説明

溶融塩組成物及びその利用

【課題】従来の溶融塩に比べて、より低温で使用可能な溶融塩組成物及びその利用を提供することにある。
【解決手段】FSIをアニオンとし、アルカリ金属Mをカチオンとする溶融塩MFSIを、2種類以上含む溶融塩組成物によれば、従来の溶融塩に比べて、より低温で使用可能であるため、燃料電池、二次電池、キャパシタ等に利用価値が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩組成物及びその利用に関するものであり、特に、アルカリ金属Mをカチオン、イミドアニオン(FSI)をアニオンとするMFSIを2種類以上含む溶融塩組成物及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融塩とは、溶融状態にある塩であり、高温で融解したスラグから室温で液体となる室温溶融塩(イオン性液体等とも呼ばれる)まで、幅広い温度域のものが知られている。溶融塩を電解液として用いることにより、水溶液系電解液では困難な反応を電気化学的に起こすことが可能であり、各分野で様々な研究が進められている。溶融塩はカチオンとアニオンの組み合わせにより異なった機能性を与えることができるため、様々な応用を目的とした多種多様な塩が開発されている。
【0003】
本発明者らは、このような溶融塩を電池用の電解質等へ応用すべく、鋭意研究を進めており、これまでビストリフルオロメチルスルフォニルアミドアニオン(TFSI)とアルカリ金属Mからなる溶融塩MFSIを2種以上含む溶融塩組成物及びその利用を開発している(特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開公報WO 2006/101141(2006年9月28日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の溶融塩組成物は、従来の電解質に比べてかなり低い温度(110℃〜350℃)での利用が可能であり、非常に優れた技術である。
【0005】
しかしながら、電池用の電解質をはじめとして様々な応用が期待されている溶融塩について、さらなる応用の幅を広げるためには、これまでにない使用温度範囲をもつ溶融塩の開発が必要である。なかでも、特に130℃以下のより低温で使用可能な溶融塩の開発が必要であると、本発明者らは考えた。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の溶融塩に比べて、より低温で使用可能な溶融塩組成物及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)とアルカリ金属Mとの溶融塩MFSI(M=Li,Na,K,Rb,Cs)を合成し、その熱的、物理的性質を調べ、電解質としての性能を評価するとともに、これら溶融塩の二元系状態を詳細に検討したところ、二元系の各共晶組成における共晶温度が単塩の融点に比べて著しく低下すること、さらに溶融塩の混合組成において、先行技術(上記特許文献1)に比べてリチウムイオンやナトリウムイオンの配合量を増加させることができること、という新事実を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0008】
(1)下記化学式(1)で表される物質FSIをアニオンとし、アルカリ金属Mをカチオンとする溶融塩MFSIを、2種類以上含む溶融塩組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
(2)上記溶融塩MFSIが、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、及びCsFSIからなる群より選択されるものである(1)に記載の溶融塩組成物。
【0011】
(3)上記溶融塩組成物は、溶融塩MFSIを2種類混合した二元系の組成物であって、LiFSI−NaFSI混合系,LiFSI−KFSI混合系,LiFSI−CsFSI混合系,NaFSI−KFSI混合系,NaFSI−CsFSI混合系,又はKFSI−CsFSI混合系である(1)又は(2)に記載の溶融塩組成物。
【0012】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の溶融塩組成物を含む電解液。
【0013】
(5)上記(4)に記載の電解液を含む電池。
【0014】
(6)60℃以上130℃以下の温度範囲で用いられる(4)に記載の電池。
【0015】
(7)上記電池は、リチウム電池、ナトリウム電池、又はゼブラ電池である(6)に記載の電池。
【0016】
(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の電池を用いて充電を行う工程を含む充電方法。
【0017】
(9)上記(4)に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程を含む電析方法。
【0018】
(10)上記(4)に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程と、上記工程にて析出した金属またはセラミックスを用いて、物質の表面に被膜を形成する工程と、を含む被膜形成方法。
【0019】
(11)上記(4)に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程と、上記工程にて析出した金属またはセラミックスを用いて、物質の表面を処理する工程と、を含む表面処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る溶融塩組成物によれば、溶融塩MFSI単塩の融点に比べて共晶温度を著しく低下させることができる。それゆえ、従来の溶融塩組成物に比べて、より低い温度で使用することができるという効果を奏する。
【0021】
さらに本発明に係る溶融塩組成物によれば、溶融塩の混合組成においてリチウムイオン又はナトリウムイオンを増加させることができる。それゆえ、リチウム電池やナトリウム電池の電解質として利用する場合、従来の溶融塩組成物に比べて、例えばリチウムイオン又はナトリウムイオンの供給が速やかに行われるため高い電流密度での充放電が可能になるという効果を奏する。
【0022】
したがって、本発明に係る溶融塩組成物を用いることにより、電解質の融点を低下させることができるため、エネルギー効率の面や安全性の面で優れる。また、使用温度域を拡大(特に低下)させることができるため、電池などへの応用の際に材料の選択性向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではないことを念のため付言しておく。
【0024】
<1.溶融塩組成物>
本発明に係る溶融塩組成物は、上記化学式(1)で表される物質ビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)をアニオンとし、アルカリ金属Mをカチオンとする溶融塩MFSIを、2種類以上含む溶融塩組成物であればよく、本発明の目的の範囲内であれば、その他にどのような物質を含んでいてもよく、具体的な構成等は特に限定されるものではない。含まれるMFSIの形態(固体、液体)、量(割合)等については特に限定されるものではない。
【0025】
なお、「イミド」とは、イミノ基を有するアミドのことであり、イミノ基の無いFSIイオンをイミドと呼ぶことは厳密には不適切であるが、今日既に広くこの呼称が広まっているので、本明細書においても慣用名として用いることにする。
【0026】
上述したように、本発明者らはこれまでMTFSIの溶融塩組成物を2種以上混合することによって融点を低下させる技術を開発している(上記特許文献1参照)。上記特許文献1に開示の技術に用いるアニオン「TFSI」は、本発明で用いるアニオン「FSI」に比べてイオン分子の半径が大きい。一般的にいってイオン分子の半径が小さいほど、カチオンとアニオンとがより強固に結合するため、融点が高くなる傾向にある。それゆえ、MFSI単塩やMFSI溶融塩組成物の融点は、MTFSI単塩やMTFSI溶融塩組成物のそれに比べて高くなると予測された。ところが、本発明者らの鋭意研究の結果、この予測に反し、驚くべきことに、MFSI単塩やMFSI溶融塩組成物の融点は、MTFSI単塩やMTFSI溶融塩組成物のそれに比べて著しく低くなることがわかった。この点は、当業者といえども予測できない、極めて優れた効果であるといえる。特に、後述する実施例に示すように、MFSI溶融塩組成物の融点は室温に近いため、非常に利用価値が高い。
【0027】
すなわち、本発明に係る溶融塩組成物は、上述のように、MFSIを2種類以上有する構成ゆえに、単塩の融点に比べて著しく融点(共晶温度)が低下するという特徴的な性質を有する。このため、安全性、腐食防止、エネルギーコスト等において非常に優れている。また、混合する溶融塩の組成や割合を調整することにより、電気化学的特性や溶融温度を変化させることもできる。このため、電池用の電解質(電解液)等への幅広い応用に際しての使用温度や材料等の選択の自由度が向上するという利点がある。
【0028】
本発明でいうアルカリ金属Mとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)を挙げることができる。このため、上記溶融塩MFSIは、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、及びCsFSIからなる群より選択されるものであることが好ましい。
【0029】
なかでも、特に、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、及びCsFSIからなる群より選択される溶融塩のうち、2種類を含む組成物、いわゆる二元系の組成物が好ましい。例えば、LiFSI−NaFSI系,LiFSI−KFSI系,LiFSI−CsFSI系,NaFSI−KFSI系,NaFSI−CsFSI系,又はKFSI−CsFSI系を挙げることができる。
【0030】
これら二元系の組成物の中でも、例えば、リチウム電池に応用可能な、LiFSI−KFSI系及びLiFSI−CsFSI系が好ましい。また、NaFSI−KFSI混合系及びNaFSI−CsFSI混合系は、金属ナトリウムを析出させることが可能である。応用としてリチウム電池やナトリウム−硫黄電池やゼブラ電池用の電解質が考えられる。
【0031】
さらに、本発明に係る溶融塩組成物によれば、LiやNaといった金属を析出させることができる。さらに、LiやNaが析出するよりも貴な電位で、水溶液系では析出させられない卑金属を電析させることができる。このような卑金属としては、例えば、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Mo,Wなどの高融点金属や、希土類金属、U,Th等のアクチニド金属、Al等を挙げることができる。
【0032】
また、上記溶融塩組成物は、混合された2種以上の溶融塩が共晶を示す組成(共晶組成)近傍となるように構成されていることが好ましい。例えば、二元系の場合、LiFSI−NaFSI系ではLiFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxLiFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0033】
LiFSI−KFSI系ではLiFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxLiFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0034】
LiFSI−CsFSI系ではLiFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxLiFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0035】
NaFSI−KFSI系ではNaFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxNaFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0036】
NaFSI−CsFSI系ではNaFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxNaFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0037】
KFSI−CsFSI系ではKFSIの割合が0.30〜0.70であることが好ましく、0.40〜0.60であることがより好ましい。特に、共晶温度が最も低くなる組成(共晶組成)であるxKFSI=0.50となる組成が好ましい。
【0038】
上述のように、本発明に係る溶融塩組成物は、Li又はNaの配合比率を従来に比べて著しく大きくすることができる。溶融塩組成物において、Li又はNaの配合量を増加させることができれば、リチウム電池やナトリウム電池用の電解質として利用する場合、リチウムイオン又はナトリウムイオンの供給が速やかに行われるため高い電流密度での充放電が可能になり、非常に好ましい特徴である。
【0039】
なお、後述する実施例の図1に示すように、上記二元系の組成物の各共晶組成における共晶温度は、LiFSI−KFSI系(xLiFSI=0.50)で66℃(339K),LiFSI−CsFSI系(xLiFSI=0.50)で58℃(331K),NaFSI−KFSI系(xNaFSI=0.50)で57℃(330K),NaFSI−CsFSI系(xNaFSI=0.50)で49℃(322K),及びKFSI−CsFSI系(xKFSI=0.50)で61℃(334K)であった。
【0040】
本発明に係る溶融塩組成物では、溶融塩の組成や割合を変更することにより、共晶温度を変化させることができる。この性質を利用して、組み合わせる溶融塩の組成や割合を変更することにより、使用目的に合わせた最適な温度範囲を設定することができ、応用の幅が広がるという利点もある。
【0041】
特に、本発明に係る溶融塩組成物は、従来の単塩の溶融塩では使用できなかった低温度領域〜中温領域までの広い温度範囲で用いることができる。具体的には、本発明に係る溶融塩組成物は、例えば、60℃以上130℃以下の温度範囲で用いることができる。
【0042】
また、本発明に係る溶融塩組成物には、例えば、上記特許文献1に開示の溶融塩MTFSIを加えることもできる。
【0043】
本発明に用いられる溶融塩は、アルカリ金属Mをカチオン、FSIをアニオンとして有する従来公知の溶融塩MFSIを好適に用いることができる。また、その製造方法も従来公知の方法を利用でき、その具体的な手段等は特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例に示す方法を用いてMFSIを製造することができる。
【0044】
このように、本発明に係る溶融塩組成物は、溶融温度(共晶温度)が低下するという特有の作用効果を奏する。このため、安全性、腐食防止、エネルギーコスト等においても優れている。すなわち、溶融温度が低下し、低い温度で溶融塩が利用できれば、加熱のためのエネルギーの使用が低減できる。また、溶融塩は一般的に金属等の材料を腐食しやすいものが多く、その性質は温度の上昇とともに反応速度が増加する結果、著しくなる。したがって低い温度で溶融塩が利用できれば腐食の進行の低減が期待できる。低温で利用できれば、材料の腐食に伴う装置材料の破断等に伴う高温物体の流出事故等の可能性が低減される。
【0045】
また、溶融塩は、融点を超えてさらに加熱し分解温度に達すると、その化学構造を維持できなくなり、所望の性質を発現できなくなる。このため、通常、溶融塩は、融点〜分解温度の間の温度範囲にて使用することになるが、この融点〜分解温度の温度範囲が広いほうが、操作性が向上することになる。本願発明に係る溶融塩組成物は、共晶温度が低下する一方、分解温度は単塩の場合と変化しないため、融点〜分解温度の間の温度範囲が広くなり、操作性が向上するという利点がある。
【0046】
以上のように、本発明に係る溶融塩組成物は、従来の溶融塩や電解質に比べて、様々な利点があるが、特に、以下の点で優位性があるといえる。すなわち、本発明の溶融塩組成物によれば、従来の溶融塩組成物に比べて、溶融塩の混合組成においてリチウムイオン又はナトリウムイオンを増加させることができる。それゆえ、リチウム電池やナトリウム電池の電解質としての利用する場合、従来の溶融塩組成物に比べて安定性が増し、優れているという効果を奏する。
【0047】
さらに、例えば、リチウム電池用電解液や低温での卑金属の電析などへ応用できるイオン性液体あるいは溶融塩は、低融点でかつ還元電位がより卑になければならない。しかし、従来の電解質を有機溶媒へ溶解させた有機電解質や有機カチオンを対アニオンとするイミド塩のイオン液体は、これらの金属が還元析出する前により高い電位で有機溶媒あるいは有機カチオンは分解してしまう可能性があった。これに対して、本発明では、アルカリ金属イミド塩を有機溶媒へ溶解することなく、溶融塩として用い、さらに複数種類の溶融塩を混合することにより、単塩の場合に比べて、より低温での使用を可能とし、上記の問題点を解決している。
【0048】
<2.溶融塩組成物の利用>
溶融塩は電解液(電解質)として用いることにより、水溶液系では困難な電気化学的反応を起こすことが可能であり、様々な応用を目的として多種多様な研究開発が行われている。例えば、溶融塩には様々な融点を持つものがあるが、中温域に融点を持つ塩は中温〜高温作動型の電気化学デバイスの電解質としての応用に際して有利である。
【0049】
上述したように、本発明では、単塩では得らないような溶融温度の溶融塩組成物を得ることができる。すなわち、本発明に係る溶融塩組成物は、溶融温度が低温〜中温域であるため、特に、低温〜中温域での利用が可能となる。したがって、例えば、上記温度領域において、上記<1>欄に記載の溶融塩組成物を含む電解液として利用することができる。
【0050】
また、本発明に係る溶融塩組成物は、その融点(共晶温度)が単塩に比べて低下しているため、単塩と比較して、安全性、材料選択の幅、エネルギーコスト等の点で非常に優れている。このため、溶融塩化合物の利用においても、このような利点を用いることができる。
【0051】
上記電解液の用途は特に限定されるものではなく、本出願時において知られている、電解質を利用する多種多様な製品・技術に利用することができる。例えば、電池用の電解液として用いることができる。
【0052】
ここで、「本発明に係る溶融塩組成物を、電解液(又は電解質)として利用する」とは、本発明に係る溶融塩組成物を溶媒に溶解させて用いることを意図するものではなく、塩そのものを融解した溶融塩をそのまま電解液又は電解質として利用する態様を意図している。このような利用の場合、溶媒を用いる必要がないため、非常に好ましい。これは、溶媒が存在することによる揮発性や可燃性がなく、電解液の枯渇やアルカリ金属との反応による発火、爆発等の問題がないためである。
【0053】
すなわち、これまでもアルカリ金属イミド塩、特にリチウム塩はリチウムイオン電池用の有機電解液の支持塩としての利用が検討されているが、本発明に係る溶融塩組成物は、(i)有機溶媒を含まない点、(ii)それ自身比較的低温で溶融する点、(iii)低温溶融塩としてのアルカリ金属イミド塩とその共晶塩である点、(iv)これらの塩が溶融温度からさらに高温でも安定である点、(v)さらに溶融塩中でアルカリ金属を析出させることができる点で優れた特徴を有する。
【0054】
このため、上記の優れた特徴点を生かして、例えば、より低温で作動するナトリウム−硫黄電池、ゼブラ電池、リチウム2次電池(据置型、高出力、ロードレベリング用)等の多種多様な電池用の電解液として用いることができる。特に、アルカリ金属イミド塩を用いた大型電池としての利点は大きく、例えば、電力施設等の夜間余剰電力の充電用として用いることができる。また、電気自動車やハイブリッド自動車用などのリチウム2次電池への利用も可能である。
【0055】
本発明に係る溶融塩組成物を用いて大型Liイオン電池を構成する場合、デンドライトの生成が抑制される温度領域で用いることが好ましい。具体的には、60℃以上130℃の温度で用いることが好ましい。
【0056】
また、本発明には、上記溶融塩組成物を用いた電池を利用する充電方法も含まれる。かかる充電方法の具体的な手法については、特に限定されるものではなく、上記電池を用いていればよく、それ以外の工程、条件、使用機器等については従来公知のものを用いることができる。本充電方法によれば、効率的に充電することができる。
【0057】
なお、本発明に係る溶融塩組成物が電解質として使用できることは、溶融塩組成物が良好な導電率を有することから明らかである。
【0058】
さらに、本発明に係る溶融塩組成物は、LIGAプロセスなどにおいて、水溶液を用いることができず、かつ高温溶融塩も使用できない条件での電析用などの電解質として利用することができる。
【0059】
また、本発明の溶融塩組成物を電池用の電解質として使用する使用する場合、一方のアルカリ金属が電池として機能するとき、他のアルカリ金属は溶媒的な機能を発現する。つまり、本発明の溶融塩組成物では、少なくとも2種類のアルカリ金属塩を混合しているため、電圧をかけて電気分解するときは負極に還元されやすいアルカリ金属のほうが先に析出してくる。したがって電池用の電解質として利用する場合、電池の負極は、このように還元されやすいほうのアルカリ金属の電極となる。
【0060】
また、本発明に係る溶融塩組成物は、各単塩を構成するアルカリ金属が還元されて析出する性質を有する。つまり、アルカリ金属等電気化学的に卑な金属を析出させることができる。このため、この特性を利用することにより、本発明に係る溶融塩組成物は、例えば、アルカリ金属よりも還元性の低い目的金属を金属塩として溶解させたメッキ液として利用することができる。このような目的金属としては、例えば、アルカリ土類金属、希土類金属、5族、6族の高融点金属などを挙げることができる。
【0061】
また、本発明に係る溶融塩組成物は、カソード限界においてアルカリ金属あるいはその合金を析出させることができる。このことから、アニオンであるFSIの還元分解が起こらず、アルカリ金属や上述の様々な金属の析出が可能となる。
【0062】
したがって、本発明に係る溶融塩組成物を含む電解液は、電析方法、被膜形成方法(メッキ)、表面処理方法等に利用することができる。
【0063】
本発明に係る電析方法は、上記溶融塩組成物を含む電解液を用いていればよく、その他の工程、条件、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。例えば、上記溶融塩組成物を電解質として用い、これに対して電気分解を行い、金属またはセラミックスなどを析出させる電析工程を含んでいる方法であればよいといえる。本電析方法によれば、電気めっきなどに好適に利用することができる。
【0064】
また、本発明に係る被膜形成方法は、上記溶融塩組成物を含む電解液を用いていればよく、その他の工程、条件、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。本被膜形成方法は、上記溶融塩組成物を電解質として用い、これを電気分解して金属またはセラミックスを析出させ、表面を金属またはセラミックスで覆うウェットプロセスを含む方法であり、いわゆるメッキを行う方法のことである。例えば、少なくとも上記電析方法と、上記電析方法によって析出した金属またはセラミックスにて物質の表面を覆う工程とを含んでいる方法を挙げることができる。本被膜形成方法によれば、物質の表面に対して均一にメッキを施すことができ、表面仕上がりが良好なメッキ物を得ることができる。
【0065】
また、本発明に係る表面処理方法は、上記溶融塩組成物を含む電解液を用いていればよく、その他の工程、条件、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。いわゆる上記溶融塩組成物を電解質として用い、物質の表面を処理する方法であればよい。かかる表面処理としては、例えば、酸化物被覆、窒化物被覆、炭化物被覆、ケイ化物被覆等の表面処理を挙げることができる。このため、本表面処理方法によれば、高硬度、耐摩耗性、耐食性等の機能を表面に付与するという効果を得ることができる。
【0066】
本発明に係る電解液を用いた被膜形成方法や表面処理方法について、被膜を形成する対象となる物質又は表面を処理する対象となる物質については、特に限定されるものではなく、従来公知の電解液・電解質を用いた被膜形成方法や表面処理方法の対象となる物質を好適に対象物として実施することができる。例えば、金属や合金、セラミックスやプラスチックの表面に金属被膜またはセラミックス被膜を形成したり、金属や合金の表面を処理したりすることができる。例えば、宝飾品や家電製品等の表面仕上げ作業に用いることができる。
【0067】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0068】
(1)実験
(1−1)実験装置
本実施例で用いた化学薬品の多くは空気中の水分と容易に反応するため、脱水、脱酸素化したガス精製装置付きのアルゴン雰囲気のグローブボックス内で取り扱った。ボックス内の水分を管理するため、雰囲気ガス中に含まれる水分は常時露点計によってモニターされた。グローブボックス中には電子上皿天秤を設置し、試料の秤量が行えるようにした。
【0069】
実験に用いた耐食性反応ラインを図1に示す。本体は耐食性に優れたSUS316ステンレスのパイプ(外径1/2inch)からなり、それらは継ぎ手及びKel−Fチップを使用したSUS316ステンレス製の真空バルブ(Whitey)などとスウェージロックを用いて接続されている。反応管の接続部には外径1/4inchのパイプを用いた。この反応ラインには油回転真空ポンプが接続されており、ポンプの直前にはガラス製のコールドトラップを設置し、これを液体窒素で冷却することによって、水や腐食性ガスなどがポンプ内に入るのを防いだ。粗引きとしてソーダ石灰を用いたケミカルトラップを経由し、フッ素やフッ化物ガスなどの腐食性ガスを除去できるようにした。このケミカルトラップを通した場合には圧損が大きく、真空度が高くならないため、バルブによってケミカルトラップを通さず直接排気ができるようにした。このラインの最高到達真空度は約10−2Torrオーダーである。
【0070】
(1−2)試薬
KFSI(第一工業製薬)、LiClO (Aldrich,純度99.99%)、NaClO(Aldrich,純度98%)、NaCO(和光純薬,純度99.5%)、KCO(和光純薬,純度99.9%)、RbCO (和光純薬,純度99.9%)、CsCl(和光純薬,純度99%)、はそれぞれ市販のものを真空乾燥した後使用した。HClO(Aldrich,70~72%水溶液)、CsCO(Aldrich,純度99.9%)はそれぞれ市販のものをそのまま使用した。反応溶媒として用いたアセトニトリル(和光純薬,水分30ppm以下)、ジクロロメタン(和光純薬,水分30ppm以下)、ニトロメタン(和光純薬,純度96%以上)、テトラヒドロフラン(和光純薬,水分50ppm以下)、塩化チオニル(和光純薬,純度95%以上)エタノール(和光純薬,純度99%)も、市販のものをそのまま使用した。
【0071】
(合成)
MFSI(M=Li,Na)の合成は以下の反応式によって行った。
【0072】
【化2】

【0073】
グローブボックス中でKFSI(第一工業製薬)とLiClO(Aldrich,純度99.99%)及びNaClO(Aldrich,純度98%)を秤量後、両薬品をアセトニトリルに溶かし、混合した。30分攪拌して反応を終了させ、沈殿したKClOを減圧濾過により除去した。その後、残った溶液をPFAチューブに入れ、真空ポンプによって333Kで2日間真空引きし、アセトニトリルを除去した。残った物質に塩化チオニルを加えて3時間攪拌し以下の反応によって水分を除去した。
【0074】
【化3】

【0075】
その後ジクロロメタンによる洗浄を3回行って塩化チオニルを除去した後、残った物質をPFAチューブに入れ、真空ポンプによって323Kで2日間真空引きしジクロロメタンを除去した。その結果、それぞれ白色の粉末を得た。
【0076】
MFSI(M=Rb,Cs)の合成は以下の手順に従って行った。
【0077】
グローブボックス中でKFSIを秤量後、ニトロメタンを加えて溶かし、HClO(Aldrich,70〜72%水溶液)と混合して以下の反応によりHFSIを合成した。
【0078】
【化4】

【0079】
30分攪拌して反応を終了させ、沈殿したKClOを減圧濾過により除去した。その後、残った溶液にRbCO(和光純薬,純度99.9%)あるいはCsCl(和光純薬,純度99%)をそれぞれ冷却しながら加え、以下の反応によってMFSI(M=Rb,Cs)を合成した。
【0080】
【化5】

【0081】
【化6】

【0082】
合成したMFSIをそれぞれ真空ポンプによって323Kで2日間真空引きし溶媒を除去した。その後、得られた固体MFSIをテトラヒドロフランに溶かし、ジクロロメタンを滴下して再結晶処理を行った。その結果、それぞれ白色の粉末を得た。
【0083】
(2)結果及び考察
(2−1)単塩MFSIの熱的性質
図2に、MFSI単塩の融解温度及び熱分解温度、並びにMFSI二元系の溶融塩組成物の共晶温度を示す。なお、熱分解温度は、ベースラインと重量減少後のTG曲線との接点を取ることにより決定した。図2に示すように、カチオンのサイズと熱分解温度との相関は見出されなかった。MTFSIの単塩の場合は、一般的なイオン結晶の熱的安定性と同様に、カチオンのサイズと熱分解温度とは相関していたが、本件のMFSI単塩の場合は、大きいカチオンが大きいアニオンを安定化するという知見とは一致しないことがわかった。
【0084】
(2−2)二元系混合塩
(2−2−1)二元系状態図
溶融塩の融点の低温化を目指して、LiFSI−KFSI系、LiFSI−CsFSI系、NaFSI−KFSI系、NaFSI−CsFSI系、KFSI−CsFSI系の二元系混合塩について状態図を作成した。
【0085】
まずLiFSI−KFSI系について説明する。LiFSI−KFSI系混合塩のDSC曲線の例として、Li:Kの割合が、それぞれ80:20,50:50,20:80の組成で溶融塩組成物を作製し、各吸熱ピークをプロットして二元系状態図を作成した。結果を図3に示す。同図に示すように、共晶組成はLi:K=50:50、共晶温度は66℃であることが分かった。
【0086】
次に、LiFSI−CsFSI系について示す。LiFSI−CsFSI系混合塩のDSC曲線の例として、Li:Cs=50:50の組成で溶融塩組成物を作製し、吸熱ピークをプロットして二元系状態図を作成した。結果を図4に示す。同図に示すように、共晶組成はLi:Cs=50:50、共晶温度は58℃であることが分かった。
【0087】
次いで、NaFSI−KFSI系について示す。NaFSI−KFSI系混合塩のDSC曲線の例として、Na:Kの割合が、それぞれ80:20,50:50,20:80の組成で溶融塩組成物を作製し、各吸熱ピークをプロットして二元系状態図を作成した。結果を図5に示す。同図に示すように、共晶組成はNa:K=50:50、共晶温度は57℃であることが分かった。
【0088】
NaFSI−CsFSI系について示す。NaFSI−CsFSI系混合塩のDSC曲線の例として、Na:Csの割合が、それぞれ80:20,50:50,20:80の組成で溶融塩組成物を作製し、各吸熱ピークをプロットして二元系状態図を作成した。結果を図6に示す。同図に示すように、共晶組成はNa:Cs=50:50、共晶温度は49℃であることが分かった。
【0089】
最後に、KFSI−CsFSI系について示す。KFSI−CsFSI系混合塩のDSC曲線の例として、K:Csの割合が、それぞれ80:20,50:50,20:80の組成で溶融塩組成物を作製し、各吸熱ピークをプロットして二元系状態図を作成した。結果を図7に示す。同図に示すように、共晶組成はK:Cs=50:50、共晶温度は61℃であることが分かった。
【0090】
これらの結果から、本実施例で示すように、溶融塩を2種類混合した二元系の溶融塩組成物では、単塩の場合にくらべて、大きく共晶温度が低下することがわかる。
【0091】
(3)まとめ
本実施例では、低温〜中温域で用いられる電解液等としての応用が期待されるアルカリ金属をカチオンとするFSI系溶融塩に関する研究を行った。熱分析の結果、MFSI単塩の熱分解温度は、MTFSI単塩の場合と異なり、カチオンのサイズとの関係性は認められなかった。またMFSI単塩の融点は、LiFSIが最も高いことがわかった。
【0092】
また、LiFSIと他の塩との混合塩については、LiFSI−CsFSIの共晶点における融点の低下の度合いが最も著しく、今回検討した二元系混合塩のうちではNaFSI−CsFSIが最も低い共晶温度(49℃)を示すことが分かった。
【0093】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上のように、本発明に係る溶融塩組成物は、単塩の場合に比べて融点を低下させることができる。また、溶融塩の組成や割合を設定することにより、使用可能な温度領域を広げることができる。このため、本発明に係る溶融塩組成物を用いることにより、電解質の融点が低下させることができ、エネルギー効率の面や安全性の面で利点がある。また、使用温度域を拡大させることができるため、電池などへの応用の際に材料の選択性が向上するなどの利点もある。したがって、鍍金、半導体、電池工業等の広範な産業上の利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施例において使用した実験装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例において用いたMFSI単塩の融解温度及び熱分解温度とMFSI二元系溶融塩組成物の共晶温度を示す図である。
【図3】本発明の実施例において行ったLiFSI−KFSI二元系のDSC曲線を示す図である。
【図4】本発明の実施例において行ったLiFSI−CsFSI二元系のDSC曲線を示す図である。
【図5】本発明の実施例において行ったNaSI−KFSI二元系のDSC曲線を示す図である。
【図6】本発明の実施例において行ったNaFSI−CsFSI二元系のDSC曲線を示す図である。
【図7】本発明の実施例において行ったKFSI−CsFSI二元系のDSC曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される物質FSIをアニオンとし、アルカリ金属Mをカチオンとする溶融塩MFSIを、2種類以上含むことを特徴とする溶融塩組成物。
【化1】

【請求項2】
上記溶融塩MFSIが、LiFSI、NaFSI、KFSI、RbFSI、及びCsFSIからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩組成物。
【請求項3】
上記溶融塩組成物は、溶融塩MFSIを2種類混合した二元系の組成物であって、
LiFSI−NaFSI混合系,LiFSI−KFSI混合系,LiFSI−CsFSI混合系,NaFSI−KFSI混合系,NaFSI−CsFSI混合系,又はKFSI−CsFSI混合系であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融塩組成物を含むことを特徴とする電解液。
【請求項5】
請求項4に記載の電解液を含むことを特徴とする電池。
【請求項6】
60℃以上130℃以下の温度範囲で用いられることを特徴とする請求項4に記載の電池。
【請求項7】
上記電池は、リチウム電池、ナトリウム電池、又はゼブラ電池であることを特徴とする請求項6に記載の電池。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の電池を用いて充電を行う工程を含むことを特徴とする充電方法。
【請求項9】
請求項4に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程を含むことを特徴とする電析方法。
【請求項10】
請求項4に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程と、
上記工程にて析出した金属またはセラミックスを用いて、物質の表面に被膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする被膜形成方法。
【請求項11】
請求項4に記載の電解液を用いて、金属またはセラミックスを析出させる工程と、
上記工程にて析出した金属またはセラミックスを用いて、物質の表面を処理する工程と、を含むことを特徴とする表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−67644(P2009−67644A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239380(P2007−239380)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】