説明

潤滑組成物

本発明は、基油および1種以上の添加剤を含む潤滑組成物を提供し、該組成物は、−6600cP未満の−30℃における動力学粘度(ASTM D 5293による);−少なくとも9.3cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による);−少なくとも2.9cPの高温高せん断粘度(「HTHS」;ASTM D 4683による);−14重量%未満のNoack揮発性(ASTM D 5800による)を有し;該基油は、少なくとも4.8cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンのクランクケースにおける特定用途のための基油および1種以上の添加剤を含む潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
実際に、クランクケースエンジン用の種々の潤滑組成物が知られている。
【0003】
既知のクランクケースエンジン油の不都合は、特にこれらが、従来の鉱油グループIII基油に基づく場合、これらが、望ましくない省燃費油の性能値を有することである。
【0004】
既知のクランクケースエンジン油のさらなる問題は、これらが、摩耗性能およびNoack揮発性の1つ以上についての望ましくない性質を有し得ることである。
【0005】
同様に既知のエンジン油のブレンドにおいて、鉱油グループIII基油を使用しながら、いわゆるSAE J300規格(2004年5月改訂)に合致することは困難であることが見出されている。SAEは、自動車技術者協会を表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題の1つ以上を最小化することが本発明の1つの目的である。
【0007】
SAE J300規格に合致する、エンジンのクランクケースにおける使用のための代替の潤滑組成物を提供することが、本発明の別の目的である。
【0008】
上記のSAE J300規格による代替の5W−30および5W−40クランクケースエンジン油を提供することが、1つのさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記または他の目的の1つ以上は、
−6600cP未満の−30℃における動力学粘度(ASTM D 5293による);
−少なくとも9.3cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による);
−少なくとも2.9cPの高温高せん断粘度(「HTHS」;ASTM D 4683による);
−14重量%未満のNoack揮発性(ASTM D 5800による)
を有し、ここで、基油は、少なくとも4.8cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による)を有する、基油および1種以上の添加剤を含む潤滑組成物を提供することによって本発明によって得ることができる。
【0010】
本発明による潤滑組成物は、驚くべきことに、望ましい摩耗性能およびNoack揮発性を維持しながら、改善された燃費特性を示すことが見出された。
【0011】
本発明の別の利点は、上記の望ましい特性は、一流の高負荷ディーゼルエンジン潤滑剤用にも達成され得ることである。このような一流の高負荷ディーゼルエンジン潤滑剤の1つの特徴は、これらが比較的大量の高性能添加剤パッケージを必要とすることである。このような性能添加剤パッケージは、全般的な完成潤滑剤の粘性を高め、このことは、基油が同じ粘度要求を満たすために、より低い粘度の寄与がなければならないことを意味する。より低い粘度の基油を使用することの結果は、工業規格による揮発性制御が失われ得ることである。しかし、この揮発性制御は、フィッシャー−トロプシュ由来基油が使用される場合に失われないことが本発明により驚くべきことに見出され、これは、100℃における同じ動粘度特性を有する鉱物由来基油のみを使用しながらでは、得られないものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による潤滑組成物に使用される基油に関して特に制限はなく、種々の従来の鉱油、合成油、および植物油などの天然由来のエステルを、好都合に使用することができ、但し、基油は、少なくとも4.8cStの(ASTM D 445による)100℃における動粘度を有することを条件とし、但し、本発明による潤滑組成物についての要求が満たされることを条件とする。
【0013】
本発明で使用される基油は、1種以上の鉱油および/または1種以上の合成油の混合物を好都合に含むことができ、したがって、本発明によれば、「基油」という用語は、2種以上の基油を含む混合物を意味し得る。鉱油には、水素化仕上げ(hydrofinishing)法および/または脱蝋によってさらに精製され得るパラフィン、ナフタレン、または混合パラフィン/ナフタレンタイプの流動石油(liquid petroleum oil)および溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油が含まれる。
【0014】
本発明の潤滑油組成物における使用に適する基油は、グループIII鉱物基油、グループIVポリ−アルファオレフィン(PAO)、グループIIIフィッシャー−トロプシュ由来基油およびこれらの混合物である。
【0015】
本発明における「グループIII」および「グループIV」基油は、カテゴリーIIIおよびIVについての米国石油協会(API)の定義による潤滑油基油を意味する。これらのAPIカテゴリーは、API Publication 1509、第15版、付録E、2002年4月に定義されている。
【0016】
フィッシャー−トロプシュ由来基油は、当技術分野で知られている。「フィッシャー−トロプシュ由来」という用語は、ある基油が、フィッシャー−トロプシュ法の合成生成物である、またはこれに由来することを意味する。フィッシャー−トロプシュ由来基油は、GTL(Gas−To−Liquids(ガスから液体へ))基油とも呼ぶことができる。本発明の潤滑組成物において基油として好都合に使用し得る好適なフィッシャー−トロプシュ由来基油は、例えば、EP 0 776 959、EP 0 668 342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP 1 029 029、WO01/18156およびWO01/57166に開示されているものである。
【0017】
合成油には、(ポリアルファオレフィン基油;PAOを含む)オレフィンオリゴマー、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルナフタレンおよび脱蝋したワックス異性化物などの炭化水素油が含まれる。「Shell XHVI」(商標)の名称でShellグループによって販売されている合成炭化水素基油は、好都合に使用することができる。
【0018】
ポリ−アルファオレフィン基油(PAO)およびこれらの製造は、当技術分野でよく知られている。本発明の潤滑組成物に使用し得る好ましいポリ−アルファオレフィン基油は、直鎖CからC32、好ましくはCからC16アルファオレフィンから由来することができる。前記ポリ−アルファオレフィンのための特に好ましい原料油は、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンおよび1−テトラデセンである。
【0019】
好ましくは、本発明による潤滑組成物に使用される基油は、ポリ−アルファオレフィン基油およびフィッシャー−トロプシュ由来基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を含む。
【0020】
PAO基油の製造の原価高を考慮して、PAO基油と比較してフィッシャー−トロプシュ由来基油を使用することの強い優先傾向が存在する。したがって、好ましくは、基油は、50重量%を超える、好ましくは60重量%を超える、より好ましくは70重量%を超える、さらにより好ましくは80重量%を超える、最も好ましくは90重量%を超えるフィッシャー−トロプシュ由来基油を含む。1つの特に好ましい実施形態において、基油の5重量%まで、好ましくは2重量%までが、フィッシャー−トロプシュ由来基油ではない。基油の100重量%が、1種以上のフィッシャー−トロプシュ由来基油に基づくことが、さらにより好ましい。
【0021】
WO02/064711およびWO2004/081157、ならびに2007年10月23−25日に、中国、北京での2nd Asia−Pacific base oil Conferenceで発表されたD.J. Wedlockら、「Gas−to−Liquids Base Oils to assist in meeting OEM requirements 2010 and beyond」は、エンジン油におけるフィッシャー−トロプシュ由来基油の使用を開示していることを、この点で留意されたい。しかし、これらの刊行物のいずれも、基油が、少なくとも4.8cStの(ASTM D 445による)100℃における動粘度を有する、本発明による潤滑組成物の特定の要求を満たす潤滑組成物を実例で開示または提案していない。
【0022】
本発明の潤滑組成物に組み込まれる基油の総量は、好ましくは、潤滑組成物の総重量に対して、60から99重量%の範囲の量で、より好ましくは65から90重量%の範囲の量で、最も好ましくは70から85重量%の範囲の量で存在する。
【0023】
本発明によれば、基油は、(ASTM D445による)少なくとも4.8cStの100℃における動粘度を有する。基油が、2種以上の基油のブレンドを含む場合、この動粘度への基油の合計した寄与が、少なくとも4.8cStであることが好ましい。
【0024】
本発明による1つの好ましい実施形態において、基油は、少なくとも5.0cSt、好ましくは少なくとも5.2cStの100℃における動粘度を有する。一般的に、基油は、10.0未満、好ましくは8.5未満、より好ましくは7.0cSt未満、またはさらに5.5未満の100℃における動粘度を有する。
【0025】
上述のとおり、本発明による組成物は、−30℃における動力学粘度、100℃における動粘度、高温高せん断粘度およびNoack揮発性についての特定の規格要求を満たす。
【0026】
一般的に、上記組成物の(ASTM D 5293による)−30℃における動力学粘度は、3000および6600cPの間、好ましくは4000および6450cPの間である(1cPは、1mPa.s.と同じである。)。
【0027】
一般的に、上記組成物の(ASTM D 5293による)−35℃における動力学粘度は、4000および8000cPの間である。
【0028】
一般的に、上記組成物の(ASTM D 445による)100℃における動粘度は、9.3および26.1cSt、好ましくは9.3および16.3の間、より好ましくは9.3および12.5の間である。
【0029】
一般的に、上記組成物の高温高せん断粘度(「HTHS」;ASTM D 4683による)は、2.9および5.0cPの間、好ましくは3.0および3.7cPの間である。
【0030】
一般的に、上記組成物の(ASTM D 5800による)Noack揮発性は、1および14重量%の間、好ましくは13.0重量%未満、より好ましくは11.0重量%未満、さらにより好ましくは10.5重量%未満、最も好ましくは10.0重量%未満である。
【0031】
同様に、上記組成物は、60,000cP未満、より好ましくは50,000cP未満、さらにより好ましくは40,000cP未満、および一般的に20,000超の(ASTM D 4684による)−35℃における小型回転式粘度計(mini rotary viscometer)(MRV)値を有することが好ましい。
【0032】
本発明による潤滑組成物は、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、分散剤、清浄剤、過剰塩基性清浄剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不動態化剤、腐食抑制剤、乳化破壊剤、消泡剤、シール適合剤および添加希釈剤基油などの1種以上の添加剤をさらに含む。
【0033】
当業者は、上記および他の添加剤に精通しているので、これらをここで詳細にさらに論じない。このような添加剤の特定の例は、例えば、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第3版、14巻、477−526頁に記載されている。
【0034】
好都合に使用し得る酸化防止剤には、(Ciba Specialty Chemicalsから市販されている「IRGANOX L−06」などの)フェニル−ナフチルアミン、ならびに、例えばWO2007/045629およびEP 1 058 720 B1に開示されている(Ciba Specialty Chemicalsから市販されている「IRGANOX L−57」などの)ジフェニルアミン、フェノール酸化防止剤などが含まれる。WO2007/045629およびEP 1 058 720 B1の教示を、参照により本明細書に組み込む。
【0035】
好都合に使用し得る耐摩耗添加剤には、亜鉛ジアルキル−、ジアリール−および/またはアルキルアリール−ジチオホスフェートから選択される亜鉛ジチオホスフェート化合物などの亜鉛含有化合物、モリブデン含有化合物、ホウ素含有化合物、ならびに置換または非置換チオリン酸、およびこれらの塩などの無灰耐摩耗添加剤が含まれる。
【0036】
このようなモリブデン含有化合物の例には、好都合に、モリブデンジチオカルバメート、例えば、WO98/26030に記載されている三核モリブデン化合物、モリブデンの硫化物およびモリブデンジチオホスフェートが含まれ得る。
【0037】
好都合に使用し得るホウ素含有化合物には、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪族アミン、ホウ酸化エポキシド、アルカリ金属(または混合されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属)ホウ酸塩およびホウ酸化過剰塩基金属塩が含まれる。
【0038】
使用される分散剤は、好ましくは無灰分散剤である。無灰分散剤の好適な例は、ポリブチレンスクシニミドポリアミンおよびマンニッヒ塩基型分散剤である。
【0039】
使用される清浄剤は、好ましくは、過剰塩基性清浄剤、または、例えば、サリチレート、スルホネートおよび/またはフェネート型清浄剤を含む清浄剤混合物である。
【0040】
本発明の潤滑組成物に好都合に使用し得る粘度指数向上剤の例には、スチレン−ブタジエン星状共重合体、スチレン−イソプレン星状共重合体およびポリメタクリレート共重合体およびエチレン−プロピレン共重合体が含まれる。分散剤−粘度指数向上剤は、本発明の潤滑組成物に使用し得る。
【0041】
好ましくは、上記組成物は、少なくとも0.1重量%の流動点降下剤を含む。一例として、アルキル化ナフタレンおよびフェノール性ポリマー、ポリメタクリレート、マレエート/フマレート共重合体エステルは、有効な流動点降下剤として好都合に使用し得る。好ましくは、0.3重量%までの流動点降下剤が使用される。
【0042】
さらに、アルケニルコハク酸またはこのエステル部分などの化合物、ベンゾトリアゾールベースの化合物およびチオジアゾールベースの化合物は、腐食抑制剤として本発明の潤滑組成物に好都合に使用し得る。
【0043】
ポリシロキサン、ジメチルポリシクロヘキサンおよびポリアクリレートなどの化合物は、消泡剤として本発明の潤滑組成物に好都合に使用し得る。
【0044】
シール固定剤またはシール適合剤として本発明の潤滑組成物に好都合に使用し得る化合物には、例えば、市販の芳香族エステルが含まれる。
【0045】
本発明の潤滑組成物は、1種以上の添加剤を基油(複数可)と混合することによって好都合に調製し得る。
【0046】
上述の添加剤は、潤滑組成物の総重量に対して0.01から35.0重量%の範囲の量で、好ましくは、潤滑組成物の総重量に対して0.05から25.0重量%の範囲の量で、より好ましくは、1.0から20.0重量%の範囲の量で一般的に存在する。
【0047】
好ましくは、上記組成物は、少なくとも9.0重量%の、好ましくは少なくとも10.0重量%の、より好ましくは少なくとも11.0重量%の耐摩耗添加剤、金属清浄剤、無灰分散剤および酸化防止剤を含む添加剤パッケージを含む。
【0048】
本発明の1つの特に好ましい実施形態によれば、上記組成物は、(上述の2004年5月に改訂されたSAE J300規格による)5W−30または5W−40配合物の要求を満たし、好ましくは5W−30配合物の要求を満たす。別の態様において、本発明は、特に欧州議会のDirective 1999/96/ECによる、特に都市サイクル(city cycle)または地方サイクル(rural cycle)、特に都市サイクルにおける、望ましい摩耗性能およびNoack揮発性を維持しながら、燃費特性を改善するための、エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンのクランクケースにおける、本発明による潤滑組成物の使用を提供する。「都市サイクル」は、定常熱平衡に到達する前のエンジンの状態(都市で運転する場合の通例のように)、すなわち、「ハイウェイサイクル(highway cycle)」に対抗する状態を意味する。
【0049】
同様に、本発明は、所望の摩耗性能およびNoack揮発性を維持しながら、燃費特性を改善する一方法を提供し、この方法は、エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンのクランクケースを、本発明による潤滑組成物で潤滑することを含む。
【0050】
本発明は、何ら本発明の範囲を制限するよう意図されていない次の実施例を参照して下記に記載される。
【実施例】
【0051】
潤滑油組成物
クランクケースエンジンに使用するための種々のエンジン油を配合した。
【0052】
表1は、使用される基油の特性を示している。表2は、試験された完全調合エンジン油配合物の組成および特性を示しており、成分の量は、完全調合配合物の総重量に対する重量%で与えられている。
【0053】
全ての試験されたエンジン油配合物は、基油、添加剤パッケージおよび粘度調整剤の組合せを含み、この添加剤パッケージは、全ての試験された組成物において同じであった。
【0054】
添加剤パッケージは、ディーゼルパーティキュレートフィルター後処理装置との使用に適する、いわゆる低SAPS(低硫酸塩灰分、リンおよび硫黄)配合物であった。
【0055】
添加剤パッケージは、酸化防止剤、亜鉛ベース耐摩耗添加剤、無灰分散剤、過剰塩基性清浄剤混合物、流動点降下剤および約10ppmの消泡剤を含む添加剤の組合せを含んだ。
【0056】
従来の粘度調整剤濃厚物を使用して粘度を調節した。
【0057】
「基油1」は、約5cSt(mm−1)の100℃における動粘度(ASTM D445)を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油(「GTL 5」)であった。
【0058】
「基油2」は、約8cSt(mm−1)の100℃における動粘度(ASTM D445)を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油(「GTL 8」)であった。
【0059】
これらのGTL 5およびGTL 8基油は、例えば、その教示を参照により本明細書に組み込むWO−A−02/070631に記載されている方法によって好都合に製造することができる。
【0060】
「基油3」は、約4.34cStの100℃における動粘度(ASTM D445)を有する市販のグループIII基油であった。基油3は、例えばSK Energy(韓国、ウルサン)から(「Yubase 4」の商品名で)市販されている。
【0061】
「基油4」は、約6.42cStの100℃における動粘度(ASTM D445)を有する市販のグループIII基油であった。基油4は、例えばSK Energyから(「Yubase 6」の商品名で)市販されている。
【0062】
実施例1および比較例1の組成物は、従来の潤滑油ブレンド手法を使用して基油を添加剤パッケージと混合することによって得られた。
【0063】
実施例1の組成物は、5W−30配合物の要求を満たすが、比較例1の組成物は、10W−30配合物の要求を満たす(ともにSAE J300による)。これは、(実施例1のフィッシャー−トロプシュ由来基油と同じ基油粘度を有する)比較例1の鉱物基油は、同時に5W−30の低温性能およびNoack揮発性要求を十分に満たせなかったためである。
【0064】
表2に使用された基油ブレンドの100℃における動粘度(ASTM D 445)は、基油1+2のブレンド(84.75+15.25重量%)で5.46cStであり、基油3+4のブレンド(41.5+58.5重量%)で5.45cStであった。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
燃費試験
本発明の燃費特性を実証するために、ベンチエンジンテスト測定を、European Transient Cycle(ETC)標準試験に従ってエンジンを動かしながら、ZF AS−TronicトランスミッションおよびDaimler HL8アクスルに接続したMAN D2066 Euro 4、6気筒直列コモンレールエンジン(排気量:10.5 l;出力:324kW;トルク:2100Nm)で実施した。ETC標準試験は、2000年に始まった欧州における高負荷ディーゼルエンジンの排出認定のためにESC(European Stationary Cycle)試験と一緒に導入された(1999年12月13日付けの欧州議会および理事会のDirective 1999/96/ECを参照されたい。)。ETC試験は、高負荷自動車の実路サイクル測定に基づきFIGE Institute(ドイツ、アーヘン)によって開発された(1994年1月のFIGE Report 104 05 316を参照されたい。)。
【0068】
様々な運転条件が、都会、地方および高速道路運転を含めたETC試験サイクルの3つのフェーズによって代表される。全体の試験サイクルの期間は1800秒(30分)である。各フェーズの期間は600秒(10分)である。
【0069】
ETC試験は、次の部分を含む。
−フェーズ1は、50km/時の最大速度、頻繁な発進、停止、およびアイドリングを含む都会運転(「都市サイクル」)を表し;
−フェーズ2は、急な加速部分を伴って発進する地方運転(「地方サイクル」)である。平均速度は約72km/時であり;
−フェーズ3は、約88km/時の平均速度を含む高速道路運転(「ハイウェイサイクル」)である。
【0070】
測定された燃料消費(g/kWh)は以下の表3に示されている。表3は、全部のETC試験サイクル、すなわちフェーズ1−3にわたるCO排出も示している。
【0071】
燃料1は、フィッシャー−トロプシュ由来ディーゼルであったが、燃料2は、従来の低S(硫黄)鉱物由来ディーゼルであった。
【0072】
【表3】

【0073】
上記の産業標準の燃費試験に加えて、ZF AS−TronicトランスミッションおよびDaimler HL8アクスルに接続した同じMAN D2066 Euro 4、6気筒直列コモンレールエンジン(排気量:10.5 l;出力:324kW;トルク:2100Nm)を備えた専用の駆動装置で、測定を実施した。
【0074】
コンピューターモデルから制御されたエンジン操作の都市サイクルおよびハイウェイサイクルモードを、燃料消費についてモニターした。エンジンのコンピューター制御(毎分の回転のトルクおよび速度)を、一般的な都市およびハイウェイサイクルアプリケーション上で駆動された、Hamburgバスのエンジン管理システムにデータロガーをインターフェースで接続することによって求めた都市およびハイウェイサイクルを使用することによって行った。次いで、データロガーを、駆動装置を制御するコンピューターにダウンロードした。
【0075】
測定された燃料消費(グラム)は以下の表4に示されており、燃料として、通常の低硫黄の鉱油ディーゼルを使用した。
【0076】
【表4】

【0077】
摩耗性能
本発明の摩耗特性を実証するために、産業標準のIP−239−4の4ボール摩耗試験に従って摩耗測定を実施した。IP−239−4による測定摩耗傷を下記の表5に示している。
【0078】
本発明による実施例1は、Cummins ISM高負荷ディーゼルエンジン試験のACEA E−7制限を超えることも見出された。ACEA E−7カテゴリーのCummins ISM試験は、クロスヘッド重量損失(mg)を測定する。実施例1は、最大7.5mgのACEA E−7制限に対して6.3mgの重量損失の結果をもたらした。
【0079】
【表5】

【0080】
摩耗性能について、2つの潤滑油の燃費特性を適切に比較した場合、改善された燃費特性を示す潤滑油(すなわち、実施例1)は、対照油(すなわち、比較例1)に比較して少なくとも同等の極圧摩耗保護を提供する必要があることを留意されたい。これは、完成潤滑油の両方の粘度(100℃における動粘度(ASTM D 445)、および150℃におけるHTHS(ASTM D 4683))は、SAE J300規格内で同等であるべきであるのみならず、100℃における粘度(ASTM D 445)への基油の寄与も同等であるべきであることを必要とする。前者(完成潤滑油粘度)は、例えば低圧滑り主軸受における摩耗保護を保証するものであり、後者(基油粘度)は、例えば等角でない接触(non−conformal contact)(例えば、高負荷ディーゼルエンジン中のクロスヘッド)などの高圧環境における摩耗保護を保証するものである。
【0081】
上記は、完成潤滑油の100℃における動粘度およびHTHSが制御される場合、低温粘度(低温クランク粘度)は「浮動する(float)」ことを意味する。100℃における動粘度、HTHSおよび低温クランク粘度が、同じSAEマルチグレード規格に入る場合、または(実施例1(5W−30)および比較例1(10W−30)の組成物の場合のように)低温クランク粘度の違いのために、2つのクランクケース潤滑剤が、2つの異なるSAEマルチグレード規格の範囲内に入る場合、上記の要求の全てを満たすことが可能である。
【0082】
考察
表3から分かるように、実施例1の燃費値は、比較例1、特にETC燃料消費試験サイクルの都会(または「都市」)および地方サイクルと比較して著しく改善された。これらは、(エンジンのキロワット時当たり)消費された燃料の重量(グラム)および同様に(エンジンのキロワット時当たり)排出された二酸化炭素(CO)の重量(グラム)で示されている。
【0083】
本発明についての上記の改善された燃費値は、同じMAN D2066 Euro 4、6気筒直列コモンレールエンジンを備えた専用駆動装置を使用する「実生活(real life)」テストにおいて確認された(表4を参照されたい。)。
【0084】
さらに、フィッシャー−トロプシュ由来基油を配合した実施例1の高負荷ディーゼル潤滑油の摩耗性能は、鉱物グループIII基油を配合した比較例1の潤滑油と比べて(40kgの負荷において)少なくとも同様に良好または(60kgの負荷において)著しくより良好であることが見出された(表5を参照されたい。)。同様に、望ましいCummins ISM試験値が、本発明による実施例1を用いて得られた。
【0085】
上記によって、本発明による組成物は、特にグループIII鉱油を使用する類似の潤滑組成物と比較して、改善された燃料効率特性のみならず、(表2および5から分かるように)同時に望ましい摩耗性能およびNoack揮発性を示すことが示されている。
【0086】
本発明の1つの重要な利点は、厳しいNoack揮発性要求(10重量%未満)も満たす5W−30配合物が、(比較的高価な)ポリ−アルファオレフィン(PAO)基油を使用することを必要とせずに得られることである。表2から分かるように、実施例1の組成物は、(グループIII鉱物基油を使用する)比較例1の組成物と比較して驚くほど低いNoack揮発性を示す。
【0087】
本発明の別の重要な利点は、(表1および2から分かるように)完成潤滑組成物中の等しい基油粘度において、フィッシャー−トロプシュ由来基油は、グループIII鉱物基油に比べて実質的により低い低温クランク粘度(すなわち、ASTM D 5293による動力学粘度)をもたらすことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油および1種以上の添加剤を含む潤滑組成物であって、前記組成物は
−6600cP未満の−30℃における動力学粘度(ASTM D 5293による);
−少なくとも9.3cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による);
−少なくとも2.9cPの高温高せん断粘度(「HTHS」;ASTM D 4683による);
−14重量%未満のNoack揮発性(ASTM D 5800による)
を有し、
前記基油は、少なくとも4.8cStの100℃における動粘度(ASTM D 445による)を有する、潤滑組成物。
【請求項2】
基油が、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびポリ−アルファオレフィン(PAO)基油またはこれらの組合せからなる群から選択される基油を含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
基油が、50重量%を上回る、好ましくは60重量%を上回る、より好ましくは70重量%を上回る、さらにより好ましくは80重量%を上回る、最も好ましくは90重量%を上回るフィッシャー−トロプシュ由来基油を含む、請求項1または2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
基油が、少なくとも5.0cSt、好ましくは少なくとも5.2cStの100℃における動粘度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
13.0重量%未満、好ましくは11.0重量%未満、より好ましくは10.5重量%未満、最も好ましくは10.0重量%未満のNoack揮発性を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
60,000cP未満の−35℃における小型回転式粘度計(MRV)値(ASTM D 4684による)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
少なくとも0.1重量%の流動点降下剤を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
少なくとも9.0重量%、好ましくは少なくとも10.0重量%、より好ましくは少なくとも11.0重量%の、耐摩耗添加剤、金属清浄剤、無灰分散剤および酸化防止剤を含む添加剤パッケージを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
5W−30または5W−40配合物の要求を満たす、請求項1から8のいずれか一項に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
望ましい摩耗性能およびNoack揮発性を維持しながら、燃費特性を改善するための、エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンのクランクケースにおける、請求項1から9のいずれか一項に記載の潤滑組成物の使用。
【請求項11】
特にETC試験(欧州議会のDirective 1999/96/EC)による、都市サイクルまたは地方サイクル、特に都市サイクルにおける、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載の潤滑組成物で、エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンのクランクケースを潤滑するステップを含む、望ましい摩耗性能およびNoack揮発性を維持しながら、燃費特性を改善する方法。

【公表番号】特表2012−500315(P2012−500315A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523418(P2011−523418)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060706
【国際公開番号】WO2010/020653
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】