説明

演算装置およびホログラムページデータ再生プログラム

【課題】2次元のビットデータを記録したホログラフィックメモリから誤り少なくデータを取り出す。
【解決手段】演算装置は、再生ページデータAのページ当たりの画素数をSLMに表示された元ページデータXの画素数よりも増大させた単純拡大画像Bを2次元波形信号として生成する画素数増大手段と、単純拡大画像Bと同一の画素数を有した比較用拡大画像XUを反復解法において変化させつつ当該画像XUが光学系の伝達関数Tによって変調されて歪んだ歪画像を示す2次元波形信号と、単純拡大画像Bを示す2次元波形信号と、の残差rを最小化する画像XUを算出する残差最小化手段と、残差rを最小化する画像XUのページ当たりの画素数をSLMに表示された元ページデータXの画素数と同一となるように減少させることで、元ページデータXとして推定される画像を最終出力xとして生成する画素数減少手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録再生装置に係り、特に、ホログラム記録媒体に記録されているデータを取り出す演算処理を行う演算装置およびホログラムページデータ再生プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィックメモリ記録システムでは、一般に、デジタルデータを担持した物体光を参照光と共にホログラム記録媒体に同時に照射し、ホログラム記録媒体(光記録媒体)中に干渉縞を書き込むことによって、デジタルデータを記録する。このようにデジタルデータが記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射すると、ホログラム記録媒体中に書き込まれた干渉縞により光の回折が生じて、物体光が担持していたデジタルデータを再生光として再生することができる。
【0003】
ここで、従来用いられているホログラフィックメモリ記録システムの一例について図1の一部の構成を参照しながら簡単に説明する。図1に示すホログラフィックメモリ記録システムでは、レーザ光源101から出力され、シャッタ102を通過したレーザ光(ここではS偏光(縦偏光))がハーフミラー103によって2系に分割される。このうち一方は参照光とされてミラー109、リレーレンズ113及び集光レンズ110を介しホログラム記録媒体108上に照射される。なお、2つのレンズからなるリレーレンズ113は、ミラー109の角度が変化した場合でも、参照光がホログラム記録媒体108の同一位置に照射されるように構成されている。また、2系に分割されたうちの他方のレーザ光は、シャッタ104を通過し、1/2波長板107によってP偏光(横偏光)に変換されてPBS(Polarizing Beam Splitter:偏光ビームスプリッタ)105を透過し、反射型液晶素子等からなるSLM(Spatial light modulator:空間光変調素子)106上に照射される。なお、PBS105は、P偏光を透過しS偏光を反射するように構成されている。
【0004】
SLM106は、データを白と黒のビットパターンによる2次元画像のデジタルデータ(2次元のビットデータ)に変調する。SLM106に照射された光は、SLM106の素子面に映出されたデジタルデータ(2次元のビットデータ)を担持されると共に、S偏光に変換されて反射され、物体光としてPBS105に戻る。ここで、S偏光への変換は、実際には、SLM106の白表示とされた素子からの光がS偏光に変換されることを意味する。そして、SLM106から戻った物体光は、PBS105により反射され、集光レンズ110を介してホログラム記録媒体108上に照射される。このようにしてホログラム記録媒体108上に照射された参照光と物体光は、いずれもS偏光とされているので、このホログラム記録媒体108上で干渉して干渉縞が形成され、この干渉縞がホログラム記録媒体108に書き込まれることになる。以上が記録時の流れである。
【0005】
一方、再生時には、シャッタ104を閉じることで、参照光のみをホログラム記録媒体108に照射する。これにより、書き込まれた干渉縞から生成される回折光(再生光)をレンズ111で平行光に戻し、これをCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の2次元撮像素子112により撮像することにより、デジタルデータが復元されることになる。このときのSLM106と2次元撮像素子112との位置ずれやピッチずれに関して、特許文献1に記載の技術では、基準信号を算出してビタビ検出を行っている。また、特許文献2に記載の技術では、直線的な補間による計算で位置ずれを計算している。さらに、特許文献3に記載の技術では、パーシャルレスポンスを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/114029号
【特許文献2】特開2007−141290号公報
【特許文献3】特開2007−317246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では、SLM106と2次元撮像素子112との画素ピッチの比(ピッチ比)が1に近づくほど、撮像素子での解像度分解(多重解像度分解)が困難になっていき、極端な場合、解像度分解が不可能になってしまう。例えば特許文献3に記載されたパーシャルレスポンスや、特許文献1に記載されたビタビ復号などのアナログ信号をサンプリングして信号を得る方式を用いると、解像度が足りず、正確な復号ができないといった課題があった。また、従来の方法では、SLM106と2次元撮像素子112との画素の位置ずれや画素ピッチずれがあった場合、誤り少なくデータを取り出すことは困難であった。
【0008】
ここで、SLMのピッチと2次元撮像素子のピッチとが異なる場合の問題として、ホログラフィックメモリ記録システムにおいて生じる信号波形の変化について図2を用いて説明する。SLM106で変調された光は、図1にて白と黒のデジタルデータで示すように2次元画像を示すが、図2では説明を簡単に行うため、1次元表示の画素群201で模式的に示す。この例では、画素群201は、図2に示すように左から3番目の画素と、左から5番目の画素とが白(例えば輝度値255)、他の画素が黒(例えば輝度値0)となっている。このときの画素の位置とその場所での輝度を示す信号波形は、矩形波形202となっている。この矩形波形202は、SLM106によって変調された画像データ(線)を示す。なお、この矩形波形202を並べた2次元波形信号は2次元画像データとなる。
【0009】
ホログラフィックメモリ記録システムにおいて、デジタルデータはSLM106の素子面に映出された時点では矩形波形202となっている。しかし、デジタルデータを担持してSLM106から戻った物体光は、レンズ等の光学系や媒体を通るため、再生後の波形は、光学系や媒体により高域成分がカットされ、歪んだ波形(歪波形203)となる。歪波形203は、低域通過フィルタ後の波形となる。
【0010】
再生時に、SLM106とは画素ピッチの異なる2次元撮像素子112を用いて歪波形203を撮像するときの撮像素子の画素を1次元表示の画素群204として模式的に示す。ここで、撮像素子の画素の開口率を100%としたときに撮像される波形とする。この例では、画素群204は、図2に示すように中心部の2つの隣り合った画素が白(例えば輝度値255)となっており、それらに隣接する他の画素は輝度が少し低下し、さらに、両端部において隣接する他の画素が黒(例えば輝度値0)となっている。このときの画素の位置とその場所での輝度を示す信号波形は、波形205となっている。この波形205は元の矩形波形202と形状が大きく異なるので、この状態では元の信号を推定することが難しくなる。
【0011】
図2の例では、SLM106の画素ピッチは画素群201で示され、2次元撮像素子112の画素ピッチは画素群204で示され、2次元撮像素子112の画素ピッチは、SLM106の画素ピッチの8割程度のものとして図示した。この割合は、従来、SLMに表示されたデジタルデータを、SLMの画素数の1倍より大きく2倍より小さい範囲の画素数の2次元撮像素子で撮像して、デコンボリューション・フィルタ等の補正をして、デジタル信号処理にて誤りを減らすことがなされていることを考慮したものである。
【0012】
図2に示すように、SLM106のピッチと、2次元撮像素子112のピッチとが異なる場合、サンプリング定理によれば、理想的には、2次元撮像素子112のピッチとしては、SLM106のピッチの半分以下(素子数で比較すると4倍以上)であれば、原信号を復元でき、誤りなくデータを取り出すことが可能である。しかしながら、このようにサンプリング定理を満たすような画素数の非常に多い2次元撮像素子を使用すると、2次元撮像素子112から後段の信号処理装置への転送速度が遅くなってしまう。そのため、たとえ画素数が少なく解像度が充分とは言えない2次元撮像素子を用いたとしても、誤り率が小さくなるようなホログラム記録再生方式が要望されている。
【0013】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、2次元のビットデータを記録したホログラフィックメモリから誤り少なくデータを取り出すことができる演算装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載の演算装置は、空間光変調素子に表示された白黒2値パターンのデジタルデータを示すページデータの物体光が所定の光学系を介して干渉縞として記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射したときに再生される再生光が2次元撮像素子によって撮像された再生ページデータに基づいて前記空間光変調素子に表示された元のページデータに対応した画像データを演算により推定する演算装置であって、画素数増大手段と、残差最小化手段と、画素数減少手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、演算装置は、画素数増大手段によって、前記再生ページデータの画素ピッチを縮小することでページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数よりも増大させた第1拡大画像データを2次元波形信号として生成する。そして、演算装置は、残差最小化手段によって、前記第1拡大画像データと同一の画像サイズを有した第2拡大画像データを所定の反復解法において変化させつつ当該第2拡大画像データが前記光学系によって変調されて歪んだ歪画像データを示す2次元波形信号と、前記第1拡大画像データを示す2次元波形信号と、の残差を最小化する前記第2拡大画像データを算出する。そして、演算装置は、画素数減少手段によって、前記残差を最小化する前記第2拡大画像データの画素ピッチを拡大してページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数と同一となるように減少させることで、前記元のページデータとして推定される画像データを生成する。
【0016】
また、請求項2に記載の演算装置は、請求項1に記載の演算装置において、前記画素数増大手段は、前記再生ページデータから前記第1拡大画像データを生成すると共に、前記反復解法における前記第2拡大画像データの初期値として前記再生ページデータの画素数を前記第1拡大画像データと同一の画素数にまで補間増大させた補間拡大画像データを2次元波形信号として生成し、前記残差最小化手段は、前記再生ページデータから生成された前記第1拡大画像データをB、前記第2拡大画像データをXU、前記光学系の伝達関数をT、ある画素の輝度sに対応してホログラム記録の変調符号に応じた重み関数をweight(s)としたときに下記式(3)で定義された残差rを最小化することで前記第2拡大画像データを2次元波形として算出することとした。
【数1】

【0017】
かかる構成によれば、演算装置は、空間光変調素子の変調信号は白黒のみの2値信号である点と光学系の伝達関数とを考慮に入れ、これらの関数を用いることで、再生され撮像された再生ページデータを拡大した第1拡大画像データと、推定に用いる第2拡大画像データに信号波形の歪みの寄与を加えた画像データとの残差を示す評価関数が最小となるように繰り返し演算を行い、残差を最小化する第2拡大画像データの画素数を元に戻した縮小画像を、元のページデータに対応する画像と推定することで、推定における誤り率の低減を図ることができる。
【0018】
また、請求項3に記載の演算装置は、請求項2に記載の演算装置において、前記重み関数は前記再生ページデータの画素階調の中間調における重みの値を1として、黒側および白側の階調における重みの値を1よりも低下させてなる階調の関数で表されることとした。
【0019】
かかる構成によれば、演算装置は、最小化させる残差の定義に用いられる重み関数によって、再生ページデータの輝度分布における黒と白との間の中間的な階調の寄与が大きくなり、残差を早く最小化させる。したがって、反復解法を早く収束させることができる。
【0020】
また、請求項4に記載の演算装置は、請求項3に記載の演算装置において、前記重み関数は、前記中間調以外の重みの値が、前記再生ページデータの輝度分布を表したヒストグラムの逆数を規格化した値であることとした。
【0021】
かかる構成によれば、演算装置は、最小化させる残差の定義に用いられる重み関数によって、再生ページデータの輝度分布における黒と白との間の中間的な階調の寄与が大きくなり、残差を早く最小化させる。したがって、反復解法を早く収束させることができる。
【0022】
また、請求項5に記載の演算装置は、請求項2に記載の演算装置において、前記画素数増大手段は、前記第1拡大画像データの画素数および前記補間拡大画像データの画素数を、前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数の整数倍に増大させることとした。
【0023】
かかる構成によれば、演算装置は、画素数増大手段によって、空間光変調素子に表示されたページデータの画素数を基準にして整数倍に拡大することで、空間光変調素子に表示されたページデータの画素数を実質的に増大させることができる。これにより、ピッチ比が1に近づいたり、画素ずれやピッチずれがあったりしても、再生時に撮像された信号波形から、記録時に光学系によって低域通過フィルタ後のように歪んだ歪波形に相当する波形信号を誤り少なく推定し易くなる。そのため、光学系の影響としての伝達関数の寄与を後段で除去することで、空間光変調素子に表示されたページデータの矩形波のデジタル信号が誤り少なく推定できる。
【0024】
また、請求項6に記載のホログラムページデータ再生プログラムは、空間光変調素子に表示された白黒2値パターンのデジタルデータを示すページデータの物体光が所定の光学系を介して干渉縞として記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射したときに再生される再生光が2次元撮像素子によって撮像された再生ページデータに基づいて前記空間光変調素子に表示された元のページデータに対応した画像データを演算により推定するために、コンピュータを、画素数増大手段、残差最小化手段、画素数減少手段として機能させるためのプログラムである。
【0025】
かかる構成によれば、ホログラムページデータ再生プログラムは、画素数増大手段によって、前記再生ページデータの画素ピッチを縮小することでページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数よりも増大させた第1拡大画像データを2次元波形信号として生成する。そして、ホログラムページデータ再生プログラムは、残差最小化手段によって、前記第1拡大画像データと同一の画像サイズを有した第2拡大画像データを所定の反復解法において変化させつつ当該第2拡大画像データが前記光学系によって変調されて歪んだ歪画像データを示す2次元波形信号と、前記第1拡大画像データを示す2次元波形信号と、の残差を最小化する前記第2拡大画像データを算出する。そして、ホログラムページデータ再生プログラムは、画素数減少手段によって、前記残差を最小化する前記第2拡大画像データの画素ピッチを拡大してページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数と同一となるように減少させることで、前記元のページデータとして推定される画像データを生成する。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の発明によれば、演算装置は、空間光変調素子の画素ピッチと2次元撮像素子のピッチとが1対1であっても、2次元撮像素子の実質的な画素数を上げて計算することにより、サンプリングずれや位置ずれを補正することで誤り率を下げることができる。
請求項2に記載の発明によれば、演算装置は、空間光変調素子の変調信号が白黒のみの2値信号である点と光学系の伝達関数とを考慮に入れた評価関数を用いることで、誤り率を効果的に低減することができる。
請求項3または請求項4に記載の発明によれば、演算装置は、反復解法を早く収束させることができる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば、演算装置は、ピッチ比が1に近づいたり、画素ずれやピッチずれがあったりしても、空間光変調素子に表示されたページデータの画素数を実質的に増大させることで誤り率を下げることができる。
請求項6に記載の発明によれば、ホログラムページデータ再生プログラムは、空間光変調素子の画素ピッチと2次元撮像素子のピッチとが1対1であっても、2次元撮像素子の実質的な画素数を上げて計算することにより、サンプリングずれや位置ずれを補正することで誤り率を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る演算装置を含むホログラム記録再生装置の構成を模式的に示す概念図である。
【図2】従来のホログラム記録時における信号波形およびデータ再生時における信号波形の一例を模式的に示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る演算装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】図3に示す重み関数の一例を示すグラフである。
【図5】図3に示す再生ページデータから求めた輝度分布を表したヒストグラムの一例を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る演算装置を含むホログラム記録再生装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係る演算装置の処理の流れを画像と共に模式的に示す概念図である。
【図8】本発明の実施形態に係る演算装置において反復解法にて実行する演算の処理手順の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る演算装置の性能を確かめる実験で用いたページデータを示す画像であって、(a)は元ページデータ、(b)は再生ページデータ、(c)は最終出力の推定ページデータを示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の演算装置を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面に示される部材等のサイズや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0030】
[1.ホログラム記録再生装置の概要]
ホログラム記録再生装置の概要について図1および図7を参照して説明する。
図1に示すホログラム記録再生装置100は、一般的なホログラフィックメモリ記録システムと、演算装置114とを備えている。演算装置114以外の一般的なホログラフィックメモリ記録システムの構成要素は、既に説明した通りであるから説明を適宜省略する。
【0031】
ホログラム記録再生装置100は、データを白黒に変調するSLM106と、CMOSやCCDといったデータを撮像する2次元撮像素子112との画素ずれや画素ピッチずれがあった場合でも、演算装置114の演算処理により正確にデータを読むことができる。
以下では、SLM106に表示された白黒2値パターンのデジタルデータをページデータとも呼ぶ。図7にページデータの一例を元ページデータXとして図示した。
【0032】
ページデータを担持してSLM106から戻った物体光は、例えば図1に具体的に示す所定の光学系を介してホログラム記録媒体108に干渉縞として記録されている。なお、光学系は、図7に一般化して光学系710として示すように、図1の形態に限定されるものではない。
【0033】
再生時、ホログラム記録媒体108に参照光を照射したときに再生される再生光が2次元撮像素子112によって撮像される。2次元撮像素子112によって撮像され、演算装置114が取得する2次元画像の輝度信号を再生ページデータAという。図7に示す再生ページデータAは、元ページデータXに比べて、白黒がぼやけている。なお、以下では、画像データのことを単に画像と表記して説明する。
【0034】
演算装置114は、再生ページデータAに基づいてSLM106に表示された元ページデータXに対応した最終出力画像(推定ページデータ)を演算により推定するものである。演算装置114では、高速データ転送を考慮して、サンプリング定理を満たすような画素数の多い2次元撮像素子を使用することなく、なるべく少ない画素数の2次元撮像素子112で、SLM106のデジタルデータを精度よく取得することとした。図7に最終出力画像の一例を最終出力xとして示した。なお、異なる画像の符号として文字エックスの小文字と大文字とを区別して用いる。演算装置114の構成例については図3に示すが、その構成を説明する前に演算処理の概要について以下、数式および図面を適宜参照して説明する。
【0035】
[2.演算処理の概要]
図7に示す元ページデータX(記録再生したい入力画像)はSLM106によって変調されたものであるが、この信号は、前記したように光学系や媒体により高域成分がカットされ、再生ページデータAにおいては、歪んだ波形となっている。例えば図1に示すホログラフィックメモリ記録システムの伝達関数をTとし、このシステムのノイズの影響をNとすると、このときの関係式は式(1)で表すことができる。
【0036】
【数2】

【0037】
図1のホログラム記録再生装置100などの記録装置では、入力信号と出力信号との比、つまり入出力特性を測定可能なので、事前に系(システム)の伝達関数を測定することができる。システムの伝達関数は、装置、媒体の種類が決まれば、これらに依存せず、光学系がどうなっているかによって自ずと決まるので、光学系の伝達関数と同義である。つまり、式(1)において、システムの伝達関数Tは既知とすることができる。
【0038】
なお、測定された伝達関数には、既にノイズが加わっているので、厳密には系の真の伝達関数は求まらない。測定された伝達関数は推定値であり、演算にはこの推定値を用いる。図7ではこの厳密な区別を考慮し、真の伝達関数をTと表記し、演算に用いる伝達関数をT^(ハット:記号を本明細書では直前文字の右に記したが、直前の文字の上側に配置される)と表記した(図7参照)。なお、図7に伝達関数T^の一例として矩形の黒画像の中心に白の点状の小領域を有する画像を図示する。
もしも真の伝達関数Tが求まっていると、逆フーリエ変換により解(信号)を求めることが可能だが、真の伝達関数Tが求まらず、そこにノイズが加わった状態の推定値が測定により求まるので、伝達関数T^を逆フーリエ変換すると、解が一般的には求まらずに発散解となる。よって、反復解法により解を求めることになる。以下では、測定された伝達関数を単に伝達関数Tと表記する。
【0039】
ここで、前記した式(1)の未知の元ページデータXを求める方法には2通りある。
第1の方法は、再生ページデータAから、伝達関数Tを用いて、デコンボリューションを行う方法である。しかし、第1の方法では、多くの場合、解が得られない。
第2の方法は
【数3】

(残差)を最小とするX(未知の元ページデータ)を求める方法である。この第2の方法を用いることで、未知の元ページデータXを求めることができるが、再生ページデータAには、充分な解像度がないため、これを求めるのが非常に難しい。
【0040】
そこで、本実施形態では、再生ページデータAをアップコンバートしてから計算を行うこととした。アップコンバートは、画素数を拡大する変換である。ここで、例えば一次元4倍拡大(画素数42倍拡大)とは、元の画像が128×128画素であれば、512×512画素の画像にすることを指し、画像の表示サイズが一定で変わらずに画素ピッチが1/4になることを意味する。また、例えば一次元2倍拡大とは、例えばこれまで画素ピッチ5μmで撮っていたとしたら、セクタライズにより、画素ピッチ2.5μmで撮ることを意味し、画素数を単位とすると「拡大」になる。なお、ディスプレイのように画素ピッチが一定で変わらないモニタに表示された画像の場合、その表示サイズは文字通り拡大する。
【0041】
再生ページデータAをそのまま拡大した画像を単純拡大画像B(第1拡大画像データ)と規定する。また、未知の元ページデータXの推定画像も同様に拡大したものとして計算を行う。ここで、SLM画像である未知の元ページデータXをアップコンバートしたものと仮定した画像を比較用拡大画像XU(第2拡大画像データ)とする。この画素数を拡大した拡大画像の場合、前記した式(1)の関係式を、次の式(2)の関係式に書き換えることができる。
【0042】
【数4】

【0043】
この比較用拡大画像XUを求めるために、前記した2通りの方法のうち第2の方法を用いる場合、
【数5】

(残差)を最小とするXU(比較用拡大画像)を求めればよい。
【0044】
この解を求める手法は、反復解法として、例えば、共役勾配法、一般共役残差法、最小二乗近似、などが利用できる。ただし、これらの手法では解が一意ではないので、より制限を課す必要がある。本実施形態では、ホログラム記録において記録するデータが「0」,「1」の2値信号であるため、この制約を課すことができる。つまり、SLM106の変調信号は白黒のみの2値信号であるという条件を用いる。
【0045】
また、本実施形態では、予め定められた重み関数として、再生ページデータAであるカメラ画像の強度分布(ヒストグラム)の各強度の逆数を基にした重み関数を利用する。
再生ページデータAの強度分布は、具体的には、カメラ画像の各画素の画素値として輝度値を用いたときには輝度分布を表す。
【0046】
前記した式(2)に、ある画素の輝度sに対応した重み関数weight(s)を適用したときに、反復解法で解くための残差rを次の式(3)で定義する。ここで、Bは単純拡大画像、XUは比較用拡大画像、Tは伝達関数を示す。
【0047】
【数6】

【0048】
この式(3)を反復解法で解いていく。この解法の場合、解の初期値として、近似解を導入することにより、解法が速くなる。そこで、初期値として、再生ページデータAを、所定の画像補間法により、単純拡大画像Bと同一の画素数(同一の画像サイズ)にまで補間増大させて拡大した画像(補間拡大画像C)を導入する。ここで、画像補間法は、精度のよい補間が可能な従来公知の方法、例えば、バイキュービック法(Bi-Cubic)やバイリニア法(Bi-linear)等を用いることができる。
【0049】
そして、式(3)の残差rを最小化するXU(比較用拡大画像)を求め、そのXUを、SLM106に表示された元ページデータXと同じ大きさにまでダウンコンバートした最終出力xを推定ページデータとして出力する。
【0050】
[3.演算装置の構成]
演算装置114の構成について図3を参照して説明する。
演算装置114は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力インタフェース等を備え、図3に示すように、入出力手段10と、記憶手段20と、処理手段30とを備えている。
【0051】
入出力手段10は、2次元撮像素子112で撮像された再生ページデータAの輝度信号を入力する入力インタフェースや、処理手段30により推定された推定ページデータである最終出力xの輝度信号を出力装置115等に出力する出力インタフェースを備えている。なお、出力装置115は、例えば液晶ディスプレイ、ディスクドライブ装置、プリンタ等を用いることができる。
【0052】
記憶手段20は、処理手段30による演算処理動作を実行するためのプログラム21や予め決定されたパラメータを記憶するメモリ領域や、演算処理過程で一時的にデータを記憶するメモリ領域を備える。
【0053】
予め決定されたパラメータとは、伝達関数Tや重み関数weightを含む。伝達関数Tは測定により推定することができる。重み関数weightは、前記した式(3)の残差rを算出するために用いる。
【0054】
演算処理過程で一時的に記憶するデータとは、再生ページデータA、単純拡大画像B(第1拡大画像データ)、比較用拡大画像XU(第2拡大画像データ)、残差rを含む。
再生ページデータAおよび単純拡大画像Bの例を図7に示す。
また、比較用拡大画像XUの初期値として、補間拡大画像C(補間拡大画像データ)の例を図7に示す。比較用拡大画像XUは、単純拡大画像Bと同一の画像サイズを有している。
【0055】
処理手段30は、画素数増大手段31と、残差最小化手段32と、画素数減少手段33とを備え、図7の2次元波形推定720を実行する。
【0056】
<画素数増大手段>
画素数増大手段31は、再生ページデータAの画素ピッチを縮小することでページ当たりの画素数をSLM106に表示された元ページデータXの画素数よりも増大させた単純拡大画像Bを2次元波形信号として生成するものである。この処理を単純拡大と呼ぶ。再生ページデータAの縦横をa倍する単純拡大721により生成された単純拡大画像Bの例を図7に示す。拡大率aは1より大きな実数を示す。例えば、元ページデータXのピッチが10.4μm、再生ページデータAのピッチが7.4μm、拡大後の画素ピッチを2.6μmと設定している場合、拡大率a=2.85である。
【0057】
本実施形態では、画素数増大手段31は、再生ページデータAから単純拡大画像Bを生成すると共に、比較用拡大画像XUの初期値(補間拡大画像C)を2次元波形信号として生成することとした。ここで、補間拡大画像Cとは、再生ページデータAの画素数を単純拡大画像Bと同一の画素数にまで補間増大させた画像である。再生ページデータAにBi-Cubic拡大722の処理を施して生成した補間拡大画像Cの例を図7に示す。
【0058】
また、本実施形態では、画素数増大手段31は、単純拡大画像Bの画素数および補間拡大画像Cの画素数を、SLM106に表示された元ページデータXの画素数の整数倍に増大させることとした。
【0059】
未知の元ページデータX(SLM画像)と、再生ページデータA(2次元撮像素子による撮像データ)とでは、サンプリングのピッチが異なることが多い。そこで、本実施形態では、アップコンバートするときに、未知の元ページデータX(SLM画像)のピッチの約数で計算できるように画素数を拡大する。例えば、元ページデータXのピッチが10.4μm、再生ページデータAのピッチが7.4μmの場合、SLM画像である元ページデータXのピッチの値を割り切ることができる整数(例えば4)を用いたときの商(この場合2.6μm=10.4/4)を、拡大後の画素ピッチとして設定する。そして、再生ページデータAの1画素の領域を2.852[=(7.4/2.6)2]画素に分割することで、単純拡大画像Bを生成する。この場合、SLM画像であるXの1画素の領域を42[=(10.4/2.6)2]画素に分割することに相当する。これらの作業により、ピッチずれを補正することができる。
【0060】
なお、単純拡大画像Bの画素数および補間拡大画像Cの画素数は、2次元撮像素子112で撮像された再生ページデータAの画素数の整数倍になるとは限らない。その理由は、一般的に、SLM106の画素数よりも2次元撮像素子112の画素数の方が多く、また整数倍になっているとは限らないからである。
【0061】
画素数増大手段31は、2次元撮像素子112に撮像された再生ページデータAにおける歪んだ信号(図2の波形205に相当する信号)をデジタル化することで、単純拡大画像Bを生成する。図2の1次元表示の例の画素群(6画素)を例えば4倍拡大すると、24画素となる。ピッチ比が1に近づいたり、画素ずれやピッチずれがあったりしても、実質的な画素数の増大により、図2の波形205に相当する信号から、図2の低域通過フィルタ後のように歪んだ歪波形203に相当する信号が誤り少なく推定し易くなる。結果、光学系710の影響としての伝達関数Tの寄与を後段で除去することで、SLM106に表示された元ページデータXの矩形波のデジタル信号(図2の矩形波形202)を誤り少なく推定できる。
【0062】
従来は、SLMに表示されたデジタルデータを、SLMの画素数より多い画素数の2次元撮像素子で撮像して、デコンボリューション・フィルタ等の補正をして、デジタル信号処理にて誤りを減らすことがなされているが、2次元撮像素子112の画素を基準にしているため、解像度は2次元撮像素子112の実際の画素数で制限されている。
一方、SLM106に表示されたデジタルデータ(ページデータ)を担持した物体光は光学系や媒体の影響を受けて信号波形が歪んで、アナログ信号的な性質を持ったままホログラム記録媒体108に記録される。また、2次元撮像素子112に撮像される再生光もアナログ信号的な性質を持っている。
画素数増大手段31は、SLM106に表示された元ページデータXの画素数を基準にして整数倍に拡大するようにデジタル化するので、SLM106に表示された元ページデータXの画素数を実質的に増大させることができる。
【0063】
<残差最小化手段>
残差最小化手段32は、比較用拡大画像XUを所定の反復解法(図7に示す反復解法724)において変化させつつ当該比較用拡大画像XUが光学系によって変調されて歪んだ歪画像データを示す2次元波形信号と、単純拡大画像Bを示す2次元波形信号と、の残差を最小化する比較用拡大画像XUを算出するものである。
この残差最小化手段32が図7に示す反復解法724において行う各種の処理を図7では処理723で代表させている。処理723は、反復解法の種類に応じて適宜設計変更される。なお、一例として一般共役残差法を用いた場合のプログラムについて後記する。
本実施形態では、残差最小化手段32は、反復解法の種別によらず、前記式(3)で定義された残差rを最小化する比較用拡大画像XUを2次元波形として算出する。
【0064】
前記式(3)において、重み関数weightは、ホログラム記録の変調符号に応じて予め定められている。つまり、重み関数には、元の符号の発生確率も導入している。
ホログラム記録では、符号の変調方式として、例えば4つの画素(2×2)のうち、1つを白にして、後の残りを黒にするといった変調符号方式が使われる。この場合、4画素(4bit)で白の位置の取り方を4通り(=2bit)に変調するので、2−4変調方式とも呼ばれる。
【0065】
同様に、例えば9つの画素(3×3)のうち、2つを白にして、後の残りを黒にするといった変調符号方式の場合、9画素(9bit)で2つの白の位置の組み合わせ方(コンビネーション)は92=36通りである。このうちの25(=32)通り(5bit)を使うので、5−9変調方式という。これらの変調方式では、必ず、白の数(割合)が決まっている。つまり、2−4変調方式では、白は1個選ぶので白:黒=1:3の割合となり、5−9変調方式では、白を2個選ぶので白:黒=2:7の割合となる。
【0066】
本実施形態では、変調方式でのこの特徴を利用し、重み関数を決めた。
5−9変調を用いた場合の重み関数の一例を図4に示す。図4のグラフの横軸は、8bitの場合の画素階調Sを示し、縦軸は重み(重み関数weight(S))を示す。なお、ここでは、画素の輝度sのうち、一例として8bit再生の場合のときの階調(0〜255の数値のいずれか)を記号Sで表記し、画素の輝度sと区別して表記した。
【0067】
5−9変調では、前記したように白:黒=2:7なので、頻度分布は理論的には白(画素階調S=255)の頻度と黒(画素階調S=0)の頻度との比が2:7となるので、重み関数は、理論的には黒の部分の重みと白の部分の重みとの比が2:7になる。なお、図4に示す重み関数の例の場合、理論値よりも白の部分の重みが大きくなっている。
また、5−9変調では、理論的には白と黒との間(画素階調S=1〜254)の頻度が0となる。この場合、厳密には頻度分布(ヒストグラム)の各頻度の逆数をとろうとすると、白と黒との間では割り算が実行できない。そこで、中間調(8bit再生の場合は全256階調で中間の128番目:画素階調S=127)で重み関数の値を1としている(図4参照)。
【0068】
つまり、本実施形態では、重み関数weightは、再生ページデータAのグレースケールの中間調における重みの値を1として、黒側および白側の階調における重みの値を1よりも低下させてなる階調の関数で表されることとした。また、重み関数は、中間調以外の重みの値が、再生ページデータAの輝度分布を表したヒストグラムの逆数を規格化した値であることとした。
【0069】
再生ページデータAであるカメラ画像の再生強度の頻度分布(ヒストグラム)の一例を図5に示す。図5のグラフの横軸は、8bitの場合の画素階調Sを示し、縦軸は画素数を示す。図5に示すヒストグラムの例は、ホログラム記録媒体108からの再生像から作成した。
【0070】
図5に示すように、画素階調S=17近辺の画素数が非常に大きくなった急峻なピークが存在している。これは、5−9変調の理想的な黒(画素階調S=0)の強度が撮像素子のノイズ(CCDの暗電流ノイズ等)に起因して輝度の高い側にシフトしたものである。
【0071】
図5に示すように、画素階調S=83近辺の画素数が大きくなった緩慢なピークが存在している。これは、5−9変調の理想的な白(画素階調S=255)の強度が、撮影したときの光量に起因して輝度の低い側にシフトしたものである。なお、この緩やかなピークでは、画素階調S=200より大きい範囲であっても白のデータの画素数が数十〜100程度存在した。
【0072】
図5に示すように、画素階調S=37近辺に2つのピークの間の谷が存在している。ただし、これらの数値は一例であって、1つ目のピークとなるときの画素階調Sの値が約15、2つ目のピークとなるときの値が約230〜240、谷となるときの値が128であってもよい。なお、図4に示す重み関数は、図5に示すヒストグラムから作成したものではない。
【0073】
<画素数減少手段>
画素数減少手段33は、残差を最小化する比較用拡大画像XUの画素ピッチを拡大してページ当たりの画素数をSLM106に表示された元ページデータXの画素数と同一となるように減少させることで、最終出力xを、元ページデータXに対応した推定ページデータとして生成するものである。このダウンコンバートでは、例えば最近傍法(Nearest neighbor)やbi-cubic、Bi-Linear、面積分など様々な方法をとることができる。
【0074】
画素数減少手段33は、図7に示すように、残差rが最小のときのXUの画像の縦横を1/b倍する縮小(リサンプル)725により最終出力xを生成する。ここで、bは1より大きな実数を示す。例えば、元ページデータXの画素ピッチが10.4μm、再生ページデータAの画素ピッチが7.4μm、拡大後の画素ピッチを2.6μmと設定している場合、拡大率aは2.85であるが、縮小率1/bは0.25となる(b=4)。なお、ホログラム記録再生装置100を組んだときに、CCDやCMOS等の2次元撮像素子112のピッチが決まるので、拡大率aや縮小率1/bもこのとき決まる。
【0075】
[4.ホログラム記録装置の動作の流れ]
ホログラム記録装置100の動作の流れについて図6に示すフローチャートを参照(適宜図1、図3および図7参照)して説明する。なお、記録動作については、既に説明したホログラフィックメモリ記録システムにおける記録動作と同じなので説明を省略する。
再生時には、ホログラム記録再生装置100において、レーザ光源101から出力されたレーザ光(参照光)は、光学系を介してホログラム記録媒体108に照射される(ステップS1)。これにより、ホログラム記録媒体108から再生光が再生される。そして、2次元撮像素子112は、再生光を撮像する(ステップS2)。
【0076】
演算装置114には、入出力手段10を介して、撮像された再生ページデータAの輝度信号が入力される(ステップS3)。この再生ページデータAは、記憶手段20に格納される。
【0077】
演算装置114は、画素数増大手段31によって、再生ページデータAの画素ピッチを縮小することで単純拡大画像Bを生成する(ステップS4)。この単純拡大画像Bのデータは、記憶手段20に格納される。
【0078】
演算装置114は、画素数増大手段31によって、比較用拡大画像XUの初期値として補間拡大画像Cを生成する(ステップS5)。この補間拡大画像Cのデータは、比較用拡大画像XUの初期値として記憶手段20に格納される。
【0079】
演算装置114は、残差最小化手段32によって、前記した式(3)に基づいて残差rを算出し(ステップS6)、現在の残差rのノルムが最小になったか否かを判別する(ステップS7)。残差rのノルムが最小になっていない場合(ステップS7:No)、残差最小化手段32は、例えば一般共役残差法により構築されたプログラムを利用して比較用拡大画像XUを更新し(ステップS8)、ステップS6に戻る。
【0080】
一方、ステップS7において、残差rのノルムが最小になった場合(ステップS7:Yes)、演算装置114は、画素数減少手段33によって、比較用拡大画像XUの画素ピッチを拡大することで現在の比較用拡大画像XUを縮小し(ステップS9)、入出力手段10を介して、縮小した画像である最終出力xを推定ページデータとして出力装置115に出力する(ステップS10)。
【0081】
[5.一般共役残差法により構築されたプログラム例]
演算装置114の残差最小化手段32(特に図7の処理723)が反復解法として用いる一般共役残差法により構築されたプログラムについて図8を参照(適宜図7参照)して説明する。一般共役残差法のプログラム例を図8に示す。図8において、ベクトルマーク(矢印)が付いている記号(XU,r,p,q,T,φ)は、2次元のアップコンバートした画素数を持つマトリックスを示す。このマークがない記号(α、β)はスカラーを示す。nは、反復回数を示し、n=0は反復をしていない初期値を表す。
【0082】
r(ここではベクトルマークを省略する)は残差を示し、その初期値は行802に示すようにXUの初期値XU(0)を用いて前記した式(3)で算出される。残差についての漸化式による定義式は行807に示す。
共役残差法では、式(3)のrを単純にそのまま求めるのではなく、α,βなどを使いながら、式(3)のrとして図8のr(n)を求めていく。
【0083】
p(ここではベクトルマークを省略する)の初期値は残差の初期値と等しく、その漸化式による定義式は行810に示す。
q(ここではベクトルマークを省略する)の定義式は行804に示す。
αの定義式は行805に示す。βの定義式は行809に示す。
φ(ここではベクトルマークを省略する)の定義式は行808に示す。
XU(ここではベクトルマークを省略する)は比較用拡大画像を示し、その初期値は行801に示すように補間拡大画像Cである。XUについての漸化式による定義式は行806に示す。
T(ここではベクトルマークを省略する)は伝達関数を示す。
wightは重み関数を示す。normは残差のノルムを返す関数である。
【数7】

【0084】
図7に示す処理723は、図8のプログラムの行803と812との間(for〜endの中)で、1回目には、n=0の処理、2回目には、n=1の処理というように順次実行する。このとき、図8のプログラムでは省略したが、2回目以降(n=1の処理以降)には、図7に示す処理723は、評価値が最小になったか否かを判別する判別処理も実行する。この判別処理は、nを更新するたびに毎回実行することが望ましい。
【0085】
なお、計算機のリソースを考慮して、予め決まった回数を必ず行い、その中の最小値を探索するように構成することも可能である。特に、毎回異なる回数で収束し、FPGA(Field Programmable Gate Array)を使い計算する場合、判定にリソースを使用する場合がある。そのような場合には、ある決まったn回の計算を行い、その中の最小値を選ぶといった手法(判別処理を1回だけ行う方法)をとることがある。
【0086】
本発明の効果を確認するために、前記した図6に示す計算アルゴリズムを用い、残差rの計算手法として一般共役残差法を用いた場合(図8参照)の実験結果を図9に示す。
図9(a)は、演算装置114にとっては未知の元ページデータXを示す。図9(a)に示すように、元画像は、SLM106に表示した0,1データである。
図9(b)は、図1のホログラム記録再生装置100によって実際にホログラム記録を行ったホログラム記録媒体108から再生され、2次元撮像素子112により撮像された再生ページデータA(再生画像)である。この再生ページデータAは、演算装置114に入力されたデータである。
図9(c)は、図9(b)に示す再生ページデータAに基づいて、図6に示すアルゴリズムを用い演算装置114に計算させた出力結果である。すなわち、元ページデータXに対応した最終出力画像を示す推定ページデータ(図7の最終出力xに相当する)を示す。
【0087】
図9(b)に示す再生ページデータAでは、図9(a)に示す元ページデータXと比較して明らかなように、輝度がやや分散されていることが分かる。この再生ページデータAにおける誤り率は2.2×10-2であった。
【0088】
一方、演算装置114が図6に示すアルゴリズムを用い計算した結果である推定ページデータは、図9(c)に示すように、輝度の分散が小さく、エッジの波形も立っていることが分かる。このときの誤り率は7.0×10-3であった。この数値は、本アルゴリズムの適用前(図9(b)に示す再生ページデータA)から誤り率で1/3に減少していることが分かる。また、誤り率が10-3のオーダーであることから充分誤り訂正可能であると言える。
【0089】
以上説明したように、本実施形態の演算装置によれば、解像度が充分ではない2次元撮像素子でもSLMで変調したデータを誤り少なく取り出すことができる。したがって、2次元撮像素子とSLMのピッチ比や光学系の歪みを気にすることなく、媒体に記録されたデータを読み出すことが可能である。
【0090】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、演算装置114の画素数増大手段31は、SLM106に表示された元ページデータXの縦横それぞれの画素数を基準にして、4倍(4=10.4μm/2.6μm)になるように拡大後の画素ピッチ(2.6μm)を決定するものとしたが、適宜他の整数(2,3または5,6,7,…)倍にしてもよい。例えば4よりも小さくすると解像度が低下し、8以上に大きくすると計算処理負荷が増加することもあるので、例えば解像度と処理負荷といったトレードオフの関係等を考慮して適宜設計変更すればよい。
【0091】
また、演算装置は、一般的なコンピュータを、前記した画素数増大手段31、残差最小化手段32、画素数減少手段33として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラム(ホログラムページデータ再生プログラム)は、通信回線を介して配布することも可能であるし、DVDやCD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、大容量のアーカイブメモリ用ホログラフィックメモリに使用できる。
【符号の説明】
【0093】
10 入出力手段
20 記憶手段
21 プログラム
30 処理手段
31 画素数増大手段
32 残差最小化手段
33 画素数減少手段
100 ホログラム記録再生装置
101 レーザ光源
102,104 シャッタ
103 ハーフミラー
105 PBS(偏光ビームスプリッタ)
106 SLM(空間光変調素子)
107 1/2波長板
108 ホログラム記録媒体
109 ミラー
110 集光レンズ
111 レンズ
112 2次元撮像素子
113 リレーレンズ
114 演算装置
115 出力装置
201 SLM(空間光変調素子)の画素群
202 矩形波形
203 再生後(低域通過フィルタ後)の波形
204 撮像素子の画素群
205 撮像後の波形
710 光学系
720 2次元波形推定
721 単純拡大
722 Bi−cubic拡大
723 処理
724 反復解法
725 縮小
A 再生ページデータ
B 単純拡大画像(第1拡大画像データ)
C 補間拡大画像(補間拡大画像データ)
X 元ページデータ
XU 比較用拡大画像(第2拡大画像データ)
x 最終出力(推定ページデータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間光変調素子に表示された白黒2値パターンのデジタルデータを示すページデータの物体光が所定の光学系を介して干渉縞として記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射したときに再生される再生光が2次元撮像素子によって撮像された再生ページデータに基づいて前記空間光変調素子に表示された元のページデータに対応した画像データを演算により推定する演算装置であって、
前記再生ページデータの画素ピッチを縮小することでページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数よりも増大させた第1拡大画像データを2次元波形信号として生成する画素数増大手段と、
前記第1拡大画像データと同一の画像サイズを有した第2拡大画像データを所定の反復解法において変化させつつ当該第2拡大画像データが前記光学系によって変調されて歪んだ歪画像データを示す2次元波形信号と、前記第1拡大画像データを示す2次元波形信号と、の残差を最小化する前記第2拡大画像データを算出する残差最小化手段と、
前記残差を最小化する前記第2拡大画像データの画素ピッチを拡大してページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数と同一となるように減少させることで、前記元のページデータとして推定される画像データを生成する画素数減少手段とを備えることを特徴とする演算装置。
【請求項2】
前記画素数増大手段は、
前記再生ページデータから前記第1拡大画像データを生成すると共に、前記反復解法における前記第2拡大画像データの初期値として前記再生ページデータの画素数を前記第1拡大画像データと同一の画素数にまで補間増大させた補間拡大画像データを2次元波形信号として生成し、
前記残差最小化手段は、
前記再生ページデータから生成された前記第1拡大画像データをB、前記第2拡大画像データをXU、前記光学系の伝達関数をT、ある画素の輝度sに対応してホログラム記録の変調符号に応じた重み関数をweight(s)としたときに下記式(3)で定義された残差rを最小化することで前記第2拡大画像データを2次元波形として算出することを特徴とする請求項1に記載の演算装置。
【数1】

【請求項3】
前記重み関数は前記再生ページデータの画素階調の中間調における重みの値を1として、黒側および白側の階調における重みの値を1よりも低下させてなる階調の関数で表されることを特徴とする請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
前記重み関数は、前記中間調以外の重みの値が、前記再生ページデータの輝度分布を表したヒストグラムの逆数を規格化した値であることを特徴とする請求項3に記載の演算装置。
【請求項5】
前記画素数増大手段は、前記第1拡大画像データの画素数および前記補間拡大画像データの画素数を、前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数の整数倍に増大させることを特徴とする請求項2に記載の演算装置。
【請求項6】
空間光変調素子に表示された白黒2値パターンのデジタルデータを示すページデータの物体光が所定の光学系を介して干渉縞として記録されたホログラム記録媒体に参照光を照射したときに再生される再生光が2次元撮像素子によって撮像された再生ページデータに基づいて前記空間光変調素子に表示された元のページデータに対応した画像データを演算により推定するために、コンピュータを、
前記再生ページデータの画素ピッチを縮小することでページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数よりも増大させた第1拡大画像データを2次元波形信号として生成する画素数増大手段、
前記第1拡大画像データと同一の画像サイズを有した第2拡大画像データを所定の反復解法において変化させつつ当該第2拡大画像データが前記光学系によって変調されて歪んだ歪画像データを示す2次元波形信号と、前記第1拡大画像データを示す2次元波形信号と、の残差を最小化する前記第2拡大画像データを算出する残差最小化手段、
前記残差を最小化する前記第2拡大画像データの画素ピッチを拡大してページ当たりの画素数を前記空間光変調素子に表示されたページデータの画素数と同一となるように減少させることで、前記元のページデータとして推定される画像データを生成する画素数減少手段
として機能させるためのホログラムページデータ再生プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104975(P2013−104975A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247911(P2011−247911)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】