説明

濃度測定方法、および濃度測定システム

【課題】チップを用いて定量的な測定を可能とすることができる濃度測定方法等を提供する。
【解決手段】測定用チップと同一性能の校正用チップを用いて特定のプローブ分子とターゲット分子が結合反応する条件においてプローブ分子とターゲット分子が結合反応を行うことにより、当該校正用チップについて校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係を求める。また、校正用チップについて求められた関係を用いて、計測光量を求めるステップで求められた計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に固定されたプローブ分子を備えた測定用チップを用いてターゲット分子の溶液の濃度を測定する濃度測定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上にプローブ分子を固定したサイトを配列したDNAチップを用いて、ターゲットDNAを検出する方法が広く使用されている。ハイブリダイゼーションによりプローブ分子に結合するターゲットDNAを蛍光物質によりラベル化することで、光学的な読取装置を用いてターゲットDNAを検出することができる。
【0003】
このようなDNAチップでは、サイトごとに異なるプローブ分子を割り当てることで多種類のターゲットDNAを1回の測定により同時に検出できる。各サイトの蛍光光量は各ターゲットDNAがハイブリダイズして結合した量に応じて変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−212478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DNAチップを用いる場合、多数の遺伝子を同時に検出することが可能である。しかし、読取装置により計測される蛍光光量はターゲットDNAとプローブDNAが結合した量を相対的に示すものに過ぎず、ターゲットDNAが含まれる溶液の絶対的な濃度を求めることはできない。したがって、DNAチップは複数の遺伝子の相対的な分布を求めるスクリーニングにしか使用されておらず、前記ターゲットDNA溶液の絶対的な濃度の計測、たとえば単位容積あたりの分子数[M/L]などには利用されていないのが現状である。
【0006】
すなわち、DNAチップを用いた計測では、各サイトの明るさを画像により把握することで発現の様子を相対的に確認するのみであり、カメラの出力信号特性やプローブDNAの飽和特性等に基づいて各サイトの濃度を定量的に数値化すること自体、一般的ではない。ましてや、その数値が絶対的な意義(例えば、ターゲット分子溶液の濃度)を持つように、チップの製造や計測方法がコントロールされることはない。
【0007】
これに対し、リアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いることにより、特定の遺伝子の発現やその変化等を定量的に測定することが可能である。しかし、増幅時のプライマ間の干渉等の問題があるため、複数の遺伝子を同時に測定することはできず、多数の遺伝子に対してリアルタイムPCRを適用することは実質的に困難である。さらに、毎回の測定のたびに、酵素活性の相違を補正するための検量線の作成作業が必要で、作業負担が大きい。
【0008】
本発明の目的は、チップを用いて定量的な測定を可能とすることができるターゲット分子の濃度測定方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の濃度測定方法は、基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備えた測定用チップを用いてターゲット分子の濃度を測定する濃度測定方法において、前記測定用チップと同一性能の校正用チップを用いて特定のハイブリダイゼーション条件においてハイブリダイゼーションを行うことにより、当該校正用チップについて校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係を求めるステップと、前記測定用チップを用い、前記特定のハイブリダイゼーション条件において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションした時の計測光量を求めるステップと、前記校正用チップについて求められた前記関係を用いて、前記測定用チップによる前記計測光量を求めるステップで求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
この濃度測定方法によれば、校正用チップによって求められた校正液のターゲット分子の濃度と校正用の計測光量との関係を用いて、測定用チップにより計測光量を求めるステップで求められた測定時の計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0010】
前記ハイブリダイゼーション条件は、前記ハイブリダイゼーション温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の濃度測定用チップは、基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備え、前記プローブ分子にハイブリダイズしたターゲット分子の濃度を測定可能な濃度測定用チップであって、前記濃度測定用チップと同一性能の校正用チップについて、特定のハイブリダイゼーション条件における校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係が、前記濃度測定用チップにおける校正情報として得られることを特徴とする。
この濃度測定用チップによれば、特定のハイブリダイゼーション条件における校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係が、濃度測定用チップにおける校正情報として得られるので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0012】
前記濃度測定用チップを用い、前記特定のハイブリダイゼーション条件において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションした時の計測光量を求めるとともに、前記校正用チップについて求められた前記関係を用いて、求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出してもよい。
【0013】
前記ハイブリダイゼーション条件は、前記ハイブリダイゼーション温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の測定用チップの使用方法は、基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備えた測定用チップを用いてターゲット分子の濃度を測定する測定用チップの使用方法において、前記測定用チップを用い、特定のハイブリダイゼーション条件において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションした時の計測光量を求めるステップと、前記測定用チップと同一性能の校正用チップについて求められた校正液の濃度と、計測光量との関係を用いて、前記測定用チップによる前記計測光量を求めるステップで求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するステップと、を備え、前記関係は、前記校正用チップを用いて前記特定のハイブリダイゼーション条件においてハイブリダイゼーションを行うことにより求められることを特徴とする。
この測定用チップの使用方法によれば、校正用チップによって求められた校正液の濃度と計測光量との関係を用いて、測定用チップによる計測光量を求めるステップで求められた測定時の計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0015】
前記ハイブリダイゼーション条件は、前記ハイブリダイゼーション温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の濃度測定方法によれば、校正用チップについて求められた校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係を用いて、計測光量を求めるステップで求められた計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0017】
本発明の濃度測定用チップによれば、特定のハイブリダイゼーション条件における校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係が、濃度測定用チップにおける校正情報として得られるので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0018】
本発明の測定用チップの使用方法によれば、校正用チップについて求められた校正液の濃度と、計測光量との関係を用いて、計測光量を求めるステップで求められた計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0019】
前記測定用チップを用いて計測光量を求めるステップでは、蛍光光量の絶対値光量計測系で前記計測光量を計測してもよい。
【0020】
前記プローブ分子とターゲット分子の結合は、DNAやRNAなどの核酸どうしのハイブリダイゼーションだけでなく、たんぱく質と抗体との抗原抗体反応を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】DNAチップを示す図であり、(a)はDNAチップの構成を示す平面図、(b)は製造された同一性能のDNAチップ群を示す図。
【図2】DNAチップを使用する際の作業手順を示すフローチャート。
【図3】絶対値光量系を得るための校正方法の原理を説明するための図であり、(a)は校正時の状態を示す図、(b)は測定時の状態を示す図、(c)は受光素子の単位面積当りの絶対光量とカメラの輝度信号出力の階調との関係を例示する図。
【図4】チップを収容した化学反応用カートリッジの構成を示す平面図。
【図5】図4のV−V線における断面図。
【図6】標的分子検出用チップの構造を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B線における断面図。
【図7】溶液移送時の操作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による濃度測定方法の一実施形態について説明する。
【0023】
図1(a)はDNAチップの構成を示す平面図、図1(b)は製造された同一性能のDNAチップ群を示す図である。
【0024】
図1(a)に示すように、DNAチップ10の表面には、ターゲットDNAに相補的な配列を有するプローブDNAが配置されたサイト10a,10b,・・・が設けられている。サイト数はチップの用途に応じて任意の数を選択でき、例えば、2サイト〜3万サイト程度とすることができる。各サイトに異なるプローブを割り当てることで、複数種類のターゲットDNAについて同時測定が可能となる。本実施形態では、同一性能を有するDNAチップ10,10,・・・を複数個製作し(図1(b))、この一部を校正用チップとして使用し、残りを測定用チップとして使用する。
【0025】
このようなDNAチップは、特願2006−78356(バイオチップ作成装置)に示すように、プローブDNA溶液をピンで基板上に接触させることでサイト(スポット)を形成することができる。このようなDNAチップ作成装置を図8に示す。この方法では、DNAだけでなく、RNAや蛋白チップ等も作成することが可能である。また一般には、ピン接触だけではなくインクジェットや光リソグラフ等を用いて各サイトを形成することも行われている。各サイトには、特定の遺伝子に対応したプローブDNA分子が所定量だけ固定化される。
【0026】
次に、本案を考案するに至った重要な知見を示す。図9に、ターゲットDNA濃度とそれをハイブリダイゼーションした後のDNAチップの光量の関係を示す。この実験にはオリゴDNAを使用し、ハイブリダイゼーションは1hrと24hrの2つの条件で行った。
横軸は、ターゲットDNAの濃度[nM]であり、縦軸は後述する絶対光量値[nW/m2]である。図でわかるように、ターゲットDNA濃度が0.001[nM]までは光量は1[nW/m2]以下であるが、この濃度を超えると直線的に濃度と光量が比例して上昇する。さらに濃度が上昇すると光量は飽和し、一定値となる。すなわち、溶液濃度の範囲を特定範囲に限定すれば、溶液濃度と光量値は比例関係が得られる。この特定範囲を校正し、その係数を求めることにより光量値から濃度を逆算することが可能となる。この係数を以降、プローブ係数と呼ぶこととする。なお、図でわかるように、この特定の比例領域において、ハイブリダイゼーションの時間を長くすることは、同一のターゲットDNA濃度でも、より明るい光量が得られることを示している。すなわち、同一のチップであっても、ハイブリダイゼーションの条件を変えた場合は、そのプローブ係数を変える必要がある。
【0027】
また、このようなハイブリダイゼーションの再現性の結果を図13に示す。従来のDNAチップの例を図13(DNAチップA)に示す。同じターゲットDNA濃度でも、ハイブリダイゼーション後の光量はばらつきが大きい。これを後述する絶対光量系を用いて品質管理を行い、工程改善を実施した。これによって、図13(DNAチップB)のように、同一のターゲットDNA濃度に対して安定した光量が得られるようになった。
以上の2つの知見が本案の重要な基盤となっている。
【0028】

次に、DNAチップ10の具体的な使用方法について説明する。
【0029】
図2は、DNAチップ10を使用する際の作業手順を示すフローチャートである。ステップS0〜ステップS3は、チップを校正する手順を示している。
【0030】
まず、実質的に同一の性能を有するDNAチップ10,10,・・・(図2(b))を作製する(ステップS0)。本明細書において、性能が同一であることは、後述する校正時の計測結果が測定時に有効に利用できる程度に性能が実質的に同一であることを意味する。
【0031】
次に、DNAチップ10,10,・・・から選択された1枚の校正用チップに対し、個々のプローブDNAごとに校正用のダミーのターゲットDNA溶液を用意する。このダミーのターゲット分子T〜Tのそれぞれを規定の濃度A〜Aで用意し混合した校正液を用いて、ハイブリダイゼーションを行う(ステップS1)。添え字1〜nはターゲットDNAの種類に対応した番号である。ハイブリダイゼーションは温度、ラベル化法(先染め/後染め)などの各条件が規定された標準条件で行う。先染めとは、ハイブリダイゼーション前にターゲットDNAにラベル化する方法であり、後染めとは、ハイブリダイゼーション後にラベル化する方法である。
【0032】
次に、DNAチップ10(校正用チップ)の光量計測を行い、各ターゲットDNAに対応するサイトの光量B〜B[W/m]を測定する。また、励起光に起因するバックグラウンド値(C〜C)[W/m]を測定する(ステップS2)。
【0033】
次に、プローブ係数kp〜kpを算出する(ステップS3)。kp(i=1〜N)は、
kp=(B−C)/A [(W/m)/M]または[(W/m)/分子]など
(ただし、i=1〜N)
により定義される。プローブ係数kp〜kpは、各ターゲットDNAについての濃度と、対応するサイトの光量との比に相当する値として定義され、ターゲットDNAの種類に応じて異なる値をとる。
以上の流れを図10に示す。
【0034】
図2のステップS11〜ステップS13は、測定用のDNAチップ10(測定用チップ)を用いて測定を行う手順を示している。
【0035】
まず、測定用チップを用い、上記のハイブリダイゼーション条件(上記標準条件)において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションを行う(ステップS11)。
【0036】
次に、DNAチップ10(測定用チップ)の光量計測を行い、各ターゲットDNAに対応するサイトの光量y〜y[W/m]を測定する(ステップS12)。ここでは絶対値光量系での測定が必要となるが、絶対値光量系を測定する方法については後述する。
【0037】
次に、サイトの光量y〜yから各ターゲットDNAの濃度A〜Aを算出する(ステップS13)。ここでは、プローブ係数kp〜kpを用いて測定対象溶液における各ターゲットDNAの濃度A〜Aを逆算する。濃度A(i=1〜N)は、
=(y−Z)/kp
(ただし、i=1〜N,)
により算出される。Zはバックグラウンド値である。
以上の流れを図11に示す。
【0038】
このように、本実施形態では、1枚のDNAチップ10を校正用チップとして用いて算出されたプローブ係数kp〜kpを用いて光量を濃度に変換することにより、多数のターゲットDNAについて、その測定対象溶液中の濃度を1度の測定で定量的に求めることができる。測定ごとの検量線の作成作業も不要である。
【0039】
次に、絶対値光量系を得るための方法について説明する。絶対値光量系は、光源や光学系などを安定させることで、画像の光量の読取値そのものが毎回同じ値になる精度の保証を行うとともに、その読取装置の校正法を国家トレーザブルにすることにより、読取値をSI単位系に準拠した物理的な絶対値表記[W/m]など)を可能とした系である。
光量から濃度を逆算する場合は、必ず最初の校正を行った光学系と同等の特性を持つ光学系を使用する必要がある。通常のバイオ・化学系計測器は、光量の読取値に対する精度の保証がない。すなわち、複数台の装置の光量の読取値が異なるため、校正した光学系と同一の測定用の光学系が同一である保証はない。従って、常に校正した装置そのもので測定も同時期に行う必要がある。しかし、絶対光量系を使用することで、複数の測定器を用いても、互いに光量の精度保証が可能となり、また経年変化に対しても保証されるため、チップメーカが校正に用いた装置と、エンドユーザが測定に使用する装置が異なっても良い。また時間的に経過していても問題がない。
【0040】
図3は絶対値光量系を得るための校正方法の原理を説明するための図である。図3(a)において、100はパワーメータ、200は光学顕微鏡、300はLEDなどの照明用基準光源である。
【0041】
パワーメータ100は、光パワーの国家標準にトレーサビリティがとれたものであり、国家標準と互換性のあるものである。このパワーメータ100により顕微鏡200経由の照明用基準光源300の光量を測定し、パワーメータ100を基準にして照明用基準光源300の光量を校正する。
【0042】
次に、図3(b)に示すように、その校正された照明用基準光源300の全光量を顕微鏡200を介して光量検出器(例えばカメラ)400の受光素子(図示せず)で検出する。ここでパワーメータ100の出力値[W]と、光量検出器400の出力値の全画素の合計値を比較することにより、カメラ400の受光素子の受光光量とカメラの出力信号の関係を校正することができる。すなわち、[(W/m)/階調]の値を校正することができる。
【0043】
図3(c)にこのような校正方法による校正結果の一例を示す。図3(c)は受光素子の単位面積当りの絶対光量とカメラの輝度信号出力の階調との関係を例示する図である。例えば、光源300が緑色の光である場合は、Y=2.61E-06X+2.57E-05、光源300が赤色の光である場合は、Y=1.81E-06X−5.26E-05などの関係となる。なお、式中のXは階調、Yは光量である。
【0044】
このようにして校正されたカメラを読取装置(例えば、本願出願人が提案した特開2001−311690号に記載の読取装置など)の受光器に用いると、測定した画像の階調値から直接蛍光光量を測定することができる。
【0045】
このような読取装置の例を図12に示す。この装置は励起部、サンプル部、受光部、信号処理部から構成されている。励起部からのレーザ光がサンプルに照射されて発生した蛍光を受光部を経由してCCDカメラが受光し、その信号を信号処理部で処理する。校正時には装置の制御と共に校正値の記憶を行う。測定器として使用する場合は、あらかじめ入力されたチップのプローブ係数と測定された光量からターゲットDNAの濃度の算出を行う。
【0046】
他方、蛍光色素から発生する光量は以下の演算処理により求めることができる。
蛍光色素によって吸収される光のパワーΔIは、次式で与えられる。
ΔI=2.3×103×α×Io×n/(Na×S) [W] …(1)
ただし、
α : モル吸光係数 8×104[M-1 cm-1
Io : 入射光量[W]
n : 分子数[個]
Na : アボガドロ数 6×1023
S : 面積[cm2
である。
【0047】
これに量子効率などを考慮することで蛍光色素から発生する蛍光光量を推定することができる。
【0048】
したがって、上記校正方法によって校正されたカメラを用いて計測した蛍光光量と上記推定した蛍光光量の値を対応させることにより、チップ上の蛍光分子の数nを直接推定することもできる。
【0049】
このように、本発明の濃度測定方法では、校正時(図2のステップS2)および測定時(図2のステップS12)の両者において絶対値光量系での計測を行うことにより、プローブ係数kp〜kpの算出、およびプローブ係数kp〜kpを用いた濃度の逆算が可能となる。
【0050】
上記実施形態では、1枚のチップを用いてすべてのターゲットDNAについてプローブ係数kp1〜kpNを算出しているが、個々のターゲットDNAごとに校正用の溶液を用意し、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。この場合には、個々のターゲットDNAについて1枚ずつ校正用チップを使用する必要がある。
【0051】
ハイブリダイゼーションでは、複数のターゲットDNA間での相互の干渉(クロス・コンタミネーション)が存在する。したがって、校正時におけるダミーのターゲット分子T〜Tの濃度A〜Aを測定時の状態に近い濃度とすることにより、相互干渉による影響が補償され、測定精度を向上させることができる。
【0052】
本発明において、チップの校正は、例えば、チップの製造者の側で行い、チップを用いた遺伝子測定をチップの購入者の側で行うことができる。この場合、校正の結果(校正情報)、すなわち、校正液のターゲット分子の濃度と計測光量との関係(上記実施形態におけるプローブ係数)をチップの購入者に与えることで、チップの購入者の側で定量的な測定が可能となる。
【0053】
また、ターゲット分子を指定した特注チップを製造する場合に、その特注チップを校正し、校正情報を特注チップに付加して販売することもできる。
【0054】
本発明において、校正時におけるハイブリダイゼーション条件と、測定時におけるハイブリダイゼーション条件とを極力一致させることにより、高精度の濃度測定が可能となる。このため、ハイブリダイゼーション温度、ターゲット分子のラベル化法、塩濃度、ハイブリダイゼーション時間、その他の条件を一致させることができるように、校正時のハイブリダイゼーション条件を詳細に明示することが望ましい。
【0055】
また、校正時および測定時に、同一の読取装置を使用することにより、読取装置の相違に起因する誤差を抑制することができる。とくに絶対値光量系を用いることにより、メーカーや機種、器差、経年変化によらない国際標準に準拠した汎用性のある光量値を用いることができるようになる。
【0056】
本発明において、校正用チップおよび測定用チップとして、チップ内部に形成される貫通孔の内部にプローブ分子を固定した貫通型チップを使用することができる。貫通型チップとして、種々のタイプのものを使用できる。例えば、多孔質フィルタにプローブを固相化したものや、繊維型チップ(例えば、三菱レイヨン株式会社の商品「ジェノパール」(登録商標))等を使用できる。
【0057】
さらに、測定用チップを本願発明者の提案による化学反応用カートリッジ(特開2006−337238)に収容することもできる。この化学反応用カートリッジは、外力に基づくカートリッジの変形によって内容物を移動させることで所望の化学処理が行われるように、内部にウェルや流路を設けた構成を備えるものである。カートリッジ内に測定用チップを収容し、カートリッジ内でハイブリダイゼーションを行わせることができる。
【0058】
以下、図4〜図7を参照して、測定用チップを化学反応用カートリッジに収容した例を示す。後述する標的分子検出用チップ10Aが、本発明における測定用チップおよび校正用チップに対応する。
【0059】
図4はこのような化学反応用カートリッジの構成を示す平面図、図5は図4のV−V線における断面図である。
【0060】
図4および図5に示すように、化学反応用カートリッジは、基板1と、基板1に重ね合わされる弾性部材2とを備える。
【0061】
弾性部材2の裏面(図5において下面)には、その表面(図5において上面)側に凹んだ所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、カートリッジ基板1と弾性部材2との間に空間を生み出すことで、図4および図5に示すように、溶液を収容する室21,22,23、標的分子検出用チップ10Aへ溶液等を供給するための供給部24、および、流路25,26,27,28を構成する。図4に示すように、流路25、室21、流路26、室22、流路27および供給部24は順次連通されている。
【0062】
上記凹部以外の領域では、カートリッジ基板1と弾性部材2とは互いに接着されている。このため、凹部に収容された溶液がカートリッジ内で密閉され、外部への漏れが防止される。
【0063】
図4および図5に示すように、基板1には、標的分子検出用チップ10Aが収容される収容部11と、標的分子検出用チップ10Aの裏側(図5において下側)に設けられ、標的分子検出用チップ10Aから排出される溶液を収容する排出部12と、が形成されている。また、弾性部材2の裏面には、標的分子検出用チップ10Aを支持する支持部材4が固定されている。収容部11に収容された標的分子検出用チップ10Aは、カートリッジ基板1および支持部材4に接着されて、カートリッジ内部に固定される。このような構造により、標的分子検出用チップ10Aの周囲からの、標的分子検出用チップ10Aの厚み方向の溶液の漏れを防ぎつつ、標的分子検出用チップ10Aをカートリッジ内部で固定している。また、図5に示すように、カートリッジ基板1の排出部12は流路28に連通されている。
【0064】
標的分子検出用チップ10Aはハイブリダイゼーションにより標的分子を検出する、貫通型チップである。
【0065】
図6は標的分子検出用チップ10Aの構造を示す図であり、図6(a)は斜視図、図6(b)は図6(a)のB−B線における断面図である。図6(a)および図6(b)に示すように、標的分子検出用チップ10Aでは、個々の標的分子に対応するプローブが固定された検出部位31が2次元的に配置され、各検出部位31が隔壁32により区画されている。各検出部位31は標的分子検出用チップ10Aの厚み方向(図6(b)において上下方向)に貫通する溶液中の標的分子をハイブリダイゼーションにより検出する。
【0066】
次に、上記カートリッジにおける溶液移送の動作を説明する。図7は溶液移送時の操作を示す図である。
【0067】
カートリッジに形成された室21には、予め検査対象となる溶液が注入される。溶液の注入は、流路25を介して注射針を差し込むことで行われる。流路25には弾性体からなる栓(不図示)が密閉状態で取り付けられており、溶液注入時には注射針を栓に突刺する。溶液注入後、注射針を引き抜くと栓の針孔が塞がり、密閉状態が確保される。
【0068】
次に、図7および図4に示すように、一定間隔で設けられたローラ51およびローラ52により弾性部材2を基板1に向けて押し付け、ローラ51およびローラ52を右方向に移動させる。このような操作により、室21に注入された溶液が、流路26、室26、流路27を介して供給部24に送り込まれる。さらに図7に示すように、溶液は、供給部24から標的分子検出用チップ10Aの各検出部位31を下向きに貫通し、排出部12および流路28を介して室23に到達する。
【0069】
次に、ローラ51およびローラ52を弾性部材2に押し付けたまま、図7において左右方向に、所定回数往復移動させる。このような操作により、溶液を室22および室26の間で往復移送し、標的分子検出用チップ10Aの検出部位31を複数回通過させる。これにより、ハイブリダイゼーションのために必要とされる検出部位31に対する溶液の接触の充分な機会を与える。また、標的分子以外の分子による誤ったハイブリダイゼーションを低減する。なお、ハイブリダイゼーションの条件として適切であれば、ローラ51およびローラ52の往復移動を省略することもできる。
【0070】
図7に示すように、ハイブリダイゼーションを行う間、ヒータHTを用いて溶液の温度をハイブリダイゼーションに適した値に保持してもよい。
【0071】
このようなハイブリダイゼーションのための操作を行った後、所定の読取装置等を用いて標的分子検出用チップ10Aにおいてハイブリダイゼーションした標的分子の検出を行う。標的分子検出用チップ10Aをカートリッジから取り出すことなく、カートリッジ内部で標的分子の検出を行うようにしてもよいし、標的分子検出用チップ10Aをカートリッジから取り外した後に標的分子の検出を行うようにしてもよい。
【0072】
この場合、同じ化学処理用カートリッジに校正用チップ(標的分子検出用チップ10A)を収容し、校正時にカートリッジ内でハイブリダイゼーションを行わせることで、ハイブリダイゼーション条件を一致させることができる。化学処理用カートリッジにチップ(校正用チップおよび測定用チップ)を収容する場合、ハイブリダイゼーション条件を精度よく一致させ易く、濃度の測定精度を向上させることができる。また、化学処理用カートリッジにチップを収容する場合においても、校正時および測定時において同じ読取装置を用いて標的分子の検出を行ってもよい。
【0073】
以上説明したように、本発明の濃度測定方法によれば、校正用チップについて求められた校正液のターゲット分子の濃度と、計測光量との関係を用いて、計測光量を求めるステップで求められた計測光量に基づいて測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出するので、定量的な濃度測定を行うことができる。
【0074】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、基材上に固定されたプローブ分子を備えた測定用チップを用いてターゲット分子の濃度を測定する濃度測定方法等に対し、広く適用することができる。本発明は、DNAチップへの適用に限定されない。本発明におけるチップのプローブ分子およびターゲット分子は、核酸だけでなく、たんぱく質、抗体等も含まれる。
【符号の説明】
【0075】
10 DNAチップ(校正用チップ、測定用チップ)
10A 標的分子検出用チップ(校正用チップ、測定用チップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備えた測定用チップを用いてターゲット分子の濃度を測定する濃度測定方法において、
前記測定用チップと同一性能の校正用チップを用いて特定のハイブリダイゼーション条件においてハイブリダイゼーションを行うことにより、当該校正用チップについて校正液のターゲット分子の特定の範囲の濃度と、計測光量との関係を求めるステップと、
前記測定用チップを用い、前記特定のハイブリダイゼーション条件において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションした時の計測光量を求めるステップと、
前記校正用チップについて求められた前記関係を用いて、前記測定用チップによる前記計測光量を求めるステップで求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液におけるターゲット分子の前記校正液と同一範囲の濃度を算出するステップと、
を備えることを特徴とする濃度測定方法。
【請求項2】
前記ハイブリダイゼーション条件は、前記ハイブリダイゼーション温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の濃度測定方法。
【請求項3】
基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備え、前記プローブ分子にハイブリダイズしたターゲット分子の濃度を測定可能な濃度測定用チップであって、
前記濃度測定用チップと同一性能の校正用チップについて、特定のハイブリダイゼーション条件における校正液のターゲット分子の特定の範囲の濃度と、計測光量との関係が、前記濃度測定用チップにおける前記校正液と同一範囲の濃度と光量の校正情報として得られることを特徴とする濃度測定用チップ。
【請求項4】
前記濃度測定用チップを用い、前記特定のハイブリダイゼーション条件において測定対象溶液に対してハイブリダイゼーションした時の計測光量を求めるとともに、前記校正用チップについて求められた前記関係を用いて、求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液におけるターゲット分子の濃度を算出することを特徴とする請求項3に記載の濃度測定用チップ。
【請求項5】
前記ハイブリダイゼーション条件は、前記ハイブリダイゼーション温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいることを特徴とする請求項3または4に記載の濃度測定用チップ。
【請求項6】
基材と、前記基材上に固定されたプローブ分子とを備えた測定用チップを用いてターゲット分子の濃度をターゲット分子に結合した蛍光ラベルにより測定する測定用チップの使用方法において、
前記測定用チップを用い、特定のプローブ分子とターゲット分子が結合反応する条件において測定対象溶液に対してプローブ分子とターゲット分子が結合反応する時の計測光量を求めるステップと、
前記測定用チップと同一性能の校正用チップについて求められた特定の範囲の校正液の濃度と、計測光量との関係を用いて、前記測定用チップによる前記計測光量を求めるステップで求められた前記計測光量に基づいて前記測定対象溶液における前記校正液と同一範囲の濃度のターゲット分子の濃度を算出するステップと、
を備え、
前記関係は、前記校正用チップを用いて前記特定のプローブ分子とターゲット分子が結合反応する条件においてプローブ分子とターゲット分子が結合反応を行うことにより求められることを特徴とする測定用チップの使用方法。
【請求項7】
前記プローブ分子とターゲット分子が結合反応する条件は、前記プローブ分子とターゲット分子が結合反応する温度またはターゲット分子のラベル化法を含んでいることを特徴とする請求項6に記載の測定用チップの使用方法。
【請求項8】
前記測定用チップを用いて計測光量を求めるステップでは、蛍光光量の絶対値光量計測系で前記計測光量を計測することを特徴とする請求項6または7に記載の測定用チップの使用方法。
【請求項9】
前記プローブ分子とターゲット分子が結合反応は、核酸どうしのハイブリダイゼーション、またはたんぱく質と抗体との抗原抗体反応であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の測定用チップの使用方法。
【請求項10】
前記請求項1または2に記載の測定方法において、計測光量を求めるステップでは、蛍光光量の絶対値光量計測系で前記計測光量を計測することを特徴とするプローブ係数校正システムおよびプローブ濃度測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2013−24818(P2013−24818A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162518(P2011−162518)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】