説明

潜熱蓄熱槽、及び給湯システム

【課題】潜熱蓄熱材を有効に活用することができ、且つ、衛生的に優れた潜熱蓄熱槽、及び該潜熱蓄熱槽を備えた給湯システムを提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材内に埋設された熱交換シートと、熱交換シート及び潜熱蓄熱材を収容する容器とを備え、熱交換シートが、シート状の基材と、該基材に設けられた溝に配設され、熱媒を流通可能な熱媒流通管と、を備えている、潜熱蓄熱槽とし、該潜熱蓄熱槽を備えた給湯システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱槽及び、潜熱蓄熱槽を備えた給湯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年はエネルギーの有効利用のため、排熱や太陽熱などを利用する様々な技術が提案されている。例えば、給湯などの用途に排熱や太陽熱などの熱を利用する場合、潜熱蓄熱材にそれらの熱を蓄えて利用する技術が実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、湯槽の表面を潜熱蓄熱材で包み、その外側を断熱材料で包んだ貯湯槽が開示されている。また、特許文献2には、内部のお湯の熱を蓄熱する潜熱蓄熱 材が貯湯タンクに設けられ、該貯湯タンクが潜熱蓄熱材を含んで断熱材で覆われていることを特徴とする貯湯装置が開示されている。また、特許文献3には、槽内に、給水された水を加熱するヒータを備える電気温水器において、槽内には、表面に多数の溝を有し、潜熱蓄熱材が封入された合成樹脂製のカプセルが多数内蔵されていることを特徴とする電気温水器が開示されている。また、特許文献4には、タンク内に供給された水を加熱手段にて加熱する貯湯式の湯沸器において、上記タンク内に、蓄熱材をケースに収容してなる蓄熱手段を配備したことを特徴とする湯沸器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−056046号公報
【特許文献2】特開2006−284070号公報
【特許文献3】特開昭60−048443号公報
【特許文献4】特開平4−366361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に記載された発明では、湯を貯められる貯湯タンクの外側を潜熱蓄熱材によって覆っている。これらの技術によれば、潜熱蓄熱材に熱を蓄える際、該潜熱蓄熱材の全体に熱が伝わるまでには時間がかかる。すなわち、潜熱蓄熱材のうち貯湯タンクに接する部分及びその近傍には熱が伝わるため蓄熱できるが、貯湯タンクから離れた部分には熱が伝わりにくいため当該部分では蓄熱できず、若しくは蓄熱に時間がかかり、潜熱蓄熱材を有効に活用しきれないという問題があった。
【0006】
上記特許文献3及び4には、潜熱蓄熱材を密閉容器に注入し、該密閉容器を貯湯タンク内に設置した蓄熱構造が開示されている。これらの技術では、潜熱蓄熱材の状態変化(液体から固体への変態及び固体から液体への変態の繰り返し)による密閉容器内部からの圧力変化が繰り返し発生することにより、密閉容器が破損するおそれがある。そして、潜熱蓄熱材が注入された密閉容器が破損した場合は、貯湯タンク内に潜熱蓄熱材が混入してしまうため、衛生面で問題があった。
また、潜熱蓄熱材に熱を蓄えている最中に貯湯タンク内のお湯を利用する場合は、水位が所定レベルまで下がると同時に貯湯タンク内に給水されるため、貯湯タンク内の湯温が低下し易い。そのため、潜熱蓄熱材が効率良く熱を蓄えることができないという問題もあった。
【0007】
そこで本発明は、潜熱蓄熱材を有効に活用することができ、且つ、衛生的に優れた潜熱蓄熱槽、及び該潜熱蓄熱槽を備えた給湯システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。
【0009】
本発明の第1の態様は、潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材内に埋設された熱交換シートと、熱交換シート及び潜熱蓄熱材を収容する容器とを備え、熱交換シートが、シート状の基材と、該基材に設けられた溝に配設され、熱媒を流通可能な熱媒流通管と、を備えている、潜熱蓄熱槽である。
【0010】
上記本発明の第1の態様の潜熱蓄熱槽において、熱交換シートが、シート面の法線方向における間隔が30mm以上80m以下となるように、渦巻き状に巻回されている、折り曲げられている、又は複数並列されていることが好ましい。
【0011】
また、上記本発明の第1の態様の潜熱蓄熱槽において、熱媒流通管が、直線状に配設された直線部を複数備えるとともに該直線部同士を結ぶ曲線部を備えており、隣り合う直線部同士の管軸間隔が40mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の潜熱蓄熱槽及び熱源を備えており、熱媒流通管を流通する熱媒が、熱源からの熱を受け取り可能であり、熱媒流通管が、潜熱蓄熱槽内に熱媒を供給可能な供給管、及び潜熱蓄熱槽外に熱媒を排出可能な排出管に接続されている、給湯システムである。
【0013】
ここに、「熱媒流通管を流通する熱媒が、熱源からの熱を受け取り可能」とは、熱媒流通管を流通する熱媒が熱源から直接熱を得られる形態に限定されず、熱媒流通管を流通する熱媒が他の部材を介して間接的に熱源から熱を得られる形態も含む概念である。また、「熱媒流通管が、潜熱蓄熱槽内に熱媒を供給可能な供給管、及び潜熱蓄熱槽外に熱媒を排出可能な排出管に接続されている」とは、熱媒流通管が、系外から潜熱蓄熱槽内に熱媒を供給可能な供給管、及び潜熱蓄熱槽から系外に熱媒を排出可能な排出管に直接接続されている形態に限定されず、他の配管等を介して間接的に接続されている形態も含む概念である。なお、「系外」とは、潜熱蓄熱槽及び熱源、並びにこれらを結ぶ配管以外を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潜熱蓄熱材を有効に活用することができ、且つ、衛生的に優れた潜熱蓄熱槽、及び、該潜熱蓄熱槽を備えることによって、潜熱蓄熱材を有効に活用することができ、且つ、衛生的に優れた給湯システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】給湯システム100の構成を概略的に示す図である。
【図2】潜熱蓄熱槽10の断面を概略的に示す図である。
【図3】熱交換シート12を概略的に示す平面図である。
【図4】熱交換シート12の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。
【図5】潜熱蓄熱槽の他の形態例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。なお、各図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、簡略化している。また、各図面において、同様の構成のものには同じ符号を付しており、繰り返しとなる符号は一部省略している場合がある。
【0017】
図1は、給湯システム100の構成を概略的に示す図である。図1に示したように、給湯システム100は、潜熱蓄熱槽10、熱源20、熱交換器30、及びこれらを結ぶ配管等を備えている。
【0018】
給湯システム100は、熱源20からの熱を潜熱蓄熱槽10に蓄え、必要時に放熱することができる。以下、給湯システム100に備えられる構成要素について説明しつつ、給湯システム100の利用方法について説明する。
【0019】
熱源20は、熱媒などを介して潜熱蓄熱槽10に伝えられる熱を生成し得るものである。熱源20としては、例えば、太陽熱集熱器を用いることができる。以下の給湯システム100の説明では、熱源20として太陽熱集熱器を用いる形態について説明する。
【0020】
太陽熱集熱器20としては、公知の太陽熱集熱器を用いることができる。すなわち、太陽熱集熱器20は、内部に熱媒が流通する配管が配設されており、該配管を流れる熱媒に太陽熱を与えることができる構成を有している。
【0021】
太陽熱集熱器20において熱を得た熱媒は、配管21を通って熱交換器30へと送られる。一方、潜熱蓄熱槽10からは配管32を通って熱媒が熱交換器30へと送られる。そして、熱交換器30では、太陽熱集熱器20側から送られた熱媒と潜熱蓄熱槽10側から送られた熱媒との間で熱交換を行う。熱交換器30としては、上記のように熱交換を行えるものであれば特に限定されず、公知の熱交換器を用いることができる。
【0022】
太陽熱集熱器20側から熱交換器30へと送られ、熱交換器30において熱交換を行った熱媒は、配管22を通って太陽熱集熱器20へと戻される。その後、当該熱媒は再び太陽熱集熱器20において熱を得る。配管22には循環ポンプ24が設けられており、循環ポンプ24によって上記のように太陽熱集熱器20と熱交換器30との間で熱媒を循環させることができる。循環ポンプ24としては、使用環境に耐え得るものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、熱媒が温度変化することによって生じる該熱媒の体積変化(膨張収縮)を吸収するため、配管22にはリザーブタンク23が設けられていることが好ましい。
【0023】
一方、潜熱蓄熱槽10側から熱交換器30へと送られ、熱交換器30において熱交換を行った熱媒は配管31を通って潜熱蓄熱槽10へと戻される。その後、当該熱媒は後に説明するようにして潜熱蓄熱槽10内の潜熱蓄熱材11(図2参照)へと熱を伝える。配管31には循環ポンプ34が設けられており、循環ポンプ34によって上記のように潜熱蓄熱槽10と熱交換器30との間で熱媒を循環させることができる。循環ポンプ34としては、使用環境に耐え得るものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、熱媒が温度変化することによって生じる該熱媒の体積変化(膨張収縮)を吸収するため、配管31にはリザーブタンク33が設けられていることが好ましい。
【0024】
さらに、配管31には三方弁35を介して配管37(以下、「供給管37」という。)が接続されており、配管32には三方弁36を介して配管38(以下、「排出管38」という。)が接続されている。このように供給管37、排出管38、及び三方弁35、36を備えることによって、以下に説明するように、潜熱蓄熱槽10で熱を蓄える工程(以下、「蓄熱工程」ということがある。)と、潜熱蓄熱槽10で蓄えた熱を放出する工程(以下、「放熱工程」ということがある。)とを切り替えることができる。
【0025】
蓄熱工程では、三方弁35において供給管37側を閉じるととともに、三方弁36において排出管38側を閉じることによって、潜熱蓄熱槽10と熱交換器30との間で熱媒を循環させることができる。潜熱蓄熱槽10と熱交換器30との間で熱媒を循環させることによって、上記のようにして熱交換器30で熱を得た熱媒を配管31を通して潜熱蓄熱槽10に流入させ、該熱媒の熱を潜熱蓄熱槽10内の潜熱蓄熱材11に与えることができる。潜熱蓄熱材11に熱を与えた熱媒は配管32を通して熱交換器30へと送られ、再び熱を得る。このような過程を繰り返すことによって、太陽熱集熱器20で得た熱を潜熱蓄熱槽10へと伝えて蓄えることができる。
【0026】
一方、放熱工程では、三方弁35において熱交換器30側を閉じるととともに、三方弁36において熱交換器30側を閉じることによって、供給管37から潜熱蓄熱槽10に熱媒を供給し、その後、潜熱蓄熱槽10内を流通した熱媒を、排出管38を通して潜熱蓄熱槽10から排出することができる。潜熱蓄熱槽10は上記蓄熱工程において熱を蓄えており、供給管37から供給された熱媒が潜熱蓄熱槽10内を流通することによって、該熱媒は潜熱蓄熱槽10で熱を得ることができる。潜熱蓄熱槽10で熱を得た熱媒は、排出管38を通して潜熱蓄熱槽10から排出される。このような過程を繰り返すことによって、潜熱蓄熱槽10で蓄えておいた熱を得た熱媒を利用することができる。すなわち、熱媒として水を用いる場合は、供給管37から供給された水が潜熱蓄熱槽10内を流通することによって湯となり、排出管38から排出される当該湯を利用することができる。なお、給湯システム100において、供給管37及び排出管38の間には混合弁39を設けて両配管を流れる熱媒が合流可能である形態とすることが好ましい。給湯システム100の利用者に供される湯の温度を調整しやすくなる。
【0027】
次に、潜熱蓄熱槽10の構成について詳しく説明する。潜熱蓄熱槽10は、上述したようにして太陽熱集熱器20から得た熱を、内部に備えた潜熱蓄熱材11(図2参照)によって蓄えられるものである。具体的な構成例について、図2及び適宜示す図を参照しつつ説明する。図2は、潜熱蓄熱槽10の断面を概略的に示す図である。
【0028】
図2に示したように、潜熱蓄熱槽10は、潜熱蓄熱材11と、潜熱蓄熱材11内に埋設された熱交換シート12と、熱交換シート12及び潜熱蓄熱材11を収容する容器13とを備えている。
【0029】
潜熱蓄熱材11としては、公知の潜熱蓄熱材を用いることができる。潜熱蓄熱材11として用いる潜熱蓄熱材は、設計により導き出された必要な熱量により、適切なものを選択することができる。例えば、酢酸ナトリウム3水和塩、塩化カルシウム6水和塩、硫酸ナトリウム10水和塩、チオ硫酸ナトリウム5水和塩などの無機水和塩、n−テトラデカン、n−オクタデカンなどの有機化合物を潜熱蓄熱材11として用いることができる。このような潜熱蓄熱材を用いることによって、小さい体積で多量の熱を蓄えることができる。例えば、以下の条件では、酢酸ナトリウム3水和塩を潜熱蓄熱材として用いた場合、潜熱蓄熱材として水を利用する湿式タンクに比べて、約1.8倍の蓄熱を可能とする。
(比較条件)
・タンク容量:250L
・蓄熱温度:90℃
・利用温度:35℃(温度差:55℃)
(酢酸ナトリウム3水和塩の物性)
・融点:42℃(凝固温度:39.5℃)
・蓄熱量:164kJ/kg(35℃→45℃)
・比熱:3.15J/gK
・密度:1370kg/m
【0030】
また、潜熱蓄熱材11と容器13との間には、断熱材15が設けられていることが好ましい。潜熱蓄熱材11と容器13との間に断熱材15を配置することによって、潜熱蓄熱材11で蓄えた熱が容器13の外側に放出されることを抑制することができる。断熱材15としては、潜熱蓄熱槽10の使用環境に耐え得るものであれば公知の断熱材を特に限定することなく用いることができる。
【0031】
次に、熱交換シート12について詳しく説明する。熱交換シート12は、潜熱蓄熱材11との間で熱の授受が可能なものである。より具体的には、後に説明するように、熱交換シート12に備えられた熱媒流通管2(図3参照)を流通する熱媒と潜熱蓄熱材11との間で熱の授受が可能である。
【0032】
熱交換シート12は、図2に示したように潜熱蓄熱材11内に配置されている。より具体的には、熱交換シート12は、潜熱蓄熱材11内において、シート面の法線方向における間隔w1が所定の間隔となるように、渦巻き状に巻回されている。当該間隔w1は、30mm以上80mm以下であることが好ましく、35mm以上70mm以下がさらに好ましく、40mm以上60mm以下がより好ましい。熱交換シート12を上記のように間隔を設けて設置するためには、図2に示したようにスペーサー14を用いることが好ましい。スペーサー14を用いることによって、熱交換シート12の上記間隔w1を容易に保持することができる。スペーサー14として用いるものは、潜熱蓄熱槽10の使用環境に耐え得るものであれば特に限定されない。
【0033】
上述したように、特許文献1、2に開示されているような従来の潜熱蓄熱槽では、潜熱蓄熱材のうち熱源(貯湯タンク)に近い部分だけに熱が伝わり、熱源から離れている部分には熱が伝わり難かったため、潜熱蓄熱材を有効に活用しきれていなかった。また、潜熱蓄熱材を加熱する時間が長くなれば、潜熱蓄熱材のうち熱源から離れた部分にも熱が伝わるが、蓄熱に時間がかかることによって効率良く潜熱蓄熱材を利用することができなかった。
【0034】
潜熱蓄熱槽10によれば、上記のように潜熱蓄熱材11内において所定の間隔で熱交換シート12が配置されていることによって、潜熱蓄熱材11全体に熱が均一に伝わり易くなり、短時間で潜熱蓄熱材11全体に熱を与えることができる。そのため、潜熱蓄熱材11を効率良く活用することができる。上記間隔w1が広すぎると、熱交換シート12に挟まれた潜熱蓄熱材11に熱が伝わるのに(蓄熱するのに)時間がかかり、効率が悪くなる。また、上記間隔w1が狭すぎると、大きな熱交換シート12を要することになるため、潜熱蓄熱槽10の製造コストが高くなる。また、大きな熱交換シート12を用いると、潜熱蓄熱槽10内における潜熱蓄熱材11の体積が少なくなる。
【0035】
熱交換シート12の大きさは、熱交換シート12を収容する容器13の大きさや、熱交換シート12の構成及び設置方法等に応じて適宜決定することができる。
【0036】
熱交換シート12の具体的な構成例について、図3及び図4を参照しつつ説明する。図3は、広げた状態(巻回していない状態)の熱交換シート12を概略的に示す平面図である。図4は熱交換シート12の厚さ方向断面の一部を概略的に示す図である。なお、図3では、後に説明する均熱シート4及びU字部材6は省略している。
【0037】
図3及び図4に示した熱交換シート12は、シート状の基材1と該基材1に設けられた溝3に配設されるとともに熱媒を流通可能な熱媒流通管2とを備えている。また、基材1の両面には均熱シート4、5が備えられている。さらに、溝3の少なくとも一部には、断面が略U字状のU字型部材6が配設されている。これらの構成について以下に説明する。
【0038】
基材1は、熱伝導性が低い材料で構成されていることが好ましい。基材1は、例えば発泡性樹脂等によって構成されている。熱伝導性が低い材料で基材1を構成することによって、熱媒流通管2を流通する熱媒と潜熱蓄熱材11との間で授受されるべき熱を基材1が奪うことを抑制できる。また、発泡性樹脂等によって基材1を構成することにより、基材1の軽量化を図ることができる。本発明に用いることができる発泡性樹脂の具体例としては、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリウレタンなどを挙げることができる。基材1に発泡性樹脂を用いる場合、その発泡倍率は特に限定されないが、5倍以上50倍以下が好ましく、10倍以上30倍以下がさらに好ましく、15倍以上20倍以下がより好ましい。発泡倍率が高いと断熱性がよくなるが、発泡倍率が高すぎると強度が低くなる。
【0039】
基材1の厚さt1は特に限定されないが、5mm以上12mm以下が好ましく、5mm以上11mm以下がさらに好ましく、5mm以上9mm以下がより好ましい。基材1が薄過ぎれば、後に説明する熱媒流通管2を配設するための溝3の深さを確保することが困難になる。また、基材1が厚過ぎれば、容器13内において熱交換シート12が占める体積が大きくなるため、容器13内に充填できる潜熱蓄熱材11の量が少なくなる。
【0040】
溝3は、熱媒流通管2を配設するための溝であって、熱媒流通管2を配設可能であれば、形状等は特に限定されない。溝2の深さはそこに配設される熱媒流通管2の外径に応じて適宜変更可能である。図4に例示した溝3は、基材1の厚さ方向に貫通して形成されている。このように溝3を基材1の厚さ方向に貫通した溝とすることによって、基材1の厚さと溝3の深さとが同一となる。したがって、太い熱媒流通管2を溝3に配設しつつ基材1を薄くし易くなる。そのため、熱交換シート12に熱交換器としての機能を十分に発揮させつつ、熱交換シート12を薄くすることが容易になる。また、基材1の厚さ方向に貫通した溝3に熱媒流通管2を配置することによって、熱交換シート12の両面から熱媒流通管2を流通する熱媒の熱を潜熱蓄熱材11に伝え易くなる。ただし、本発明は当該形態に限定されるものでなく、熱交換シートにおいて熱媒流通管を配設するために溝は、基材の一方の面側に形成された(貫通していない)ものであってもよい。
【0041】
また溝3は、図3に示したように、平面視において略直線状に配設された直線部3aを複数備えるとともに、平面視において曲線状に形成され、該直線部3a同士を結ぶ曲線部3bを備えている。すなわち、熱媒流通管2は、直線状に配設された直線部2aを複数備えるとともに該直線部2a同士を結ぶ曲線部2bを備えている。隣り合う直線部2a同士の管軸間隔d1は、40mm以上100mm以下が好ましく、50mm以上90mm以下であることがさらに好ましく、60mm以上80mm以下がより好ましい。間隔d1が小さすぎると、熱媒流通管2の全長が長くなり、熱媒流通管2内を流れる熱媒の圧損が高くなるため、熱効率が悪くなる。また、間隔d1が大きすぎると、熱媒流通管2を流通する熱媒と潜熱蓄熱材11との間での熱の授受の効率が悪くなる。
【0042】
また、溝3のうち直線部3aの少なくとも一部においては、図4に示したように、断面が略U字状のU字型部材6が配設されていることが好ましい。U字型部材6はU字状に形成されたU字部6aと、該U字部6aの開口部側端部から互いに離れるように形成された固定片6b、6bとを備えている。U字部6aは溝3に嵌めこまれて、固定片6b、6bは基材1に固定される。このようなU字型部材6を用いることによって、U字型部材6を介して熱媒流通管2を溝3に固定し易くなる。U字型部材6のU字部6aは熱媒流通管2の一部に接するように形成されており、U字型部材6を介して熱媒流通管2を流通する熱媒の熱を均熱シート4、5等に伝えることができる。U字型部材6を介して熱媒流通管2を流通する熱媒の熱を均熱シート4、5等に伝え易くする等の観点からは、U字型部材6は熱伝導率が高い材料によって構成されていることが好ましい。U字型部材6を構成する材料の具体例としては、アルミニウムを挙げることができる。
【0043】
熱媒流通管2は熱媒(温水又は冷水など。)を流通させるための配管であって、熱媒を流通させることが可能で、基材1に形成されている溝3に配設でき、熱交換シート12の使用時の環境に耐え得るものであれば特に限定されない。熱媒流通管2の具体例としては、架橋ポリエチレンやポリブテン等の樹脂製の配管を挙げることができる。また、熱媒流通管2として樹脂製の配管のように柔軟性を有する配管を用いる場合、溝3の深さより外径が若干太い配管を用いることもできる。熱媒流通管2の外径は特に限定されないが、溝3の深さに対して80%以上110%以下が好ましく、90%以上105%以下がより好ましく、95%以上100%以下がさらに好ましい。この範囲であれば、柔軟性を有する熱媒流通管2が基材1に形成されている溝3に適度に収まり、熱媒流通管2を溝3に固定することができる。
【0044】
熱媒流通管2の一方の端2cは直接又は間接的に配管31に接続されるとともに、他方の端2dは直接又は間接的に配管32に接続されている。このようにして熱媒流通管2を配管31、32に接続することによって、熱媒流通管2は、蓄熱工程においては太陽熱集熱器20からの熱を潜熱蓄熱材11に伝えるための熱交換管として機能し、放熱工程においては潜熱蓄熱材11で蓄えた熱を外部から熱媒流通管2に供給された熱媒に伝えるための熱交換管として機能する。すなわち、蓄熱工程では、図1〜図3からわかるように、太陽熱集熱器20で集められた熱は熱交換器30において潜熱蓄熱槽10へと流れる熱媒に与えられ、当該熱媒は熱交換シート12内の熱媒流通管2を流通する。このとき、熱媒流通管2を流通する熱媒から潜熱蓄熱材11へと熱が伝えられ、潜熱蓄熱材11によって熱を蓄えることができる。また、放熱工程では、供給管37から供給された熱媒は三方弁35及び配管31を介して潜熱蓄熱槽10内にある熱交換シート12内の熱媒流通管2に流入し、当該熱媒はそこで潜熱蓄熱材11から熱を得る。その後、潜熱蓄熱材11から熱を得た熱媒は、配管32、三方弁36及び排出管38を介して排出され、潜熱蓄熱槽10の利用者に提供される。
【0045】
潜熱蓄熱槽10に備えられる熱交換シート12の数は特に限定されず、複数備えられていてもよい。複数の熱交換シート12が備えられる場合は、該複数の熱交換シート12に備えられる熱媒流通管2を直列に接続することが好ましい。このように直列に接続されて一繋がりの管となった熱媒流通管2は、一方の端2cからは熱媒が供給されるとともに、他方の端2dからは該熱媒が排出されるように、配管31、32に接続することができる。ただし、熱交換シート12は複数系統の熱媒流通管を有していてもよく、熱交換シート12を複数備える場合にはそれらの熱媒流通管2が並列して設けられていてもよい。複数系統の熱媒流通管が存在する場合は、夫々の熱媒流通管の端部をヘッダ等でまとめ、配管31、32に接続してもよい。
【0046】
上述したように、特許文献3、4に開示されているような従来の潜熱蓄熱槽では、当該潜熱蓄熱槽の使用者に提供される湯(熱媒)が貯められた貯湯タンク内に潜熱蓄熱材を配置していたため、衛生面で問題があった。一方、潜熱蓄熱槽10によれば、潜熱蓄熱槽10の使用者に提供される熱媒は熱交換シート12に備えられた熱媒流通管2内を流通しており、当該熱媒に潜熱蓄熱材11が混入する事態を防止し易く、衛生的に優れている。また、潜熱蓄熱材11内を通した熱媒流通管2内を流れる熱媒に潜熱蓄熱材11の熱を伝えることができるため、潜熱蓄熱材11の熱量を効率良く使用することができる。さらに、潜熱蓄熱槽10は貯湯タンクを必要としない乾式であるため、圧力逃し弁等の安全対策費用を軽減することができる。
【0047】
次に、均熱シート4、5について説明する。均熱シート4、5は、基材1の表面に配設されている。均熱シート4、5によって溝3の少なくとも一部を覆うようにして配設することによって、上述したように溝3が基材1の厚さ方向に貫通している場合、当該溝3から熱媒流通管2が外れることを防止し易くなる。ただし、均熱シート4、5は、基材1の表面全面に配設されていることが好ましい。かかる形態とすることで、熱媒流通管2を流通する熱媒の熱を潜熱蓄熱材11へと効率良く伝え易くなる。均熱シート4、5は、熱伝導性が高いシート状の部材であれば特に限定されない。均熱シート4、5の具体例としては、アルミニウムや銅などからなる金属箔を挙げることができる。均熱シート4、5を基材1の表面に配設する方法は特に限定されないが、例えば、公知の接着剤を用いて基材1に貼合することが考えられる。均熱シート4、5は単層で構成されていても複層で構成されていてもよいが、熱伝導を良好にするという観点からは、均熱シート4、5は単層で構成されていることが好ましい。また、均熱シート4、5の厚さは特に限定されないが、例えば均熱シート4として単層のアルミニウム箔を用いる場合は10μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上150μm以下がより好ましく、30μm以上100μm以下がさらに好ましい。この範囲であれば、均熱シート4、5は良好な熱伝導性を確保でき、また適度な強度を有することになり基材1への貼付け作業が容易となる。
【0048】
また、熱交換シート12は、全体がラミネート処理されていることが好ましい。熱交換シート12をラミネート処理することにより、基材1の表面に貼り付けた均熱シート4、5の腐食を防止することができる。そのため、熱交換シート12をより長期性能に優れた熱交換シートとすることができる。ラミネート処理の方法は特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。ラミネート処理に用いるフィルムとしては、例えば、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などからなる樹脂フィルムを挙げることができる。
【0049】
これまでの説明では、潜熱蓄熱槽が円筒形であり、当該潜熱蓄熱槽内において渦巻き状
に巻回された熱交換シートが潜熱蓄熱材内に埋設された形態を例示して説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。潜熱蓄熱槽の形状は円筒形に限定されず、その他の形状であってもよい。また、熱交換シートは潜熱蓄熱材内において上述したように所定の間隔で埋設されていればよく、図2に例示したように渦巻き状に巻回されている形態に限定されない。図5は、潜熱蓄熱槽の他の形態例を概略的に示す断面図であり、図2に対応する図である。
【0050】
図5(a)は、熱交換シートが複数並列して層状に配列された形態を例示している。図5(a)に示した潜熱蓄熱槽10aは、容器13a及び熱交換シート12a以外は上述した潜熱蓄熱槽10と同様である。容器13aは直方体形状の容器である。熱交換シート12aは複数備えられており、これらがシート面の法線方向における間隔w2が所定の間隔となるように層状に配列されている。熱交換シート12aは、大きさ及び配置方法以外は熱交換シート12と同様である。また、間隔w2の好ましい範囲は、上述した間隔w1と同様の理由から、同様の範囲とする。
【0051】
図5(b)は、熱交換シートを折り曲げて配置した形態を例示している。図5(b)に示した潜熱蓄熱槽10bは、熱交換シート12b以外は上述した潜熱蓄熱槽10aと同様である。熱交換シート12bは、シート面の法線方向における間隔w3が所定の間隔となるように層状に配列されている。ここでシート面の法線方向における間隔w3とは、図5(b)に示したように、折り曲げたときに平行に配置された向かい合う面同士の間隔を意味する。また、間隔w3の好ましい範囲は、上述した間隔w1と同様の理由から、同様の範囲とする。
【0052】
熱交換シートの設置方法は上記のように特に限定することはないが、潜熱蓄熱槽の形状が円筒状の場合は渦巻き状に設置することが好ましく、直方体の場合は層状に設置することが好ましい。これらの形態とすることにより、潜熱蓄熱槽内の潜熱蓄熱材に熱が均一に伝わりやすくなる。
【0053】
また、これまでの説明では、熱交換器を介して熱源(太陽熱集熱器)からの熱を潜熱蓄熱槽内を流通する熱媒に伝える形態を例示して説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。潜熱蓄熱槽内を流通する熱媒を熱源に流通させることによって、当該熱媒が直接熱源から熱を得る形態であってもよい。また、これまでの説明では熱源が太陽熱集熱器である形態を例示して説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。熱源は、潜熱蓄熱槽内を流通する熱媒に直接又は間接的に熱を与えられる装置であれば特に限定されない。
【0054】
また、これまでの説明では、熱源からの熱を潜熱蓄熱材に伝える熱媒が流通する管(熱媒流通管2)と、潜熱蓄熱材に蓄えられた熱を得て潜熱蓄熱槽の使用者に提供される熱媒が流通する管(熱媒流通管2)とが共通している形態を例示して説明したが、本発明はかかる形態に限定されない。熱源からの熱を潜熱蓄熱材に伝える熱媒が流通する管と、潜熱蓄熱材に蓄えられた熱を得て潜熱蓄熱槽の使用者に提供される熱媒が流通する管とは、別系統で設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 基材
2 熱媒流通管
3 溝
3a 直線部
3b 曲線部
4、5 均熱シート
6 U字型部材
6a U字部
6b 固定片
10 潜熱蓄熱槽
11 潜熱蓄熱材
12 熱交換シート
13 容器
14 スペーサー
15 断熱材
20 熱源(太陽熱集熱器)
21、22、31、32、37、38 配管
23、33 リザーブタンク
24、34 ポンプ
35、36 三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材内に埋設された熱交換シートと、前記熱交換シート及び前記潜熱蓄熱材を収容する容器とを備え、
前記熱交換シートが、シート状の基材と、該基材に設けられた溝に配設され、熱媒を流通可能な熱媒流通管と、を備えている、潜熱蓄熱槽。
【請求項2】
前記熱交換シートが、シート面の法線方向における間隔が30mm以上80m以下となるように、渦巻き状に巻回されている、折り曲げられている、又は複数並列されている、請求項1に記載の潜熱蓄熱槽。
【請求項3】
前記熱媒流通管が、直線状に配設された直線部を複数備えるとともに該直線部同士を結ぶ曲線部を備えており、隣り合う前記直線部同士の間隔が40mm以上100mm以下である、請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱槽。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の潜熱蓄熱槽及び熱源を備えており、
前記熱媒流通管を流通する熱媒が、前記熱源からの熱を受け取り可能であり、
前記熱媒流通管が、前記潜熱蓄熱槽内に熱媒を供給可能な供給管、及び前記潜熱蓄熱槽外に前記熱媒を排出可能な排出管に接続されている、給湯システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate