説明

炎症性サイトカインの製造方法

【課題】 天然素材を使用し、遺伝子操作を行わず、安全且つ安価に炎症性サイトカインを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 熱変性を起こさずにマクロファージが貪食可能な超微粉末に粉砕した魚鱗粉末を、マクロファージに添加して培養することにより、マクロファージに炎症性サイトカインを分泌せしめる。魚鱗粉末を添加したマクロファージに、アポトーシス細胞を添加して培養するとさらに良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージの感染防御機能を利用した炎症性サイトカインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞、B細胞、マクロファージ等の免疫担当細胞は、身体中の細菌、ウィルス、変異細胞、アポトーシスで死んだ細胞等を貪食処理すると共に、様々なサイトカインを産出する。
サイトカインには、その種類に応じて、他の免疫担当細胞の増殖、分化、活性化を制御する機能、増血機能、脳の発熱中枢に働きかけて発熱を誘導する機能、炎症を起こして損傷部を治癒する機能、破骨細胞や骨細胞の増殖を促す機能等がある。
即ち、サイトカインは、貧血治療薬、免疫増強薬、抗腫瘍薬等として幅広く利用することができ、この内、IL−8などある種の炎症性サイトカインは、血管新生機能により脳梗塞等に対して治療効果があると考えられる。
【0003】
一般的に、サイトカインや他の蛋白質は、細胞培養由来の天然の蛋白質を精製するか、昆虫細胞、微生物細胞若しくはヒト細胞で蛋白質を組み換え的に産生しているが、このような方法では、時間も費用も多く必要とする。
そして、組み換えの場合には、外来の抗原を含みうる供給源に依存するため、免疫応答を生じたり、グリコシル化パターンが天然と異なることに起因して、活性が低くなることがある。
【0004】
また、従来、ヒト臍帯血由来単核球を分化して得られた、サイトカイン産生量の高いマクロファージを主成分とする細胞製剤が公知である(特許文献1参照)。さらに、マクロファージ及び/又はリンパ球をPHA、CMP、TNF及びConAの1種又は2種以上を主成分とした誘導剤を添加した培養液中で培養し、サイトカインの1種であるインターロイキン6を製造する方法が知られている(特許文献2参照)。
しかし、これらのものは、マクロファージを活性化したり分化するために、植物から抽出した成分や他のサイトカインを用いているので、これらの物質を得るのに手間がかかって、コストも高く付くという欠点がある。
また、遺伝子操作を行って高レベルでサイトカイン産生を行う方法も知られているが(特許文献3参照)、遺伝子操作には、周知のように、バイオハザードを起こしかねない危険性がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−80378号公報
【特許文献2】特開平8−173184号公報
【特許文献3】特公表2003−509025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、魚鱗は、マクロファージを活性化しうるコラーゲンと、ハイドロキシアパタイト(燐酸カルシウム)とを主成分としている。
しかし、魚鱗は、魚加工処理場から副産物として大量に発生するが、薄くて軽く、しなやかで強靭であるため、多大な衝突エネルギーが発生せず、超微粉末化しにくい。
また、主成分のコラーゲンが熱エネルギーにより溶け出して、粘性の強いゼラチンとなり、粉砕部をコーティングしてしまうため、モーターの焼き付けやコラーゲンの熱変性を生じる。更に魚鱗は他物に付着しやすく、また互いに重なりやすく、一端付着したり重なったりすると、今度は分離するのが容易でないため、異物除去や洗浄殺菌が難しく、切断機や粉砕機などの加工処理機や選別機、洗浄機を用いて、加工することが困難である。
【0007】
このため、一部の魚鱗は他の雑魚肉と混合して粉砕し飼肥料に利用されているものの、大部分のものは用途がなく廃棄物として焼却や埋め立て処理されているのが現状で、魚鱗の有効利用の開発が望まれていた。
本発明は、このような状況をふまえてなされたものであり、天然素材であって廃棄処分されていた魚鱗を使用し、遺伝子操作を行わず、安全且つ安価に炎症性サイトカインを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炎症性サイトカインの製造方法は、熱変性を起こさずにマクロファージが貪食可能な超微粉末に粉砕した魚鱗粉末を、マクロファージに添加して培養することにより、マクロファージに炎症性サイトカインを分泌せしめる。
魚鱗粉末を添加したマクロファージに、アポトーシス細胞を添加して培養するとさらに良い。
【0009】
魚鱗粉末の原料である魚鱗は、魚種を問わずいかなる魚の鱗も使用でき、例えば、イワシ、サンマ、タイ、コイ等が掲げられる。イワシやサンマ加工品の製造に際して副産する魚鱗は、廃棄物を有効活用する観点から好ましいが、特にこれに限定されない。
魚鱗を、その品温を40℃以下に保ちながら風乾し、水分含有量を10%以下に調製して乾燥魚鱗を得、この乾燥魚鱗を、粉砕部が冷却されている2軸直交反転式粉砕機や高速気流旋回粉砕機等の超微粉砕機に投入して、品温40℃以下に保ちながら、マクロファージが貪食可能な平均粒径4.2ミクロン程度の超微粉末に粉砕する。
粉砕加工時の品温が40℃を超えると、コラーゲンが熱変性をおこしてゼラチン化し、三本鎖構造が崩れるので、マクロファージを活性化させることができない。
マクロファージは、ヒトの末梢血、臍帯血等に由来するものを用いる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、遺伝子操作を行うことなくマクロファージに炎症性サイトカインを分泌させるので、安全性が高い。
また、これまで廃棄物として焼却あるいは埋め立て処理されていた魚鱗を有効に活用することができ、コストを低く抑えることが可能となる。
さらに、魚鱗粉末は、遠心分離機等によって簡単に分離することができ、万一残存した場合でも、コラーゲンとリン酸カルシウムが主成分であって、安全性が高い。
請求項2に係る発明によれば、炎症性サイトカインの産生量がさらに増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、マウスマクロファージを用いて実験を行った結果を示すが、ヒトマクロファージを用いても同様の結果が得られるものと推測される。
(1)熱変性をおこさない魚鱗粉末の調製
雑物を排除し洗浄・殺菌されたサンマの鱗を品温40℃以下に保ちながら風乾し、水分含有量が10%以下の乾燥魚鱗を調製する。その後、乾燥魚鱗15kgを2軸直交反転粉砕機で、粉砕部を40℃以下に冷却しながら粉砕処理し、平均粒径4.2ミクロンの魚鱗微粉末14.1kgを入手した。
【0012】
(2)常在性マクロファージの調製
比較的単価が安く、マクロファージの実験に繁用されるICRマウス(5〜7週、雄;三協ラボ)の腹腔に、冷やしたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)5mlを注射してから、腹部をよくマッサージした後、腹腔細胞を回収した。回収された腹腔細胞には、常在性マクロファージ以外にもリンパ球なども含まれているので、PBSで洗滌後、200万/mlとし、96well flat plate(グライナー)の各ウェルに100μlずつまいた。1時間後に各ウェルを暖めたPBSで洗滌して、付着性細胞、即ちマクロファージを得た。
なお、こうして得られた細胞は、マクロファージに特有の抗原(例えばF4/80など)に対する抗体(蛍光標識されたもの、Serotech社製)で染色したとき、95%以上が陽性だったことから、ほとんどがマクロファージであることを確認できた。
【0013】
(3)マクロファージの魚鱗粉末処理
(1)で得た魚鱗粉末を無菌的に秤量してPBSに加え、濃度がそれぞれ200μg/ml、500μg/ml、800μg/mlとなるよう調製しておく。(2)で得たマクロファージを含むPBS200μlに、調製しておいた各濃度の魚鱗粉末溶液をそれぞれ10μl添加して、終濃度を10μg/ml、25μg/ml、40μg/mlとし、1時間後に各ウェルを暖めたPBSで洗滌した。この時、魚鱗粉末溶液の代わりに溶媒(PBS)を10μl加えたものを対照とした。
【0014】
(4)アポトーシス細胞の調製
対数増殖期にあるP388細胞(マウス白血病細胞株;癌化学療法センター 清宮啓之博士より供与)をPBSにて洗浄後、50万/mlとし、化学療法剤のひとつであるエトポシドを加えて1μg/mlとした後、24時間培養した。これによりP388細胞はアポトーシス後期に入ることが、DNAラダー形成、プロピジウムイオダイド染色及び細胞サイズの減少により確認されている。これをPBSにて洗浄した後、7%ウシ胎児血清(56℃30分処理済み)を含むRPMI1640培地を加えて50万/ml又は100万/mlとした。
なお、エトポシド処理P388細胞の代わりに、X線照射(24Gy)後36時間目のP388細胞を用いることも可能である。
アポトーシス細胞は様々な方法で用意でき、いずれも利用することができるが、細胞の種類(ガン細胞か正常細胞か)、アポトーシスの段階(初期か後期か)などにより、マウス常在性マクロファージと共培養したときのサイトカイン産生量が異なり、上記したアポトーシス細胞が最も効率よくサイトカインを産生する。
【0015】
(実験1)
(3)で処理したマクロファージに、7%ウシ胎児血清(56℃30分処理済み)を含むRPMI1640培地を加え、3時間培養した。培養終了後、上清を遠心して回収し、−20℃に保存した。
培養上清中には、炎症性サイトカインMIP−2(ヒト IL−8 ホモログ)が産生されていた。上清中のMIP−2はMIP−2 ELISA Duo set(R&D)によって定量した。
【0016】
実験1の結果を、3回の実験の平均値±標準偏差で表すと、表1及び図1に示すように、マクロファージのみを培養した場合のMIP−2濃度;0.58±1.22ng/ml、濃度10μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;2.33±0.49ng/ml、濃度25μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;5.68±1.03ng/ml、濃度40μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;7.27±0.62ng/mlとなった。
実験1の結果から、マクロファージは、魚鱗粉末を加えずに、単にプレートに付着するだけでも多少活性化してサイトカインを僅かに産生するが、魚鱗粉末を加えると、これに刺激されて多量のMIP−2を産生し、魚鱗粉末濃度が高いほど産生量も多いことがわかった。
【0017】
【表1】

【0018】
(実験2)
(3)で魚鱗粉末処理したマクロファージに、(4)で得たアポトーシス細胞を10万個添加して3時間培養し、実験1と同様にして、培養上清中のMIP−2を定量した。
実験2の結果を、3回の実験の平均値±標準偏差で表すと、表1及び図2に示すように、マクロファージとアポトーシスP388細胞を共培養した場合のMIP−2濃度;7.07±1.09ng/ml、濃度10μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;12.76±3.67ng/ml、濃度25μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;11.60±2.36ng/ml、濃度40μg/mlの魚鱗粉末溶液を加えた場合のMIP−2濃度;16.88±4.04ng/mlとなった。
実験2から、マクロファージは、魚鱗粉末とアポトーシス細胞を貪食すると、魚鱗粉末のみを貪食した場合よりも多量のサイトカインを産生することがわかった。
【0019】
なお、実験1及び実験2において得られたMIP−2は、好中球に対する走化性を有するので、走化性に基づいて活性を評価することも可能であるし、マウス腹腔に投与すると5時間後には好中球が浸潤するから、それによっても評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実験1の結果を示す図。
【図2】実験2の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変性を起こさずにマクロファージが貪食可能な超微粉末に粉砕した魚鱗粉末を、マクロファージに添加して培養することにより、マクロファージに炎症性サイトカインを分泌せしめることを特徴とする炎症性サイトカインの製造方法。
【請求項2】
魚鱗粉末を添加したマクロファージに、アポトーシス細胞を添加して培養する請求項1に記載の炎症性サイトカインの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−67809(P2006−67809A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251724(P2004−251724)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(596175050)信田缶詰株式会社 (3)
【Fターム(参考)】