説明

溶融Zn−Al系合金めっき鋼板

【課題】外観不良や加工性の劣化を招くことなく、クロメートフリーの化成処理を行っても優れた耐黒変性を有するガルファンと呼ばれる溶融Zn-Al系合金めっき鋼板(GF)を提供する。
【解決手段】鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0〜10質量%およびMg:0.2〜1質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn-Al系合金めっき層を有し、前記溶融Zn-Al系合金めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率が10%以下であることを特徴とする溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建築、土木、家電等の分野で利用されるめっき外観および耐黒変性に優れた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板、特に、めっき層中のAl含有量が5質量%前後のガルファンと呼ばれる溶融Zn-Al系合金めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融Zn-Al系合金めっき鋼板は、その表面に塗装を施したいわゆるプレコート鋼板として、自動車、建築、土木、家電等の分野で広く利用されている。この溶融Zn-Al系合金めっき鋼板としては、主に、めっき層中のAl含有量が0.2質量%以下の溶融Znめっき鋼板(以下、GIという)、同Al含有量が約5質量%のガルファン(以下、GFという)、同Al含有量が約55質量%のガルバリュウム鋼板(以下、GLという)が使用されているが、特に建築や土木の分野では、GLより低コストであること、GIより耐食性が優れていること等の理由から、GFが使用されることが多い。しかし、GFには、一般に以下のような問題がある。
【0003】
(i) 外観不良
めっき層には亀甲模様のスパングルが形成されるが、このスパングルは、めっき条件(例えば、めっき前の焼鈍条件、めっき浴成分、めっき後の冷却条件)によって形態が異なるため、無塗装でそのまま使用する場合に外観不良を招くことがある。また、塗装を施してカラー鋼板として使用する場合にはスパングルが塗装面に浮き上がり、外観不良を招くこともある。
【0004】
このため、近年では、スパングルのない金属光沢の美麗なめっき層を有するGFに対する要求が増加している。
【0005】
(ii) めっき層表面の黒変
腐食環境によっては、めっき層表面が局所的に黒灰色に変色する、いわゆる黒変が発生して商品価値を著しく損なうことがある。この黒変は、めっき後の鋼板が高温多湿の環境に置かれた場合、めっき層表面の酸化亜鉛が酸素欠乏型酸化亜鉛に変化することによって生じるといわれている。めっき後の鋼板を直ちに化成処理して塗装を行う場合は比較的黒変の問題は少ないが、実際にはめっき後の鋼板をコイル状態で梱包し、ある期間放置してから化成処理および塗装することが多く、その放置期間に黒変が発生する。黒変が発生すると、化成処理不良が発生し、結果として塗装後の塗膜の密着性、加工性、耐食性等が低下し、商品価値を著しく損なう。
【0006】
このため、GFの黒変改善に対して種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、質量%で、Al:0.5〜20%、Mg:2%超〜10%、残部Znおよび不可避的不純物とからなるめっき層を有し、めっき表面のZn-Al-Mg共晶+Zn単相の表面長さ率を50%以上とした耐食性、耐黒変性が良好で、化成処理性に優れた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板が開示されている。特許文献2には、表面に、溶融Zn系めっき層、次いでクロメート層を有する鋼板であって、前記溶融Zn系めっき層は、めっき層平均で2〜15質量%のAlを含有し、かつ該めっき層の最表面部には、濃化されたNiおよび/またはTiが存在する、耐黒変性および耐食性に優れたクロメート処理Zn系めっき鋼板が開示されている。特許文献3には、鋼板に対して、Al:4.0〜7.0質量%、Pb:0.01質量%以下、Sn:0.005質量%以下を含有し、残部Znおよび不可避不純物からなる溶融めっき浴によりめっきを行った後、伸び率0.3〜2.0%のスキンパスを行い、その後、クロメート処理を行う耐黒変性に優れた溶融Zn-Al合金めっき鋼板の製造方法が開示されている。特許文献4には、鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0〜10質量%、Mg:0.2〜1.0質量%、Ni:0.005〜0.1質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn-Al系合金めっき層を有する溶融Zn-Al系合金めっき鋼板が開示されている。また、めっき層表面の黒変改善に関するものではないが、特許文献5には、質量%で、Al:0.1〜40%、Mg:0.1〜10%含有し、残部がZnおよび不可避不純物からなり、かつ、Zn-Al-Mg系の母相に、長径が1μm以上のMg系金属間化合物相が、含有率:0.1〜50容積%にて分散している組織を有するめっき層を表面に有する加工性に優れる溶融めっき鋼材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-329354号公報
【特許文献2】特開2003-183800号公報
【特許文献3】特開平4-297562号公報
【特許文献4】特開2008-138285号公報
【特許文献5】特開2001-64759号公報
【特許文献6】特開2008-291350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、こうした特許文献に記載のGFには、以下のような問題がある。
【0009】
特許文献1:色調の低下やドロスの付着に起因する外観不良が生じやすく、また、めっき層に亀裂が生じやすいため加工性の劣化を招く。さらに、Mg量が多くなると耐黒変性が劣化する。
【0010】
特許文献2、3:通常のクロメート処理液を用いて化成処理を行うと、耐黒変性の改善効果が十分でなく、特殊なクロメート処理液が必要である。また、スパングルに起因する外観不良が生じやすい。
【0011】
特許文献4:クロメートフリーの化成処理を行うと耐黒変性が劣化する。
【0012】
特許文献5:スパングル、色調の低下、ドロスの付着に起因する外観不良が生じるとともに、耐黒変性が劣化する。
【0013】
本発明は、外観不良や加工性の劣化を招くことなく、クロメートフリーの化成処理を行っても優れた耐黒変性を有するGFを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するためにGFのめっき層について鋭意検討したところ、めっき層に0.2〜1質量%のMgを含有させ、かつめっき層表面に占めるZn-Al共晶の比率を低下させることが効果的であることを見出した。
【0015】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0〜10質量%およびMg:0.2〜1質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn-Al系合金めっき層を有し、前記溶融Zn-Al系合金めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率が10%以下であることを特徴とする溶融Zn-Al系合金めっき鋼板(GF)を提供する。
【0016】
本発明のGFでは、溶融Zn-Al系合金めっき層に、さらにNi:0.005〜0.1質量%が含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、外観不良や加工性の劣化を招くことなく、クロメートフリーの化成処理を行っても優れた耐黒変性を有するGFを製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明であるGFのめっき層表面のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の詳細を説明する。
【0020】
1) めっき層の組成について
溶融Zn-Al系合金めっき層のAl含有量が1.0質量%未満では、めっき層と下地鋼板との界面に厚いFe-Zn系合金層が形成されるため、加工性が劣化する。一方、Al含有量が10質量%を超えると、Alリッチ層の増加により犠牲防食作用が低下するため、端面部の耐食性が劣化する。また、Al含有量が10質量%を超えるめっき層を形成しようとすると、めっき浴中にAlを主体としたトップドロスが発生しやすくなるため、ドロスの付着に起因する外観不良を招きやすい。したがって、溶融Zn-Al系合金めっき層のAl含有量は1.0〜10質量%、好ましくは3〜7質量%とする。
【0021】
溶融Zn-Al系合金めっき層のMg含有量が0.2質量%未満では、スパングルや色調の低下に起因する外観不良を招きやすくなるとともに、耐黒変性が劣化する。一方、Mg含有量が1質量%を超えると、色調の低下やドロスの付着に起因する外観不良を招くとともに、加工性や耐黒変性が劣化する。したがって、溶融Zn-Al系合金めっき層のMg含有量は0.2〜1質量%とする。
【0022】
溶融Zn-Al系合金めっき層の残部はZnおよび不可避的不純物であるが、以下の理由により、Ni:0.005〜0.1質量%を含有させることが好ましい。すなわち、Ni含有量を0.005質量%以上にすることにより、より優れた耐黒変性が得られるが、0.1質量%を超えると、めっき浴中にAl-Mg系のドロスが発生し、ドロスの付着に起因する外観不良を招く。
【0023】
2) めっき層の組織について
上述したように、一般的に、Zn系めっき鋼板の黒変は、酸素欠乏型酸化亜鉛の生成と関係するといわれている。本発明者らが調査した結果、溶融Zn-Al系合金めっき鋼板においても、黒変の程度はX線回折により測定されるZnOのピーク強度と良い相関があり、黒変にともない、めっき層表面に露出するZn-Al共晶が優先的に腐食されることが明らかになった。以上のことから、溶融Zn-Al系合金めっき鋼板では、Zn-Al共晶が優先腐食することでZnOの生成量が増加し、黒変の程度を悪化させていると考えられるので、めっき層表面に露出するZn-Al共晶の面積率を低下させたところ、黒変の改善が認められた。さらに、耐黒変性の観点からは、めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率を10%以下にすることが効果的であることを見出した。
【0024】
ここで、本発明のZn-Al-Mg系めっきを例に、Zn-Al共晶の面積率の算出方法を説明する。すなわち、走査電子顕微鏡を用いて、加速電圧10kVにおいて、反射電子像を2000倍以上の倍率で撮影する。図1(a)に、このようにして撮影した、Zn-Al-Mgめっきの典型的なめっき表面の反射電子像を示す。図1(b)に示すように、画像処理ソフトを用いてZn-Al共晶を黒く塗りつぶし、これを二値化することでZn-Al共晶の面積率を算出する。1枚の画像での評価領域を50μm×30μm以上の視野とし、計10枚の画像についての平均値をZn-Al共晶の面積率とする。
【0025】
本発明であるGFは、従来と同様、所望の含有量のAl、MgあるいはさらにNiを含むZnめっき浴に浸漬後、めっき浴から引き上げ、(1) ミストやZn微粉を吹き付けてめっき表面にZn初晶の核生成サイトを付与したり、(2) 溶融めっき処理後に電気Znめっき処理を施して、めっき層表面にあるZn-Al共晶を電気Znめっきで被覆することによって製造できる。
【0026】
このとき、めっき浴の流動性を増して、微細なピンホールの発生を防止したり、めっき層表面の平滑化を促進する上で、めっき浴にはCeおよび/またはLaのミッシュメタルを合計で0.005〜0.05質量%含有させることが好ましい。また、めっき浴の流動性を増すとともに、ドロスの発生を防止する上で、めっき浴の温度は300〜500℃にすることが好ましい。
【実施例】
【0027】
連続式溶融Zn-Al系合金めっき設備を用いて、板厚0.5mm、板幅1500mmの焼鈍前の低炭素Alキルド冷延鋼板にZn-5質量%Al、Zn-5質量%Al-0.4質量%Mg、Zn-5質量%Al-0.4質量%Mg-0.1質量%Niの組成を有する溶融Zn-Al系合金めっき層を形成して、溶融Zn-Al系合金めっき鋼板GF1、GF2、GF3を製造した。このとき、めっき浴の温度は480℃とし、めっき層の厚みはワイピングにより12〜16μmに調整した。次に、シャドウマスク材を鋼板表面に設置し、その上からZnを真空蒸着してめっき層表面をZnで被覆した。このとき、シャドウマスク材の開口率や鋼板表面とシャドウマスク間の距離を変えて、めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率を変化させた。最後に、特許文献6の発明例59に記載の処理液、および実施例に記載された発明例59の処理方法を用いて、クロメートフリー鋼板の試料No.1〜10を作製し、以下の方法で耐黒変性を評価した。
耐黒変性:温度80℃、相対湿度95%の雰囲気中に24時間放置して黒変化し、JIS-Z-8722に準拠して黒変化前後の明度(L値)を測定し、ΔL(=黒変化前のL値-黒変化後のL値)を求め、以下のように評価した。
○:-6≦ΔL
△:-10≦ΔL<-6
×:ΔL<-10
結果を表1に示す。本発明例である溶融Zn-Al系合金めっき層にMgを含み、めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率が10%以下である試料は耐黒変性に優れていることがわかる。なお、本発明例の試料は、良好な外観を示し、加工性にも問題がなかった。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0〜10質量%およびMg:0.2〜1質量%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn-Al系合金めっき層を有し、前記溶融Zn-Al系合金めっき層表面に占めるZn-Al共晶の面積率が10%以下であることを特徴とする溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。
【請求項2】
溶融Zn-Al系合金めっき層に、さらにNi:0.005〜0.1質量%が含有されることを特徴とする請求項1に記載の溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−82471(P2012−82471A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229211(P2010−229211)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】