説明

漆黒調転写シート

【課題】漆黒を意図する加飾樹脂成形品にあって、従来の転写シートを用いると、黒色に青白みがかかるという点を改善する。
【解決手段】基体シート上にカーボン顔料を含む絵柄層を形成した漆黒調転写シートである。基体シート11上に、剥離層12、黒色染料を含む絵柄層である黒色染料絵柄層13、カーボン顔料を含む黒色顔料絵柄層14と接着層15を順に形成した転写シート10である。黒色染料は、単体の黒色染料又は複数の染料の混合物であって、当該混合物が人の目で見て黒色に見える混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂に加飾を施すために用いる転写シートに関するものである。また、本発明は樹脂の成形と加飾を同時に行って作成する成形同時加飾物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂に加飾を施すために用いる転写シートとして、基体シート上にハードコート層などの剥離層、カーボン顔料を含むインキを用いて形成した絵柄層と接着層を順に備えた転写シートが使用されている。この転写シートを用いた加飾樹脂成形品の表面はカーボン顔料に由来する黒色であった。
【0003】
また、従来の転写シートは、基材シート上に離型層1と離型層2を設け、さらにカーボンブッラクを含む黒色の接着層を設けて、漆塗り調の質感付与を企図している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、例えば、自動車の内装部品など、漆黒を意図する加飾樹脂成形品にあっては、従来の転写シートを用いると、黒色に青白みがかかるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−245527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、転写シートを転写した樹脂成形品が漆黒にならず、青みと白みがかかる点である。
【0007】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に課題を解決するための手段を述べる。
【0009】
本発明の一の態様にかかる転写シートは、
基体シート上にカーボン顔料を含む絵柄層を形成した漆黒調転写シートにおいて、
基体シート上に、剥離層、黒色染料を含む絵柄層である黒色染料絵柄層、カーボン顔料を含む黒色顔料絵柄層と接着層を順に形成したものであり、
前記黒色染料は、単体の黒色染料又は複数の染料の混合物であって、前記混合物が人の目で見て黒色に見える混合物である転写シートである。
【0010】
本発明の好ましい実施態様にあって、
前記黒色染料絵柄層に含まれる黒色染料は単体であり、カラーインデックス名表記にあって、その効用が溶剤染料(Solvent)であり、色合いがブラック(Black)である黒色染料であってもよい。
【0011】
本発明の他の好ましい実施態様にあって、
前記黒色染料絵柄層は、黒色染料インキを用いて形成されたものであって、前記黒色染料インキは、固形分30%を含むバインダーの重量に対して、染料の重さが5.0重量%以上20.0重量%以下であってもよい。
【0012】
本発明のその他の好ましい実施態様にあって、
前記剥離層は、ハードコート層であってもよい。
【0013】
本発明のさらに他の好ましい実施態様にあって、
前記転写シートにおいて、黒色染料絵柄層を互いに接して複数設けてもよい。
【0014】
本発明の他の態様にかかる加飾樹脂成形品は、
本発明にかかる転写シートを用いて、成形同時加飾法により成形・加飾した加飾樹脂成形品である。
【0015】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一の態様である転写シートを使用すれば、黒色がより漆黒に近い漆黒調加飾樹脂を得ることができる。
【0017】
本発明の他の態様にかかる加飾樹脂成形品はその黒色がより漆黒に近い漆黒調加飾樹脂成形品である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は漆黒調転写シートの断面を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる漆黒調転写シートと漆黒調加飾樹脂成形品をさらに説明する。本明細書において参照する図は、本発明の理解を容易にするため、一部の構成要素を誇張して表すなど模式的に表しているものがある。このため、構成要素間の寸法や比率などは実物と異なっている場合がある。また、本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
図1を参照して、転写シート10は基体シート11の一方表面上にハードコート層12、黒色染料絵柄層13、黒色顔料絵柄層14と接着層15を順に形成したものである。
【0021】
黒色染料絵柄層13はバインダーと黒色染料を混合したインキを用いて、印刷やコート法により形成したものである。
【0022】
黒色染料は人の目でみて黒色に見えるものである。黒色染料は単一化合物であってもよく混合物であってもよい。好ましい黒色染料は、カラーインデックス(C.I.)名表記で、その効用が溶剤染料(Solvent)であり、色合いがブラック(Black)で表記される物である。例えば、ソルベント ブラック27(BasF社製のBlack X51やオリエント化学製VALIFAST BLACK 3820など)、ソルベント ブラック29(BasF社製のBlack X55やオリエント化学製VALIFAST BLACK 3810など)、ソルベント ブラック34(オリエント化学製VALIFAST BLACK3804)(本商品はアゾ化合物クロム錯塩である)など)である。なお、これらの物から2以上の物を選択し、混合し、黒色染料として使用してもよい。
【0023】
また、カラーインデックス(C.I.)名表記で、その効用が溶剤染料(Solvent)であり、任意の色合いで表記される複数の物を混合し、人の目で見て黒に見える混合物に調整した混合物であってもよい。
【0024】
黒色染料とバインダーとの混合割合の下限値は、固形分30%を含むバインダー(重量(W))に対して黒色染料(重量(W))が通常5.0重量%であり、好ましくは7.5重量%である。染料とバインダーとの混合割合の上限値は、固形分30%を含むバインダー(重量(W))に対して黒色染料(重量(W))が通常20.0重量%であり、好ましくは15.0重量%である。この範囲にあれば、黒色顔料絵柄層をより一層漆黒調にする効果が得られる。なお、この範囲の染料混合インキは隠蔽性を持たず、下層が透過する。
【0025】
黒色染料絵柄層13の層厚さは通常0.5μm〜3μmであり、好ましくは0.8μm〜2.2μmである。
【0026】
黒色染料絵柄層13は単一に限られず、互いに接した2層以上を設けてもよい。例えば、バインダーに染料が溶けにくい場合に、バインダーに対して染料の混合割合が少ないインキを使用して、2層を設けてもよい。
【0027】
バインダーは、従来の転写シートにおける絵柄層インキに使用する物を用いることができる。例えば、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂などであり、また、紫外線吸収剤を共重合させたポリアクリル系樹脂であってもよい。
【0028】
黒色顔料絵柄層14はバインダーと黒色顔料を混合したインキを用いて、印刷やコート法により形成したものである。
【0029】
黒色顔料は、通常、カーボンブラックを用いる。カーボンブラックの平均粒子径は12〜30nmである。顔料とバインダーの混合割合は固形分30%を含むバインダー(重量(W))に対して黒色顔料(重量(W))が5.0重量%〜10.0重量%である。この範囲にあれば、漆黒調を表現でき、また、バインダーと黒色顔料が均一に混合される。
【0030】
バインダーは、上記黒色染料絵柄層13作成インキに用いるバインダーと同一である。
【0031】
基体シート11、ハードコート層12と接着層15の材料、作成方法と層の厚さなどは従来の転写シートと同じであり、以下、簡単に説明する。
【0032】
基体シート11の材質は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいは以上の各シートの複合体などを使用することができる。基体シート11の剥離性を向上させるために、基体シート11の表面に離型層を設けてもよい。
【0033】
ハードコート層12は、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などに代表される紫外線や電子線等で硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、またはこれらの硬化形態を複数組み合わせた樹脂を材料とする。形成方法は、グラビア印刷などの印刷方法でも、塗装、ディッピング、コート法(例えばリバースコーターの使用)などの方法でもよい。
【0034】
ハードコート層12の替わりに、剥離層を設けてもよい。剥離層の材質としては、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ビニロン系樹脂、アセテート系樹脂、ポリアミド系樹脂等を挙げることができる。剥離層の形成方法は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などの方法でも、塗装、ディッピング、コート法(例えばリバースコーターの使用)などの方法でもよい。
【0035】
接着層15としては、被加飾の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。接着層15の形成方法はコート法、印刷法などがある。
【0036】
次に、転写シート10を用い、射出成形による成形同時転写法を用いて加飾樹脂成形品を得る方法を説明する。まず、A金型とB金型とからなる成形用金型内に基材シート11が金型のキャビティ面に接する向きに転写シート10を送り込む。この際、枚葉の転写シート10を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の転写シートの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。成形用金型を閉じた後、金型に設けたゲートより溶融樹脂を金型内に射出充満させ、被転写物を形成するのと同時にその面に転写シート10を接着させる。樹脂成形品を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形品を取り出す。基材シート11を剥がした後、必要により、活性エネルギー線を照射して、ハードコート層12を完全に架橋硬化させる。
【0037】
また、アップダウン転写機やロール転写機を用いて、成形樹脂の表面に転写シート10を転写してもよい。
【実施例1】
【0038】
黒色染料絵柄層を作成するインキ中の染料配合量と黒色染料絵柄層の層厚さを変化させた転写シートを作成し、当該転写シートを使用して加飾樹脂成形品を製造し、色差を測定した。
<転写シートの作成>
離型処理を施したPET基体シート上に、ウレタンアクリレート系樹脂である活性エネルギー線硬化性樹脂をグラビア印刷で5μmの厚さに形成し、ハードコート層を作成した。
【0039】
アクリル系/塩酢ビ系(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)樹脂であるバインダー(固形分30%)にオリエント化学製VALIFAST BLACK3804(ソルベント ブラック34)を所定量混合して、黒色染料絵柄層を作成するインキを得た。上述したハードコート層上に、グラビア印刷により、所定厚さの黒色染料絵柄層を作成した。
【0040】
次に、紫外線吸収剤を共重合させたポリアクリル系樹脂であるバインダー(固形分30%)に東海カーボン株式会社製#8500F カーボンブラック(平均粒子径14nm)を配合量10重量%混合して黒色顔料絵柄層を作成するインキを作成した。上述した黒色染料絵柄層上に、グラビア印刷により、厚さ3μmの黒色顔料絵柄層を作成した。
【0041】
さらに、黒色顔料絵柄層の上に、塩酢ビ系(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体)樹脂で接着層を作成し、転写シートを得た。
<加飾樹脂成形品の作成>
使用した成形樹脂はABS樹脂である。転写シートを射出成形金型内に配置し、射出成形により成形品を得た。さらに、活性エネルギー線を照射して、ハードコート層を硬化させた。
<色差の測定>
エックスライト株式会社製「528分光色彩濃度計」にて色差を測定した。測定値はL*a*b*表色系で表示した。色差の基準は黒色塗料を塗装した鋼板である。測定結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

黒色染料絵柄層を設けることにより、ΔL*の値が小さくなって、白色が減りより黒色に近くなっていることが分かる。同様に、Δb*の値がプラス側に振れていて、青色が減少していることが分かる。
【0043】
形成した黒色染料絵柄層に含まれる染料の総量が同じ場合には、黒色染料絵柄層の層厚さが厚いほうが、より黒色に近づいた。例えば、染料配合量15%の黒色染料絵柄層を層厚さ1μmで設けたもののΔL*値と、染料配合量7.5%の黒色染料絵柄層を層厚さ2μmで設けたもののΔL*値を比較すると、後者のΔL*の値が小さくなっていて、より黒色に近くなっている。
【実施例2】
【0044】
黒色染料絵柄層を作成するインキ中の染料配合量と黒色染料絵柄層の層数を変化させた転写シートを作成し、当該転写シートを使用して加飾樹脂成形品を製造し色差を測定した。
【0045】
転写シート及び加飾樹脂成形品の作成方法並びに色差の測定方法は実施例1と同じである。黒色染料絵柄層の層厚さは単一層あたり1μmであった。すなわち黒色染料絵柄層を1層設けた場合には黒色染料絵柄層の層厚さは1μmであり、黒色染料絵柄層を2層設けた場合には黒色染料絵柄層の層厚さは総計2μmであった。
【0046】
【表2】

【実施例3】
【0047】
黒色顔料絵柄層を作成するインキ中の顔料配合量を変化させた転写シートを作成し、当該転写シートを使用して加飾樹脂成形品を製造し色差を測定した。
<転写シートの作成>
作成した転写シートは実施例1と同様である。
【0048】
黒色染料絵柄層を作成するインキは、VALIFAST BLACK3804を10重量%混合したものである。層厚さは2μmとした。
【0049】
黒色顔料絵柄層を作成するインキ中のバインダーとカーボンブラックは実施例1と同じである。加飾樹脂成形品の作成方法と色差の測定方法も実施例1と同一である。
【0050】
測定結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【符号の説明】
【0052】
10 転写シート
11 基体シート
12 ハードコート層(剥離層)
13 黒色染料絵柄層
14 黒色顔料絵柄層
15 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シート上にカーボン顔料を含む絵柄層を形成した漆黒調転写シートにおいて、
基体シート上に、剥離層、黒色染料を含む絵柄層である黒色染料絵柄層、カーボン顔料を含む黒色顔料絵柄層と接着層を順に形成したものであり、
前記黒色染料は、単体の黒色染料又は複数の染料の混合物であって、前記混合物が人の目で見て黒色に見える混合物である転写シート。
【請求項2】
前記黒色染料絵柄層に含まれる黒色染料は単体であり、カラーインデックス名表記にあって、その効用が溶剤染料(Solvent)であり、色合いがブラック(Black)である黒色染料であることを特徴とする請求項1に記載した転写シート。
【請求項3】
前記黒色染料絵柄層は、黒色染料インキを用いて形成されたものであって、前記黒色染料インキは、固形分30%を含むバインダーの重量に対して、染料の重さが5.0重量%以上20.0重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載した転写シート。
【請求項4】
前記剥離層は、ハードコート層である請求項1乃至3いずれかに記載した転写シート。
【請求項5】
前記転写シートであって、黒色染料絵柄層を互いに接して複数設けた請求項1乃至4いずれかに記載した転写シート。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載した転写シートを用いて、成形同時加飾法により成形・加飾した加飾樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−212887(P2011−212887A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81338(P2010−81338)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】