説明

溺水判定システム

【課題】入浴者が溺水状態にあることを瞬時に判定することができ、溺水状態を検知するために入浴する方向や深さに制限を受けることがなく、且つ取り付けるセンサの数も少ない溺水判定システムを提供する。
【解決手段】浴室内の浴槽1の上部に位置する天井3に配置され、浴槽1内に入浴者5が入浴中であることを検出する入浴者検出装置11と、天井3に配置され、浴槽1に向けて超音波を発信し、その発信した超音波の反射波を受信する超音波発受信装置12と、入浴者検出装置11により入浴者5が入浴中であることが検出されたときに、受信した反射波に基づいて入浴者5の頭頂部から浴槽1内の水面6までの距離Lを算出し、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lに基づいて入浴者5が溺水状態か否かを判定する溺水判定装置13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に入浴中に一過性や急性疾患による意識喪失などにより頭部が水没し溺水した状態を直ちに発見し、早期の救命を可能にするための溺水判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭内における事故死として多いものに浴槽内での溺死があげられている。浴槽で溺れる要因として寒い時期に熱いお湯に接することによる急激な血圧上昇や心臓への負担による脳や心臓などの急性疾患や、入浴中に湯に浸かった状態では血行がよくなり血圧も低下するが、その状態から立ち上がることによって重力により脳や心臓が虚血状態になることによる急性疾患や意識喪失により、浴槽内での転倒や脱力することにより浴槽内で身体を支えることができずに水没し、溺水してしまう場合が多く、洗い場における事故に比較して浴槽内での事故が非常に多いことが知られている。
【0003】
また、家族が同一屋内に居た場合においても浴槽内で溺水状態にあることを早期に発見することができず、結果として命を失うことが多い。それを裏付けるデータとして公衆浴場では入浴事故による死亡例は家庭の場合と比較して非常に少なく、公衆浴場は周囲に人目があり異常発見が早いためと考えられている。
【0004】
また、浴室の異常を連絡するために給湯装置のリモコン等に他の部屋とのインターホン機能を備えたものもあるが、入浴者が意識喪失状態の場合は当然連絡することができない。
【0005】
このように浴室内は家庭内においても危険な場所であるが、近年高齢化が進むにつれて浴室内の事故を早期に発見し処置を行うことにより救命に繋げることが重要となっており、浴室内の異常検知装置の提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1では、浴槽上部に取り付けられた人体検出センサの動きが所定時間変化なかった場合に意識喪失と判断したり、複数のセンサが遮られた状態が継続した場合に倒れている状態と判断したりすることが述べられている。しかしながら、最も緊急を要する溺水状態を判断できず、検出についても即時性がないとともに、多くの人体検出センサが必要である。
【0007】
また、特許文献2では、浴槽の水位計と浴槽内に光遮断センサを多数設置し入浴者の体の位置を検出することにより溺水状態を判断している。しかしながら、入浴者が湯に浸かる高さはまちまちであり、溺水状態を判断するには浴槽内に多数の光遮断センサが必要となるうえに、入浴者の頭部の幅は人体に比べて狭く、センサで把握するためには浴槽の水平方向にも多数の光遮断センサが必要となる。
【0008】
一方、特許文献3では、浴槽内の超音波センサにより入浴状態であることを判断して、入浴者に対面した超音波センサにより入浴者の頭部が浴槽外に出ていることを検知している。しかしながら、対面した超音波センサでは頭部の位置検出精度を得ることができず、呼吸ができない状態であるかを精度よく把握できないうえに、入浴する方向等が制約される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−50693号公報
【特許文献2】特開平8−66323号公報
【特許文献3】特開2000−217728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記問題点を鑑み、本発明の目的は、入浴者が溺水状態にあることを瞬時に判定することができ、溺水状態を検知するために入浴する方向や深さに制限を受けることがなく、且つ取り付けるセンサの数も少ない溺水判定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、浴室内の浴槽(1)の上部に位置する天井(3)に配置され、浴槽(1)内に入浴者(5)が入浴中であることを検出する入浴者検出装置(11)と、天井(3)に配置され、浴槽(1)に向けて超音波を発信し、その発信した超音波の反射波を受信する超音波発受信装置(11)と、入浴者検出装置(11)により入浴者が入浴中であることが検出されたときに、受信した反射波に基づいて入浴者(5)の頭頂部から浴槽(1)内の水面(6)までの距離(L)を算出し、入浴者(5)の頭頂部から水面(6)までの距離(L)に基づいて入浴者(5)が溺水状態か否かを判定する溺水判定装置(13)とを備える溺水判定システム(10)が提供される。
【0012】
本発明の一態様において、溺水判定装置(13)は、受信した反射波から入浴者(5)で反射した反射波を抽出する入浴者反射波抽出部(109)と、受信した反射波から水面(6)で反射した反射波を抽出する水面反射波抽出部(110)と、抽出した水面(6)で反射した反射波及び入浴者(5)で反射した反射波に基づいて、入浴者(5)の頭頂部から水面(6)までの距離(L)を算出する距離算出部(111)と、入浴者(5)の頭頂部から水面(6)までの距離(L)に基づいて入浴者(5)が溺水状態か否かを判定する溺水判定部(112)とを備えていても良い。
【0013】
本発明の一態様において、入浴者検出装置(11)により入浴者(5)が検出され、且つ入浴者反射波抽出部(109)により入浴者(5)で反射した反射波が抽出されない場合に、溺水判定部(112)が、入浴者(5)が溺水状態であると判定しても良い。
【0014】
本発明の一態様において、入浴者反射波抽出部(109)が、受信した反射波の波形の先鋭度に基づいて、入浴者(5)で反射した反射波を抽出しても良い。
【0015】
本発明の一態様において、水面反射波抽出部(110)が、反射波の波形の先鋭度、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間、及び反射波の経時的な振幅の変動に基づいて水面(6)で反射した反射波を抽出しても良い。
【0016】
本発明の一態様において、距離算出部(111)が、超音波を発信してから水面(6)で反射した反射波を受信するまでの第1の遅延時間(t3)を算出し、超音波を発信してから入浴者(5)の頭頂部で反射した反射波を受信するまでの第2の遅延時間(t1,t2)を算出し、第1及び第2の遅延時間(t1,t2,t3)に基づいて入浴者(5)の頭頂部から水面(6)までの距離(L)を算出しても良い。
【0017】
本発明の一態様において、入浴者検出装置(11)が、映像情報により浴槽(1)内の入浴者(5)を検出する撮像素子であっても良い。
【0018】
本発明の一態様において、溺水状態であると判定されたときに、警報を発する警報装置(14)を更に備えていても良い。
【0019】
本発明の一態様において、溺水判定装置(13)が、受信した反射波の波形とともに、受信した反射波のエンベロープ検波波形及びそのエンベロープ検波波形の微分波形を出力する波形分析回路(108)を更に備え、入浴者反射波抽出部(109)が、エンベロープ検波波形及び微分波形に基づいて入浴者(5)で反射した反射波を抽出し、水面反射波抽出部(110)が、エンベロープ検波波形及び微分波形に基づいて水面(6)で反射した反射波を抽出しても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、入浴者が溺水状態にあることを瞬時に判定することができ、溺水状態を検知するために入浴する方向や深さに制限を受けることがなく、且つ取り付けるセンサの数も少ない溺水判定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る溺水判定システムの一例を示す概略図である。
【図2】家庭用浴室を上面から見た俯瞰図である。
【図3】入浴時の家庭用浴室を上面から見た俯瞰図である。
【図4】図4(a)は、正常な入浴状態を示す概略図である。図4(b)は、頭部が水没した溺水状態を示す概略図である。図4(c)は、全身が水没した溺水状態を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る溺水判定装置の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る反射波の波形を示す波形図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る反射波のエンベロープ検波波形及び微分波形を示す波形図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る溺水検知方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明のその他の実施の形態に係る溺水判定システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0023】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0024】
(溺水判定システム)
本発明の実施の形態に係る溺水判定システム10は、図1に示すように、浴室内の浴槽1の上部に位置する天井3に配置され、浴槽1内に入浴者5が入浴中であることを検出する入浴者検出装置11と、天井3に配置され、浴槽1に向けて超音波を発信し、その発信した超音波の反射波を受信する超音波発受信装置12と、入浴者検出装置11により入浴者5が入浴中であることが検出されたときに、受信した反射波に基づいて入浴者5の頭頂部から浴槽1内の水面6までの距離Lを算出し、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lに基づいて入浴者5が溺水状態か否かを判定する溺水判定装置13とを備える。
【0025】
溺水判定装置13には警報装置14が接続されている。溺水判定装置13及び警報装置14は、浴室内外の任意の場所に設置可能であり、入浴者検出装置11又は超音波発受信装置12に内蔵されていても良い。入浴者検出装置11、超音波発受信装置12、溺水判定装置13及び警報装置14は、互いに有線で接続されていても良いし、無線で信号を送受信しても良く、インターネットを介して接続されていても良い。
【0026】
図2は家庭用浴室を天井3から見た俯瞰図である。図2に示すように一般に天井3からは浴槽1内を一望できる。浴室には洗い場7及び浴槽1が設けられている。浴槽1には、入浴するための湯2が張られている。浴槽1には排水栓4が設けられている。
【0027】
図3は浴槽1内に人間(入浴者)5が入浴している状態を示す。浴室内における溺死は、浴槽1の湯2に浸かった状態の時に何らかの理由で意識喪失状態になったり、浴槽1から出ようと立ち上がった時に血圧の急速な低下により脳もしくは心臓が虚血状態になったりして浴槽1の湯2に沈水し、鼻や口などの呼吸器官を浴槽1の湯2がふさぐことにより発生する。
【0028】
図4(a)〜図4(c)に入浴者5の浴槽1内における入浴状態を示す。図4(a)に示す入浴状態は、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lが十分にあり、入浴者5の鼻及び口の呼吸器は水面6より上にあるので呼吸が正常にできる状態である。
【0029】
図4(b)に示す入浴状態は、入浴者5が意識喪失とともに脱力し、自らを支えられなくなり浴槽1内の湯2に沈水した状態である。入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lが小さく、頭部51の一部は水面6より上にあるものの、あごの位置よりも水位が高く、呼吸器は水面6下にあるため、呼吸を維持する上で危険な溺水状態である。このように、たとえ頭部51が水面6上に露出していたとしても、呼吸器まで水面6が到達していれば呼吸困難又は呼吸器に水が進入する状態となり、溺水状態である。
【0030】
図4(c)に示す入浴状態は、図4(b)に示した入浴状態が進行し、入浴者5の身体全部が水面6下となり、頭部51も水没しており明らかな溺水状態である。
【0031】
図1に示した入浴者検出装置11としては、撮像素子(撮像用カメラ)が使用可能である。入浴者検出装置11は、浴槽1を撮影視野Fに納め、映像情報に基づいて浴槽1内に入浴者5が存在することを検出する。一般に浴槽1は単色の色彩のものが多く、また入浴者5は衣服を身につけていないことから、入浴者5の画像の大半は肌色を中心とした色彩で占められている。このため、図2に示した入浴者がいない状態での浴槽1全体の画像から浴槽1の色彩と範囲を記憶しておき、図3に示した入浴者5が浴槽1に入った状態の画像と比較して浴槽1の色彩と異なり肌色を中心とした色彩の範囲が一定割合を上回ったときに、浴槽1内に入浴者5が存在すると判断する。
【0032】
図1に示した超音波発受信装置12は、浴槽1全体に向けて短時間の超音波を間欠的に発信する。更に、超音波発受信装置12は、発信した超音波が入浴者5、水面6、浴槽縁部8、又は浴槽1の付属品等で反射した反射波(エコー波)を受信する。
【0033】
溺水判定装置13は、図5に示すように、パルス発生回路101、発振回路105、断続回路104、送信用増幅回路103、発受信切替回路102、受信用増幅回路106、フィルタ回路107、波形分析回路108、入浴者反射波抽出部109、水面反射波抽出部110、距離算出部111及び溺水判定部112を備える。入浴者反射波抽出部109、水面反射波抽出部110、距離算出部111及び溺水判定部112は、例えば中央演算処理装置(CPU)の論理回路により構成される。
【0034】
発振回路105は、超音波帯域の交流信号を発生させる。パルス発生回路101は、超音波の発受信時間を決定するためのパルスを発生し、発受信切替回路102、断続回路104及び波形分析回路108に出力する。断続回路104は、パルス発生回路101からのパルスにより制御され、発振回路105からの交流信号を、パルス状の振幅を持った交流波形とする。送信用増幅回路103は、断続回路104からの交流信号を増幅する。
【0035】
発受信切替回路102は、パルス発生回路101からのパルスにより制御され、超音波発受信装置12の発受信を切り替える。超音波発受信装置12により、継続時間幅が短いパルス状の超音波が浴槽1に向けて発射される。超音波が入浴者5や水面6、浴槽1周辺部分に反射し再び超音波発受信装置12に到達する。反射波が到達する時点において、発受信切替回路102は、超音波発受信装置12の接続先を受信用増幅回路106に切り替える。
【0036】
受信用増幅回路106は、超音波発受信装置12により受信された反射波を増幅する。フィルタ回路107は、発信した超音波以外の周波数成分を除去する。フィルタ回路107からの出力は波形分析回路108に入力される。
【0037】
図6(a)〜図6(c)は、図4(a)〜図4(c)に示した各入浴状態において、波形分析回路108に入力される受信波形を示す。図6(tx)は距離測定の基準となる送信波形を示す。
【0038】
図4(a)に示すように入浴者5の頭部51と水面6との距離が十分ある場合には、図6(a)に示すように、超音波発受信装置12から最も近い位置にある入浴者5の頭部51で反射した受信波形W11が観測される。その後、身体各部の乱反射が観測され、浴槽縁部8で反射した受信波形W12が固定した位置に観測される。それから水面6で反射した受信波形W13が観測され、それ以降は明確な波形は観測されない。
【0039】
また、図4(b)に示すように入浴者5の頭部51と水面6との距離が近い場合には、図6(b)に示すように、まず浴槽縁部8で反射した受信波形W12が固定した位置に観測される。そして、入浴者5の頭部51で反射した受信波形W11が観測される。その後、それから水面6で反射した受信波形W13が観測され、それ以降は明確な波形は観測されない。
【0040】
また、図4(c)に示すように入浴者5の頭部51が水没している場合には、図6(c)に示すように、浴槽縁部8で反射した受信波形W12が固定した位置に観測され、水面6で反射した受信波形W13が観測され、それ以降は明確な波形は観測されない。
【0041】
ここで、各反射波の特徴として、浴槽縁部8で反射した受信波形W12、水面6で反射した受信波形W13や、浴槽1の付属品等の固定物での受信波形(図示省略)は、超音波の進行方向に対して垂直に近く空気に対して密度が高いために反射率が高く、急峻(先鋭)な波形として観測される。一方、入浴者5で反射した受信波形W11は、人体表面が複雑な凹凸形状をしていることや、頭髪などの存在等のために急峻(先鋭)な波形とならず、距離により振幅が変化する時間幅を持った波形となる。よって、固定物での受信波形W12,W13と、入浴者5の受信波形W11とは、その波形の先鋭度(プロファイル)に基づいて明確に区別することができる。
【0042】
また、水面6で反射した反射波は、入浴者5の湯2に浸かっている状態により水面6の面積が変化することから、図6(c)が最も振幅(反射強度)が大きく、図6(b)、図6(a)の順に小さくなるとともに、水面6の波による反射面の変化から、経時的に振幅が微少変動する。一方、浴槽縁部8での反射波や浴槽1の付属品等の固定物での反射波の振幅は経時的に変動しない。更に、浴槽1の周辺において、水面6の水平レベルが最も低い場合には、急峻な受信波形のうち超音波を発信してから受信するまでの遅延時間が最も長いものを、水面6で反射した反射波と特定することができる。よって、水面6で反射した受信波形W13と、浴槽縁部8での受信波形W12や浴槽1の付属品等の固定物での受信波形とは、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間、及び反射波の経時的な振幅(反射強度)の変動のいずれか又はその組み合わせに基づいて明確に区別することができる。
【0043】
また、超音波の反射波のうち浴槽縁部8で反射した受信波形W12は、超音波発受信装置12に対して距離が固定された部分に対する反射である。このため、超音波発受信装置12から浴槽縁部8までの距離を予め計測しておくことにより、入浴中の距離測定結果を補正し、受信波形の区別の精度を向上することも可能である。
【0044】
図5に示した波形分析回路108は、フィルタ回路107から入力した受信波形に対して、エンベロープ検波を行い、エンベロープ検波波形を出力する。更に、波形分析回路108は、エンベロープ検波波形を微分した微分波形を出力する。
【0045】
図6(a)〜図6(c)に示した受信波形のエンベロープ波形を図7(a)〜図7(c)に示し、そのエンベロープ波形の微分波形を図7(a’)〜図7(c’)に示す。ここで、水面6で反射した受信波形の検波波形W23及び浴槽縁部8で反射した受信波形の検波波形W22は、超音波の進行方向に対して垂直かつ平面に近い物体による反射波のために先鋭(急峻)な立ち上がりを持つ波形となり、それぞれの微分波形W33,W32はパルス状の波形となる。一方、人体は表面が複雑な微少凹凸を持ち、超音波の進行方向に対し垂直な面も少ないため、入浴者5での受信波形の検波波形W21はなだらかに変化する波形となり、その微分波形W31も水面6で反射した受信波形の微分波形W33及び浴槽縁部8で反射した受信波形の微分波形W32と比較してレベルも低くなだらかである。図6(a)〜図6(c)に示した受信波形に加えて、図7(a)〜図7(c)に示したエンベロープ検波波形及び図7(a’)〜図7(c’)に示した微分波形を用いれば、受信波形をより高精度に区別することができる。
【0046】
図5に示した入浴者反射波抽出部109は、波形分析回路108から出力された受信波形、そのエンベロープ検波波形、及びその微分波形のいずれか又はそれらの2つ以上の組み合わせに基づいて、受信した反射波から入浴者5での反射波を抽出(区別)する。入浴者反射波抽出部109は、例えば図6(a)に示した受信した受信波形W11,W12,W13のうち、相対的になだらかな波形の受信波形W11を入浴者5での反射波として抽出する。
【0047】
図5に示した水面反射波抽出部110は、波形分析回路108から出力された反射波の波形、エンベロープ検波波形、及び微分波形のいずれか又はそれらの2つ以上の組み合わせに基づいて、受信した反射波から水面6で反射した反射波を抽出(区別)する。水面反射波抽出部110は、例えば図6(a)に示した受信した受信波形W11,W12,W13のうち、急峻な受信波形W12,W13となだらかな受信波形W11とを先鋭度に基づいて区別する。更に、水面反射波抽出部110は、急峻な受信波形W12,W13のうち、経時的に振幅(反射強度)が変動し、且つ超音波を発信してから受信するまでの遅延時間t3が最も長い受信波形W13を、水面6で反射した反射波として抽出する。
【0048】
図5に示した距離算出部111は、入浴者反射波抽出部109により抽出された入浴者5での反射波及び水面反射波抽出部110により抽出された水面6で反射した反射波に基づいて、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出する。距離算出部111は、例えば入浴者反射波抽出部109により抽出された入浴者5での反射波について、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間を算出する。更に、距離算出部111は、水面反射波抽出部110により抽出された水面6で反射した反射波について、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間を算出する。更に、距離算出部111は、それらの遅延時間に基づいて、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出する。
【0049】
図4(a)に示す入浴状態の場合、図6及び図7において、超音波を発信してから入浴者5の頭頂部で反射した反射波を受信するまでの遅延時間をt1(秒)、超音波を発信してから水面で反射した反射波を受信するまでの遅延時間をt3(秒)とすると、1気圧における音波の乾燥空気中での伝搬速度v(メートル毎秒)は気温を摂氏T度とすると一般に以下の式(1)で表すことができる。
【0050】

v=331.5+0.61T …(1)

従って、距離算出部111は、以下の式(2)を用いて入浴者5の頭頂部から水面6までの距離L(メートル)を算出することができる。
【0051】

L=(t3−t1)×(331.5 + 0.61T)/2 …(2)

距離算出部111は、図4(b)に示す入浴状態の場合でも同様に、入浴者反射波抽出部109により抽出された入浴者5での反射波に基づいて、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間t2を算出し、水面反射波抽出部110により抽出された水面6で反射した反射波に基づいて、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間t3を算出し、遅延時間t2,t3に基づいて入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出する。
【0052】
また、距離算出部111は、図4(c)に示す入浴状態であるため、反射波抽出部により図6(c)に示すように水面6で反射した受信波形W13は得られたが、入浴者5での反射波が抽出されていない場合には処理を行わない。
【0053】
溺水判定部112は、距離算出部111により算出された入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lに基づいて、入浴者5が溺水状態であるか否かを判定する。溺水判定部112は、頭頂部から水面6までの距離Lと閾値(例えば20cm)とを比較して、頭頂部から水面6までの距離Lが閾値(例えば20cm)未満の場合、溺水状態と判断する。閾値は例えば10cm〜20cmの範囲内で設定されるが特に限定されず、浴室を使用する入浴者5の頭部51の大きさ、呼吸器の位置及び入浴姿勢等に応じて適宜設定可能である。閾値は図示を省略した記憶装置等に予め記憶させておいて良い。
【0054】
ここで、式(1)に示すように空気中の音波の伝搬速度は気温に大きく影響を受けるが、気温が±15℃変化したと仮定したときの速度変化は±3%弱であり、溺水状態を判断する距離である20cmに対し一般的な入浴時の浴室内気温を約30℃として±0.6cm前後の誤差であり、水位と頭部51の距離を個別に測定する方法と比較して温度補正が特段必要はないという利点がある。
【0055】
更に、溺水判定部112は、図4(c)に示すような溺水状態にあるために、入浴者検出装置11により入浴者5が入浴中であることが検出されており、且つ入浴者反射波抽出部109により図6(c)に示すように入浴者5での反射波が抽出されない場合、入浴者5が溺水状態であると判断する。
【0056】
警報装置14は、溺水判定部112により入浴者5が溺水状態であると判定された場合に警報を発する。警報装置14は、警報を発してから警報の解除動作がなされないまま一定時間経過した場合には、浴室外部又は予め設定した通報先に入浴者5が溺水状態であることを通知する。
【0057】
(溺水検知方法)
次に、本発明の実施の形態に係る溺水判定システム10を用いた溺水検知方法の一例を、図8のフローチャートを参照しながら説明する。
【0058】
(イ)ステップS1において、入浴者検出装置11が、浴槽1内に入浴者5が存在するか随時監視する。入浴者5を検出した場合にステップS2に進む。
【0059】
(ロ)ステップS2において、超音波発受信装置12が、浴槽1へ向けて超音波を発信する。発信した超音波は入浴者5や水面6、浴槽縁部8等で反射し、反射波が超音波発受信装置12により受信される。
【0060】
(ハ)ステップS3において、波形分析回路108が、超音波発受信装置12により受信した反射波の波形、そのエンベロープ検波波形及びその微分波形を出力する。
【0061】
(ニ)ステップS4において、入浴者反射波抽出部109が、波形分析回路108からの出力された受信波形、そのエンベロープ検波波形及びその微分波形の先鋭度に基づいて、受信した反射波のうち入浴者5での反射波を抽出する。
【0062】
(ホ)ステップS5において、水面反射波抽出部110が、波形分析回路108からの出力された受信波形、そのエンベロープ検波波形及びその微分波形の先鋭度、超音波を発信してから受信するまでの遅延時間、及び反射波の経時的な振幅の変動に基づいて、水面6で反射した反射波を抽出する。
【0063】
(ヘ)ステップS6において、距離算出部111が、入浴者反射波抽出部109により抽出された入浴者5の反射波、及び水面反射波抽出部110により抽出された水面6で反射した反射波に基づいて、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出する。
【0064】
(ト)ステップS7において、溺水判定部112が、距離算出部111により算出された入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを閾値(例えば20cm)と比較することにより、入浴者5が溺水状態であるか否かを判定する。入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lが閾値以上であり、入浴者5が溺水状態でないと判定した場合、処理を完了する。一方、ステップS7において入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lが閾値未満であり、溺水状態と判定された場合、ステップS8に進む。
【0065】
(チ)ステップS8において、警報装置14が警報を発するとともに、警報を発している時間を計測する。
【0066】
(リ)ステップS9において、警報装置14が、一定時間以内に警報が解除されたか判定する。一定時間以内に警報が解除されたと判定された場合、処理を完了する。一方、一定時間以内に警報が解除されないと判定された場合にはステップS10に進む。
【0067】
(ヌ)ステップS10において、警報装置14による外部への通報、及び排水栓4による浴槽1内の湯2の緊急排水等の緊急措置を行う。
【0068】
なお、図8に示した一連の手順は、図8と等価なアルゴリズムのプログラムにより、図1に示した溺水判定システム10を制御して実行できる。このプログラムは、図示を省略した記憶装置等に記憶させればよい。また、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に保存し、この記録媒体を記憶装置に読み込ませることにより、本発明の実施の形態の一連の手順を実行することができる。
【0069】
このように、本発明の実施の形態に係る溺水判定システム10によれば、入浴者検出装置11を用いて映像情報により入浴中であることを判断し、超音波発受信装置12を用いた測距により入浴者5の頭頂部と水面6の相対的な距離Lを計測することにより、浴槽1内の湯2の水位や入浴者5の入浴姿勢に影響を受けることなく、呼吸器官が水没した溺水状態を瞬時に判定できる。この結果、自動的に外部通報を行ったり、自動で排水栓4を開き水位を下げるなどの処置を行うことにより、早期の救命処置を施すことが可能となり、入浴事故において多くの割合を占める溺死に至る事態を未然に防ぐことができる。
【0070】
また、従来から浴槽1の溺水検出について提案がなされているが、浴槽1内にセンサを多数用いたり、検出用ペンダントを装着したり、センサの取付位置により入浴の方向や深さに制限がある場合など、通常の入浴と比較して不便な点が多かった。これに対して、本発明の実施の形態によれば、浴槽1や浴室壁面に装置を取り付ける必要が無いため、入浴者5に威圧感を与えることがなく、入浴者5は入浴する方向や深さに制限を受けることなく入浴することができる。
【0071】
また、従来の提案では浴槽1内や壁面にセンサを取り付ける場合が多く、浴室の構造に制約があったり、すでにある浴室に取り付けることが困難であった。これに対して、本発明の実施の形態によれば、浴槽1の上部に位置する天井3に入浴者検出装置11及び超音波発受信装置12を取り付けるのみでよいため、取付制約が少なく、すでに設置済みの浴室にも取り付けが容易であり、取り付けるセンサの数も少なくてよい。
【0072】
更に、浴槽1の上部に位置する天井3から入浴者検出装置11による画像認識及び超音波発受信装置12による距離測定を行うため、障害物が無く、画像認識及び距離測定を容易に行うことができる。
【0073】
更に、天井3から入浴者5までの距離(反射波の遅延時間)と、天井3から水面6までの距離(反射波の遅延時間)を同一の反射波で判定するため、相対的な誤差が少なく、温度による超音波伝搬速度の補正も不要であり、入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを正確に算出することができる。
【0074】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0075】
また、本発明の実施の形態において、超音波発受信装置12を1個使用した場合を説明したが、図9に示すように複数個の超音波発受信装置12a,12bを使用しても良い。複数個の超音波発受信装置12a,12bを用いて、一般的な長方形の浴槽1に対して入浴者5の頭部領域と脚部領域を分割して検知することにより、溺水判定の精度を向上させることが可能である。
【0076】
また、図5に示すように発受信切替回路102を有し、超音波の発受信を兼ねる1つの超音波発受信装置12を有する場合を説明したが、超音波を発信する発信装置と、発信した超音波の反射波を受信する受信装置とを個別に有していても良い。
【0077】
また、本発明の実施の形態において、距離算出部111が、超音波を発信してから入浴者5の頭頂部で反射した反射波を受信するまでの遅延時間、及び超音波を発信してから水面6で反射した反射波を受信するまでの遅延時間から、式(2)を用いて入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出する場合を説明したが、入浴者5の頭頂部から超音波発受信装置12までの距離及び水面6から超音波発受信装置12までの距離を算出して、それらの距離の差分から入浴者5の頭頂部から水面6までの距離Lを算出しても良い。
【0078】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明抽出事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0079】
1…浴槽
2…湯
3…天井
4…排水栓
5…入浴者
6…水面
7…洗い場
8…浴槽縁部
10…溺水判定システム
11…入浴者検出装置
12,12a,12b…超音波発受信装置
13…溺水判定装置
14…警報装置
51…頭部
101…パルス発生回路
102…発受信切替回路
103…送信用増幅回路
104…断続回路
105…発振回路
106…受信用増幅回路
107…フィルタ回路
108…波形分析回路
109…入浴者反射波抽出部
110…水面反射波抽出部
111…距離算出部
112…溺水判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室内の浴槽の上部に位置する天井に配置され、前記浴槽内に入浴者が入浴中であることを検出する入浴者検出装置と、
前記天井に配置され、前記浴槽に向けて超音波を発信し、該発信した超音波の反射波を受信する超音波発受信装置と、
前記入浴者検出装置により入浴者が入浴中であることが検出されたときに、前記受信した反射波に基づいて前記入浴者の頭頂部から前記浴槽内の水面までの距離を算出し、前記入浴者の頭頂部から前記水面までの前記距離に基づいて前記入浴者が溺水状態か否かを判定する溺水判定装置
とを備えることを特徴とする溺水判定システム。
【請求項2】
前記溺水判定装置は、
前記受信した反射波から前記入浴者で反射した反射波を抽出する入浴者反射波抽出部と、
前記受信した反射波から前記水面で反射した反射波を抽出する水面反射波抽出部と、
前記抽出した前記水面で反射した反射波及び前記入浴者で反射した反射波に基づいて、前記入浴者の頭頂部から前記水面までの距離を算出する距離算出部と、
前記入浴者の頭頂部から前記水面までの距離に基づいて前記入浴者が溺水状態か否かを判定する溺水判定部
とを備えることを特徴とする請求項1に記載の溺水判定システム。
【請求項3】
前記入浴者検出装置により前記入浴者が検出され、且つ前記入浴者反射波抽出部により前記入浴者で反射した反射波が抽出されない場合に、前記溺水判定部が、前記入浴者が溺水状態であると判定することを特徴とする請求項2に記載の溺水判定システム。
【請求項4】
前記入浴者反射波抽出部が、前記受信した反射波の波形の先鋭度に基づいて前記入浴者で反射した反射波を抽出することを特徴とする請求項2又は3に記載の溺水判定システム。
【請求項5】
前記水面反射波抽出部が、
前記反射波の波形の先鋭度、前記超音波を発信してから受信するまでの遅延時間、及び前記反射波の経時的な振幅の変動に基づいて、前記水面で反射した反射波を抽出することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の溺水判定システム。
【請求項6】
前記距離算出部が、
前記超音波を発信してから前記水面で反射した前記反射波を受信するまでの第1の遅延時間を算出し、
前記超音波を発信してから前記入浴者の頭頂部で反射した前記反射波を受信するまでの第2の遅延時間を算出し、
前記第1及び第2の遅延時間に基づいて前記入浴者の頭頂部から前記水面までの距離を算出する
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の溺水判定システム。
【請求項7】
前記入浴者検出装置が、映像情報により前記浴槽内の前記入浴者を検出する撮像素子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の溺水判定システム。
【請求項8】
前記溺水状態であると判定されたときに、警報を発する警報装置を更に備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の溺水判定システム。
【請求項9】
前記溺水判定装置が、前記受信した反射波の波形とともに、前記受信した反射波のエンベロープ検波波形及び該エンベロープ検波波形の微分波形を出力する波形分析回路を更に備え、
前記入浴者反射波抽出部が、前記エンベロープ検波波形及び前記微分波形に基づいて前記入浴者で反射した反射波を抽出し、
前記水面反射波抽出部が、前記エンベロープ検波波形及び前記微分波形に基づいて前記水面で反射した反射波を抽出する
ことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の溺水判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−34763(P2013−34763A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174959(P2011−174959)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】