説明

溶液の製造および保存方法

【課題】殺菌のために一つの溶液を低いpHに維持し、注入前に組成物を加えることなくpHを上昇させるための簡易な方法を提供する。
【解決手段】 上記課題を解決するために、液体製品を調製する方法が記載され、この方法は、以下の工程:少なくとも所望の最終pHレベルと同程度のpHを有する製品を提供する工程;該製品のpHを該所望の最終レベルよりも下に低下させる工程;および該製品からの二酸化炭素の放出によって、該製品のpHを該所望の最終pHレベルに向かって一定の時間にわたって増加させる工程を包含する。好ましくは、この方法は、前記製品に二酸化炭素発生化合物を加える工程を包含する。1つの実施態様において、溶液を気体透過性容器に配置する工程および所望のpHが達成されるまで該容器から二酸化炭素を透過させる工程を包含する医療溶液を調製する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、溶液の製造、保存および生成方法に関する。具体的には、1つの実施態様において、本発明は、患者に投与される医療溶液の製造、保存および生成に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾患状態の処置において、さらには、哺乳動物の健康維持のために、医療溶液を投与することが知られている。これらの医療溶液は、経腸投与、非経口投与、あるいは腹膜経由投与のいずれかによって投与され得る。このような溶液の例は、医薬品および薬剤、栄養製剤および透析液を含む。特に、静脈内あるいは腹膜経由で投与される溶液に関して、溶液のpHは、特に重要な要素である。溶液のpHが生理学的pHと実質的に同じでない場合、問題が生じ得る。
【0003】
例えば、腎臓が十分に機能しなくなるまで腎機能が低下した患者を支援するために、透析を用いることが公知である。2つの主要な透析法、すなわち、血液透析および腹膜透析が用いられる。
【0004】
血液透析では、患者の血液は人工腎臓透析器に通される。透析器内の膜は、血液を浄化するための人工腎臓として機能する。
【0005】
腹膜透析では、患者自身の腹膜が半透過性膜として用いられる。腹膜は、多数の血管および毛細血管によって天然の半透過性膜として機能し得る、体腔の覆いとなる膜である。
【0006】
腹膜透析において、透析液は、カテーテルを用いて腹腔に導入される。十分な時間の経過後、透析物と血液との間で溶質の交換が行われる。血液から透析液への適切な浸透勾配を与えて、血液から水を流出させることによって、液体除去が達成される。これによって、適切な酸性−塩基性電解質および液体のバランスを血液に取り戻させることが可能になる。透析液は、カテーテルを経由して、体腔から容易に排液される。
【0007】
浸透勾配を作り出すために、透析液は浸透剤を含む。様々な浸透剤が用いられ、考慮されてきたが、典型的な透析液は浸透剤としてデキストロースを含有する。
【0008】
透析液に緩衝剤を用いることも公知である。透析液で用いられる一般的な緩衝剤は、重炭酸塩、乳酸塩およびアセテートである。初めは重炭酸塩が透析液での使用が考えられていた主要な緩衝剤であったが、時間の経過と共に、乳酸塩およびアセテートが重炭酸塩に代わって用いられるようになった。これは、重炭酸塩緩衝化溶液の調製が困難であることに起因する。乳酸塩およびアセテート緩衝剤は、従来の重炭酸塩緩衝化溶液よりも使用の際に高い安定性を有することが見出されている。欧州特許出願第90109963.0号参照。
【0009】
しかし、重炭酸イオンは、乳酸イオンあるいはアセテートイオンに優る利点を有している。さらに、患者は重炭酸塩透析液に対して高い耐性を示すことが、実験により示されている。実際に、ある種の処置は、重炭酸塩を含有する滅菌透析液を必要とし得る。例えば、低血圧症および乳酸塩アシドーシスを患う患者には、重炭酸塩緩衝化透析液を注入しなければならない。T. S. Ing.ら、「Bicarbonate-Buffered Peritoneal Dialysis」、TheInternational Journal of Artificial Organs、第8巻、第3号、121頁(1985)を参照。
【0010】
重炭酸塩は緩衝剤として機能するが、重炭酸塩を用いるときにはいくつかの問題が生じ
る。溶液中で、重炭酸塩は、溶液から容易に遊離するCO2ガスと平衡している。CO2ガスが溶液から遊離すると、炭酸塩が生成され、溶液のpHが上昇する。
【0011】
この現象を回避するために、使用の直前まで重炭酸塩を粉末形態で保管することが示唆されている。米国特許第4,489,535号参照。機械制御透析について、欧州特許出願第0278100号も参照。
【0012】
あるいは、溶液を保護するために、不透過性バリアが提案されている。同様に、重炭酸塩溶液を安定化させるための方法および容器が開発されている。1993年4月23日出願の、米国特許出願第08/052,260号、名称「METHOD FOR MANUFACTURING ANDSTORING STABLE BICARBONATE SOLUTIONS」を参照。
【0013】
さらなる問題点は、透析液において、デキストロースが浸透剤として典型的に用いられていることである。しかし、透析液は、他の医療溶液と同様に、患者に投与される前に滅菌されなければならない。デキストロースは滅菌される場合、酸性pHに維持されなければカラメル化する。しかし、一方では、重炭酸塩は、塩基性pHに維持されなければならない。
【0014】
従って、滅菌時に、重炭酸塩およびデキストロースを分離することにより、2つの溶液が適切なpH、例えば、一方が塩基性pHに、そして他方が酸性pHに維持され得るための多くの試みが、当該技術分野において成されている。例えば、米国特許出願第08/006,339号、名称「MULTIPLECHAMBER CONTAINER」を参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の問題点は、透析液についてのみ存在するのではなく、他の医療溶液や、実際には、食品産業においてさえ存在する。例えば、最初は、滅菌のために溶液を低pHに維持し、次いで、溶液が患者に注入される前に、より高く、より生理学的なpHに溶液を調整することが、多くの溶液において望ましい。
【0016】
しかし、現在まで、滅菌のために一つの溶液を低いpHに維持し、注入前に組成物を加えることなくpHを上昇させるための簡易な方法は、存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、液体製品(溶液)を製造する改良された方法を提供する。
【0018】
この目的のために、少なくとも所望の最終pHレベルと同程度のpHを有する製品を提供する工程;該製品のpHを該所望の最終レベルよりも下に低下させる工程;および該製品から二酸化炭素を放出することによって、該製品のpHを該所望の最終pHレベルに向かって一定の時間にわたって増加させる工程を包含する、製品を調製する方法が提供される。
【0019】
1つの実施態様において、前記方法は、7.0未満のpHを有する溶液を提供する工程;お
よび前記pHを低下させる工程の前に、該溶液のpHを少なくとも所望の最終レベルまで上昇させる成分を加える工程を包含する。
【0020】
1つの実施態様において、前記溶液のpHを低下させる工程は、二酸化炭素を該溶液に加える工程を包含する。
【0021】
1つの実施態様において、前記溶液は医療溶液である。
【0022】
1つの実施態様において、前記溶液は食品産業で用いられる。
【0023】
別の実施態様において、二酸化炭素を含有する液体を供給する工程;気体透過性容器に該液体を保持する工程;および該溶液の所望のpHが達成されるまで二酸化炭素を該容器から透過させる工程を包含する、液体を調製する方法が提供される。
【0024】
別の実施態様において、二酸化炭素発生組成物を含有する溶液を供給する工程;気体透過性容器に該溶液を配置する工程;および該溶液の所望のpHが達成されるまで、二酸化炭素を該容器から透過させる工程を包含する、液体を調製する方法が提供される。
【0025】
1つの実施態様において、7未満のpHを有する医療溶液を生成する工程;該溶液のpHを上昇させる二酸化炭素発生組成物を該溶液に加える工程;該溶液のpHを低下させる組成物を加える工程;および結果として得られる溶液を気体透過性容器に保持する工程を包含する、医療溶液を生成する方法が提供される。
【0026】
1つの実施態様において、前記二酸化炭素発生組成物は重炭酸ナトリウムである。
【0027】
1つの実施態様において、pHを低下させる組成物は酸である。
【0028】
1つの実施態様において、前記結果として得られる溶液が、該溶液のpHを上昇させるために十分な二酸化炭素を前記気体透過性容器から透過させるために十分な時間の間、該気体透過性容器中に保管される。
【0029】
1つの実施態様において、前記結果として得られる溶液は、6.0未満のpHを有している

【0030】
1つの実施態様において、前記溶液のpHは少なくとも7.0に上昇する。
【0031】
1つの実施態様において、前記医療溶液は透析液である。さらなる実施態様において、透析液は浸透剤としてデキストロースを含む。
【0032】
1つの実施態様において、前記溶液を含む前記容器は超音波処理に供されて、所望のpHに到達するために必要な時間が短縮される。
【0033】
1つの実施態様において、前記溶液を含む前記容器は還元雰囲気中に配置されて、所定のpHに到達するために必要な時間が短縮される。
【0034】
1つの実施態様において、外袋が該容器を覆って配置される。さらなる実施態様において、前記容器と前記外袋との間に二酸化炭素吸収体が配置される。
【0035】
なおさらなる実施態様において、7未満のpHを有する医療溶液を提供する工程;該溶液のpHを上昇させる成分を該溶液に加える工程;該溶液に二酸化炭素を加えてpHを低下させる工程;および気体透過性容器に溶液を保持する工程を包含する、医療溶液を調製する方法が提供される。
【0036】
1つの実施態様において、前記溶液のpHを上昇させる成分は重炭酸ナトリウムである。
【0037】
1つの実施態様において、前記医療溶液は透析液である。
【0038】
1つの実施態様において、前記容器は外袋内に配置される。
【0039】
別の実施態様においては、浸透剤、電解質および重炭酸ナトリウムを含有し、溶液のpHが6以下である透析液を調製する工程;該透析液を気体透過性容器内に配置する工程;および該容器から十分な二酸化炭素を外部に透過させて、該溶液のpHを少なくとも7.0に上
昇させる工程を包含する、腹膜透析液を生成する方法が提供される。
【0040】
さらに別の実施態様においては、浸透剤、電解質および重炭酸ナトリウムを含有する、溶液のpHが6以下である透析液を調製する工程;該透析液を気体透過性容器内に配置する工程;デキストロースを含有する液体を滅菌する工程;および該容器から十分な二酸化炭素を外部に透過させて、該溶液のpHを少なくとも7.0に上昇させる工程を包含する、腹膜
透析液を生成する方法が提供される。
【0041】
本発明の利点は、液体製品を製造する改良された方法を提供することである。
【0042】
さらに、本発明の利点は、医療溶液を製造する改良された方法を提供することである。
【0043】
さらに、本発明の利点は、改良された医療溶液を提供することである。
【0044】
本発明のさらなる利点は、改良された腹膜透析液を提供することである。
【0045】
なおさらなる本発明の利点は、腹膜透析液を製造する改良された方法を提供することである。
【0046】
そして、本発明の利点は、溶液が低pHで滅菌され得る腹膜透析液を提供することである。
【0047】
さらに、本発明の利点は、滅菌工程の間に2つの分離した部分として維持される必要のない腹膜透析液を提供することである。
【0048】
さらに、本発明の利点は、重炭酸塩およびデキストロースを含有する透析液を製造し、保管する方法を提供することである。
【0049】
さらに、本発明の利点は、食品産業用製品を製造する改良された方法を提供することである。
【0050】
本発明のさらなる特徴および利点は、本明細書の発明の好ましい実施態様の詳細な説明に記載され、かつ、それらから明らかである。
【0051】
より特定すれば、本願は、以下に記載の各項に記載の発明を記載する。
1項.液体製品を調製する方法であって、以下の工程:少なくとも所望の最終pHレベルと同程度のpHを有する製品を提供する工程;該製品のpHを該所望の最終レベルよりも下に低下させる工程;および該製品からの二酸化炭素の放出によって、該製品のpHを該所望の最終pHレベルに向かって一定の時間にわたって増加させる工程を包含する方法。
2項.前記製品に二酸化炭素発生化合物を加える工程を包含する項1に記載の方法。
3項.前記製品に二酸化炭素発生製品を加えて、少なくとも所望の最終pHレベルと同レベルに該製品のpHを上昇させる、項1に記載の方法。
4項.前記製品のpHが、該製品に酸を加えることによって低下する、項1に記載の方法。5項.前記製品が、気体透過性容器に保持されている、項1に記載の方法。
6項.前記製品のpHが、該製品に炭酸ガスを加えることによって低下する、項1に記載の方法。
7項.前記製品のpHが少なくとも前記所望の最終pHレベルと同じになった後に、該製品にCO2発生化合物が加えられる、項1に記載の方法。
8項.医療溶液を製造する方法であって、以下の工程:所望の最終pHよりも低いpHを有する医療溶液を生成する工程;該医療溶液に塩基を加えて、少なくとも該所望の最終pHまで該医療溶液のpHを上昇させる工程;炭酸ガスを該医療溶液に加えて、該医療溶液のpHを低下させる工程;および結果として得られた溶液を気体透過性容器に保持する工程を包含する方法。
9項.前記容器を滅菌する工程を包含する、項8に記載の方法。
10項.前記医療溶液が腹膜透析液である、項8に記載の方法。
11項.前記溶液のpHがおおよそ前記所望レベルまで上昇するように、十分な二酸化炭素を前記容器の外に透過させる工程を包含する、項8に記載の方法。
12項.医療溶液を生成する方法であって、以下の工程:7未満のpHを有する医療溶液を生成する工程;該医療溶液に該溶液のpHを上昇させる二酸化炭素発生化合物を加える工程;該医療溶液に該溶液のpHを低下させる組成物を加える工程;および結果として得られる医療溶液を気体透過性容器に配置する工程と包含する、方法。
13項.前記二酸化炭素発生組成物が、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、マロン酸ジエチル、炭酸ジエチル、および炭酸ガスからなる群から選択される、項12に記載の方法。
14項.前記pHを低下させる組成物が酸である、項12に記載の方法。
15項.前記結果として得られる医療溶液が、該医療溶液のpHを上昇させるために、十分な二酸化炭素を前記気体透過性容器の外に透過させるために十分な時間の間、該気体透過性容器中に保管される、項12に記載の方法。
16項.前記結果として得られる医療溶液を滅菌する工程を包含する、項12に記載の方法。
17項.前記結果として得られる医療溶液が、6.0未満のpHを有している、項12に記載
の方法。
18項.前記医療溶液のpHが少なくとも7.0に上昇する、項15に記載の方法。
19項.前記医療溶液が腹膜透析液である、項12に記載の方法。
20項.前記容器を超音波処理に供する工程を包含する、項12に記載の方法。
21項.前記気体透過性容器を減圧下に配置する工程を包含する、項12に記載の方法。22項.前記気体透過性容器を外袋内に配置する工程を包含する、項12に記載の方法。23項.前記容器と前記外袋との間に二酸化炭素吸収体を配置する工程を包含する、項22に記載の方法。
24項.前記二酸化炭素吸収体が、NaOHおよびKOHから成る群から選択される、項23に
記載の方法。
25項.前記気体透過性容器が、前記外袋内に配置される前に滅菌される、項22に記載の方法。
26項.医療溶液を調製する方法であって、以下の工程:二酸化炭素発生組成物を含有する医療溶液を提供する工程;該医療溶液を気体透過性容器に配置する工程;および該医療溶液の所望のpHが達成されるまで、二酸化炭素を該容器を通して外部に透過させる工程を包含する方法。
27項.前記医療溶液が腹膜透析液である、項26に記載の方法。
28項.前記二酸化炭素発生組成物が重炭酸ナトリウムである、項26に記載の方法。
29項.前記医療溶液が前記気体透過性容器内に配置された後に該医療溶液を滅菌する工程を包含する、項26に記載の方法。
30項.前記医療溶液のpHが少なくとも6.0まで上昇する、項26に記載の方法。
31項.前記気体透過性容器を超音波処理に供する工程を包含する、項26に記載の方法。
32項.前記気体透過性容器を減圧下に配置する工程を包含する、項26に記載の方法。33項.前記気体透過性容器を外袋内に配置する工程を包含する、項26に記載の方法。
34項.前記容器と前記外袋との間に二酸化炭素吸収体を配置する工程を包含する、項26に記載の方法。
35項.前記二酸化炭素発生組成物が炭酸ガスである、項26に記載の方法。
36項.前記二酸化炭素吸収体が、NaOHおよびKOHからなる群から選択される、項34に
記載の方法。
37項.前記気体透過性容器が、前記外袋内に配置される前に滅菌される、項26に記載の方法。
38項.透析液を生成する方法であって、以下の工程:浸透剤、電解質および重炭酸ナトリウムを含む透析液を調製する工程であって、該溶液が6以下のpHを有する工程;該透析液を気体透過性容器内に配置する工程;および十分な炭酸ガスを該気体透過性容器から外部に透過させて、該透析液のpHを少なくとも6.0に上昇させる工程を包含する方法。
39項.前記透析液を前記気体透過性容器に配置した後、該透析液を滅菌する工程を包含する、項38に記載の方法。
40項.前記浸透剤がデキストロースである、項38に記載の方法。
41項.前記透析液に二酸化炭素発生化合物を加える工程を包含する、項38に記載の方法。
42項.二酸化炭素発生製品を前記透析液に加えることによって、少なくとも該透析液の所望の最終pHレベルと同程度に該透析液のpHを上昇させる、項38に記載の方法。
43項.前記透析液のpHが少なくとも前記所望の最終pHレベルと同程度になった後に、該透析液に二酸化炭素発生化合物を加える、項38に記載の方法。
44項.透析液を生成する方法であって、以下の工程:デキストロース、電解質および重炭酸ナトリウムを含む透析液を調製する工程であって、該溶液が6以下のpHを有する工程;該透析液を気体透過性容器内に配置する工程;該透析液を滅菌する工程;および該気体透過性容器から十分な二酸化炭素を外部に透過させて、該透析液のpHを少なくとも7.0に
上昇させる工程を包含する、方法。
45項.液体製品を調製する方法であって、以下の工程:炭酸ガスを含む液体製品を調製する工程;該液体製品を気体透過性容器内に保持する工程;および該容器から十分な二酸化炭素を外部に透過させて、該液体製品の所望のpHを達成する工程を包含する方法。
【発明の効果】
【0052】
殺菌のために一つの溶液を低いpHに維持し、注入前に組成物を加えることなくpHを上昇させるための簡易な方法が提供される。この方法は、患者に投与される医療製品の製造、保存および生成のため、さらには、医療製品以外の他の液体製品にも用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明は、液体製品を生成し、製造し、維持する改良された方法を提供する。以下に記載する好ましい実施態様において、本発明は、医療溶液、具体的には、腹膜透析液の製造方法に関する。しかし、本発明は、腹膜透析液、血液透析液、非経口溶液および経腸溶液を含むあらゆる医療溶液の製造および保管だけではなく、ジュースなどの液体食品の製造および保管に用いられ得ることが理解されなければならない。
【0054】
本発明によると、二酸化炭素を含む液体(溶液)が生成される。二酸化炭素は、液体中で炭酸ガスとして存在するか、あるいは二酸化炭素発生化合物によって液体中に生成されるかのいずれかであり得る。液体のpHは、溶液からの二酸化炭素の放出によって、一定の時間にわたって上昇する。これは液体のpHを上昇させ、これによって、最初は液体を低pHで保管し、一定の時間にわたって所望のpHまでpHを上昇させることが可能になる。
【0055】
上記のように、二酸化炭素が調製の間に溶液に加えられるか、あるいは、二酸化炭素発生化合物が溶液に加えられるかのいずれかである。1つの実施態様において、本発明は、溶液中で二酸化炭素を生成する化学薬品を用いる。生理学的に許容される任意の化学薬品
が用いられ得、このような化学薬品として、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、マロン酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸ガス自体あるいはその他の二酸化炭素発生組成物が挙げられる。本発明によると、溶液は二酸化炭素(C02)透過性容器内に維持されるので、二酸化炭素の減少により一定の時間にわたって溶液のpHが上昇する。
【0056】
本発明の方法のこの実施態様の好ましい実施態様において、重炭酸ナトリウムが溶液中で用いられる。重炭酸ナトリウムは、ガス透過性容器を通してCO2を失う。この点に関し
て、重炭酸塩の平衡は次の通りである。
【0057】
CO2 + H2O ≒ H2CO3≒ HCO3- + [H+]
従って、二酸化炭素が容器を透過していくに従って、水素が使い果たされ、平衡は左に移動する。これによって溶液のpHが上昇する。一定の時間が経つと、溶液のpHは一定レベルで停止する。
【0058】
例えば、腹膜透析液を用いると、溶液はデキストロースを含み、通常よりも低いpHで製造され得る。この点に関して、デキストロースを含む腹膜透析液は、pH5.0〜5.3で製造され得る。次いで、pHが特定の所望のレベル、例えば、6.0〜7.6に再調整されるように、十分な重炭酸ナトリウムが溶液に加えられる。次いで、HCIなどの酸性化合物を用いて、溶
液は再び低いpH、例えば、5.0〜5.3に調整される。
【0059】
次いで、溶液は、二酸化炭素透過性容器に充填される。多くの可塑性材料は二酸化炭素透過性であり、容器を構成するために用いられ得る。用いられ得るそのような容器の一例は、ポリ塩化ビニルから構成されるBaxter Healthcare Corporationから入手可能なViaflex(登録商標)容器である。好ましくは、次いで、容器は、HDPE外袋などの外袋に封入される。次いで、溶液が滅菌され得る。デキストロースを含む腹膜透析液については、酸性pHでの溶液の滅菌によって、デキストロースのカラメル化の問題が回避される。
【0060】
滅菌の間および滅菌の直後に、二酸化炭素は容器を透過する。これによって水素を使い果たし、上記の式による平衡が左側に移動する。これによって、溶液のpHが上昇する。一定の時間が経つと、pHは、所望のpH点あるいはその近くで停止する。
【0061】
デキストロースを含有する溶液を含むある種の溶液については、デキストロースの分解および酸性処方物によって、より高いpHレベルでpHが低下し始め得る。クエン酸あるいはヒスチジンなどの緩衝剤を加えることによって、このpHの低下を防止し得る。
【0062】
本発明の方法のこの実施態様の利点は、十分な量の重炭酸ナトリウムあるいは二酸化炭素を放出する他の化学製品だけが溶液に加えられ、滅菌の間に形成される酸を中和し、所望のレベルにpHを上昇させることである。従って、本発明によって、デキストロースなどの溶液を、低pHで滅菌し、分解を最小限に留めることが可能になり、滅菌後は、二酸化炭素の減少によって一定の時間が経つとpHを上昇させることが可能になる。これによって、患者への注入時に、生理学的pHが与えられる。
【0063】
本発明によって用いられ得る他の方法は、以下の通りである。
【0064】
所望の最終pHよりも低いpHを有する溶液を調製する。例えば、腹腔透析液中で用いられるすべての成分(デキストロース、電解質および乳酸塩)を水に溶解し得る。この結果得られる溶液のpHは、乳酸塩のpHに依存し、通常は5.0〜5.3の間である。
【0065】
次いで、本方法のこの実施態様によると、pHが所望の最終pHレベルを超えるまで、十分な量の、塩基である水酸化ナトリウムをこの溶液に加える(例えば、所望のpHが6.0であ
る場合pH7.0に調整)。次いで、溶液のpHを、炭酸ガスを用いて調整して低下させる。例
えば、pHは、5.0〜5.5までに調整され得る。
【0066】
次いで、上記の容器などの気体透過性容器内に溶液を配置する。次いで、所望であれば、容器を滅菌し得る。一定の時間が経過すると、二酸化炭素が容器から拡散し、溶液のpHが上昇する。
【0067】
所望であれば、溶液中に二酸化炭素を溶解させ続けることによって、二酸化炭素を用いてpHをより低いレベルに低下させ得る。これは、1)溶液を冷却すること;あるいは2)溶液を圧力下に保持すること、によって達成され得る。
【0068】
この方法の利点は、大規模な実行が容易になり、二酸化炭素のみが必要であることである。また、この方法を用いると、加えられるナトリウムの量が少なくなる。しかし、上記の方法と比較すると、酸を浸出するバッグ材料および酸を生成するデキストロースの分解によって、腹膜透析液において、pHの上昇は所望のpHに到達しない可能性がある。さらに、これは、この方法において二酸化炭素の量が少ないことによる。
【0069】
本方法のさらに別の実施態様は以下の通りである。溶液を調製する。例えば、典型的な腹膜透析液中に見出されるすべての成分(デキストロース、電解質および乳酸塩)を、水に溶解させる。この結果得られる溶液のpHは、乳酸塩のpHに依存し、通常は、5.0〜5.3の間である。次いで、pHが所望の最終pHレベルを超えるまで、十分な量の、塩基である水酸化ナトリウムを溶液に加える(例えば、pH7.0に調整する)。
【0070】
次いで、十分な量の二酸化炭素放出成分(例えば、マロン酸ジエチル、炭酸ジエチルなど)を加え、溶解させる。次いで、溶液をガス透過容器に充填し、そして容器を滅菌し得る。滅菌の間、二酸化炭素放出成分は炭酸ガスを放出して、好ましくは5.0〜5.5にpHを低下させる。滅菌後、炭酸ガスはシステムから出て、pHが上昇する。
【0071】
両方法の工程3)に記載されるpHに調整される初期pHが重要である。初期pHが高くなると(例えば、5.5〜5.7)、滅菌後pHがその所望レベルに到達するのが速くなる。しかし、初期pHをより高くすることのマイナス面は、デキストロースの分解が増大し、色形成が増加することである。初期pHをより低くすると(例えば、5.0〜5.4)、溶液中に二酸化炭素を保持することがより困難になる。また、所望の滅菌後pHに到達するためにかかる時間が長くなる。
【0072】
製造者は、3.5〜8.5の広範囲のpHで乳酸塩を得ることができる。従って、調整前の溶液の初期pHは、3.5〜8.5の範囲にあり得る(本発明者らは、5.0〜5.3の範囲を得た)。最終所望pH(例えば、7.0)の乳酸塩を購入する場合は、いずれの方法においても工程2は必
要ない。
【0073】
溶液を所望のpHに到達させるために必要な時間を短縮するためには、プロセスに対して多くの改変を行い得る。溶液を保持する容器は、超音波処理にかけられ得る。これによって、溶液を撹拌し、容器から失われる二酸化炭素を増加させる。超音波処理は、機械手段あるいは音手段を含む様々な手段によって達成され得る。
【0074】
あるいは、容器が減圧下、すなわち、真空下に配置され得る。これによっても、二酸化炭素が容器から出る速度が速くなり、溶液が所望のpHに到達するために必要な時間が短縮される。
【0075】
炭酸ガス吸収体を容器と外袋との間に配置することによっても、二酸化炭素拡散を増加
させ、そしてpHを上昇させるプロセスを高速化し得る。 NaOHあるいはKOHの小袋を含む様々な二酸化炭素吸収体が用いられ得る。
【0076】
PVCよりもさらに気体透過性が高い材料を選択することによって、二酸化炭素拡散をさ
らに増加させ、所望のpHに到達させる時間を短縮することが可能になる。一方、PVC程は
気体透過性ではない材料を選択することによって、pHを上昇させるために必要な時間を長くすることが可能になる。同様に、容器/外袋形状を変化させて二酸化炭素の容量に対する表面面積を最大にすることによって、拡散を増加させ得る。
【0077】
さらに、外袋を用いずに容器を滅菌し、そして滅菌後に外袋の外に容器を維持することによって、二酸化炭素拡散を増加させ得る。
【0078】
上記のように、本発明の方法の1つの実施態様において、炭酸ガスを溶液に加えることによって、一定の時間にわたって溶液のpHが調整される。この点に関して、7.0以下のpH
を有する溶液が提供される場合、溶液のpHは、少なくとも所望の最終pHレベルまで上昇する。例えば、溶液が5.0〜5.3の初期pHを有し、そして溶液が患者に供給された場合、pHを6.0〜7.5に上昇させることが望ましくあり得る。
【0079】
次いで、溶液のpHは、炭酸ガスを用いて低下させられる。このpHの低下は、例えば、溶液に二酸化炭素を通気させることによって達成され得る。pHは、例えば、5.0〜5.5までの任意のレベルに低下され得る。
【0080】
溶液は、気体透過性容器に収容される。保管の間に二酸化炭素が容器を透過するため、溶液のpHは所望の最終pHに向かって上昇する。
【0081】
本発明を制限するものとしてではなく、例示として本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0082】
3つの異なる実験を行った。これらの3つの異なる実験の各々の間に調整したパラメータの比較を、以下の表1に示す。これらの実験に用いた手順は、本質的に同一である。
【0083】
1)Baxter溶液から入手可能なデキストロースを含有するDianeal(登録商標)透析液
を、代表的なBaxterの手順に従って製造した。
【0084】
2)一定量の重炭酸ナトリウムを溶液に加えて、 Dianealのバッチを所望の最終pH(例えば、7.0)に到達させた。
【0085】
3)DianealのpHを、塩酸を用いて、同定された滅菌前pHに再調整した。
【0086】
4)透析液のバッグを、121℃で蒸気滅菌した。
【0087】
5)滅菌したバッグを、室温および/または40℃で収容した。
【0088】
6)同間隔で、バッグを適切な温度から取り出した。
【0089】
7)様々な化学的特性および物理的特性についてバッグを試験した(例えば、pH測定)。
【0090】
これらの3つの研究の各々と関連するpHデータだけを、以下の表2に示す。このpHデータは、本発明の思想を示している。これらの3つの各研究についての結論を以下に示す。
研究I (a)本研究は、一定の時間にわたってpHが上昇することを示した。
【0091】
(b)より高い初期pHで開始された場合、より高いpH値がより迅速に達成された(初期pH5.5と6.0とを比較されたい)。
【0092】
(c)一ヶ月未満でpH>6.50が得られた。
【0093】
(d)初期pHが低くなるに従って、滅菌時の色形成が少なくなった。
研究II (a)本研究は、一定の時間にわたってpHが上昇することを示した。
【0094】
(b)より高い初期pHで開始される場合、より高いpH値がより迅速に達成される(初期pH5.3と5.5とを比較されたい)。
【0095】
(c)初期pHが低くなるに従って、滅菌時の色形成が少なくなった。
【0096】
(d)溶液バッグの上部スペースは、最終pHに到達するために必要な時間に影響を与えなかった。
【0097】
(e)長期的には、pHの下降は、pHを長期間維持するために緩衝剤が必要になることを示している。
研究III (a)本研究は、一定の時間にわたってpHが上昇することを示した。
【0098】
(b)初期デキストロース濃度が低くなるに従って、滅菌時の色形成が少なく
なった。
【0099】
(c)本研究で用いた緩衝剤およびその濃度によって、pHの上昇後のpHの長期
の下降は防止されなかった。別のpHあるいはより高濃度のクエン酸によってpHが維持される。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】


【実施例2】
【0102】
以下の方法を用いた:
(方法1)
Dianeal中に見出されるすべての成分(デキストロース、電解質および乳酸塩)を、水
に溶解させた。この結果得られた溶液のpHは乳酸塩のpHに依存し、通常は5.0と5.3との間である。
【0103】
pHが所望の最終pHレベル(例えば、7.0)に到達するまで、十分な固体重炭酸ナトリウ
ムをこの溶液に加え、溶解させた。
【0104】
HCl、CO2(g)あるいは別の酸によってpHを5.0〜5.7に調整した。
【0105】
バッグに充填し、そして滅菌した。
(方法2)
Dianeal中に見出されるすべての成分(デキストロース、電解質および乳酸塩)を、水
に溶解させた。この結果得られた溶液のpHは乳酸塩のpHに依存し、通常は5.0と5.3との間である。
【0106】
pHが所望の最終pHレベルを超えるまで(例えば、所望のpHが6.0ならば、pH7.0に調整)、十分な量の塩基(水酸化ナトリウム)をこの溶液に加えた。
【0107】
CO2(g)でpHを5.3〜5.5に調整した。
【0108】
バックを充填し、そして滅菌した。
【0109】
各方法で製造された溶液について、溶液のpHを一定の時間にわたって測定した。
【0110】
【表3】

上記のように、本発明は、医療製品の以外の他の液体製品にも用いられ得る。
【0111】
例として、多くのフルーツジュースが本質的に酸性である(トマトpH4.4、リンゴpH3
、レモンpH2.2)。これらのフルーツジュースのpHは、重炭酸塩生成成分を加えることに
より、より高いpHに調整され得る。次いで低温滅菌および/または保管の間に、分解および色形成を防止するためにpHを低下させる。この溶液は、二酸化炭素透過性容器に保管されなければならない。この容器は、HDPE容器あるいはHDPEキャップを有するガラス容器であり得る。次いで、溶液から容器の外に二酸化炭素が透過するため、この酸性フルーツジュースのpHは一定の時間にわたって上昇する。
【0112】
本明細書に記載された本発明での好ましい実施態様に対する様々な変更および改変が当業者に明らかであることはいうまでもない。このような変更および改変は、本発明の思想および範囲から逸脱せずに、かつ、本発明に付随する利点を減じることなく行い得る。従って、このような変更および改変は、添付の請求の範囲に包含されることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
殺菌のために一つの溶液を低いpHに維持し、注入前に組成物を加えることなくpHを上昇
させるための簡易な方法が提供される。この方法は、患者に投与される医療製品の製造、保存および生成のため、さらには、医療製品以外の他の液体製品にも用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書等に記載されるような、溶液の製造および保存方法。

【公開番号】特開2007−181715(P2007−181715A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52099(P2007−52099)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【分割の表示】特願2004−14979(P2004−14979)の分割
【原出願日】平成8年3月20日(1996.3.20)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【Fターム(参考)】