説明

炊飯用油脂組成物

【課題】 保存安定性が良好で、炊飯時に添加することにより、炊飯時の水の対流が弱いか、あるいは不均一であっても油が均一に分散し、風味良好なご飯を炊くことができる炊飯用油脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリソルベートを0.05〜5重量%含有することを特徴とする炊飯用油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯用油脂組成物に関し、詳しくは組成物としての保存安定性が良好で、米の炊飯時に添加することにより、水の対流が弱いか、あるいは不均一であっても米に均一に分散し、ご飯粒相互の粘着を抑制して、米飯のほぐれ性や艶、食感、食味を向上させる油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の炊飯用油脂組成物としては、例えば、油脂にレシチンを配合する方法(特許文献1)、ポリグリセリン縮合リシノレインエステルを配合する方法(特許文献2)、有機酸モノグリセリドを配合する方法(特許文献3)あるいはこれらの乳化剤を併用する方法(特許文献4、5)が提案されている。しかし、これらの組成物は、油脂が米飯中に均一に分散し難く、油脂の効果が十分に発揮されない。また、ショ糖脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルを配合する方法(特許文献6)、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを配合する方法(特許文献7 )も提案されている。しかし、これらは、一定の改善効果は見られるが、油脂の米飯中への分散が必ずしも充分ではなく、特に、炊飯時の水の対流が弱いか、あるいは不均一な場合には、油脂の偏在が顕著になる。さらにはポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチンを配合する方法が提案されているが、油脂の偏在にはかなりの改善はみられるものの、完全に満足の行く状態には至っていない。
【0003】
一方、油脂の分散性を向上させるために、ショ糖脂肪酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルを配合して水中油型に乳化してなる乳化油脂組成物(特許文献8)が提案されている。この組成物は、乳化物であることから炊飯時の水の対流とともに分散するが、対流が弱いか、あるいは不均一な場合、水の偏在とともに油も偏在してしまい、分散が不充分となる。また、乳化物であることから保存中に温度による乳化破壊が起こるなど、乳化安定性や均一性に問題があり、乳化技術が必要になるばかりでなく、細菌や黴の発生の恐れもあるなどの欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平3-175937号公報
【特許文献2】特開平3-175940号公報
【特許文献3】特開平7-298843号公報
【特許文献4】特開平7-274859号公報
【特許文献5】特開平8-154603号公報
【特許文献6】特開平11-155484号公報
【特許文献7】特開2000-236824号公報
【特許文献8】特開平7-184541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保存安定性が良好で、炊飯時に添加することにより、炊飯時の水の対流が弱いか、あるいは不均一であっても油が均一に分散し、風味良好なご飯を炊くことができる炊飯用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、食用油脂にポリソルベートを所定量、配合することで炊飯時の水の対流が弱いか、あるいは不均一であっても油が均一に分散し、風味良好な炊飯用油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ポリソルベートを0.05〜10重量%含有することを特徴とする炊飯用油脂組成物である。
更に本発明は、食用油脂にポリソルベートとグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンから選ばれる1種類または2種類以上を所定量配合してなる炊飯用油脂組成物である。
【0007】
本発明における油脂組成物が、炊飯用として優れた効果を発揮する理由については、以下の機構に基づくものと考えられる。すなわち、炊飯用油脂組成物は、炊飯時に炊飯水と軽いエマルジョンを形成して、一旦、米粒間に広がった後に解乳化することで米粒表面に吸着し、全体に分散することが望ましい。しかし、対流が弱いか、あるいは不均一な場合には水が偏在し、油脂が均一に分散し難い。
食用油脂に配合する乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステル単独の場合には、エマルジョンは形成されるものの、解乳化が速やかに起こらず水の偏在とともに油脂が偏在し、分散が不均一となる。これは乳化油脂を使用する場合にも同様に生ずる現象である。一方、食用油脂中に配合する乳化剤がショ糖脂肪酸エステル単独の場合には、エマルジョンを形成し難いため、これも油脂の分散が不均一となる。しかし、本発明の乳化剤の場合、適度なエマルジョンを形成し、油脂が全体に広がった状態、すなわち、水がまだ充分残っている時点で解乳化するので、米粒全体へ均一に油脂が分散する。さらに米粒と油脂との吸着性が向上し、分散状態が一層向上する。この均一に分散した油脂組成物が米粒をコーティングすることにより、ご飯粒相互の粘着を防止し、ほぐれ性の向上、外観上の艶出し、水分の移動抑制が発揮され、食感、食味、外観を向上させることが可能となる。なお、本発明の炊飯用油脂組成物は均一な溶液であるため、乳化物などとは異なり非常に安定であり、長期間に亘っての保存、例えば、常温では1年以上の保存が可能である。
【発明の効果】
【0008】
食用油脂にポリソルベ−ト単独で、あるいはポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びレシチンから選ばれる1種以上を併用して配合した炊飯用油脂組成物を米の炊飯時に添加すると、米飯中に均一に分散し、ご飯粒のほぐれ性や艶、食感、食味が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における食用油脂は、通常、食品用に使用される油脂であればよく、例えば、コーン油、菜種油、ハイオレイック菜種油、米油、綿実油、ひまわり油、パーム油などの植物油脂、魚油、豚脂、牛脂などの動物油脂、およびこれらの水素添加油、エステル交換油、分別油脂等があり、これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明におけるポリソルベートは、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシド20モルを付加させた非イオン性界面活性剤で、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、ポリソルベート65(ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート)、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)が用いられる。分散性、溶解性の問題から特に親油性であるポリソルベート65がより望ましい。
油脂組成物中のポリソルベ−トの含量は、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。0.05重量%未満では必要とする機能が充分発揮されず、また10重量%を越えると油脂組成物の風味が大きく損なわれる。
【0010】
本発明においては、分散性のさらなる向上のためにその他の乳化剤を添加することもできる。添加される乳化剤としてはHLBが比較的低めで親油性の高いもので、いわゆる食品用乳化剤であるグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これら乳化剤のうち、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸がより好ましい。乳化剤の添加量は0.01〜2重量%が望ましく、添加量が多くなると風味に悪影響を与える上、乳化剤そのものの溶解性、分散性が低下する。
【0011】
本発明におけるレシチンとは、リン脂質を主成分としたもので、食品へ用いられるもので香味良好であれば特に限定されない。一般には大豆より抽出された大豆レシチンが用いられるが、卵由来の卵黄レシチン等も使用できる。ペースト状のクルードレシチン、油脂分を除去した脱脂レシチン、ホスフォリパーゼ等の酵素で処理した酵素処理レシチン、溶剤等で特定の成分割合を高めた分画レシチンも用いられる。それぞれのレシチンはリン脂質を有効成分としており、リン脂質濃度は高いことが望ましいが、他の成分が含まれる場合は有効成分であるリン脂質の含量で本発明品への含まれる量を規定することとなる。
レシチンの本願発明の炊飯用油脂組成物への添加量としては0.1〜5重量%が望ましい。0.1重量%未満では必要とする機能が得られず、また5%を越えると風味に悪影響を及ぼす。
【0012】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
表1に示す配合により、炊飯用油脂組成物を調製し性状を確認した。
【0014】
【表1】

【0015】
(分散性試験−対流の弱い条件)
生米(新潟産コシヒカリ)を洗米し、20℃の水に90分間浸漬し、ざるに移して水を切った。この浸漬米500gに対して水530gを加えた炊飯試料を作成した。一方、表1の油脂組成物のうち、A、C、G、及びサラダ油にβカロチン0.1%を加熱溶解し、赤色に着色した油脂組成物を調製し、この組成物各2.5gずつを、前記炊飯試料のそれぞれに加え、家庭用電気炊飯器にて炊飯した。ご飯をバットにあけ、広げた状態で着色程度を評価した。評価の結果は、均一に分散した(均一な赤色)ものを◎、油が一部偏在した(一部赤色が濃い)ものを○、油が一部行き届いていない(一部白い)ものを△、油が全体的に偏在(赤色の濃い部分、白い部分が多い)ものを×とした。
【0016】
(分散性試験−対流の不均一な条件)
生米(新潟産コシヒカリ)を洗米し、20℃の水に90分間浸漬し、ざるに移して水を切った。この浸漬米7.5kgに対して水7.8kgを加えた炊飯試料を作成した。一方、表1の油脂組成物のうち、A、C、G、及びサラダ油にβカロチン0.1%を加熱溶解し、赤色に着色した油脂組成物を調製し、この組成物各2.5gずつを、前記炊飯試料のそれぞれに加え、連続式炊飯装置(角釜)にて炊飯した。ご飯をバットにあけ、広げた状態で着色程度を評価した。評価の結果は、均一に分散した(均一な赤色)ものを◎、油が一部偏在した(一部赤色が濃い)ものを○、油が一部行き届いていない(一部白い)ものを△、油が全体的に偏在した(赤色の濃い部分、白い部分が多い)ものを×とした。
【0017】
(ご飯食味試験)
生米(新潟産コシヒカリ)を洗米し、20℃の水に90分間浸漬し、ざるに移して水を切った。この浸漬米500gに対して水530gを加えた炊飯試料を24通り作成した。一方、表1の油脂組成物のうち、A、C、G、及びサラダ油各2.5gを、前記炊飯試料のそれぞれに加え、家庭用電気炊飯器にて炊飯した。ご飯をバットに移し、減圧冷却機にて室温まで冷却し、食味、食感、外観、ほぐれ性を比較した。評価は、前記4 種の観点につき、それぞれ良好なものを◎、やや劣るものを○、劣るものを△とした。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から分かる通り、実施例1、2は共に比較例1、2と比べて、分散性試験、ごはん食味試験共に同等以上の評価となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリソルベートを0.05〜10重量%含有することを特徴とする炊飯用油脂組成物。
【請求項2】
ポリソルベートが親油性ポリソルベートである請求項1の炊飯用油脂組成物。
【請求項3】
グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンから選ばれる1種類または2種類以上を配合してなる請求項1又は2に記載の炊飯用油脂組成物。


【公開番号】特開2006−55078(P2006−55078A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240725(P2004−240725)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】