説明

溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法

【課題】本発明は、製鋼工程の操業に支障を与えず、前置きしても水蒸気爆発の恐れがない混銑車での冷鉄源の溶解方法を提供することを目的としている。
【解決手段】混銑車に冷鉄源を前置きし、高炉からの溶銑を受銑して、その顕熱及び撹拌力を用いて該冷鉄源を溶解する技術を改良した。その方法は、冷鉄源に溶銑の脱珪処理及び/又は脱燐処理後の排滓時に冷却、回収した地金を採用すると共に、該地金のサイズを150mm以上、付着スラグの塩基度(=CaO/SiO2:質量比)を2.5以下に制限するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法に係わり、特に溶銑の脱珪処理及び/又は脱燐処理後の排滓時に冷却、回収した地金の再利用技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉を有する製鉄所では、鉄スクラップ、型銑等の冷鉄源を製鋼原料の一部として溶銑搬送容器(例えば、混銑車等)内へ前置きしてから高炉で溶製した溶銑を装入することが行われている(特許文献1参照)。この技術は、転炉へ製鋼原料としての溶銑を払い出した後の空の溶銑搬送容器から大気中へ放散される熱を、積極的に有効利用するために開発されたものである。また、溶銑払い出し後の熱間状態の混銑車に、小径の湿潤固体鉄源を投入し、該混銑車を複数回傾転して前記固体鉄源を加熱乾燥した後、溶銑を受銑する技術も開示されている(特許文献2参照)。これは、粒鉄、ダスト等の小径の固体鉄源が、単位重量あたりの表面積が大きく、水分含有量が高いため、熱間の混銑車内でも水分が蒸発せずに残留し、受銑時に水蒸気爆発するのを防止する技術として開発されたものである。従って、これらの技術は、冷鉄源を製鋼原料として利用するので、高炉からの溶銑の供給量が不足する場合には、いずれも有効な技術である。
【0003】
ところで、最近は、溶銑予備処理の普及に伴い、上記した冷鉄源とは別種のものが多量に発生している。例えば、高炉の溶銑樋、傾注樋で行われる脱珪処理、処理容器に混銑車を利用する脱珪、脱燐、脱硫処理、取鍋を利用する脱硫処理を行うと、必然的にヤードへの排滓が行われ、その冷却時に地金(例えば、脱珪滓地金、脱燐滓地金、脱硫滓地金等)が回収されるからである。そして、これら地金を製鉄原料として再使用できれば、前記した高炉からの溶銑の供給量が不足する場合に非常に役立つことになる。そのため、それら地金を混銑車に前置きしてから受銑、溶解し、得られた溶銑を再度脱燐、脱硫する技術も公開されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これら地金は、ヤードでスラグを水冷しているため、水分を多量に内包し、混銑車に前置きしてから受銑すると、水蒸気爆発を引き起こすので、自ずと使用量が制限されるという問題がある。ところが、前記特許文献3には、この問題についての記載が一切見られない。また、対策として、前置き後に混銑車を傾転して予め水分を蒸発除去するという特許文献2の技術を応用することも考えられるが、それでは前置き時間が著しく長くなってしまい、効率良く高生産性を維持したい製鋼工程に支障を与えることになる。
【特許文献1】特開昭54−142116号公報
【特許文献2】特開平5−239523号公報
【特許文献1】特開平8−193210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑み、製鋼工程の操業に支障を与えず、前置きしても水蒸気爆発の恐れがない溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。
【0007】
すなわち、本発明は、溶銑搬送容器に冷鉄源を前置きし、高炉からの溶銑を受銑して該冷鉄源を溶解するに際して、前記冷鉄源として溶銑の脱珪処理及び/又は脱燐処理後の排滓時に冷却、回収した地金を採用すると共に、該地金のサイズを150mm以上、付着スラグの塩基度(=CaO/SiO2)を2.5以下に制限することを特徴とする溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法である。この場合、前記溶銑搬送容器が混銑車であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、冷鉄源として水蒸気爆発を引き起こす原因を包含しない地金を利用するようにしたので、溶銑搬送容器内に前置きしても製鋼工程に支障を及ぼすことなく、安定して円滑な溶解が可能になる。その結果、従来は使用量に制限のあった地金が製鋼原料として有効利用できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
【0010】
まず、発明者は、前記したように、溶銑の脱珪処理及び/又は脱燐処理後の排滓時に発生する地金(荒銑とも称される)を溶銑搬送容器内に冷鉄源として前置きし、高炉からの溶銑を受銑して溶解する際に、付着水分により水蒸気爆発等が起きる恐れがあり、その使用量に制限のあることに着眼した(具体的には200t/月程度の使用実績)。このような地金を冷鉄源として多量に利用できれば、その発生量は安定しているので、高炉からの溶銑の供給量が不足する場合には、非常に有効な製鋼原料となるからである。
【0011】
単に、地金の付着水分を減らす技術としては、前述の特許文献2記載の技術があるが、それでは生産性が阻害される。そこで、本発明者は、特にそのような乾燥工程を設け無くても、水蒸気爆発につながるような水分の量を制限できる手段の発見に努力し、該地金のうちサイズ(具体的には、地金の最長部の長さをいう)が150mm以上で、付着スラグの塩基度(=CaO/SiO2)を2.5以下に制限すれば、溶銑搬送容器内に冷鉄源として前置きできることを見出し、この2要件を満たす地金を溶解することを本発明としたのである。これにより、月1000t以上の地金が製鋼原料として利用できるようになった。
【0012】
ここで、地金のサイズと付着スラグの塩基度を上記のように規定した理由は、以下の通りである。溶銑搬送容器内に投入した地金が溶銑を受銑した際に水蒸気爆発を起こすか否かは、その付着水分量に依存する。地金の水分は、正確には地金の表面に付着している水分であるから、地金の比表面積が大きいほど、すなわち地金のサイズが小さいほど、付着水分量が多くなる。本発明者は、詳細な調査により、水蒸気爆発の起こる限界の最小水分量がおよそ1質量%程度であることを見出した。そして、引き続き、この最小水分量未満に付着水分を制限する具体的な手段の発見に努力し、地金の前記のように定義したサイズを150mm以上にすれば良いことを見出したのである。溶銑搬送容器に投入する地金の一つ一つについて付着水分を分析することは、煩雑であり、実操業では非常に困難であるが、このように単にサイズだけで地金を選別することは、後述のグリズリ等の篩い分け手段を用いれば、容易に実施できる。
【0013】
ところが、このようにして、150mm以上のサイズの地金を選んで、溶銑搬送容器に前置きして受銑するようにして試験操業を重ねたところ、地金のサイズが150mm以上であっても、水蒸気爆発が発生する場合があった。そこで、さらに詳細な調査を行ったところ、地金に付着したスラグの塩基度が水蒸気爆発の有無に影響していることが明らかになった。これは、付着スラグの塩基度(=CaO/SiO2:質量比)が高い場合は、スラグ中に未滓化のCaO(「フリーライム」と称される)が存在し、これが地金をヤードに放置している間に、雰囲気中の水分を吸収して水和反応し、Ca(OH)2となって含水量が高まるためである。そこで、本発明者は、水蒸気爆発の発生しない付着スラグの塩基度範囲について検討し、該塩基度が2.5以下であれば良いことを見出し、本発明を完成させたのである。
【0014】
次に、これらの条件を満たす地金を確保する具体的な手段を検討した。サイズを150mm以上にするには、スラグヤードにおいて水冷後に放置されているスラグ等をロングアームのショベルを利用して掬い上げ、グリズリ(間隔が150mmの鋼製格子)に掛けることで選別した。これにより、スラグに含まれていた鉄分の大部分(95%超え)は、塊状の地金として、分離回収される。ただし、この地金には、多量のスラグが付着している(最大で50質量%程度)。そこで、該地金に付着しているスラグから試料を採取し、化学分析により塩基度(CaO/SiO2)を定量する。そして、付着スラグの塩基度が2.5未満である地金を選んで溶銑搬送容器に投入する。なお、一つ一つの地金あるいは地金のロット毎に代表サンプルを選んで上記のようにして塩基度を定量するのが最も確実であるが、分析に手間がかかるという問題がある。そこで、本発明では、簡便に、地金を回収する前の容器(溶銑より脱珪、脱硫あるいは脱燐処理等の溶銑予備処理を行った容器)のスラグの分析値(通常、溶銑の予備処理に際しては、必ず工程的に処理前後のスラグ及び溶銑のサンプルを採取し、分析を行っている)をもって、その地金の付着スラグの分析値に代えても良い。
【0015】
以下、実施例において、本発明に係る冷鉄源の溶解方法を具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
一般に、製鋼工場では、図1に示すように、高炉からの溶銑を脱珪処理し、溶銑搬送容器としての混銑車に受け入れ、脱燐処理してから転炉へ装入して、溶鋼を溶製する。この操業において、通常、溶銑の前記脱珪処理及び脱燐処理で形成されたスラグは、ヤードに排滓され、水冷後に大気中に放置される。それらの放置されたスラグは、前記したように、ショベルを用いて間隔150mmのグリズリに掛けられ、スラグ中で凝固した鉄分は、塊状の地金(粒径150〜750mm)として回収されている。
【0017】
本発明では、この地金のうち、付着スラグの塩基度(CaO/SiO2)が2.5以下のものを選択し、冷鉄源とした。なお、一部の地金について水分付着量を分析したところ、0.1〜1.0質量%の範囲にあった。そして、脱燐処理された溶銑を取鍋を介して既に転炉へ装入し、空になった混銑車内に、該冷鉄源をリフティング・マグネット(以下、リフマグという)を用いて所定量だけ装入(前置き装入という)した。ここで、混銑車としては、溶銑の収容量が1台あたり300トンのものを利用し、地金の前置き装入量は、1台あたり3トンとした。本発明は、この前置きした地金の上に、通常通り脱珪処理された高炉からの溶銑を297トン受け入れ、その顕熱及び撹拌力を利用して溶解するものであり、従来は200トン程度しか処理されていなかった該地金を、本実施例では、約8ケ月間の操業を行い、累計で11931トン使用できた。
【0018】
この実施結果は、下記のように評価された。まず、混銑車に前置きした地金は、スラグを多量に付着しており、通常の溶銑より軽い。そのため、受銑中に溶解しない場合は、その大部分が図1の「脱珪処理発生スラグの排滓」で混銑車より排出される可能性がある。そこで、1ケ月を単位として前置き地金量とヤードで回収される地金量との関係を調査した。もし前置き地金量が溶解せずにそのまま排出していると、該前置き地金量に比例してヤードで回収される地金量が増加するはずである。しかしながら、図2に示すように、そのような傾向は認められず、前置き地金は順調に溶解していると判断された。
【0019】
また、図3に前置き地金量と溶銑歩留り(=(製鋼使用溶銑量×100)/(高炉出銑量+混銑車前置き地金量):単位%)との関係を示す。この溶銑歩留りの計算では、前置き地金の全量が溶解していると仮定している。従って、溶解が円滑に行われていない場合には、歩留りの低下となるはずである。しかしながら、図3からは、そのような傾向は見られず、逆に増加傾向があり、円滑溶解が行われていると判断される。
【0020】
さらに、冷鉄源を多量に溶解する場合、溶銑温度の降下に配慮しなければならい。そこで、高炉出銑から製鋼工場へ到着するまでの温度降下量(ΔT)を調査したところ、0.93℃/(kg/t)であり、金属分100%の鉄スクラップを前置きした場合の降下量0.43℃/(kg/t)に比べて大きかった。そこで、この温度降下量でも良いことを確認するため、混銑車及び転炉のどちらに地金を前置きした方が良いかを調査した。その結果は、図4に示すように、地金を転炉よりも混銑車に前置きして溶解した方が温度降下量が低いことがわかり、この降下量で問題のないことが確認された。
【0021】
加えて、高炉出銑から製鋼工場へ到着するまでの間で、溶銑中の硫黄(S)及び燐(P)に地金の前置きがどのように影響するかも調査した。その結果、地金のSは溶銑と比べて低いので、前置きによる問題は発生しないことが明らかになった。一方、付着スラグにはP25が多いので、Pの増加が懸念されたが、このPについても、大きな影響がないことが判明した。
【0022】
このように、本発明によれば、製鋼工程に支障を及ぼすことなく、従来は使用量に制限のあった溶銑予備処理スラグから回収した地金を製鋼原料として有効利用できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の実施による前置き地金量とヤードで回収される地金量との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施による前置き地金量と溶銑歩留り(%)との関係を示す図である。
【図4】地金を転炉及び混銑車へ前置きした場合の溶銑の温度降下量を比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑搬送容器に冷鉄源を前置きし、高炉からの溶銑を受銑して該冷鉄源を溶解するに際して、
前記冷鉄源として溶銑の脱珪処理及び/又は脱燐処理後の排滓時に冷却、回収した地金を採用すると共に、該地金のサイズを150mm以上、付着スラグの塩基度(=CaO/SiO2)を2.5以下に制限することを特徴とする溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法。
【請求項2】
前記溶銑搬送容器が混銑車であることを特徴とする請求項1記載の溶銑搬送容器での冷鉄源の溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57151(P2006−57151A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240818(P2004−240818)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】