説明

溶融金属用取鍋

【課題】残存する溶融金属を容易に外部へ排出することができる溶融金属用取鍋を提供する。
【解決手段】溶融金属を貯蔵するための取鍋本体2と、取鍋本体2から溶融金属を排出するサイフォンとを備える溶融金属用取鍋1であって、取鍋本体2には、溶融金属を排出するための排出口24が形成されている。当該排出口24は、取鍋本体2の側面および上面の角部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム等の溶融金属を搬送するための溶融金属用取鍋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム精錬工場内においてアルミニウム等の溶融金属を炉から取り出し、溶融金属用取鍋(以下、単に取鍋という)に入れ、フォークリフト等により工場内等を運搬している。運搬したアルミニウム等の溶融金属は、所定の形状になるように成型を行うために、取鍋から直接鋳型に移されるか、もしくは、一旦小型の保持炉に移される。
【0003】
取鍋から溶融金属を排出する際には、溶融金属への気泡の混入を避ける必要がある。気泡が混入してしまうと、成形された金属の強度が弱くなり、品質が低下してしまうからである。例えば、単に取鍋を傾斜させて溶融金属を排出する場合、溶融金属に気泡が混入し易い。
【0004】
そこで、取鍋から他の容器等へ溶融金属を排出する技術として、例えば、特許文献1,2では、取鍋内に圧力を加えることで保持炉に溶融金属を排出する差圧式の溶融金属排出システム(以下、加圧方式とよぶ)が開示されている。
【0005】
図8は、従来の加圧方式の取鍋80の断面図である。取鍋80は、溶融金属を貯蔵する取鍋本体84と、取鍋本体84の内部と外部との差圧を利用して、取鍋本体84内の溶融金属を排出するための排出管81と、取鍋本体84内に大気圧よりも高圧の気体を送り込む配管83とを有している。なお、排出管81の第1の開口部83は、取鍋本体84の底部付近に位置し、第2の開口部82は、取鍋本体2の外部に位置している。
【0006】
図8で示されるように、配管83から高圧気体が取鍋本体84内部に送り込まれると、排出管81における溶融金属51の液面は上昇し、やがて、第2の開口部82に到達する。これにより、溶融金属51は第2の開口部82から排出される。
【0007】
また、本発明者らは、特許文献3に記載のように、サイフォンを用いて、取鍋本体から溶融金属を排出する技術を提案している。図9は、サイフォンを備えた取鍋90の断面図である。図9に示されるように、取鍋90は、サイフォン30と、取鍋本体92とを備えている。
【0008】
なお、サイフォン30の第1の開口部31は、取鍋本体92の底部付近に位置し、第2の開口部32は取鍋本体92の外部に位置している。また、第2の開口部32は、取鍋本体92の底部とほぼ同じ高さである。
【0009】
そして、溶融金属51の排出開始時、一時的に取鍋本体92の内部を弁23の切替により高圧気体を注入して、サイフォン30を溶融金属51で充填させる。サイフォン30が溶融金属で充填されると、取鍋本体92の内部を大気圧に戻しても、大気圧を利用して溶融金属51が、取鍋本体92からサイフォン30を流れて、外部に排出することができる。
【0010】
なお、このとき、弁33を操作して、サイフォン30の曲部(最も高い位置の部分)の気圧を下げることにより、溶融金属51をスムーズに排出することが可能となる。また、同曲部に設けられた弁34を操作し、当該曲部に空気を注入することで、溶融金属51の排出を停止させることができる。
【特許文献1】特開2003−1405号公報(2003年1月8日公開)
【特許文献2】特開2002−316258号公報(2002年10月29日公開)
【特許文献3】特開2005−161403(2005年6月23日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図8に示されるような取鍋80や、図9に示されるように取鍋90では、以下のような問題があった。
【0012】
加圧方式の場合、取鍋内の溶融金属の残量が少ない場合にも取鍋本体84内に高圧気体を送り続けると、高圧気体が高温の溶融金属とともに、排出管の第2開口部から噴射されるおそれがある。そのため、噴射が生じる前に、少量の溶融金属を残した状態で溶融金属の排出を停止する必要がある。
【0013】
この場合、噴射が生じる前に溶融金属の排出を停止しているため、取鍋本体84内の溶融金属の液面は、第1の開口部83よりも高い位置にある。そのため、この残湯を排出管81を用いて排出することは困難である。
【0014】
また、サイフォン30を用いた場合でも、サイフォン30の第1の開口部31から空気が入り、溶融金属51内に気泡が混入するのを避けるため、取鍋本体92内の溶融金属量が少なくなってきた場合、所定量を残した状態で排出を停止する必要がある。
【0015】
この場合でも、残湯をサイフォンの第1の開口部31から第2の開口部32へ排出することは困難である。
【0016】
そのため、取鍋本体内に残存した溶融金属は、次に取鍋本体内に注入する溶融金属と混じることとなるが、残存していた溶融金属は、空気との接触時間が長く、変質や気泡の混入等により品質が低下するおそれがある。また、前回と同じ組成の溶融金属を入れる必要があり、組成ごとに取鍋を用意する必要がある。
【0017】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、加圧方式の取鍋やサイフォンを有する取鍋内の溶融金属を排出する際に残った溶融金属(残湯)を容易に排出することが可能な溶融金属用取鍋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る溶融金属用取鍋は、上記の課題を解決するために、溶融金属を貯蔵するための取鍋本体部と、前記取鍋本体部から溶融金属を排出するサイフォンとを備える溶融金属用取鍋であって、前記取鍋本体部には、溶融金属を排出するための排出口が形成されていることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、サイフォンを用いて溶融金属を取鍋本体部から排出することができる。サイフォンを用いているため、溶融金属に気泡が混入しにくい。
【0020】
また、サイフォンを用いて溶融金属を排出させる場合、上述したように、溶融金属への気泡の混入をさけるため、少量残した状態で溶融金属の排出を停止することになる。しかしながら、この残湯は、取鍋本体部に設けられた排出口を通して、容易に外部に排出することができる。
【0021】
なお、排出口からの排出方法は、例えば、取鍋を傾斜させることが考えられる。傾斜させて排出する場合、排出された溶融金属に気泡が混入する可能性があるが、排出口から排出される溶融金属は少量であるため、混入された気泡等を取り除いた後、再利用すればよい。
【0022】
また、本発明に係る溶融金属用取鍋は、溶融金属を貯蔵するための取鍋本体部と、前記取鍋本体部の内部に一方の端部が位置し、前記取鍋本体部の外部に他方の端部が位置する排出管とを備え、前記取鍋本体部の内部を大気圧よりも高圧にすることで、前記取鍋本体部に貯蔵された溶融金属を前記排出管から排出する溶融金属用取鍋であって、前記取鍋本体部には、溶融金属を排出するための排出口が形成されていることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、例えば、取鍋本体部の内部を高圧にすることで、取鍋本体部に貯蔵された溶融金属を、排出管を用いて排出することができる。
【0024】
このように、差圧を用いて溶融金属を溶融金属を排出させる場合、上述したように、取鍋本体部内の溶融金属が少なくなると、排出管から噴射される可能性がある。そのため、少量残した状態で溶融金属の排出を停止することになる。しかしながら、この残湯は、取鍋本体部に設けられた排出口を通して、容易に外部に排出することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る溶融金属用取鍋は、上記の構成に加えて、前記排出口は、前記取鍋本体部の角部に形成されている。
【0026】
上記の構成によれば、排出口が取鍋本体部の中で最も低い位置になるように、取鍋本体部を回転させることで、全ての残湯を排出口から容易に排出することができる。
【0027】
さらに、本発明の溶融金属用取鍋は、上記の構成に加えて、前記排出口は、前記取鍋本体部の側面と上面との角部に形成されている。
【0028】
上記の構成によれば、サイフォンや排出管を用いて排出している際に、溶融金属が排出口から漏れ出すことがない。さらに、溶融金属用取鍋を90度より少し大きい角度に傾斜させることで、残湯の全てを外部に排出することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の溶融金属用取鍋は、サイフォン、または、差圧を用いて前記取鍋本体部から溶融金属を排出するための排出管とは別に、排出口が形成された取鍋本体部を備えている。これにより、サイフォンや排出管を用いて排出した後の残湯を排出口から容易に排出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の溶融金属用取鍋は、アルミニウム、マグネシウム、銅等の溶融金属を貯蔵・搬送するものである。以下、本実施形態に係る溶融金属用取鍋(以下、単に取鍋という)について図1〜図7に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0031】
(取鍋の構造)
図1は、本実施形態の取鍋1の上面図を示しており、図2は、図1におけるA−A線の矢視断面図を、図3は、図1におけるB−B線の矢視断面図を示している。
【0032】
図1〜3に示されるように、取鍋1は、溶融金属を貯蔵するための取鍋本体2と、取鍋本体2に貯蔵された溶融金属を外部へ排出するためのサイフォン30とを備えている。また、取鍋本体2は、溶融金属を貯蔵する貯蔵部11を備えた取鍋下部10と、当該取鍋下部10の蓋である取鍋上部20とを備えている。なお、図3において、サイフォン30の図示を省略している。
【0033】
取鍋下部10は、例えば、外径約1200mm、高さ約850mmのほぼ円筒状に形成されており、その底面は底壁によって閉じられている。その内側面および内底面によって囲まれた空間が溶融金属の貯蔵部11となる。また、取鍋下部10の側壁および底壁の厚みは、例えば、約150mmである。
【0034】
取鍋下部10の外壁の上部には、取鍋上部20と繋ぐためのフランジが備えられている。取鍋下部10に取鍋上部20が取り付けられたときに、取鍋本体2とその外部との間で気体の漏れがないように、フランジの上面には図示しないシール材が施されている。
【0035】
また、図3に示されるように、取鍋下部10の下面には、フォークリフトのフォークが挿入されるフォーク差込部材12が備えられている。これにより、取鍋をフォークリフトで搬送することができる。また、フォークリフトにより、取鍋を上下に移動させることができる。さらに、フォークを回転させることで、取鍋1を傾斜させることができる。なお、図3において、フォーク差込部材12は、紙面に垂直な方向(紙面の手前から奥の方向)に形成されている。
【0036】
取鍋上部20は、図2,3に示されるように、取鍋下部10の蓋としての機能を有している。取鍋上部20にもフランジが備えられており、当該フランジが取鍋下部10のフランジと繋げられる。
【0037】
図1、2に示されるように、取鍋上部20の中央には、注入口22が備えられており、さらに、当該注入口22の開閉を行うための上蓋21が備えられている。上蓋21を開けることで、溶融金属を取鍋下部10の貯蔵部11に注入することができる。
【0038】
また、取鍋上部20は、高圧気体を取鍋本体2の内部に流すための三方弁23を備えている。三方弁23は、高圧気体を送りこむための図示しない加圧ポンプに接続された配管と接続されている。さらに、三方弁23の残り1方は、大気中に開放されるようになっている。これにより、三方弁23を操作することにより、貯蔵部11の内部への高圧気体の注入と、貯蔵部11内部の大気開放とを行うことができる。
【0039】
また、図2に示されるように、取鍋上部20は、サイフォン30を取鍋本体2の内部に通すための穴25が設けられている。当該穴25にサイフォン30が差し込まれ、取鍋上部20とサイフォン30とが一体として形成される。
【0040】
さらに、図1,3に示されるように、取鍋上部20は、穴25とは別に、貯蔵部11に残った溶融金属(残湯)を排出するための排出口24を備えている。当該排出口24とサイフォン30が差し込まれる穴25とは、取鍋上部20の中心から90度ずれた位置に設けられている。
【0041】
図3に示されるように、排出口24は、取鍋本体2の側面および上面の角部に形成されており、貯蔵部11の側面と連続している。そのため、取鍋本体2を90度より少し大きい角度で傾斜させることで、貯蔵部11の残湯の全てを排出口24からスムーズに排出することができる。なお、排出口24には、その開閉を行うための栓24aが設けられている。
【0042】
図2に示されるように、サイフォン30は、曲管であり、その曲部35が最も高い位置となる。また、サイフォン30は、取鍋上部20の穴25に差し込まれ、その第1の開口部31が貯蔵部11の底部付近に位置する。さらに、サイフォン30の第2の開口部32は、取鍋本体2の外部に位置する。なお、サイフォン30は、特許文献3に記載のサイフォンと同様の構成を有しているため、ここでは基本的構成のみを説明し、詳細な説明を省略する。
【0043】
サイフォン30は、大気圧を利用して、貯蔵部11に貯蔵されている溶融金属を、第1の開口部31から高所である曲部35に上げ、貯蔵部11より低所に位置する第2の開口部32から排出することができる。これにより、溶融金属は、大気圧を利用して貯蔵部11から外部に自然に排出される。
【0044】
なお、曲部35は、サイフォン30の中間に位置し、該位置において、他の位置よりも管の太さが大きく、排出される溶融金属がいったん留まることができ、かつ、気体を溜めることのできる溜り部であるともいえる。
【0045】
さらに、曲部35には、曲部35内を真空ポンプと接続するための弁33と、曲部35内を大気圧に戻すための弁34とが備えられている。弁33を開けることで、曲部35内の気圧を真空に近い状態にでき、サイフォン30をサイフォン状態に維持することができる。また、弁34を開けることで、曲部35内に大気を注入することができ、サイフォン30による溶融金属の排出を停止することができる。
【0046】
(取鍋の材質)
上記取鍋下部10および取鍋上部20は、溶融金属の温度に耐えることができるように、その材質が選定されている。本実施形態では、取鍋下部10および取鍋上部20は、最も外側に外殻鉄皮が形成され、その内側に断熱材と内張り耐火材とが順に形成されている。また、サイフォン30は、外殻鉄皮と内張り耐火材とが順に形成されている。
【0047】
ここで、上記内張り耐火材の材質は、粉末状のボーキサイトベースの低セメントキャスタブル(Low Cement Castable) と粒子状のバブルアルミナとからなっている。したがって、粉末状のボーキサイトベースの低セメントキャスタブルは緻密質であるとともに、その粉末状の低セメントキャスタブルの中に中空粒子状のバブルアルミナが混入されているので、強度も強いものとなっている。酸化アルミニウム(Al)約82.0%に他の金属酸化物を含んだものを成分としている。ただし、本発明においては、必ずしもこれに限らず、例えば、酸化アルミニウム(Al)の配合量として約80%〜85%であれば足りる。この酸化アルミニウム(Al)を主成分とする粉末物質は、粒径が、3mm以下程度である。
【0048】
内張り耐火材の形成方法は、以下の通りである。上記粉末物質に、1kg当たり104〜128mlの水を添加して混練りし、成形型枠を施した後、図示しないセラミックペーパーとこの成形型枠との間に、該混練物を流し込み、固化後、成形型枠を脱枠することにより、内張り耐火材が形成される。
【0049】
(取鍋の使用方法)
次に、取鍋1の使用方法について、図4〜7を参照しながら説明する。図4は、取鍋1の使用方法を示すフローチャートである。
【0050】
まず、取鍋上部20の上蓋21を開け、注入口22(図2参照)を通して、溶融金属を取鍋下部10の貯蔵部11に流し込む(S1)。そして、フォーク差込部材12にフォークリフトのフォークを差し込み、所望の場所に取鍋1を移動させる。このとき、サイフォン30の第2の開口部32が排出先の保持炉または鋳型の位置にくるように移動される。
【0051】
次に、サイフォン30に溶融金属を充填させる(S2)。当該充填方法は、以下のとおりである。
【0052】
すなわち、本実施形態では、図5に示されるように、取鍋上部20に備えられた三方弁23を操作して、貯蔵部11に高圧気体を注入し、サイフォン30内の溶融金属の液面を上昇させる。このとき、サイフォン30の曲部35に設けられた弁33を操作して、曲部35内の空気を吸引させる。また、排出口24は栓24aにより閉じられている。これにより、高圧気体が排出口24が逃げることがない。
【0053】
その後、貯蔵部11への高圧気体の注入を続けると、図5の破線に示したように、溶融金属51が曲部35に達し、曲部35に溶融金属51が溜まり始めると同時に、第2の開口部32から溶融金属51が排出される。
【0054】
このとき、弁34の操作により曲部35内を減圧しているため、溶融金属51が曲部35に溜まり易くなるとともに、曲部35内を通過する溶融金属51に含まれる微量の水蒸気や気泡が取り除かれることとなる。すなわち、脱ガス効果を奏する。
【0055】
そして、サイフォン30内に溶融金属51が充填されると、三方弁23を操作して、貯蔵部11内を大気圧に戻す。このように、高圧気体により、貯蔵部11の内部を加圧する時間は非常に短い。つまり、高圧気体と溶融金属51とが貯蔵部11内で共存する時間が短い。よって、溶融金属51への気泡の混入を低減することができる。また、貯蔵部11を大気圧に戻しても、サイフォン30がサイフォンとして機能しているため、貯蔵部11内の溶融金属51が外部に排出される(S3)。
【0056】
なお、弁34の開閉度を調整することで、真空ポンプの曲部35に対する吸入圧を変更することで(すなわち、排気速度を変更する)、曲部35内の溶融金属51の液面を制御し、当該液面の波立状態を変化させることができる。これにより、溶融金属51への気泡の混入を防止することができる。
【0057】
その後、排出を継続すると、貯蔵部11内の溶融金属51が少なくなり、そのまま排出をつづけると、ついには、第2の開口部34から溶融金属が曲部35に逆流するおそれがある。このような逆流が生じると、溶融金属51に気泡が混入してしまう。
【0058】
そこで、本実施形態の取鍋1では、貯蔵部11内の溶融金属51が少なくなると、弁34を操作してサイフォン30の曲部35内を大気開放し、上記逆流を生じさせることなく、サイフォン30を用いた溶融金属51の排出を停止させる(S4)。
【0059】
図6は、S4の処理後の取鍋1の断面図である。このように、貯蔵部11内には少量の溶融金属51が残っている。
【0060】
次に、栓24a(図3参照)を開け、排出口24を開ける(S5)。
【0061】
そして、図7に示されるように、フォークリフトのフォークを回転させ、取鍋1を90度より少し大きい角度に傾斜させて、貯蔵部11内に残った溶融金属51(残湯)を排出口24から排出させる(S6)。上述したように、排出口24が取鍋本体2の側面および上面の角部に形成されているため、全ての残湯がスムーズに排出される。
【0062】
以上のように、本実施形態の溶融金属用取鍋1は、溶融金属を貯蔵するための取鍋本体2と、取鍋本体2から溶融金属を排出するサイフォン30とを備える。そして、取鍋本体2には、溶融金属を排出するための排出口24が形成されている。
【0063】
これにより、サイフォン30を用いて溶融金属を取鍋本体2から排出することができる。サイフォン30を用いているため、溶融金属に気泡が混入しにくい。
【0064】
また、サイフォン30を用いて溶融金属を排出させる場合、溶融金属への気泡の混入をさけるため、少量残した状態で溶融金属の排出を停止することになる。しかしながら、この残湯は、取鍋本体2に設けられた排出口24を通して、容易に外部に排出することができる。
【0065】
なお、排出口からの排出方法は、例えば、取鍋1を傾斜させることが考えられる。傾斜させて排出する場合、排出された溶融金属に気泡が混入する可能性があるが、排出口から排出される溶融金属は少量であるため、混入された気泡等を取り除いた後、再利用すればよい。
【0066】
また、排出口24は取鍋本体2の角部に形成されている。そのため、排出口24が取鍋本体2の中で最も低い位置になるように、取鍋本体2を回転させることで、全ての残湯を排出口から容易に排出することができる。
【0067】
また、排出口24は、取鍋本体2の側面と上面との角部に形成されている。そのため、サイフォン30を用いて排出している際に、溶融金属が排出口24から漏れ出すことがない。さらに、取鍋1を90度より少し大きい角度に傾斜させることで、残湯の全てを外部に排出することが可能となる(図7参照)。
【0068】
なお、上記説明では、S2において、貯蔵部11内に高圧気体を注入するものとした。しかしながら、サイフォン30に溶融金属を充填させる方法は、これに限らられるものではない。
【0069】
例えば、サイフォン30の第2の開口部32を、溶融金属が貯蔵された保持炉に浸ける。そして、弁33を操作して、サイフォン30の曲部35内を減圧する。これにより、貯蔵部11に貯蔵された溶融金属が第1の開口部31から曲部35に向かって押し上げられる。同時に、保持炉に貯蔵された溶融金属が第2の開口部32から曲部35に向かって押し上げられる。このようにして、溶融金属をサイフォン30に充填させてもよい。
【0070】
また、上記説明では、サイフォン30を有する取鍋1が、残湯を排出するための排出口24を備えるものとして説明した。しかしながら、これに限らず、図8に示したような加圧方式で溶融金属を排出する取鍋が、上記排出口24を備えていても良い。
【0071】
すなわち、本発明の取鍋は、溶融金属を貯蔵するための取鍋本体84(図8参照)と、取鍋本体84の内部に一方の端部が位置し、取鍋本体84の外部に他方の端部が位置する排出管81とを備え、取鍋本体84の内部を大気圧よりも高圧にすることで、取鍋本体84に貯蔵された溶融金属を排出管81から排出する溶融金属用取鍋であって、当該取鍋本体84に、溶融金属を排出するための上記排出口24(図3参照)が形成されていてもよい。加圧方式で溶融金属を排出する取鍋においても、溶融金属の噴射を避けるために少量の溶融金属を残して排出を停止させる必要がある。そして、取鍋を傾斜させることで、全ての残湯を排出口24からスムーズに排出させることができる。
【0072】
この場合、排出管81を用いて溶融金属を排出するときには、排出口24を栓24aで閉じておき、残湯を排出するときに排出口24を開ける。
【0073】
なお、排出口24は、例えば、取鍋下部10の側壁の上方において、当該側壁を貫通するように形成されていてもよい。この場合でも、上記のように取鍋本体2の側面および上面が交差する角部に形成されている場合と同様に、取鍋を約90度回転させることにより、残湯を排出口24から排出することができる。
【0074】
また、排出口24は、取鍋下部10の底面に形成されていてもよい。この場合、サイフォン30や排出管81で排出している間、栓24aにより排出口24を完全に閉じておく必要がある。その後、栓24aを外して、残湯を外部に排出する。
【0075】
なお、この場合、取鍋下部10の側面および底面の角部に排出口24が形成されていることが好ましい。そして、残湯を排出する場合、排出口24が、取鍋下部10の底面において最も高い位置になるように取鍋本体2を回転させる。これにより、栓24aを外したとたんに、排出口24から残湯が排出されることがない。その後、排出口24が、取鍋本体2において最も低い位置になるように取鍋本体2を回転させる。これにより、残湯が排出口24から全て排出される。この場合、栓24aを外す場合に、残湯が突然排出されることがなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば、アルミニウムなどの溶融金属を貯蔵・運搬するための取鍋に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る溶融金属用取鍋を示す上面図である。
【図2】図1のA−A線の矢視断面図である。
【図3】図1のB−B線の矢視断面図である。
【図4】溶融金属用取鍋の使用方法を示すフローチャートである。
【図5】サイフォンを用いて溶融金属を排出する際の溶融金属用取鍋の断面図である。
【図6】サイフォンを用いた溶融金属の排出を停止した際の溶融金属用取鍋の断面図である。
【図7】排出口から残湯を排出する際の溶融金属用取鍋の断面図である。
【図8】従来の加圧方式の溶融金属用取鍋の断面図である。
【図9】従来のサイフォンを備えた溶融金属用取鍋の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 溶融金属用取鍋
2 取鍋本体(取鍋本体部)
24 排出口
30 サイフォン
81 排出管
84 取鍋本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を貯蔵するための取鍋本体部と、
前記取鍋本体部から溶融金属を排出するサイフォンとを備える溶融金属用取鍋であって、
前記取鍋本体部には、溶融金属を排出するための排出口が形成されていることを特徴とする溶融金属用取鍋。
【請求項2】
溶融金属を貯蔵するための取鍋本体部と、
前記取鍋本体部の内部に一方の端部が位置し、前記取鍋本体部の外部に他方の端部が位置する排出管とを備え、
前記取鍋本体部の内部を大気圧よりも高圧にすることで、前記取鍋本体部に貯蔵された溶融金属を前記排出管から排出する溶融金属用取鍋であって、
前記取鍋本体部には、溶融金属を排出するための排出口が形成されていることを特徴とする溶融金属用取鍋。
【請求項3】
前記排出口は、前記取鍋本体部の角部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融金属用取鍋。
【請求項4】
前記排出口は、前記取鍋本体部の側面と上面との角部に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の溶融金属用取鍋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−130666(P2007−130666A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326532(P2005−326532)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(390036858)ゼオンノース株式会社 (4)
【出願人】(399038527)株式会社スズムラ (2)
【Fターム(参考)】