説明

溶融めっき線の冷却装置

【課題】 めっき線冷却時にめっき表面の欠陥を防止しつつ、単位面積あたりのめっき付着量を確保するために不可欠な静水中への鉛直下方からの線導入と、開口部からの冷却水の鉛直方向への流出、漏洩または滴下を防止する溶融めっき線の冷却装置を提供すること。
【解決手段】 底面に開口部のある冷却水保持槽を有し、かつその底面開口部でのめっき線との間隔で1mm乃至4mmの空隙を保持しつつ5回転/秒以上の角速度で回転する、下に凸な回転対称面を持つ筒状の回転体を有し、かつ該回転体下端縁の外周に沿って冷却水を捕集する捕集機構を有することを特徴とする溶融めっき線の冷却装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛めっき鉄線(鋼線)製造時等に鉄線を溶融亜鉛めっき浴から垂直に引き上げて鉄線表面の未凝固の溶融亜鉛めっき層を凝固させる際に用いる溶融めっき線の冷却装置に関し、特に、冷却装置に設けられている通線のための底面開口部から、冷却液が鉛直下方向へ流出、漏洩、または滴下することなく保持できる溶融めっき線の冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酷な腐食環境下で使用される鉄(鋼)線に耐食性を付与するために、鉄線を溶融亜鉛めっき浴中に通し、表面に亜鉛めっきを施すことが一般に行われている。溶融めっきは、一般に鉄(鋼)線を洗浄、脱脂等により清浄化処理し、次いで必要に応じてフラックス処理等を行なった後、溶融めっき浴に浸漬し、鉄線を溶融めっき浴から垂直に引き上げて、冷却後巻き取る方法で実施されている。その中で、より優れた耐食性を得るためには単位表面積あたりの亜鉛の付着量を増加させることが最も有効である。
【0003】
溶融亜鉛めっき工程において、亜鉛付着量の増加のためには、亜鉛浴からの鉄線の引き上げ速度を上げてめっき付着量を多くすることが必要であるが、付着量が多くなるにつれて、振動、巻き取り機のスリップ等の影響を受け易くなり、表面の溶融亜鉛の垂れ、凹凸、節、スパイラル等の表面上の不良が発生しやすくなる。
【0004】
この対策として、鉄線に付着した未凝固の溶融亜鉛めっき層が外乱で不安定になる前に一次冷却を行い、表面に変形に耐えうる平滑な亜鉛の凝固シェルを形成することが有効であるが、横方向から噴流水で冷却する従来の方向では、冷却装置の位置を下方にしすぎると、水圧により未凝固の亜鉛が反対側に押しやられ、偏肉、または水流に沿った筋状の凹凸が発生し易くなる。一方、冷却装置を上方にしすぎると上述したように、線のスリップ、振動等による表面の乱れが発生し易くなる。この冷却水の設置高さは線速、溶融亜鉛めっき浴温度、線径等の影響を受けるため、最適位置を線径、通線スピードによって都度変更する必要がある。
【0005】
一次冷却なしの溶融めっき線の冷却装置は、これまで種々提案されていて、冷媒として液体、気体、或はミスト等を用いる冷却装置がある。冷媒として液体(冷却水)を用いる冷却装置としては、例えば、円筒状の冷却水容器底部に被冷却線より太い孔を設け、穴内を通線する線と孔の間隙を通して空気を上方に吐出し、その作用によって冷却水の穴からの滴下を阻止しつつ、線を静水中に導入するする冷却装置(例えば、特許文献1参照)や、冷却水循環ポンプによって冷却水を強制循環して大気圧より低い圧力に保持したチャンバー内に、底部線材導入口と線の隙間から外気を連続して導入することにより、冷却水の下方への漏洩を防止する冷却装置(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0006】
しかしこれらの冷却装置の場合、冷却槽(冷却水容器)の底部線導入口と線の隙間において、上方に吐出する高圧空気とそれに対向して下方に流出しようとする水が時間的に不安定に変動するため、めっき付着量が300g/m2以上の厚目付の場合、表面が乱れ、平滑な表面を得ることが非常に困難である。
【0007】
また、冷媒として気体やミストを用いる冷却装置としては、例えば、気体ないしミストの吹きつけ方向と線のなす角度を10〜45°として吹き付け圧力を調整することにより、めっきの偏肉や垂れを防止する冷却装置(例えば、特許文献3参照)や、筒状のチャンバー内で、被冷却線の軸方向と平行上向きに冷却ガスを流すことでめっきの垂れ下がりを防止し、必要な亜鉛付着量を確保する装置(例えば、特許文献4、5参照)が提案されている。
【0008】
しかし、これらの冷却装置の場合、冷媒が気体もしくはミストであるため、亜鉛付着量を確保するために操業上最低限必要な線速度で通材しても、安定的な付着量と冷却速度を得ることが出来ない問題があり、良好な表面性状を有する厚目付の溶融めっき鉄線を得ることは困難である。
【0009】
【特許文献1】実公昭57−13880号公報
【特許文献2】特開平6−81107号公報
【特許文献3】特開平4−183844号公報
【特許文献4】特開平10−60615号公報
【特許文献5】特開2000−45056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した課題を解決し、めっき線冷却時にめっき表面の欠陥を防止しつつ、単位面積あたりのめっき付着量を確保するために不可欠な静水中への鉛直下方からの線導入と、開口部からの冷却水の鉛直方向への流出、漏洩または滴下を防止する溶融めっき線の冷却装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明者は、冷却水保持槽の底部線導入口に筒状の回転体を設け、導入口から流下する冷却水を回転体下端縁の外周に沿って捕集することによって、筒状の回転体の中を通線する溶融めっき線を乱れのない冷却水と接触させることができ、表面性状の良好な溶融めっき線が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0013】
(1) 底面に開口部のある冷却水保持槽を有し、かつその底面開口部でのめっき線との間隔で1mm乃至4mmの空隙を保持しつつ5回転/秒以上の角速度で回転する、下に凸な回転対称面を持つ筒状の回転体を有し、かつ該回転体下端縁の外周に沿って冷却水を捕集する捕集機構を有することを特徴とする溶融めっき線の冷却装置。
【0014】
(2) 前記筒状の回転体は、上部が同一内径で、下部が下方に向かって内径が大きくなっている形状であることを特徴とする上記(1)記載の溶融めっき線の冷却装置。
【0015】
(3) 前記筒状の回転体の内面または外面または両面に凹凸もしくはフィンを有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の溶融めっき線の冷却装置。
【0016】
(4) 前記筒状の回転体は、動力によって回転できる回転機構を有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の溶融めっき線の冷却装置。
【0017】
(5) 前記冷却水を捕集する捕集機構は、前記回転体の下縁部の外周部を取り囲んだ中空ドーナツ状の形状を有することを特徴とする上記(1)記載の溶融めっき線の冷却装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、底面に開口部のある冷却水保持槽で、その鉛直下方向へ冷却水を従来のように漏洩または滴下させることなく、乱れの無い冷却水中に底部の開口部から線状の物体の導入を可能にするものであり、本発明の適用により、例えば、めっき付着量が300g/m2以上の厚目付の場合であっても、表面性状の良好な溶融亜鉛めっき鉄線を安定的に製造することが可能になり、産業上の効果は極めて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図を参酌して本発明を詳細に説明する。
図1は溶融亜鉛めっき製造ラインの概略を示した図である。溶融亜鉛めっきは、図1に示すように、鉄(鋼)線1を溶融亜鉛めっき浴2に浸漬し、シンカー3で垂直上向きに進行方向を変えて引き上げられ、未凝固状態のめっき層を形成された溶融めっき鉄線は酸化防止ガスチャンバー4を経て冷却装置5を通過して、冷却装置内の冷却水により未凝固のめっき層を凝固させる。その後、トップローラー6により再び方向を変え、巻き取り装置へと進行しコイルに巻き取られる。
【0020】
溶融亜鉛めっき線では、より優れた耐食性を得るためには単位表面積あたりの亜鉛の付着量を増加させることが要求される。しかし、亜鉛の付着量が多くなると、例えば、めっき付着量が300g/m2以上の厚目付となるとめっき表面の偏肉や垂れ、凹凸、節等のめっき表面上の不良が発生しやすくなる。
【0021】
本発明者がめっき表面不良の発生原因について究明したところ、冷却水保持槽の通線用の底部開口部での冷却水の乱れや、開口部からの冷却水の漏洩、滴下が原因であることを知見した。
【0022】
そこで、底部開口部での冷却水の乱れや、開口部からの冷却水の漏洩、滴下が生じず、めっき表面の不良が発生しない溶融めっき線の冷却装置について鋭意研究を進め、冷却水保持槽の底部開口(線導入口)に筒状の回転体を設け、回転体の下端縁の外周に沿って流下する冷却水を捕集することで、めっき表面性状の良好な溶融めっき線が得られることを見出して本発明を完成したものである。
【0023】
図2は、本発明の回転体を備えた溶融めっき線の冷却装置の縦断面図で、図3は、溶融めっき線の冷却装置に配設した回転体の概要を示す図である。
【0024】
図2及び図3に示すように、本発明の溶融めっき線の冷却装置では、冷却水保持槽7の底部に溶融めっき線の通過用開口(線導入口)8を設け、開口8を貫通して筒状の回転体9が設置されている。
【0025】
回転体9の上部にはプーリー10が設けられていて、回転体は動力によりプーリーに掛けたベルト11を介して回転可能になっている。めっき線12は筒状の回転体の中央を通過するので、めっき線と回転体とは物理的に非接触である。なお、回転体の回転機構としては歯車により動力を伝えて回転させることも可能であり、回転機構は特に限定されるものではない。
【0026】
冷却水配管13より供給される冷却水14を保持する冷却水保持槽15より流下し、回転体9とめっき線12との空隙に挟まれる冷却水は、重力により鉛直下方向に流動を始める。ただし、開口部での回転体内面とめっき線外面との空隙を1mm未満にすると冷却水の流動が乱流に移行しやすく、その結果未凝固の溶融亜鉛も乱れてめっき線表面が荒れる。
【0027】
また、空隙を4mm超とすると、回転体内壁との濡れよりも、鉛直下方向の重力が勝り、回転体内面から冷却水が水滴として分離し、鉛直下方に落下するに至る。このため本発明では開口部での回転体9とめっき線12との空隙を1mm乃至4mmと規程している。
【0028】
回転体9は、内面が開口部近傍では鉛直方向で、回転体下縁部にかけて徐々に傾きが水平に近くなる、下に凸なラッパ状の回転対称体である。すなわち、回転体の上部では内径が同一であるが、下部では下方になるほど内径が広がっている回転対称体となっている。この回転体の形状により、開口部で垂直下方向に回転体内壁に導入された冷却水はなめらかにその流動方向を変え、回転体内面に沿って流動する途中で離脱・落下しにくくなる。
【0029】
開口部より回転体内側に導入され、その面に沿って流動を始めた冷却水は回転体からの粘性摩擦を受け、次第にその流動方向が回転体の周方向へ変化し、ついには回転体と同じ角速度を持って回転するに至る。このとき、下方に行くほど回転体内壁の速度に近くなり、同時に回転軸外向きの慣性力(遠心力)を受けて回転体内壁に押しつけられるようになる。
【0030】
但し、回転速度が5回転/秒未満の場合、回転体内面に沿って流動する冷却水に十分な角速度を付与することが困難となり、途中で回転体内面より離脱して鉛直方向に落下する場合が発生してくる。このため、本発明では回転体の回転速度を5回/秒以上とした。回転速度の上限は特に限定するものではないが5〜20回/秒の範囲とすることが好ましい。
【0031】
回転体の内面に沿って下方に流動しつつ、その回転によって周方向へも流動速度を付与された冷却水は、回転体下縁部に到達しその接線方向へ離脱する。回転体の下縁部の外周部を囲むように流体捕集機構15を取り付け、水平方向に飛散離脱した冷却水の捕集が行われる。すなわち、冷却水を捕集する流体捕集機構15は、中空ドーナツ状の形状となっていて回転体の下縁部の外周部を取り囲んでいるので、回転体から飛散離脱した冷却水の捕集ができ、捕集した冷却水は配管を通じて排出することができる。
【0032】
回転体の内径が鉛直方向から拡がり始める位置から下方に凹凸もしくはフィン16その他の突起物を設けることにより、冷却水に対し見かけ上大きな粘性抵抗を与えるため、より効果的に回転体外向きの遠心力を与えることができる。フィン16としては、例えば、断面L字状、断面C字状や断面I字状等のフィン形状が好ましい。
【0033】
回転体9は、冷却水保持槽7に対しなめらかに回転できる様、嵌合されている。仮にこの嵌合部分で冷却水の漏れが発生しても、遠心力の作用で回転体の外面を伝って下端縁に達し、冷却水は水平方向外側にはじき飛ばされるので、この部分での漏洩の有無は問題にならない。また、必要に応じて、回転体の外面或は外面と内面の両者にも内面と同様に凹凸もしくはフィンその他の突起物を設けることができる。これによって回転体の外面に漏洩した冷却水を効果的に捕集することが可能となる。このため、従来のように、漏洩、滴下した冷却水が引き上げ途中の溶融めっき線と接触して、表面性状の不良を引き起こすことが防止できる。
【0034】
以上溶融亜鉛めっき線について具体的に説明したが、溶融亜鉛めっき線以外のめっき線の冷却、或は冷却を必要とする線材の冷却にも本発明を適用することができる。
【実施例】
【0035】
以下実施例に基づいて本発明を説明する。なお、この実施例は例に沿って具体的に説明するものであり、本発明の内容を限定するものではない。
【0036】
図2及び図3に示す回転体を備えた溶融めっき線の冷却装置を用いて、溶融亜鉛めっき線の冷却試験を実施した。めっき用線はJIS SWRM6の5.5mmφの熱間圧延材を用い、4.0mmφまで冷間伸線加工した鉄線を使用した。伸線材繰り出し後焼鈍を行い、塩酸で酸洗後、水洗、塩化アンモニウム水溶液のフラックス中を経て、ブロワ乾燥後450℃の溶融純亜鉛槽へ浸漬させた。ラインスピードは30m/min、溶融亜鉛浴中への浸漬時間を10sとし、めっき線引き上げ部分の浴面は窒素によりシールを行い、めっき付着量320g/mのめっき鉄線を製造した。
【0037】
冷却試験では、めっき線と回転体との間隔、および回転体の回転速度を変化させて、めっきの表面性状および水漏れの調査を行なった。
【0038】
その試験条件および結果を併せて表1に示した
表1から分かるように、本発明例1〜6はめっき線と回転体との間隔が適切な範囲内であり、回転体の速度も十分であるため、冷却水保持槽開口部からの水漏れがなく、安定した状態で平滑な表面のめっき線を製造することができた。
【0039】
比較例No.7〜9およびNo.14,15は、回転体の回転速度が遅いため、冷却水に十分な周方向の速度を与えることが出来ず、空隙から水漏れが生じた例である。比較例No.10、12はめっき線と回転体の間隔が狭すぎるため、冷却水に乱れを生じ、その結果めっき線の表面性状が荒れた例である。逆に比較例11、13はめっき線と回転体の間隔が広すぎるため、冷却水が水滴となって離脱し、鉛直下方向に漏れた例である。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】溶融亜鉛めっき製造ラインの概略を示した図である。
【図2】本発明の回転体を備えた溶融めっき線の冷却装置の縦断面図である。
【図3】溶融めっき線の冷却装置に配設した回転体の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 鉄(鋼)線
2 溶融亜鉛めっき浴
3 シンカー
4 酸化防止ガスチャンバー
5 冷却装置
6 トップローラー
7 冷却水保持槽
8 開口
9 回転体
10 プーリー
11 ベルト
12 めっき線
13 冷却水配管
14 冷却水
15 流体捕集機構
16 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に開口部のある冷却水保持槽を有し、かつその底面開口部でのめっき線との間隔で1mm乃至4mmの空隙を保持しつつ5回転/秒以上の角速度で回転する、下に凸な回転対称面を持つ筒状の回転体を有し、かつ該回転体下端縁の外周に沿って冷却水を捕集する捕集機構を有することを特徴とする溶融めっき線の冷却装置。
【請求項2】
前記筒状の回転体は、上部が同一内径で、下部が下方に向かって内径が大きくなっている形状であることを特徴とする請求項1記載の溶融めっき線の冷却装置。
【請求項3】
前記筒状の回転体の内面または外面または両面に凹凸もしくはフィンを有することを特徴とする請求項1または2記載の溶融めっき線の冷却装置。
【請求項4】
前記筒状の回転体は、動力によって回転できる回転機構を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融めっき線の冷却装置。
【請求項5】
前記冷却水を捕集する捕集機構は、前記回転体の下縁部の外周部を取り囲んだ中空ドーナツ状の形状を有することを特徴とする請求項1記載の溶融めっき線の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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