登録されている溶接ワイヤの中から抽出する。これは、図15のように溶接金属の組成を示す点Q4が安全領域SRの外になってしまった場合に、図6に示した溶接ワイヤ中から他の溶接ワイヤのデータを用いて点Q3の代わりの新たな点を設定する。さらに、設定されている溶接条件から定まる希釈率を適用して点Q4の代わりの新たな点を設定し、この点が安全領域SRに入るか否かを判定する。データベースに登録されている溶接ワイヤについてこの判定を行ない、溶接金属に対応する新たな点Q4が安全領域SRに入った溶接ワイヤの種類を抽出および記憶する。図13〜図15に示す例では、溶接ワイヤYS308を図6の溶接ワイヤの中から選択した適切な溶接ワイヤと交換することにより、Q4点が安全領域SRに属するように移動する。たとえば、溶接ワイヤYS309およびYS309Lが適切な溶接ワイヤである。
【0072】
図18は、図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309に交換した第1交換例を示す図である。
【0073】
図19は、第1交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。図19に示した数値は、図14と同様に希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。図14と図19を比較すると、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%から11.942%に変化し、クロム当量は18.362%から20.780%に変化することが判明する。
【0074】
図20は、第1交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。図20では、更新した点は溶接ワイヤYS309を示す点Q3Aと、溶接金属を示す点Q4Aである。溶接金属を示す点Q4Aは、安全領域SRの内部に移動したことがわかる。
【0075】
図21は、図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309Lに交換した第2交換例を示す図である。
【0076】
図22は、第2交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。図22に示した数値は、図14と同様に希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。図14と図22を比較すると、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%から11.172%に変化し、クロム当量は18.362%から21.186%に変化することが判明する。
【0077】
図23は、第2交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。図23では、更新した点は溶接ワイヤYS309Lを示す点Q3Bと、溶接金属を示す点Q4Bである。溶接金属を示す点Q4Bは、安全領域SRの内部に移動したことがわかる。
【0078】
再び図17を参照して、ステップS15Aにおいて溶接ワイヤの抽出が完了すると、ステップS16Aにおいて、抽出された溶接割れが発生する可能性の低い溶接ワイヤの種類をティーチペンダントTPに表示させる。この溶接ワイヤの判定作業は、すべての登録されている溶接ワイヤに順次行ない、結果を一括して表示させ、ユーザに使用する溶接ワイヤを選択してもらうようにしても良い。図15の場合、YS309およびYS309Lが表示される。たとえば、「溶接ワイヤをYS308からYS309またはYS309Lに交換することをお勧めします。」などのように表示すると良い。
【0079】
以降のステップS17〜S19については、図3と同様であるので、説明は繰返さない。
【0080】
実施の形態1では、溶接ワイヤを変えない前提で溶接条件を変更することにより溶接割れを未然に防ぐことができる例を示した。実施の形態2では溶接条件を変えないで溶接ワイヤの種類を変更することによって溶接割れの発生を未然に防ぐことができる。
【0081】
なお、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせても良い。たとえば、実施の形態1のように溶接条件の変更が可能かを判定して、もし溶接条件を変えて希釈率を変更してもシェフラー状態図の安全領域SRに溶接金属の組成を示す点が入らない場合には、使用可能な溶接ワイヤが無いか実施の形態2で説明した処理を行なうようにしても良い。実施の形態1,2の処理を同時に行なって、ティーチペンダントTPの表示部41に溶接条件変更の場合と溶接ワイヤ変更の場合の両方を示し、ユーザにどれかを選択させるようにしても良い。
【0082】
再び図を参照して本実施の形態について総括する。実施の形態1,2の溶接装置は、図2に示すように、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部42と、各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベース43と、ユーザに情報を提示する表示部41と、入力部42、データベース43、および表示部41と通信し、使用母材と使用溶接ワイヤと溶接条件との適否を判定する制御装置(CPU40)とを含む。図4に示すように、制御装置は、入力部42から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベース43を参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出する。そして、図3および図17に示すように、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域SRに属するか否かを判定し、判定結果が安全領域SRに属しない場合に使用溶接ワイヤまたは溶接条件の変更候補を表示部41に表示させる。
【0083】
好ましくは、図3に示すように、制御装置は、判定結果が安全領域SRに属しない場合には(ステップS13でNO)、判定結果を作業者に報知する(ステップS14)とともに、溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域SRに属することとなる安全溶接条件を探索し(ステップS15)、安全溶接条件を表示部41に表示させる(ステップS16)。
【0084】
好ましくは、図17に示すように、制御装置は、判定結果が安全領域SRに属しない場合には(ステップS13でNO)、判定結果を作業者に報知する(ステップS14)とともに、データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域SRに属することとなるか否かを判定し(ステップS15A)、判定結果が安全領域SRに属することとなる溶接ワイヤの情報を表示部41に表示させる(ステップS16A)。
【0085】
好ましくは、図1に示すように、溶接装置は、溶接トーチTと、溶接トーチTに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源WPと、溶接トーチTが取り付けられたマニピュレータMと、マニピュレータMを制御するロボット制御装置RCとをさらに含む。入力部42および表示部41は、ロボット制御装置RCにデータを入力するためのティーチペンダントTPに設けられる。
【0086】
なお、データベースは、ティーチペンダントTPの内部の不揮発性メモリに記憶しておいてもよいが、ロボット制御装置RCに内蔵されるハードディスクドライブに記憶しておいてもよい。また、判定処理を実行するCPU他の図2に示した構成は、ロボット制御装置RCや溶接電源WPに配置されても良い。また、溶接電源WPに図2の構成を配置した場合には、ロボットとは切り離された溶接電源WP単体で判定処理が実行されるようにしても良い。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
41 表示部、42 入力部、43 データベース、44 通信インターフェース部、51 アーク溶接ロボット装置、52 コンジットケーブル、53 上アーム、54 下アーム、55 手首部、56 ワイヤリール、57 溶接ワイヤ、58 ガスボンベ、M マニピュレータ、RC ロボット制御装置、T 溶接トーチ、TP ティーチペンダント、WP 溶接電源。
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーク溶接を行なう溶接装置に関し、特に異種金属の溶接に使用することができる溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接欠陥の一つに溶接割れがある。従来、溶接割れの予防には、母材成分や溶接ワイヤ成分、継手形状、溶接条件のいずれかが変わるたびに試験溶接を行なって溶接割れが発生しないことを確認してから溶接作業が行なわれていた。
【0003】
しかし、試験溶接をする方法では、溶接割れが発生していないことを確認する作業が溶接作業の前に行なわれるので、作業能率が悪化するという問題があった。また、試験溶接のために材料を無駄にしてしまうという問題もあった。
【0004】
このような問題に対して、特開平11−314155号公報(特許文献1)は、溶接割れの発生を事前に予測して、溶接割れを生じさせないで溶接作業を能率的に行なえるようにした予測診断方法を開示している。
【0005】
他にも、溶接条件等から溶接金属の材質予測を行なうことが検討されている。溶接条件等から溶接金属の材質予測する目的は、溶接割れ発生の予測や診断をするため、または溶接金属の強度や靱性の機械的特性を予測して所望の目標値となっているかを判定するためである。
【0006】
いずれの場合も、実験結果やこれまでの経験の蓄積から、割れが発生する/しない、機械的特性がどのようになるというデータベースを作成したり、予測式を立てたりして、新たに設定した溶接条件での溶接金属の割れの発生の可能性や機械的特性の予測や診断を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−314155号公報
【特許文献2】特開平8−136530号公報
【特許文献3】特開2004−4034号公報
【特許文献4】特開2007−181876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法では、溶接の都度、実験結果や経験から溶接割れの発生の有無を決定している。そのため、データベースに情報がない条件や、または予測式が導けていない条件に関しては精度良く割れ等の予測または診断を行なうことができない。また、割れ等が発生することに対する予測または診断を行なうために溶接装置とは別に特別な演算装置が必要になる場合もある。
【0009】
ところで、ステンレス鋼は、耐食性、耐熱性等の優れた性質により、幅広く使用されている。しかし、炭素鋼が同時に使用され、ステンレス鋼と炭素鋼など異種金属の溶接が必要となる場合がある。
【0010】
ステンレス鋼と炭素鋼の溶接や成分の異なるステンレス鋼同士の溶接などの異種金属の溶接では、溶接材料の選定を誤ると、溶接によりステンレス鋼が炭素鋼等の希釈を受けるので、溶接金属中のNi、Cr含有量が減少し、脆く割れやすい組織になる。
【0011】
すなわち、異種金属の溶接は溶接金属部分の組成が母材と変化する。母材と組成が異なるために、溶接金属部分の組成が適切でなければ、割れや、靱性の低下による強度の低下等の溶接欠陥(以下、溶接欠陥という。)が発生してしまう。したがって、溶接金属部分の組成を改善するための異材溶接用の溶接ワイヤがいろいろ存在する。
【0012】
溶接割れを予防するには、溶接速度や溶接電流などの溶接条件を適切に設定するとともに、適切な溶接ワイヤを選択する必要がある。
【0013】
しかしながら、溶接装置のユーザにとって、異種金属を溶接するためにどのような溶接ワイヤを選択すればよいかは難しい問題であり、また溶接条件をどのように設定すればよいかも難しい問題である。
【0014】
この発明の目的は、溶接欠陥を予防するための条件設定を簡単に行なえる溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、要約すると、溶接装置であって、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部と、各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベースと、ユーザに情報を提示する表示部と、入力部、データベース、および表示部と通信し、使用母材と使用溶接ワイヤと溶接条件との適否を判定する制御装置とを含む。制御装置は、入力部から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベースを参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出し、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し、判定結果が安全領域に属しない場合に使用溶接ワイヤまたは溶接条件の変更候補を表示部に表示させる。
【0016】
好ましくは、制御装置は、判定結果が安全領域に属しない場合には、判定結果を作業者に報知するとともに、溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域に属することとなる安全溶接条件を探索し、安全溶接条件を表示部に表示させる。
【0017】
好ましくは、制御装置は、判定結果が安全領域に属しない場合には、判定結果を作業者に報知するとともに、データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域に属することとなるか否かを判定し、判定結果が安全領域に属することとなる溶接ワイヤの情報を表示部に表示させる。
【0018】
好ましくは、溶接装置は、溶接トーチと、溶接トーチに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源と、溶接トーチが取り付けられたマニピュレータと、マニピュレータを制御するロボット制御装置とをさらに含む。入力部および表示部は、ロボット制御装置にデータを入力するためのティーチペンダントに設けられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特別な追加装置を必要とせず、現状の溶接装置の構成を大きく変えなくても、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成する条件をユーザが簡単に溶接装置に設定できる。また、溶接条件設定時に警告が出力されるため、効率的に溶接作業が行なえ、試験溶接などで母材や溶接ワイヤを無駄に消費せずにすむ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の溶接装置が組み込まれたアーク溶接ロボット装置51の構成図である。
【図2】図1のティーチペンダントTPの一般的な構成を示したブロック図である。
【図3】実施の形態1でティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3のステップS11の処理を詳細に示したフローチャートである。
【図5】母材成分が登録されているデータベースの例である。
【図6】溶接ワイヤの成分が登録されているデータベースの例である。
【図7】図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種およびワイヤ種類に対応するデータの第1例を示す図である。
【図8】継手形状の一例を示した図である。
【図9】溶接電流Iと希釈率Rの関係の例を示した図である。
【図10】溶接速度Vと希釈率Rとの関係を示した図である。
【図11】図7に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。
【図12】溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。
【図13】図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種、ワイヤ種類に対応するデータの第2例を示す図である。
【図14】図13に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。
【図15】溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。
【図16】分かりやすくするために図15のシェフラー状態図から安全領域とプロット点のみを示した図である。
【図17】実施の形態2においてティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図18】図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309に交換した第1交換例を示す図である。
【図19】第1交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。
【図20】第1交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。
【図21】図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309Lに交換した第2交換例を示す図である。
【図22】第2交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。
【図23】第2交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付して、その説明は繰返さない。
【0022】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態の溶接装置が組み込まれたアーク溶接ロボット装置51の構成図である。
【0023】
図1を参照して、アーク溶接ロボット装置51は、ティーチペンダントTPと、ロボット制御装置RCと、溶接電源WPと、マニピュレータMと、溶接トーチTとを含む。
【0024】
マニピュレータMは、ワークWに対してアーク溶接を自動で行なうものであり、上アーム53、下アーム54及び手首部55と、これらを回転駆動するための複数のサーボモータ(図示せず)とによって構成されている。
【0025】
溶接トーチTは、マニピュレータMの手首部55の先端部分に取り付けられており、ワイヤリール56に巻回された溶接ワイヤ57をワークWの教示された溶接線に導くためのものである。溶接電源WPは、溶接トーチTとワークWとの間に溶接電圧を供給する。
【0026】
コンジットケーブル52は、内部に溶接ワイヤ57を案内するためのコイルライナ(図示せず)を備えており、溶接トーチTに接続されている。またコンジットケーブル52は、溶接電源WPからの電力およびガスボンベ58からのシールドガスを溶接トーチTに供給する。
【0027】
ティーチペンダントTPは、マニピュレータMの動作、アーク溶接を行なわせるために必要な溶接条件(溶接電流値、溶接電圧値、溶接速度)等を教示データとして設定するためのものである。ティーチペンダントTPは、教示データ等が表示される表示部41と、教示データを入力するための入力部42であるキーボードとを含む。作業者は、このティーチペンダントTPを用いて、マニピュレータMの動作とともに上記溶接条件を設定した作業プログラムを作成する。
【0028】
ロボット制御装置RCは、マニピュレータMに溶接動作の制御を実行させるためのものである。ロボット制御装置RCは、内部に主制御部、動作制御部およびサーボドライバ(いずれも図示せず)等を備えている。そして、ロボット制御装置RCは、作業者がティーチペンダントTPによって教示した作業プログラムに基づき、サーボドライバからマニピュレータMの各サーボモータに動作制御信号を出力し、マニピュレータMの複数の軸をそれぞれ回転させる。ロボット制御装置RCは、マニピュレータMのサーボモータに備えられたエンコーダ(図示せず)からの出力によって現在位置を認識しているので溶接トーチTの先端位置を制御することができる。
【0029】
本実施の形態では、ティーチペンダントTPでは上記の教示データを設定するだけでなく、溶接条件が使用する母材や溶接ワイヤに対して適切なものであるか否かの判定を、溶接作業の開始前に行なって作業者にその判定結果を報知する。また好ましくは、判定結果が不適である場合には、適切な溶接条件や溶接ワイヤについての情報を作業者に提示する。
【0030】
図2は、図1のティーチペンダントTPの一般的な構成を示したブロック図である。
図2を参照して、ティーチペンダントTPは、CPU40と、入力部42と、表示部41と、データベース43と、通信インターフェース部44とを含む。
【0031】
CPU40はデータバスやアドレスバス等によって入力部42と、表示部41と、データベース43と、通信インターフェース部44とに接続され、各部とデータ授受を行なう。
【0032】
データベース43には、たとえばCPU40で実行されるプログラムや参照されるマップ等のデータが格納されている。通信インターフェース部44は、ロボット制御装置RCとの通信を行なう。なお、図示しないが、CPU40は、入出力ポートからデータ入力信号やデータ出力信号を授受する。
【0033】
ティーチペンダントTPは、このような構成に限られるものでなく、複数のCPUを含んで実現されるものであっても良い。また、データベース43は図1のロボット制御装置RCに配置しても良い。さらにティーチペンダントTPは表示部41と入力部42のみとし、他の部分を図1のロボット制御装置RCに配置しても良い。
【0034】
図3は、実施の形態1でティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。なお、この処理は、図1のロボット制御装置RCや溶接電源WPに組み込まれたコンピュータによって実行されても良い。
【0035】
図3を参照して、このフローチャートの処理が開始されると、ステップS11において、溶接パラメータの入力および溶接金属の組成演算処理が実行される。
【0036】
図4は、図3のステップS11の処理を詳細に示したフローチャートである。
図4を参照して、ステップS1において、母材材質が設定され、ステップS2において溶接ワイヤ種類が設定される。そしてステップS3において設定された母材および溶接ワイヤの種類に対応する母材成分および溶接ワイヤ成分がデータベースから取得される。
【0037】
図5は、母材成分が登録されているデータベースの例である。図5を参照して、母材の鋼種である鋼板SPCC、オーステナイト系ステンレス鋼SUS304、フェライト系ステンレス鋼SUS409、フェライト系ステンレス鋼SUS430の各々について、ニッケル、クロム、炭素、マンガン、シリコン、モリブデン、ニオブの成分(%)が登録されている。
【0038】
図6は、溶接ワイヤの成分が登録されているデータベースの例である。図6を参照して、溶接ワイヤの種類(JIS規格)であるYS308,YS308L,YS309,YS309L,YS310,YS430の各々について、ニッケル、クロム、炭素、マンガン、シリコン、モリブデン、ニオブの成分(%)が登録されている。
【0039】
図4のステップS3では、図5、図6で示したデータベースから対応する鋼種、ワイヤ種類の成分が読み出される。
【0040】
図7は、図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種およびワイヤ種類に対応するデータの第1例を示す図である。図7には、母材Aとして鋼種SUS409が設定され、母材Bとして鋼種SUS430が設定され、溶接ワイヤ種類としてYS309が設定された例が示される。なお、クロム当量、ニッケル当量が記載されているが、後に図11、図12を用いて説明する。
【0041】
続いて、ステップS4〜ステップS7において溶接条件が設定される。ステップS4では溶接電流が設定される。なお、溶接電流に代えてワイヤ送給速度を設定するようにしてもよい。次にステップS5において溶接電圧が設定され、ステップS6では溶接速度が設定される。さらにステップS7では溶接継手の形状が設定される。
【0042】
図8は、継手形状の一例を示した図である。図8では、突合せ継手の例が示されている。図8において母材の溶込部SA,SBと溶接ワイヤの余盛部SCとが混ざり合って溶接金属となる。
【0043】
続いて図4のステップS8においてワイヤ溶着量を計算する。ワイヤ溶着量は、図8の余盛部SCの量に相当する。ワイヤ溶着量は、ワイヤ送給速度およびワイヤ径(または溶接電流)と溶接速度とによって定まる値である。ワイヤ溶着量は、たとえば溶接電流と溶接速度とに対応して予め求められており、データベース中にマップとして保存されている。したがって、溶接電流と溶接速度とが得られれば、ワイヤ溶着量を求めることができる。
【0044】
続いて、ステップS9において溶込形状をデータベースから取得する。溶込形状には、たとえば、部分溶込、完全溶込などがある。データベースには、各種継手の溶込形状による母材の溶融量がデータとして登録されている。母材の溶融量は溶接速度および溶接電流に対応して登録されていても良い。
【0045】
そして、ステップS10において希釈率を計算する。希釈率をR、溶込部SA,SB、余盛部SCとすると、希釈率Rは次式(1)であらわされる。
R=(SA+SB)/(SA+SB+SC)×100 (%) ・・・(1)
なお、希釈率Rは、溶接電流Iや溶接速度Vの関数としても規定することができる。溶接電流や溶接速度が変化すると、余盛部SCの量が変化するので希釈率Rも変化する。
【0046】
図9は、溶接電流Iと希釈率Rの関係の例を示した図である。図9の例では、溶接速度V=20cm/minに固定されている。溶接電流Iが大きくなると対応する溶接ワイヤの送給量も多くなり余盛部SCは大きくなるが、溶込部SA,SBも大きくなるので、結果として希釈率Rも大きくなる傾向となる。溶接電流Iに対して希釈率Rを定義したマップとしてデータベース中に記録しておいても良いし、図9に示されるようにR=0.1125×I+11.785のようにデータから近似式を求めてこれによって希釈率Rを算出するようにしても良い。
【0047】
図10は、溶接速度Vと希釈率Rとの関係を示した図である。図10の例では、溶接電流I=203Aに固定されている。溶接速度Vが大きくなると、溶接ワイヤの送給量が同じである場合は、余盛部SCが小さくなるので、希釈率R(%)は大きくなる。溶接速度Vに対して希釈率Rを定義したマップとしてデータベース中に記録しておいても良いし、図10に示されるようにR=0.4747×V+22.394のようにデータから近似式を求めてこれによって希釈率Rを算出するようにしても良い。
【0048】
図9、図10に示すように、溶接金属の組成に問題があれば、溶接電流Iまたは溶接速度Vを変えることによって希釈率Rを変えて、組成の改善を図れる可能性があることがわかる。
【0049】
図11は、図7に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。図11に示した数値は、希釈率30%の場合を示し、各成分において、次式(2)に希釈率R=30(%)を代入して得られる。
溶接金属成分=(母材A成分×R/2+母材B成分×R/2+ワイヤ成分×(100−R))/100 ・・・(2)
そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。結局、母材がSUS409およびSUS430でワイヤ種類YS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は12.032%であり、クロム当量は21.605%であることが図11には示されている。
【0050】
このようにして得られたニッケル当量とクロム当量を溶接金属の割れ発生の有無の判断に用いる。図8に示すように、溶接ビードの断面は、余盛部SCと溶込部SA,SBから形成される。余盛部SC及び溶込部SA,SBは、溶接ワイヤの成分と母材A,Bの成分とが溶け合った金属組織となる。この金属組織が、完全オーステナイト組織になると高温割れが生じやすくなる。また、金属組織にマルテンサイトが析出すると硬化して低温割れが生じやすくなる。
【0051】
図12は、溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。なお、図12には、母材Aに相当する点P1、母材Bに相当する点P2、溶接ワイヤに相当する点P3および溶接金属に相当する点P4が記入されている。
【0052】
割れを防止するためには、シェフラーの状態図を用いて溶接部の金属組織を推定し、この金属組織が同図上に示す安全領域SRに入るように溶接材料等を設定することが大切である。図中(A)はオーステナイト組織となる領域を示し、(F)はフェライト組織となる領域を示し、(M)はマルテンサイト組織となる領域を示す。また(A+M)、(M+F),(A+M+F)は、各組織が混合した組織となる領域を示す。
【0053】
安全領域SRは、オーステナイト組織(A)に少量のフェライト組織(F)が混合した金属組織の領域である。割れを防止するための1つの目安として、溶接部の金属組織が安全領域SR内にあることが大切である。この安全領域SRの範囲は絶対的なものではなく、書籍、溶接材料用資料等によってズレがある。同図において、横軸は金属組織のクロム当量を示し、縦軸は金属組織のニッケル当量を示す。クロム当量およびニッケル当量はそれぞれ次式(3)、(4)で定義される。
クロム当量=%Cr+%Mo+1.5×%Si+0.5×%Nb ・・・(3)
ニッケル当量=%Ni+30×%C+0.5×%Mn ・・・(4)
ここで、%は質量%を示す。溶接部のクロム当量及びニッケル当量をプロットした点が金属組織の状態を示し、この点が安全領域SR内にあるときには割れが発生する可能性は低い。
【0054】
図12に記入されているように、母材A(SUS409)のプロット位置は、クロム当量及びニッケル当量からP1点となる。同様に、母材B(SUS430)のプロット位置は、クロム当量及びニッケル当量からP2点となる。さらに溶接ワイヤ(YS309)のプロット位置は、P3点になる。母材A,Bが均等に溶融すると仮定すると、仮想の母材成分はP1,P2の中点P12であるので、溶接部の金属組織の状態は、線分P12−P3上に位置する。溶接部の金属組織は、母材成分と溶接ワイヤ成分とが溶け合ったものであり、図8で上述した溶込部SA,SBと余盛部SCとの体積比によって線分P12−P3上を移動する。図12においては、溶接金属の成分は図11に相当する点P4であり、安全領域SRに入っているので割れが発生する可能性は低い。
【0055】
したがって、溶接開始前に割れが発生する可能性は低いことがわかっているので安心して作業を進めることができる。
【0056】
以上の処理が、図3のステップS12およびステップS13で行なわれる。図12に示した例では溶接金属のニッケル当量とクロム当量から決まる点P4が安全領域SRに入っているので、ステップS13からステップS19に処理が進み、溶接条件の設定は終了する。
【0057】
次に、溶接金属のニッケル当量とクロム当量から決まる点が安全領域SRに入らなかった例について説明する。
【0058】
図13は、図4のステップS3でデータベースから読み出された設定された鋼種、ワイヤ種類に対応するデータの第2例を示す図である。図13には、母材AおよびBとして鋼種SUS409が設定され、溶接ワイヤ種類としてYS308が設定された例が示される。
【0059】
図14は、図13に示した母材および溶接ワイヤによって形成される溶接金属の成分を示した図である。図14に示した数値は、希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。結局、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS308を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%であり、クロム当量は18.362%であることが図14には示されている。
【0060】
図15は、溶接金属の割れ発生の判断に用いるシェフラー状態図である。なお、図15には、母材Aに相当する点Q1、母材Bに相当する点Q2、溶接ワイヤに相当する点Q3および溶接金属に相当する点Q4が記入されている。
【0061】
母材Bは、この例では母材Aと同じであるので、仮想の母材成分はQ1(=Q2)であるので、溶接部の金属組織の状態は、線分Q1−Q3上に位置する。溶接部の金属組織は、母材成分と溶接ワイヤ成分とが溶け合ったものであり、図8で上述した溶込部SA,SBと余盛部SCとの体積比によって線分Q1−Q3上を移動する。図15においては、溶接金属の成分は図14に相当する点Q4であり、安全領域SRに入っていないので割れが発生するおそれがある。そこで、図3のフローチャートにおいては、ステップS13からステップS14に処理が進んで、ティーチペンダントTPにアラーム表示がされる。例えば、「低温割れが発生する可能性があります。」というような警告表示が表示部41に表示される。
【0062】
ここで、溶接部の割れを防止するためには、溶接部の金属組織の状態位置を、図15に示す安全領域SR内に入れなければならない。そこで、ステップS15において、安全領域SRに入る希釈率から電流または速度を逆算する。
【0063】
図16は、分かりやすくするために図15のシェフラー状態図から安全領域とプロット点のみを示した図である。図16において、母材AおよびBに相当する点Q1、溶接ワイヤに相当する点Q3および溶接金属に相当する点Q4が記入されている。希釈率100%の点は点Q1である。希釈率0%の点は点Q3である。点Q4の希釈率Rは、(線分Q3−Q4の長さ)/(線分Q3−Q1の長さ)×100 (%)となる。
【0064】
ところで、溶接速度や溶接電流を変更すると希釈率が変化し、溶接金属の組成は線分Q1−Q3上を変化する。変化後の点が安全領域SRに入れば溶接割れは生じなくなる。安全領域SRの境界と線分Q1−Q3との交点である点Q5の希釈率Rは、(線分Q3−Q5の長さ)/(線分Q3−Q1の長さ)×100 (%)となる。
【0065】
このようにして安全領域SRに入るための希釈率の限界値が求まる。この値に対応する溶接電流や溶接速度は図9、図10のマップから求めることができる。
【0066】
図3のステップS16において、ティーチペンダントTPに溶接条件の変更候補となる溶接電流や溶接速度が表示される。たとえば、「溶接電流を120アンペア以下に下げて、希釈率(溶込み)を小さくすることをお勧めします。」または「溶接電流の推奨範囲は120アンペア以下です。」などのように表示すると良い。そしてステップS17において、ティーチペンダントTPの表示部41を用いて溶接条件の変更を行なうか否かの問い合わせが行なわれる。表示部41に、たとえば「溶接条件を変更しますか?」というように表示させ、変更の有無についてユーザからの入力を待つ。
【0067】
ステップS18において、ユーザが変更を選択する場合には、ステップS18からステップS11に処理が戻り、溶接パラメータの再入力が行なわれる。この時には、ステップS16においてユーザに提示された変更候補が参考にされる。変更候補の数値をボタンで簡単に選択することができるようにしてもよい。一方、必ずしも良い条件があるとは限らないので、ユーザが変更しないことを選択する可能性もある。その場合にはステップS18からステップS19に処理が進み、溶接条件の設定は終了する。
【0068】
以上説明したように、実施の形態1に示した溶接装置は、特別な追加装置(ハードウエア)を必要とせず、現状のロボット溶接システムにソフトウエアとデータを追加するのみで、欠陥の発生しにくい溶接継手を作成することができる。また、溶接条件設定時に警告が出力されるため、効率的に溶接作業が行なえ、母材や溶接ワイヤを無駄に消費せずにすむ。
【0069】
[実施の形態2]
実施の形態1では溶接割れの可能性がある場合には、溶接条件を変更する候補を示した。その代わりに、溶接ワイヤを変更することも考えられる。
【0070】
図17は、実施の形態2においてティーチペンダントTPが実行する溶接条件設定処理を説明するためのフローチャートである。なお、図17のフローチャートの処理は、図3のフローチャートの処理に代えて実行されるものである。図17のフローチャートは、図3のフローチャートのステップS15,S16の処理に代えてステップS15A,S16Aの処理を実行している。他の処理については、図3で説明しているので、ここでは説明は繰返さない。
【0071】
ステップS15Aでは、シェフラー状態図の安全領域SRに入る溶接ワイヤをデータベースに登録されている溶接ワイヤの中から抽出する。これは、図15のように溶接金属の組成を示す点Q4が安全領域SRの外になってしまった場合に、図6に示した溶接ワイヤ中から他の溶接ワイヤのデータを用いて点Q3の代わりの新たな点を設定する。さらに、設定されている溶接条件から定まる希釈率を適用して点Q4の代わりの新たな点を設定し、この点が安全領域SRに入るか否かを判定する。データベースに登録されている溶接ワイヤについてこの判定を行ない、溶接金属に対応する新たな点Q4が安全領域SRに入った溶接ワイヤの種類を抽出および記憶する。図13〜図15に示す例では、溶接ワイヤYS308を図6の溶接ワイヤの中から選択した適切な溶接ワイヤと交換することにより、Q4点が安全領域SRに属するように移動する。たとえば、溶接ワイヤYS309およびYS309Lが適切な溶接ワイヤである。
【0072】
図18は、図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309に交換した第1交換例を示す図である。
【0073】
図19は、第1交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。図19に示した数値は、図14と同様に希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。図14と図19を比較すると、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%から11.942%に変化し、クロム当量は18.362%から20.780%に変化することが判明する。
【0074】
図20は、第1交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。図20では、更新した点は溶接ワイヤYS309を示す点Q3Aと、溶接金属を示す点Q4Aである。溶接金属を示す点Q4Aは、安全領域SRの内部に移動したことがわかる。
【0075】
図21は、図13の溶接ワイヤYS308を溶接ワイヤYS309Lに交換した第2交換例を示す図である。
【0076】
図22は、第2交換例の溶接金属の成分がどのように変化したかを示す図である。図22に示した数値は、図14と同様に希釈率30%の場合を示し、各成分において、前述の式(2)に希釈率R=30%を代入して得られる。そして計算された各成分に基づいて溶接金属のニッケル当量とクロム当量とが計算される。図14と図22を比較すると、母材がSUS409で溶接ワイヤ種類としてYS309を使用した場合にできる溶接金属のニッケル当量は9.170%から11.172%に変化し、クロム当量は18.362%から21.186%に変化することが判明する。
【0077】
図23は、第2交換例の図15のシェフラー状態図における点の位置を更新した図である。図23では、更新した点は溶接ワイヤYS309Lを示す点Q3Bと、溶接金属を示す点Q4Bである。溶接金属を示す点Q4Bは、安全領域SRの内部に移動したことがわかる。
【0078】
再び図17を参照して、ステップS15Aにおいて溶接ワイヤの抽出が完了すると、ステップS16Aにおいて、抽出された溶接割れが発生する可能性の低い溶接ワイヤの種類をティーチペンダントTPに表示させる。この溶接ワイヤの判定作業は、すべての登録されている溶接ワイヤに順次行ない、結果を一括して表示させ、ユーザに使用する溶接ワイヤを選択してもらうようにしても良い。図15の場合、YS309およびYS309Lが表示される。たとえば、「溶接ワイヤをYS308からYS309またはYS309Lに交換することをお勧めします。」などのように表示すると良い。
【0079】
以降のステップS17〜S19については、図3と同様であるので、説明は繰返さない。
【0080】
実施の形態1では、溶接ワイヤを変えない前提で溶接条件を変更することにより溶接割れを未然に防ぐことができる例を示した。実施の形態2では溶接条件を変えないで溶接ワイヤの種類を変更することによって溶接割れの発生を未然に防ぐことができる。
【0081】
なお、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせても良い。たとえば、実施の形態1のように溶接条件の変更が可能かを判定して、もし溶接条件を変えて希釈率を変更してもシェフラー状態図の安全領域SRに溶接金属の組成を示す点が入らない場合には、使用可能な溶接ワイヤが無いか実施の形態2で説明した処理を行なうようにしても良い。実施の形態1,2の処理を同時に行なって、ティーチペンダントTPの表示部41に溶接条件変更の場合と溶接ワイヤ変更の場合の両方を示し、ユーザにどれかを選択させるようにしても良い。
【0082】
再び図を参照して本実施の形態について総括する。実施の形態1,2の溶接装置は、図2に示すように、使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部42と、各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベース43と、ユーザに情報を提示する表示部41と、入力部42、データベース43、および表示部41と通信し、使用母材と使用溶接ワイヤと溶接条件との適否を判定する制御装置(CPU40)とを含む。図4に示すように、制御装置は、入力部42から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と溶接条件とに基づいてデータベース43を参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出する。そして、図3および図17に示すように、溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域SRに属するか否かを判定し、判定結果が安全領域SRに属しない場合に使用溶接ワイヤまたは溶接条件の変更候補を表示部41に表示させる。
【0083】
好ましくは、図3に示すように、制御装置は、判定結果が安全領域SRに属しない場合には(ステップS13でNO)、判定結果を作業者に報知する(ステップS14)とともに、溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域SRに属することとなる安全溶接条件を探索し(ステップS15)、安全溶接条件を表示部41に表示させる(ステップS16)。
【0084】
好ましくは、図17に示すように、制御装置は、判定結果が安全領域SRに属しない場合には(ステップS13でNO)、判定結果を作業者に報知する(ステップS14)とともに、データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が安全領域SRに属することとなるか否かを判定し(ステップS15A)、判定結果が安全領域SRに属することとなる溶接ワイヤの情報を表示部41に表示させる(ステップS16A)。
【0085】
好ましくは、図1に示すように、溶接装置は、溶接トーチTと、溶接トーチTに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源WPと、溶接トーチTが取り付けられたマニピュレータMと、マニピュレータMを制御するロボット制御装置RCとをさらに含む。入力部42および表示部41は、ロボット制御装置RCにデータを入力するためのティーチペンダントTPに設けられる。
【0086】
なお、データベースは、ティーチペンダントTPの内部の不揮発性メモリに記憶しておいてもよいが、ロボット制御装置RCに内蔵されるハードディスクドライブに記憶しておいてもよい。また、判定処理を実行するCPU他の図2に示した構成は、ロボット制御装置RCや溶接電源WPに配置されても良い。また、溶接電源WPに図2の構成を配置した場合には、ロボットとは切り離された溶接電源WP単体で判定処理が実行されるようにしても良い。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
41 表示部、42 入力部、43 データベース、44 通信インターフェース部、51 アーク溶接ロボット装置、52 コンジットケーブル、53 上アーム、54 下アーム、55 手首部、56 ワイヤリール、57 溶接ワイヤ、58 ガスボンベ、M マニピュレータ、RC ロボット制御装置、T 溶接トーチ、TP ティーチペンダント、WP 溶接電源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部と、
各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベースと、
ユーザに情報を提示する表示部と、
前記入力部、前記データベース、および前記表示部と通信し、前記使用母材と前記使用溶接ワイヤと前記溶接条件との適否を判定する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記入力部から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と前記溶接条件とに基づいて前記データベースを参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出し、前記溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し、判定結果が前記安全領域に属しない場合に前記使用溶接ワイヤまたは前記溶接条件の変更候補を前記表示部に表示させる、溶接装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記判定結果が前記安全領域に属しない場合には、前記判定結果を作業者に報知するとともに、前記溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が前記安全領域に属することとなる安全溶接条件を探索し、前記安全溶接条件を前記表示部に表示させる、請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記判定結果が前記安全領域に属しない場合には、前記判定結果を作業者に報知するとともに、前記データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が前記安全領域に属することとなるか否かを判定し、判定結果が前記安全領域に属することとなる溶接ワイヤの情報を前記表示部に表示させる、請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
溶接トーチと、
前記溶接トーチに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源と、
前記溶接トーチが取り付けられたマニピュレータと、
前記マニピュレータを制御するロボット制御装置とをさらに備え、
前記入力部および前記表示部は、前記ロボット制御装置にデータを入力するためのティーチペンダントに設けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項1】
使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類とを含む材料条件と溶接電流を含む溶接条件とを設定するための入力部と、
各種母材の組成と、各種溶接ワイヤの組成とを記憶するデータベースと、
ユーザに情報を提示する表示部と、
前記入力部、前記データベース、および前記表示部と通信し、前記使用母材と前記使用溶接ワイヤと前記溶接条件との適否を判定する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記入力部から入力された使用母材の種類と使用溶接ワイヤの種類と前記溶接条件とに基づいて前記データベースを参照して溶接金属のニッケル当量およびクロム当量を算出し、前記溶接金属のクロム当量およびニッケル当量に基づいて定まる点がシェフラーの状態図に基づいて定められた安全領域に属するか否かを判定し、判定結果が前記安全領域に属しない場合に前記使用溶接ワイヤまたは前記溶接条件の変更候補を前記表示部に表示させる、溶接装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記判定結果が前記安全領域に属しない場合には、前記判定結果を作業者に報知するとともに、前記溶接電流または溶接速度の少なくとも一方を変更して溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が前記安全領域に属することとなる安全溶接条件を探索し、前記安全溶接条件を前記表示部に表示させる、請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記判定結果が前記安全領域に属しない場合には、前記判定結果を作業者に報知するとともに、前記データベースに登録されている各種溶接ワイヤについて溶接金属のクロム当量およびニッケル当量が前記安全領域に属することとなるか否かを判定し、判定結果が前記安全領域に属することとなる溶接ワイヤの情報を前記表示部に表示させる、請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
溶接トーチと、
前記溶接トーチに溶接電圧および溶接電流を供給する溶接電源と、
前記溶接トーチが取り付けられたマニピュレータと、
前記マニピュレータを制御するロボット制御装置とをさらに備え、
前記入力部および前記表示部は、前記ロボット制御装置にデータを入力するためのティーチペンダントに設けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−192431(P2012−192431A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57548(P2011−57548)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
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