説明

演算回路

【課題】回路面積を削減することができる演算回路を提供する。
【解決手段】演算回路は、信号の位相を反転し、帯域を制限する反転増幅回路1と、信号を加算する加算回路2と、を有し、反転増幅回路1を通過する前の信号と、反転増幅回路1を通過した後の信号と、を加算回路2で加算することで、反転増幅回路1の出力と、反転増幅回路1の特性と相補の関係にある特性を有する出力との両方を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ回路を有する演算回路に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全の早期発見を目的として、肺インピーダンスの測定が考案されている。肺インピーダンスの測定では、拍動毎に変化するインピーダンスと、数ヶ月という長期にわたって減少するインピーダンスとの両方を測定することが必要になる。一般的には、拍動毎に変化するインピーダンスは数Hzの信号であり、長期にわたって減少するインピーダンスはほぼ直流である。そのため、拍動毎に変化するインピーダンスと、長期にわたって減少するインピーダンスとを分離して検出するには、遮断周波数が1Hz以下の低域通過フィルタ(LPF)と高域通過フィルタ(HPF)が必要になる。
【0003】
肺インピーダンスを測定する方法として、特許文献1に記載されている方法が知られている。図4及び図5に、特許文献1で示されているインピーダンス測定回路の構成を示す。
【0004】
図4は、インピーダンス測定回路の全体構成を示している。図示のインピーダンス測定回路は、インピーダンス信号を検出する受信部13と、信号を分離する抽出部14と、数値演算を行う回帰直線算出部15と、演算結果に補正を加える固形組織由来インピーダンス推定部16と、拍出された血液量を計算する心拍出量算出部17と、肺動脈楔入圧を計算する肺動脈楔入圧算出部18と、で構成されている。
【0005】
測定対象であるインピーダンス信号は、受信部13に入力される。受信部13は、インピーダンス信号に演算増幅を行い、抽出部14に出力する。抽出部14は、図5で示されるように、低域通過フィルタ(LPF)14aと高域通過フィルタ(HPF)14bで構成されており、受信部13からの信号の高周波成分を心拍出量算出部17に、受信部13からの信号の低周波成分を肺動脈楔入圧算出部18に、受信部13からの信号の全ての周波数成分を回帰直線算出部15にそれぞれ出力する。
【0006】
回帰直線算出部15は、入力信号から回帰直線を計算し、固形組織由来インピーダンス推定部16に出力する。固定組織由来インピーダンス推定部16は、入力信号から心筋などの固定組織によるインピーダンスを推定し、心拍出量算出部17及び肺動脈楔入圧算出部18に出力する。心拍出量算出部17は、抽出部14及び固形組織由来インピーダンス推定部16からの信号から心拍出量を計算し、肺動脈楔入圧算出部18に出力する。肺動脈楔入圧算出部18は、抽出部14、固形組織由来インピーダンス推定部16、及び心拍出量算出部17からの信号から肺動脈楔入圧を計算する。
【0007】
このように、特許文献1で示されているインピーダンス測定回路は、インピーダンス信号を周波数成分毎に分離し、それぞれに信号処理を加えることで、心拍出量と肺動脈楔入圧の2つの情報を得ている。この2つの情報から、抹消循環不全と肺うっ血を正確に診断することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-168120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の構成では、抽出部14にHPFとLPFをそれぞれ配置しているため、数Hzという低い周波数を扱う回路においては、回路面積が非常に大きくなってしまう。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、回路面積を削減することができる演算回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、信号の位相を反転し、帯域を制限する反転型フィルタ回路と、信号を加算する加算回路と、を有し、前記反転型フィルタ回路を通過する前の信号と、前記反転型フィルタ回路を通過した後の信号と、を前記加算回路で加算することで、前記反転型フィルタ回路の出力と、前記反転型フィルタ回路の特性と相補の関係にある特性を有する出力との両方を得ることを特徴とする演算回路である。
【0012】
また、本発明の演算回路は、前記反転型フィルタ回路が、信号の位相を反転する反転回路と、帯域を制限するフィルタ回路とで構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の演算回路は、前記加算回路が増幅機能を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の演算回路は、前記反転型フィルタ回路が低域通過フィルタで構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の演算回路は、前記反転型フィルタ回路が高域通過フィルタで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、反転型フィルタ回路と加算回路とによって、遮断帯域と通過帯域が互いに相補の関係にある特性を有する2種類の出力を得ることが可能となるので、2種類のフィルタ回路を設ける場合よりも回路面積を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による演算回路の構成を示す回路図である。
【図2】本発明の一実施形態による演算回路の構成を示す回路図である。
【図3】本発明の一実施形態による演算回路の構成を示す回路図である。
【図4】従来のインピーダンス測定回路の構成を示すブロック図である。
【図5】従来のインピーダンス測定回路が有する抽出部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態による演算回路の構成を示している。図1に示す演算回路は、外部との接続端子として、信号入力端子Vin、低周波域出力端子Vout,LPF、高周波域出力端子Vout,HPF、第一の基準電圧端子Vref1、第二の基準電圧端子Vref2の5つの入出力端子を有し、LPF特性を持つ反転増幅回路1(反転型フィルタ回路)と、信号を加算する加算回路2とから構成されている。反転増幅回路1はオペアンプOP1と抵抗R1、R2とコンデンサC1とで構成されている。加算回路2はオペアンプOP2と抵抗R3、R4、R5とで構成されている。
【0019】
信号入力端子Vinは、抵抗R1の一端及び抵抗R4の一端に接続される。抵抗R1の他端は、オペアンプOP1の反転入力端子と抵抗R2の一端とコンデンサC1の一端に接続される。抵抗R2の他端及びコンデンサC1の他端は、オペアンプOP1の出力端子と抵抗R3の一端と低周波域出力端子Vout,LPFとに接続される。抵抗R3の他端は、抵抗R4の他端と抵抗R5の一端とオペアンプOP2の反転入力端子とに接続される。抵抗R5の他端はオペアンプOP2の出力端子及び高周波域出力端子Vout,HPFに接続される。オペアンプOP1の非反転入力端子は、第一の基準電圧端子Vref1に接続される。オペアンプOP2の非反転入力端子は、第二の基準電圧端子Vref2に接続される。
【0020】
上記の構成により反転増幅回路1は、信号の位相を反転し、帯域を制限するLPF特性を有する低域通過フィルタ回路として機能する。すなわち、反転増幅回路1は、以下の(1)式で表される遮断周波数fCよりも低い周波数の信号のみを通過させ、かつ信号の位相を反転させて出力する。また、反転増幅回路1の利得は以下の(2)式で表される。 (1)式及び(2)式において、コンデンサC1の容量値をC1とし、抵抗R1、R2の抵抗値をそれぞれR1、R2としている。
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
一方、上記の構成により加算回路2は、信号入力端子Vinを介して入力される信号と、LPF特性を持つ反転増幅回路1から出力された信号とを加算して出力する。この加算回路2の伝達関数は以下の(3)式で表される。(3)式において、抵抗R3、R4、R5の抵抗値をそれぞれR3、R4、R5とし、信号入力端子Vin、低周波域出力端子Vout,LPF、高周波域出力端子Vout,HPF、第二の基準電圧端子Vref2の電圧をそれぞれVout,LPF、Vout,HPF、Vref2としている。(3)式に示すように、抵抗R3と抵抗R5の比及び抵抗R4と抵抗R5の比によって、加算回路2における信号の増幅率を制御することができる。このように、加算回路2では、フィルタ機能に加え、信号増幅機能を得ることができる。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、R1=R2、R3=R4にすると低周波域出力端子Vout,LPFには、低周波域では信号入力端子Vinを介して入力される信号と同一の振幅を持ち、かつ位相が180度反転した信号が出力され、高周波域では減衰された信号が出力される。加算回路2では、反転増幅回路1から出力される信号と、信号入力端子Vinを介して入力される信号とが加算される。低周波域では振幅が同じで位相が反転している2つの信号の加算結果により出力信号はゼロになる。一方、高周波域ではLPF特性を持つ反転増幅回路1の出力信号は減衰されているため、信号入力端子Vinを介して入力される信号の位相を180度反転した信号が出力される。つまり、加算回路2は、高周波域の信号のみを出力するHPF特性を示すことになる。
【0026】
上述したように、図1に示す演算回路では、LPF特性を有する反転増幅回路1の出力と、反転増幅回路1のLPF特性と相補の関係にあるHPF特性を有する加算回路2の出力との両方を得ることができる。つまり、非常に大きな面積が必要となる、数Hzに遮断周波数を持つフィルタ回路を1つ用いるだけで、HPFとLPFの両方の出力を得ることができるため、特許文献1で示された2つのフィルタ回路を用いる回路に比べて、より小さな面積で同等の出力を得ることができる。
【0027】
ここで、単位面積当たりの容量が2fF/um2であり、単位面積当たりの抵抗が1kΩ/um2である半導体プロセスを用いた場合の面積を計算する。遮断周波数が1Hzのフィルタを形成するためには、以下の(4)式から、R=200MΩの抵抗とC=800pFの容量が必要になり、抵抗では200000um2の面積が、容量では400000um2の面積が必要となる。一方、オペアンプの面積は通常20000um2程度でよい。したがって、抵抗と容量を用いたフィルタを2つ形成することに比べて、フィルタ1つと加算回路1つで2種類のフィルタを構成することで、面積を大幅に小さくすることができる。
【0028】
【数4】

【0029】
なお、上記の図1を用いた説明では、加算回路に抵抗器を用いた加算反転増幅回路を用いているが、例えば、スイッチトキャパシタ回路など他の加算回路を用いてもよい。また、LPF特性を持つ反転増幅回路には、抵抗とコンデンサによる1次のLPFを用いているが、図2に示すように、LPF特性を有するフィルタ回路3と、信号の位相を180度反転させる反転増幅回路4(反転回路)とを組み合わせてもよく、また2次以上のLPFを用いても同様の効果が得られる。
【0030】
さらに、上記の図1を用いた説明では、LPF特性を持つ反転増幅回路と加算回路を用いているが、図3に示すように、HPF特性を持つ反転増幅回路5と加算回路2を用いても同様の効果を得ることができる。図3において、R1=R2、R3=R4にすると、高周波域出力端子Vout,HPFには、高周波域では信号入力端子Vinを介して入力される信号と同一の振幅を持ち、かつ位相が180度反転した信号が出力され、低周波域では減衰された信号が出力される。加算回路2では、反転増幅回路5から出力される信号と、信号入力端子Vinを介して入力される信号とが加算される。高周波域では振幅が同じで位相が反転している2つの信号の加算結果により出力信号はゼロになる。一方、低周波域ではHPF特性を持つ反転増幅回路5の出力信号は減衰されているため、信号入力端子Vinを介して入力される信号の位相を180度反転した信号が出力される。つまり、加算回路2は、低周波域の信号のみを出力するLPF特性を示すことになる。
【0031】
また、上記の図1を用いた説明では、2つの信号を加算する場合について説明したが、3つ以上の信号(例えば、LPF特性を持つ第一の反転増幅回路から出力される信号、HPF特性を持つ第二の反転増幅回路から出力される信号、及び全周波成分の信号)を加算することにより、図1の演算回路で得られる帯域とは帯域の異なるフィルタを構成することもできる。
【0032】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1,4,5・・・反転増幅回路、2・・・加算回路、3・・・フィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の位相を反転し、帯域を制限する反転型フィルタ回路と、
信号を加算する加算回路と、
を有し、
前記反転型フィルタ回路を通過する前の信号と、前記反転型フィルタ回路を通過した後の信号と、を前記加算回路で加算することで、前記反転型フィルタ回路の出力と、前記反転型フィルタ回路の特性と相補の関係にある特性を有する出力との両方を得ることを特徴とする演算回路。
【請求項2】
前記反転型フィルタ回路が、信号の位相を反転する反転回路と、帯域を制限するフィルタ回路とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の演算回路。
【請求項3】
前記加算回路が増幅機能を有することを特徴とする請求項1に記載の演算回路。
【請求項4】
前記反転型フィルタ回路が低域通過フィルタで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の演算回路。
【請求項5】
前記反転型フィルタ回路が高域通過フィルタで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の演算回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−56080(P2013−56080A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196882(P2011−196882)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】