説明

溶接部の補修方法

【課題】補修作業に伴う入熱量を小さく抑えることによって、溶接部の強度低下や、溶接部周辺の変形量増加を伴わないで、溶融溶接されたアルミ合金の溶接部に生じた補修方法を提供すること。
【解決手段】溶融溶接によって生じたピット(欠陥)31を覆う態様で肉盛ビード32を形成する。準備した端面が平滑の円柱状の鋼製丸棒工具50を任意の回転数で回転させながら、肉盛ビード32の上方から鋼製丸棒工具50の端面がアルミ合金部材10、20の表面高さに揃う程度まで、肉盛ビード32を押しつぶすように降下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材の溶接部、特に、アルミ合金の溶接部の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミ合金同士を溶融溶接した場合、その溶接部の内部にブローホールと称される気孔や、その溶接部の表面に開口したピットと称される小さな窪みが生じる場合がある。
【0003】
ブローホールは、窒素、一酸化炭素、水素等のガス成分や亜鉛など金属蒸気等が溶接部の内部に取り込まれることによって発生するものであり、ピットはそれが溶接部表面において観察されたものである。これらの欠陥は、溶接時のシールド不良、脱酸剤の不足、母材開先面の油分、プライマー等の表面付着剤、溶接材料中の水分等が原因とされている。溶接条件や溶接作業環境を整え、これら欠陥の出現を抑制する試行がなされているものの、完全になくすことは困難であると考えられている。
【0004】
これらの欠陥は、アルミ合金製押出形材から組み立てられる鉄道車両構体であって、特に、車外側の面(外表面)を塗装しないでヘアライン加工される構体において、外観を損ねる要因となるため補修対象とされている。通常、溶融溶接されて組み立てられた鉄道車両構体の溶融溶接部表面に出現した直径1mm前後のピットは、ピットを含む範囲を新たに穴埋め(ピット埋め)溶接して溶接ビードを盛り付けた後、その内部のブローホールをなくすために、溶接部表面をハンマー等で叩くことによって補修されていた。
【0005】
しかしながら、溶融溶接による穴埋め溶接の過程において、新たなブローホールやピットが生じてしまう場合もあり、再度の補修作業が必要となる場合もあった。これら補修作業の繰り返しは、溶接部を含めその周辺部のアルミ部材そのものへの熱影響の蓄積を促進するとともに、溶接部の強度低下、溶接変形量の増大、アルミ母材の割れなどの新たな不具合を発生させる要因となりうる懸念があった。
【0006】
特許文献1に、摩擦撹拌接合によって接合されたアルミ合金材の接合部に生じた欠陥を溶融溶接によって補修する技術が開示されている。この補修方法は、まず、接合ビードに含まれる欠陥を研削加工により除去する工程と、除去された領域に部材の母材と同材料の溶接棒を用いてTIG溶接によって補修ビードを形成する工程とをとを備えている。そして、補修ビードと接合ビードを含む接合部にヘアライン加工を施す工程を備えても良いとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−334583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルミ合金の溶接部を溶融溶接によって補修する場合、その補修工程において新たなブローホールやピットが生じる可能性があるだけでなく、入熱量の増加に伴う溶接部の強度が低下したり、溶接部周辺の変形量が増大したりする等の課題がある。
本発明の目的は、溶接部の強度低下や、溶接部周辺の変形量増加を伴わないで、溶融溶接されたアルミ合金の溶接部の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、前記溶接部の表面に生じた欠陥を覆う肉盛ビードあるいは肉盛部を形成し、前記肉盛ビードあるいは肉盛部に対して、前記肉盛ビードあるいは肉盛部の上方から回転工具をを押し当てることにより、上記の肉盛ビードあるいは肉盛部を前記回転工具で押し潰す補修処理を採用することにより上記課題を解決する。
【0010】
上記回転工具としては、補修対象の材料よりも硬い(硬度の大きい)材質で構成された工具を用いる。肉盛ビードあるいは肉盛部の形成手法は種々の方法が採用できるが、詳細については実施例で説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアルミ合金の溶接部を、溶接部の強度低下や、溶接部周辺の変形量増加を伴わないで補修できる補修方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、アルミ合金材の突き合わせ溶接における溶接後の外観と、溶接ビードを平滑に仕上げ後に溶接部表面に生じたピットの状態図である。
【図2】図2は、溶融溶接による補修と鋼製丸棒工具による補修とからなる補修工程を示す工程図である。
【図3】図3は、アルミ合金製丸棒工具による補修と鋼製丸棒工具による補修とからなる補修工程を示す工程図である。
【図4】図4は、従来の溶融溶接による補修作業の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明による溶接部の補修方法(補修工程)を説明する。なお、本実施例では、補修対象となる溶接部が形成された部材の材料としては、アルミ合金を使用した。
図1は、アルミ合金材の突き合わせ溶接における溶接後の外観と、溶接ビードを平滑に仕上げ後に溶接部表面に生じたピットの状態図である。2つのアルミ合金製部材10、20を突き合わせた状態で、図2に示すような、溶接トーチ40を用いて、溶融溶接(例えばMIG溶接)にて溶接すると、突き合わせ部に形成される溶接部に溶接トーチ40から放出される溶接アーク41と溶接棒(図示なし)によって溶接ビード30が形成される。
【0014】
この溶接ビード30は、その後、部材10,20と同じ表面高さまで平滑仕上げされる。平滑仕上げした際の表面に、溶融溶接時に溶接部内部に生じたブローホールがピット31となって溶接部(溶接ビード)表面に生じる場合がある。この場合は、再度の補修作業が必要となる。
【0015】
図2は、溶融溶接による補修と鋼製の回転工具による補修とからなる補修工程を示す工程図である。図示しないが、回転工具は、長手方向の一方の端部に補修機械に把持される把持部を備え、他方の端部に接合部材(溶接部を含む)に当接される当接部とを含んで構成されている。図2は、アルミ合金製部材10、20を溶融溶接にて溶接した溶接ビード30を平滑仕上げした後に、その溶接部(溶接ビード)表面に出現したピット31を補修する場合を示している。
【0016】
この場合、まず、溶融溶接(例えばMIG溶接)にてピット31を覆う態様で肉盛ビード32を形成する。新たに形成された肉盛ビード32の内部に、ブローホール33が含まれる場合があるため、端面が平滑な当接部を備えた円柱状の鋼製丸棒工具50を任意の回転数で回転させながら、肉盛ビード32の上方から鋼製丸棒工具50の端面がアルミ合金部材10、20の表面高さに揃う程度まで、肉盛ビード32を押し潰すように押し下げて補修ビード34を形成する。
【0017】
ここで、回転工具(鋼製丸棒工具50)の当接部の端面を補修対象部材の表面まで押し下げることによって、肉盛ビード32を押し潰すので、肉盛ビード32内部に在って、後工程の表面(平滑)仕上げの際に表面に出現してピット31に成りうる可能性のあるブローホール33を消滅することができる。このため、補修ビード(元肉盛ビード32)をグラインダー等で平滑(表面)仕上げすれば、その仕上げ面にピット31のない溶接部表面を得ることができる。
この時、肉盛ビード32の幅(長さ)より大きな外径を有する鋼製丸棒工具50を準備すれば、鋼製丸棒工具50を上下方向に移動するのみで水平面内の移動を必要とすることなく、少ない工数で補修を完了することができる。
【0018】
この方法によるアルミ合金の溶接部の補修方法によれば、溶融溶接による補修作業回数が1回のみであるため、補修作業に伴う入熱量を小さく抑えることができる。したがって、溶接部の強度低下や、溶接部周辺の変形量増加を伴わずに、溶融溶接されたアルミ合金の溶接部を補修することができる。
【実施例2】
【0019】
本実施例では欠陥を覆う肉盛部の形成方法の変形例について説明する。
図3は、第1の回転工具(アルミ合金製丸棒工具)による補修と第2の回転工具(鋼製丸棒工具)による補修とからなる補修工程を示す工程図である。ここで、第2の回転工具は実施例1で使用した回転工具と同じものを使用した。図3は、アルミ合金製部材10、20を溶融溶接にて溶接した溶接ビード30を平滑仕上げした後に、その溶接部(溶接ビード)表面に出現したピット31を補修する場合を示している。
【0020】
まず、平滑の端面を有するアルミ合金製の丸棒を準備する。このアルミ合金製丸棒工具60の材質は、溶接ビード30またはアルミ合金部材10,20と同じ材質であることが望ましい。次に、アルミ合金部材10、20の溶接部に形成された溶接ビード30の表面に生じたピット31の上方にアルミ合金製丸棒工具60を位置決めし、所定の回転数で回転させたアルミ合金製丸棒工具60をその端面がアルミ合金部材10,20の表面より低くならない高さ(アルミ合金部材10、20と同程度の高さ)まで、ピット31を押し潰す態様で押し下げる。
【0021】
ピット31の表面に押圧されたアルミ合金製丸棒工具60の端面の部材が、アルミ合金10、20の溶接部の表面のピット31を埋めるとともに溶接部表面に移動してアルミ肉盛部61を形成する。
【0022】
次に、端面が平滑の円柱状の鋼製丸棒工具50を準備し、この鋼製丸棒工具50を、任意の回転数で回転させながら、アルミ肉盛部61の上方から鋼製丸棒工具50の端面がアルミ合金部材10、20の表面高さに揃う程度まで、アルミ肉盛部61を押しつぶす態様で押し下ろす。この工程によって、アルミ肉盛61をより強固に溶接部表面に固定することができる。その後、鋼製丸棒工具60によって押し潰され延伸されたアルミ肉盛部61の余分な部分を、アルミ合金部材10、20の表面高さと同じ高さになるまで、グラインダー等で平滑仕上げすれば、ピット31のない溶接部表面を得ることができる。
【0023】
この時、アルミ肉盛部61の幅(長さ)より大きな外径を有す鋼製丸棒工具50およびアルミ合金製丸棒工具60を準備すれば、鋼製丸棒工具50およびアルミ合金製丸棒工具60を上下方向に移動するのみで、水平面内の移動を必要としないため、少ない工数で補修を完了することができる。
【0024】
この方法によるアルミ合金の溶接部の補修方法によれば、追加される溶融溶接(補修溶接)を省略することができるため、補修作業に伴う入熱量を最小限に抑えることができる。このため、溶接部の強度低下や、溶接部周辺の変形量の増加を伴わないで、溶融溶接されたアルミ合金の溶接部を補修することができる。
【0025】
本発明による補修作業との比較のために従来の補修作業の工程を説明する。図4は、従来の溶融溶接による補修作業の工程図である。アルミ合金製部材10、20の溶接部の表面に生じたピット31を溶接トーチ40による溶融溶接にて補修溶接した肉盛ビードの内部にはブローホール33が新たに発生する場合がある。この場合、肉盛ビード31を部材10,20の表面高さまで平滑に仕上げた時に、新たに生じたブローホール33は新たなピット33として溶接部表面に出現する。そして、新たに出現したピット33をなくすために、追加の補修溶接が必要となる。
【0026】
この場合、同様の手順(工程)によって、補修溶接を行うものの、追加の補修溶接に起因する入熱によって、アルミ合金部材10,20の溶接部およびその周辺部の強度が低下したり、入熱による膨張と除熱による収縮ため大きな変形が生じる場合がる。これら強度低下や変形量の増大は、鉄道車両構体の外観(見栄え)の劣化を誘発するだけでなく、場合によってはアルミ合金部材10、20の補修溶接部近傍の割れ等の新たな不具合の発生要因となる場合があるため、従来の補修溶接作業は、非常に高度な熟練された技能が要求される。
【0027】
これに対して、実施例1および実施例2で記した溶接部の補修方法によれば、高度な技能が要求されないだけでなく、補修溶接に伴う溶接部への入熱量を抑制することができるため、強度低下や変形量の増大を小さくできるので、品質の高い鉄道車両構体を提供できる。
【0028】
なお、本発明は鉄道車両構体を例に挙げて説明したが、鉄道車両構体への適用に限定されず、特にアルミ合金の溶融溶接部に生じたブローホールおよびピットの補修に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0029】
10、20…アルミ合金部材 30…溶接ビード
31…ピット 32…肉盛ビード
33…ブローホール 34…補修ビード
40…溶接トーチ 41…溶接アーク
50…鋼製丸棒工具 60…アルミ合金製丸棒工具
61…アルミ肉盛部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の溶接部を補修する補修方法において、
前記溶接部の表面に生じた欠陥を覆う肉盛ビードを溶融溶接によって形成し、
前記肉盛ビードに対して、端面が平滑の回転工具を前記肉盛ビードの上方から、当該回転工具を所定の回転数で回転させながら前記肉盛ビードに押し当て、
前記肉盛ビードを前記回転工具で押し潰すことを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接部の補修方法において、
前記回転工具の外径が前記肉盛ビードの大きさより大きいことを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接部の補修方法において、
前記回転工具として、前記金属部材よりも硬度の高い材質で構成された回転工具を用いることを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接部の補修方法において、
前記回転工具として、鋼製の回転工具を用いることを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項5】
金属部材の溶接部を補修する補修方法において、
前記溶接部の表面に生じた欠陥に対して、回転部が前記金属部材と同じ材料で構成された第1の回転工具を回転させながら押し当てることにより、前記欠陥を覆う肉盛部を形成し、
前記肉盛部に対して、回転部が前記金属部材よりも硬い材料で構成された第2の回転工具を回転させながら押し当てることにより、前記肉盛部を前記第2の回転工具で押し潰すことを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の溶接部の補修方法において、
前記金属部材がアルミ合金であることを特徴とする溶接部の補修方法。
【請求項7】
アルミ合金の溶接部の補修方法において、
溶融溶接によって前記溶接部の表面に生じた欠陥を覆う肉盛ビードを形成するステップと、
前記肉盛ビードの上方に、端面が平滑の鋼製丸棒工具を位置決めするとともに、前記鋼製丸棒工具を所定の回転数で回転させて前記端面によって前記肉盛ビードを押し潰しながら、前記端面を前記アルミ合金の表面まで押し下げるステップと、
を有することを特徴とするアルミ合金の溶接部の補修方法。
【請求項8】
アルミ合金の溶接部の補修方法において、
溶融溶接によって前記溶接部の表面に生じた欠陥の上方に、端面が平滑のアルミ合金製丸棒工具を位置決めするとともに、前記アルミ合金製丸棒工具を所定の回転数で回転さながら前記端面を前記欠陥に押し付けて、前記端面の材料によって前記欠陥を埋めるとともに、前記端面の前記材料を前記溶接部の表面に移動させて肉盛部を形成するステップと、
前記肉盛部の上方に、端面が平滑の鋼製丸棒工具を位置決めするとともに、前記鋼製丸棒工具を所定の回転数で回転させて前記端面によって前記肉盛ビードを押し潰しながら、前記端面を前記アルミ合金の表面まで押し下げるステップと、
を有することを特徴とするアルミ合金の溶接部の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107129(P2013−107129A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256381(P2011−256381)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】