説明

災害救助用特殊車両

【課題】建造物の倒壊や地盤の隆起等によって交通が遮断された災害発生地において、緊急に障害物の除去や輸送等を行う災害救助用車両。
【解決手段】作業アームを有するクローラ車を常備しておき、緊急時にその上に自動車を乗入れ、自動車の動力を利用して走行および救助作業を行う。自動車動力の取り出しは駆動輪に装着した連動チャックを介して行い、チャックに連結した伝動シャフトの回転をクローラおよび作業アームに伝達する。チャックを駆動輪へ装着および取外しするのにもこの伝動シャフトは使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の動力を取り出して被災地等での救助作業を行う特殊車両に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等の被災地においては、救助活動をおこなうために障害物の除去や通路の確保が欠かせない。これに使用する特殊車両は高価で汎用性に乏しいため配置台数が少なく、配置場所も作業現場等に限定されるため被災地への迅速な到着は望めない。
一方、一般家庭にまで広く普及している自動車は機動性にも富むが、道路の隆起や損傷、建造物の倒壊等のため走行が困難となるだけでなく、自動車自身が障害物や危険物に化してしまう。そのため初期活動は小さな人力に頼らざるを得ないのが実情である。
【0003】
本発明は被災地において危険物化、無力化する自動車から動力を取り出して、迅速に救助作業を行うことのできるクローラ車を提供するものである。このクローラ車は被災地だけではなく、平常時においても山野や泥濘地、砂地、雪上等での走行や作業に使用できる。
【0004】
自動車の動力を利用して不整地を走行するクローラ車は、動力を取り出す方法によって二種類に大別できる。自動車の駆動輪を外してクローラに取り替える方式と、地面から浮かした駆動輪に仲介ローラーを接触させ、仲介ローラーの回転をクローラに伝達する方式である。
【0005】
駆動輪をクローラに取り替える車両はすでに実用されているが、山野や積雪地において人員や荷物の運搬を行うものであって、救助や障害物の除去等の作業を行うものは見当たらない。
【0006】
自動車駆動輪の回転力を、ローラーを介してクローラに伝達する方式については、実用公開昭63−193908にレジャーボートの事例が開示されている。湖沼や海岸まで自動車で牽引したレジャーボート上に自動車が乗り込み、駆動輪をボート内の仲介ローラーの上に乗り上げて回転させ、そのローラーの回転力をボート底部のクローラに伝達して沖合へ向けて走行させるものである。沖合においてボートが浮上すると自動車の駆動輪をローラーから浮かせ、ホイールに接合されたファンを作動させて水上を推進する。
しかし、この考案においては高速で回転している駆動輪に仲介ローラーを接触させるだけのため、駆動輪の横滑りや空回りが発生して動力の伝達は困難である。また走行以外の作業を行うことについては記載されていない。
【0007】
実用新案第3050859号もローラー仲介方式の一つである。鼓状のローラーとポンプを組み合わせた小型装置を自動車に積込んで山間僻地まで移動し、目的地において地面から浮かせた駆動輪の側面にこのローラーを接触させて回転力を取り出し、その回転力によって油圧ポンプを作動させて揚水作業等に使用するものである。
しかしこの事例においても、小型装置に組み込まれているローラーが高速で回転している駆動輪に単に接触しているだけなので遊離や脱輪を生じやすく、安定して回転力を取り出すことはできない。また地上に置かれたポンプを作動させるだけの出願であり、被災地における走行や作業は想定されていない。
【0008】
これらの二つの方式以外にも特開平11−159442等の方法が開示されている。これは駆動輪のホイールを取り外して代わりに専用プーリーを装着し、これにベルトを掛けてポンプや発電機を駆動するものである。しかしクローラ車や作業機械への適用は難しく、被災地における走行や作業については全く記載されていない。
【特許文献1】実開昭63−193908
【特許文献2】実用新案第3050859号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は自動車駆動輪の回転力を取り出し、その回転力によって被災地での救助作業等を行う特殊車両を提供することである。そのための技術的な課題は駆動輪の回転力を安定して取出すこと、障害物の多い被災地を走行してさらに救助作業をも実施できることおよび運転者が単独で操作できることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は作業アームを有するクローラ車の上に自動車を乗入れ、自動車の駆動輪に装着した連動チャックによって回転力を取り出して、走行用クローラおよび作業アームを作動させる特殊車両である。チャックの締付および駆動輪からの回転力の取出しは連動チャックに連接した伝動シャフトによって行い、自動車を乗入れる路板および作業用アームはクローラ車の側面に設けた支持軸を支点として回転可能に設け、目的とする角度に調節して使用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、自動車駆動輪のタイヤに連動チャックを締付装着してその回転力を取り出すため、長時間にわたって安定して回転力を取り出すことが可能である。その結果、動力を有しないクローラ車のみを常備しておくことによって、大半の家庭に普及している自動車を用いて迅速に災害救助活動を実施できる。また、クローラの作動のほかに作業アームおよび乗込み路板も自動車から取出した回転力によって作動する単純な機構のため、運転者が単独で操作することが可能である。
動力機構を設備しないクローラ車は通常の作業車に比較すると極めて安価であり、経済的なゆとりのない中小の諸団体や企業においても活用できる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の詳細を図面に基づいて説明する。
図1は乗用車を搭載したクローラ車を説明する側面図および正面図である。乗用車1の駆動輪3の回転力を、伝動装置4を介して図示されていない油圧ポンプ25に伝動し、この油圧によってクローラ車2の油圧モーター7および作業アーム10の油圧モーター9を作動させる。
【0013】
クローラ車の始動、速度制御および停止は、乗用車の運転席においてクラッチ、アクセルペダルおよびブレーキを操作することによって行い、方向変換は操作弁6を用いて左右のクローラの回転速度に差をつけることによって行うことができる。操作弁6は携帯型にして乗用車内に持ち込んでもよいし、クローラ車に取り付けて乗用車の外で行うことも可能である。
作業アーム10は、クローラ車の両側面に設けた支持軸13を支点として回転可能に取り付けられており、駆動装置9?から掛け渡したチェーンによって目標とする角度に回転させることができる。アームに取り付けた巻き上げ装置11は重量物や大型部材の引き上げや移動を行うためのもので、油圧モーター9によって作動する。
【0014】
図2は、駆動輪3の回転力を取り出して油圧ポンプ25の動力源とするための伝動装置4の断面図と、伝動装置4に使用している連動チャックの説明図である。駆動輪3を浮かせてそのタイヤに連動チャック15を装着する。装着にあたっては、伝動装置全体をレール16に沿ってスライドさせ、チャック15の位置をタイヤの適切な位置に合せる。続いてハンドル17を取り付け、手動で回転させることによってチャック15をタイヤに締め付ける。
締付力は、ハンドル17の回転力を遊星歯車18によって拡大して伝動シャフト19に伝えられ、シャフト端部に接合してある渦巻円板20が回転し、渦巻溝21に嵌合している脚部22を経由してチャック15に伝達される。
防振パッド23はタイヤの振動を取出装置4に伝えないためのものである。
【0015】
チャックの装着が終了した後ハンドル17を抜き取り、乗用車のエンジンを始動して駆動輪3を回転させる。その回転力はチャック15から伝動シャフト19に伝えられ、伝動シャフト19に固定されたチェーン24を経由して油圧ポンプ25が作動する。この油圧によって図1の走行用モーター7、作業用アームの駆動装置8および巻上げ装置11を作動させる。伝動シャフト16から油圧ポンプ25への回転力の伝達は、チェーンの代わりに歯車等を用いることもできる。
【0016】
図3は自動車をクローラ車の上に搭載するための乗降用路板26である。この路板は図1に示しているようにクローラ車の両側面に設けた支持軸13を支点として、回転可能に装備されている。
乗用車は、図3(1)に示すように駆動輪を先頭にして道路面に接地した先端爪27から乗り込み、終端にあるタイヤ受台28で停止する。この位置で駆動輪の回転をさらに続けることによって昇降ローラー29が回転し、案内ギア30によって路板が降下する。路板12が水平の位置に達したところで、図3(2)に示すように駆動輪の回転を停止して路板を固定し、先端爪27を立てて車輪の動き出しを防止する。この状態でピン31を抜いて車輪受台をさらに下方へ降下させて駆動輪を浮かせる。
【0017】
図4および図5は乗用車を搭載したクローラ車に、作業アーム10のほかにさらに多様な作業を行うための作業車を連結した例である。図4は機材や物資等の運搬車の牽引例、図5は農業や園芸、除雪等を行う作業車を連結した例である。このように本発明の特殊車両は、被災地での救助活動だけでなく農業は園芸、除雪作業やレジャー、不整地での走行や活動に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】乗用車を搭載したクローラ車の側面図および正面図
【図2】乗用車駆動輪の回転力取出す伝動装置の断面図および連動チャックの説明図
【図3】乗用車をクローラ車に搭載するための乗込み路板
【図4】乗用車を搭載したクローラ車の作業アームに作業車を牽引した事例
【図5】乗用車を搭載したクローラ車に作業車を接続した事例
【符号の説明】
【0019】
1 乗用車
2 クローラ
3 駆動輪
4 伝動装置
5 油圧用オイルタンク
6 操作弁
7 走行モーター
8 車輪位置決め装置
9 作業アーム駆動装置
10 作業アーム
11 巻き上げ装置
12 乗用車乗入れ路板
13 支持軸
15 チャック
16 レール
17 ハンドル
19 伝動シャフト
20 渦巻き円板
21 渦巻き溝
22 チャックの脚部
23 防振パッド
24 チェーン
25 油圧ポンプ
27 路板先端爪
28 駆動輪受台
29 昇降ローラー
30 ローラー案内ギア
31 受台回転軸
32 作業車
33 作業車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業アームを有するクローラ車の上に自動車を搭載し、自動車の駆動輪に装着したチャックを介して回転力を取出して油圧ポンプを駆動し、その油圧によって作業アームまたは/および走行用クローラを作動させる特殊車両。
【請求項2】
自動車の駆動力取り出しに連動チャックを使用し、駆動輪へのチャックの取付け・取外しおよび駆動輪の回転力取り出しを、チャックに連結した伝動シャフトによって行う請求項1の特殊車両。
【請求項3】
クローラ車の側面に設けた支持軸を中心として回転可能に設置した、作業アームを有する請求項1または請求項2の特殊車両。
【請求項4】
自動車を搭載するための乗入れ路板および駆動輪を遊離させるための昇降板を、クローラ車の側面に設けた支持軸を中心として回転可能に設けた請求項1または請求項2の特殊車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−176469(P2007−176469A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381268(P2005−381268)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(506031177)