説明

漂白剤及び歯牙の漂白方法

【課題】歯牙などの対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、漂白作用の更なる向上を図ることにある。
【解決手段】漂白促進成分としての強塩基を含有する漂白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙等の対象物の漂白剤及び歯牙の漂白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の漂白剤として、二酸化チタンと、過酸化水素(漂白促進剤としての過酸化物)を含有する漂白剤が公知である(特許文献1を参照)。この漂白剤では、過酸化水素と空気の接触によって発生するフリーラジカルにより、二酸化チタンの光触媒作用を促進することができる。そして過酸化水素の漂白作用と、二酸化チタンの光触媒作用によって歯牙の着色を除去するものである。
【特許文献1】特開平11−92351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで近年、美容上の観点などから、歯牙や皮膚の色素を除去する処置(いわゆるホワイトニング)が注目されており、漂白剤の漂白作用の更なる向上が求められている。
しかし上述の公知技術では、組織腐蝕性のある過酸化物を用いることから、歯牙等の対象物に対する悪影響を考慮すると、過酸化物の含量増加(漂白剤の漂白作用の向上)に一定の限界があった(特許文献1の明細書の段落[0008]を参照)。
而して本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、歯牙等の対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、漂白作用の更なる向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、比較的少量の強塩基を用いることにより、歯牙等の対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、漂白剤の漂白作用が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち上記課題を解決するための手段として、本発明の第1発明の漂白剤は、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの強塩基(漂白促進剤としての強塩基)を含有する。そして本発明では、比較的少量の強塩基(組織腐食性を示さない又は極めて弱い強塩基)によって、歯牙等の対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、漂白剤の漂白作用を向上させることができる。
【0005】
第2発明の漂白方法は、光触媒を含有する第1発明に記載の漂白剤を、歯牙等の対象物に付与したのち、超音波を照射することにより対象物を漂白する。本発明の漂白方法によれば、アルカリ条件下又は酸性条件下のいずれにおいても、好適な漂白作用を奏することができる。
【0006】
第3発明の漂白剤は、第1発明の漂白剤であって、カルシウム塩と、リン酸カリウムと、リン酸ナトリウムを含有する。本発明の漂白剤は、上述の漂白作用に悪影響を極力与えることなく、リン酸カルシウム(例えばヒドロキシアパタイト)の形成を促すことができる。
【0007】
第4発明の歯牙の漂白方法は、第2発明に記載の漂白方法であって、リン酸カリウム及びリン酸ナトリウムと、カルシウム塩のいずれか一方を歯牙に付与したのち、前記一方とは異なる他方を歯牙に付与する工程を有する。本発明の漂白方法によれば、好適な漂白作用を奏するとともに、歯牙の再石灰化(歯牙のエナメル質の再構築)を助長することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1発明によれば、歯牙等の対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、漂白作用の更なる向上を図ることができる。また第2発明によれば、より効果的な漂白作用を奏することができる。また第3発明によれば、歯牙の漂白に適する漂白剤を提供することができる。そして第4発明によれば、歯牙の再石灰化と漂白作用を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本実施例の漂白剤は、専ら歯牙等の対象物を漂白するためのものである。そしてこの種の漂白剤は、対象物に悪影響を極力与えることなく、漂白作用の更なる向上が求められる。
そこで本実施例では、後述する各種成分(過酸化物とは異なる漂白促進成分(必須成分)、光触媒、擬似体液成分)を用いることで、対象物に極力悪影響を及ぼすことなく、その漂白作用を向上させることとした。
【0010】
[対象物]
本実施例の対象物は、生体(人、植物、獣類、鳥類、魚類及び甲殻類などの生物)の着色されやすい部分(例えば歯牙、皮膚、爪、体毛及び甲羅)を例示できる。また対象物として、木材(割り箸、パルプ等の紙、繊維)、食品類(カズノコや蒲鉾など)、構造物(特に壁や床)、真珠などの宝石類を例示できる。
なかでも歯牙(無髄歯牙、有髄歯牙)は、外因性又は内因性の原因により着色されやすい部位である。外因性の着色原因として、有色物質(タバコ、茶渋等)の沈着、色素生成菌、修復物(主にコンポジットレジン)の変色、金属塩(主にアマルガム、硝酸銀、アンモニア銀)による着色を例示できる。内因性の着色原因として、増齢、化学物質や薬剤(フッ素、テトラサイクリン等)、代謝異常や遺伝性疾患、歯牙の傷害を例示できる。
また皮膚も、外因性又は内因性の原因により着色されやすい部位である。外因的な着色原因として、有色物質の沈着、色素生成菌による着色を例示できる。また内因性の着色原因として、増齢などの内因性の沈着(メラミン色素などの色素成分の沈着)、化学物質や薬剤、代謝異常や遺伝性疾患、皮膚の傷害を例示できる。
そして本実施例の漂白剤は、以下に説明する各種成分により、各種原因によって着色された対象物を比較的安全に漂白することができる。
【0011】
[漂白剤の各種成分]
(漂白促進成分)
本実施例の漂白促進成分(必須成分)は強塩基であり、例えばこの強塩基を共役塩基とする酸のpKaが15以上の塩基が好適である。上述の強塩基として、例えば有機強塩基(アルキル金属、金属アルコキシド、アセチリド、有機金属アミドなど)や、無機強塩基(金属水素化物、金属水酸化物、無機金属アミドなど)を例示することができる。これら強塩基は単独で使用してもよく、複数組み合わせて使用してもよい。
なかでも水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))及び水酸化バリウム(Ba(OH))などの金属水酸化物は、比較的入手しやすいため本実施例の漂白促進成分として好適に使用することができる。さらに水酸化カリウムと水酸化ナトリウムは優れた漂白作用を有するため、本実施例の漂白促進成分として特に好適に使用することができる。
本実施例の漂白剤では、過酸化物よりも組織腐食性の低い強塩基を使用することで、上述の対象物に悪影響を極力及ぼすことなく、その漂白作用を向上させることができる。
【0012】
そして強塩基の含量は、対象物に悪影響を極力及ぼすことなく漂白促進作用を奏する限り特に限定しない。例えば強塩基の含量は、漂白剤全重量(水系溶媒と各種成分の総量)に対して、重量比で0.01%以上であることが好ましい。強塩基の含量が0.01%未満であると、所望の漂白促進作用を奏さないおそれがある。
また強塩基は、水系溶媒に飽和するまで(水酸化カリウムは52.8%まで)加えることができる。そして生体を対象とする場合には、強塩基の上限値を、漂白剤全重量に対して重量比で1.0%以下とすることが望ましく、より好ましくは1.0%未満である。さらに強塩基の含量を0.2%〜0.5%(比較的少量)とすることで、生体に悪影響を極力与えることなく、好適な漂白作用を奏することができる。
【0013】
(光触媒)
光触媒は、光等を利用して大気中の酸素をラジカル化する(光触媒作用を奏する)粒子である。光触媒の粒子径は1nm〜200nmであることが望ましい。
この光触媒として、金属酸化物半導体(遷移金属酸化物を含む)、硫化物半導体、前記半導体に白金等の金属を担持させてなる金属担持半導体及び金属錯体の粒子を例示することができる。
なかでも二酸化チタン(TiO、金属酸化物半導体の一例)の粒子は、優れた光触媒作用を有するとともに入手しやすいため、本実施例の光触媒として用いることが好ましい。なお二酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型及びフルッカイト型のいずれでもよい。
【0014】
そして光触媒の含量は、光触媒作用を奏する限り特に限定しないが、漂白剤全重量に対して、重量比で0.001%〜0.1%であることが望ましい。光触媒の含量が0.001%未満であると、所望の光触媒作用を奏さないおそれがある。また光触媒の含量が0.1%より多いと、コスト高となるとともに、光透過性の悪化などによって光触媒作用が若干低下することがある。
【0015】
(擬似体液成分)
そして擬似体液成分は、いわゆるアパタイトを形成可能な体液類似の成分である。ここでアパタイトとは、化学式Ca10(POで示される物質であり、それぞれXがF,Cl,OH又はCOであるフッ素リン灰石(フッ化アパタイト)、塩素リン灰石、水酸リン灰石(ヒドロキシアパタイト)、炭酸リン灰石を例示することができる。
【0016】
特に対象物が歯牙の場合には、ヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウムを形成可能な擬似体液成分であることが望ましい。例えば、カルシウム塩と、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウム(緩衝成分)を有する擬似体液成分を例示することができる。この擬似体液成分によれば、リン酸カルシウムの形成を効率良く促すことができる。
ここでカルシウム塩とは、好ましくは水系溶媒中に溶解可能なカルシウム塩であり、例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムを例示することができる。
【0017】
そしてカルシウム塩、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウム(リン酸塩)の含量は、リン酸カルシウムを形成可能である限り特に限定しない。
好ましくはカルシウム塩が、漂白剤全重量に対して、重量比で0.125%〜0.75%である。カルシウム塩の含量が0.125%未満であると、所望のリン酸カルシウムの形成作用を低下させるおそれがある。またカルシウム塩の含量は0.75%より多くとも良いが、リン酸カルシウムの形成作用の極端な上昇が見られないことからコスト高となる。
【0018】
またリン酸ナトリウムは、漂白剤全重量に対して、重量比で0.03%〜0.345%である。リン酸ナトリウムの含量が0.03%未満であると、所望のリン酸カルシウムの形成作用を低下させるおそれがある。またリン酸ナトリウムの含量は0.345%より多くとも良いが、リン酸カルシウムの形成作用の極端な上昇が見られないことからコスト高となる。
そしてリン酸カリウムは、漂白剤全重量に対して、重量比で0.005%〜0.06%である。リン酸カリウムの含量が0.005%未満であると、所望のリン酸カルシウムの形成作用を低下させるおそれがある。またリン酸カリウムの含量は0.06%より多くとも良いが、リン酸カルシウムの形成作用の極端な上昇が見られないことからコスト高となる。
【0019】
(カルシウム塩とリン酸塩の含有比率)
カルシウム塩とリン酸塩(リン酸ナトリウム及びリン酸カリウム)の含有比率は、例えばヒドロキシアパタイトを効率良く形成可能であることが望ましい。
ここでヒドロキシアパタイトは、上述の通り、化学式:Ca10(PO(OH)で示す化学量論組成(Ca/Pモル比は1.67)で示される。そしてヒドロキシアパタイトは、Ca/Pモル比が1.67にならない非化学量論的な場合であっても、ヒドロキシアパタイトの性質を示し、アパタイト構造を取りうることが知られている。
このためカルシウム塩とリン酸塩の含有比率は、Ca/Pモル比が1.67近傍(1.4〜1.9の範囲)となるように適宜調節されることが好ましい。
【0020】
(その他の成分)
本実施例の漂白剤には、上記成分のほかに各種の成分を添加することができる。例えば、後述するように漂白剤を酸性として使用する場合には、クエン酸やクエン酸3ナトリウム(緩衝剤)を漂白剤に適宜加えて、そのpHを5以下に調節することができる。また塩化ナトリウム(ナトリウム塩)や塩化カリウム(カリウム塩)を漂白剤に加えて、体液の塩分濃度に近づける(又は同一とする)ことにより、漂白剤が生体になじみやすくなる。
【0021】
[漂白方法]
本実施例では、擬似体液成分を歯牙に付与する第一工程と、歯牙に対して漂白剤を付与する第二工程を有する。そして第二工程において、後述する光(紫外線)や超音波を照射することにより対象物を漂白する。以下、各工程を詳述する。
【0022】
(第一工程)
第一工程では、リン酸カリウム及びリン酸ナトリウム(リン酸塩)を歯牙に付与したのち、カルシウム塩を歯牙に付与する。すなわち本実施例では、歯牙に対してリン酸塩(マイナスイオン)を付与したのち、カルシウム(プラスイオン)を歯牙上で混合することにより、歯牙上でカルシウムとリンを結合させる。
このように擬似体液成分を歯牙上で調製する(リン酸カルシウムを歯牙上で形成する)ことにより、歯牙の再石灰化を好適に助長することができる。さらに擬似体液成分は、後述の第二工程における漂白作用を極力阻害することがない。
【0023】
そして処理時間は特に限定しないが、例えばカルシウム塩を歯牙に付与してから30分〜60分(比較的短期間)であっても、歯牙の再石灰化作用を奏することができる。またリン酸塩及びカルシウム塩を、予め体温付近(30℃〜50℃)に保温しておくことで、1分〜5分程度でリン酸カルシウムの形成を好適に促すことができる。
なおリン酸カルシウムの形成確認は、例えば、所定の測定機器や目視(歯牙が白濁したかどうか)により判別することができる。
【0024】
そして擬似体液成分は、中性域(pH6〜pH8)であることが望ましい。このように生体に近い中性域条件下でアパタイトの形成を促すことで、歯牙の再石灰化を好適に助長することができる。
例えばリン酸カリウム(A)とリン酸ナトリウム(B)の含有比率を、重量比でA:B=1:5〜1:10とすることで、歯牙上の擬似体液成分を中性域とすることができる。
【0025】
(第二工程)
そして第二工程では、第一工程後の歯牙に対して漂白剤を付与したのち、後述の光又は超音波を照射する。
なお漂白剤を歯牙などの対象物に付着させる方法としては、漂白剤の塗布や噴霧等の各種手法を取り得る。また漂白剤は、対象物に一度付着させるだけでもよく、複数回付着させることもできる。漂白剤の付着を複数回行う場合は、通常、約1分〜20分おきに漂白剤を対象物に付着させればよく、その間隔及び頻度は、対象物の着色状態に応じて適宜設定することができる。
【0026】
(光の照射)
本実施例の光(紫外線)は、光触媒に光触媒作用を生じさせることのできる波長(二酸化チタンを光励起可能な波長)を有する光であればよく、生体に対して悪影響が少ない波長の光であることが望ましい。
例えば二酸化チタンを光触媒として用いる場合、典型的には300〜500nmの波長を含む光を使用する(ルチル型二酸化チタンを光励起する波長は415nm前後であり、アナターゼ型二酸化チタンを光励起する波長は380nm以下である)。なお波長500nmを超える光を長時間照射すると、対象物の温度上昇が大きくなることがある。
また光の紫外線強度は、対象物の着色状態によって適宜変更される。典型的には、太陽光(紫外線強度1mW/cm程度の光)よりも強い紫外線強度であることが望ましい。
【0027】
また光の光源として、ブラックライト、発熱灯、蛍光灯、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀灯、UVランプ、LED(発光ダイオード)、半導体レーザを例示することができる。
そして光源の光を、光学フィルターによって不要な波長をカットした後、漂白剤を塗布した対象物に照射する。光照射の時間は、光の波長や対象物の着色状態に応じて適宜調節することができる。
【0028】
(超音波の照射)
また本実施例の超音波は、光触媒に光触媒作用を生じさせることのできる周波数(漂白剤にキャビテーションを発生可能な周波数)を有する超音波であればよく、生体に対して悪影響が少ない周波数であることが望ましい。
上述の超音波は、周波数20kHz〜50kHz程度の超音波であることが好ましく、より好ましくは、周波数25kHz〜35kHz程度の超音波である。ここで20kHz未満の超音波では、キャビテーションによって対象物がダメージを受けたり、動作ノイズが発生したりするなどの悪影響が生じるおそれがある。
また超音波の周波数が50kHzを越えてもよいが、極端な光触媒作用の上昇は見られない。このため生体への悪影響を考慮して、超音波の周波数は50kHz以下であることが望ましい。
そして超音波を、漂白剤を塗布した対象物に照射する。超音波照射の時間及び出力(電力)は、超音波の周波数や対象物の着色状態に応じて適宜調節することができる。
【0029】
そして超音波を歯牙(対象物)に照射する際には、漂白剤が酸性(pH7未満のとき)又はアルカリ性(pH7を超えるとき)のいずれであっても好適な漂白作用を奏する。
ここで歯牙のホワイトニングは、歯牙がアルカリに強いことを考慮して、アルカリ性条件下で行われることが多い。そしてアルカリ性条件下でホワイトニングされた歯牙は透明感のある漂白状態となる。
また酸性条件下でホワイトニングされた歯牙は、酸によって若干表面に凹凸が生じることから、見た目の白さが増すこととなる。このため白い歯牙を得たい場合には、酸性条件下においてホワイトニングを行うことが好ましい。そして本実施例の漂白方法では、上記各種成分と超音波の相乗効果により、酸性条件下においても歯牙のホワイトニングを好適に行うことができる。
【0030】
このように本実施例の漂白剤によれば、比較的少量の強塩基によって、歯牙等の対象物に極力悪影響を及ぼすことなく、漂白作用の更なる向上を図ることができる。
また本実施例では、擬似体液成分により歯牙の再石灰化を助長することができる。
そして本実施例の漂白方法では、各種成分と超音波の相乗効果により、歯牙のホワイトニングのバリエーションを増やすことができる。
【0031】
[試験例]
以下、本実施の形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。
(実施例1)
精製水100mlに対して、0.25gの水酸化カリウム(関東化学社)を加えて実施例1の漂白剤(pH10以上)を調製した。
(実施例2)
精製水100mlに対して、0.25gの水酸化カリウム、0.03gの二酸化チタン(アエロジル社)を加えて実施例2の漂白剤(pH10以上)を調製した。
(実施例3)
精製水100mlに対して、0.25gの水酸化カリウム、擬似体液成分(0.5gの塩化カルシウム、1.15gのリン酸水素二ナトリウム、0.05gのリン酸二水素カリウム、いずれも和光社製)を加えて実施例3の漂白剤(pH10以上)を調製した。
(実施例4)
精製水100mlに対して、0.25gの水酸化カリウム、0.03gの二酸化チタン、上述の擬似体液成分を加えて実施例4の漂白剤(pH10以上)を調製した。
【0032】
(実施例5)
実施例1の漂白剤に、2gのクエン酸(関東化学社)、3gのクエン酸3ナトリウム(関東化学社)を加えて実施例5の漂白剤(pH5以下)を調製した。
(実施例6)
実施例2の漂白剤に、2gのクエン酸、3gのクエン酸3ナトリウムを加えて実施例6の漂白剤(pH5以下)を調製した。
(実施例7)
実施例3の漂白剤に、2gのクエン酸、3gのクエン酸3ナトリウムを加えて実施例7の漂白剤(pH5以下)を調製した。
(実施例8)
実施例4の漂白剤に、2gのクエン酸、3gのクエン酸3ナトリウムを加えて実施例8の漂白剤(pH5以下)を調製した。
【0033】
(比較例1)
精製水100mlに対して、オキシドール(健栄製薬)を10%加えて比較例1の漂白剤を調製した。
(比較例2)
比較例1の漂白剤に0.03gの二酸化チタンを加えて比較例2の漂白剤を調製した。
【0034】
(試験方法)
1.試験紙による漂白試験
光沢フィルム(エプソン社)を、ヘマトポリフィリン含有のエタノール溶液にて染色したものを試験紙とした。実施例1〜実施例4の漂白剤を、それぞれ試験紙に塗布したのち5分間放置した。この操作を4回繰り返した。
試験後の試験紙を測色して、実施例1〜実施例4の漂白剤による漂白度合を各々評価した。測色器として、歯牙科用分光測色器(株式会社ジーシー、商品名:VITA Easyshade(登録商標))を用いた。そして歯牙科用分光測色器による測定値(L値:明度)を、1〜5のランクに分類して、試験紙の漂白度合を評価した(下記[表1]を参照)。
そして同様の手順により、比較例1、2の漂白試験を行った。
【0035】
2.卵殻による漂白試験
茶褐色の卵殻(生産農場:有限会社大友産業、発売元:中部飼料株式会社、商品名「ごまたまご」)を試験卵殻とした。実施例5〜実施例8の漂白剤を、それぞれ試験卵殻に塗布したのち、5分間放置した。この操作を4回繰り返した。
試験後の試験卵殻を測色して、実施例5〜実施例8の漂白剤による漂白度合を各々評価した。測色器として、上述の歯牙科用分光測色器を用いた。そして歯牙科用分光測色器による測定値を、1〜5のランクに分類して、試験卵殻の漂白度合を評価した(下記[表2]を参照)。
【0036】
3.光による漂白試験
光源としてブラックライト(東芝社、品番:EFD15BLB-T(100V,15W))を用いた。このブラックライトを、試験紙から3cm離して設置した。
そして実施例2、4の漂白剤を、それぞれ試験紙に塗布したのち、ブラックライト(波長:352nm)を照射しつつ5分間放置した。この操作を4回繰り返した。試験後の試験紙を測色して、その漂白度合を評価した。
そして比較例2の漂白試験を同様の手順にて行った。
また実施例6、8の漂白試験を、試験卵殻を用いて同様の手順にて行った。
【0037】
4.超音波による漂白試験
超音波発生源として歯牙科用超音波発生装置(サテレック社アクリオングループ(フランス)、商品名:スプラソンP−MAX)を用いた。この歯牙科用超音波発生装置に超音波照射口(スラプソンチップ♯2)を取付けて、この照射口を、試験紙から1mm離して設置した。
そして実施例2、4の漂白剤を、それぞれ試験紙に滴下したのち、各漂白剤を適宜注ぎ足しつつ、超音波(周波数:27〜31kHz、電力:1W)を5分間照射した(照射口は、漂白剤内に浸した状態とした)。この操作を4回繰り返した。試験後の試験紙を測色して、その漂白度合を評価した。
そして比較例2の漂白試験を同様の手順にて行った。
また実施例6、8の漂白試験を、試験卵殻を用いて同様の手順にて行った。
【0038】
5.超音波と光による漂白試験
光源として、上述のブラックライトを用いた。また超音波発生源として、上述の歯牙科用超音波発生装置を用いた。
そして実施例2、4の漂白剤を、それぞれ試験紙に塗布したのち、超音波及び光を照射しつつ5分間放置した。この操作を4回繰り返した。試験後の試験紙を測色して、その漂白度合を評価した。
そして比較例2の漂白試験を同様の手順にて行った。
また実施例6、8の漂白試験を、試験卵殻を用いて同様の手順にて行った。
【0039】
6−a.再石灰化の確認試験(1)
試験サンプルとして、ヒトの抜去歯(歯科保存や補綴処理のなされていない抜去歯)を用いた(比較サンプル(S0)、図1(a)及び図2(a)を参照)。なお抜去歯のエナメル質表面の汚れや沈着物は予め除去した。
そしてリン酸緩衝液は、精製水2000mlに対して、4gのリン酸水素二カリウムと、23gのリン酸水素二ナトリウムを加えて調製した(pH6〜8)。塩化カルシウム溶液は、100mlの精製水に対して、10gの塩化カルシウムを加えて調整した。これら各溶液は、37℃〜39℃にて攪拌状態(常時)とした。各試薬は、和光社製のものを使用した。
【0040】
そして試験サンプルの抜去歯を1750mlの精製水に投入して、200mlのリン酸緩衝液を投入したのち、さらに50mlの塩化カルシウム溶液を投入した。そして試験サンプルの抜去歯を1分間静置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル1の抜去歯(S1)とした(図1(b)及び図2(b)を参照)。
また試験サンプルの抜去歯を5分間放置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル2の抜去歯(S2)とした(図1(c)及び図2(c)を参照)。
また試験サンプルの抜去歯を10分間放置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル2の抜去歯(S3)とした(図1(d)及び図2(d)を参照)。
また試験サンプルの抜去歯を30分間放置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル2の抜去歯(S4)とした(図1(e)及び図2(e)を参照)。
また試験サンプルの抜去歯を60分間放置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル2の抜去歯(S5)とした(図1(f)及び図2(f)を参照)。
そして各サンプルの表面(乾燥後)を、400倍及び1000倍の倍率にて撮影して再石灰化の有無を確認した(図1及び図2を参照)。撮影には、卓上走査電子顕微鏡(日本電子株式会社、商品名:NeoScope JCM−5000)を用いた。
【0041】
6−b.再石灰化の確認試験(2)
本試験では、1750mlの精製水に5gの水酸化カリウムと0.6gの二酸化チタンを投入した。試験サンプルの抜去歯をこの精製水に投入して、200mlのリン酸緩衝液を投入したのち、さらに50mlの塩化カルシウム溶液を投入した。
そして試験サンプルの抜去歯を10分間静置したのち、蒸留水で洗浄したものをサンプル6の抜去歯(S6)とした(図3を参照)。他の試験方法及び撮影方法は、上述の再石灰化の確認試験(1)と同一とした。
【0042】
【表1】


【表2】

【0043】
(試験結果及び考察)
試験結果を、下記の[表3]〜[表5]に示す。
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
(強塩基)
実施例1〜実施例4の漂白剤は、比較例1及び比較例2の漂白剤と比較して、その漂白度合が向上した([表3]及び[表4]を参照)。また実施例5〜実施例8の漂白剤は、酸性条件下においても、比較例と遜色のない漂白作用を示した([表5]を参照)。
このことから実施例1〜実施例8の漂白剤は、比較的少量の水酸化カリウム(強塩基)によって、優れた漂白作用を奏する(又は漂白作用を維持する)ことがわかった。
【0047】
(光触媒)
また実施例2及び実施例4の漂白剤は、光(紫外線)及び超音波の少なくとも一つの照射によって、その漂白度合がさらに向上した([表4]を参照)。
このことから実施例2及び実施例4の漂白剤は、水酸化カリウム(強塩基)、二酸化チタン(光触媒)及び光又は超音波の相乗効果によって、より優れた漂白作用を奏することがわかった。
【0048】
(超音波)
そして実施例5及び実施例8の漂白剤は、超音波の照射によって、酸性条件下であっても好適な漂白作用を維持した([表5]を参照)。
このことから実施例5及び実施例8の漂白剤は、二酸化チタン(光触媒)などの各種成分と超音波の相乗効果によって、酸性条件下においても優れた漂白作用を奏することがわかった。
【0049】
(再石灰化)
図1及び図2を参照して、サンプル1の抜去歯(S1)〜サンプル5の抜去歯(S5)には、すべて再石灰化が生じたことが確認できた(各図の(b)〜(f)を参照)。このことから本実施例の方法によれば、リン酸カルシウムの形成を促すことで、優れた再石灰化作用を奏することがわかった。特にサンプル1の抜去歯(S1)にも再石灰化が生じたことから、本方法では比較的短時間(1分程度)でもリン酸カルシウム(例えばハイドロキシアパタイト)の形成が生じることがわかった。またサンプル4の抜去歯(S4)とサンプル5の抜去歯(S5)では、十分な再石灰化が生じたことがわかった。このことから本方法によれば、30分〜60分の処理で十分な歯牙の再石灰化がさなれることがわかった。
さらに実施例3及び実施例4の漂白剤では、擬似体液成分の存在下においても、優れた漂白作用を奏した。このことから擬似体液成分が、歯牙の漂白作用に悪影響を及ぼさないことがわかった。
これらの結果を総合すると、本実施例の漂白剤又は漂白方法によれば、歯牙の再石灰化(歯牙のエナメル質の再構築)を助長するとともに、好適な漂白作用を奏することがわかった。
【0050】
そして図3を参照して、サンプル6の抜去歯(S6)にも再石灰化が生じたことが確認できた。このことから、漂白促進成分(水酸化カリウム)と光触媒(二酸化チタン)が、リン酸カルシウムの形成作用及び歯牙の再石灰化作用に悪影響を及ぼさないことがわかった。
この結果、本実施例の漂白剤又は漂白方法によれば、歯牙の再石灰化(歯牙のエナメル質の再構築)を助長するとともに、好適な漂白作用を奏することがより確実に裏付けられた。
【0051】
本実施形態に係る漂白剤及び漂白方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施例の漂白剤は、それ単体で使用することもでき、歯磨剤、洗口剤、チューインガムなどの嗜好品に混入して使用することもできる。
(2)また本実施例では、リン酸カルシウムの形成を促す例(擬似体液成分を使用する例)を説明した。本実施例の漂白剤には、フッ化アパタイト、塩素リン灰石または炭酸リン灰石の形成を促す成分を配合することができる。こうすることで、各種アパタイトを有する構造物に対して、本実施例の漂白剤を好適に使用することができる。
(3)また本実施例の第一工程では、リン酸カリウム及びリン酸ナトリウム(リン酸塩)を歯牙に付与したのち、カルシウム塩を歯牙に付与する例を説明した。
これとは異なり、リン酸カリウムとリン酸ナトリウムとカルシウム塩(擬似体液成分)を、同時に歯牙に付与することもできる。また擬似体液成分と漂白促進成分(又は光触媒)を歯牙に同時に付与することもできる。
(4)また本実施例では、第一工程の後に第二工程を行った。これとは異なり、第二工程を、第一工程の前に行ってもよい。
(5)また本実施例では、リン酸カリウム及びリン酸ナトリウム(リン酸塩)を歯牙に付与したのち、カルシウム塩を歯牙に付与する例を説明した。これとは異なり、カルシウム塩を歯牙に付与したのち、リン酸カリウム及びリン酸ナトリウム(リン酸塩)を歯牙に付与してもよい。
(6)また本実施例の漂白方法では、リン酸塩の一例としてリン酸カリウムとリン酸ナトリウムを例示した。本実施例の漂白方法では、各種のリン酸塩を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】再石灰化を説明するための歯牙表面の400倍拡大図である。
【図2】再石灰化を説明するための歯牙表面の1000倍拡大図である。
【図3】(a)は、別の試験における再石灰化を説明するための歯牙表面の400倍拡大図であり、(b)は、別の試験における再石灰化を説明するための歯牙表面の1000倍拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漂白促進成分としての強塩基を含有する漂白剤。
【請求項2】
請求項1に記載の漂白剤が光触媒を含有するとともに、
前記漂白剤を歯牙等の対象物に付与したのち、超音波を照射することにより、前記対象物を漂白する対象物の漂白方法。
【請求項3】
カルシウム塩と、リン酸カリウムと、リン酸ナトリウムを含有する請求項1の漂白剤。
【請求項4】
リン酸カリウム及びリン酸ナトリウムと、カルシウム塩のいずれか一方を歯牙に付与したのち、前記一方とは異なる他方を歯牙に付与する工程を備える請求項2に記載の漂白方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−155785(P2010−155785A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333497(P2008−333497)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509002604)株式会社エヌエスピー (2)
【出願人】(509004206)
【出願人】(597039869)
【Fターム(参考)】