説明

炉心頂部監視装置

【課題】炉心上部の障害物の有無の確認を行えるとともにスクラム時間を測定できる炉心頂部監視装置を提供する。
【解決手段】冷却材として液体金属を用いる原子炉3における炉心9の頂部を監視する炉心頂部監視装置1であって、炉心9の上方を横断するように超音波信号を略水平面状に送信し、反射波を受信する超音波センサ31と、超音波センサ31の受信信号を処理し、送信面41内に障害物が存在することを判定する制御部37と、が備えられ、制御部37には、制御棒を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、制御棒が障害物として送信面41を通過するまでの時間を演算し、スクラム時間を算出するスクラム時間測定部47が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却材として液体金属を用いる原子炉における炉心の頂部を監視する炉心頂部監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷却材として液体金属、たとえば、ナトリウムを用いる原子炉は、燃料交換前に原子炉容器上部に設けられた制御棒駆動機構と制御棒とを切離し、制御棒を炉心に挿入した後、炉心上部機構と一体の回転プラグを回転移動して燃料交換を行う。このとき制御棒の切離しと炉心内への挿入が確実に行われていない場合、あるいは燃料集合体等の炉心構成要素が浮上り、炉心上部構造と干渉している場合に、回転プラグを回転すると炉心に重大な損傷を与える恐れがある。したがって、このような問題を回避するために、何等かの手段で炉心上部の障害物の有無を確認し、障害物の有る場合には正常な位置に戻す必要がある。
ナトリウムは不透明物質であるため、特許文献1に示されるように超音波を利用した監視装置が種々提案されている。
【0003】
また、燃料交換前あるいは緊急時に制御棒駆動機構と制御棒とを切離し、制御棒を炉心に落下させることがある。この場合、制御棒を切り放した後、炉心支持板あるいは下部案内管に落下するまでの時間(スクラム時間)を測定する必要がある。
このスクラム時間を測定する方法として、たとえば、特許文献2に示されるように、制御棒に永久磁石を取り付け、制御棒を案内する案内管に検出コイルを設置して、制御棒が落下の際、永久磁石が検出コイルを通過する時に検出コイルに発生する起電力を検出してスクラム時間を算出するものが提案されている。あるいは、特許文献3に示されるように、落下した制御棒が炉心支持板に衝突した際に発生する機械的振動を検出してスクラム時間を算出するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−34076号公報
【特許文献2】特開平2−281197号公報
【特許文献3】特開平3−269298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2、3に示されるものでは、炉心上部の障害物の有無の確認は行えない。一方、特許文献1に示されるものは、スクラム時間を測定する点について何ら示唆がなされていない。
すなわち、これら従来のものは、炉心上部の障害物の有無を確認およびスクラム時間の測定についてそれぞれ別の測定装置を設置することになるので、その分設備が高価となる。また、特に、特許文献2に示されるものでは、炉心上部機構の構造が複雑となり、高価となるとともに信頼性が少なくなる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、炉心上部の障害物の有無の確認を行えるとともにスクラム時間を測定できる炉心頂部監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の一態様は、冷却材として液体金属を用いる原子炉における炉心の頂部を監視する炉心頂部監視装置であって、前記炉心の上方を横断するように超音波信号を略水平面状に送信し、反射波を受信する超音波装置と、該超音波装置の受信信号を処理し、前記水平面内に障害物が存在することを判定する制御部と、が備えられ、該制御部には、制御棒を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、該制御棒が前記障害物として前記水平面を通過するまでの時間を演算し、スクラム時間を算出するスクラム時間測定部が備えられている炉心頂部監視装置である。
【0008】
本態様にかかる炉心頂部監視装置によると、超音波装置は、炉心の上方を横断するように超音波信号を略水平面状に送信するので、障害物がこの水平面内に存在すると超音波信号は障害物で反射されて超音波装置に受信される。制御部で、超音波装置の受信信号を処理し、水平面内に障害物が存在することを判定するので、炉心上部における障害物の有無を確認することができる。
燃料交換前あるいは緊急時に制御棒駆動機構と制御棒とを切離し、炉心上部機構に保持された制御棒が炉心に落下させられると、制御棒は超音波信号が送信されている水平面内を横切ることになる。したがって、制御棒は水平面内を通過する時間の間、障害物として認識されることになるので、制御棒を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、制御棒が障害物として水平面を通過するまでの時間を演算してスクラム時間を算出することができる。
【0009】
上記態様では、前記超音波装置は、複数個備えられていてもよい。
【0010】
このように超音波装置を複数個備えると、十二分な範囲で炉心の上方をカバーすることができる。多数の障害物があっても、それらを確実に確認することができる。
また、同じ障害物からの送受信時間の違いから、当該障害物の位置を特定できることができる。
【0011】
上記態様では、複数備えられた前記超音波装置は、それぞれ送信する超音波の周波数が異なるものとされていてもよい。
【0012】
このようにすると、超音波装置同士の相互干渉がなくなるので、広い範囲で同時に障害物の存在を確認することができる。
【0013】
上記態様では、前記超音波装置は、上から下に向けて移動して設置される際、炉心上部機構からの反射波をモニタし、該上下方向の位置は、炉心上部機構からの反射波がなくなった位置を基準として上下方向の位置が決められるようにしてもよい。
【0014】
このようにすると、炉心上部機構を障害物として認識することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる炉心頂部監視装置では、超音波装置は、炉心の上方を横断するように超音波信号を略水平面状に送信するので、炉心上部における障害物の有無を確認することができる。
制御棒が制御棒駆動機構から切離され、炉心に落下させられると、制御棒は超音波信号が送信されている水平面内を横切り、障害物として認識されることになるので、制御棒を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、制御棒が障害物として水平面を通過するまでの時間を演算してスクラム時間を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかる炉心頂部監視装置が設置された原子炉の内部構造の一例を示す概念的立断面図である。
【図2】図1のX部を示す部分断面図である。
【図3】制御棒駆動機構と制御棒との接続状態を示す断面図である。
【図4】制御棒駆動機構と制御棒とが接続されている状態を示す斜視図である。
【図5】制御棒が制御棒駆動機構から切り離され炉心に落下中の状態を示す斜視図である。
【図6】複数の超音波センサによる測定状態を示す平面図である。
【図7】複数の超音波センサによる別の測定状態を示す平面図である。
【図8】制御棒が炉心へ落下する際の各信号の状態を時系列に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態にかかる炉心頂部監視装置1について、図1〜図8を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる炉心頂部監視装置1が設置された原子炉3の内部構造の一例を示す概念的立断面図である。図2は、図1のX部を示す部分断面図である。図3は、制御棒駆動機構と制御棒との接続状態を示す断面図である。
原子炉3は、冷却材としてナトリウムを用いている高速増殖炉である。原子炉3には、上端が開放された略円筒形状をした原子炉容器5と、原子炉容器5の開口部を覆う原子炉蓋7と、原子炉容器5内の下部に配置された炉心9と、炉心9を支持する炉心バレル11と、原子炉蓋7を貫通する遮蔽プラグ14の下部に、炉心9の上方に間隙を有して設けられた炉心上部機構13と、が備えられている。
【0018】
原子炉容器5には、下部位置にナトリウムが導入される入口ノズル15が、上部位置にナトリウムが導出される出口ノズル17が形成されている。
遮蔽プラグ14には、炉心上部機構、駆動装置、制御棒駆動機構、燃料交換装置などが搭載されている。
炉心9には、燃料集合体19、制御棒集合体21、中性子遮蔽体等の炉心構成要素が収納されている。
【0019】
炉心上部機構13は原子炉容器5の略中心位置に据え付けられ、円筒形状をしている。炉心上部機構13には、図示を省略しているが、上板、遮蔽胴部、継胴、整流装置、各種案内管および計装ウェル等が備えられている。また、炉心上部機構13は、制御棒駆動機構および計装ウェル等の支持ならびに炉心9からの放射線および熱遮蔽等の機能を有している。
【0020】
制御棒駆動機構21は後備炉停止系の例を示してものであり、炉心の反応度を制御(燃焼補償、温度補償、出力調整、炉停止等)するために制御棒を挿入・引抜させるものである。
各制御棒駆動機構21には、図3に示されるように、下端部に制御棒23の上端に取り付けられた接続部25を電磁石の磁力で保持する制御棒保持部27が備えられている。制御棒駆動機構21の移動部は、上部案内管部により構成され、原子炉容器カバーガスのシールは上部案内管29の内部に納められている。
【0021】
炉心頂部監視装置1には、超音波を送受信する超音波センサ(超音波装置)31が装着されたセンサ導入部33と、超音波センサ31に超音波を送受信させる超音波送受信機35と、全体の動作を制御する制御部37とが備えられている。
超音波センサ31は、略円筒形状をし、原子炉蓋7に設けられた検査孔39に挿入され、先端が炉心9の上方近傍に位置するようにされている。
超音波センサ31は、図6に示されるように、超音波を略水平に形成される扇状の送信面(水平面)43に送信する。複数の、たとえば、3台の超音波センサ31は、超音波が測定領域をカバーできるように方向を変えて設置されている。
【0022】
なお、超音波センサ31の設置台数は、炉心9の頂部43略全域をカバーできるように選択されればよく、3台に限定されない。たとえば、1台でもよいし、2台でもよいし、4台以上であってもよい。また、たとえば、超音波センサ31が1台あるいは2台で、炉心9の頂部43全域をカバーできない場合には、検査部31を軸線中心回りに自転するようにしてもよい。
【0023】
制御部37には、超音波センサ31からの受信信号を処理して炉心9の頂部41と炉心上部機構13との間の空間である送信面41内に障害物が存在するかを判定する判定部45と、原子炉1の制御部からスクラム開始トリガ信号を受信して、制御棒23が障害物として送信面を通過するまでの時間を演算し、スクラム時間を算出するスクラム時間測定部47とが備えられている。
【0024】
以上のとおり構成された炉心頂部監視装置1の動作について説明する。
たとえば、燃料交換前等で、燃料集合体19等の炉心構成要素が浮き上がっていると問題となるとき、炉心頂部監視装置1のセンサ導入部33は、原子炉蓋7の貫通孔39に挿通され、超音波センサ31を所定の位置に位置させる。
【0025】
このとき、超音波センサ31から超音波を送信し、炉心上部機構13からの反射波を受けつつ下方に移動させるようにしてもよい。そして、炉心上部機構13からの反射波がなくなった位置を基準として上下方向の位置が決められるようにしてもよい。
このようにすると、炉心上部機構13を障害物として認識しない位置に超音波センサ31を確実に設置することができる。
なお、超音波センサ31の設置位置は、設計時に明確に設定することもできるので、センサ導入部33に挿入位置を印する、あるいはストッパを設ける等を行ってそれらに基づいて装着してもよい。
【0026】
まず、炉心9の頂部43の上方における障害物の有無の確認について説明する。図6に示されるように、超音波センサ31は、送信面41に沿って超音波を送信し、反射された反射信号を受信する。送信信号は、相互に重ならないように、パルス波等の間欠的なものが好ましい。
3台の超音波センサ31の送信面41が相互に重複しないようにされているので、広い範囲をカバーすることができる。
【0027】
送信面41に障害物49が存在すると、通常よりも早く反射信号を受け取るので、判定部45はそのタイミングを判定し、送信面41内に障害物49が存在するかを判定する。
このように、送信面41に障害物49が存在するか否か、言い換えると、炉心9の上方における障害物49の有無を確認することができる。
【0028】
なお、図7に示されるように原子炉容器5内に炉内配管51が存在する場合、炉内配管51は決まった位置に存在するので、炉内配管51からの反射信号を用いて超音波センサ31の方向を確認することができる。
このようにすると、障害物49の位置検出精度を向上させることができる。
【0029】
本実施形態では、3台の超音波センサ31を用い、それらの送信面41は相互に重なっているので、同じ障害物49からの反射信号を複数の超音波センサ31で受け取ることになる。図6の障害物49の位置では、2台以上の超音波センサ31がそれぞれ反射信号を受け取ることになる。これを利用して障害物49の位置を求めることができる。
すなわち、送信開始時刻と受信開始時刻との差が、超音波が障害物49まで往復する時間となるので、超音波の速度から超音波センサ31から障害物49までの往復距離が算出できる。これを半分すると、超音波センサ31から障害物49までの距離となる。
この距離が、2個判明すると、その交点が一点で求まることになる。
【0030】
なお、本実施形態では、超音波センサ31は送信および受信を行うものとしているが、これに限定されるものではない。
たとえば、送信する超音波センサ31と、受信する超音波センサ31とを別置きにしてもよい。このようにすると、送信信号は、パルス波、連続波、あるいは、符号化した波を用いることができる。
【0031】
3台の超音波センサ31が送信する超音波の周波数はそれぞれ異なるものとしてもよい。
このようにすると、超音波センサ31同士の相互干渉がなくなるので、広い範囲で同時に障害物49の存在を確認することができる。
【0032】
次に、スクラム時間の測定について説明する。
たとえば、燃料交換前あるいは緊急時に、制御棒駆動機構21と制御棒23とを切離し、制御棒23を炉心9に落下させることがある。すなわち、図4に示される制御棒駆動機構21の制御棒保持部27の磁力によって接続部25が制御棒保持部27に保持されている状態から、制御棒保持部27への電力供給を止め、磁力を消滅させる。これにより、接続部25が制御棒保持部27から離脱するので、制御棒23は落下する。
これは、原子炉3の運転を制御する制御部が、スクラム開始トリガ信号を送信することで制御棒23の落下が開始される。
【0033】
しばらくは、制御棒23が送信面41に存在しているので、炉心頂部監視装置1は制御棒23が送信面41に存在していると判定する。図5に示されるように、制御棒23が完全に送信面41よりも下方に移動すると、炉心頂部監視装置1は制御棒23が送信面41に存在していないと判定する。
【0034】
図8は制御棒23が炉心9へ落下する際の各信号の状態を時系列に示している。スクラム開始トリガ信号の送信時刻τで制御棒23の落下が開始される。ここで反射信号の受信開始時刻τ、受信開始時刻τに受けた反射信号に対応する超音波の送信開始時刻τ、反射信号の消失時刻τとする。
図8から、超音波の制御棒23からの反射信号の往復時間は(τ−τ)である。超音波が送信され、制御棒23で反射される時間と、制御棒23で反射され、超音波センサ31で受信される時間と、が等しいとすると、制御棒23の落下完了時刻は、[τ−(τ−τ)/2]である。
したがって、制御棒23の落下時間は、[τ−(τ−τ)/2−τ]となる。
【0035】
なお、制御棒23の落下完了時刻は、基本的に上式によって求められるが、実際には超音波センサ31の位置、制御棒23の形状(特に、直径方向)についての補正が必要である。
【0036】
このように、制御棒23は送信面41内を通過する時間の間、障害物49として認識されることになるので、制御棒23を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、制御棒23が障害物として送信面41を通過するまでの時間を演算してスクラム時間を算出することができる。
【0037】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 炉心頂部監視装置
3 原子炉
9 炉心
13 炉心上部機構
23 制御棒
31 超音波センサ
37 制御部
41 送信面
47 スクラム時間測定部
49 障害物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却材として液体金属を用いる原子炉における炉心の頂部を監視する炉心頂部監視装置であって、
前記炉心の上方を横断するように超音波信号を略水平面状に送信し、反射波を受信する超音波装置と、
該超音波装置の受信信号を処理し、前記水平面内に障害物が存在することを判定する制御部と、が備えられ、
該制御部には、制御棒を切り離すスクラム開始トリガ信号を受信して、該制御棒が前記障害物として前記水平面を通過するまでの時間を演算し、スクラム時間を算出するスクラム時間測定部が備えられていることを特徴とする炉心頂部監視装置。
【請求項2】
前記超音波装置は、複数個備えられていることを特徴とする請求項1に記載の炉心頂部監視装置。
【請求項3】
複数備えられた前記超音波装置は、それぞれ送信する超音波の周波数が異なるものとされていることを特徴とする請求項2に記載の炉心頂部監視装置。
【請求項4】
前記超音波装置は、上から下に向けて移動して設置される際、炉心上部機構からの反射波をモニタし、該上下方向の位置は、炉心上部機構からの反射波がなくなった位置を基準として上下方向の位置が決められることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の炉心頂部監視装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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