説明

溶融金属用誘導電磁ポンプ

【課題】ダクトの流路が大きく制限されず、溶融金属が通る流路断面積を広くとることが出来、これにより溶融金属の流動抵抗が小さく、効率良く溶融金属を搬送することが出来る溶融金属用誘導電磁ポンプ。
【解決手段】溶融金属用誘導電磁ポンプは、溶融金属を通すダクト1と、このダクト1の中に移動磁界を発生させる誘導子7、7とを有する。ダクト1内の誘導子7を設けた位置に対応して、同ダクト1の側壁の溶融金属の流れの方向に沿って誘導電流を流す導電性セラミックからなる導体板2、2を設けている。ダクト1は断面がほぼ矩形とし、その対向する一対の側壁に近接して導体板2、2を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融アルミニウムや溶融亜鉛等の溶融金属を搬送するために使用される溶融金属用誘導電磁ポンプに関し、特に溶融金属を通すダクトの中心にコアを配置せず、ダクトの側壁近くに誘導電流を通すための導体板を設け、ダクト内の溶融金属の推進力の維持と流動抵抗の低減を図った溶融金属用誘導電磁ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋳造等の分野では溶融アルミニウムなどを搬送するために、電磁誘導作用により溶融金属に推力を与えて搬送する溶融金属用電磁ポンプが利用されている。このような溶融金属用電磁ポンプは、磁性体製のヨークにコイルを巻いた誘導子により筒状のダクト内部に移動磁界を発生させて溶融金属に推力を与え、供給するる形式の誘導形電磁ポンプが主流である。
【0003】
このような誘導形電磁ポンプは、例えば特開2006−341281号公報に記載されている。図5は、前述した溶融金属用電磁ポンプの従来例を示すもので、溶融アルミニウムや溶融亜鉛を搬送する一般的なものである。
溶融金属32を入れた溶融金属槽31の底部近くの斜めの壁面33に給湯口が開口しており、この給湯口にフランジ状の継手を介して給湯方向に向けて斜め上向きに真っ直ぐなポンプ側ダクト21が接続されている。さらにこのポンプ側ダクト21には、下方に曲げられた給湯側ダクト21’がフランジ継手等の継手25、25’を介して接続されている。この先の給湯側ダクト21’は、図示してないバネ等により手前のポンプ側ダクト21に押しつけられ、継手の間に挿入された耐熱性のガスケットによりシール性が確保されている。これらのダクト21、21’は、窒化珪素やその他のセラミック等の耐熱性、耐蝕性のある材料で作られており、保温のため外側にヒータ29が巻かれ、溶融金属32の融点以上の温度に加熱される。
【0004】
手前のポンプ側ダクト21の周囲には、磁性体製のヨーク35にコイル36を巻回した誘導子34が配置されている。またこのポンプ側ダクト21の中には、その中心軸が一致するように磁性体製の円柱体からなるコア22が配置されている。このコア22は、両端が閉じられた円筒形の保護管23の中に収納されており、ポンプ側ダクト21の中の溶融金属と直接接触しないようになっている。保護管23は、窒化珪素やその他のセラミック等の耐熱性、耐蝕性のある材料で作られており、その中のコア22の周囲にクッション材としてアルミナ、マグネシア等のセラミック繊維或いはセラミック粉末等の充填材28が充填されている。
【0005】
保護管23の給湯側ダクト21’に近い一端部の周囲にフランジ26が延設され、このフランジの外周に近い部分が前記ポンプ側ダクト21と給湯側ダクト21’とを接続する継手25、25’の間に挟持されている。これにより、コア22がポンプ側ダクト21の中心に位置するよう保持されている。ポンプ側ダクト21と給湯側ダクト21’は、その外周に設けた保温用のマイクロヒータ等からなるヒータ29により加熱され、溶融金属32の凝固を防ぐ。保護管23のフランジ26には、溶融金属32の通路となる複数の円弧状の通過孔27が設けられている。
【0006】
図6は、浸漬形の環状溶融金属用誘導電磁ポンプの従来例である。このタイプの環状溶融金属用誘導電磁ポンプは誘導子34を窒化珪素やその他のセラミック等の耐熱性及び耐蝕性を有する材料からなる保護ケース37の中に収納し、ポンプの部分のほぼ全体を溶融金属32の中に浸漬している。保護ケース37の下端中央に溶融金属を導入する孔があり、この部分にポンプ側ダクト21の下端が接合されている。このダクト21の下端の孔からダクト21内に溶融金属32を汲み上げる形式である。保護管23はフランジ38によりポンプ側ダクト21と給湯側ダクト21’との接続部から誘導子34の高さまで吊り下げられている。その接続部は縦方向の蓋39と横方向の蓋40が図示してないバネで押圧することにより閉じられている。またコア22は、縦方向の蓋39から棒41により誘導子34の高さまで吊り下げられている。その他、電磁ポンプそのものの構造及びダクト21、21’の接続は基本的に図5に示したものと同様であり、同じ部分は同じ符号で示している。その詳細は重複するので説明を省略する。
【0007】
このような溶融金属用誘導電磁ポンプでは、溶融金属が流れる管状のダクト21の外周に移動磁界を発生するため、前述のようにヨーク35にコイル36を巻いた誘導子34を配置し、管状のダクト21の内部に誘導子34により発生した磁界の磁路となる磁性体のコア22を配置している。そしてこのコア22はアルミニウム等の溶融金属による腐蝕を防止する等の必要性から、耐熱性及び耐蝕性を有する筒状の保護管23により覆っている。従って、溶融金属の流路は管状のダクト21と保護管23との間に形成される環状部分のみとなる。それ故、この種の電磁ポンプは環状流路形溶融金属用電磁ポンプと呼ばれている。図5により前述した溶融金属用電磁ポンプの場合、この環状部分の溶融金属32の流路は、前記保護管23のフランジ26の部分でさらに複数の円弧状の通過孔27の面積に制限される。
【0008】
このように、従来のコア22をダクト21の中心に配置した管状流路形溶融金属用電磁ポンプでは、ダクト21内の溶融金属32の流路が制限されて狭くなる。特に図5に前述した形式の管状流路形溶融金属用電磁ポンプでは、保護管23のフランジ26の部分における溶融金属32の流路が複数の円弧状の通過孔27のみに制限され、流路断面積が著しく狭くなる。このため、溶融金属32のダクト21内での流動抵抗が大きく、円滑な流れの妨げとなり、溶融金属32の供給流量の増大を図ることが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−012024号公報
【特許文献2】特開2009−006364号公報
【特許文献3】特開2006−341281号公報
【特許文献4】特開平07−204829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来の溶融金属用誘導電磁ポンプにおける課題に鑑み、ダクトの流路が大きく制限されず、溶融金属が通る流路断面積を広くとることが出来、これにより溶融金属の流動抵抗が小さく、効率良く溶融金属を搬送することが出来る溶融金属用誘導電磁ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、前記の目的を達成するため、溶融金属を通すダクトの中心にコアを配置せず、ダクト内の流動抵抗の低減を図り、しかも誘導子で発生した移動磁界により誘導される誘導電流をダクトの溶融金属の流れの方向に沿って通すことが出来るように、ダクトの側壁近くに誘導電流を通すための導体板を設けた。
【0012】
すなわち、本発明による溶融金属用誘導電磁ポンプは、溶融金属を通すダクト1と、このダクト1の中に移動磁界を発生させる誘導子7、7とを有する溶融金属用誘導電磁ポンプであって、ダクト1内の誘導子7を設けた位置に対応して、同ダクト1の側壁の溶融金属の流れの方向に沿って誘導電流を流す導電性セラミックからなる導体板2、2を設けたものである。
【0013】
例えば、ダクト1は断面がほぼ矩形とし、その対向する一対の側壁に近接して導体板2、2を設ける。誘導子7、7は、ダクト1の対向する他方の一対の側壁に隣接してその外側に配置する。導体板2、2は、円筒形の導電性セラミックを縦に分割した如き形状のセグメント状の部分円筒形のものを使用する。この導体板2、2を、ダクト1の対向する一対の側壁の内側に近接して配置し、耐熱性接着剤9、9によりダクト1の側壁に固定して取り付ける。
【0014】
このような溶融金属用誘導電磁ポンプでは、コアをダクト1の中心に配置する必要が無いので、ダクト1内での溶融金属の流路が制限されず、ダクト1内を広く利用して溶融金属の搬送を行うことが出来る。従って、溶融金属の流動抵抗を小さく抑えることが出来る。また、ダクト1は耐熱性、耐腐食性等に観点から、窒化珪素(Si)やチッ化珪素にアルミナ(Al)とシリカ(SiO)を合成して得られるチッ化珪素系セラミックス(商品名「サイアロン」)等の絶縁体で作られるため、誘導電流が流れず、溶融金属の推進力小さくなってしまう。これに対し、ダクト1の側壁の溶融金属の流れの方向に沿って誘導電流を流す導電性セラミックからなる導体板2、2を設けることにより、この導体板2、2を介して誘導電流が流れるため、誘導子7により溶融金属の推進力を低減することなく、誘導子7の電磁誘導による溶融金属の推進力を有効に作用させることも出来る。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、コアをダクト1の中心に配置する必要が無いので、ダクト1内を広く利用して溶融金属の搬送を行うことが出来、溶融金属の流動抵抗を小さくすることが出来る。また、ダクト1内の側壁に隣接して設けた導体板2、2を介して誘導電流が流れるため、誘導子7による溶融金属の推進力を有効に作用させることも出来る。従って、効率の良い溶融金属の搬送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】溶融金属用誘導電磁ポンプの一実施例を示す縦断側面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である、
【図3】図2にダクト部分を示す要部拡大断面図である。
【図4】溶融金属用誘導電磁ポンプの一使用例を示す縦断側面図である。
【図5】溶融金属用誘導電磁ポンプの従来例を示す縦断側面図である。
【図6】溶融金属用誘導電磁ポンプの他の従来例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、前記の目的を達成するため、溶融金属を通すダクトの中心にコアを配置せず、しかも誘導子で発生した移動磁界により誘導される誘導電流をダクトの溶融金属の流れの方向に沿って通すための導体をダクト内の側壁近傍に配置した。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0018】
図1〜図3は、本発明の一実施例による溶融金属用誘導電磁ポンプを示している。これらの図に示すように、ダクト1は窒化珪素(Si)やチッ化珪素にアルミナ(Al)とシリカ(SiO)を合成して得られるチッ化珪素系セラミックス(商品名「サイアロン」)等の絶縁体で作られる。その断面は矩形である。図1と図2に示すように、このダクト1の外側は外筒5で覆われている。
【0019】
ダクト1の対向する一対の内壁面の近傍に導電性セラミックからなる導体板2、2が対向して設けられている。この導体板2、2は少なくとも後述する誘導子7の全長にわたって設けられている。導電板2、2は、導電性セラミックからなる円筒体を縦に複数に分割した如き形状、すなわち導電性セラミックからなる円筒体のセグメント形を有しており、断面円弧状に湾曲した長尺な部材からなる。
【0020】
図3に示すように、ダクト1の対向する一対の壁面の両側に窪み10、10が設けられている。前記導電板2、2を突面側が互いに対向するように前記ダクト1の両内側壁に近接して配置すると共に、同導電板2、2の両側辺を前記ダクト1の対向する一対の壁面の両側に設けた窪み10、10に嵌め込んでいる。さらに導電板2、2の凹面側とダクト1の両内側壁面との間に耐熱性接着剤9、9を充填し、これを硬化させて導電板2、2をダクト1の両内側壁面に固定している。
【0021】
図1と図2に示すように、ダクト1及びその外筒5の外側には、前記導体板2、2が対向している方向と直交する方向に対向して一対の誘導子7、7が設けられている。これらの誘導子7、7は、前記外筒5に固定した積層鉄芯からなるヨーク3、3と、このヨーク3、3にそれぞれ巻回されたコイル4、4…とからなる。このコイル4、4…は三相交流を順次流すもので、3の倍数個巻回されている。図示の例では、3×2=6個のコイル4、4…が巻回されている。このコイル4、4…はコイルホルダ8、8…により固定され、このコイルホルダ8、8…の両端は前記外筒5の両端に固定した側板6、6に固定して支持されている。
【0022】
このような溶融金属用誘導電磁ポンプでは、誘導子7、7のコイル4、4…に三相交流を通電することにより、誘導子7、7にダクト1の長手方向、すなわち図1において左または右方向に移動する磁界を発生させる。この磁界は図1と図2においてダクト1を上下に通過するように発生する。これにより、ダクト1内の溶融金属には、図2において右方向(または左方向)に誘導電流が誘導される。これにより、フィレミング左手の法則に従ってダクト1内の溶融金属に図1において左右の何れかの方向に推進力が発生する。
【0023】
このとき、導電板2、2が無いと、移動磁界に誘導されたダクト1内にある溶融金属に発生する誘導電流は、ダクト1の両側でその中の溶融金属を図2において上下方向に流れる。このため、ダクトの両側では、その分だけ溶融金属の推進力が減殺されることになる。これに対して前記のように、ダクト1の両側に導体板2、2が設けられていると、ダクト1の両側で電流は導体板2、2を通って図2において上下方向に流れる。このため、溶融金属には推進力の減殺が起こらない。従って、ダクト1の全断面積にわたって溶融金属に効率的に推進力を作用させることが出来る。しかも、ダクト1の中にコアが無いので、導体板2、2が対向する幅いっぱいにダクト1の断面積を有効に利用することが出来る。
【0024】
図4は、前述の溶融金属用誘導電磁ポンプの使用例を示す。溶融金属用誘導電磁ポンプは、窒化珪素等のセラミックからなる耐熱性、耐腐食性を有する保護ケース11の中に収納している。さらにヨーク3、3及びコイル4、4…と保護ケース11との間にマグネシア(MgO)、アルミナ(Al)の粉末或いは繊維等からなる伝熱充填材12を充填し、溶融金属用誘導電磁ポンプを保護ケース11の中に固定している。保護ケース11の上面開口部は、やはり前記保護ケース11と同様の窒化珪素等からなる耐熱性、耐腐食性を有する蓋体18を被せ、この蓋体18の中心からダクト1の上端を保護ケース11に外側に突出させる。
【0025】
このダクト1の上端には、継手17を介して溶融金属搬送用のダクト13に接続し、さらにこのダクト15を溶融金属搬送用のダクト14に接続している。これら溶融金属搬送用のダクト13、14にヒータ15、16を設け、これらダクト13、14を溶融金属の融点以上の温度に保持する。
【0026】
このような溶融金属用誘導電磁ポンプは、前記保護ケース11に覆われた部分を溶融金属槽の中の溶融金属に浸漬し、ダクト1の中に溶融金属を導入させる。この状態で、コイル4、4…に三相交流を通電し、ダクト1の中の溶融金属に推力を与えて汲み上げ、ダクト13、14で所要の個所に溶融金属を搬送する。
なお、前述した溶融金属用誘導電磁ポンプは、このような溶融金属に電磁ポンプの駆動部分を浸漬して使用する、いわゆる浸漬形に限らず、図5により前述した非浸漬形の溶融金属用誘導電磁ポンプとしても使用出来ることは言うまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明による溶融金属用誘導電磁ポンプは、例えば砂型鋳造法、低圧鋳造法、ダイキャスト鋳造法等の手段により、鋳型のキャビティ内に溶融アルミニウム等の溶融金属を供給して鋳物を鋳造するに当たり、鋳型のキャビティ内に溶融アルミニウム等の溶融金属を供給する溶融金属の搬送手段として利用することが出来る。
【符号の説明】
【0028】
1 ダクト
2 導電板
3 誘導子のヨーク
4 誘導子のコイル
7 誘導子
9 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を通すダクト1と、このダクト1の中に移動磁界を発生させる誘導子7、7とを有する溶融金属用誘導電磁ポンプにおいて、ダクト1内の誘導子7を設けた位置に対応して、同ダクト1の側壁の溶融金属の流れの方向に沿って誘導電流を流す導電性セラミックからなる導体板2、2を設けたことを特徴とする溶融金属用誘導電磁ポンプ。
【請求項2】
ダクト1は断面がほぼ矩形とし、その対向する一対の側壁に近接して導体板2、2を設けたことを特徴とする請求項1に記載の溶融金属用誘導電磁ポンプ。
【請求項3】
誘導子7、7は、ダクト1の対向する他方の一対の側壁に隣接してその外側に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属用誘導電磁ポンプ。
【請求項4】
導体板2、2は、円筒形の導電性セラミックを縦に分割した如き形状のセグメント状の部分円筒形のものからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の溶融金属用誘導電磁ポンプ。
【請求項5】
導体板2、2を、ダクト1の対向する一対の側壁の内側に近接して配置し、耐熱性接着剤9、9によりダクト1の側壁に固定して取り付けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の溶融金属用誘導電磁ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−206143(P2012−206143A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73900(P2011−73900)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)