説明

潤滑油、グリース組成物及び機械部品

【課題】高いトルク伝達が必要とされる潤滑部位に有効な、トラクション係数、摩擦係数が高い潤滑油、及びグリース組成物、上記潤滑油、又はグリース組成物を使用した機械部品を提供すること。
【課題手段】ポリイソプレンの部分水添物を0.5〜100質量%含有する潤滑油、この潤滑油を含有するグリース組成物、及びこの潤滑油またはグリース組成物を使用した機械部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソプレンの部分水添物を含有する潤滑油、グリース組成物及び機械部品に関する。詳しくは、トラクションドライブ等の伝達装置、クラッチやトルクリミッタ機構等の高いトルク伝達が必要とされる潤滑部位に有効な、摩擦係数が高い潤滑油、グリース組成物及びこれを使用した機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクションドライブ、クラッチ、トルクリミッタ機構等の高いトルク伝達が必要とされる潤滑部位には、基油にシリコーン油(ジメチルシリコーン,または、5%フェニルメチルシリコーン)、低粘度エステル、ナフテン油、スクアラン等を用いた潤滑油及びグリース組成物が使用されてきた。最近は立体障害の大きい芳香族基、脂環式基を有するトラクション油、天然の鮫から抽出されるスクアレンの使用が提案されている(特許文献1)。特に基油にシリコーン油を用いた潤滑油及びグリースが用いられ、シリコーン油の摩擦係数が高いことによるが、境界潤滑状態に成り易いという特徴があるが、耐摩耗性に劣る。スクアレンは主に深海鮫の肝油から採取されるものであり、その油は粘度指数が211と動粘度の温度依存性が小さく、またトラクション力が高いという特徴を有している。スクアレン、スクアランはトラクション係数が常温ではシリコーン油より低い。また、スクアレン、スクアランは世界的な深海鮫の漁獲量の減少に伴い、価格も高騰している。
【0003】
【特許文献1】特開2007−321042
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高いトルク伝達が必要とされる潤滑部位に有効な、トラクション係数、摩擦係数が高い潤滑油、及びグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、上記潤滑油、又はグリース組成物を使用した機械部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、ポリイソプレンの部分水添物を使用することにより、シリコーン油、トラクション油と同等の常温での高いトラクション係数を有する新規な潤滑油及びグリース組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下に示す潤滑油、グリース組成物及び機械部品を提供するものである。
1.ポリイソプレンの部分水添物を0.5〜100質量%含有することを特徴とする潤滑油。
2.トラクション係数が、25℃で0.058〜0.300である上記1記載の潤滑油。
3.ポリイソプレンの部分水添物のポリイソプレンのイソプレンセグメント数が、2〜12である上記1又は2記載の潤滑油。
4.ポリイソプレンの部分水添物のヨウ素価が、30〜350(ヨウ素g/100g)である上記1〜3のいずれか1項記載の潤滑油。
5.ポリイソプレンの部分水添物が、ヘキサイソプレンの部分水添物である上記1〜4のいずれか1項記載の潤滑油。
6.ポリイソプレンの部分水添物が、スクアレンの部分水添物である上記1〜5のいずれか1項記載の潤滑油。
7.上記1〜6のいずれか1項記載の潤滑油を含有するグリース組成物。
8.上記1〜7のいずれか1項記載の潤滑油またはグリース組成物を使用した機械部品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の潤滑油、及びグリース組成物はトラクション係数、摩擦係数が高く、高いトルク伝達が必要とされる潤滑部位の潤滑に有効である。なかでもポリイソプレンの部分水添物がイソプレンモノマー等の工業原料から作られたスクアレンの部分水添物は、工業的に合成されるため、安価で安定供給性に優れる。本発明の潤滑油、及びグリース組成物は、トラクションドライブ等の伝達装置、クラッチやトルクリミッタ機構等の高いトルク伝達が必要とされる機械部品の潤滑に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の潤滑油及びグリース組成物について詳細に説明する。
本発明の潤滑油及びグリース組成物に使われる基油は、ポリイソプレンの部分水添物を0.5〜100質量%含むことが必須である。ポリイソプレンの部分水添物のポリイソプレンのイソプレンセグメントの数は、好ましくは2〜11であり、さらに好ましくは3〜9であり、最も好ましくは6である。ポリイソプレンの部分水添物のヨウ素価は、好ましくは30〜350(ヨウ素g/100g)であり、さらに好ましくは60〜320であり、最も好ましくは85〜105である。特に好ましいポリイソプレンの部分水添物は、主に部分的に水添加したヘキサンイソプレン(分子量416)であり、これは無色、無臭の合成スクアレンである。スクアラン、鉱物油の代替品として期待されるものである。
【0008】
本発明の潤滑油及びグリース組成物に使用される基油は、ポリイソプレンの部分水添物単独でも良いが、ポリイソプレンの部分水添物と他の基油を混合して使用しても良い。ポリイソプレンの部分水添物と混合できる基油は、潤滑油及びグリース組成物に使用出来るものであれば特に限定されない。具体例としては、スクアレン、スクアラン、鉱物油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成油としては、エステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリα‐オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、シリコーン油、フッ素化油などが挙げられる。
潤滑油中のポリイソプレンの部分水添物の量は、ポリイソプレンの部分水添物を含む基油全体に対して、0.5〜100質量%、好ましくは10〜100質量%、最も好ましくは20〜100質量%である。
【0009】
本発明の潤滑油及びグリース組成物に添加してもよいその他の添加剤としては、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、消泡剤、抗乳化剤、油性向上剤など、グリース組成物に通常使用される添加剤が挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤は必要に応じて添加され、その添加量は、一般的には0.01〜10質量%であるが、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
【0010】
本発明のグリース組成物に使用する増ちょう剤も特に限定されない。具体的には、リチウム石けんや複合リチウム石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン、及びメラミンシアヌレートに代表される有機系増ちょう剤等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも一種を使用することが出来る。
好ましくは、シリカ、リチウム石けん、複合リチウム石けん及びウレア化合物からなる群から選ばれる。特に好ましいのは、シリカ、ウレア化合物である。ウレア化合物では、ジウレア系増ちょう剤が好ましく、特に下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
1−NHCONH−R2−NHCONH−R3 (1)
式中、R1、R3は同一もしくは異なる炭素数4〜20の一価の炭化水素基を示し、例えば脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基である。R2は炭素数6〜15の二価の芳香族炭化水素基を示し、例えば、下記一般式(2)〜(4)で表されるものである。
【0011】
【化1】

(2)
【0012】
【化2】

(3)
【0013】
【化3】

(4)
【0014】
上記ジウレア系増ちょう剤は、例えば、基油中で、所定のジイソシアネートと、所定のモノアミンとを反応させることにより得ることができる。ジイソシアネートの好ましい具体例は、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートである。モノアミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン又はこれらの混合物が挙げられる。脂肪族アミンの具体例としては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン及びオレイルアミンが挙げられる。芳香族アミンの具体例としては、アニリン及びp−トルイジンが挙げられる。脂環式アミンの具体例としては、シクロヘキシルアミンが挙げられる。上述したモノアミンのうち、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン又はこれらの混合物を用いて得られるジウレア系増ちょう剤が好ましい。
増ちょう剤の含有量は目的のちょう度に合わせて適宜決定されるが、通常は1.0〜30.0質量%であり、好ましくは2.0〜20.0質量%であり、更に好ましくは2.5〜10.0質量%である。
【0015】
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は特に規定するものでなく、440を超えてもよい。好ましくは200〜440であり、さらに好ましくは230〜440である。
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。
【実施例】
【0016】
実施例1、比較例1−6(潤滑油)
各種の基油100質量%からなる潤滑油のトラクション係数及びヨウ素価を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
1.トラクション係数の測定方法
ボール/ディスク弾性流体潤滑(EHL)試験機を用い、鋼製ディスク(φ150mm)は回転速度Udで回転(主軸回転)。鋼製ボール(φ38.1mm)は回転速度
Ubでフリー状態(つれまわり)。主軸回転。ボール回転軸はディスク軸と同軸となるよう位置を中心にディスク回転方向、反対方向に平行に移動できるようになっている。ボール軸がディスク中心からずれることにより、滑り運動Us(ボール回転に対する滑り速度)が発生する。ボール軸方向のトラクションをロードセルで検出し、その最大値対荷重の比を最大トラクション係数とする。
なお、潤滑油の供給はディスク軌道面に塗布により行った。
試験条件
最大ヘルツ圧:0.711GPa(おもり5kg)
速度(ディスク回転速度Ud):0.5m/s
温度:25℃
【0017】
効果の判定
トラクション係数(25℃)
合格(○):0.058〜0.300
不合格(×):合格範囲外の数値
【0018】
2.ヨウ素価の測定方法(JIS K0070.6)
試料をシクロヘキサンに溶かした後、一塩化ヨウ素溶液を加え、暗所に放置後、ヨウ化カリウムおよび水を加え、チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、溶液の色がうすい黄色になったとき、でんぷん溶液を加え、青が消えるまで滴定して、下記の式によりヨウ素価を求める。
A=(B−C)×f×1.269/S
A:ヨウ素価
B:空試験に用いた0.1mol/ l チオ硫酸ナトリウム溶液の量(ml)
C:滴定に用いた0.1mol/ l チオ硫酸ナトリウム溶液の量(ml)
f:チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
S:試料の質量(g)
1.269:ヨウ素の原子量126.9×1/100
【0019】
【表1】

【0020】
実施例2−5、比較例7−8(潤滑油)
各種の基油を混合した潤滑油のトラクション係数を実施例1に記載した方法により測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0021】
実施例6−8、比較例7−8(潤滑油)
各種の基油に添加剤1(フェニル系酸化防止剤)及び添加剤2(アミン系酸化防止剤)をそれぞれ3質量%添加した潤滑油のトラクション係数を実施例1に記載した方法により測定した。結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例9、比較例9(グリース組成物)
各種の基油中で、所定量のジイソシアネートとアミン又はアミン混合物を、所定の条件下で加熱後、冷却し、添加剤1(フェニル系酸化防止剤)及び添加剤2(アミン系酸化防止剤)をそれぞれ3質量%添加し、ロールミルで処理し、ジウレア系増ちょう剤10質量%を含むグリース組成物を製造した。使用したジウレア系増ちょう剤は式(1)においてR1、R3がシクロヘキシル、オクタデシル(比率80/20)であり、R2が式(1)で表される構造の化合物である。
このグリース組成物のトラクション係数を下記の方法により測定した。結果を、基油のトラクション係数とともに表4に示す。
【0024】
1.評価試験
ボール/ディスク弾性流体潤滑(EHL)試験機によるグリースのトラクション係数
鋼製ディスク(φ150mm)は回転速度Udで回転(主軸回転)。鋼製ボール(φ38.1mm)は回転速度Ubでフリー状態(つれまわり)。主軸回転。ボール回転軸はディスク軸と同軸となるよう位置を中心にディスク回転方向、反対方向に平行に移動できるようになっている。ボール軸がディスク中心からずれることにより、滑り運動Us(ボール回転に対する滑り速度)が発生する。ボール軸方向のトラクションをロードセルで検出し、その最大値対荷重の比を最大トラクション係数とする。
なお、グリースの供給はディスク軌道面に塗布により行った。
試験条件
最大ヘルツ圧:0.711GPa(おもり5kg)
速度(ディスク回転速度Ud):0.5m/s
温度:25℃
【0025】
効果の判定
トラクション係数(25℃)
合格(○):0.075〜0.300
不合格(×):合格範囲外の数値
【0026】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソプレンの部分水添物を0.5〜100質量%含有することを特徴とする潤滑油。
【請求項2】
トラクション係数が25℃で0.058〜0.300である請求項1記載の潤滑油。
【請求項3】
ポリイソプレンの部分水添物のポリイソプレンのイソプレンセグメント数が、2〜12である請求項1又は2記載の潤滑油。
【請求項4】
ポリイソプレンの部分水添物のヨウ素価が、30〜350(ヨウ素g/100g)である請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑油。
【請求項5】
ポリイソプレンの部分水添物が、ヘキサイソプレンの部分水添物である請求項1〜4のいずれか1項記載の潤滑油。
【請求項6】
ポリイソプレンの部分水添物がスクアレンの部分水添物である請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の潤滑油を含有するグリース組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の潤滑油またはグリース組成物を使用した機械部品。

【公開番号】特開2010−6899(P2010−6899A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166066(P2008−166066)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】