説明

溶融紡糸装置

【課題】複数の紡糸口金が一個の紡糸口金パックに装着される多錘用紡糸口金パックを使用して多錘のマルチフィラメント糸条群を紡出する際に、多錘用紡糸口金パックを装着するスピンブロック本体の熱分布斑を可能な限り抑制することによって、各口金から紡出される各マルチフィラメント糸条間の物性差を解消して、高品質の糸条が得られるスピンブロックを提供する。
【解決手段】熱可塑性合成繊維の溶融紡糸装置において、複数個の紡糸口金を備えた角型の多錘用紡糸口金パックを装着するパックドームの加熱壁面温度を均一に保つための手段として、パックドームが設けられるスピンブロック本体の下端面に設置する取付座の長辺部と短辺部の伝熱抵抗を変化させることにより、ゾーンヒーターの発熱量を一定に保ちながら、スピンブロック内部の液体状熱媒の熱伝導による熱移動を促進させることによりパックドームの加熱壁の温度を均一に保つことが可能な溶融紡糸装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1成分または成分が異なる2成分以上の熱可塑性ポリマーを用いた熱可塑性合成繊維を溶融紡糸する際に用いる溶融紡糸装置、中で、これらの熱可塑性ポリマーを複数個の紡糸口金が装着される多錘用紡糸口金パックから紡出するための溶融紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーの1成分または成分が異なる2成分以上からなるポリマーを個別ポリマー毎にそれぞれ個別の溶融押出機から溶融押出して、スピンブロック内に装着された紡糸口金パックを介して熱可塑性合成繊維を溶融紡糸する溶融プロセスが行なわれている。
【0003】
この熱可塑性合成繊維の溶融紡糸プロセスにおいて高品質なマルチフィラメント糸を得るためには、スピンブロック内に装着する紡糸口金パックの温度が均一であることが重要である。特に、スピンブロックに装着される一個の紡糸口金パックに複数個の口金群が設けられている構造を有する多錘の紡糸口金パックにおいては、紡糸口金パックの温度が均一であることが特に重要である。
【0004】
すなわち、複数個の口金群が設けられた多錘用の紡糸口金パックでは、紡糸口金パックの温度が均一でないと、各口金からそれぞれ紡出されたマルチフィラメント糸条群の間で著しい物性ばらつきが生じる結果となり、安定生産が不能となるからである。
【0005】
ここで、一般的な熱可塑性合成繊維のスピンブロックについて説明すると、特許文献1などに開示されているように、その内部にスピンブロック自体を加熱するために液体状の熱媒が熱媒封入空間に封入されており、この熱媒はスピンブロックの内部に設けられた熱媒用ヒーターにより加熱される。なお、当然のことながら液体状の熱媒は、自重によって熱媒封入空間の底部に存在するので、この熱媒を加熱するために熱媒用ヒーターも熱媒封入空間の底部又はその近傍に設置され、また、その設置個数は、一般的に一つのスピンブロックに対して複数個が装着される。このようにして、所定温度に加熱された気相熱媒(熱媒蒸気)が発生させられ、スピンブロックと、これに装着する紡糸口金パックを均一に加熱する構造を有している。
【0006】
しかしながら、気相熱媒によりスピンブロックと紡糸口金パックを一定温度に加熱してその温度を維持しようとすると、スピンブロック内部で蒸気となった気相熱媒によって加熱される部分に関しては、その全体を均一な温度に保持できる。しかしながら、熱媒を加熱するために熱媒封入空間に挿入した熱媒用ヒーターの近傍部は高温となるので、局所的な温度斑が生じる。
【0007】
また、スピンブロック本体内には、紡糸口金パックを装着するためのパックドームが設けられる。通常、このパックドームは、熱媒を加熱するために設けられた複数のヒーターの近傍に設けられるため、ヒーター近傍のパックドームにも自ずと局所的な温度分布斑が形成されることとなる。
【0008】
このようにして温度分布斑が生じたパックドーム内に紡糸口金パックを装着した場合、そこに装着される紡糸口金パックに関しても均一な温度分布にできなくなって、紡糸口金パックに装着された各口金間にも温度斑が発生することとなる。そうすると、このような口金群から紡出される糸条群間に温度斑が原因である物性のばらつきが生じるという重大な問題を惹起することとなる。
【0009】
そこで、特許文献2において、紡糸口金パックの下面及び側面に接触するスピンブロックの加熱壁部に、スピンブロック内部に熱媒5を封入して保温板を取り付けるような構造が提供されているが、設備管理を頻繁に行うパック交換のためのパック脱着作業に係る作業性を考慮すると現実的ではない。
【0010】
【特許文献1】特公平2−4687号公報
【特許文献2】特開平7−11507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に説明したように、本発明は、複数の紡糸口金が一個の紡糸口金パックに装着される多錘用紡糸口金パックを使用して多錘のマルチフィラメント糸条群を紡出する際に、多錘用紡糸口金パックを装着するスピンブロック本体の熱分布斑を可能な限り抑制することによって、各口金から紡出される各マルチフィラメント糸条間の物性差を解消して、高品質の糸条が得られるスピンブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般的な溶融紡糸装置では、スピンブロック本体3のパックドーム7に装着される多錘用紡糸口金パックは、前述のように複数個の口金が装着されており、これらの各口金から紡出されるポリマー温度は、温度斑がなく同温である必要がある。それ故に、多錘用紡糸口金パックを加熱するためのパックドームの加熱壁では、多錘用紡糸口金パックとその全周にわたって接触しながら囲繞して加熱する加熱壁部は、その全周に渡って温度が均一であることが要求される。
【0013】
何故ならば、仮にパックドームの加熱壁の全周温度が不均一である場合、パックドーム内に装着される紡糸口金パックの温度も同様に不均一となり、各口金で紡出されるポリマー温度にばらつきが生じ、各口金8からそれぞれ紡出された糸条8間に物性のばらつきが生じるからである。このばらつきの原因は、スピンブロック本体3の内部に封入された液体状熱媒を加熱する熱媒用ヒーターに起因するものである。
【0014】
そこで、本発明者は更にこれらの点について鋭意検討した結果、通常、熱媒加熱用のヒーターはパックドームの短辺側に設置されることが多く、その結果としてパックドームの短辺側の液体状熱媒の温度が長辺部の液体状熱媒温度よりも高くなる傾向があることを見出した。そして、このようなスピンブロック本体の内部構造に起因して生じる温度勾配分布が紡糸口金パックから紡出される糸条の物性に影響を及ぼしていることを究明して本発明に到達した。
【0015】
ここに、請求項1に係る本発明として、
複数個の紡糸口金を装着した多錘用紡糸口金パックと、
前記紡糸口金パックを装着するパックドームが設けられたスピンブロック本体と、
前記パックドームの側面を囲繞して前記スピンブロック本体内に形成された熱媒封入空間及びこの空間内に封入された液体状の熱媒と、
前記熱媒封入空間の底部又はその近傍に設けられ、かつ前記液体状の熱媒を加熱して気相熱媒とする熱媒用ヒーターと、
前記複数個の紡糸口金のそれぞれから紡出された各マルチフィラメント糸条を遅延冷却するために前記紡糸口金の直下に形成された徐冷ゾーン内の雰囲気を加熱するゾーンヒーターと、
前記スピンブロック本体の下端面に対して前記ゾーンヒーターを取り付ける取付座とを備え、その際、前記取付座は、前記熱媒封入空間に設けられる「前記熱媒用ヒーターの下方に位置する部分」の伝熱抵抗が「前記熱媒用ヒーターの下方に位置しない部分」の伝熱抵抗より小さくされて、前記スピンブロック本体の下端面と前記ゾーンヒーターとの間に伝熱抵抗差を生じさせたことを特徴とする溶融紡糸装置が提供される。
【0016】
また、請求項2に係る本発明として、「前記ゾーンヒーターに関して、「前記熱媒用ヒーターの下方に位置する部分」の発熱密度を「前記熱媒用ヒーターの下方に位置しない部分」の発熱密度より小さくしたことを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸装置」が提供される。
【0017】
また、請求項3に係る本発明として、「前記取付座が熱伝導率が異なる『異種金属材料』又は『金属材料と非金属材料』で構成されることによって伝熱抵抗差が形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶融紡糸装置」が提供される。
【0018】
更に、請求項4に係る本発明として、「前記取付座の内部に空気層を設けることによってた伝熱抵抗差が形成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の溶融紡糸装置」が提供される。
【0019】
そして、請求項5に係る本発明として、「前記多錘用紡糸口金パックの形状が直方体状であり、これに対して、前記取付座の形状が矩形であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の溶融紡糸装置」が提供される。
【発明の効果】
【0020】
従来の溶融紡糸装置に設けられるゾーンヒーターは、徐冷ゾーンの雰囲気を加熱するための専用ヒーターとして使用されており、それ故に、このゾーンヒーターからスピンブロック本体やこれに装着される紡糸口金パックへの熱的な悪影響を回避するように設計されていた。そのため、スピンブロック本体とゾーンヒーターとの間には、断熱材が取り付けられていた。したがって、スピンブロック本体の熱媒封入空間に封入された熱媒によるスピンブロック本体や紡糸口金パックの加熱に起因する問題は、ゾーンヒーター部と切り離して独立に解決するしか方法がなかった。
【0021】
これに対して、本発明の溶融紡糸装置においては、上方に設けられるスピンブロック本体とこれに装着される紡糸口金パックに対して、その下方に設けられるゾーンヒーターとの間の熱的な干渉を排除せずに、これを積極的に利用しようとするものである。すなわち、スピンブロック本体の下端面に設けられる取付座に伝熱抵抗差を付与し、スピンブロック本体からゾーンヒーター、あるいは逆にゾーンヒーターからスピンブロック本体へ流れる熱量を調整して、スピンブロック本体に設けられた熱媒封入空間の内部に存在する熱媒用ヒーターの近傍に生じる局所的な温度斑を解消する。
【0022】
すなわち、熱媒用ヒーターの近傍に生じる局所的な熱によるスピンブロック本体に対する温度斑を分散させる役割をスピンブロック本体の下端面に設ける取付座とゾーンヒーターに分担させるのである。つまり、熱媒用ヒーターの近傍に生じる局所的な熱を排除するために、この熱媒用ヒーターの下方に位置する部分の取付座の伝熱抵抗を小さくし、逆に熱媒用ヒーターが存在しない部分に位置する部分の取付座の伝熱抵抗を大きくする。
【0023】
そうすると、局所的に高温になる熱媒用ヒーターの近傍からは熱が排出されやすくなり、そうでない部分(熱媒用ヒーターが設けられていない部分)では、熱が排出され難くなって、その結果として、熱媒封入空間によって囲繞されるパックドーム側面の加熱壁の温度を均一化することが可能となる。
【0024】
その結果、パックドーム内に保持されている紡糸口金パックの温度も均一となり、紡出されるマルチフィラメント糸条の物性も均質なものとなり市場へ提供する製品の品質向上が可能となる。また、設計が困難なゾーンヒーターの熱量コントロール方式から取付座の伝熱抵抗制御方式に変更することより、より広範囲な運転条件での生産が安価で短期間で実現することが可能となり生産効率の向上も期待できる。
【0025】
なお、複数個の紡糸口金が装着される多錘用の紡糸口金パックでは、当然のことながら、単錘用の紡糸口金パックよりも形状がより大型化するので、全ての紡糸口金群を均等に加熱することがより困難となるため、本発明は、このような多錘用の紡糸口金パックを使用する溶融紡糸装置において特にその効果が大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1はポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーを溶融紡糸するための一連の溶融紡糸装置を例示した概略構成図である。
【0027】
この図1において、符号1は溶融押出機、符号2はギアポンプなどからなるポリマーの定量供給手段、符号3はスピンブロック本体、符号4は多錘用紡糸口金パック、符号5はスピンブロック本体内に形成された熱媒封入空間に封入された液体状熱媒、符号6は液体状熱媒5を加熱して気相熱媒とするためのヒーター、符号7は紡糸口金パック4を装着するためにスピンブロック本体3に設けられた開口からなるパックドーム、符号9はポリマーを糸条として紡出するために紡糸口金パック4に装着された紡糸口金8(以下、単に「口金8」という)、符号9はスピンブロック本体3の直下に取り付けられる取付座、符号10はゾーンヒーター、符号11は紡出糸条を冷却するための糸条冷却装置、符号12は糸条、符号13は油剤付与装置、符号14は第1引取りロ−ラ、符号15は第2引取りローラ、そして、符号16は巻取機をそそれぞれ示している。
【0028】
図1において、本発明で言う「スピンブロック」は、ポリマーの計量供給手段2、スピンブロック本体3、角型(直方体状)の多錘用紡糸口金パック4、液体状熱媒5、熱媒加熱用ヒーター6、パックドーム7、口金8、そして、取付座9などを含んで構成されている。
【0029】
以上のように構成される溶融紡糸装置において、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーが溶融紡糸され、糸条パッケージとして巻き取られるまでの工程について簡単に説明する。
【0030】
前述の熱可塑性ポリマーは、直接的に連続重合装置から溶融状態で前記スピンブロックへ供給されるか、あるいは連続重合された後にペレット化され、ペレット化されたポリマーが粒状の固体状態で溶融押出機1へ供給供給され、溶融押出機1から溶融押出される。
【0031】
このようにして、溶融状態になった熱可塑性ポリマーは、一定温度に維持された各分配配管を通してギアポンプ2などの計量供給手段2へ供給され、スピンブロック本体3に開口部として設けられたポリマー流路を流れてパックドーム7に分配される。次いで、パックドーム7に装着された紡糸口金パック4内に形成された各ポリマー流路を流れた後、紡糸口金パック4に設けられた複数の口金群8のそれぞれから糸条12としてそれぞれ紡出される。
【0032】
以上に説明したように各口金8からそれぞれ紡糸された糸条12は、口金8の直下に形成された徐冷ゾーンを通過する。このとき、紡出糸条12を徐冷するために、スピンブロック本体3の直下に徐冷ゾーンが形成されている。一般に、スピンブロック本体3の直下には、各口金8から紡出された糸条12を急冷しないようにするために加熱雰囲気に維持された徐冷ゾーンが設けられている。そのために、除冷ゾーンには加熱雰囲気を形成するためのゾーンヒーター10が設置され、これによって、場合によってはスピンブロック本体3部よりも高い温度に設定されたゾーンヒーター10で口金直下の雰囲気温度を高温に維持している。
【0033】
その際、前記徐冷ゾーンは、ゾーンヒーター10により一様に加熱されて一定温度の加熱雰囲気を維持しており、これによって、紡出糸条12を遅延冷却している。なお、スピンブロック本体3の下端面には、ゾーンヒーター10を取付けるための取付座9が設けられ、ゾーンヒーター10とスピンブロック本体3の下端面とがボルトなどの締結材で接続される。
【0034】
以上に説明した、徐冷ゾーンで遅延冷却された紡出糸条12は、引き続いて糸条冷却装置11によって固化された後に、油剤付与装置によって紡糸油剤が付与され、必要に応じて糸条交絡装置(図示せず)によって、各糸条をそれぞれ構成するマルチフィラメント間に交絡が付与された後、第1引取りローラ14と第2引取りローラ15などによって一定の紡糸速度で引取られ、巻取機16によって糸条パッケージとして巻き取られる。
【0035】
以上のように構成される本発明に係る溶融紡糸装置において、一般的なパックドーム7およびゾーンヒーター10の形状は、パックドーム7に装着する角型(すなわち、直方体状)の紡糸口金パック4の形状に対応して長辺部と短辺部とを有する矩形状となっている。しかも、通常、スピンブロック本体内に形成された熱媒封入空間に封入された液体状熱媒5を加熱する熱媒用ヒーター6は短辺部側に位置する。
【0036】
このため、スピンブロック本体3の内部に開口として形成されるパックドーム7の加熱壁についても、熱媒用ヒーター6の設置位置の影響を受けて、短辺側の加熱壁が長辺側の加熱壁よりも高温になる傾向が強くなる。その結果として、パックドーム7に装着する紡糸口金パック4に対して温度斑を引き起こす原因となっていた。
【0037】
そこで、本発明者は、このような温度斑を解消するための方策について鋭意検討した。通常、徐冷ゾーンを加熱するゾーンヒーター10からの熱伝導は、紡糸口金パック4を装着するスピンブロック本体3の温度に悪影響を及ぼさないように、断熱材などを介して熱的に遮断されている。
【0038】
しかしながら、本発明者は、これとは逆に口金直下の徐冷ゾーンに設けられるゾーンヒーター10を積極的に利用することを想到するに至った。そして、このゾーンヒーター10とスピンブロック本体3と接続するために、スピンブロック本体3の下端面に設置される取付座9に着目した。
【0039】
図2は、本発明に係る取付座9の一実施形態例を示した斜視説明図であり、この図2において、符号9aは取付座9の短辺部に相当する伝熱抵抗の小さな部材を示し、また、符号9bは取付座9の長辺部に相当する伝熱抵抗の大きな部材をそれぞれ示す。なお、既に説明したように、短辺部9aの上方には、熱媒封入空間に封入された液体状熱媒5を加熱する熱媒用ヒーター6が設けられていることを重ねて述べておく。
【0040】
したがって、熱媒用ヒーター6の下方には取付座9の短辺部9aが位置し、熱媒用ヒーター6が設けられていない部分の下方には取付座9の長辺部9bが位置することになる。しかしながら、これは多錘用紡糸口金パック4の形状が角型(直方体状)である場合であって、多錘用紡糸口金パック4の形状が丸型などに変われば、その形状に応じて変わることはいうまでもない。
【0041】
この本発明に係る取付座9では、図2に示す如く、取付座9を構成する部品を2種類に分け、短辺部9aは熱伝導率の低い材料を使用し、長辺部9bは熱伝導率の高い材料を使用する。これにより、一様な発熱を持つゾーンヒーター10と取付座9との間で熱伝導に差を生じさせ、これによって紡糸口金パック4の温度を均一にコントロールする。
【0042】
なお、一般に広く用いられているスピンブロックの構造においては、スピンブロック本体3の下端面に下板(図1に示した符号9がこれに当る)が取り付けられており、このスピンブロック本体3の下端面部に取付けられた「下板」を、本発明において「取付座」と称していることを断っておく。
【0043】
ここで、取付座9の中央部は、図2に例示したように、スピンブロック本体3の直下に取付座9を取付けたままの状態でも紡糸口金パック8をパックドーム7に脱着可能なよう開口が形成されている。また、この取付座9はスピンブロック本体3の下端面にボルトなどの締付材を用いて取り付けられ、これと共にスピンブロック本体3の直下の徐冷ゾーンに設置するゾーンヒーター10と、更に、このゾーンヒーター10の直下に設置する冷却装置11をも連結するための部品ともなっている。
【0044】
通常、取付座9は、一定の厚みを持った板状部品であって、補修性などを考慮してスピンブロック本体3と切り離すことができ、これによって独立に取外すことが可能な構成となっている。なお、取付座9の形状は、通常、図2に示すように矩形である。ただし、この形状は、複数個の紡糸口金8が装着される多錘型紡糸口金パックの形状が角型(直方体状)のものが多く使用されていることに対応して取付座9の形状も矩形とされているだけである。
【0045】
次に、図3は、図2に例示した本発明の実施形態に係る取付座9に対して、その違いを明示するために従来の取付座17を模式的に例示した概略の斜視説明図図である。この従来の取付座17では、図示したように、本発明に係る取付座9と異なり、その長辺部と短辺部は同一の均質な材料で形成されている。しかも、この取付座17は一枚の同じ材質の厚肉鋼板から加工されることが多いため、板の厚み方向に一定値の伝熱抵抗が生じ、これを利用してゾーンヒーター10からスピンブロック本体3への熱伝導の影響を抑制している。
【0046】
このような従来の取付座17に対して、本発明に係る取付座9は、熱伝導率の高い材料を用いた短辺部9aでは小さな伝熱抵抗を持ち、ゾーンヒーター10の接触面とスピンブロック本体3の下端面での接触面間において、その温度差が小さくなる。その一方で、熱伝導率の低い材料を用いた長辺部10bでは、大きな伝熱抵抗を持つため、ゾーンヒーター10の接触面とスピンブロック本体3の下端面との間の接触面で両者の温度差は大きくなる。
【0047】
その結果、スピンブロック本体3の内部の液体状熱媒5の熱伝導による熱移動が、短辺部側から長辺部側へ向けて促進される。そして、これによってパックドーム7周りの短辺側と長辺側との間の温度勾配が均一化されるように作用し、その結果として、パックドーム7の加熱壁を一様な温度分布に形成できる。
【0048】
このとき、本発明の取付座9では、ゾーンヒーター10から取付座9を介してスピンブロック本体3側へ伝熱される熱量を積極的にコントロールすることによって、スピンブロック本体3内部の熱媒封入空間に封入された熱媒5の温度分布斑を解消して均一になるような工夫をする。そのために、ゾーンヒーター10の短辺側10aには、スピンブロック本体3の短辺側から流入する熱量を見込んでその発熱密度を小さくし、その一方で、ゾーンヒーター10の長辺側10bの発熱密度を短辺側に対して相対的に大きくする。
【0049】
ここで、本発明で使用する取付座9の実施形態として、図2に示すような短辺部9aと長辺部9bとで熱伝導率の異なる異種金属を用いる他に、例えば、一枚の鋼板にて同一金属材料で製作する場合は、長辺側9bにスリット溝を加工し、空気断熱層を設けることで大きな伝熱抵抗を与えることも可能である。更には長辺部9bのみゾーンヒーター10と直接接触させること無く、一部切削加工などによる厚み変更により長辺部9bに大きな伝熱抵抗を与えることも可能である。
【0050】
いずれにしても、何らかの手段により長辺部9bと短辺部9aの間で伝熱抵抗差を発生させることが可能な手段であって、本発明の目的を好適に達成できるものであるならば、これを特定なものに限定する理由は無い。
【0051】
また、本発明のメリットは幅広い運転条件に対しても、例えば、取付座9を各運転温度条件に合わせて取り替えるだけで適正な一様温度分布を簡便に形成することが可能な点にある。ゾーンヒーター10の設計は温度分布予測が困難であることから、設計に時間を費やすこととなりコストも掛かるが、取付座9での対応であれば設計検討が比較的容易であり、解析や計算といった手法によりスピンブロック3側の温度予測も行い易く、更に製作費用及び製作期間はゾーンヒーター10対比大幅に低減できる点において生産性を大きく飛躍させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る溶融紡糸装置の概略構成を例示した概略構成図である。
【図2】本発明に係る取付座の一実施形態例を説明するために示した斜視説明図である。
【図3】従来の取付座の一実施形態例を説明するために示した斜視説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1.溶融押出機
2.ギアポンプ
3.スピンブロック本体
4.多錘用紡糸口金パック
5.液体状熱媒
6.液体状熱媒加熱ヒーター
7.パックドーム
8.紡糸口金
9.取付座
9a.取付座短辺部
9b.取付座長辺部
10a.ゾーンヒーター短辺部
10b.ゾーンヒーター長辺部
11.冷却装置
12.糸条
13.油剤付与装置
14.第1引取りローラ
15.第2引取りローラ
16.巻取機
17.従来の取付座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の紡糸口金を装着した多錘用紡糸口金パックと、
前記紡糸口金パックを装着するパックドームが設けられたスピンブロック本体と、
前記パックドームの側面を囲繞して前記スピンブロック本体内に形成された熱媒封入空間及びこの空間内に封入された液体状の熱媒と、
前記熱媒封入空間の底部又はその近傍に設けられ、かつ前記液体状の熱媒を加熱して気相熱媒とする熱媒用ヒーターと、
前記複数個の紡糸口金のそれぞれから紡出された各マルチフィラメント糸条を遅延冷却するために前記紡糸口金の直下に形成された徐冷ゾーン内の雰囲気を加熱するゾーンヒーターと、
前記スピンブロック本体の下端面に対して前記ゾーンヒーターを取り付ける取付座とを備え、その際、前記取付座は、前記熱媒封入空間に設けられる「前記熱媒用ヒーターの下方に位置する部分」の伝熱抵抗が「前記熱媒用ヒーターの下方に位置しない部分」の伝熱抵抗より小さくされて、前記スピンブロック本体の下端面と前記ゾーンヒーターとの間に伝熱抵抗差を生じさせたことを特徴とする溶融紡糸装置。
【請求項2】
前記ゾーンヒーターに関して、「前記熱媒用ヒーターの下方に位置する部分」の発熱密度を「前記熱媒用ヒーターの下方に位置しない部分」の発熱密度より小さくしたことを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸装置。
【請求項3】
前記取付座が熱伝導率が異なる「異種金属材料」又は「金属材料と非金属材料」で構成されることによって伝熱抵抗差が形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶融紡糸装置。
【請求項4】
前記取付座の内部に空気層を設けることによってた伝熱抵抗差が形成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の溶融紡糸装置。
【請求項5】
前記多錘用紡糸口金パックの形状が直方体状であり、これに対して、前記取付座の形状が矩形であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の溶融紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37676(P2010−37676A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200689(P2008−200689)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】