溶液成分センサとその製造方法
【課題】構造が簡単でシステム全体を小型化することができ、しかも既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、検体液中に含まれる1ppm程度のイオン、糖、脂質、抗体、抗原等の成分の濃度を極短時間で精度よく計測可能な信頼性、作業性に優れた溶液成分センサの提供を目的とする。
【解決手段】本発明の溶液成分センサ1は、基板2と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対3と、前記電極対の表面及び前記電極対3間の前記基板2の表面を被覆した絶縁膜5と、を有し、前記絶縁膜5がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有している
【解決手段】本発明の溶液成分センサ1は、基板2と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対3と、前記電極対の表面及び前記電極対3間の前記基板2の表面を被覆した絶縁膜5と、を有し、前記絶縁膜5がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有している
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体液中に含まれるイオン、糖、脂質、抗体、抗抗体、抗原等の種々の成分の濃度を電圧変化又は電流変化に基づいて検知することができる溶液成分センサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロマシン技術の一種として、微量液体の分析、反応、ならびに分離操作に利用する流体マイクロシステム(fluid MEMS:micro electro
mechanical system)が知られている。
流体マイクロシステムはマイクロポンプ、ミキサ、バルブ、リアクタ、セパレータ、センサなどの各要素を基板(チップを含む)上に実装し、パッケージ化したものであり、ポストゲノム研究およびプロテオーム研究の発展に欠かせないツールとして期待されている。
このような流体マイクロシステムにおける検体液の濃度を計測する手段として、例えば(特許文献1)には、「基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆し血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液と接触する絶縁膜と、を備えていることを特徴とする酸化ストレス物質検知センサ」が開示されている。この方法では検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の一酸化窒素などの特定の成分を極短時間で精度よく検知できるが、選択性が乏しいため、特定成分の有無や濃度の検知が困難であった。そのため、特定成分の有無や濃度の検知ができる選択性の付与が要望されていた。
【0003】
また、本発明者は、構造が簡単でシステム全体を小型化することができるとともに、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるので新たな設備を要さず量産性に優れ、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる選択性のあるセンサの提供を目的として鋭意研究の結果、「基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆し感応物質を分散保持した絶縁膜と、を備えた溶液成分センサ」を完成し、特許出願した(特許文献2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−271287号公報
【特許文献2】特開2008−134105号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Sensors and Actuators B: Chemical”(Elsevier),Volume 129,Pages958-970,T.Isoda et al.(22 February 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)の酸化ストレス物質検知センサは、本願出願人らが出願したものであり、検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の一酸化窒素などの特定の成分を極短時間で精度よく検知できる。しかし半導体製造方法で、基板上にこれらのセンサを複数配置させ、これを同時に測定する場合、絶縁膜の性状を一定に成膜することが難しく、その結果各々のセンサの検出電圧のバラツキが大きくなり再現性の改善が望まれていた。
(2)(特許文献2)の溶液成分センサも、本願出願人らが出願したものであり、絶縁膜に感応物質を分散保持させることにより、複数成分が混在した検体液中の1ppm程度の極微量の無機イオンや抗体あるいは抗原等の特定の成分を極短時間で精度よく検知できる。しかし、基板上にセンサを複数配置させ、同濃度の検体液を同時に測定する場合、検出感度が高いために溶液成分センサ自身の絶縁膜のわずかな歪みや絶縁膜の厚さに起因する誘電率のバラツキなども検出してしまい、その結果検出電圧の精度が低くなるという問題を生じた。さらに各センサ毎に異なる濃度の検体液を測定した場合、この誤差によって検体濃度に対する応答電圧の関係(検量線)の線形性が低下し、基板上のセンサ毎の測定値の精度の改善が望まれていた。
【0007】
本発明は上記要望に応えるもので、構造が簡単でシステム全体を小型化することができ、しかも既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、検体液中に含まれる1ppm程度のイオン、糖、脂質、抗体、抗原等の成分の濃度を極短時間で精度よく計測可能な信頼性、作業性に優れた溶液成分センサの提供を目的とする。
また本発明は、検出電圧のバラツキが小さく、再現性のよいデータを得ることが可能な溶液成分センサの量産性に優れた製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の溶液成分センサとその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の溶液成分センサは、基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆した絶縁膜と、を有し、前記絶縁膜がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有していること、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に含有されていることにより、絶縁膜の誘電率が低下するとともに、絶縁膜の表面電荷が平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性をさらに高める。
(2)電極の表面及び電極間の基板の表面がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有する絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液中に含まれる成分の量に応じて変化する絶縁膜表面の静電分極量を電極間の電圧値又は電流値として短時間で、従来法よりも精度よく、検出することができる。
(3)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が発生し、検体液に含まれる電解効果の大きな無機イオンあるいは抗抗体などの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
(4)構造が簡単な電極対を半導体作製技術によって基板上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる。
【0009】
ここで、絶縁膜の表面に検体液を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が生じ、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。電極間に電圧を負荷させると、この電荷が電子の流れを加速するため、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。検体液中に含まれる無機イオンあるいは抗抗体などの成分は、この誘導分極効果が大きいため、成分濃度に比例した電流値や電圧値の変化を検出することができる。
【0010】
基板の材質としては分析する検体液によって侵されず、基板上に電極対及び絶縁膜を形成することができ、電極対を電気的に絶縁できるものであればよく、例えば、各種の合成樹脂、ガラス、セラミックスなどが好適に用いられる。特にガラス等の透明な材質を用いた場合は、顕微鏡などによる検体液の観察も行うことができ汎用性に優れる。また、基板の形状は、矩形状、多角形状、円盤状などの種々な形状に形成することができる。
電極の素材としては、例えばPt、Au、Ag、Fe、Ni、Co、Cr、Cu、Al、Ti、Mn、Zn等の金属、ステンレス等の合金などを採用することができる。電極は、基板上に化学蒸着して形成してもよいし、あらかじめ基板上に作成した金属薄膜をドライエッチングやウエットエッチングでパターニングして形成してもよい。また、電極対の各々の電極は同種の金属を用いてもよいし、異種金属を組み合わせてもよい。尚、ガラス基板にCrを蒸着した上からAu電極を形成することにより、Crがバインダとなって密着性を向上させることができる。
【0011】
尚、1枚の基板上には1乃至複数の電極対を形成することがき、その配置は任意に選択することができる。また、電極対の各々の電極の形状は限定されるものではないが、三角形状、矩形状、半円形状等に形成することができる。また、電極対は非対称であっても、大きさが異なっていてもよく、辺部同士が対向するように配置される。
対向する2つの電極の辺部間の間隔は、検体液や電極の種類などにもよるが、5μm〜10mm、好ましくは10μm〜5mmの範囲とすることが好ましい。辺部間の間隔が10μmより狭くなるにつれ、検体液中の成分濃度に対する電流値等の電気特性の相関が小さくなり、応答感度が低下する傾向が見られ、間隔が5mmより広くなるにつれ、検出感度が低下し易くなり、データの再現性に欠ける傾向が見られるためである。特に電極の辺部間の間隔が5μmより狭くなるか10mmより広くなるにつれ、信号ノイズが大きくなり、電流値や電圧値の変化を正確に検出することが困難になる傾向があり、いずれも好ましくない。
【0012】
絶縁膜は電極の機械強度を保持するため、基板全面を被覆することが好ましいが、少なくとも電極の表面を被覆していればよい。
絶縁膜は、有機溶剤にポリ塩化ビニル,エポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した原料溶液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥して製造することができる。絶縁膜の膜厚は材質によって異なるが、検体液と電極対の間を確実に絶縁でき、センサとしての応答性を保つことができる範囲で選択する必要がある。絶縁膜の膜厚が薄くなるにつれ、絶縁膜の効果が不十分となりセンサの感度が低下する傾向があり、厚くなるにつれ、検体液中の成分濃度が変化しても電圧値や電流値に変化が見られなくなりセンサの応答性が消失する傾向があり、いずれも好ましくない。例えば、フルオロオレフィンビニルエーテール重合体(分子量分布100〜1000)であれば0.2μm〜0.8μmが好ましい。これらの樹脂による絶縁膜の厚みが平均0.2μm未満であると検体液と電極対の間を確実に絶縁できない恐れがある。また、平均0.8μmを超えるとセンサとしての応答性が下がり実用的でない。
ノボラック系フェノール樹脂(分子量分布1000〜10000))、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂であれば、5μm〜20μmが好ましい。これらの樹脂による絶縁膜の厚みが平均5μm未満であると検体液と電極対の間を確実に絶縁できない恐れがある。また、平均20μmを超えるとセンサとしての応答性が下がり実用的でない。
【0013】
絶縁膜を構成する樹脂にフラーレン又はフラーレン誘導体を含有させると、絶縁膜の誘電率が減少するとともに、表面電荷の分布が平均化するので、センサの絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、再現性よく精度の高い測定ができるようになる。
【0014】
フラーレンは炭素原子が20個以上結合してできた球状の閉殻構造を有するカーボンクラスター分子の総称であり、C60のほかC20、C70、C82、C320など様々な大きさのフラーレンが知られており、レーザー法、アーク放電法、合成法などで製造されたものが使用できる。フラーレンの種類は特に限定しないが、現在C60が最もよく流通しており利用しやすく好ましい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶液成分センサであって、前記絶縁膜が感応物質を分散保持している構成を有している。
この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)電極の表面及び電極間の基板の表面が感応物質を分散保持した絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の検体液中に含まれる特定の成分が、絶縁膜の表面の感応物質と相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極間の電位に変化が生ずるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる。
(2)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離を生じ、その静電誘導効果によって絶縁膜を構成している分子に分極が生じる。分極による電荷の量は、感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0016】
ここで、絶縁膜の表面に検体液を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が生じ、電気二重層を形成し、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。この電荷の量は感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に依存するので、電極間に電圧を負荷するか電流を流すと、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。これを検知することで検体液中に含まれる特定の成分の有無や濃度を検知することができる。
また、シリカゲル,チタニア,アルミナ,硫化カドミウム,酸化鉛等の無機多孔質担体あるいは微粒子担体、ゼオライト,モンモリロナイト等の合成あるいは天然鉱物粒子、カーボンブラック,活性炭,炭素繊維,カーボンナノチューブ等の炭素材料を主成分とした多孔質担体あるいは微粒子担体、金,銀,銅,白金,パラジウム,鉄,コバルト,ニッケル等の金属微粒子あるいはコロイド分散液、ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレン,木材,紙,布等の有機高分子材料からなる多孔質担体あるいは微粒子担体等に感応物質を担持させ、該有機剤に多孔体を分散させフラーレンまたはフラーレン誘導体の微粒子を分散させた原料溶液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥して製造することができる。さらに前記多孔質担体とフラーレンまたはフラーレン誘導体の微粒子を予め分散させた原料用液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥させ、その膜表面に感応物質を溶解させた溶液を滴下させることで、感応物質をセンサ上に吸着担持させることができる。
【0017】
感応物質としては、検体液の特定成分と相互作用を生じるものであれば特に制限なく用いることができ、錯体形成化合物、ホスト化合物、酵素、抗体、抗原、カロチン、ポリフェノール等の活性酸素スカベンジャー類、タンパク質、DNA、RNA、糖鎖、糖脂質等を用いることができる。
錯体形成化合物としては、例えば、金属イオンと錯体を形成するポルフィリン類,EDTA(エチレンジアミン三酢酸)ならびにその誘導体,NTA(ニトリロ三酢酸)ならびにその誘導体等に代表される金属キレーター類、Bis(benzo-15-crown-5),Bis(12-crown-4), Dibenzyl-bis(12-crown-4)等カリウム,ナトリウム,カルシウム,リチウム等の金属イオンと錯体を形成するクラウンエーテル誘導体、酸化ストレス物質と関連し体内で発生する一酸化窒素と錯体を形成するDTCS Na(N-(Dithocarboxy)sarcosine, disodium salt, dihydrate)の鉄錯体やMGD(N-(Dithocarbamoyl)-N-metyl-D-glucamine, disodium salt)の鉄錯体等が用いられる。
ホスト化合物としては、例えば、バリノマイシン,モネンシン,ラサロシド,サリノマイシン等のイオノフォア抗生物質、シクロデキストリン、カリックスアレーン等のゲストと包接化合物を形成する各種ホスト化合物、ビオチン分子と選択的に結合するアビジン等の抗体蛋白質、DNAやRNAの塩基配列に補完的に水素結合するDNA断片、RNA断片ならびに糖鎖が用いられる。さらに構造中にマクロポアあるいはミクロポアを持つゼオライト類,アルミナ,チタニア,シリカ等の合成段階の前駆体溶液に、界面活性剤ミセルや有機微粒子を混入させ、過熱・固体化段階でこれを分解させ、その混入粒子のサイズによって微細孔を形成させる等の分子鋳型手法で調整した無機材料、活性炭類,カーボンナノチューブ類を用い、その分子篩効果を利用して細孔サイズ以下の分子のみを選択的に吸着させるホスト機能を有する材料でもよい。
酵素としては、アルコールオキシダーゼ,LDH,G−6−PDH,GOD,ウリカーゼ,カタラーゼ,ペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素、GOT,GPT,CPK等の転移酵素、リパーゼ,アミラーゼ,キモトリプシン,トロンビン,ウレアーゼ,アルギナーゼ,コレステロールエステラーゼ等の加水分解酵素、アルドラーゼ等の分解酵素、ホスホヘキソースイソメラーゼ等の異性化酵素、アセチル−CoA−シンセターゼ等の合成酵素等を用いることができる。
抗体や抗原としては、例えば、梅毒センサ用のトレポネーマや擬似脂質抗原、血液型センサ用の血液型決定物質、抗免疫グロブリンG,A,M,E抗体、癌センサ用のAFP抗体等、ビオチン分子と選択的に結合するアビジン等の抗体蛋白質を用いることができる。
【0018】
絶縁膜中に分散保持する感応物質は、感応物質が絶縁膜の有機溶剤に溶解しない物質(微粒子状態で絶縁膜中に分散)の場合は、絶縁膜の原料溶液中1〜50wt%の範囲が望ましい。感応物質が1wt%未満では、検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、50wt%を超えると絶縁膜の機械的強度が低下するため、いずれも好ましくない。
また、感応物質が絶縁膜の有機溶剤に溶解する物質(均一に絶縁膜中に分散)の場合は、絶縁膜の原料溶液中0.1〜25wt%の範囲が望ましい。感応物質が0.1wt%未満では、検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、25wt%を超えるとセンサの応答感度が低下し検体液中の特定成分の有無や濃度の検出が困難になる不都合が生じるため、いずれも好ましくない。
【0019】
本発明の溶液成分センサは、検体液の特定成分の有無や濃度の検知、例えば、化学センサやバイオセンサ等として利用される。測定対象としては、例えば、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Cl-、NO2-、NO3-、SO42-、NH4+、PO43-等のイオン、グルコース等の糖、コレステロール,中性脂質等の脂質、フェニルアラニン,ロイシン等のアミノ酸、アルブミン等のタンパク質、インスリン,TSH等のホルモン、免疫グロブリン等の抗体、抗原、ビタミン、体内の代謝経路で生産される一酸化窒素(RNOS)、ヒドロキシラジカル,スーパーオキシド,過酸化脂質等に代表される活性酸素(ROS)類等の酸化ストレス物質等を挙げることができる。血液,リンパ液,尿,汗,唾液等の体液に含有されるこれらの成分の検知も行うことができる。
【0020】
多孔体は、平均粒径が1〜30μmのものが好適に用いられる。多孔体の平均粒径が1μmより小さくなると凝集し易く取扱性に欠け、30μmより大きくなると膜厚の薄い絶縁膜に保持するのが困難になり脱落し易くなるからである。
多孔体の添加量は、絶縁膜の原料溶液に対して1〜50wt%の範囲が望ましい。1wt%未満では検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、50wt%を超えると絶縁膜の機械的強度が低下するため、いずれも好ましくない。
多孔体の細孔の表面はアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ケトン基、アセチル基、炭化水素鎖等の官能基や、アミド化、スルホン化、ニトリル化、エステル化、トリメチルシリル化、オクチル化、オクタデシル化、アミノプロピル化、シアノプロピル化等により化学修飾することができるが、これらに限定されるものではない。検体液中の対象成分や多孔体の種類に応じて適宜選択することができる。
化学修飾する方法としては、多孔体をテトラクロロエタン中で硫酸と反応させることによりスルホン化する方法、ブチルアミンやプロピルアミン等を用いて脱水トルエン中でアミド化する方法、塩化バレロイル等を用い脱水トルエン中でエステル化する方法、鍍金、化学蒸着あるいはスパッタリング等の方法でコーティングさせ、これにチオールあるいはニトリロ三酢酸(NTA)等の誘導体を溶解させた溶液に含浸させて金属表面に化学吸着あるいは錯体を形成する性質を利用して分子を配向させる自己組織化膜法等を用いることができる。
【0021】
感応物質を多孔体に担持させるには、感応物質を水やエタノール等の適当な溶媒に溶解させ、これに多孔体を混合し含浸させればよい。多孔体の表面に感応物質を物理吸着させることができるし化学吸着させてもよい。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の溶液成分センサであって、前記絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度が0.01g/cm3〜0.07g/cm3である構成を有している。
この構成により、請求項1又は2の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に適量含有されていることにより、絶縁膜の誘電率の低下によりセンサ電圧が適正なレンジ範囲で検出され、絶縁膜の表面電荷の平均化により絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性をさらに高める。
【0023】
ここで絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度は0.01g/cm3〜0.07g/cm3が好ましい。0.01g/cm3よりも低い濃度ではフラーレンを含有させることによる検出電圧のバラツキを抑える効果が小さく、好ましくない。また0.07g/cm3よりも高い濃度では絶縁膜の均一性が低下して膜形状が安定せず信号測定が困難となり好ましくない。
【0024】
請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法は、フラーレン又はフラーレン誘導体を合成樹脂に混合してフラーレン含有合成樹脂液を調製する合成樹脂液調製工程と、基板上に所定間隔を置いて配置された電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面に前記フラーレン含有合成樹脂液を塗布して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を有する構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が合成樹脂に混合されるので絶縁膜中に均一に含有され、絶縁膜の部分によるバラツキを抑えることができるので、同一の基板上に複数のセンサを備えていてもセンサ間の検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサが製造できる。
(2)複数のセンサ間のバラツキが少ないので、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、信頼性、作業性に優れた溶液成分センサが製造できる。
【0025】
ここでフラーレンを合成樹脂に混合する方法には、粉体のまま樹脂に混錬する方法や溶媒に予め溶解して添加する方法が使用できる。フラーレンを溶解する有機溶媒としては、特に限定しないがジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、四塩化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、クロロナフタレンなどを用いることができる。発明者の知見によるとフラーレンを予め溶解して合成樹脂に添加した場合、合成樹脂を溶解している溶媒によってフラーレンは以下の2通りの挙動を示す。
(1)合成樹脂を溶解している溶媒に対するフラーレンの溶解度が高い場合。
合成樹脂液との添加混合過程や樹脂溶液が塗布され乾燥して溶媒が蒸発する過程において、フラーレンの微粒子が析出することなく合成樹脂中に均一に分散したまま固化する。
(2)合成樹脂を溶解している溶媒に対するフラーレンの溶解度が低い場合。
合成樹脂液に添加混合すると、合成樹脂液中でフラーレンが主として1〜5μmの微粒子として析出し、均一に分散する。樹脂と共に塗布され、均一分散したまま乾燥する。
(1)、(2)のいずれの場合も本願のセンサの機能としては差が認められなかった。
【0026】
合成樹脂としては前述のフルオロオレフィンビニルエーテル重合体やノボラック系フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が好適に用いられる。
合成樹脂を溶解する溶媒とフラーレンを溶解する有機溶媒が異なる場合には両者を添加混合する合成樹脂液調製工程で合成樹脂が不均一に析出しないことが好ましい。両者を添加混合して合成樹脂が不均一に析出する場合には均一に形成された絶縁膜とならない恐れがあるためである。
フラーレン含有合成樹脂液液の塗布方法は特に限定しないが、ロール法、スピンコート法、インクジェット法やスプレーによる吹きつけなどが使用できる。またディップコーティングで塗布したり、基板上に滴下した溶液をそのまま乾燥・固化させてもよい。
【0027】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法であって、前記合成樹脂液調製工程において、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶媒に溶解し不溶成分を分離除去する工程を有する構成を有している。
この構成により、請求項4の作用に加えて以下のような作用を有する。
(1)溶媒に不溶性のフラーレン成分が分離されることで、絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の分布がより均一となり、より検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサが製造できる。
【0028】
ここでフラーレンを溶解する溶媒としては、特に限定しないがジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、四塩化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、クロロナフタレンなどを用いることができる。
溶媒に溶けなかったフラーレンの不溶成分の分離には限外ろ過による方法、遠心分離により不溶成分を沈降させて上清と分ける方法などが使用できる。
【0029】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の溶液成分センサの製造方法であって、前記合成樹脂液調製工程において、感応物質を前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解または分散させる工程を有する構成を有している。
この構成により、請求項4又は5の作用に加えて以下のような作用を有する。
(1)感応物質が絶縁膜に含まれているので、検体液中の特定物質を非常に高感度で再現性よく検出できる溶液成分センサが製造できる。
【0030】
ここで感応物質は直接添加または、溶媒などに分散あるいは溶解してから添加することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明の溶液成分センサとその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に含有されていることにより、絶縁膜の誘電率が低下するとともに、絶縁膜の表面電荷が平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性がさらに高い溶液成分センサを提供することができる。
(2)電極の表面及び電極間の基板の表面がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有する絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液中に含まれる成分の量に応じて変化する絶縁膜表面の静電分極量を電極間の電圧値又は電流値として短時間で、従来法より精度よく、検出することができる溶液成分センサを提供することができる。
(3)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が発生し、検体液に含まれる電解効果の大きな無機イオンあるいは抗抗体などの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる溶液成分センサを提供することができる。
(4)構造が簡単な電極対を半導体作製技術によって基板上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる溶液成分センサを提供することができる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)電極の表面及び電極間の基板の表面が感応物質を分散保持した絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の検体液中に含まれる特定の成分が、絶縁膜の表面の感応物質と相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極間の電位に変化が生ずるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる選択性に優れた溶液成分センサを提供することができる。
(2)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離を生じ、その静電誘導効果によって絶縁膜を構成している分子に分極が生じる。分極による電荷の量は、感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れた溶液成分センサを提供することができる。
【0033】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)フラーレンが絶縁膜中に適量含有されていることにより、絶縁膜の誘電率の低下と絶縁膜の表面電荷の平均化により検出感度の鋭敏さが緩和されると共に平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性がさらに高い溶液成分センサを提供することができる。
【0034】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)フラーレンが合成樹脂に混合されるので、絶縁膜中に均一に含有され、絶縁膜の部分によるバラツキを抑えることができるので、同一の基板上に複数のセンサを備えていてもセンサ間の検出電圧のバラツキの少なく、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
(2)複数のセンサ間のバラツキが少ないので、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、信頼性、作業性に優れた溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【0035】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)溶媒に不溶性のフラーレン成分が分離されることで、絶縁膜中のフラーレンの分布がより均一となり、より検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【0036】
請求項6に記載の発明によれば、請求項4又は5の効果に加え、
(1)感応物質が絶縁膜に含まれているので、検体液中の特定物質を非常に高感度で再現性よく検出できる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)実施の形態1における溶液成分センサを示す平面図 (b)図1(a)のA−A線矢視断面模式図
【図2】実施の形態1における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図
【図3】実施の形態2における溶液成分センサの断面模式図
【図4】実施の形態2における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図
【図5】実施の形態3における溶液成分センサの断面模式図
【図6】複数のセンサ部分を同一基板上に設けた溶液成分センサの模式図
【図7】実施例1のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図8】実施例2のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図9】比較例1のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図10】実施例3の絶縁膜中のフラーレン濃度とNa検出電圧との関係を示す図
【図11】実施例2の検体液の抗IgGの濃度と検出電圧の関係を示す図
【図12】比較例2の検体液の抗IgGの濃度と検出電圧の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1(a)は実施の形態1における溶液成分センサを示す平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線矢視断面模式図である。
図1中、1は本発明の実施の形態1における溶液成分センサ、2は各種の合成樹脂、ガラス、セラミックスなどで形成した溶液成分センサ1の基板、3は基板2の上面に略半円形状の2つの電極4が辺部4a同士で対向するように離間して配置された溶液成分センサ1の電極対、4bは各々の電極4の円弧状の側部に延設された電極対3の端子部、5は電極対3を含んで基板2の全面を被覆したフルオロオレフィンビニルエーテル重合体やノボラック系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などからなるフラーレンを含有した絶縁膜、6は端子部4bで電極対3に電気的に接続され、電極4間の電圧値や電流値等を検出するデジタルマルチメータなどの検出部、7は検出部6に接続され検出部6が検出した検出データに基づいて検体液に含まれる特定の成分の量を検知して特定の成分の有無や濃度を判定する判定部である。
【0039】
図1において、基板2の材質は、本実施の形態に限定されるものではなく、分析する検体液によって侵されず、基板2上に電極対3及び絶縁膜5を形成することができ、電極対3を電気的に絶縁できるものであればよい。特にガラス等の透明な材質を用いた場合は、顕微鏡などによる検体液の観察も行うことができ汎用性に優れる。また、基板2の形状は、矩形状以外に多角形状、円盤状などの種々な形状に形成することができる。
本実施の形態では、基板2にCrを蒸着した上からAuの電極4を形成することにより、Crをバインダとして電極4と基板2の密着性を向上させている。
【0040】
対向する2つの電極4の辺部4a間の間隔は、検体液や電極4の種類などにもよるが、1μm〜10mmの範囲に形成した。辺部4a間の間隔が1μmより狭くなるにつれ、検体液中の成分の濃度に対する電流値等の電気特性の相関が小さくなり、応答感度が低下し易くなる傾向があり、間隔が10mmより長くなるにつれ、検出感度が低下し易くなり、データの再現性に欠ける傾向があることがわかったためである。
【0041】
本実施の形態では、基板2の全面を絶縁膜5で被覆したが、絶縁膜5は少なくとも電極4の表面を被覆していればよい。
絶縁膜5の膜厚は材質によって異なるが、検体液と電極対3の間を確実に絶縁でき、センサとしての応答性を保つことができる範囲で選択する必要がある。絶縁膜5の膜厚が薄くなるにつれ、絶縁膜5の効果が不十分となりセンサの感度が低下する傾向があり、厚くなるにつれ、検体液中の特定の成分濃度が変化しても電圧値や電流値に変化が見られなくなりセンサの応答性が低下する傾向があることがわかったためである。例えば、フルオロオレフィンビニルエーテール重合体(分子量分布100〜1000)であれば0.2μm〜0.8μmが好ましく、ノボラック系フェノール樹脂(分子量分布1000〜10000)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド系樹脂であれば、5μm〜20μmが好ましい。
【0042】
以下、実施の形態1における溶液成分センサの動作原理について説明する。
図2は実施の形態1における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図である。
図2中、10は電極対3上のフラーレンを溶解した絶縁膜5に滴下した検体液である。
フラーレンを含有した絶縁膜5の表面に検体液10を滴下或いは塗布する等して接触させると、フラーレンを含有した絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じ、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。電極間に電圧を負荷させると、この電荷が電子の流れを加速するため、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。検体液10中に含まれる抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分は、この誘導分極効果が大きいため、その濃度に比例した電流値や電圧値の変化を検出部6で検出することができる。
フラーレンを含有した絶縁膜5はフラーレンの電気特性により、膜面上の電荷の分布の局所的なバラツキを抑えられる。絶縁膜5はフラーレンにより誘電率を下げられ、膜の歪みや厚さの局所的バラツキに起因する測定電圧のバラツキが減少し、より再現性のよい測定が可能となる。
判定部7に予めその物質の濃度と電圧値若しくは電流値との関係を記憶させておき、その標準データと検出データ(測定データ)を比較することにより、確実かつ迅速な濃度の判定を行うことができる。
また、判定部7に記憶部を設けて検出データを継続的或いは定期的に記憶させておくことにより、検体の状態の変化や推移を管理することができ汎用性に優れる。
【0043】
実施の形態1の溶液成分センサは以上のように構成されているので、以下の作用を有する。
(1)電極4の表面及び電極4間の基板2の表面が絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に滴下した微量の検体液10中に含まれる抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分の量に応じて変化する電極4間の電圧値又は電流値を短時間で精度よく再現性よく検出することができ、検体の状態を簡便に判定することができる。
(2)構造が簡単な電極対3を半導体作製技術によって基板2上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる。
(3)電極4表面がフラーレンを含有した絶縁膜5で被覆されていることにより、フラーレンを溶解した絶縁膜5上に検体液10を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が発生し、帯電量が増加して誘導分極が起る。電極4と接しているフラーレンを溶解した絶縁膜5内側にも電荷が生じるため、電極4間に電圧を負荷させることにより、その電荷が電子の流れを加速して検体液10に含まれる分極効果の大きな抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液10で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液10の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
(4)絶縁膜5上に検体液10を滴下或は塗布する等して接触させると、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じるが、絶縁膜5を形成する有機薄膜層の表面には高分子末端あるいは分岐末端の化学構造に由来する各種官能基(カルボキシル基、ケトン基、水酸基、アミノ基、エーテル基等)ならびに極性基(フッ素、塩素、臭素等)が存在するため、この分極現象が大きく、溶液成分センサ1の応答性を向上させることができる。また検体液10中の化学種によっては、有機薄膜表面の各種官能基と特異的な分極を生じるため、応答感度の高い溶液成分センサ1の作製が可能となる。
(5)フラーレンを含有した絶縁膜5はフラーレンの電気特性により、膜上の電荷の分布が平均化するので、膜の厚さのバラツキや歪みに起因する測定電圧のバラツキが抑えられ、再現性のよい応答感度の高い溶液成分センサ1の作製が可能となる。
(6)電極対3に接続された検出部6を備えているので、電極4間の電圧変化又は電流変化を簡便に検出することができ、その測定値に基づいて直ちに検体液10中の成分濃度を求めることができる。
(7)検出部6が検出した検出データに基づいて検体液10に含まれる成分の量を検知して状態を判定する判定部7を有するので、短時間で即座に検体液10の状態を知ることができ、取扱い性に優れる。
【0044】
(実施の形態2)
図3は実施の形態2における溶液成分センサを示す断面模式図である。
なお、実施の形態2における溶液成分センサと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、1aは実施の形態2における溶液成分センサ、5aは絶縁膜5に分散保持された錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質である。
また、基板2の表面に複数の電極対3を形成し、被覆する絶縁膜5に保持させた感応物質の種類を電極対3毎に異ならせておくこともできる。これにより、1枚の基板2で複数種の溶液成分を検知することができるため好ましい。
【0045】
以下、実施の形態2における溶液成分センサの製造方法の一例を説明する。
有機溶剤にエポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した合成樹脂液に、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶解したフラーレン液を混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製する。次いで錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質5aを前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解又は分散させたフラーレン・感応物質含有合成樹脂液を調製する。このフラーレン・感応物質含有合成樹脂液を、電極対3が形成された基板2の上にスピンコート等によって薄く塗布し、乾燥することによって溶液成分センサ1aを製造できる。
【0046】
次に、実施の形態2における溶液成分センサの動作原理について説明する。
図4は実施の形態2における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図である。
図4中、10は電極対3上の絶縁膜5に滴下した血液,リンパ液,細胞質基質等の検体液である。
絶縁膜5の表面に検体液10を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じ、電気二重層を形成し、検体液10側と絶縁膜5側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜5が誘電分極し、電極4と接している絶縁膜5内側にも電荷が生じる。この電荷の量は絶縁膜5の表面に露出した感応物質5aと相互作用する検体液10の特定の成分の濃度に依存するので、電極4間に電圧を負荷するか電流を流すと、電極4間の電流値や電圧値に変化が生じる。これを検出部6で検出する。
【0047】
実施の形態2の溶液成分センサは以上のように構成されているので、以下の作用を有する。
(1)電極4の表面及び電極4間の基板2の表面が感応物質5aを分散保持した絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に滴下した微量の検体液10中に含まれる特定の成分が、絶縁膜5の表面の感応物質5aと相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極4間の電位に変化が生じるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液10中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる。
(2)電極4の表面が絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に検体液10を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離を生じ電気二重層が形成される。電気二重層の電荷の量は、感応物質5aと相互作用する検体液10の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液10で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液10の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0048】
(実施の形態3)
図5は実施の形態3における溶液成分センサの断面模式図である。なお、実施の形態1又は実施の形態2における溶液成分センサと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、1bは実施の形態3における溶液成分センサ、5bは絶縁膜5に分散保持され錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質を担持したシリカゲル,活性炭,ゼオライト等の多孔体である。
なお、本実施の形態においては、平均粒径1〜30μmの多孔体を用いている。
【0049】
以下、実施の形態3における溶液成分センサの製造方法の一例を説明する。
まず、有機溶剤にエポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した合成樹脂液と、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶解して調製したフラーレン溶解液とを混合し、フラーレン含有合成樹脂液とする。次いでフラーレン含有合成樹脂液に多孔体5bを分散させてフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を調製する。このフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を、電極対3が形成された基板2の上にスピンコート等によって約0.5μmの厚さに塗布し乾燥することによって、絶縁膜5の表面に多孔体5bの一部が露出した構造を形成させる。
次に、錯体化合物、ホスト化合物、酵素、抗体、抗原等の感応物質を水やエタノール等の適当な溶媒に溶解させ、溶液成分センサ1bの表面に滴下し吸着させる。これを洗浄、乾燥して、感応物質を担持させた多孔体5bを表面に保持した溶液成分センサ1bを製造できる。
【0050】
実施の形態3における溶液成分センサの動作原理は、実施の形態2で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0051】
以上のように構成された実施の形態3における溶液分析センサによれば、実施の形態1又は2の作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)感応物質が多孔体5bに担持され絶縁膜5に分散保持されているので、感応物質を多孔体5bに担持させることができればどのような感応物質でも絶縁膜5に分散保持させることができ自在性に優れる。
(2)細孔の表面を化学修飾した多孔体に感応物質を担持させ、該多孔体を絶縁膜5に分散保持させると、多孔体の担持能を高められるため絶縁膜を検体液等に接触させたときに多孔体から感応物質を溶出し難くすることができる。このため、検体液の成分を繰り返し測定しても絶縁膜内の感応物質が減少し難いため、絶縁膜の感度を持続させ耐久性を高めることができる。
(3)また、表面が化学修飾された細孔によって、多孔体に担持された感応物質に加え、検体液中の成分との相互作用(例えば水素結合相互作用や静電相互作用)を利用し絶縁膜の分極現象を大きくすることができ、検出感度をさらに向上させることができる。
【0052】
図1〜5では、説明の都合上、一対の電極対3のみを図示したが、実施の形態1乃至3のいずれにおいても基板2上には1乃至複数の電極対3を形成することがき、その配置は任意に選択することができる。また、電極対の各々の電極の形状は限定されるものではないが、三角形状、矩形状、半円形状等に形成することができる。尚、電極対は非対称であっても、大きさが異なっていてもよく、辺部同士が対向するように配置される。また、本実施の形態では各々の電極4の側部から延設された2本の端子部4bを略L字型に形成し、基板2の一端部から取り出したが、これに限定されるものではなく、端子部4bの取り出し位置や取り出し方向は任意に選択することができる。
1枚の基板に5対の電極対3を作成した場合について図6に示す。幅20mm×長さ20mm×厚さ1mmのガラスの基板2に3mm径の半月型電極対3を5個設け、各々端子部4bと結合させている。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
まず、実施の形態1で説明した溶液成分センサ1について、溶液中の成分の検出能力について実験を行った。
溶液成分センサ1の基板2は1mm厚のガラス基板とし、半円形状の電極4を2mm離間させて対向配置した略円形状の電極対3の直径は3mmとした。電極4はスパッタリング法にてCr層0.1μm、Au層1μmを積層させ、フォトリソグラフィー法にてパターニングした。ガラス基板上にこのような電極対3を5対配置した。
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解した。この液をジクロロベンゼンに溶解したポリイミド系樹脂とフラーレン溶解液の体積比が1:1となるように混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製した。
次いで、スピンコーティング法によって基板2の全面をフラーレン含有合成樹脂液で被覆し、厚さ10μmのフラーレンを含む絶縁膜5を得た。
このフラーレンを含む絶縁膜5の表面に検体液10としてリン酸緩衝生理食塩水液(NaCl 8.0g/L pH7.2〜7.4)(以下これを濃度1のPBSと略す。)を各々2μL各々のセンサ電極対に滴下した。このPBSのナトリウムの濃度に対し、検出部6で検出される電極4間の電圧値をNa検出電圧として測定した。さらに濃度0.2及び濃度2.3のPBSについて、同様にしてNa検出電圧を測定した。
【実施例2】
【0054】
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解した後、孔径0.1μmのスピンカラムを使ってフラーレンの不溶成分を除いて使用した以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成し、実施例1と同様の測定をした。
【0055】
(比較例1)
絶縁膜5にフラーレンを含ませずジクロロベンゼンに溶解したポリイミド系樹脂で作成した以外は実施例1と同様にして、溶液成分を作成し、測定をした。
【0056】
図7は実施例1のNa濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
図8は実施例2のNa濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
図9は絶縁膜がフラーレンを含まない場合(比較例1)のナトリウム濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
絶縁膜がフラーレンを含有しない場合(図9)に比べて、図7、図8に示す実施例1,2のフラーレンを含有した絶縁膜ではガラス基板上に配置した5つのセンサ部のNa検出電圧のバラツキが小さくなり、精度の高い測定ができていることが示された。
また図8から、フラーレンの不溶成分を除去することでさらにバラツキが小さくなり、精度の高い測定ができることが示された。
【実施例3】
【0057】
次にフラーレンの絶縁膜中の濃度を変えた以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。結果を図10に示す。
図10よりフラーレン濃度を上げるにつれ検出電圧のバラツキが減っていくことが示された。しかし0.07g/cm3を超えると検出電圧のバラツキが大きくなってしまった。
これは樹脂膜が乾燥するときにフラーレン濃度が高いと膜としての形状を保つことができず、測定が困難なセンサ部分が生じてしまうことが原因である。
よって絶縁膜中のフラーレンの濃度は0.01〜0.07g/cm3が好ましい。
【実施例4】
【0058】
次に合成樹脂としてポリ塩化ビニルを使用した以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。
【0059】
(比較例2)
次に合成樹脂としてポリ塩化ビニルを使用した以外は比較例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。
【0060】
(比較例3)
実施例3のフラーレンを(A)酸化物系粒子であるチタニア、リチウムアルミネート、酸化ニッケル、酸化亜鉛、シリカゲル、(B)金属系粒子である塩化パラジウム、ニッケル、(C)炭素系粒子である単層カーボンナノチューブ、カードラン、多層カーボンナノチューブに変えて同様に測定した。使用量は実施例1のフラーレンと同じ20mgである。
【0061】
実施例4と比較例2及び比較例3の結果を表1に示す。平均電圧が低いほど測定範囲が広がる。またCV値が低いほど測定値のバラツキが小さいことを表す。粒子を何も加えなかったコントロールと比較すると他の酸化物系粒子や金属系粒子、炭素系粒子に比べてフラーレンが平均電圧を下げなおかつバラツキを抑える効果が高いことが示された。
【0062】
【表1】
【実施例5】
【0063】
実施例4と同様に溶液成分センサの基板と電極を準備した。
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解し、孔径0.1μmの遠心式限外ろ過フィルターユニットを使ってフラーレンの不溶成分を除いた。テトラヒドロフランに溶解したポリ塩化ビニル樹脂液と不溶成分を除いたフラーレン溶液の体積比が1:1となるように混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製した。テトラヒドロフランにフラーレンは溶解しないので、混合するとフラーレンが析出し微粒子となって分散したフラーレン含有合成樹脂液となった。このフラーレン含有樹脂液に、多孔体としてシリカゲル(和光純薬(株)製)を20mg/mLとなるように添加しフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を得た。
次いで、スピンコーティング法によって基板2の全面をフラーレン・多孔体含有合成樹脂液で被覆し、表面にシリカゲルを露出した厚さ20μmのフラーレンを含有した絶縁膜5を得た。
マウスのIgG抗体(シグマ社製)を100μg/mLとなるようにPBS(1倍濃度)で希釈する。これを各センサ表面に5μLずつ滴下し、絶縁膜表面に露出したシリカゲルに吸着させる。5分間室温で放置した後、エアーブロー処理により液を吹き飛ばし、蒸留水を各センサ表面に15μLずつ滴下し、吸着しなかったIgG抗体を洗浄する。5分間室温で放置した後、エアーブロー処理により液を吹き飛ばし、IgGを感応物質として担持したシリカゲルを表面に露出した絶縁膜を持つ溶液成分センサを得た。
抗マウスIgG抗体(抗抗体)(DAKO社製)を5倍濃度のPBSによって希釈し、濃度0.5μg/mL、1μg/mL、4μg/mL、7μg/mL、10μg/mLの抗抗体液を調製する。
この抗抗体液を検体液とする。電極対3の表面に、まず0.2倍濃度のPBSを4μLずつ滴下し、検出部6で検出される電極間4の電圧値E0を2分間計測した。計測を継続したまま、検体液を各電極対3に12μLずつ滴下し4分間保持して計測を終了した。
検体液滴下による最大検出電圧をE1、検体液滴下から3〜5分間における検出電圧の平均値E2を解析し、各々の測定センサの相対応答値R=(E2−E0)/(E1−E0)を算出した。
【0064】
(比較例4)
フラーレンを添加しなかった以外は実施例2と同様にセンサを作成し、実施例5と同様の測定を行った。
【0065】
図11に実施例5の、図12に比較例4の結果を示す。縦軸が相対応答率Rを、横軸が検体液中の抗抗体の濃度を示す。
フラーレン微粒子を含まない比較例4(図12)に比べてフラーレン微粒子を絶縁膜中に分散させた実施例5(図11)は測定値のバラツキが小さく、再現性よく測定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、検体液中のイオン、糖、脂質、抗体、抗原等の特定成分の有無や濃度を検知することのできる溶液成分センサに関し、構造が簡単でシステム全体を小型化することができ、半導体製造技術を利用して製造することができ量産性に優れ、検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の特定成分を極短時間で精度よく検知可能な信頼性、作業性に優れる溶液成分センサを提供できる。
【符号の説明】
【0067】
1,1a、1b 溶液成分センサ
2 基板
3 電極対
4 電極
4a 辺部
4b 端子部
5 絶縁膜
5a 感応物質
5b 多孔体
6 検出部
7 判定部
10 検体液
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体液中に含まれるイオン、糖、脂質、抗体、抗抗体、抗原等の種々の成分の濃度を電圧変化又は電流変化に基づいて検知することができる溶液成分センサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロマシン技術の一種として、微量液体の分析、反応、ならびに分離操作に利用する流体マイクロシステム(fluid MEMS:micro electro
mechanical system)が知られている。
流体マイクロシステムはマイクロポンプ、ミキサ、バルブ、リアクタ、セパレータ、センサなどの各要素を基板(チップを含む)上に実装し、パッケージ化したものであり、ポストゲノム研究およびプロテオーム研究の発展に欠かせないツールとして期待されている。
このような流体マイクロシステムにおける検体液の濃度を計測する手段として、例えば(特許文献1)には、「基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆し血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液と接触する絶縁膜と、を備えていることを特徴とする酸化ストレス物質検知センサ」が開示されている。この方法では検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の一酸化窒素などの特定の成分を極短時間で精度よく検知できるが、選択性が乏しいため、特定成分の有無や濃度の検知が困難であった。そのため、特定成分の有無や濃度の検知ができる選択性の付与が要望されていた。
【0003】
また、本発明者は、構造が簡単でシステム全体を小型化することができるとともに、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるので新たな設備を要さず量産性に優れ、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる選択性のあるセンサの提供を目的として鋭意研究の結果、「基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆し感応物質を分散保持した絶縁膜と、を備えた溶液成分センサ」を完成し、特許出願した(特許文献2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−271287号公報
【特許文献2】特開2008−134105号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Sensors and Actuators B: Chemical”(Elsevier),Volume 129,Pages958-970,T.Isoda et al.(22 February 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)の酸化ストレス物質検知センサは、本願出願人らが出願したものであり、検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の一酸化窒素などの特定の成分を極短時間で精度よく検知できる。しかし半導体製造方法で、基板上にこれらのセンサを複数配置させ、これを同時に測定する場合、絶縁膜の性状を一定に成膜することが難しく、その結果各々のセンサの検出電圧のバラツキが大きくなり再現性の改善が望まれていた。
(2)(特許文献2)の溶液成分センサも、本願出願人らが出願したものであり、絶縁膜に感応物質を分散保持させることにより、複数成分が混在した検体液中の1ppm程度の極微量の無機イオンや抗体あるいは抗原等の特定の成分を極短時間で精度よく検知できる。しかし、基板上にセンサを複数配置させ、同濃度の検体液を同時に測定する場合、検出感度が高いために溶液成分センサ自身の絶縁膜のわずかな歪みや絶縁膜の厚さに起因する誘電率のバラツキなども検出してしまい、その結果検出電圧の精度が低くなるという問題を生じた。さらに各センサ毎に異なる濃度の検体液を測定した場合、この誤差によって検体濃度に対する応答電圧の関係(検量線)の線形性が低下し、基板上のセンサ毎の測定値の精度の改善が望まれていた。
【0007】
本発明は上記要望に応えるもので、構造が簡単でシステム全体を小型化することができ、しかも既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、検体液中に含まれる1ppm程度のイオン、糖、脂質、抗体、抗原等の成分の濃度を極短時間で精度よく計測可能な信頼性、作業性に優れた溶液成分センサの提供を目的とする。
また本発明は、検出電圧のバラツキが小さく、再現性のよいデータを得ることが可能な溶液成分センサの量産性に優れた製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の溶液成分センサとその製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の溶液成分センサは、基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆した絶縁膜と、を有し、前記絶縁膜がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有していること、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に含有されていることにより、絶縁膜の誘電率が低下するとともに、絶縁膜の表面電荷が平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性をさらに高める。
(2)電極の表面及び電極間の基板の表面がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有する絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液中に含まれる成分の量に応じて変化する絶縁膜表面の静電分極量を電極間の電圧値又は電流値として短時間で、従来法よりも精度よく、検出することができる。
(3)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が発生し、検体液に含まれる電解効果の大きな無機イオンあるいは抗抗体などの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
(4)構造が簡単な電極対を半導体作製技術によって基板上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる。
【0009】
ここで、絶縁膜の表面に検体液を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が生じ、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。電極間に電圧を負荷させると、この電荷が電子の流れを加速するため、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。検体液中に含まれる無機イオンあるいは抗抗体などの成分は、この誘導分極効果が大きいため、成分濃度に比例した電流値や電圧値の変化を検出することができる。
【0010】
基板の材質としては分析する検体液によって侵されず、基板上に電極対及び絶縁膜を形成することができ、電極対を電気的に絶縁できるものであればよく、例えば、各種の合成樹脂、ガラス、セラミックスなどが好適に用いられる。特にガラス等の透明な材質を用いた場合は、顕微鏡などによる検体液の観察も行うことができ汎用性に優れる。また、基板の形状は、矩形状、多角形状、円盤状などの種々な形状に形成することができる。
電極の素材としては、例えばPt、Au、Ag、Fe、Ni、Co、Cr、Cu、Al、Ti、Mn、Zn等の金属、ステンレス等の合金などを採用することができる。電極は、基板上に化学蒸着して形成してもよいし、あらかじめ基板上に作成した金属薄膜をドライエッチングやウエットエッチングでパターニングして形成してもよい。また、電極対の各々の電極は同種の金属を用いてもよいし、異種金属を組み合わせてもよい。尚、ガラス基板にCrを蒸着した上からAu電極を形成することにより、Crがバインダとなって密着性を向上させることができる。
【0011】
尚、1枚の基板上には1乃至複数の電極対を形成することがき、その配置は任意に選択することができる。また、電極対の各々の電極の形状は限定されるものではないが、三角形状、矩形状、半円形状等に形成することができる。また、電極対は非対称であっても、大きさが異なっていてもよく、辺部同士が対向するように配置される。
対向する2つの電極の辺部間の間隔は、検体液や電極の種類などにもよるが、5μm〜10mm、好ましくは10μm〜5mmの範囲とすることが好ましい。辺部間の間隔が10μmより狭くなるにつれ、検体液中の成分濃度に対する電流値等の電気特性の相関が小さくなり、応答感度が低下する傾向が見られ、間隔が5mmより広くなるにつれ、検出感度が低下し易くなり、データの再現性に欠ける傾向が見られるためである。特に電極の辺部間の間隔が5μmより狭くなるか10mmより広くなるにつれ、信号ノイズが大きくなり、電流値や電圧値の変化を正確に検出することが困難になる傾向があり、いずれも好ましくない。
【0012】
絶縁膜は電極の機械強度を保持するため、基板全面を被覆することが好ましいが、少なくとも電極の表面を被覆していればよい。
絶縁膜は、有機溶剤にポリ塩化ビニル,エポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した原料溶液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥して製造することができる。絶縁膜の膜厚は材質によって異なるが、検体液と電極対の間を確実に絶縁でき、センサとしての応答性を保つことができる範囲で選択する必要がある。絶縁膜の膜厚が薄くなるにつれ、絶縁膜の効果が不十分となりセンサの感度が低下する傾向があり、厚くなるにつれ、検体液中の成分濃度が変化しても電圧値や電流値に変化が見られなくなりセンサの応答性が消失する傾向があり、いずれも好ましくない。例えば、フルオロオレフィンビニルエーテール重合体(分子量分布100〜1000)であれば0.2μm〜0.8μmが好ましい。これらの樹脂による絶縁膜の厚みが平均0.2μm未満であると検体液と電極対の間を確実に絶縁できない恐れがある。また、平均0.8μmを超えるとセンサとしての応答性が下がり実用的でない。
ノボラック系フェノール樹脂(分子量分布1000〜10000))、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂であれば、5μm〜20μmが好ましい。これらの樹脂による絶縁膜の厚みが平均5μm未満であると検体液と電極対の間を確実に絶縁できない恐れがある。また、平均20μmを超えるとセンサとしての応答性が下がり実用的でない。
【0013】
絶縁膜を構成する樹脂にフラーレン又はフラーレン誘導体を含有させると、絶縁膜の誘電率が減少するとともに、表面電荷の分布が平均化するので、センサの絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、再現性よく精度の高い測定ができるようになる。
【0014】
フラーレンは炭素原子が20個以上結合してできた球状の閉殻構造を有するカーボンクラスター分子の総称であり、C60のほかC20、C70、C82、C320など様々な大きさのフラーレンが知られており、レーザー法、アーク放電法、合成法などで製造されたものが使用できる。フラーレンの種類は特に限定しないが、現在C60が最もよく流通しており利用しやすく好ましい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶液成分センサであって、前記絶縁膜が感応物質を分散保持している構成を有している。
この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)電極の表面及び電極間の基板の表面が感応物質を分散保持した絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の検体液中に含まれる特定の成分が、絶縁膜の表面の感応物質と相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極間の電位に変化が生ずるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる。
(2)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離を生じ、その静電誘導効果によって絶縁膜を構成している分子に分極が生じる。分極による電荷の量は、感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0016】
ここで、絶縁膜の表面に検体液を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が生じ、電気二重層を形成し、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。この電荷の量は感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に依存するので、電極間に電圧を負荷するか電流を流すと、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。これを検知することで検体液中に含まれる特定の成分の有無や濃度を検知することができる。
また、シリカゲル,チタニア,アルミナ,硫化カドミウム,酸化鉛等の無機多孔質担体あるいは微粒子担体、ゼオライト,モンモリロナイト等の合成あるいは天然鉱物粒子、カーボンブラック,活性炭,炭素繊維,カーボンナノチューブ等の炭素材料を主成分とした多孔質担体あるいは微粒子担体、金,銀,銅,白金,パラジウム,鉄,コバルト,ニッケル等の金属微粒子あるいはコロイド分散液、ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレン,木材,紙,布等の有機高分子材料からなる多孔質担体あるいは微粒子担体等に感応物質を担持させ、該有機剤に多孔体を分散させフラーレンまたはフラーレン誘導体の微粒子を分散させた原料溶液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥して製造することができる。さらに前記多孔質担体とフラーレンまたはフラーレン誘導体の微粒子を予め分散させた原料用液を、電極対が形成された基板の上にスピンコート等によって塗布・乾燥させ、その膜表面に感応物質を溶解させた溶液を滴下させることで、感応物質をセンサ上に吸着担持させることができる。
【0017】
感応物質としては、検体液の特定成分と相互作用を生じるものであれば特に制限なく用いることができ、錯体形成化合物、ホスト化合物、酵素、抗体、抗原、カロチン、ポリフェノール等の活性酸素スカベンジャー類、タンパク質、DNA、RNA、糖鎖、糖脂質等を用いることができる。
錯体形成化合物としては、例えば、金属イオンと錯体を形成するポルフィリン類,EDTA(エチレンジアミン三酢酸)ならびにその誘導体,NTA(ニトリロ三酢酸)ならびにその誘導体等に代表される金属キレーター類、Bis(benzo-15-crown-5),Bis(12-crown-4), Dibenzyl-bis(12-crown-4)等カリウム,ナトリウム,カルシウム,リチウム等の金属イオンと錯体を形成するクラウンエーテル誘導体、酸化ストレス物質と関連し体内で発生する一酸化窒素と錯体を形成するDTCS Na(N-(Dithocarboxy)sarcosine, disodium salt, dihydrate)の鉄錯体やMGD(N-(Dithocarbamoyl)-N-metyl-D-glucamine, disodium salt)の鉄錯体等が用いられる。
ホスト化合物としては、例えば、バリノマイシン,モネンシン,ラサロシド,サリノマイシン等のイオノフォア抗生物質、シクロデキストリン、カリックスアレーン等のゲストと包接化合物を形成する各種ホスト化合物、ビオチン分子と選択的に結合するアビジン等の抗体蛋白質、DNAやRNAの塩基配列に補完的に水素結合するDNA断片、RNA断片ならびに糖鎖が用いられる。さらに構造中にマクロポアあるいはミクロポアを持つゼオライト類,アルミナ,チタニア,シリカ等の合成段階の前駆体溶液に、界面活性剤ミセルや有機微粒子を混入させ、過熱・固体化段階でこれを分解させ、その混入粒子のサイズによって微細孔を形成させる等の分子鋳型手法で調整した無機材料、活性炭類,カーボンナノチューブ類を用い、その分子篩効果を利用して細孔サイズ以下の分子のみを選択的に吸着させるホスト機能を有する材料でもよい。
酵素としては、アルコールオキシダーゼ,LDH,G−6−PDH,GOD,ウリカーゼ,カタラーゼ,ペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素、GOT,GPT,CPK等の転移酵素、リパーゼ,アミラーゼ,キモトリプシン,トロンビン,ウレアーゼ,アルギナーゼ,コレステロールエステラーゼ等の加水分解酵素、アルドラーゼ等の分解酵素、ホスホヘキソースイソメラーゼ等の異性化酵素、アセチル−CoA−シンセターゼ等の合成酵素等を用いることができる。
抗体や抗原としては、例えば、梅毒センサ用のトレポネーマや擬似脂質抗原、血液型センサ用の血液型決定物質、抗免疫グロブリンG,A,M,E抗体、癌センサ用のAFP抗体等、ビオチン分子と選択的に結合するアビジン等の抗体蛋白質を用いることができる。
【0018】
絶縁膜中に分散保持する感応物質は、感応物質が絶縁膜の有機溶剤に溶解しない物質(微粒子状態で絶縁膜中に分散)の場合は、絶縁膜の原料溶液中1〜50wt%の範囲が望ましい。感応物質が1wt%未満では、検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、50wt%を超えると絶縁膜の機械的強度が低下するため、いずれも好ましくない。
また、感応物質が絶縁膜の有機溶剤に溶解する物質(均一に絶縁膜中に分散)の場合は、絶縁膜の原料溶液中0.1〜25wt%の範囲が望ましい。感応物質が0.1wt%未満では、検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、25wt%を超えるとセンサの応答感度が低下し検体液中の特定成分の有無や濃度の検出が困難になる不都合が生じるため、いずれも好ましくない。
【0019】
本発明の溶液成分センサは、検体液の特定成分の有無や濃度の検知、例えば、化学センサやバイオセンサ等として利用される。測定対象としては、例えば、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Cl-、NO2-、NO3-、SO42-、NH4+、PO43-等のイオン、グルコース等の糖、コレステロール,中性脂質等の脂質、フェニルアラニン,ロイシン等のアミノ酸、アルブミン等のタンパク質、インスリン,TSH等のホルモン、免疫グロブリン等の抗体、抗原、ビタミン、体内の代謝経路で生産される一酸化窒素(RNOS)、ヒドロキシラジカル,スーパーオキシド,過酸化脂質等に代表される活性酸素(ROS)類等の酸化ストレス物質等を挙げることができる。血液,リンパ液,尿,汗,唾液等の体液に含有されるこれらの成分の検知も行うことができる。
【0020】
多孔体は、平均粒径が1〜30μmのものが好適に用いられる。多孔体の平均粒径が1μmより小さくなると凝集し易く取扱性に欠け、30μmより大きくなると膜厚の薄い絶縁膜に保持するのが困難になり脱落し易くなるからである。
多孔体の添加量は、絶縁膜の原料溶液に対して1〜50wt%の範囲が望ましい。1wt%未満では検体液の特定成分との相互作用の検出が困難になる不都合が生じ、50wt%を超えると絶縁膜の機械的強度が低下するため、いずれも好ましくない。
多孔体の細孔の表面はアミノ基、カルボキシル基、水酸基、ケトン基、アセチル基、炭化水素鎖等の官能基や、アミド化、スルホン化、ニトリル化、エステル化、トリメチルシリル化、オクチル化、オクタデシル化、アミノプロピル化、シアノプロピル化等により化学修飾することができるが、これらに限定されるものではない。検体液中の対象成分や多孔体の種類に応じて適宜選択することができる。
化学修飾する方法としては、多孔体をテトラクロロエタン中で硫酸と反応させることによりスルホン化する方法、ブチルアミンやプロピルアミン等を用いて脱水トルエン中でアミド化する方法、塩化バレロイル等を用い脱水トルエン中でエステル化する方法、鍍金、化学蒸着あるいはスパッタリング等の方法でコーティングさせ、これにチオールあるいはニトリロ三酢酸(NTA)等の誘導体を溶解させた溶液に含浸させて金属表面に化学吸着あるいは錯体を形成する性質を利用して分子を配向させる自己組織化膜法等を用いることができる。
【0021】
感応物質を多孔体に担持させるには、感応物質を水やエタノール等の適当な溶媒に溶解させ、これに多孔体を混合し含浸させればよい。多孔体の表面に感応物質を物理吸着させることができるし化学吸着させてもよい。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の溶液成分センサであって、前記絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度が0.01g/cm3〜0.07g/cm3である構成を有している。
この構成により、請求項1又は2の作用に加え、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に適量含有されていることにより、絶縁膜の誘電率の低下によりセンサ電圧が適正なレンジ範囲で検出され、絶縁膜の表面電荷の平均化により絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性をさらに高める。
【0023】
ここで絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度は0.01g/cm3〜0.07g/cm3が好ましい。0.01g/cm3よりも低い濃度ではフラーレンを含有させることによる検出電圧のバラツキを抑える効果が小さく、好ましくない。また0.07g/cm3よりも高い濃度では絶縁膜の均一性が低下して膜形状が安定せず信号測定が困難となり好ましくない。
【0024】
請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法は、フラーレン又はフラーレン誘導体を合成樹脂に混合してフラーレン含有合成樹脂液を調製する合成樹脂液調製工程と、基板上に所定間隔を置いて配置された電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面に前記フラーレン含有合成樹脂液を塗布して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を有する構成を有している。
この構成により、以下のような作用を有する。
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が合成樹脂に混合されるので絶縁膜中に均一に含有され、絶縁膜の部分によるバラツキを抑えることができるので、同一の基板上に複数のセンサを備えていてもセンサ間の検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサが製造できる。
(2)複数のセンサ間のバラツキが少ないので、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、信頼性、作業性に優れた溶液成分センサが製造できる。
【0025】
ここでフラーレンを合成樹脂に混合する方法には、粉体のまま樹脂に混錬する方法や溶媒に予め溶解して添加する方法が使用できる。フラーレンを溶解する有機溶媒としては、特に限定しないがジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、四塩化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、クロロナフタレンなどを用いることができる。発明者の知見によるとフラーレンを予め溶解して合成樹脂に添加した場合、合成樹脂を溶解している溶媒によってフラーレンは以下の2通りの挙動を示す。
(1)合成樹脂を溶解している溶媒に対するフラーレンの溶解度が高い場合。
合成樹脂液との添加混合過程や樹脂溶液が塗布され乾燥して溶媒が蒸発する過程において、フラーレンの微粒子が析出することなく合成樹脂中に均一に分散したまま固化する。
(2)合成樹脂を溶解している溶媒に対するフラーレンの溶解度が低い場合。
合成樹脂液に添加混合すると、合成樹脂液中でフラーレンが主として1〜5μmの微粒子として析出し、均一に分散する。樹脂と共に塗布され、均一分散したまま乾燥する。
(1)、(2)のいずれの場合も本願のセンサの機能としては差が認められなかった。
【0026】
合成樹脂としては前述のフルオロオレフィンビニルエーテル重合体やノボラック系フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等が好適に用いられる。
合成樹脂を溶解する溶媒とフラーレンを溶解する有機溶媒が異なる場合には両者を添加混合する合成樹脂液調製工程で合成樹脂が不均一に析出しないことが好ましい。両者を添加混合して合成樹脂が不均一に析出する場合には均一に形成された絶縁膜とならない恐れがあるためである。
フラーレン含有合成樹脂液液の塗布方法は特に限定しないが、ロール法、スピンコート法、インクジェット法やスプレーによる吹きつけなどが使用できる。またディップコーティングで塗布したり、基板上に滴下した溶液をそのまま乾燥・固化させてもよい。
【0027】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法であって、前記合成樹脂液調製工程において、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶媒に溶解し不溶成分を分離除去する工程を有する構成を有している。
この構成により、請求項4の作用に加えて以下のような作用を有する。
(1)溶媒に不溶性のフラーレン成分が分離されることで、絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の分布がより均一となり、より検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサが製造できる。
【0028】
ここでフラーレンを溶解する溶媒としては、特に限定しないがジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、四塩化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、クロロナフタレンなどを用いることができる。
溶媒に溶けなかったフラーレンの不溶成分の分離には限外ろ過による方法、遠心分離により不溶成分を沈降させて上清と分ける方法などが使用できる。
【0029】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の溶液成分センサの製造方法であって、前記合成樹脂液調製工程において、感応物質を前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解または分散させる工程を有する構成を有している。
この構成により、請求項4又は5の作用に加えて以下のような作用を有する。
(1)感応物質が絶縁膜に含まれているので、検体液中の特定物質を非常に高感度で再現性よく検出できる溶液成分センサが製造できる。
【0030】
ここで感応物質は直接添加または、溶媒などに分散あるいは溶解してから添加することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明の溶液成分センサとその製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)フラーレン又はフラーレン誘導体が絶縁膜中に含有されていることにより、絶縁膜の誘電率が低下するとともに、絶縁膜の表面電荷が平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性がさらに高い溶液成分センサを提供することができる。
(2)電極の表面及び電極間の基板の表面がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有する絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の血液、リンパ液、細胞質基質などの体液を含む検体液中に含まれる成分の量に応じて変化する絶縁膜表面の静電分極量を電極間の電圧値又は電流値として短時間で、従来法より精度よく、検出することができる溶液成分センサを提供することができる。
(3)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離が発生し、検体液に含まれる電解効果の大きな無機イオンあるいは抗抗体などの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる溶液成分センサを提供することができる。
(4)構造が簡単な電極対を半導体作製技術によって基板上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる溶液成分センサを提供することができる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)電極の表面及び電極間の基板の表面が感応物質を分散保持した絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に滴下した微量の検体液中に含まれる特定の成分が、絶縁膜の表面の感応物質と相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極間の電位に変化が生ずるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる選択性に優れた溶液成分センサを提供することができる。
(2)電極表面が絶縁膜で被覆されていることにより、絶縁膜上に検体液を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜と検体液の界面に電荷の分離を生じ、その静電誘導効果によって絶縁膜を構成している分子に分極が生じる。分極による電荷の量は、感応物質と相互作用する検体液の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液の採取や取り扱いが容易で作業性に優れた溶液成分センサを提供することができる。
【0033】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)フラーレンが絶縁膜中に適量含有されていることにより、絶縁膜の誘電率の低下と絶縁膜の表面電荷の平均化により検出感度の鋭敏さが緩和されると共に平均化され、絶縁膜の持つ部分的な歪みや厚さのバラツキに起因する検出電圧のバラツキを抑え、データの精度と再現性がさらに高い溶液成分センサを提供することができる。
【0034】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)フラーレンが合成樹脂に混合されるので、絶縁膜中に均一に含有され、絶縁膜の部分によるバラツキを抑えることができるので、同一の基板上に複数のセンサを備えていてもセンサ間の検出電圧のバラツキの少なく、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
(2)複数のセンサ間のバラツキが少ないので、既存の半導体製造技術を利用して製造することができるとともに、量産性に優れ、信頼性、作業性に優れた溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【0035】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4の効果に加え、
(1)溶媒に不溶性のフラーレン成分が分離されることで、絶縁膜中のフラーレンの分布がより均一となり、より検出電圧のバラツキの少ない、再現性のよいデータを得られる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【0036】
請求項6に記載の発明によれば、請求項4又は5の効果に加え、
(1)感応物質が絶縁膜に含まれているので、検体液中の特定物質を非常に高感度で再現性よく検出できる溶液成分センサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)実施の形態1における溶液成分センサを示す平面図 (b)図1(a)のA−A線矢視断面模式図
【図2】実施の形態1における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図
【図3】実施の形態2における溶液成分センサの断面模式図
【図4】実施の形態2における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図
【図5】実施の形態3における溶液成分センサの断面模式図
【図6】複数のセンサ部分を同一基板上に設けた溶液成分センサの模式図
【図7】実施例1のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図8】実施例2のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図9】比較例1のナトリウム濃度とNa検出電圧の関係を示す図
【図10】実施例3の絶縁膜中のフラーレン濃度とNa検出電圧との関係を示す図
【図11】実施例2の検体液の抗IgGの濃度と検出電圧の関係を示す図
【図12】比較例2の検体液の抗IgGの濃度と検出電圧の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1(a)は実施の形態1における溶液成分センサを示す平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線矢視断面模式図である。
図1中、1は本発明の実施の形態1における溶液成分センサ、2は各種の合成樹脂、ガラス、セラミックスなどで形成した溶液成分センサ1の基板、3は基板2の上面に略半円形状の2つの電極4が辺部4a同士で対向するように離間して配置された溶液成分センサ1の電極対、4bは各々の電極4の円弧状の側部に延設された電極対3の端子部、5は電極対3を含んで基板2の全面を被覆したフルオロオレフィンビニルエーテル重合体やノボラック系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などからなるフラーレンを含有した絶縁膜、6は端子部4bで電極対3に電気的に接続され、電極4間の電圧値や電流値等を検出するデジタルマルチメータなどの検出部、7は検出部6に接続され検出部6が検出した検出データに基づいて検体液に含まれる特定の成分の量を検知して特定の成分の有無や濃度を判定する判定部である。
【0039】
図1において、基板2の材質は、本実施の形態に限定されるものではなく、分析する検体液によって侵されず、基板2上に電極対3及び絶縁膜5を形成することができ、電極対3を電気的に絶縁できるものであればよい。特にガラス等の透明な材質を用いた場合は、顕微鏡などによる検体液の観察も行うことができ汎用性に優れる。また、基板2の形状は、矩形状以外に多角形状、円盤状などの種々な形状に形成することができる。
本実施の形態では、基板2にCrを蒸着した上からAuの電極4を形成することにより、Crをバインダとして電極4と基板2の密着性を向上させている。
【0040】
対向する2つの電極4の辺部4a間の間隔は、検体液や電極4の種類などにもよるが、1μm〜10mmの範囲に形成した。辺部4a間の間隔が1μmより狭くなるにつれ、検体液中の成分の濃度に対する電流値等の電気特性の相関が小さくなり、応答感度が低下し易くなる傾向があり、間隔が10mmより長くなるにつれ、検出感度が低下し易くなり、データの再現性に欠ける傾向があることがわかったためである。
【0041】
本実施の形態では、基板2の全面を絶縁膜5で被覆したが、絶縁膜5は少なくとも電極4の表面を被覆していればよい。
絶縁膜5の膜厚は材質によって異なるが、検体液と電極対3の間を確実に絶縁でき、センサとしての応答性を保つことができる範囲で選択する必要がある。絶縁膜5の膜厚が薄くなるにつれ、絶縁膜5の効果が不十分となりセンサの感度が低下する傾向があり、厚くなるにつれ、検体液中の特定の成分濃度が変化しても電圧値や電流値に変化が見られなくなりセンサの応答性が低下する傾向があることがわかったためである。例えば、フルオロオレフィンビニルエーテール重合体(分子量分布100〜1000)であれば0.2μm〜0.8μmが好ましく、ノボラック系フェノール樹脂(分子量分布1000〜10000)、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリイミド系樹脂であれば、5μm〜20μmが好ましい。
【0042】
以下、実施の形態1における溶液成分センサの動作原理について説明する。
図2は実施の形態1における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図である。
図2中、10は電極対3上のフラーレンを溶解した絶縁膜5に滴下した検体液である。
フラーレンを含有した絶縁膜5の表面に検体液10を滴下或いは塗布する等して接触させると、フラーレンを含有した絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じ、溶液側と絶縁膜側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜が誘導分極し、電極間と接している絶縁膜内側にも電荷が生じる。電極間に電圧を負荷させると、この電荷が電子の流れを加速するため、電極間の電流値や電圧値に変化が生じる。検体液10中に含まれる抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分は、この誘導分極効果が大きいため、その濃度に比例した電流値や電圧値の変化を検出部6で検出することができる。
フラーレンを含有した絶縁膜5はフラーレンの電気特性により、膜面上の電荷の分布の局所的なバラツキを抑えられる。絶縁膜5はフラーレンにより誘電率を下げられ、膜の歪みや厚さの局所的バラツキに起因する測定電圧のバラツキが減少し、より再現性のよい測定が可能となる。
判定部7に予めその物質の濃度と電圧値若しくは電流値との関係を記憶させておき、その標準データと検出データ(測定データ)を比較することにより、確実かつ迅速な濃度の判定を行うことができる。
また、判定部7に記憶部を設けて検出データを継続的或いは定期的に記憶させておくことにより、検体の状態の変化や推移を管理することができ汎用性に優れる。
【0043】
実施の形態1の溶液成分センサは以上のように構成されているので、以下の作用を有する。
(1)電極4の表面及び電極4間の基板2の表面が絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に滴下した微量の検体液10中に含まれる抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分の量に応じて変化する電極4間の電圧値又は電流値を短時間で精度よく再現性よく検出することができ、検体の状態を簡便に判定することができる。
(2)構造が簡単な電極対3を半導体作製技術によって基板2上に高密度に集積させることができ、小型化が容易で量産性に優れ、電気回路や半導体集積回路などに容易に組み込むことができ、検出した化学的な情報を電気信号として短時間で処理することができ、高度で複雑な分析が可能な検知システムを構築することもできる。
(3)電極4表面がフラーレンを含有した絶縁膜5で被覆されていることにより、フラーレンを溶解した絶縁膜5上に検体液10を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が発生し、帯電量が増加して誘導分極が起る。電極4と接しているフラーレンを溶解した絶縁膜5内側にも電荷が生じるため、電極4間に電圧を負荷させることにより、その電荷が電子の流れを加速して検体液10に含まれる分極効果の大きな抗体、抗抗体やNaイオンなどの成分を検出することができるので、1〜10μLの極微量な検体液10で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液10の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
(4)絶縁膜5上に検体液10を滴下或は塗布する等して接触させると、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じるが、絶縁膜5を形成する有機薄膜層の表面には高分子末端あるいは分岐末端の化学構造に由来する各種官能基(カルボキシル基、ケトン基、水酸基、アミノ基、エーテル基等)ならびに極性基(フッ素、塩素、臭素等)が存在するため、この分極現象が大きく、溶液成分センサ1の応答性を向上させることができる。また検体液10中の化学種によっては、有機薄膜表面の各種官能基と特異的な分極を生じるため、応答感度の高い溶液成分センサ1の作製が可能となる。
(5)フラーレンを含有した絶縁膜5はフラーレンの電気特性により、膜上の電荷の分布が平均化するので、膜の厚さのバラツキや歪みに起因する測定電圧のバラツキが抑えられ、再現性のよい応答感度の高い溶液成分センサ1の作製が可能となる。
(6)電極対3に接続された検出部6を備えているので、電極4間の電圧変化又は電流変化を簡便に検出することができ、その測定値に基づいて直ちに検体液10中の成分濃度を求めることができる。
(7)検出部6が検出した検出データに基づいて検体液10に含まれる成分の量を検知して状態を判定する判定部7を有するので、短時間で即座に検体液10の状態を知ることができ、取扱い性に優れる。
【0044】
(実施の形態2)
図3は実施の形態2における溶液成分センサを示す断面模式図である。
なお、実施の形態2における溶液成分センサと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、1aは実施の形態2における溶液成分センサ、5aは絶縁膜5に分散保持された錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質である。
また、基板2の表面に複数の電極対3を形成し、被覆する絶縁膜5に保持させた感応物質の種類を電極対3毎に異ならせておくこともできる。これにより、1枚の基板2で複数種の溶液成分を検知することができるため好ましい。
【0045】
以下、実施の形態2における溶液成分センサの製造方法の一例を説明する。
有機溶剤にエポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した合成樹脂液に、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶解したフラーレン液を混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製する。次いで錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質5aを前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解又は分散させたフラーレン・感応物質含有合成樹脂液を調製する。このフラーレン・感応物質含有合成樹脂液を、電極対3が形成された基板2の上にスピンコート等によって薄く塗布し、乾燥することによって溶液成分センサ1aを製造できる。
【0046】
次に、実施の形態2における溶液成分センサの動作原理について説明する。
図4は実施の形態2における溶液成分センサの使用状態を示す断面模式図である。
図4中、10は電極対3上の絶縁膜5に滴下した血液,リンパ液,細胞質基質等の検体液である。
絶縁膜5の表面に検体液10を滴下或いは塗布する等して接触させると、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離が生じ、電気二重層を形成し、検体液10側と絶縁膜5側は等しい数の極性の異なる電荷で帯電状態になる。その結果、絶縁膜5が誘電分極し、電極4と接している絶縁膜5内側にも電荷が生じる。この電荷の量は絶縁膜5の表面に露出した感応物質5aと相互作用する検体液10の特定の成分の濃度に依存するので、電極4間に電圧を負荷するか電流を流すと、電極4間の電流値や電圧値に変化が生じる。これを検出部6で検出する。
【0047】
実施の形態2の溶液成分センサは以上のように構成されているので、以下の作用を有する。
(1)電極4の表面及び電極4間の基板2の表面が感応物質5aを分散保持した絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に滴下した微量の検体液10中に含まれる特定の成分が、絶縁膜5の表面の感応物質5aと相互作用する場合、特定の成分の有無や量に応じて電極4間の電位に変化が生じるため、これを検出することで、複数成分が混合した検体液10中の特定成分の有無等を短時間で精度よく検知することができる。
(2)電極4の表面が絶縁膜5で被覆されていることにより、絶縁膜5上に検体液10を滴下或いは塗布するだけで、絶縁膜5と検体液10の界面に電荷の分離を生じ電気二重層が形成される。電気二重層の電荷の量は、感応物質5aと相互作用する検体液10の特定の成分の濃度に大きく依存し電気的に検知できるので、1〜10μLの極微量な検体液10で測定を行うことができ、測定前に特別な前処理等を行う必要もないので、検体液10の採取や取り扱いが容易で作業性に優れる。
【0048】
(実施の形態3)
図5は実施の形態3における溶液成分センサの断面模式図である。なお、実施の形態1又は実施の形態2における溶液成分センサと同様のものは、同じ符号を付して説明を省略する。
図中、1bは実施の形態3における溶液成分センサ、5bは絶縁膜5に分散保持され錯体形成化合物,ホスト化合物,酵素,抗体,抗原等の感応物質を担持したシリカゲル,活性炭,ゼオライト等の多孔体である。
なお、本実施の形態においては、平均粒径1〜30μmの多孔体を用いている。
【0049】
以下、実施の形態3における溶液成分センサの製造方法の一例を説明する。
まず、有機溶剤にエポキシ樹脂,フェノール樹脂等を主成分とするマトリックス材料を溶解して調製した合成樹脂液と、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶解して調製したフラーレン溶解液とを混合し、フラーレン含有合成樹脂液とする。次いでフラーレン含有合成樹脂液に多孔体5bを分散させてフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を調製する。このフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を、電極対3が形成された基板2の上にスピンコート等によって約0.5μmの厚さに塗布し乾燥することによって、絶縁膜5の表面に多孔体5bの一部が露出した構造を形成させる。
次に、錯体化合物、ホスト化合物、酵素、抗体、抗原等の感応物質を水やエタノール等の適当な溶媒に溶解させ、溶液成分センサ1bの表面に滴下し吸着させる。これを洗浄、乾燥して、感応物質を担持させた多孔体5bを表面に保持した溶液成分センサ1bを製造できる。
【0050】
実施の形態3における溶液成分センサの動作原理は、実施の形態2で説明したものと同様なので、説明を省略する。
【0051】
以上のように構成された実施の形態3における溶液分析センサによれば、実施の形態1又は2の作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)感応物質が多孔体5bに担持され絶縁膜5に分散保持されているので、感応物質を多孔体5bに担持させることができればどのような感応物質でも絶縁膜5に分散保持させることができ自在性に優れる。
(2)細孔の表面を化学修飾した多孔体に感応物質を担持させ、該多孔体を絶縁膜5に分散保持させると、多孔体の担持能を高められるため絶縁膜を検体液等に接触させたときに多孔体から感応物質を溶出し難くすることができる。このため、検体液の成分を繰り返し測定しても絶縁膜内の感応物質が減少し難いため、絶縁膜の感度を持続させ耐久性を高めることができる。
(3)また、表面が化学修飾された細孔によって、多孔体に担持された感応物質に加え、検体液中の成分との相互作用(例えば水素結合相互作用や静電相互作用)を利用し絶縁膜の分極現象を大きくすることができ、検出感度をさらに向上させることができる。
【0052】
図1〜5では、説明の都合上、一対の電極対3のみを図示したが、実施の形態1乃至3のいずれにおいても基板2上には1乃至複数の電極対3を形成することがき、その配置は任意に選択することができる。また、電極対の各々の電極の形状は限定されるものではないが、三角形状、矩形状、半円形状等に形成することができる。尚、電極対は非対称であっても、大きさが異なっていてもよく、辺部同士が対向するように配置される。また、本実施の形態では各々の電極4の側部から延設された2本の端子部4bを略L字型に形成し、基板2の一端部から取り出したが、これに限定されるものではなく、端子部4bの取り出し位置や取り出し方向は任意に選択することができる。
1枚の基板に5対の電極対3を作成した場合について図6に示す。幅20mm×長さ20mm×厚さ1mmのガラスの基板2に3mm径の半月型電極対3を5個設け、各々端子部4bと結合させている。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
まず、実施の形態1で説明した溶液成分センサ1について、溶液中の成分の検出能力について実験を行った。
溶液成分センサ1の基板2は1mm厚のガラス基板とし、半円形状の電極4を2mm離間させて対向配置した略円形状の電極対3の直径は3mmとした。電極4はスパッタリング法にてCr層0.1μm、Au層1μmを積層させ、フォトリソグラフィー法にてパターニングした。ガラス基板上にこのような電極対3を5対配置した。
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解した。この液をジクロロベンゼンに溶解したポリイミド系樹脂とフラーレン溶解液の体積比が1:1となるように混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製した。
次いで、スピンコーティング法によって基板2の全面をフラーレン含有合成樹脂液で被覆し、厚さ10μmのフラーレンを含む絶縁膜5を得た。
このフラーレンを含む絶縁膜5の表面に検体液10としてリン酸緩衝生理食塩水液(NaCl 8.0g/L pH7.2〜7.4)(以下これを濃度1のPBSと略す。)を各々2μL各々のセンサ電極対に滴下した。このPBSのナトリウムの濃度に対し、検出部6で検出される電極4間の電圧値をNa検出電圧として測定した。さらに濃度0.2及び濃度2.3のPBSについて、同様にしてNa検出電圧を測定した。
【実施例2】
【0054】
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解した後、孔径0.1μmのスピンカラムを使ってフラーレンの不溶成分を除いて使用した以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成し、実施例1と同様の測定をした。
【0055】
(比較例1)
絶縁膜5にフラーレンを含ませずジクロロベンゼンに溶解したポリイミド系樹脂で作成した以外は実施例1と同様にして、溶液成分を作成し、測定をした。
【0056】
図7は実施例1のNa濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
図8は実施例2のNa濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
図9は絶縁膜がフラーレンを含まない場合(比較例1)のナトリウム濃度とNa検出電圧との関係を示す図である。
絶縁膜がフラーレンを含有しない場合(図9)に比べて、図7、図8に示す実施例1,2のフラーレンを含有した絶縁膜ではガラス基板上に配置した5つのセンサ部のNa検出電圧のバラツキが小さくなり、精度の高い測定ができていることが示された。
また図8から、フラーレンの不溶成分を除去することでさらにバラツキが小さくなり、精度の高い測定ができることが示された。
【実施例3】
【0057】
次にフラーレンの絶縁膜中の濃度を変えた以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。結果を図10に示す。
図10よりフラーレン濃度を上げるにつれ検出電圧のバラツキが減っていくことが示された。しかし0.07g/cm3を超えると検出電圧のバラツキが大きくなってしまった。
これは樹脂膜が乾燥するときにフラーレン濃度が高いと膜としての形状を保つことができず、測定が困難なセンサ部分が生じてしまうことが原因である。
よって絶縁膜中のフラーレンの濃度は0.01〜0.07g/cm3が好ましい。
【実施例4】
【0058】
次に合成樹脂としてポリ塩化ビニルを使用した以外は実施例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。
【0059】
(比較例2)
次に合成樹脂としてポリ塩化ビニルを使用した以外は比較例1と同様にして溶液成分センサを作成して、濃度1のPBSを使ってNa検出電圧を測定した。
【0060】
(比較例3)
実施例3のフラーレンを(A)酸化物系粒子であるチタニア、リチウムアルミネート、酸化ニッケル、酸化亜鉛、シリカゲル、(B)金属系粒子である塩化パラジウム、ニッケル、(C)炭素系粒子である単層カーボンナノチューブ、カードラン、多層カーボンナノチューブに変えて同様に測定した。使用量は実施例1のフラーレンと同じ20mgである。
【0061】
実施例4と比較例2及び比較例3の結果を表1に示す。平均電圧が低いほど測定範囲が広がる。またCV値が低いほど測定値のバラツキが小さいことを表す。粒子を何も加えなかったコントロールと比較すると他の酸化物系粒子や金属系粒子、炭素系粒子に比べてフラーレンが平均電圧を下げなおかつバラツキを抑える効果が高いことが示された。
【0062】
【表1】
【実施例5】
【0063】
実施例4と同様に溶液成分センサの基板と電極を準備した。
フラーレン(フロンティアカーボン(株)製 nanom purple)20mgをジクロロベンゼン(和光純薬製)500μLに溶解し、孔径0.1μmの遠心式限外ろ過フィルターユニットを使ってフラーレンの不溶成分を除いた。テトラヒドロフランに溶解したポリ塩化ビニル樹脂液と不溶成分を除いたフラーレン溶液の体積比が1:1となるように混合し、フラーレン含有合成樹脂液を調製した。テトラヒドロフランにフラーレンは溶解しないので、混合するとフラーレンが析出し微粒子となって分散したフラーレン含有合成樹脂液となった。このフラーレン含有樹脂液に、多孔体としてシリカゲル(和光純薬(株)製)を20mg/mLとなるように添加しフラーレン・多孔体含有合成樹脂液を得た。
次いで、スピンコーティング法によって基板2の全面をフラーレン・多孔体含有合成樹脂液で被覆し、表面にシリカゲルを露出した厚さ20μmのフラーレンを含有した絶縁膜5を得た。
マウスのIgG抗体(シグマ社製)を100μg/mLとなるようにPBS(1倍濃度)で希釈する。これを各センサ表面に5μLずつ滴下し、絶縁膜表面に露出したシリカゲルに吸着させる。5分間室温で放置した後、エアーブロー処理により液を吹き飛ばし、蒸留水を各センサ表面に15μLずつ滴下し、吸着しなかったIgG抗体を洗浄する。5分間室温で放置した後、エアーブロー処理により液を吹き飛ばし、IgGを感応物質として担持したシリカゲルを表面に露出した絶縁膜を持つ溶液成分センサを得た。
抗マウスIgG抗体(抗抗体)(DAKO社製)を5倍濃度のPBSによって希釈し、濃度0.5μg/mL、1μg/mL、4μg/mL、7μg/mL、10μg/mLの抗抗体液を調製する。
この抗抗体液を検体液とする。電極対3の表面に、まず0.2倍濃度のPBSを4μLずつ滴下し、検出部6で検出される電極間4の電圧値E0を2分間計測した。計測を継続したまま、検体液を各電極対3に12μLずつ滴下し4分間保持して計測を終了した。
検体液滴下による最大検出電圧をE1、検体液滴下から3〜5分間における検出電圧の平均値E2を解析し、各々の測定センサの相対応答値R=(E2−E0)/(E1−E0)を算出した。
【0064】
(比較例4)
フラーレンを添加しなかった以外は実施例2と同様にセンサを作成し、実施例5と同様の測定を行った。
【0065】
図11に実施例5の、図12に比較例4の結果を示す。縦軸が相対応答率Rを、横軸が検体液中の抗抗体の濃度を示す。
フラーレン微粒子を含まない比較例4(図12)に比べてフラーレン微粒子を絶縁膜中に分散させた実施例5(図11)は測定値のバラツキが小さく、再現性よく測定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、検体液中のイオン、糖、脂質、抗体、抗原等の特定成分の有無や濃度を検知することのできる溶液成分センサに関し、構造が簡単でシステム全体を小型化することができ、半導体製造技術を利用して製造することができ量産性に優れ、検体液中に含まれる1ppm程度の極微量の特定成分を極短時間で精度よく検知可能な信頼性、作業性に優れる溶液成分センサを提供できる。
【符号の説明】
【0067】
1,1a、1b 溶液成分センサ
2 基板
3 電極対
4 電極
4a 辺部
4b 端子部
5 絶縁膜
5a 感応物質
5b 多孔体
6 検出部
7 判定部
10 検体液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆した絶縁膜と、を有し、前記絶縁膜がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有していることを特徴とする溶液成分センサ。
【請求項2】
前記絶縁膜が感応物質を分散保持していることを特徴とする請求項1に記載の溶液成分センサ。
【請求項3】
前記絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度が0.01g/cm3〜0.07g/cm3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶液成分センサ。
【請求項4】
フラーレン又はフラーレン誘導体を合成樹脂に混合してフラーレン含有合成樹脂液を調製する合成樹脂液調製工程と、基板上に所定間隔を置いて配置された電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面に前記フラーレン含有合成樹脂液を塗布して感応物質を分散保持した絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を有することを特徴とする溶液成分センサの製造方法。
【請求項5】
前記合成樹脂液調製工程において、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶媒に溶解し不溶成分を分離除去する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂液調整工程において感応物質を前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解または分散させる工程を有することを特徴とする請求項4または5に記載の溶液成分センサの製造方法。
【請求項1】
基板と、前記基板上に所定間隔をおいて配置された電極対と、前記電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面を被覆した絶縁膜と、を有し、前記絶縁膜がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有していることを特徴とする溶液成分センサ。
【請求項2】
前記絶縁膜が感応物質を分散保持していることを特徴とする請求項1に記載の溶液成分センサ。
【請求項3】
前記絶縁膜中のフラーレン又はフラーレン誘導体の濃度が0.01g/cm3〜0.07g/cm3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶液成分センサ。
【請求項4】
フラーレン又はフラーレン誘導体を合成樹脂に混合してフラーレン含有合成樹脂液を調製する合成樹脂液調製工程と、基板上に所定間隔を置いて配置された電極対の表面及び前記電極対間の前記基板の表面に前記フラーレン含有合成樹脂液を塗布して感応物質を分散保持した絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程を有することを特徴とする溶液成分センサの製造方法。
【請求項5】
前記合成樹脂液調製工程において、フラーレン又はフラーレン誘導体を溶媒に溶解し不溶成分を分離除去する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の溶液成分センサの製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂液調整工程において感応物質を前記フラーレン含有合成樹脂液に溶解または分散させる工程を有することを特徴とする請求項4または5に記載の溶液成分センサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−95066(P2011−95066A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248227(P2009−248227)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
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