説明

炎症性関節炎を治療するための組成物および方法

関節リウマチまたは他のタイプの炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防する方法は、有効量の三酸化二ヒ素を含有する組成物を罹患患者に投与することを含む。三酸化二ヒ素を含む組成物は、例えば溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤、錠剤またはカプセル剤として、経口的に投与され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、三酸化二ヒ素を使用する関節リウマチおよび他の炎症性関節炎を治療する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)は、全身的な炎症性の症状を伴う自己免疫性関節障害である。RAでは、滑膜すなわち滑膜関節の内張りが異常である。滑膜に急性炎症性細胞の浸潤があり、滑膜が肥大すると、関節の滲出液をもたらす。過形成性の滑膜はまた、隣接する軟骨および硬骨のびらんをもたらし、関節破壊を引き起こす恐れがある。最終的な結果は、関節の炎症、滲出液、関節および隣接するじん帯の破壊、関節の変形、ならびに最終的には機能の損失である。RAは最も一般的な炎症性関節疾患であり、世界中の実質的にすべての集団で発症している。RAは世界的に深刻な健康問題である。
【0003】
RAの伝統的な治療は、関節の炎症およびサイトカインの産生を抑制する抗炎症性薬物の使用が中心である。コルチコステロイド、メトトレキセートおよびシクロスポリンなどの免疫抑制薬物を含む免疫調節薬物もまた有効であり得る(Tarnerら、Nat. Clin. Pract. Rheumatol.、3、336〜45頁(2007))。ペニシラミンおよび金を含む他の疾患修飾性医薬もまた使用し得る。
【0004】
RAの病因は複雑であり、完全には明らかにされていない。しかし、インターロイキン(IL)-6、IL-15、IL-17、および腫瘍壊死因子を含む多くのサイトカインが、関節および全身の炎症の発生に関与している(Tarnerら、Nat. Clin. Pract. Rheumatol.、3、336〜45頁(2007))。RAの病因とされるサイトカインのシグナル伝達経路には、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)経路、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、ヤヌスキナーゼ(JAK)経路およびシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)経路が含まれる。TNF-α経路の重要な下流分子は、転写因子である核内因子カッパB(NFκB)である。これらの経路は、滑膜の増殖、およびその結果として起こるRAに特徴的な関節障害において重要な役割を果たす(Tarnerら、Nat. Clin. Pract. Rheumatol.、3、336〜45頁(2007))。
【0005】
最近、滑膜が関節の炎症において積極的な役割を果たすことも示されている。線維芽細胞様滑膜細胞は、滑膜の最も重要な細胞成分である。滑膜細胞は、RAに見られる炎症の開始および伝播に必要であり、軟骨障害と急性および慢性炎症の両方を媒介する(Lipsky,N. Engl. J. Med.、356、2419〜20頁(2007))。滑膜機能の欠損したマウスのモデルが実験的な関節炎に対して抵抗性を示すという知見によって、滑膜細胞の重要性がさらに示されている(Amanoら、Genes Dev.、17、2436〜49頁(2003)、Leeら、Science、315、1006〜10頁(2007))。
【0006】
RAの病因に関与すると考えられている重要な経路のうちの2つを標的にすることは、これが潜在的な治療上の戦略となり得ることを示している(Choyら、N. Engl. J. Med.、344、907〜16頁(2001))。TNF-αに対するキメラモノクローナル抗体であるインフリキシマブによる治療は、関節の炎症の有意な改善をもたらし、かつ関節障害の進行を停止させる(Lipskyら、N. Engl. J. Med.、343、1594〜602頁(2000))。IL-6受容体(IL-6R)に対する抗体であるトシリズマブによる治療は、RA患者の症状の有意な制御をもたらす(Smolenら、Lancet、371、987〜97頁(2008))。
【0007】
しかし、インフリキシマブの使用は、結核(Keaneら、N. Engl. J. Med.、345、1098〜104頁(2001))およびニューモシスチス肺炎を含めた他の日和見感染(Harigaiら、N. Engl. J. Med.、357、1874〜6頁(2007))、および脳トキソプラズマ症(Youngら、N. Engl. J. Med.、353、1530〜1頁(2005))と関連づけられている。重篤な感染はまた、トシリズマブ治療患者にも起こる(Nishimotoら、Ann. Rheum Dis.(2008))。これらの薬物はまた高価でもある。さらに、これらの薬物は静脈内投与されるので、患者にとって高価でありかつ厄介である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tarnerら、Nat. Clin. Pract. Rheumatol.、3、336〜45頁(2007)
【非特許文献2】Lipsky,N. Engl. J. Med.、356、2419〜20頁(2007)
【非特許文献3】Amanoら、Genes Dev.、17、2436〜49頁(2003)
【非特許文献4】Leeら、Science、315、1006〜10頁(2007)
【非特許文献5】Choyら、N. Engl. J. Med.、344、907〜16頁(2001)
【非特許文献6】Lipskyら、N. Engl. J. Med.、343、1594〜602頁(2000)
【非特許文献7】Smolenら、Lancet、371、987〜97頁(2008)
【非特許文献8】Keaneら、N. Engl. J. Med.,345、1098〜104頁(2001)
【非特許文献9】Harigaiら、N. Engl. J. Med.、357、1874〜6頁(2007)
【非特許文献10】Youngら、N. Engl. J. Med.、353、1530〜1頁(2005)
【非特許文献11】Nishimotoら、Ann. Rheum Dis.(2008)
【非特許文献12】Auら、Blood、112、3587〜90頁(2008)
【非特許文献13】Siuら、Blood、108、103〜6頁(2006)
【非特許文献14】Miyazawaら、J. Biochem.、124、1153〜62頁(1998)
【非特許文献15】Kitanoら、Arthritis Rheum.、54、742〜53頁(2006)
【非特許文献16】NakaおよびKishimoto、Arthritis Res.、4、154〜6頁(2002)
【非特許文献17】MarmorおよびYarden、Oncogene、23、2057〜70頁(2004)
【非特許文献18】Cheungら、Cancer Lett.、246、122〜8頁(2007)
【非特許文献19】Pangら、Gastroenterology、132、1088〜103頁(2007)
【非特許文献20】Heinrichら、Biochem.J、374、1〜20頁(2003)
【非特許文献21】Davisonら、Blood、103、3496〜502頁(2004)
【非特許文献22】Pangら、J. Pathol、210、19〜25頁(2006)
【非特許文献23】Wu、Cancer Biol.Ther、3、156〜61頁(2004)
【非特許文献24】LiuおよびLin、Oncogene、26、3267〜78頁(2007)
【非特許文献25】Simmondsら、Rheumatology、47、584〜90頁(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、関節リウマチにおける滑膜細胞の増殖および活性を抑制するための組成物および方法を提供することである。滑膜細胞はまた、他の炎症性関節炎において重要な病因的役割を果たし得るので、本発明の別の目的は、他の炎症性関節炎における滑膜細胞の増殖および活性を抑制するための組成物および方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、炎症性関節炎を治療するための組成物および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
As2O3が、関節リウマチに関与する滑膜細胞の増殖を低減することが発見された。As2O3は、、IL-6受容体複合体の成分であるgp130をリソソームでの破壊の標的とすることによってgp130のレベルの低下をもたらし、これによって滑膜細胞における自己分泌IL-6ループを撹乱させる。
【0012】
As2O3を使用して滑膜細胞の増殖を阻害または低減する方法が提供される。同様に、As2O3を含有する組成物を使用して、関節リウマチおよび他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防する方法も提供される。
【0013】
本出願は、具体的に以下の実施形態を提供する。
実施形態1. 関節リウマチの1つまたは複数の症状を軽減または治療するために有効量の三酸化二ヒ素を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、関節リウマチおよび他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防する方法。
実施形態2. 滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害するため、またはそのアポトーシスを促進するために、滑膜細胞に有効量の三酸化二ヒ素を接触させることを含む、滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害する、または滑膜細胞のアポトーシスを促進する方法。
実施形態3. 三酸化二ヒ素をリソソームに向けることによりIL-6受容体の分解を促進するために、有効量の三酸化二ヒ素に細胞を接触させることを含む、細胞中のIL-6受容体の細胞表面での発現を低減する方法。
実施形態4. IL-6受容体が滑膜細胞において発現する、実施形態3の方法。
実施形態5. 滑膜細胞が関節リウマチ患者に存在する、実施形態2または4の方法。
実施形態6. 滑膜細胞が炎症性関節炎患者に存在する、実施形態2または4の方法。
実施形態7. 三酸化二ヒ素が患者に経口的に投与される、実施形態5の方法。
実施形態8. 三酸化二ヒ素が滑膜関節に局所的に投与される、実施形態5の方法。
実施形態9. ステロイド系または非ステロイド系抗炎症剤を投与することをさらに含む、実施形態1の方法。
実施形態10. 滑膜細胞の増殖を阻害するまたは滑膜細胞のアポトーシスを促進するために有効量の三酸化二ヒ素、および場合により薬学的に許容される賦形剤を含む、対象における関節リウマチまたは他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療するための医薬組成物。
実施形態11. 三酸化二ヒ素が経口投与用の薬学的に許容される担体中に存在する、実施形態10の医薬組成物。
実施形態12. 三酸化二ヒ素が滑膜関節への局所投与用の薬学的に許容される担体中に存在する、実施形態10の医薬組成物。
実施形態13. 三酸化二ヒ素が1mgから10mgの量で存在する、実施形態10〜12のいずれかの医薬組成物。
実施形態14. 三酸化二ヒ素が5mgから10mgの量で存在する、実施形態13の医薬組成物。
実施形態15. 溶液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口投与用単位剤形にある、実施形態10の医薬組成物。
実施形態16. 関節リウマチおよび他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
実施形態17. 滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害するため、または滑膜細胞のアポトーシスを促進するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
実施形態18. 細胞においてIL-6受容体の細胞表面発現を低減するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
実施形態19. IL-6受容体が滑膜細胞において発現する、実施形態18の使用。
実施形態20. 滑膜細胞が関節リウマチ患者に存在する、実施形態17または19の使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】MTTアッセイによって評価した、24時間(-●-)、48時間(-▲-)または72時間(-■-)処理した場合の、MH7A細胞の増殖に対する三酸化二ヒ素(As2O3)の濃度増加の効果を示す折れ線グラフである。データは、As2O3濃度(μM)の関数として、細胞生存率(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(#=P<0.001)。
【図1B】ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシン-V染色後のMH7A細胞のFACS解析によって決定した、5μMのAs2O3の非存在下または存在下における、アポトーシスのパーセントを示す棒グラフである。
【図1C】MTTアッセイによって評価した、パン-カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK(25μM)の存在下(-●-)または非存在下(-■-)、および72時間にわたる濃度増加したAs2O3の存在下における、MH7A細胞の生存率を示す折れ線グラフである。データは、As2O3濃度(μM)の関数として、細胞生存率(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(**=P<0.01)。
【図2A】MTTアッセイによって評価した、72時間、濃度増加したIL-6の存在下における、MH7A細胞の生存率を示す棒グラフである。データは、IL-6濃度(ng/ml)の関数として、細胞生存率(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)。
【図2B】MTTアッセイによって評価した、6日間、濃度増加した抗IL-6 Abの存在下における、MH7A細胞の生存率を示す棒グラフである。データは、抗-IL-6 Ab濃度(μg/ml)の関数として、細胞生存率(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(**=P<0.001)。
【図2C】ウエスタンブロット(Western blot)によって評価した、24時間処理した場合の、gp130発現に対するAs2O3の濃度増加の効果を示す折れ線グラフである。データは、As2O3濃度(μM)の関数として、gp130発現(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(#=P<0.001;**=P<0.01)。
【図2D】ウエスタンブロットによって評価した、0時間、3時間、6時間、12時間または24時間処理した場合の、gp130発現に対する5μMのAs2O3の効果を示す折れ線グラフである。データは、時間(時)の関数として、gp130発現(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(**=P<0.01)。
【図2E】定量的ポリメラーゼ連鎖反応(Q-PCR)によって評価した、0時間、3時間、6時間、12時間または24時間処理した場合の、gp130発現に対する5μMのAs2O3の効果を示す棒グラフである。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)。
【図3A】5μMのAs2O3によるgp130発現の抑制に対するリソソーム阻害剤NH4Cl(2.5mM)の効果を示す棒グラフである。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(*=P<0.05)。
【図3B】100μMのAs2O3で0時間、4時間または6時間処理した後のMH7A細胞から免疫沈降(IP)したgp130のレベルを示す折れ線グラフである。全細胞溶解物の免疫沈降(IP)、その後の抗ユビキチン抗体FK1およびFK2とのウエスタンブロット解析のために、gp130に対する抗体を使用した。非免疫ウサギ血清(NIS)とのIPが対照となる。As2O3誘発性のgp130のユビキチン化は、モノ-およびポリ-ユビキチン化タンパク質の両方を識別したFK2によって示されたが、ポリ-ユビキチン化タンパク質を識別したFK1によっては示されなかった。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(*=P<0.05;#=P<0.001)。
【図4A】ウエスタンブロットによって決定した、0時間、3時間、6時間、12時間または24時間、5μMのAs2O3でMH7A細胞を処理した後のJNKのリン酸化反応を示す折れ線グラフである。値は、平均シグナル強度±SEMを表す(n=3)(*=P<0.05;**=P<0.01)。
【図4B】MTTアッセイによって評価した、JNK阻害剤SP600125(30μM)の存在下または非存在下、および24時間にわたる0μM、30μMまたは100μMのAs2O3の存在下における、MH7A細胞の生存率を示す棒グラフである。データは、細胞生存率(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(** =P<0.01)。
【図5A】5μMのAs2O3によるJNKのリン酸化反応の活性化に対する、リソソーム阻害剤NH4Cl(2.5mM)の効果を示す棒グラフである。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(*=P<0.05)。
【図5B】ウエスタンブロット法(Western blotting)によって決定した、JNKのリン酸化反応に対する、0.5μg/mlの抗IL-6 Abで24時間MH7A細胞を処理した効果を示す折れ線グラフである。エラーバーは、Dunnettの事後検定(Dunnett’s post-tests)による一元配置ANOVAを表す(n=3)(*=P<0.05)。
【図5C】ウエスタンブロット法によって決定した、5μMのAs2O3によるp53のセリン-46でのリン酸化反応に対する、JNK阻害剤SP600125(30μM)の効果を示す棒グラフである。エラーバーは、Dunnettの事後検定による一元配置ANOVAを表す(n=3)(*=P<0.05)。
【図6A】ウエスタンブロットによって評価した、24時間処理した場合のNFκB発現に対する、As2O3の濃度増加の効果を示す折れ線グラフである。データは、As2O3濃度(μM)の関数として、NFκB発現(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(#=P<0.001;**=P<0.01)。
【図6B】ウエスタンブロットによって評価した、0時間、6時間、12時間または24時間処理した場合のNFκB発現に対する、5μMのAs2O3の効果を示す折れ線グラフである。データは、時間(時)の関数として、NFκB発現(%)を表す。エラーバーは、平均値(SEM)の標準誤差を表す(n=3)(#=P<0.001;**=P<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.三酸化二ヒ素を含む組成物
A.三酸化二ヒ素
三酸化二ヒ素は、急性骨髄性白血病の治療抵抗性を示す前骨髄球性(M3)サブタイプの治療に非常に有用である。経口の三酸化二ヒ素(As2O3)は、再発性の急性前骨髄球性白血病に非常に有効である(Auら、Blood、112、3587〜90頁(2008))。経口のAs2O3はQT間隔の延長が小さく、したがって白血病を治療するかなり安全な薬物である。最近、経口のAs2O3では心臓におけるQT延長が非常にわずかであることも実証されており、これは長期間の使用に安全であることを意味する(Siuら、Blood、108、103〜6頁(2006))。
【0016】
B.組成物
以下の送達システムが、As2O3を投与するための組成物の代表である。
【0017】
1.非経口用組成物
注射可能な薬物送達システムには、薬学的に許容される溶液剤、懸濁剤、ゲル剤、微小球状剤(microspheres)およびインプラント剤が含まれる。通常、これらは蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、または静脈もしくは皮下注射用の他のビヒクルの形態となる。
【0018】
2.経腸用組成物
経口送達システムには、溶液剤、懸濁剤、および錠剤(例えば、圧縮錠剤、糖衣錠剤、被覆錠剤および腸溶剤)、カプセル剤(例えば、ハードもしくはソフトなゼラチンカプセル剤または非ゼラチンカプセル剤)、ブリスター剤(blisters)およびカシェ剤などの固形剤形が含まれる。これらは、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、他のセルロース性物質およびスターチ)、賦形剤(例えば、ラクトースおよび他の糖、スターチ、リン酸二カルシウムおよびセルロース性物質)、崩壊剤(例えば、スターチポリマーおよびセルロース性物質)、および滑沢剤(例えば、ステアレートおよびタルク)などの賦形剤を含有することができる。固形剤形は、当技術分野で周知の被覆剤(coatings)および技術を用いて被覆することができる。
【0019】
経口用液状剤形には、溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤(例えば、ヒドロアルコール性溶液剤)、および再構成可能な送達システム用の散剤が含まれる。組成物は、懸濁化剤(例えば、ガム、ザンタン、セルロース系物質および糖)、湿潤剤(例えば、ソルビトール)、溶解補助剤(例えば、エタノール、水、PEG、グリセリンおよびプロピレングリコール)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、スパン(Span)、トゥイーン(TWEEN)、およびセチルピリジン)、乳化剤、保存剤および抗酸化剤(例えば、パラベン、ビタミンEおよびC、ならびにアスコルビン酸)、団結防止剤、被覆剤、キレート化剤(例えば、EDTA)、香味剤、着色剤、およびそれらの組合せなどの担体または賦形剤を、1つまたは複数含有することができる。
【0020】
3.局所用組成物
経粘膜送達システムには、貼付剤、錠剤、坐剤、ペッサリー剤、ゲル剤およびクリーム剤が含まれ、かつ溶解補助剤および促進剤(enhancers)(例えば、プロピレングリコール、胆汁酸塩およびアミノ酸)、および他のビヒクル(例えば、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステルおよび誘導体、ならびにヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒアルロン酸などの親水性ポリマー)を含有することができる。
【0021】
経皮送達システムには、例えば水性および非水性ゲル剤、クリーム剤、多相乳剤、マイクロ乳剤、リポソーム剤、軟膏剤、水性および非水性溶液剤、ローション剤、エアゾール剤、炭化水素基剤および散剤が含まれ、かつ溶解補助剤、浸透促進剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコールおよびアミノ酸)、および親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィルおよびポリビニルピロリドン)などの賦形剤を含有することができる。一実施形態では、薬学的に許容される担体は、リポソーム剤または経皮促進剤である。
【0022】
II.治療方法
A.関節リウマチの治療
As2O3を含む組成物は、滑膜細胞の増殖を阻害または低減する有効量、滑膜細胞におけるIL-6受容体の細胞表面発現を阻害または低減する有効量、または関節リウマチの1つまたは複数の症状を発症するリスクを治療または低減する有効量で、RAを有する個体に投与される。As2O3を含む開示組成物は、治療的または予防的に投与され得る。
【0023】
As2O3を含む開示組成物の治療有効量とは、進行を遅延させる、寛解を早める、寛解を誘発する、寛解を増強する、回復を早める、代替治療法の有効性を高める、または代替治療法に対する抵抗性を低下させる、あるいはそれらの組合せに有効な量を指す。治療有効量は、症状の重症度を軽減する、急性エピソードの重症度を軽減する、症状の数を低減する、疾患関連症状の発生を低減する、症状の潜伏を低減する、症状を改善する、2次的症状を軽減する、2次感染を低減する、患者の生存期間を延長する、またはそれらの組合せに有効であり得る。
【0024】
As2O3を含む組成物の予防有効量とは、症状の開始を遅らせる、疾患の再発を予防する、再発エピソードの数または頻度を低下させる、症状エピソード間の潜伏期間を増加させる、またはそれらの組合せに有効な量を指す。
【0025】
MH7Aが、表面の免疫表現型およびサイトカインに対する応答を含め線維芽細胞様滑膜細胞の生物的特性のほとんどを保持していることから、以下の実施例はRA滑膜のモデルとしてMH7Aを使用する(Miyazawaら、J. Biochem.、124、1153〜62頁(1998))。細胞のシグナル伝達およびMH7A細胞の遺伝子発現パターンはまた、主要なRA滑膜細胞にも類似している(Kitanoら、Arthritis Rheum.、54、742〜53頁(2006))。このモデルを使用して、As2O3が関節リウマチの発症に関与する線維芽細胞様滑膜細胞の増殖阻害に有効であることが発見された。
【0026】
以下の実施例ではまた、IL-6およびIL-6受容体の両方の発現によって示されるように、自己分泌IL-6ループがMH7A細胞において機能すること、およびIL-6の中和は、MH7Aの細胞増殖を著しく阻害することを実証している。IL-6は、80-kDaのIL-6結合タンパク質(IL-6受容体α)および130 kDaのシグナル伝達物質gp130を含むIL-6受容体複合体に結合することによって、シグナルを伝達する(NakaおよびKishimoto、Arthritis Res.、4、154〜6頁(2002))。
【0027】
実施例ではまた、IL-6およびIL-6受容体の両方の発現によって示されるように、自己分泌IL-6ループがMH7A細胞において機能すること、およびIL-6の中和は、MH7Aの細胞増殖を著しく阻害することを実証している。IL-6は、80-kDaのIL-6結合タンパク質(IL-6受容体α)および130 kDaのシグナル伝達物質gp130を含むIL-6受容体複合体に結合することによって、シグナルを伝達する(NakaおよびKishimoto、Arthritis Res.、4、154〜6頁(2002))。As2O3治療により、時間および用量依存的なgp130の細胞表面発現の低下が、後転写的にもたらされることを実施例は実証している。特定の阻害剤の使用によって、As2O3媒介によるgp130の低下はリソソームによって調節されるが、かつプロテアソームまたはカスパーゼシステムによっては調節されないことを実施例が示している。実施例はまた、モノ-ユビキチン化、すなわちリソソームの分解受容体の選別に至る生体信号をもたらす過程によって、gp130の分解が開始されることも示している(MarmorおよびYarden、Oncogene、23、2057〜70頁(2004))。
【0028】
B.投与方法
As2O3を含む組成物は、関節リウマチに伴う症状の開始前、開始中または開始後に投与され得る。対象にAs2O3を含有する開示組成物を投与するために、当業者に公知の許容される任意の方法が使用され得る。
【0029】
投与は、局所的(すなわち、特定の領域、生理学的システム、組織、器官または細胞タイプに対して)、または全身的とすることができる。As2O3を含む組成物は、経口、非経口および局所などの様々な経路によって投与し得る。As2O3を含む組成物はまた、関節、特に滑膜関節に直接投与し得る。選択される個々の投与経路は、特定の組成物、治療される対象の状態の重症度、および有効な免疫応答を誘発するために必要な用量などの要因に依存することになる。
【0030】
好ましい実施形態では、As2O3を含む組成物は経口投与される。As2O3の有効な経口用量は、対象の年齢および腎機能に応じて、約0.5mgから約1〜10mg、通常約5mgから10mgの範囲である。As2O3は腎臓を経て排出され、したがってAs2O3の用量は腎機能に応じて調節されなければならず、患者の腎機能が悪化している場合、用量を低減する。
【0031】
As2O3を含む組成物の有効レベルは、理想的には単回投与後に得ることができる。ある状況では、2回以上の用量のAs2O3を含む組成物を投与すると有利となり得る。
【0032】
C.併用療法
As2O3を含む組成物は、単独で、または1つもしくは複数の追加的な治療用薬剤、または予防用薬剤と組み合わせて投与することができ、あるいは治療を実施するために、外科的、放射的または他のアプローチと連携することができる。例えば、As2O3を含む組成物は、1つまたは複数の抗炎症剤を組み合わせて投与することができる。
【0033】
抗炎症剤は、非ステロイド系、ステロイド系またはそれらの組合せとすることができる。非ステロイド系抗炎症剤の代表例には、非限定的に、ピロキシカム、イソキシカム、テノキシカム、スドキシカムなどのオキシカム、アスピリン、ジサルシド、ベノリレート、トリリセート、サファピリン、ソルプリン、ジフルニサルおよびフェンドサルなどのサリチレート、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、イソキセパク、フロフェナク、チオピナク、ジドメタシン、アセマタシン、フェンチアザク、ゾメピラク、クリンダナク、オキセピナク、フェルビナクおよびケトロラクなどの酢酸誘導体、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、ニフルム酸およびトルフェナム酸などのフェナメート、イブプロフェン、ナプロキセン、ベンゾキサプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フェンブフェン、インドプロフェン、ピルプロフェン、カルプロフェン、オキサプロジン、プラノプロフェン、ミロプロフェン、チオキサプロフェン、スプロフェン、アルミノプロフェンおよびチアプロフェン酸などのプロピオン酸誘導体、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、フェプラゾン、アザプロパゾンおよびトリメタゾンなどのピラゾールが含まれる。これらの非ステロイド系抗炎症剤の混合物もまた、使用され得る。
【0034】
ステロイド系抗炎症薬物の代表例には、非制限的に、ヒドロコルチゾン、ヒドロキシルトリアムシノロン、アルファ-メチルデキサメタゾン、デキサメタゾン-ホスフェート、二プロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デゾニド、デゾキシメタゾン、酢酸デゾキシコルチコステロン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、二酢酸ジフルオラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクロロロンアセトニド、フルドロコルチゾン、ピバリン酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロゾン、フルラドレノロン、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルロゾン、フルラドレノロンアセトニド、メドリゾン、アムシナフェル、アムシナフィド、ベタメタゾンおよびそのエステルの平衡、クロロプレドニゾン、酢酸クロルプレドニゾン、クロコルテロン、クレスシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドネート、フルクロロニド、フルニゾリド、フルオロメタロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、吉草酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾンシクロペンチルプロピオネート、ヒドロコルタメート、メプレドニゾン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、二プロピオン酸ベクロメタゾン、トリアムシノロンなどのコルチコステロイド、およびそれらの混合物が含まれる。
【実施例】
【0035】
(実施例1) As2O3によるMH7A細胞増殖の阻害
材料および方法:
線維芽細胞様滑膜細胞MH7A細胞系
MH7Aは、理研バイオリソースセンター(Riken BioResource Center)(Tsukuba、日本)から購入した。5%CO2中37℃において、10%の熱不活化ウシ胎児血清(FBS;Invitrogen社、Carlsbad、CA、米国)を補給したRPMI1640(Invitrogen社)に細胞を維持した。
【0036】
試薬および抗体
試薬には、As2O3およびジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma社、St.Louis、MO、米国)、塩化アンモニウム(NH4Cl)(Amresco社、Solon、OH、米国)、プロテアソーム阻害剤MG115、パン-カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK、JNK阻害剤SP600125およびその陰性対照(Merck社、Darmtadt、ドイツ)、ならびに組み替えヒトIL-6(Peprotech社、Rocky Hill、NJ、米国)が含まれた。一次抗体には、ウサギ抗IL-6受容体α(IL-6Rα)およびgp130(C-20)抗体(Santa-Cruz Biotechnology社、Santa Cruz、CA、米国)、ウサギ-IL-6抗体(Merck社)、ウサギ抗リン酸化JNK(Thr183/Tyr185)、抗カスパーゼ3、抗β-アクチンおよび抗NFκB抗体(Cell Signaling Technology社、Beverly、MA、米国)、ならびにマウス抗ユビキチン抗体FK1およびFK2(Biomol社、Plymouth Meeting、PA、米国)が含まれた。二次抗体には、西洋わさびペルオキシダーゼ複合化ヤギ抗ウサギIgGおよびウサギ抗マウスIgG(Invitrogen社)が含まれた。
【0037】
MTTアッセイ
細胞増殖は、MTTアッセイによって評価した(GE Healthcare社、Piscataway、NJ、米国)(Cheungら、Cancer Lett.、246、122〜8頁(2007))。細胞(96ウェルプレートに2×104細胞/ウェル)を一晩インキュベートした後、対照または試薬で2〜6日間処理した。次に、処理細胞をMTT標識用溶液(10μL/ウェル)と共にインキュベートした。4時間インキュベートした後、細胞は溶解し、ホルマザン結晶は37℃において一晩で可溶化した。ホルマザンのシグナルを570nmで検出した(μ-quant(商標)マイクロプレートスペクトロメーター(microplate spectrometer)、Bio-Tek Instruments Inc.社、VT、米国)。取得データを、KCジュニアソフトウェア(junior software)(BLD Science社、Garner、NC、米国)によって解析した。
【0038】
ウエスタンブロット解析
ウエスタンブロット解析を実施した(Pangら、Gastroenterology、132、1088〜103頁(2007))。細胞溶解物およびタンパク質の採取は、標準的プロトコルに準拠して実施した。タンパク質サンプル(通常、30μg)を、12%の溶解用ゲル中でドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分離し、ニトロセルロース膜へ電気的に転写した(400mAで2時間)。5%の脱脂乳を含有するtris-バッファー生理食塩水-TWEEN(TBS-T)で、室温において30分間ブロッキングした後、膜を一次抗体および5%のウシ血清アルブミンを含むTBS-Tと共に、4℃で一晩インキュベートした。次に、該膜をTBS-Tで3回洗浄し、1:2000の西洋わさびペルオキシダーゼ複合化二次抗体(Amersham-Pharmacia Biotechnology社、Piscataway、NJ、米国)と共に、室温で1時間インキュベートした。免疫反応バンドは、スーパーシグナルウエストピコケミルミネッセンス基質(SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate)(Pierce Chemical Co.社、Rockford、IL、米国)を利用した化学発光にて検出し、またX線フィルムに可視化した。バンドシグナルのデンシオメトリー定量は、ImageJ 1.36bソフトウェア(National Institutes of Health、米国)を使用して実施した。実験はすべて3組で実施した。
【0039】
アネキシン-Vのアポトーシスアッセイ
アポトーシスアッセイ用に、1×106の細胞を10cmのプレート内で一晩インキュベートした後、対照または試薬で24時間処理した。次に、細胞をトリプシン処理し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、結合バッファー500μL中に再懸濁させて、FITC複合化アネキシン-Vおよびヨウ化プロピジウム(PI)(Immunotech社、Fullerton、CA、米国)と共に、氷上で10分間インキュベートした。アポトーシス細胞(アネキシン-V-陽性、PI-陰性)を、適切な色調補正後にフローサイトメトリーによって3回計数した(Epics、Beckman Coulter社、Fullerton、CA、米国)。データ解析を、WinMDI 2.8ソフトウェア(The Scripps Research Institute、La Jolla、CA、米国)によって実施した。
【0040】
結果:
As2O3は、約5μMの50%阻害濃度で、用量かつ時間依存的なMH7A細胞増殖の阻害を誘発した(図1A)。フローサイトメトリー解析により、細胞の増殖阻害はアポトーシスの誘発によって媒介されることが裏付けられた。MH7A細胞をAs2O3(5μM)と共に0〜24時間インキュベートし、アポトーシス細胞と死細胞を区別するためにヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシン-Vで染色した。代表的なアッセイでは、13%の対照細胞がアネキシン-Vに陽性、ヨウ化プロピジウムに陰性(アポトーシス)、および2.36%がアネキシン-Vに陽性、ヨウ化プロピジウムに陽性(死亡)となった一方、処理細胞の38.2%がアネキシン-Vに陽性、ヨウ化プロピジウムに陰性(アポトーシス)、および5.76%がアネキシン-Vに陽性、ヨウ化プロピジウムに陽性(死亡)となった。FACS解析の結果は、As2O3処理後にアポトーシス細胞が増加することを示した。
【0041】
ウエスタンブロット解析は、As2O3は用量かつ時間依存的にカスパーゼ3の活性化を誘発することを示した。カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK(25μM)によるカスパーゼ3の阻害は顕著に低下したが、As2O3の細胞毒性効果は全く改善しなかった(図1B)。MH7Aにおいて、カスパーゼ依存的およびカスパーゼ非依存的な経路の両方が、As2O3誘発性の細胞毒性に関与していることを、本結果は暗示した。
【0042】
(実施例2) IL-6の中和抗体によるMH7A細胞増殖の阻害
材料および方法:
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
TRIzol(Invitrogen社)を用いて、全RNAを調製した。逆転写PCR(RT-PCR)を実施した(Cheungら、Cancer Lett.、246、122〜8頁(2007))。Superscript(商標)IIIファースト-ストランド合成システム(First-Strand Synthesis System(Invitrogen社))を用い、製造元の取扱書に準拠してRNAを逆転写した。反応混合物は、1.2μLのcDNA、18μLのPlatinum(登録商標)PCRスーパーミックス(Supermix)(Invitrogen社)、および各プライマー対200nMを含有した。各プライマー一式について実施したアニーリング温度および増幅サイクル数を以下の表に挙げた。
【0043】
【表1】

【0044】
イムノブロット解析
イムノブロット解析をgp130のユビキチン化に実施した。MH7A細胞を、100μMのAs2O3と共に、0時間、4時間または6時間インキュベートする。全細胞溶解物の免疫沈降(IP)、その後の抗ユビキチン抗体であるFK1およびFK2とのウエスタンブロット解析のために、gp130に対する抗体を使用する。非免疫ウサギ血清(NIS)とのIPが対照となる。
【0045】
定量的RT-PCR
GP130用の定量的RT-PCR(Q-PCR)を、Assays-on-Demand(商標)遺伝子発現システム(Gene Expression System)(AssaylD: Hs00174360_ml、PE Biosystems社、Foster City、CA、米国)を利用し、製造元の取扱書に準拠して実施した。反応混合物は、2μLのcDNA、10μLのTaqMan(登録商標)ユニバーサルPCRマスターミックス(Universal PCR Master Mix)、1μLのAssay-on-demand(商標)遺伝子発現アッセイミックス(Assay Mix)、および20μLの容量とするためのRNase不含水を含有した。Q-PCRをABI Prism 7700配列検出器(Sequence Detector)(PE Biosystems社)を用いて実施した。熱サイクルは、50℃で2分間の初期設定で開始し、次いで95℃で10分間の第1変性ステップ、次に95℃で15秒間(変性)および60℃で1分間(アニーリングおよび伸長反応)を40サイクルした。cDNA導入用の内部標準として、GAPDHを使用した。GAPDHに関しては、増幅は、50℃で2分間の初期ステップ、95℃で10分間加熱する第1の変性ステップ、次に95℃で20秒間(変性)および62℃で1分間(アニーリングおよび伸長反応)を40サイクル実施した。リアル-タイムPCR増幅データを連続収集して、ABI Prism 7700配列検出器で解析した。内部標準に対して正規化を行った、対照キャリブレータに対する相対的遺伝子発現を、ΔΔCT法(ABI user bulletin number 2、PE Biosystem社)によって算出した(Cheungら、Cancer Lett.、246、122〜8頁(2007))。実験はすべて3組で実施した。
【0046】
結果:
MH7A増殖がIL-6に依存的であるかを検討するため、細胞増殖に対するIL-6の効果を検討した。外因性IL-6は、MH7A細胞の増殖を増加しなかった(図2A)。次に、細胞増殖に対するIL-6の中和抗体の効果を検討した。興味深いことに、本結果は、IL-6を中和すると、MH7A増殖が有意に阻害されることを示した(図2B)。モノ-およびポリ-ユビキチン化タンパク質の両方を識別するFK2によって、As2O3誘発性のgp130のユビキチン化は示されるが、ポリ-ユビキチン化タンパク質を識別するFK1によっては示されない。これらの結果は、gp130がモノ-ユビキチン化されたことを実証している。
【0047】
半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)は、IL-6遺伝子がMH7A細胞中で活発に転写されたことを裏付けた。これらの結果は、自己分泌IL-6ループがMH7Aの増殖に関与している可能性があることを示唆する。
【0048】
(実施例3) As2O3がIL-6受容体複合体のgp130を転写後に下方調節する。
材料および方法:
材料および方法は、上記の実施例1〜3に記載の通りであった。
【0049】
結果:
As2O3の阻害作用が、IL-6自己分泌経路の標的化により媒介されているかを検討するために、初めに、IL-6転写に対するAs2O3の効果を検討した。本結果は、As2O3はIL-6遺伝子転写に影響を及ぼさないことを示した。次に、2つのサブユニットであるIL-6受容体αおよびgp130を含むIL-6受容体に対するAs2O3の効果を試験した。ウエスタンブロット解析は、両サブユニットが発現することを示した。As2O3処理により、IL-6αは変化しないまま、用量かつ時間依存的にgp130が減少する結果になった。半定量的RT-PCRは、IL-6受容体αおよびgp130が活発に転写されること、およびAs2O3処理は両遺伝子の転写に効果がないことを示した。これらの結果をさらに確認するために、GP130遺伝子についてリアル-タイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応を実施した。本結果は、As2O3処理はGP130遺伝子転写に効果がないことを裏付けた(図2E)。これらの知見は、転写後レベルでIL-6受容体複合体のgp130成分を下方調節することによって、As2O3はMH7AにおけるIL-6シグナル伝達経路を標的とすることを暗示した。
【0050】
(実施例4) As2O3はリソソーム経路を介してgp130の分解を誘発した。
材料および方法:
材料および方法は、上記の実施例1〜3に記載の通りであった。
【0051】
結果:
As2O3が媒介するgp130の転写後の下方調節はgp130の分解を増強することを示唆した。この問題に対処するために、タンパク質分解の3つの経路であるリソソームタンパク質分解、プロテアソームタンパク質分解およびカスパーゼ依存的タンパク質分解について試験した。MH7A細胞をリソソーム阻害剤である2.5mMのNH4Clと共に予備インキュベートすると、As2O3誘発性のgp130の低下が有意に防止された(図3A)。一方、プロテアソーム阻害剤MG115(10μM)およびカスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK(25μM)と共に予備インキュベートしても、As2O3誘発性のgp130の低下に効果がなかった。これらの知見は、As2O3誘発性のgp130の低下にリソソームの分解が関与していることを示唆した。
【0052】
(実施例5) As2O3がgp130のユビキチン化を誘発する。
材料および方法:
免疫沈降
免疫沈降は、標準的手順によって実施した(Pangら、Gastroenterology、132、1088〜103頁(2007))。細胞を1mMのオルトバナジン酸ナトリウムおよびコンプリートプロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete protease inhibitor cocktail)(Complete;Roche Molecular Biochemicals社)を補給した氷冷PBSで洗浄し、バッファー(50mM Tris-HCl、pH7.5、100mM NaCl、1% Triton X-100、4μg/mLアプロチニン、100μMフェニルメチルスルホニルフルオリド、200μMオルトバナジン酸ナトリウム、2μg/mLロイペプチン、1mM ジチオスレイトールおよび1×Complete)に、4℃で15分間溶解させた。溶解物を採集して遠心分離した。タンパク質をアッセイして(Bio-Rad Protein Assay Kit、Philadelphia、PA、米国)、1μg/μLに調整した(通常、800μgから1000μg)。タンパク質サンプルを適切な抗体(通常、4μg)または対照の非免疫血清と共に、4℃で一晩、穏やかに振とうしながらインキュベートすることによって免疫沈降を実施した。抗体-タンパク質複合体を、30μLのrec-Protein G SEPHAROSE beads(登録商標)(Invitrogen社)と共に4℃で2時間、穏やかに振とうしながらインキュベートすることによって沈降させた。次に、Protein G beadsを500μLの氷冷溶解バッファーで3回洗浄した。上澄み液をアスピレートして、50μLの2×Laemmliバッファーを添加した。抗体-タンパク質複合体を、95℃で10分間加熱することによって、ビーズから切り離した。次に、免疫沈降物を3組で、ウエスタンブロット法によって解析した。
【0053】
結果:
タンパク質にモノ-ユビキチン部位が加わると、タンパク質をリソソームに選別することが可能となり、タンパク質はリソソームで最終的に分解される。As2O3がgp130のユビキチン化を増加させるか検討するために、MH7A細胞からの細胞溶解物を、As2O3処理の前後に抗gp130抗体と共に沈降させ、次にポリ-ユビキチン化タンパク質を識別した抗体FK1、ならびにモノ-ユビキチン化タンパク質およびポリ-ユビキチン化タンパク質の両方を識別したFK2とのウエスタンブロット解析を行った。本結果は、ユビキチン化gp130のみがFK2とのイムノブロットにおいて、(高分子量の塗抹として)検出され、FK1とのイムノブロットは検出されないことを示した。したがって、As2O3はgp130のモノ-ユビキチン化を誘発した。さらに、より長いAs2O3処理ほどより多量のユビキチン化gp130が得られ、時間依存的なモノ-ユビキチン化を示唆した(図3B)。これらの知見は、As2O3がgp130のリソソームの分解を誘発することをさらに裏付けた。
【0054】
(実施例6) c-Jun-N末端キナーゼ(JNK)のAs2O3活性化は、IL-6シグナル伝達の抑制に関与している。
材料および方法:
材料および方法は、上記の実施例1〜5に記載の通りであった。
【0055】
結果:
重要なIL-6シグナル伝達カスケードの1つは、JNKの活性化を含むMAPK経路である(Heinrichら、Biochem. J.、374、1〜20頁(2003))。興味深いことに、他の細胞系では、ヒ素はまたJNKを活性化することも示されている(Davisonら、Blood、103、3496〜502頁(2004))。したがって、MH7A細胞においてAs2O3誘発性の、IL-6シグナル伝達抑制において考えられるJNK活性化の関与について検討した。As2O3処理は、JNKのリン酸化反応を有意に増加させ、したがってJNKを活性化する(図4A)。JNK阻害剤SP600125(30μM)と共に予備処理すると、As2O3誘発性のJNKのリン酸化反応の増加が阻止された。As2O3誘発性のJNK活性化の阻害により、As2O3が媒介するMH7A細胞増殖の抑制が顕著に阻止されるので、JNK活性化には生物学的に意味があった(図4B)。
【0056】
JNKの活性化がIL-6シグナル伝達の抑制に関連しているかを試験するために、As2O3誘発性の抑制からgp130を解放することが以前に示されたリソソーム阻害剤NH4Cl(2.5mM)で、MH7A細胞を処理した。NH4Clの存在下で、As2O3誘発性のJNKの活性化がほとんど完全に阻止され(図5A)、JNK活性化に、gp130の分解を経るIL-6シグナル伝達経路の抑制が不可欠であることを示唆した。MH7A細胞をIL-6の中和抗体(0.5μg/mL)と共に処理することによって、この点について直接実証した。図5Bに示されるように、IL-6の中和がJNK活性化を誘発した。MH7A細胞において、JNKの活性化に、IL-6シグナル伝達の撹乱が必要とされることをこれらの結果は示した。
【0057】
(実施例7) As2O3誘発性のJNK活性化は、p53経路を経た増殖停止を誘発する。
材料および方法:
細胞周期解析
細胞周期解析を記載の通りに実施した(Pangら、J. Pathol.210、19〜25頁(2006))。細胞をトリプシン処理して、氷冷PBSで2回洗浄し、500μLのPBSに再懸濁させて、氷上、PIで10分間染色した(DNA Prep(商標)、Beckman Coulter社)。細胞周期をフローサイトメトリーによって決定し、データをWinMDI 2.8ソフトウェアによって解析した。
【0058】
結果:
As2O3誘発性のJNK活性化の増殖阻害効果が、カスパーゼ-3によって媒介されるかどうかを検討するために、As2O3処理前にMH7A細胞を、JNK阻害剤SP600125(30μM)で処理した。JNK阻害は、As2O3誘発性のカスパーゼ-3の活性化に影響を及ぼさず、増殖阻害に至るカスパーゼ非依存的な経路が、As2O3誘発性のJNK活性化に関与していることを示唆する。この知見は、図1に示される結果と一致した。JNKがp53をリン酸化することは公知であり、またp53のリン酸化反応は増殖停止の誘発に重要なステップであるので(Wu、Cancer Biol.Ther、3、156〜61頁(2004))、p53のリン酸化反応に対するAs2O3の効果を試験した。図5Cに示されるように、As2O3処理により、アポトーシス促進性遺伝子の転写活性化に重要な部位であるセリン46におけるp53のリン酸化反応が、顕著に増加した(Wu、Cancer Biol. Ther.、3、156〜61頁(2004))。SP600125によるJNKの活性化阻害は、As2O3媒介性のp53のリン酸化反応を顕著に抑制しており、p53のリン酸化反応がAs2O3誘発性のJNK活性の下流エフェクターであることを裏付けた。細胞周期解析は、As2O3処理によりG2Mが有意に停止することを示した(図5D)。PIで細胞標識してフローサイトメトリーによって決定した、5μMのAs2O3でMH7A細胞を24時間にわたり処理した効果を示すためにヒストグラムを用いた。
【0059】
(実施例8) As2O3は、JNKのクロス-トークパートナー(cross-talk partner)である核内因子カッパB(NFκB)を抑制する。
材料および方法:
材料および方法は、上記の実施例1〜7に記載の通りであった。
【0060】
結果:
もう1つの重要なJNKのクロス-トークパートナーはNFκBである(LiuおよびLin、Oncogene、26、3267〜78頁(2007))。NFκBはまた、関節炎の重要な炎症誘発因子である(Simmondsら、Rheumatology、47、584〜90頁(2008))。図6に示されるように、NFκBはMH7A中に構成的に発現した。As2O3処理により、NFκBのレベルが用量(図6A)および時間(図6B)依存的に顕著に低下した。
【0061】
修正および改変は当業者には明らかであり、また添付の特許請求の範囲内から生じると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチの1つまたは複数の症状を軽減または治療するために有効量の三酸化二ヒ素を含む組成物を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、関節リウマチおよび他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防する方法。
【請求項2】
滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害するため、または滑膜細胞のアポトーシスを促進するために、滑膜細胞に有効量の三酸化二ヒ素を接触させるステップを含む、滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害する、または滑膜細胞のアポトーシスを促進する方法。
【請求項3】
三酸化二ヒ素をリソソームに向けることによりIL-6受容体の分解を促進するために、細胞に有効量の三酸化二ヒ素を接触させるステップを含む、細胞におけるIL-6受容体の細胞表面での発現を低減する方法。
【請求項4】
IL-6受容体が滑膜細胞において発現する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
滑膜細胞が関節リウマチ患者に存在する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
滑膜細胞が炎症性関節炎患者に存在する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項7】
三酸化二ヒ素が患者に経口的に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
三酸化二ヒ素が滑膜関節に局所的に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ステロイド系または非ステロイド系抗炎症剤を投与するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
滑膜細胞の増殖を阻害するため、または滑膜細胞のアポトーシスを促進するために、有効量の三酸化二ヒ素、および場合により薬学的に許容される賦形剤を含む、対象における関節リウマチまたは他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状の治療用医薬組成物。
【請求項11】
三酸化二ヒ素が経口投与用の薬学的に許容される担体中に存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
三酸化二ヒ素が滑膜関節への局所投与用の薬学的に許容される担体中に存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
三酸化二ヒ素が1mgから10mgの量で存在する、請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
三酸化二ヒ素が5mgから10mgの量で存在する、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
溶液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口投与用単位剤形にある請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
関節リウマチおよび他の炎症性関節炎の1つまたは複数の症状を治療または予防するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
【請求項17】
滑膜細胞の増殖を低減もしくは阻害するため、または滑膜細胞のアポトーシスを促進するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
【請求項18】
細胞においてIL-6受容体の細胞表面発現を低減するための医薬の調製における三酸化二ヒ素の使用。
【請求項19】
IL-6受容体が滑膜細胞において発現する、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
滑膜細胞が関節リウマチ患者に存在する、請求項17または19に記載の使用。
【請求項21】
滑膜細胞が炎症性関節炎患者に存在する、請求項17または19に記載の使用。
【請求項22】
三酸化二ヒ素が患者に経口的に投与される、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
三酸化二ヒ素が滑膜関節に局所的に投与される、請求項20に記載の使用。
【請求項24】
ステロイド系または非ステロイド系抗炎症剤を投与するステップをさらに含む、請求項16に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2012−527408(P2012−527408A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511124(P2012−511124)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/CN2010/000690
【国際公開番号】WO2010/133087
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(501372798)ザ ユニバーシティ オブ ホンコン (5)
【氏名又は名称原語表記】The University of Hong Kong
【住所又は居所原語表記】Pokfulam Road Hong Kong
【Fターム(参考)】