説明

火薬

本発明は、有効化学化合物として2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及び/又はその誘導体を含有する火薬に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火薬(Sprengstoff)に関する。
【0002】
公知の現代の火薬、例えばトリニトロトルエン(TNT)又はヘキソーゲン(HMX)の場合に、それらの製造のためには、ニトロ基、すなわちNO2基は、ニトロ化反応により炭素及び窒素を含有する有機分子へ挿入される。こうして、火薬の燃焼もしくは爆発様反応に必要な酸素は、火薬自体の有効化学化合物中に固定される。いわゆる火薬は、極めてエネルギー豊富であり、かつ別の火薬、例えばオクトーゲン(RDX)と共に、多くの用途において工業的に使用されている。
【0003】
これらの火薬の欠点は、火薬自体が極めて有毒であることにあり、その際に例えばTNTは皮膚接触の際にアレルギー反応を引き起こし得るものであり、かつヘキソーゲンは発がん作用すら有する。
【0004】
そのうえ、この種の火薬、例えばTNTが、調和の取れた酸素−炭素バランスを有しておらず、かつ前記火薬の製造のための出発物質が、危険であることは不利である。
【0005】
本発明は、多くの工業的な用途において使用可能であり、高エネルギーで容易に取り扱い可能な火薬を提供するという課題が基礎となっている。
【0006】
この課題を解決するために、請求項1の特徴が提供されている。本発明の有利な使用、変化形(Varianten)、実施態様及びさらなる態様(Weiterbildungen)は、請求項2〜7に記載されている。
【0007】
本発明による火薬は、有効化学化合物として2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及び/又はその誘導体を含有する。
【0008】
この有効化学化合物は、一般的に火薬又は前記火薬の成分を形成することができる。
【0009】
その場合に、本発明による火薬中で、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンに選択的に又は付加的に、化学有効化合物として2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジン又は2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジン、すなわち2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの誘導体が考慮されていてよい。
【0010】
本発明による火薬中の化学有効化合物としての2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの本質的な利点は、この化合物が、完全に調和の取れた酸素−炭素バランスを有することにある。前記火薬の崩壊(Zerfalls)が開始する際に、実験式がC6106となる2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンが、
6106 → 6CO + 5N2
の関係により、一酸化炭素(CO)及び窒素へ定量的に分解される。
【0011】
熱力学的に安定なガス中でのこの完全な分解は、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンを、高いエネルギーポテンシャルを有する化学有効化合物にする。それゆえ、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン、同じようにその誘導体もまた、幅広い応用分野において、特に発射薬(Treibladung)としても使用可能である高爆発性火薬である。
【0012】
特に有利に、前記の化学有効化合物からなる本発明による火薬は、ガス発生器としても使用されることができる。この種のガス発生器は、例えば車両組立において、例えばエアバッグ、シートベルトプリテンショナーシステム(Gurtstraffersystemen)等の製造に使用される。
【0013】
本発明による火薬のこの種の使用事例は、特にまた故に可能である、それというのも、化学有効化合物が有毒ではなく、危険がなく、かつ単純に取り扱い可能だからである。
【0014】
本発明のさらなる本質的な利点は、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及び/又はその誘導体である2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジン及び2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジンの製造に、化学的に不活性でかつ毒物学的に懸念のない物質が使用されることができることにある。
【0015】
この化学有効化合物の出発物質として、一方では、名称メレムで公知の、トリアミノ−s−ヘプタジンが使用されることができる。メレムの他の呼称は、トリアミノ−トリ−s−トリアジン、シアメルルトリアミド又は1,3,4,6,7,9,9b−ヘプタアザフェナレン−2,5,8−トリアミンである。
【0016】
本発明による火薬の化学有効化合物のためのさらなる可能な出発物質は、名称メロンで公知の、前記2,6,10−トリアミノ−s−ヘプタジンのポリマーである。
【0017】
特に有利に、本発明による化学有効化合物用の出発物質として、HEF-Durferrit GmbH社、Mannheim (DE)より商標名REG1(登録商標)で製造され、かつ販売されている、メロンとメレムの混合物を含有する軟窒化性塩浴用の再生剤が適している。
【0018】
メレム、メロン、及びまたREG1(登録商標)の本質的な利点は、これらの物質が化学的に不活性であり、かつ無毒であることにある。
【0019】
一般的に、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン又はその誘導体であるメレム、メロン又はREG1(登録商標)の製造のためには、適したニトロ化試薬を使用しながら、ニトロ化される。REG1(登録商標)が出発物質として使用される場合には、ニトロ化の際に、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン、その誘導体及びさらなる化学有効化合物の混合物が得られ、この化合物は一般的に、硝化酸(Nitriersaeure)又はニトロ化試薬でのREG1(登録商標)の処理の際にもたらされ、かつ以下にニトロメロンと呼ばれる。
【0020】
新種の化学有効化合物としてのこのニトロメロンは、単独で又は2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及びその誘導体との混合物で、化学有効化合物として本発明による火薬中で使用されることができる。
【0021】
その場合に、ニトロメロンは大体において、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及びその誘導体の性質に相当する性質を有する。
【0022】
本発明は、以下に実施例及び描写に基づいて説明される。その際に以下のことを示す:
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】トリニトロ−s−ヘプタジンの構造式。
【図2】トリアミノ−s−ヘプタジンの構造式。
【図3】シアメルル酸三カリウムの構造式。
【図4】シアメルル酸の構造式。
【図5】トリクロロ−s−ヘプタジン(トリクロロシアメルラート)の構造式。
【図6】トリクロロ−s−ヘプタジンのニトロ化。
【図7】メロンの構造式。
【図8】ニトロメロンの構造式。
【0024】
図1は、本発明による火薬中の化学有効化合物として使用される2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの構造式を示す。選択的に又は付加的に、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの誘導体、すなわち2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジン及び2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジンも、本発明による火薬の化学有効化合物として使用されることができる。
【0025】
この化学有効化合物は、高いエネルギーポテンシャル及び調和の取れた酸素−炭素バランスを有する火薬を形成し、その際にこの化合物は前記火薬の爆発の際に、完全に一酸化炭素及び窒素へ変換される。それゆえ、この化学有効化合物は、推進薬(Treibmittel)及び特に例えばエアバッグに使用されることができるガス発生器を形成する。
【0026】
前記2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンは、メレム又はトリアミノ−トリ−s−トリアジンとして公知である2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンのニトロ化により、製造可能である。
【0027】
図2は、メレムの構造式を示す。メレムのニトロ化は、公知のニトロ化反応の使用下に行われ、これらの反応は例えばOrganikum, Wiley VCH, Weinheim 2001 (ISBN 3-527-29985-8)、188頁以降及び358-361頁に記載されている。この刊行物中で、ニトリルカチオンNO2+を供与する物質として、特に硝酸又は硝化酸(硝酸及び硫酸の混合物)が挙げられる。前記物質2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジン及び2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジンは、同様にして、不完全なもしくは中断されたニトロ化により製造可能である。他の合成可能性は、2,6,10−トリアミノ−s−ヘプタジンのジアゾ化及び引き続きニトロ化にある。
【0028】
純物質で困難を伴ってのみ入手可能であるメレムの代わりに(Juergens, Irran他, J. Am. Chem. Soc. 2003 125 (34) 10288-10300)、挙げた化学有効化合物のための出発物質として、HEF - Durferrit GmbH社/Mannheim (DE) のREG1(登録商標)、軟窒化性塩浴用の有機再生剤も使用されることができる。REG1(登録商標)は、メロン、実験式[C639xのトリアミノ−s−ヘプタジンのポリマーとメレムの混合物である。
【0029】
メロンの構造式は、図7に示されている。前記の化学有効化合物は、REG1(登録商標)のニトロ化により製造され、その際にここでも、前記のニトロ化反応が使用されることができる。
【0030】
本発明による2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンを製造するための選択的な出発物質として、シアメルル酸三カリウム(図3)、シアメルル酸の三カリウム塩又はシアメルル酸(図4)の他のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩又はリチウム塩が、使用されることができる。シアメルル酸三カリウムは、実験式K3673を有する。シアメルル酸三カリウムは、濃カセイカリ液中でのREG1(登録商標)の又はメロンの24時間の煮沸により、極めて良好な収率で得られる。これは、結晶化された未乾燥の形で結晶水を含有し、この結晶水は真空中での加熱により除去されることができる。REG1(登録商標)とアルカリ金属水酸化物との反応の際に、REG1(登録商標)中に含まれる成分メロンのC−NH−CもしくはC−N−C橋は分解されるが、エネルギー豊富なs−ヘプタジン系"C6N7"(別の呼称:トリ−s−トリアジン系又はシアメルル系)は得られたままである。こうして、メロンから、相対的に大量のエネルギー豊富なトリ−s−トリアジン系を、シアメルル酸のアルカリ金属塩の形で取得することができる。K3673の製造は、Kroke他, New. J. Chem., 2002 (26) 508-512に記載されている。K3673からは、ついで、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンが、次のニトロ化反応により製造されることができる:
67(OK)3 + 6HNO3 → C67(NO23 + 3KNO3 + 3H2O + 3/2O2
【0031】
本発明による2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンは、シアメルル酸の塩化物からも、塩素原子がニトロ基により置換されることによって、合成されることができる(図5及び6)。シアメルル酸塩化物(トリクロロ−トリ−s−トリアジン)は、シアメルル酸のアルカリ金属塩とPCl5との反応によって得られる。シアメルル酸塩化物(C67Cl3)の製造は、Kroke他, New. J. Chem., 2002 (26) 508-512に並びにSchroeder及びKober, J. Org. Chem. 1962 (27) 4262-4266に記載されている。
【0032】
ニトロ化によるトリニトロ−トリ−s−トリアジンの製造のためのさらなる潜在的な出発物質は、Horvath-Bordon, Kroke他, Dalton Trans., 2004, 3900-3908に見出される。
【0033】
図8は、以下にニトロメロンと呼ぶ、さらなる化学有効化合物の構造式を示し、この化合物は、これまで挙げた化学有効化合物に選択的に又は付加的に、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン、2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジン及び2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジンが、本発明による火薬中で使用されることができる。
【0034】
名称ニトロメロンは、ニトロセルロースの呼称に従って選択されている。
【0035】
ニトロメロンは、公知のニトロ化反応により、硝化酸又はニトロ化試薬、例えば硝酸アセチル又は − 作業技術的により安全に − 無水酢酸の混合物を、水を含まない酢酸中で、濃硝酸の添加下に良好に冷却する際にREG1(登録商標)に作用させることによって、得られることができる。
【0036】
REG1(登録商標)のニトロ化の特殊な処理経過に応じて、ニトロメロン及び2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及びその誘導体の混合物が得られ、その際にこの混合物は、火薬として使用されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効化学化合物として2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジン及び/又はその誘導体を含有することを特徴とする、火薬。
【請求項2】
化学有効化合物として、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの誘導体としての2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジンを含有する、請求項1記載の火薬。
【請求項3】
化学有効化合物として、2,6,10−トリニトロ−s−ヘプタジンの誘導体としての2,6−ジアミノ−10−ニトロ−s−ヘプタジンを含有する、請求項1又は2のいずれか1項記載の火薬。
【請求項4】
2−アミノ−6,10−ジニトロ−s−ヘプタジンに付加的に又は選択的に、硝化酸又はニトロ化試薬で処理されたメロンが、有効化学化合物として使用される、請求項1から3までのいずれか1項記載の火薬。
【請求項5】
火薬の有効化学化合物が、硝化酸又はニトロ化試薬で処理されたREG1(登録商標)から得られる、請求項1から4までのいずれか1項記載の火薬。
【請求項6】
推進薬としての、請求項1から5までのいずれか1項記載の火薬の使用。
【請求項7】
ガス発生器としての、請求項1から5までのいずれか1項記載の火薬の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−500769(P2012−500769A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524214(P2011−524214)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005377
【国際公開番号】WO2010/022831
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(399021529)ドゥルフェリット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Durferrit GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−68169 Mannheim, Germany
【Fターム(参考)】