説明

澱粉系層間接着剤およびそれを用いた抄紙方法

【課題】多層構造を有する抄き合わせ板紙などの抄造に際して、多層シート形成後のプレス工程以降におけるサクションなどの強い搾水作用を受けた場合でも、シート層間へ噴霧、塗布された層間接着剤のシート層内への過度の移行を防ぐ経済的な層間接着剤を提供する。
【解決手段】生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解粒子の水性スラリーに、高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の水溶液が混合されてなる層間接着剤を、シート層間に噴霧、塗布して、抄き合わせ抄造によって板紙などを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造を有する抄き合わせ板紙などの抄造に際して、糊剤として使用する層間接着剤に関し、シート層間へ噴霧、塗布された層間接着剤の紙層内への過度の移行を防ぐ経済的な層間接着剤を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
通常、大きな坪量を有する白板紙や紙管原紙などの厚紙は、複数の抄紙機を直列に配した多層抄きフォーマーで製造される。多層構造を有する板紙においては、各シート層内のパルプ繊維同士の絡みに比較して、シート層間におけるパルプ繊維の絡みが少なくなるためにシート層間の強度が低下することは避けられない。
【0003】
シート層間の結合強度を向上させるために、未溶解の澱粉を水に分散させた懸濁液として抄き合わせ前のシート層間面に噴霧、塗布することが従来から行なわれている。通常ここで使用される澱粉は、経済性や澱粉のもつ特性などの点からノニオン性澱粉あるいはアニオン性澱粉である。シート層間に噴霧、塗布された未溶解の澱粉粒子は、その後の乾燥工程において、湿紙内の水分の存在下、ドライヤーからかかる熱により溶解して所謂糊の状態となり、パルプ繊維間を結合してシート層間の結合強度を向上させる。
【0004】
しかし、近年求められる抄速向上などに対応するために多層シート形成後のプレス工程以降におけるサクションなどの強い搾水作用を受けた場合、一部の未糊化の澱粉粒子は湿紙内の水分の移動に伴いシート層間からシート層内さらには多層シート外へ移行してしまう。これは、パルプ繊維表面がセルロース分子上に存在する水酸基により弱いアニオン性を帯びているのに対して、一般に層間スプレー澱粉として使用されるノニオン性澱粉やアニオン性澱粉がイオン的に結合することなく、未糊化の澱粉粒子の状態で単に機械的に定着しているためである。
【0005】
搾水作用により澱粉粒子がシート層間からシート層内さらには多層シート外へ移行してしまうと、層間接着強度が低下すると共に、白水へ逃げた澱粉粒子により廃水負荷の上昇は避けられない。
【0006】
このため、シート層間へ塗布された澱粉粒子の移動を防止する手段として、未糊化の澱粉粒子と3meq/g以上のカチオン当量を有する1級アミンを含有するポリマーとの混合物からなる層間接着剤を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、1級アミンを含有する高粘度のカチオンポリマー配合率が高いために、スプレーする水性懸濁液の固形分濃度を低くする必要があり、通常実機において未溶解の澱粉懸濁液濃度が澱粉固形分換算で1〜5%濃度で行なわれていることと比較すると、層間接着剤の必要固形分量を塗布するためには湿紙に塗布される水の量が増えることになり、スプレー後のプレス工程以降の搾水や乾燥に際しての経済性が悪化してしまうことになる。
【0007】
別の手段として、未溶解のアニオン性澱粉粒子に高分子量カチオンポリマーを吸着させた自己定着型澱粉の水性スラリーを層間接着剤として用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。層間スプレー澱粉としてアニオン性澱粉を選択して使用しているケースでは有用な技術であるが、生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉と比較するとアニオン性澱粉は高価であるため経済的にはまだ満足できるものではない。
【0008】
一方、生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解の粒子水性スラリーに、高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の水溶液が澱粉固形分当り固形分で0.05〜10%混合されてなる紙力増強剤を紙料に内添する方法が本発明者により提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、これは澱粉系紙力増強剤を紙料中に内添する技術であり、多層構造を有する板紙などのシート層間に噴霧、塗布される層間接着を目的としたものではない。
【0009】
【特許文献1】特開2007−63682
【特許文献2】特開2007−169821
【特許文献3】特願2007−40277
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、多層構造を有する抄き合わせ板紙などの抄造に際して、近年求められる抄速向上などに対応するために多層シート形成後のプレス工程以降におけるサクションなどの強い搾水作用を受けた場合でも、シート層間へ噴霧、塗布された層間接着剤の紙層内への過度の移行を防ぐ経済的な層間接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解の粒子スラリーに、濃度0.5重量%水溶液の25℃、60rpmにおけるB型粘度が300mPa・s以上であってイオン回復度(IR)が60%以上の高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の水溶液が澱粉固形分当り固形分で0.05〜1%混合されてなる層間接着剤に関する。
【0012】
また本発明は、抄紙工程における抄き合わせ前の湿紙表面に前記層間接着剤を噴霧、塗布する製紙方法であって、前記層間接着剤中の未溶解の澱粉粒子を高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体により抄き合わせた紙の層間に定着させ、その後の乾燥工程において澱粉粒子を溶解して層間接着強度を向上させることを特徴とする製紙方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、生澱粉または生澱粉に非イオン的変性を施した改質澱粉の未溶解の粒子スラリーにイオン回復度(IR)が60%以上の高度構造型の分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の水溶液が混合されてなる層間接着剤である。
【0014】
本発明で用いられる澱粉の起源としては、特に限定されず、例えばタピオカ、馬鈴薯、トウモロコシ、小麦、サゴ、サツマイモ、米、ワキシートウモロコシなどから製造された生澱粉があげられる。なかでも、生産性やコストの点からタピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉が好ましい。未溶解の澱粉粒子の平均粒径は、およそ2〜50μmである。これらは単独でも、2種以上を組合せ用いてもよい。
【0015】
通常生澱粉の粒子表面は分子内の水酸基により僅かにアニオン性を示し、そのアニオン化度は0.00001〜0.001meq/gである。本発明で用いられる澱粉は生澱粉または非イオン的変性を施した改質澱粉である。澱粉粒子表面のアニオン化度が0.001meq/gを超えると、澱粉粒子とイオン回復度(IR)が60%以上の高度構造型の分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体を混合して水性スラリーとした場合に凝集が著しく、均一に噴霧することが困難になる傾向がある。
【0016】
澱粉粒子表面のアニオン化度が0.00001〜0.001meq/gの範囲に入るものであれば、生澱粉であってもよく、また必要に応じて澱粉のフィルム特性や粘度特性を改質するために非イオン的な変性処理を施して良い。この様な処理方法として、アセチル化、ヒドロキシエチル化やヒドロキシプロピル化などの変性処理により非イオン性官能基を澱粉に導入する処理を施すことができる。また、酸処理を施すことができる。また、酸化変性は澱粉分子を切断して低粘度化すると共に分子内にカルボキシル基を生成するために澱粉はアニオン性となるが、ごく僅かな量の次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素水を用いて澱粉を漂白することは澱粉製造業界では常套手段であり、澱粉粒子表面のアニオン化度が0.001meq/gを超えないような酸化処理による漂白澱粉は本発明に含める。これらの処理は単独でも、2種以上を組合せ用いてもよい。また、生澱粉と非イオン的変性を施した改質澱粉を2種以上混合してもよい。
【0017】
本発明に使用されるカチオン性ポリアクリルアミド誘導体は、モノエチレン不飽和を有するモノマー、あるいはアリルモノマー、あるいはビニルモノマー、特にアクリルあるいはメタクリルモノマー、様々な酸や四級化剤によって四級化されあるいは塩化されたジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、さらには塩化ベンジル、塩化メチル、塩化アルキルあるいはアリル、ジメチル硫酸、塩化ジアリルジメチルアンモニウム(DADMAC)、塩化アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム(APTAC)および塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム(MAPTAC)、塩化エチルアクリレートトリメチルアンモニウムなどから選択されたアクリルアミドおよび不飽和カチオンエチレン系モノマーのカチオンコポリマーであって、さらにポリマー合成時に、多価金属塩、ホルムアルデヒド、グリオキサールのようなイオン系架橋剤、あるいはモノマーと共重合する共有結合架橋剤が含まれ、このモノマーは好ましくはジエチレン不飽和を有するモノマー(ポリエチレングリコールPEGのジアクリレートのようなジアクリレートエステル系のようなもの)、あるいはポリエチレン不飽和を有するモノマー、特にメチレンビスアクリルアミド(MBA)などの架橋剤により架橋された高度構造型の分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体である。
【0018】
カチオン性ポリアクリルアミド誘導体は高分子量であるほどよい。しかし、高分子量のカチオン性ポリアクリルアミド誘導体の分子量を正確に測定することは困難であるため、本特許では、濃度0.5重量%水溶液の25℃、60rpmにおけるブルックフィールド型粘度計での粘度測定値(以下、B型粘度と略す)を指標として規定した。高度構造型の分子構造を有するカチオン性ポリアクリルアミド誘導体のB型粘度は300mPa・s以上であることが好ましく、450mPa・s以上であることがより好ましい。B型粘度がこれ未満では、澱粉のシート層間のパルプ繊維への定着効果が不十分となる。
【0019】
通常、高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の架橋すなわち構造化の程度はイオン回復度(Ionic Regain)によって表わされる。これは、カチオン性ポリマーの0.5〜1.0重量%の水溶液を、例えば「ウルトラ・タラックス(Ultra Turrax)」(商標名)装置内で10,000rpmで15〜30秒間剪断して剪断前後のイオン性を測定することにより求められる。「イオン回復度(IR)%=(X−Y)/Y×100」であり、ここで「X:meq/gでの剪断後のイオン性」、「Y:meq/gでの剪断前のイオン性」である。線状すなわち直鎖型のカチオン性ポリマーは剪断前後のイオン性に変化がなく、イオン回復度(IR)は0%である。構造型分子構造を有するカチオン性ポリマーの場合、分子内側に存在するカチオン基が剪断により外部へ露出してくるために、剪断後のイオン性は架橋すなわち構造化の程度に比例して増加する。本発明に使用される高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体のイオン回復度(IR)は60%以上の高度に構造化した分子構造をもつものである。
【0020】
前記高度構造型の分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体のカチオン化度は、0.2meq/g以上であることが好ましく、0.5meq/g以上であることがより好ましい。カチオン化度が0.2meq/g未満であると澱粉粒子をシート層間のパルプ繊維に定着させることが不十分となる。
【0021】
生澱粉または生澱粉に非イオン的変性を施した改質澱粉の未溶解の澱粉粒子と高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体は、板紙などの製造工程において、例えば湿紙に噴霧、塗布する前に水中で混合して用いられる。これにより未溶解の澱粉粒子表面に高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体がイオン的に吸着し、層間接着剤として使用されうる。
【0022】
生澱粉または生澱粉に非イオン的変性を施した改質澱粉の未溶解の澱粉粒子に対する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の配合量は、澱粉固形分当り固形分で0.05〜1%の範囲であることが好ましい。0.05%未満の場合は、澱粉粒子表面に吸着する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の量が充分でないためにシート層間のパルプ繊維に定着させることが不十分となる。1%を超えると層間接着剤水性スラリーの粘度上昇により、スプレー時の層間接着剤固形分濃度によってはスプレーパターンを悪化させたり飛沫粒子形が大きくなってしまい、均一に層間接着剤水性スラリーを噴霧できなくなる。
【0023】
本発明は、抄き合わせ前の湿紙に対し、前記層間接着剤を噴霧、塗布して抄き合わせる工程を含む製紙方法であって、前記層間接着剤中の未溶解の澱粉粒子を高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体によりシート層間のパルプ繊維に定着させ、その後の乾燥工程において澱粉粒子を溶解して層間接着強度を向上させることを特徴とする製紙方法にも関する。
【0024】
具体的には、複数の抄紙機を直列に配した多層抄きフォーマーにおいて、各抄紙機において抄き上げられた湿紙は、層間接着剤が噴霧、塗布された後に抄き合わされ、プレス工程から乾燥工程へ送られる。層間接着剤は、抄き合わせる湿紙の片面、あるいは両面に噴霧、塗布されても良い。
【0025】
原料パルプとしては特に限定されないが、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、未晒パルプ、半化学パルプ、脱墨パルプ(DIP)や段ボール故紙などの故紙パルプ、機械パルプなどがあげられる。
【0026】
本発明の層間接着剤によると、生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解の澱粉粒子表面の全面に高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体が十分量吸着されるため、シート層間に噴霧、塗布されると澱粉粒子表面に吸着したカチオンポリマーのカチオン部分がセルロース分子上に存在する水酸基により弱いアニオン性を帯びているパルプ繊維表面にイオン的に定着されることとなる。
【0027】
本発明で用いる高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体が、イオン回復度(IR)の低い高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体と比較して、生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解の澱粉粒子表面に吸着しやすい理由は、例えば1分子の直鎖型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体が僅かにアニオン性を示す澱粉粒子表面に吸着した場合、分子が線状であるために比較的広範囲にわたって吸着してしまい、この吸着した部分は高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体のカチオン基によりイオン的に反発するために他の高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体分子が吸着しにくくなってしまうが、1分子の高度構造型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体が澱粉粒子表面に吸着した場合、高度構造型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体は立体的3次元構造であるために澱粉粒子表面の比較的狭い範囲のみに吸着し、他の部分にはさらに別の高度構造型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体が吸着できることによるものではないかと発明者らは推察した。
【0028】
本発明は、セルロース繊維を含む紙料スラリーから製紙装置を用いて製造される多層構造を有する板紙などの製造に好適に用いることができる。紙料スラリーに、セルロース繊維以外の構成成分として任意の填料や任意の合成パルプ等を含んでいても構わず、また必要に応じてサイズ剤、溶解したカチオン化澱粉、紙力向上用PAM、歩留り向上剤などを併用しても何ら差し障りはない。具体的には、中芯やライナーなどの段ボール原紙、白板紙などの紙器用板紙、紙管原紙や建材用原紙などを挙げることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、カチオン性PAM製品名中に記載された粘度は、濃度0.5重量%水溶液の25℃、60rpmにおけるB型粘度である。
【0030】
[澱粉粒子のパルプ繊維への定着性]
実施例1
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を0.5重量%濃度となるように水で希釈して試験用紙料スラリー(濾水度445mlCSF)を作製した。この紙料を11cm径のブフナーロート内に60メッシュ金網をセットした中に流し入れ、坪量100g/m2、11cm径、水分70%の湿紙を2枚作成した。タピオカ澱粉a(商品名:SBガム−EVO、アセチル化変性、澱粉粒子表面のアニオン化度0.0001meq/g、三晶(株)販売)を約10倍量の水に懸濁し、ここへ予め希薄水溶液にした高度構造型PAM1(商品名:メイプロフロックEHSC−10、高度構造型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体、B型粘度556mPa・s、三晶(株)販売)を澱粉固形分当り固形分で1,000ppm添加した。得られた層間接着剤を1重量%濃度に希釈して、1枚目の湿紙片面にスプレーノズルを用いて噴霧した。付着量は噴霧された澱粉系層間接着剤スラリーの重量と濃度から乾燥固形分として算出し、1g/m2であった。この上にもう1枚の湿紙を重ね合わせた。11cm径のブフナーロートに60メッシュ金網をセットして、抄き合わせ試験紙を金網の上に載せ、その上に11cm径の東洋濾紙(株)製No.2濾紙を載せた。アスピレーターにて吸引しながらブフナーロート内に水300mlを流し入れて湿紙を通過した濾液を採取した。得られた濾液にアミラーゼ酵素を添加して80℃で2時間反応させて澱粉を分解し、濾液中の全糖量を測定した。湿紙に噴霧された澱粉量と濾液中に流れ出た澱粉量から澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0031】
実施例2
澱粉をトウモロコシ澱粉b(商品名:コートマスターK49F、ヒドロキシエチル化、澱粉粒子表面のアニオン化度0.0005meq/g、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例1と同様の条件で試験を行ない、澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0032】
実施例3
澱粉を馬鈴薯澱粉(商品名:アクチサイズG104、アセチル化、澱粉粒子表面のアニオン化度0.0004meq/g、ロケットジャパン(株)製)としたことを除き、実施例1と同様の条件で試験を行ない、澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0033】
比較例1
カチオンポリマーを添加せずにタピオカ澱粉aのみとしたことを除き、実施例1と同様の条件で試験を行ない、澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0034】
比較例2
カチオンポリマーを添加せずにトウモロコシ澱粉bのみとしたことを除き、実施例1と同様の条件で試験を行ない、澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0035】
比較例3
カチオンポリマーを添加せずに馬鈴薯澱粉のみとしたことを除き、実施例1と同様の条件で試験を行ない、澱粉粒子のパルプ繊維への歩留り率を求めて、結果を表1に記した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、層間接着剤成分として高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体を用いた実施例1〜3では、澱粉粒子が十分にパルプ繊維に定着していることがわかる。これに対して、カチオンポリマーを添加しなかった比較例1〜3では、澱粉粒子のパルプ繊維への定着性は低い。
【0038】
[層間接着試験]
実施例4
段ボールを水中で離解して作成した1重量%濃度の段ボール故紙(濾水度396mlCSF)に、撹拌しながら硫酸バンドをパルプ固形分に対して1.5%、次いで紙力増強剤(商品名LAMS71、内添用両性PAM系、三晶(株)販売)をパルプ固形分に対して0.3%添加して試験用紙料スラリーを作製した。この紙料スラリー500gを採取して、常法により角形シートマシンを用いて抄紙して、乾燥坪量100g/m2の湿紙を金網上に形成させた。吸取紙2枚を金網上の湿紙に重ねて置き、その上にコーチプレートを重ね、コーチロールを2回かけて脱水し、吸取紙に転写した。ここで得られた水分量75%の湿紙を第1層とした。次いで、第1層と同様にして乾燥坪量100g/m2の湿紙を金網上に形成させたが、この際に排水時の水を金網下付近に残した状態で排水コックを一旦閉じた。金網上に形成された水分量92%の湿紙を第2層とした。タピオカ澱粉c(商品名:SBガム−A、アセチル化変性、澱粉粒子表面のアニオン化度0.0001meq/g、三晶(株)販売)を約10倍量の水に懸濁し、ここへ予め希薄水溶液にした高度構造型PAM2(商品名:メイプロフロックEHSC−30、高度構造型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体、B型粘度572mPa・s、三晶(株)販売)を澱粉固形分当り固形分で1,000ppm添加した。得られた層間接着剤を1重量%濃度に希釈して、第1層片面にスプレーノズルを用いて噴霧した。付着量は噴霧された澱粉系層間接着剤スラリーの重量と濃度から乾燥固形分として算出し、0.5g/m2であった。層間接着剤を噴霧した面を第2層に合わせて重ね、シートマシン金網下の水を排水することにより減圧脱水した。その後、常法により水分率65%になるようにプレス脱水した後、ドラムドライヤーにて110℃で5分間乾燥させて抄き合わせ紙を得た。この抄き合わせ紙を30mm幅に切り、90°層間剥離強度を島津オートグラフで測定し、結果を表2に記した。
【0039】
実施例5
高度構造型PAM2の添加率を澱粉固形分当り固形分で5,000ppmとしたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0040】
実施例6
高度構造型PAM2の添加率を澱粉固形分当り固形分で8,000ppmとしたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0041】
実施例7
澱粉をトウモロコシ澱粉d(商品名:コーンスターチ、未変性、澱粉粒子表面のアニオン化度0.0001meq/g、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0042】
比較例4
高度構造型PAM2の添加率を澱粉固形分当り固形分で100ppmとしたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0043】
比較例5
カチオンポリマーを直鎖型PAM(商品名:メイプロフロックPC−33、直鎖型高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体、B型粘度400mPa・s、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0044】
比較例6
カチオンポリマーを溶解したカチオン澱粉(商品名:SBガム−POSIT300、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0045】
比較例7
カチオンポリマーをカチオングァーガム(商品名:メイプロボンド9806、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0046】
比較例8
カチオンポリマーをポリダドマック(商品名:フロックスターLD55、三晶(株)販売)としたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0047】
比較例9
カチオンポリマーを添加せずにタピオカ澱粉cのみとしたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0048】
比較例10
カチオンポリマーを添加せずにトウモロコシ澱粉dのみとしたことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0049】
比較例11
層間接着剤を噴霧しないことを除き、実施例4と同様の条件で抄き合わせ紙を得た。同様に層間剥離強度を測定し、結果を表2に記した。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、層間接着剤成分として高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体を用いた実施例4〜7では、高い層間強度を示し、澱粉粒子のシート層間への定着性に優れることがわかる。これに対して、直鎖型の高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体を用いた比較例5では、澱粉粒子のシート層間での定着性は低く、このため層間強度も低い。カチオンポリマーとして、溶解したカチオン澱粉、カチオングァーガム、ポリダドマックを用いた比較例6〜8、およびカチオンポリマーを添加しなかった比較例9および10でも、同様に層間強度は低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生澱粉または生澱粉に非イオン的処理を施した改質澱粉の未溶解の粒子スラリーに、濃度0.5重量%水溶液の25℃、60rpmにおけるB型粘度が300mPa・s以上であってイオン回復度(IR)が60%以上の高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体の水溶液が澱粉固形分当り固形分で0.05〜1%混合されてなる層間接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の層間接着剤を、抄紙工程における抄き合わせ前の湿紙表面に噴霧、塗布する製紙方法であって、前記層間接着剤中の未溶解の澱粉粒子を高度構造型分子構造を有する高分子量カチオン性ポリアクリルアミド誘導体により抄き合わせた紙の層間に定着させ、その後の乾燥工程において澱粉粒子を溶解して層間接着強度を向上させることを特徴とする製紙方法。

【公開番号】特開2009−249785(P2009−249785A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101309(P2008−101309)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000176095)三晶株式会社 (12)
【Fターム(参考)】