説明

濾過用フィルタ及びその製造方法

【課題】非対称孔構造を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化後に表面改質することにより、空孔率を確保でき、耐水性、耐酸性、耐薬品性、及び耐アルカリ性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法の提供。
【解決手段】第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜を有する濾過用フィルタであって、カートリッジ化後の前記結晶性ポリマー性微孔膜の少なくとも一部が、表面改質されている濾過用フィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている。このような微孔性膜としては、例えば、セルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献2参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献3参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献4参照)などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
一般に、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少ない(即ち濾過寿命が短い)。このため、工業的に使用する際には、膜面積を増すため、多くの濾過ユニットを並列して使用することを余儀無くされており、濾過工程のコストダウンの観点から、濾過寿命を上げることが必要とされている。例えば、目詰まり等による流量低下に有効な微孔性膜として、インレット側からアウトレット側に向かって平均孔径が徐々に小さくなる非対称孔膜が提案されている。
例えば、膜の表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きくて、かつ表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化する結晶性ポリマーの微孔性膜が提案されている(特許文献5参照)。この提案によると、平均孔径が大きい面(表面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命を改善することができる。
【0004】
また、非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の親水化処理方法として、例えば、特許文献6では、非対称孔構造の結晶性ポリマーの微孔性膜の露出表面を、過酸化水素又は水溶性溶剤の水溶液の含浸、レーザー照射、化学的エッチングなどで親水化処理することが提案されている。しかし、カートリッジ化後の結晶性ポリマーの微孔性膜を親水化処理すること、それにより表面改質時の膜の熱収縮、フィブリルの融着を防止できるので、空孔率を保持でき、高流量かつ高寿命を達成できることについては開示も示唆もされていない。
【0005】
また、特許文献7には、親水性ポリエチレンのプリーツ膜を含む1つのカートリッジに、3つのリガンド(SL415、SL420及びSL407;多数のイオンを除去するのに適したリガンド(段落〔0018〕))を固定する方法を開示している(実施例1参照)。また、リガンド(SL420)を固定したカートリッジを用いて、Cuを含む水溶液の精製を行った結果、Cu濃度が100ppbから0.001ppb以下に減少している(実施例3参照)。
しかし、前記特許文献7では、親水性ポリエチレンのプリーツ膜を含むカートリッジを表面改質する際に、プリーツ部分のみに表面改質剤が局在してしまい、平面部への表面改質剤が十分に行えず、水を透過する場合、低流量及び低寿命となる。また、非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化したものではなく、表面改質剤として、アクリレート類を主に使用しており、耐アルカリ性、耐酸性等が劣るという問題がある。
【0006】
また、特許文献8では、フッ素樹脂からなる多孔質膜をその融点より低い融点を示す疎水性高分子の成形品に融着後、親水性物質を固定化するカートリッジフィルターの製造方法が提案されている。この特許文献8の実施例1には、PTFE多孔質膜からなるフロロガードカートリッジ(日本ミリポア社製)を、PVA水溶液に浸漬することが記載されている。
しかし、この提案は、非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化したものではなく、プリーツ部分のみに表面改質剤が局在してしまい、平面部への表面改質が十分に行えないという不均一性の問題があり、表面改質にγ線を用いているので、装置の大型化等の問題がある。
【0007】
また、特許文献9には、ポリスルホン又はポリエーテルスルホンと、膨潤剤とを溶媒に溶解した溶液を支持体上に流延し、凝固浴槽に浸漬する工程を含み、得られた微孔性膜をポリオキシエチレン系界面活性剤の水溶液に浸漬した後、高周波乾燥するポリスルホン系微孔性膜の製造方法が提案されている。
この提案は、非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化したものではなく、浸漬後高周波乾燥することで、表面改質剤の不均一性を改善しているが、高周波乾燥では、溶媒を蒸発させることはできても、架橋反応等を十分に行えないという課題がある。
【0008】
したがって非対称孔構造を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化後に表面改質することにより、空孔率を確保でき、耐水性、耐酸性、耐薬品性、及び耐アルカリ性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開2007−332342号公報
【特許文献6】特開2009−119412号公報
【特許文献7】特表2003−514644号公報
【特許文献8】特開平04−029729号公報
【特許文献9】特開昭63−277251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、非対称孔構造を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化後に表面改質することにより、空孔率を確保でき、耐水性、耐酸性、耐薬品性、及び耐アルカリ性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化後に表面改質することにより、表面改質時の膜の熱収縮、フィブリルの融着を防止できるので、空孔率を確保でき、高流量かつ高寿命を達成できることを知見した。また、結晶性ポリマー微孔性膜が非対称孔構造を有するので、該結晶性ポリマー微孔性膜に表面改質剤が物理吸着しやすく、従来からの課題であったプリーツ部への表面改質剤の局在を防止でき、均一な表面改質を容易に行えることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化してなるカートリッジを備えた濾過用フィルタであって、
前記カートリッジを構成する結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部が、カートリッジ化後に表面改質されていることを特徴とする濾過用フィルタである。
<2> 表面改質が、結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を、架橋系材料及び重合系材料のいずれかで被覆することにより行われる前記<1>に記載の濾過用フィルタである。
<3> 架橋系材料が、親水性ポリマー、界面活性剤、多価アルコール、多価アミン及びフッ素系アルコールのいずれかである前記<2>に記載の濾過用フィルタである。
<4> 架橋系材料が架橋剤により架橋されている前記<3>に記載の濾過用フィルタである。
<5> 重合系材料が、カチオン重合体、酢酸ビニル重合体、エチレンオキサイド重合体、及びビニル化合物のいずれかである前記<2>に記載の濾過用フィルタである。
<6> 表面改質前のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
表面改質後のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たす前記<1>から<5>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
<7> 結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である前記<1>から<6>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
<8> 結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<1>から<7>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
<9> 結晶性ポリマー微孔性膜が、プリーツカートリッジに加工されている前記<1>から<8>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
<10> 第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜を作製する結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程と、
前記結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化するカートリッジ化工程と、
前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を表面改質する表面改質工程と、
を含むことを特徴とする濾過用フィルタの製造方法である。
<11> 結晶性ポリマー微孔性膜をプリーツカートリッジに加工する前記<10>に記載の濾過用フィルタの製造方法である。
<12> 結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を架橋系材料又は重合系材料で被覆する前記<10>から<11>のいずれかに記載の濾過用フィルタの製造方法である。
<13> 結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である前記<10>から<12>のいずれかに記載の濾過用フィルタの製造方法である。
<14> 結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<10>から<13>のいずれかに記載の濾過用フィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、耐水性、耐酸性、耐薬品性、及び耐アルカリ性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を示す図である。
【図2】図2は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を示す図である。
【図3】図3は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を示す図である。
【図4A】図4Aは、比較例3における表面改質前の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図4B】図4Bは、比較例3における表面改質後の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図5A】図5Aは、実施例1における表面改質前の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図5B】図5Bは、実施例1における表面改質後の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法)
本発明の濾過用フィルタは、第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化してなるカートリッジを備え、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
本発明の濾過用フィルタの製造方法は、結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程と、カートリッジ化工程と、表面改質工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
以下、本発明の濾過用フィルタ及び濾過用フィルタの製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明においては、前記カートリッジを構成する結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部が、カートリッジ化後に表面改質されていることを特徴とする。
ここで、前記「カートリッジ化後に表面改質される」とは、カートリッジ加工された結晶性ポリマー微孔性膜に対し表面改質を行うことを意味する。なお、前記カートリッジ加工の具体的な内容及び前記表面改質の具体的な方法については、濾過用フィルタの製造方法において説明する。
【0017】
<結晶性ポリマー微孔性膜>
本発明で用いられる結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを延伸して得られる。
この場合、前記第1の面における平均孔径よりも平均孔径が小さい側の前記第2の面を加熱面とすることが好ましい。
前記孔部は、第1の面から第2の面への連続孔(両端が開口している)となっている。
以下においては、平均孔径が大きい側の第1の面を「非加熱面」とし、平均孔径が小さい側の第2の面を「加熱面」として説明する。これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎない。したがって、未焼成の結晶性ポリマーフィルムのいずれの面を加熱して半焼成後に「加熱面」にしても構わない。
【0018】
<<結晶性ポリマー>>
前記「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0019】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、耐薬品性と扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0020】
前記結晶性ポリマーは、そのガラス転移温度が、40℃〜400℃が好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。また、前記結晶性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましい。前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0021】
前記結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面(第1の面)の平均孔径が加熱面(第2の面)の平均孔径よりも大きいことを1つの特徴とする。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、膜厚みを「10」とし、表面から深さ方向「1」の厚み部分における平均孔径をP1とし、「9」の厚み部分における平均孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000が好ましく、3〜100がより好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面と加熱面の平均孔径の比(非加熱面/加熱面比)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0022】
ここで、前記平均孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)を撮り、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像における孔径を所定数測定し、それを演算処理することにより、平均孔径を求めることができる。
【0023】
前記結晶性ポリマー微孔性膜には、上記の特徴に加えて、更に非加熱面(第1の面)から加熱面(第2の面)に向けて平均孔径が連続的に変化している態様(第1の態様)と、上記の特徴に加えて更に単層構造である態様(第2の態様)の両方が含まれる。これらの付加的な特徴を更に加えることによって、濾過寿命を効果的に改善することができる。
【0024】
第1の態様でいう「非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に非加熱面からの厚み方向の距離d(表面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。非加熱面(d=0)から加熱面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。更に好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0025】
傾きが負の領域の中には少なくとも膜の非加熱面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の非加熱面におけるdD/dtよりも膜の加熱面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面から加熱面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0026】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。即ち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、非加熱面の平均孔径よりも小さくかつ加熱面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0027】
前記結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが好ましい。即ち、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きくて、非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、かつ単層構造であるものが好ましい。このような結晶性ポリマー微孔性膜であれば、非加熱面側から濾過を行ったときに一段と効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0028】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚は、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが更に好ましい。
【0029】
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法>
前記結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、非対称加熱工程、延伸工程を少なくとも含み、結晶性ポリマーフィルム作製工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0030】
<<結晶性ポリマーフィルム作製工程>>
結晶性ポリマーからなる未焼成の結晶性フィルムを製造する際に用いる結晶性ポリマー原料の種類としては、特に制限はなく、上述した結晶性ポリマーを好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン又はその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが使用され、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
原料として使用する結晶性ポリマーは、数平均分子量500〜50,000,000のものが好ましく、1,000〜10,000,000のものがより好ましい。
原料として使用する結晶性ポリマーとしては、ポリエチレンが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用する。
原料として使用するポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、2,500,000〜10,000,000が好ましく、3,000,000〜8,000,000がより好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン原料としては、特に制限はなく、市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ポリフロン・ファインパウダーF104U(ダイキン工業株式会社製)などが好適に挙げられる。
【0031】
前記ポリテトラフルオロエチレン原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することによりフィルムを調製するのが好ましい。押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市場で販売されているアイソパー(エッソ石油株式会社製)などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0032】
ペースト押出しは、50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えば、カレンダーロールにより50m/分間の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、50℃〜70℃に設定することが好ましい。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えば、テトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚みの減少も考慮して調整することが好ましい。
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0033】
<<非対称加熱工程>>
前記非対称加熱工程は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する工程である。
ここで、前記半焼成とは、結晶性ポリマーをその焼成体の融点以上であり、かつ、その未焼成体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。
また、本発明において、結晶性ポリマーの未焼成体とは、焼成の加熱処理をしていないものを意味する。また、結晶性ポリマーの融点とは、結晶性ポリマー未焼成体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。前記焼成体の融点及び未焼成体の融点は、結晶性ポリマーの種類や平均分子量などにより変化するが、50℃〜450℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。
このような温度は、以下のように考えることができる。例えば、結晶性ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである場合には、焼成体の融点が約324℃で未焼成体の融点が約345℃である。したがって、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、327℃〜360℃が好ましく、335℃〜350℃がより好ましく、例えば、345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと融点約345℃のものが混在している状態である。
【0034】
前記半焼成は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面(加熱面)を加熱して行う。これにより、厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができ、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。
また、結晶性ポリマーからなるフィルムの厚み方向の温度勾配としては、非加熱面と加熱面の温度差は30℃以上が好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0035】
前記加熱方法としては、熱風を吹き付ける方法、熱媒に接触させる方法、加熱した材料に接触させる方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波等電磁波による加熱などの種々の方法が使用できる。
前記加熱方法としては、特に制限はされないが、フィルムの表面に加熱物を接触させる方法、赤外線照射が特に好ましい。加熱物としては、加熱ロールを選択することが特に好ましい。加熱ロールであれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。加熱ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができる。加熱ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0036】
前記赤外線照射としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記赤外線の一般的な定義は「実用赤外線」(人間と歴史社、1992年発行)を参考にすることができる。前記赤外線とは、波長が0.74μm〜1,000μmの電磁波を意味し、そのうち波長が0.74μm〜3μmの範囲を近赤外線とし、波長が3μm〜1,000μmの範囲を遠赤外線とする。
【0037】
本発明においては、半焼成フィルムの非加熱面と加熱面での温度差がある方が好ましいため、表層の加熱に有利な遠赤外線が好ましく使用される。
前記赤外線の装置の種類としては、目的の波長の赤外線が照射できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に、近赤外線は電球(ハロゲンランプ)、遠赤外線はセラミック、石英、金属酸化面などの発熱体を用いることができる。
また、赤外線照射であれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。また非接触であるため、クリーン、かつ毛羽立ちのような欠陥が生じることがない。
前記赤外線照射によるフィルム表面温度は、赤外線照射装置の出力、赤外線照射装置とフィルム表面の距離、照射時間(搬送速度)、雰囲気温度で制御でき、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができるが、327℃〜380℃が好ましく、335℃〜360℃がより好ましい。前記表面温度が、327℃未満であると、結晶状態が変化せず、孔径制御ができなくなることがあり、380℃を超えると、フィルム全体が溶融することにより過度に形状が変形したり、結晶性ポリマーの熱分解が生じることがある。
前記赤外線の照射時間は、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0038】
前記非対称加熱工程における加熱は、連続的に行ってもよく、又は何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
連続的にフィルムの加熱面を加熱する場合には、フィルムの加熱面と非加熱面とで温度勾配を保持するため、加熱面の加熱と同時に非加熱面を冷却することが好ましい。
前記非加熱面を冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による冷却等の種々の方法が使用でき、好ましくは、フィルムの非加熱面に冷却物を接触させることにより行う。冷却物としては、冷却物としては、冷却ロールを選択することが特に好ましい。冷却ロールであれば、加熱面の加熱と同様に、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。冷却ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度と差を生じさせるように設定することができる。冷却ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、加熱工程と同時進行で行うことを前提とすると、通常30秒間〜120秒間であり、好ましくは45秒間〜90秒間であり、より好ましくは60秒間〜80秒間である。
加熱ロール及び冷却ロールの表面材質は、一般に耐久性に優れるステンレス鋼とすることができ、特にSUS316を挙げることができる。本発明の製造方法では、フィルムの非加熱面を加熱及び冷却ロールに接触させることが好ましいが、該加熱及び冷却ロールよりも低い温度に設定されたローラーをフィルムの加熱面に接触させても構わない。例えば、常温に維持されたローラーをフィルム加熱面から圧接させて、フィルムを加熱ロールにフィットさせるようにしてもよい。また、加熱ロールに接触させる前又は後において、フィルムの加熱面をガイドロールに接触させても構わない。
また、前記非対称加熱工程を間欠的に行う場合にも、フィルムの加熱面を間欠的に加熱及び非加熱面を冷却して、非加熱面の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0039】
<<延伸工程>>
半焼成したフィルムは、次いで延伸することが好ましい。前記延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、4倍〜100倍が好ましく、8倍〜90倍がより好ましく、10倍〜80倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、10倍〜100倍が好ましく、12倍〜90倍がより好ましく、15倍〜70倍が更に好ましく、20倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、50倍〜300倍が好ましく、75倍〜280倍がより好ましく、100倍〜260倍が更に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0040】
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマー焼成体の融点未満で行うことが好ましい。
【0041】
本発明の濾過用フィルタは、以上のようにして作製された非対称孔構造を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化したカートリッジを着脱可能に備えたものである。前記カートリッジ化の方法については、以下に説明する本発明の濾過用フィルタの製造方法におけるカートリッジ化工程において説明する。
【0042】
本発明の濾過用フィルタの製造方法は、上述したように、結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程と、カートリッジ化工程と、表面改質工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0043】
<結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程>
前記結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程は、第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜を作製する工程である。
結晶性ポリマー微孔性膜の作製方法については、上述した通りである。
【0044】
<カートリッジ化工程>
前記カートリッジ化工程は、前記結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化する工程である。
【0045】
前記結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化したカートリッジの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばろ過膜をひだ折りするプリーツ型、ろ過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状のろ過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、ろ過膜を管状にするチューブ型などが挙げられる。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタのろ過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ型が特に好ましい。
【0046】
前記プリーツ型のカートリッジは、例えばポリプロピレン不織布2枚の間に、前記結晶性ポリマー微孔性膜を挟んで、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着して円筒体を作製する。得られる円筒体の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着して、エレメント交換式のカートリッジを作製することができる。
【0047】
前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜は、その非加熱面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行う。即ち、ポアサイズの大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい面(非加熱面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。
また、劣化したろ過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントをろ過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類される。
【0048】
<表面改質工程>
前記表面改質工程は、前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜(カートリッジ)の少なくとも一部を表面改質する工程である。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部には、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面以外にも、孔部の周囲、孔部の内部も含まれる。
【0049】
前記表面改質方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば(1)過酸化水素又は水溶性溶剤の水溶液の含浸後、レーザー照射する方法、(2)化学的エッチング処理、(3)架橋系材料で被覆する方法、(4)重合系材料で被覆する方法、などが挙げられる。これらの中でも、顕著な非対称孔構造を形成することができ、濾過寿命を向上させることができる点で、(3)架橋系材料で被覆する方法、(4)重合系材料で被覆する方法が特に好ましい。なお、前記(1)、(2)は、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで親水化できず、かつ膜強度を低下させてしまうという不具合がある。
【0050】
<<(1)過酸化水素又は水溶性溶剤の水溶液の含浸後、レーザー照射する方法>>
前記(1)の過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液をカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜に含浸させた後、レーザーを照射する処理に使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばエーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル等);ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセチル、アセチルアセトン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキシルアルコール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレンクロロヒドリン、グリセリン等);アルデヒド類(例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等);アミン類(例えば、トリエチルアミン、ピペリジン等);エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル等)、などが挙げられる。これらの中でもケトン類が好ましく、アセトン、メチルエチルケトンがより好ましく、アセトンが特に好ましい。
【0051】
前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜に含浸する段階での過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液の濃度は、結晶性ポリマー微孔性膜の材質及び細孔の大きさによって若干変動するが、アセトン及びメチルエチルケトンの場合、85質量%〜100質量%が好ましい。また、紫外レーザー光照射時の結晶性ポリマー微孔性膜内部の過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液の濃度は、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度として0.1〜10が好ましい。例えばこれはアセトンの場合、光源としてKrFを使用する場合は、0.05質量%〜5質量%に相当する。吸光度としては0.1〜6が好ましく、0.5〜5がより好ましい。この濃度範囲に調整された過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液を含んだ結晶性ポリマー微孔性膜に紫外レーザー光を照射する場合には、従来よりもかなり低い照射量で満足できる親水化効果が得られる。
【0052】
一般的には、沸点が50℃〜100℃の水溶性有機溶剤を用いる場合には、紫外レーザー照射による親水化処理効率が高く、親水化処理後の溶剤除去も容易であるが、沸点が100℃よりも高い水溶性有機溶剤を用いる場合には、親水化処理後の水溶性有機溶剤の除去が困難となる。
【0053】
次に、前記水溶性有機溶剤を含浸したカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜にレーザー光を照射して親水化処理するに当たっては、均一で高い親水化処理効果を得るために、水溶性有機溶剤を含浸した結晶性ポリマー微孔性膜に水を含浸させて結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性有機溶剤の水溶液の濃度を、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度が0.1〜10、好ましくは0.1〜6、特に好ましくは0.5〜5となるように調整する。前記吸光度が0.1よりも低い場合には十分な親水化処理効果が得難くなることがあり、10よりも高くなると、水溶液による光エネルギーの吸収が大きくなり、微孔内部までの十分な親水化処理が困難となることがある。
結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性有機溶剤の水溶液の濃度を調整するために水を含浸させる方法としては、同じ水溶性有機溶剤のごく低濃度の水溶液中に浸漬するのが好ましい。
【0054】
ここで、前記吸光度とは、次式で定義される量を意味する。
吸光度≡log10(I/I)=εcd
ただし、εは水溶性有機溶剤の吸光係数、cは水溶性有機溶剤の水溶液の濃度(モル/dm3)、dは透過光路長さ(cm)、Iは溶媒単独の光透過強度、Iはその溶液の光透過強度を表す。本発明においては、吸光度がxとなる濃度とは、dが1cmの測定セルで測定した場合に吸光度がxとなるような濃度を意味する。ただし、dが1cmでは透過光量が少なすぎて吸光度の測定が困難であるような高い濃度の場合は、dが0.2cmの測定セルを使用して得られた吸光度を5倍したものを吸光度とした。
【0055】
前記過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液をカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜に含浸させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、浸漬法、噴霧法、塗布法等を結晶性ポリマー微孔性膜の形態や寸法等に応じて適宜採用すればよいが、浸漬法が一般的である。
前記過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液の含浸温度は、結晶性ポリマー微孔性膜の微孔内への水溶液の拡散速度の観点からは10℃〜40℃が好ましい。含浸温度が10℃よりも低い場合には、微孔内部へ水溶液を十分に拡散させるのに比較的長い時間が必要となり、また、40℃よりも高くなると、水溶性有機溶剤の蒸発速度が高くなり、好ましくない。
【0056】
前記含浸処理に付したカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜は含浸されている過酸化水素水又は水溶性有機溶剤の水溶液濃度を上記範囲に調整した後、以下の紫外レーザー光照射処理に付される。
前記紫外レーザー光としては、波長が190nm〜400nm以下のものが好ましく、アルゴンイオンレーザー光、クリプトンイオンレーザー光、Nレーザー光、色素レーザー光、及びエキシマレーザー光等が例示されるが、エキシマレーザー光が好適である。これらの中でも、高出力が長時間にわたって安定して得られるKrFエキシマレーザー光(波長:248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)及びXeClエキシマレーザー光(308nm)が特に好ましい。
前記エキシマレーザー光照射は、通常、室温、大気中で行うが、窒素雰囲気中で行うのが好ましい。また、エキシマレーザー光の照射条件は、フッ素樹脂の種類及び所望の表面改質の程度によって左右されるが、一般的な照射条件は次の通りである。
・フルエンス:10mJ/cm/パルス以上
・入射エネルギー:0.1J/cm以上
【0057】
特に好適なKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、及びXeClエキシマレーザー光の常用される照射条件は次の通りである。
・KrFフルエンス:50〜500mJ/cm/パルス入射エネルギー:0.25〜10.0J/cm
・ArFフルエンス:10〜500mJ/cm/パルス入射エネルギー:0.1〜10.0J/cm
・XeClフルエンス:50〜600mJ/cm/パルス入射エネルギー:3.0〜100J/cm
【0058】
<<(2)化学的エッチング処理>>
前記(2)の化学的エッチング処理としては、アルカリ金属を用いて、前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を構成するフッ素樹脂を変性し、その変性された部分を除去する酸化分解処理が挙げられる。
前記酸化分解処理は、例えば、有機アルカリ金属溶液を用いて行われる。カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜に、有機アルカリ金属溶液により化学的エッチング処理を施すと、表面は変性され親水性が付与されるとともに、褐色化した層(褐色層)が形成される。前記褐色層は、フッ化ナトリウム、炭素−炭素二重結合を有するフッ素樹脂の分解物、これらとナフタレン、アントラセンとの重合物等からなるが、これらは、脱落、分解、溶出等により濾過液に混入する場合があるので、除去することが好ましい。これらの除去は、過酸化水素や次亜塩素酸ソーダ、オゾン等による酸化分解によりすることができる。
【0059】
前記化学的エッチング処理は、有機アルカリ金属溶液等を用いて行うことができるが、具体的には、有機アルカリ金属溶液中に、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬することにより行うことができる。この場合、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の表面側から化学的エッチング処理が行われるので、膜の両表面近傍のみに化学的エッチング処理を施すことも可能である。しかし、膜の保水性をより高めるためには、両表面近傍のみではなく、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施すことが好ましい。カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施しても、分離膜としての機能の低下は小さい。
前記化学的エッチング処理に用いられる有機アルカリ金属溶液としては、例えばメチルリチウム、金属ナトリウム−ナフタレン錯体、金属ナトリウム−アントラセン錯体のテトラヒドロフラン等の有機溶剤溶液、金属ナトリウム−液体アンモニアの溶液等が挙げられる。これらの中でも、ナフタレンを芳香族アニオンラジカルとした金属ナトリウムとの錯体の溶液が一般に広く用いられているが、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施こすためには、ベンゾフェノン、アントラセン、ビフェニルを芳香族アニオンラジカルとして用いることが好ましい。
【0060】
<<(3)架橋系材料で被覆する方法>>
前記架橋系材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば親水性ポリマー、界面活性剤、多価アルコール、多価アミン、フッ素系アルコールなどが挙げられる。これら架橋系材料は、架橋剤で架橋されていることが好ましい。
【0061】
−親水性ポリマー−
前記親水性ポリマーとしては、ヒドロキシル基を含有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、アガロース、デキストラン、キトサン、セルロース等の多糖又はその誘導体、ゼラチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコール(PVA)が特に好ましい。
【0062】
前記ポリビニルアルコールの鹸化度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜100が好ましく、60〜100がより好ましい。前記鹸化度が、50未満であると、親水性が不十分になるおそれがある。
【0063】
前記ポリビニルアルコールの平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、200〜150,000が好ましく、500〜100,000がより好ましい。前記平均分子量が、200未満であると、ポリビニルアルコールが微孔性膜上に固定できず、親水性が失われるおそれがあり、150,000を超えると、ポリビニルアルコールが結晶性ポリマー微孔性膜内に浸透せず、内部を親水化できないおそれがある。
【0064】
前記ポリビニルアルコールの市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、RS2117(分子量;74,800)、PVA103(分子量;13,200、鹸化度;98〜99)、PVA−HC(鹸化度;99.85以上)、PVA−205C(分子量;22,000、高純度、鹸化度;87〜89)、M−205(分子量;22,000、鹸化度;87〜89)、M−115(分子量;66,000、鹸化度;97〜98)、以上、株式会社クラレ製、などが挙げられる。
【0065】
前記親水性ポリマーの被覆方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜に対し前記親水性ポリマーを含む組成液を浸漬法、塗布法により被覆する方法が挙げられる。
前記親水性ポリマーを含む組成液におけるポリビニルアルコールの濃度としては、特に制限はないが、0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.002質量%〜15質量%がより好ましく、0.003質量%〜10質量%が特に好ましい。
前記ポリビニルアルコールの濃度が、0.001質量%未満であると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜全体を親水化することができないおそれがあり、20質量%を超えると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜の孔部を塞いでしまい、透過流量を低下させるおそれがある。
前記親水性ポリマーを含む組成液に用いられる前記親水性ポリマーの溶媒としては、特に制限はなく、例えば、水、メタノール・エタノール・イソプロパノール・エチレングリコールなどのアルコール類、アセトン・メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン・ジオキサン・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0066】
また、前記浸漬乃至塗布後の結晶性ポリマー微孔性膜に対して、アニール処理を行うことが好ましい。
前記アニール処理における温度としては、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜180℃がより好ましく、70℃〜160℃が特に好ましい。
50℃未満であると、アニールによるポリビニルアルコールの結晶化が促進しない、架橋反応が進まないなど、耐水性が失われるおそれがあり、200℃を超えると、親水性ポリマーが分解するおそれがある。
【0067】
前記親水性ポリマーは、架橋剤により架橋されることが好ましい。このような架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜の耐久性が向上する。
【0068】
前記架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、紫外線架橋型化合物、脱離基含有化合物、カルボン酸化合物、ウレア化合物などが挙げられるが、中でもエポキシ化合物が好ましい。前記エポキシ化合物を用いると、エーテル結合を含む架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜に対して、耐酸性、耐アルカリ性を付与することができる。
【0069】
前記エポキシ化合物としては、特に制限はなく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのモノグリシジルエーテル及びポリグリシジルエーテル、グリセロール誘導体、ペンタエリスリトール誘導体、ソルビトール誘導体、イソシアヌレート誘導体のエポキシ化合物が挙げられる。
前記エポキシ化合物の市販品としては、TCI社製のエチレングリコールジグリシジルエーテル及びトリグリシジルエーテルイソシアヌレート、エピオールE400(日油社製)、デナコールEX313、デナコールEX411、デナコールEX614B(以上、ナガセケムテックス社製)が挙げられる。
【0070】
前記イソシアネート化合物としては、特に制限はなく、例えば、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪環イソシアネート等が挙げられる。
【0071】
前記紫外線架橋型化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル基含有化合物、アクリレート基含有化合物、メタクリレート基含有化合物などが挙げられ、具体的には、パラビニルフェノール、メチルアクリレート、アクリル酸、メチルメタクリレート、メタクリル酸等が挙げられる。
また、前記脱離基含有化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラエチレングリコールジトシラート、クロロトリアジン誘導体などが挙げられる。
【0072】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における架橋状態は、メタノール、水、DMF等の溶媒で抽出し、その抽出物の成分をNMR、IR等を用いて測定及び解析することで確認することができる。
また、架橋時に生成される結合をIR、NMR等で測定及び解析することで確認することができる。
【0073】
−界面活性剤−
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フッ素系界面活性剤が特に好ましい。
前記フッ素系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アニオン型、カチオン型、ノニオン型、ベタインなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ノニオン型フッ素系界面活性剤が、前記結晶性ポリマー微孔性膜に優れた親水性、耐酸性、耐アルカリ性を付与できる点で、好ましい。
【0074】
前記フッ素系界面活性剤は、ヒドロキシル基、アミノ基、及びこれらの誘導体基のいずれかの官能基を少なくとも1つ有することが好ましく、該官能基を末端に有することがより好ましい。前記フッ素系界面活性剤が前記官能基(以下、「親水性基」と称することがある)を有すると、前記フッ素系界面活性剤は親水性を有することができる。
前記親水性基を有するフッ素系界面活性剤の分子内における、該親水性基の置換率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15%〜90%が好ましく、17.5%〜80%がより好ましく、20%〜70%が更に好ましい。前記置換率が15%未満であると、前記結晶性ポリマー微孔性膜の親水化が不十分となることがあり、前記置換率が90%を超えると、該結晶性ポリマー微孔性膜との吸着が起こりにくくなり、所望の被覆率が得られないことがある。
また、前記フッ素系界面活性剤は、更に分子内にエステル結合などを含まないこと、耐酸性及び耐アルカリ性を有することが更に好ましい。
【0075】
このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物などが挙げられる。これらの中でも、下記一般式(1)で表される化合物が、特に好ましい。
【化1】

【化2】

前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、xとしては、特に制限はなく、上記親水性基の置換率などに応じて適宜選択することができるが、2〜10が好ましく、3〜8がより好ましい。
前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、yとしては、特に制限はなく、上記親水性基の置換率などに応じて適宜選択することができるが、1〜100が好ましく、1〜10がより好ましい。
【0076】
前記フッ素系界面活性剤の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、合成により入手する方法、市販品より入手する方法などが挙げられる。
前記一般式(1)及び前記一般式(2)で表される化合物は、フッ素系アルコールとエポキサイドとの付加反応により合成することができ、例えば、S.M.Heilmann et al., J.Fluorine Chem, 59, 1992, 387−396に記載の方法や、“Fluorinated surfactants and repellents” Erik Kissa, MARCEL DEKKER, INC.,P.64−69に記載の方法などを用いることができる。
合成に用いる前記フッ素系アルコールとしては、市販品を用いることができ、例えば、ダイキン化成販売株式会社製 A−1420(F(CFCHCHOH)、ダイキン化成販売株式会社製 A−1620(F(CFCHCHOH)、ダイキン化成販売株式会社製 A−1630(F(CF(CHOH)などが挙げられる。
【0077】
また、前記フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Zonyl FSN100(ノニオン型フッ素系界面活性剤:シグマアルドリッチ社製)、サーフロンS−145(ノニオン型フッ素系界面活性剤:AGCセイミケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0078】
前記フッ素系界面活性剤は、第一の架橋剤により架橋されることが好ましい。このような架橋により、親水性を長時間持続でき、前記結晶性ポリマー微孔性膜の濾過寿命を長くでき、耐久性が向上する。
また、前記第一の架橋剤は、第二の架橋剤により更に架橋されることが好ましい。前記第一の架橋剤が、前記第二の架橋剤により架橋されることで、耐水性、耐薬品性などを向上させることができる。
【0079】
−第一の架橋剤−
前記第一の架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、紫外線架橋型化合物、脱離基含有化合物、カルボン酸化合物、ウレア化合物などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でもエポキシ化合物が好ましく、2官能以上の多官能エポキシ化合物がより好ましい。前記エポキシ化合物を用いると、エーテル結合を含む架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜に対して、耐酸性、耐アルカリ性を付与することができる。
【0080】
−−エポキシ化合物−−
前記エポキシ化合物としては、特に制限はなく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのモノグリシジルエーテル及びポリグリシジルエーテル、グリセロール誘導体、ペンタエリスリトール誘導体、ソルビトール誘導体、イソシアヌレート誘導体のエポキシ化合物などが挙げられる。
前記エポキシ化合物の市販品としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル(東京化成工業株式会社製)、トリグリシジルエーテルイソシアヌレート(東京化成工業株式会社製)、エピオールE400(日油株式会社製)、デナコールEX313(ナガセケムテックス株式会社製)、デナコールEX411(ナガセケムテックス株式会社製)、デナコールEX614B(ナガセケムテックス株式会社製)などが挙げられる。
【0081】
−−イソシアネート化合物−−
前記イソシアネート化合物としては、特に制限はなく、例えば、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂肪環イソシアネートなどが挙げられる。
【0082】
−−アルデヒド化合物−−
前記アルデヒド化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。
【0083】
−−紫外線架橋型化合物−−
前記紫外線架橋型化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル基含有化合物、アクリレート基含有化合物、メタクリレート基含有化合物などが挙げられ、具体的には、パラビニルフェノール、メチルアクリレート、アクリル酸、メチルメタクリレート、メタクリル酸等が挙げられる。
【0084】
−−脱離基含有化合物−−
前記脱離基含有化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラエチレングリコールジトシラート、クロロトリアジン誘導体などが挙げられる。
【0085】
−第二の架橋剤−
前記第二の架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール、多価アミン、又はこれら誘導体などが挙げられる。
前記多価アルコールは、ヒドロキシル基を少なくとも2つ有することが好ましく、前記多価アミンは、アミノ基を少なくとも2つ有することが好ましく、前記多価アルコール又は前記多価アミンの誘導体は、ヒドロキシル基及びアミノ基を少なくとも1ずつ有することが好ましい。
これらの第二の架橋剤は、前記第一の架橋剤が、エポキシ化合物、イソシアネート、アルデヒド、及び脱離基含有化合物の少なくともいずれかである場合に好適に用いられる。
【0086】
前記第二の架橋剤は、具体的には、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、単糖類、多糖類、又はこれら誘導体等の多価アルコール;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、直鎖状又は分岐を有するポリエチレンイミン、Jeffamine、又はこれら誘導体等の多価アミン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ペンタエチレンヘキサミン、エチレングリコールが好ましい。
【0087】
また、前記第二の架橋剤としては、ジビニル化合物、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物等の2つ以上の紫外線による反応性官能基を有する化合物を用いることもできる。
これらの第二の架橋剤は、前記第一の架橋剤が、紫外線架橋型化合物である場合に好適に用いられる。
【0088】
前記第二の架橋剤は、具体的には、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0089】
前記第一の架橋剤には、架橋促進剤を添加することが、効率良く架橋できる点で好ましい。
前記架橋促進剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化カリウム等のアルカリ;塩酸等の酸、などが挙げられる。
【0090】
前記フッ素系界面活性剤を付与(浸漬乃至塗布)した後、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜をアニール処理することにより、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面がフッ素系界面活性剤により被覆される。
【0091】
前記フッ素系界面活性剤を付与する際、更に第一の架橋剤及び第二の架橋剤が付与(浸漬乃至塗布)される場合には、アニール処理により、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面がフッ素系界面活性剤により被覆され、該フッ素系界面活性剤が前記第一の架橋剤により架橋され、更に前記第一の架橋剤が、前記第二の架橋剤により架橋される。
【0092】
前記フッ素系界面活性剤が付与れる際、更に必要に応じて、第一の架橋剤、第二の架橋剤、及び架橋促進剤などが付与される際に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン・ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0093】
前記フッ素系界面活性剤の添加量としては、所望の被覆率を満たす限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0094】
前記第一の架橋剤の添加量としては、前記フッ素系界面活性剤の添加量などに応じて適宜選択することができるが、前記フッ素系界面活性剤の添加量100質量部に対し、第一の架橋剤が1質量部〜10,000質量部が好ましく、2.5質量部〜7,500質量部がより好ましく、5質量部〜5,000質量部が更に好ましい。
前記第一の架橋剤の添加量が、前記フッ素系界面活性剤の添加量100質量部に対し、1質量部未満であると、親水性が高く、濾過寿命の長い結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができないことがあり、10,000質量部を超えると、第一の架橋剤の未反応官能基が多すぎて、親水化を阻害することがある。
前記第一の架橋剤の付与は、前記結晶性ポリマー微孔性膜に前記フッ素系界面活性剤を付与(浸漬乃至塗布)した後に行ってもよく、前記付与(浸漬乃至塗布)と同時に行ってもよい。
【0095】
前記第二の架橋剤の添加量としては、前記第一の架橋剤の添加量などに応じて適宜選択することができるが、前記第一の架橋剤の添加量100質量部に対し、第二の架橋剤が0.1質量部〜1,000質量部が好ましく、0.25質量部〜750質量部がより好ましく、0.5質量部〜500質量部が更に好ましい。
前記第二の架橋剤の添加量が、前記第一の架橋剤の添加量100質量部に対し、0.1質量部未満であると、耐水性を向上させることができないことがあり、1,000質量部を超えると、前記フッ素系界面活性剤との反応性を低下させることがある。
前記第二の架橋剤の付与は、前記結晶性ポリマー微孔性膜に、前記フッ素系界面活性剤や前記第一の架橋剤を付与(浸漬乃至塗布)した後に行ってもよく、前記付与(浸漬乃至塗布)と同時に行ってもよい。
【0096】
前記架橋促進剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0097】
前記アニール処理における温度としては、100℃〜180℃が好ましく、120℃〜150℃がより好ましい。
前記加熱処理における時間としては、1分間〜60分間が好ましく、1分間〜45分間がより好ましく、1分間〜30分間が更に好ましい。
前記アニール処理の温度が100℃未満又は時間が1分間未満であると、親水化処理が促進しない、架橋反応が進まないなど、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性などが失われることがあり、前記アニール処理の温度が180℃超え又は時間が60分間を超えると、フッ素系界面活性剤、第一の架橋剤、及び第二の架橋剤などが分解することがある。
【0098】
前記フッ素系界面活性剤、必要に応じて、第一架橋剤及び第二の架橋剤を付与する際、本発明の効果を損なわない限り、酸化防止剤等のその他の添加剤などを含有することもできる。
前記酸化防止剤の市販品としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、イルガノックス1010、イルガノックス1035FF、イルガノックス565などが挙げられる。
【0099】
−多価アルコール−
前記多価アルコールとしては、2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール化合物;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル化合物;エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のエリスリトール化合物;ソルビトール;グルコース、ガラクトース等の単糖類;スクロース、ラクトース、マルトース、セルロース、デキストリン、プルラン等の多糖類;これらの誘導体;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、架橋点が多く耐水性が向上するという点で、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、グルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、セルロース、デキストリン、プルランが特に好ましい。
【0100】
−多価アミン−
前記多価アミンとは、分子内に2つ以上のアミノ基を有するアミン化合物を意味する。
前記多価アミンとしては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、直鎖状又は分枝状のポリエチレンイミン、Jeffamine、又はこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
−フッ素系アルコール−
前記フッ素系アルコールとは、分子内にヒドロキシル基を有するフッ素系化合物を意味する。
前記フッ素系アルコールとしては、例えば、A−1420、A−1620、A−7412、A−7612(ダイキン化成社製)、2,2,3,3−テトラフルオロ−1,4−ブタンジオール(TCI社製)、又はこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヒドロキシル基が2つ以上有するフッ素系アルコールを使用することが、耐久性が向上するという点で特に好ましい。
【0102】
<<(4)重合系材料で被覆する方法>>
前記重合系材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカチオン重合体、酢酸ビニル重合体、エチレンオキサイド重合体、ビニル化合物などが挙げられる。
【0103】
−カチオン重合体−
前記カチオン重合体は、少なくともカチオン重合性モノマーを含むカチオン重合性組成物をカチオン重合させて得られる。
前記カチオン重合性組成物は、少なくともカチオン重合性モノマーを含み、カチオン重合開始剤、溶剤、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0104】
前記カチオン重合性モノマーとは、カチオン種により重合を開始し得る重合性化合物を意味する。
前記カチオン重合性モノマーとしては、例えばエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0105】
−−エポキシ化合物−−
前記エポキシ化合物としては、脂肪族エポキシ及び脂環式エポキシのいずれも用いることができる。
【0106】
前記脂肪族エポキシとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルなどが挙げられ、具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールGジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテル、ビスフェノールCジグリシジルエーテル、ジブロモメチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ブロモメチルフェニルグリシジルエーテル、ブロモフェニルグリシジルエーテル、ジブロモメタクレシジルグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脂肪族エポキシの市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製エポライト100MF(トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル)、ナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、日油株式会社製エピオールE400などが挙げられる。
【0107】
前記脂環式エポキシとしては、例えばビニルシクロヘキセンモノオキサイド、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、1,2:8,9ジエポキシリモネン、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記脂環式エポキシの市販品としては、例えばダイセル化学工業株式会社製CEL2000、CEL3000、CEL2021Pなどが挙げられる。
【0108】
−−オキセタン化合物−−
前記オキセタン化合物は、分子内に4員環エーテル、即ちオキセタン環を有する化合物である。
前記オキセタン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス〔{(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ}メチル〕ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン)、3−エチル−〔{(3−トリエトキシシリルプロポキシ)メチル)オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記オキセタニルシルセスキオキサンは、オキセタニル基を有するシラン化合物であり、例えば、前記3−エチル−3−〔{(3−トリエトキシシリル)プロポキシ}メチル〕オキセタンを加水分解縮合させることにより得られる、オキセタニル基を複数有するネットワーク状ポリシロキサン化合物である。
前記オキセタン化合物の市販品としては、例えば、東亞合成株式会社製の商品名OXT−101(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン)、OXT−211(3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン)、OXT−221(ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル)、OXT−212(3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン)、などが挙げられる。
【0109】
−−ビニル化合物−−
前記ビニル化合物としては、カチオン重合可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばスチレン化合物、ビニルエーテル化合物、N−ビニル化合物などが挙げられる。これらの中でも、カチオン重合のしやすさの点でビニルエーテル化合物が特に好ましい。
【0110】
前記スチレン化合物とは、スチレン、スチレンの芳香環の水素原子がアルキル基、アルキルオキシ基又はハロゲン原子によって置換された構造の化合物を意味する。
前記スチレン化合物としては、例えばp−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、α−メチル−p−メトキシスチレン、α−メチル−m−メトキシスチレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
前記ビニルエーテル化合物とは、下記式で示される構造を有する化合物を意味する。
C=CH−R−O−R
ただし、前記式中、Rは、単結合又はアルキレン基を表し、Rは、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。
前記ビニルエーテル化合物としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、メチルブテニルエーテル、エチルブテニルエーテルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記N−ビニル化合物とは、下記式で示される構造を有する化合物を意味する。
C=CH−NR− 又は HC=CH−N=
ただし、前記式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す。
前記N−ビニル化合物としては、例えばN−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカルバゾール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0113】
前記カチオン重合性モノマーの前記親水性組成物における含有量は、0.1質量%〜50質量%が好ましく、0.2質量%〜25質量%がより好ましい。前記含有量が0.1質量%未満であると、十分な親水性を付与できないことがあり、50質量%を超えると、親水性組成物の粘度が高すぎて、該ポリマー微孔性膜中に浸透することができず、内部の親水化が不十分となることがある。
【0114】
前記カチオン重合性モノマーの一部に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む官能性化合物が付加反応していてもよい。
【0115】
−官能性化合物−
前記官能性化合物としては、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、カチオン重合性モノマーとの反応性基、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0116】
−−イオン交換基−−
前記イオン交換基は、金属イオン等をイオン結合により捕捉する官能基である。
前記イオン交換基としては、金属イオンとイオン結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等のカチオン交換基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基、4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基、などが挙げられる。
【0117】
−−キレート基−−
前記キレート基は、金属イオン等をキレート(配位)結合により捕捉する官能基である。
前記キレート基としては、金属イオンとキレート(配位)結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ニトリロトリ酢酸誘導体(NTA)基、イミノジ酢酸基、イミノジエタノール基、アミノポリカルボン酸、アミノポリホスホン酸、ポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、環状エーテル、環状アミン、フェノール及びリジン誘導体、フェナンスロリン基、テルピリジン基、ビピリジン基、トリエチレンテトラアミン基、ジエチレントリアミン基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン基、ジエチレントリアミンペンタ酢酸基、ポリピラゾリルホウ酸基、1,4,7−トリアゾシクロノナン基、ジメチルグリオキシム基、ジフェニルグリオキシム基等の多座配位子、などが挙げられる。
【0118】
−−カチオン重合性モノマーとの反応性基−−
前記カチオン重合性モノマーとの反応性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、チオール基、カルボキシル基、もしくは、それらの誘導体基で、好ましくは、アミノ基、ヒドロキシル基、もしくは、それらの誘導体基、などが挙げられる。
前記反応性基を有する化合物の具体例としては、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ビスヒドロキシエチルグリシン、アミノカルボキシペンチルイミノジ酢酸(同仁化学社製)、タウリン、ヒドロキシプロピルスルホン酸、ホスホリルエタノールアミン、コリン(TCI社製)、などが挙げられる。
【0119】
−−官能性化合物の膜固定−−
結晶性ポリマー微孔性膜の孔壁面にカチオン重合性モノマーを被覆させ、重合させることで固定化するため、官能性化合物がカチオン重合性モノマー重合体の残存エポキシ基に付加反応することにより、非共有結合状態で、結晶性ポリマー微孔性膜に固定される。
また、官能性化合物が結晶性ポリマー微孔性膜に固定されたことは、例えば、特開2005−131482に記載の逆滴定法などにより、確認することができる。
【0120】
−カチオン重合開始剤−
前記カチオン重合開始剤としては、熱カチオン重合開始剤及び光カチオン重合開始剤のいずれも好適に用いることができる。
【0121】
−−熱カチオン重合開始剤−−
前記熱カチオン重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱カチオン重合開始剤としては、市販品を入手することが可能であり、例えば、商品名アデカプトン CP77、アデカオプトン CP77(以上、旭電化工業株式会社製)、CI−2639、CI−2624(以上、日本曹達株式会社製)、サンエイド SI−80L、サンエイド SI−100、サンエイド SI−60L(以上、三新化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0122】
−−光カチオン重合開始剤−−
前記光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線などの活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、重合を開始する。
前記光カチオン重合開始剤としては、例えばスルホニウム塩系化合物、ヨウドニウム塩系化合物、などが挙げられる。
【0123】
前記スルホニウム塩系化合物としては、例えばトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4′−ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、4,4′−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4′−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントンテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィドヘキサフルオロホスフェート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィドヘキサフルオロアンチモネート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0124】
前記ヨードニウム塩系化合物としては、例えば、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0125】
前記光カチオン重合開始剤の市販品としては、例えばトリアリールスルホニウム塩系化合物として、サイラキュアーUVI−6992、UVI−6976(ダウ・ケミカル社製)、アデカオプトマーSP−150、SP−152、SP−170、SP−172(旭電化株式会社製);ジアリールヨードニウム塩系化合物として、Photoinitiator2074(ローディア社製)、イルガキュア250(チバスペシャリティーケミカルズ社製)、CI−5102(日本曹達株式会社製)、WPI−113、WPI−116(和光純薬株式会社製)などが挙げられる。
【0126】
前記カチオン重合開始剤の前記カチオン重合性組成物における含有量は、0.001質量%〜10質量%が好ましく、0.01質量%〜5.0質量%がより好ましい。
【0127】
前記カチオン重合性組成物には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。前記光増感剤を使用することにより、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン等のアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光増感剤の市販品としては、例えば、Anthracure(登録商標)UVS−1331(川崎化成工業株式会社製)、カヤキュアDETX−S(日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0128】
−溶剤−
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、メチレンクロライド、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0129】
前記カチオン重合性組成物には、本発明の効果を損なわない限り、酸化防止剤等のその他の添加剤などを含有することできる。
前記酸化防止剤の市販品としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、イルガノックス1010、イルガノックス1035FF、イルガノックス565などが挙げられる。
【0130】
前記少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物に浸漬する方法、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物で塗布する方法、などが挙げられる。
【0131】
次に、前記親水性組成物を付与(浸漬乃至塗布)後のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を加熱処理又は紫外線照射処理することにより、少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物を重合させる。
前記少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物が、熱カチオン重合開始剤を含有する場合には、加熱処理により、前記親水性組成物をカチオン重合させて、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面にポリマーが被覆される。
前記加熱処理における温度としては、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜180℃がより好ましく、70℃〜160℃が特に好ましい。
前記加熱処理における時間としては、1分間〜120分間が好ましく、1分間〜100分間がより好ましく、1分間〜80分間が更に好ましい。
【0132】
前記少なくともカチオン重合性モノマーを含む親水性組成物が、光カチオン重合開始剤を含有する場合には、紫外線照射処理により、前記親水性組成物をカチオン重合させて、カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面にポリマーが被覆される。
前記紫外線照射処理の照度条件は、1.0×10〜1.0×10mJ/cmの範囲であることが好ましく、5.0×10〜5.0×10mJ/cmであることがより好ましい。
【0133】
−酢酸ビニル重合体−
前記酢酸ビニル重合体とは、酢酸ビニルモノマー又は酢酸ビニルオリゴマーを含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記酢酸ビニルオリゴマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記酢酸ビニルモノマーの2量体〜100量体が好ましい。
前記酢酸ビニルモノマー及び酢酸ビニルオリゴマーとしては、特に制限はないが、前記重合の後、架橋剤により前記微孔性膜と架橋されることが好ましい。このような架橋により、前記結晶性ポリマー微孔性膜の耐久性が向上する。
【0134】
−エチレンオキサイド重合体−
前記エチレンオキサイド重合体を構成するエチレンオキサイド(別名:酸化エチレン、エチレンオキシド、オキシラン、1,3−エポキシエタン)とは、3員環の構造を持つ環状エーテルである。化学式がCO、分子量が44.05の最も単純なエポキシドである。
前記エチレンオキサイド重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エチレンオキサイドを含むガス、又はエチレンオキサイドを含む溶液を噴霧したミストを気相で重合を行う気相重合により得られるものが、多孔質膜の内部まで効率的に親水化できる点で好ましい。
前記エチレンオキサイド重合体の重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0×10〜1.0×10であることが好ましい。
【0135】
−ビニル化合物−
前記ビニル化合物とは、ビニル基(CH=CH−)を有する化合物を意味する。
前記ビニル化合物は、少なくとも1つの不飽和性基を有し、かつ少なくとも1つの官能性基を有する。
前記ビニル化合物が有する官能性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、これら誘導体基などが挙げられる。
これらの中でも、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基を有することが官能性化合物との反応性がよく、反応後にできる結合部位の耐酸、耐アルカリ性が高いという点で好ましい。
前記少なくとも1つの不飽和性基及び官能性基をそれぞれ有するビニル化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ジアリルアミン、N,N−ジメチルジアリルアミン、アリルアミン、ビニルベンジルアミン、アリルアルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、アリルグリシジルエーテルは、官能性化合物と付加反応できる点で、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸は、前記結晶性ポリマー微孔性膜に優れた親水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐薬品性を付与できる点で特に好ましい。
ただし、前記ビニル化合物は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド誘導体でないことが好ましい。
【0136】
以上説明したように表面改質されたカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜は、その表面の少なくとも一部が、表面改質剤で表面改質されているので、親水性を付与できると共に、顕著な非対称構造を形成し得、更なる濾過寿命の向上を図ることができる。これは、結晶性ポリマー性微孔膜の第2の面(加熱面)側の緻密部分にいくほど、表面改質剤を被覆した結晶性ポリマーを、第1の面(非加熱面)側の粗濾過部分よりも厚く付着させることができ、第1の面から第2の面に向かって平均粒径が連続的に変化する程度が大きくなる顕著な非対称構造を形成できるためであると考えられる。
このことは、以下に示す関係を満たすことからも明らかである。
図5Aに示すように、表面に表面改質剤を被覆させてなるカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜において、該表面改質剤を被覆前のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
図5Bに示すように、表面に表面改質剤を被覆させてなるカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜において、該表面改質剤を被覆後(親水化処理後)のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たすことが好ましく、(d’/d’)/(d/d)>1.005がより好ましく、(d’/d’)/(d/d)>1.01が更に好ましい。前記(d’/d’)/(d/d)が1以下であると、粒子の目詰まり等により、寿命が極端に短くなることがある。
【0137】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5mL/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
また、本発明の濾過用フィルタは比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0138】
ここで、図1は、エレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口108から排出される。
【0139】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図2及び図3に示す。
図2はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜2は2枚のサポート1、3によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア7の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー6があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート4、下部エンドプレート5により、精密ろ過膜がシールされている。
図3は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント10はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング8を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズルからハウジング内に入り、フィルターメディア9を通過し、フィルターエレメントコア7の集液口から集められ、液出口ノズル14から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは通常溶着部17で液密に熱融着される。
【0140】
図2は、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールを、Oリングを介して行う例を示しているが、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図1〜図3は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図に限定されるわけではない。
【0141】
本発明の濾過用フィルタは、このように濾過機能が高く長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0142】
−用途−
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0143】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0144】
(合成例1)
ダイキン化成販売株式会社製 A−1420(F(CFCHCHOH)と、エチレンオキサイド(CO)とを用い、S.M.Heilmann et al., J.Fluorine Chem, 59, 1992, 387−396に記載の方法に従い付加反応を行い、下記構造式(1)で表されるフッ素系界面活性剤を合成した。得られたフッ素系界面活性剤の親水性基の置換率は、28.9%であった。
【化3】

【0145】
(実施例1)
<カートリッジ(1)の作製>
−半焼成フィルムの作製−
数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパー」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、70℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。
次に、得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
次に、得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムの一の面(加熱面)を345℃に加熱したロール(表面材質:SUS316)で1分間加熱して、半焼成フィルムを作製した。
【0146】
−結晶性ポリマー微孔性膜(1)の作製−
次に、得られた半焼成フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(1)を作製した。
【0147】
−カートリッジ(1)の形成−
ポリプロピレン不織布2枚の間に、前記結晶性ポリマー微孔性膜(1)を挟んで、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着して円筒体を作製した。得られた円筒体の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着して、エレメント交換式のカートリッジ(1)を作製した。
【0148】
−カートリッジの親水化処理−
5質量%の合成例1の前記構造式(1)で表されるフッ素系界面活性剤、0.5質量%のデコナールEX411(ナガセケムテックス株式会社製)、0.3質量%のペンタエチレンヘキサミン(東京化成工業株式会社製)、及び0.03質量%のDBU(和光純薬工業株式会社製)を含むメタノール溶液に、前記カートリッジ(1)を10分間浸漬し、引き上げた該カートリッジを、大気下、100℃で30分間アニール処理を行った。次いで、処理後のカートリッジを水に30分間浸漬後、メタノールに30分間浸漬することで、洗浄を行い、乾燥した。以上により、表面修飾したカートリッジ(1)を作製した。
【0149】
(実施例2)
<カートリッジ(2)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の表面修飾したカートリッジ(2)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
5質量%ペンタエチレンヘキサミン(Wako社製)、1質量%デナコールEX411(ナガセケムテックス社製)、2.5質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)、及び1.0質量%DBU(和光純薬工業株式会社製)のメタノール溶液に、前記カートリッジ(1)を10分間浸漬し、引き上げた該カートリッジを、大気下、100℃で30分間アニール処理を行った。その後、処理後のカートリッジを水に30分間浸漬後、メタノールに30分間浸漬することで、洗浄を行い、乾燥した。
【0150】
(実施例3)
<カートリッジ(3)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の表面修飾したカートリッジ(3)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
20質量%のエポキシ化合物(デナコールEX411、ナガセケムテックス社製)、1.0質量%の官能性化合物としてのヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)、及び1.0質量%のカチオン重合開始剤(SI100、三新化学株式会社製)を含むメタノール/水混合溶液(メタノールと水との質量比率=90質量%:10質量%)に、前記カートリッジ(1)を10分間浸漬し、引き上げた該カートリッジを、大気下、150℃で30分間アニール処理を行った。その後、処理後のカートリッジをメタノールに30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。
【0151】
(実施例4)
<カートリッジ(4)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の表面修飾したカートリッジ(4)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
濃度1.0質量%のポリビニルアルコール(PVA)(株式会社クラレ製、RS2117)水溶液中に、予めエタノールを含浸させた前記カートリッジ(1)を浸漬し、引き上げた該カートリッジを、続いて、架橋剤としてのエチレングリコールジグリシジルエーテル2.0質量%/KOH 0.20%水溶液に、浸漬させ、大気下で、150℃で10分間アニール処理を行った。その後、沸騰水に30分間浸漬し、洗浄行い、乾燥させた。
【0152】
(実施例5)
<カートリッジ(5)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の表面修飾したカートリッジ(5)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
前記カートリッジ(1)に、真空下で、窒素ガスとエチレンオキサイドガスの混合ガス(窒素ガス:エチレンオキサイドガス=100:1(体積比))を連続的に導入しながら、5.0J/cmの照射エネルギーで、グロープラズマを照射した。
【0153】
(実施例6)
<カートリッジ(6)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の表面修飾したカートリッジ(6)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
蒸留により精製した酢酸ビニルモノマー5質量%、及び重合開始剤としてのα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(純正化学株式会社製)0.1質量%のメタノール溶液に、前記カートリッジ(1)を浸漬し、引き上げた該カートリッジに対して、大気下で60℃2時間アニール処理を行った。その後、メタノールにて30分間浸漬及び洗浄行い、乾燥させた後、水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬させ、鹸化処理を行った。
【0154】
(実施例7)
<カートリッジ(7)の作製>
実施例1において、親水化処理方法を下記に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の表面修飾したカートリッジ(7)を作製した。
−カートリッジの親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)5.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.1質量%を含むメタノール溶液に、前記カートリッジ(1)を10分間浸漬し、引き上げたカートリッジを、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥させ、続いて、1質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)水溶液に浸漬させ、引き上げたカートリッジを、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。
【0155】
(比較例1)
−カートリッジ(8)の作製−
実施例1において、親水化処理を行わない以外は、実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレンの非対称膜からなる、比較例1の非表面修飾カートリッジ(8)を作製した。
【0156】
(比較例2)
−カートリッジ(9)の作製−
実施例1において、100℃で30分間のアニール処理を、γ線による親水化処理(照射線量10Mrad)に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の表面修飾カートリッジ(9)を作製した。
【0157】
(比較例3)
−カートリッジ(10)の作製−
実施例1において、ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜(ジャパンゴアテックス社製、対称孔膜、孔径3μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレンの対称膜からなる、比較例3の表面修飾カートリッジ(10)を作製した。
【0158】
<平均孔径の測定、及び孔の形状評価>
実施例1〜7及び比較例1〜3における各カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜を該結晶性ポリマー微孔性膜の長手方向に沿って裁断し、該結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における裁断面を、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)を撮影した。得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得た。得られた像について100個の孔径を測定し、演算処理することにより、平均孔径を求めた。
【0159】
カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における裁断面における孔部形状の容易な理解のために、模式図を用いて説明する。
図4Aは、比較例3におけるフッ素系界面活性剤被覆前(親水化処理前)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜40の裁断面を模式的に示す図である。
この図4Aにおけるフッ素系界面活性剤被覆前(親水化処理前)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜40の第1の面における平均孔径をdとし、第2の面における平均孔径をdとしたとき、観察したSEM像におけるdとdとの比(d/d)は、1.0であった。
図4Bは、比較例3におけるフッ素系界面活性剤被覆後(親水化処理後)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜45の裁断面を模式的に示す図である。
この図4Bにおけるフッ素系界面活性剤被覆後(親水化処理後)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜45の第1の面における平均孔径をd’とし、第2の面における平均孔径をd’としたとき、観察したSEM像におけるd’とd’との比(d’/d’)は、1.0であった。
したがって比較例3における(d’/d’)/(d/d)は、1.0であった。このように非対称加熱処理を行っていない比較例3の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜では、フッ素系界面活性剤被覆(親水化処理)前後での比(d/d)と比(d’/d’)とに変化がないことが分かった。
【0160】
次に、図5Aは、実施例1におけるフッ素系界面活性剤被覆前(親水化処理前)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜50の裁断面を模式的に示す図である。
この図5Aにおけるフッ素系界面活性剤被覆前(親水化処理前)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜50の第1の面における平均孔径をdとし、第2の面における平均孔径をdとしたとき、観察したSEM像におけるdとdとの比(d/d)は、15であった。
図5Bは、実施例1におけるフッ素系界面活性剤被覆後(親水化処理後)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜55の裁断面を模式的に示す図である。
この図5Bにおけるフッ素系界面活性剤被覆後(親水化処理後)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜55の第1の面における平均孔径をd’とし、第2の面における平均孔径をd’としたとき、観察したSEM像におけるd’とd’との比(d’/d’)は、16.5であった。
したがって実施例1における(d’/d’)/(d/d)は、1.1であった。
【0161】
この実施例1におけるフッ素系界面活性剤被覆後の結晶性ポリマー微孔性膜の比(d’/d’)と、実施例1におけるフッ素系界面活性剤被覆前の結晶性ポリマー微孔性膜における比(d/d)との比較から、フッ素系界面活性剤被覆(親水化処理)により、第1の面(非加熱面)における平均孔径と、第2の面(加熱面)における平均孔径との比を大きくとることができることが分かった。
この結果は、SEM像観察前の予想に反し、結晶性ポリマー微孔性膜50の平均孔径が第1の面から第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化することに加え、フッ素系界面活性剤を用いた親水化処理後における親水性の被覆部55の厚みが、第1の面から第2の面に向かって厚みが更に減少する方向に連続的に変化することに基づくものである。これは、結晶性ポリマー性微孔膜の第2の面(加熱面)側の緻密部分にいくほど、フッ素系界面活性剤を被覆させてなる結晶性ポリマーを、第1の面(非加熱面)側の粗濾過部分よりも厚く付着させることができ、第1の面から第2の面に向かって平均粒径が連続的に変化する程度が大きい、顕著な非対称構造を形成できるためであると考えられる。
このような結果から、実施例1におけるカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜においては、親水性に優れることに加え、第1の面における平均孔径と、第2の面における平均孔径との比を大きくとることができるので、目詰まりまでの濾過寿命(濾過流量)を大幅に改善できることが明らかになった。
【0162】
同様に、実施例2では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15.9となり、(d’/d’)/(d/d)=1.06であった。
同様に、実施例3では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=18.5となり、(d’/d’)/(d/d)=1.23であった。
同様に、実施例4では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=18となり、(d’/d’)/(d/d)=1.2であった。
同様に、実施例5では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15.9となり、(d’/d’)/(d/d)=1.06であった。
同様に、実施例6では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15.6となり、(d’/d’)/(d/d)=1.04であった。
同様に、実施例7では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=16.9となり、(d’/d’)/(d/d)=1.13であった。
同様に、比較例1では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理を行っていないので、孔径の変化はなかった。
同様に、比較例2では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=16.2となり、(d’/d’)/(d/d)=1.08であった。
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0163】
<親水性の評価>
次に、作製した実施例1〜7及び比較例1〜3の各カートリッジからPTFE微孔性膜をばらして、親水性を評価した。
PTFE微孔性膜の親水性は、特許第3075421号公報を参考に評価した。具体的には、下記方法である。
初期親水性は高さ5cmのところから水滴をサンプル表面に落し、水滴が吸収されるまでにかかる時間を測定することにより求めた。親水性は次のように評価した。結果を表1に示す。
〔評価基準〕
A:即時に吸収
B:自然に吸収
C:加圧してのみ吸収あるいは、吸収されないが接触角は減少
D:吸収されない。即ち、水を撥ねる。このD評価は多孔性フッ素樹脂材料に特有である
【0164】
<濾過テスト>
実施例1〜7及び比較例1〜3の各カートリッジについて、濾過テストを行った。まず、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ1.5μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧10kPaとして、濾過し、目詰まるまでの透過量を表1に示す。
【0165】
【表1】

表1の結果から、実施例1〜7及び比較例3は、親水性があり、比較例1は親水性が全くないことが分かった。また、濾過テストにおいては、比較例1のPTFE微孔性膜は、親水性がなく、測定不能であった。比較例2及び3は、100ml/cmを超えることはなかった。
これに対し、実施例1〜7は、イソプロパノールによるプレ親水化処理が不要であり、かつ100ml/cm以上まで濾過が可能であることが分かった。
【0166】
<耐水性の評価>
実施例1〜7及び比較例1〜3のカートリッジに対し、200mLの水を100kPaの圧力条件下で通す過程を5回繰り返した。乾燥は、1回通すごとに行った。
耐水性の評価は、以上の過程を経た実施例1〜7及び比較例1〜3におけるカートリッジに対し、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0167】
<耐酸性の評価>
耐酸性の評価は、実施例1〜7及び比較例1〜3のカートリッジを、1N塩酸水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0168】
<耐アルカリ性の評価>
耐酸性の評価は、実施例1〜7及び比較例1〜3のカートリッジを、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0169】
<耐薬品性の評価>
耐薬品性の評価は、実施例1〜7及び比較例1〜3のカートリッジを、メタノールに1時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0170】
【表2】

表2中、「測定不能」は、親水性に乏しいため、評価できなかったことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の濾過用フィルタは、非対称孔構造を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化後に表面改質することにより、空孔率を確保でき、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過などに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0172】
1 一次側サポート
2 精密ろ過膜
3 二次側サポート
4 上部エンドプレート
5 下部エンドプレート
6 フィルターエレメントカバー
7 フィルターエレメントコア
8 Oリング
9 フィルターメディア
10 フィルターエレメント
11 ハウジングカバー
12 ハウジングベース
13 液入口ノズル
14 液出口ノズル
15 エアーベント
16 ドレン
17 溶着部
40 対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜
45、55 被覆したフッ素系界面活性剤
50 非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密ろ過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 液体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化してなるカートリッジを備えた濾過用フィルタであって、
前記カートリッジを構成する結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部が、カートリッジ化後に表面改質されていることを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項2】
表面改質が、結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を、架橋系材料及び重合系材料のいずれかで被覆することにより行われる請求項1に記載の濾過用フィルタ。
【請求項3】
架橋系材料が、親水性ポリマー、界面活性剤、多価アルコール、多価アミン及びフッ素系アルコールのいずれかである請求項2に記載の濾過用フィルタ。
【請求項4】
架橋系材料が、架橋剤により架橋されている請求項3に記載の濾過用フィルタ。
【請求項5】
重合系材料が、カチオン重合体、酢酸ビニル重合体、エチレンオキサイド重合体、及びビニル化合物のいずれかである請求項2に記載の濾過用フィルタ。
【請求項6】
表面改質前のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
表面改質後のカートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たす請求項1から5のいずれかに記載の濾過用フィルタ。
【請求項7】
結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から6のいずれかに記載の濾過用フィルタ。
【請求項8】
結晶性ポリマー微孔性膜が、プリーツカートリッジに加工されている請求項1から7のいずれかに記載の濾過用フィルタ。
【請求項9】
第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する結晶性ポリマー微孔性膜を作製する結晶性ポリマー微孔性膜の作製工程と、
前記結晶性ポリマー微孔性膜をカートリッジ化するカートリッジ化工程と、
前記カートリッジ化後の結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を表面改質する表面改質工程と、
を含むことを特徴とする濾過用フィルタの製造方法。
【請求項10】
結晶性ポリマー微孔性膜をプリーツカートリッジに加工する請求項9に記載の濾過用フィルタの製造方法。
【請求項11】
結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を架橋系材料又は重合系材料で被覆する請求項9から10のいずれかに記載の濾過用フィルタの製造方法。
【請求項12】
結晶性ポリマー微孔性膜を構成する結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項9から11のいずれかに記載の濾過用フィルタの製造方法。

【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110474(P2011−110474A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267697(P2009−267697)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】