説明

炭化ケイ素焼結体の製造方法

【課題】CVD法によって製造された炭化ケイ素焼結体と同レベルの耐食性を有する炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素焼結体の製造方法は、不活性雰囲気下において、エチルシリケートとフェノール樹脂とを含む混合物を焼成し、炭化ケイ素粉体を生成する過程で生成され、ケイ素単体と一酸化ケイ素とを含むケイ素源の粉体を抽出する工程と、炭化ケイ素焼結体の表面に前記ケイ素源を蒸着させる蒸着工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、硬度、耐熱性、化学的安定性に優れることから、研磨剤、耐火物、発熱体などに利用することができる。半導体製造の分野では、炭化ケイ素は、半導体製造装置の部材の原料として用いられる。例えば、プラズマエッチング処理に用いられる半導体製造装置の部材として使用される場合には、プラズマや熱酸化による損傷に対する高い耐久性(耐食性という)が求められる。
【0003】
そこで、炭化ケイ素焼結体の表面に化学気相蒸着法(CVD)により炭化ケイ素膜を形成することにより、炭化ケイ素焼結体の耐食性を高める技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−185981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CVD法では、環境負荷物質を使用することや、均一な炭化ケイ素膜を作成するための装置の制御に高い技術が必要であることから、改善の余地が残されている。
【0006】
そこで、本発明は、CVD法によって製造された炭化ケイ素焼結体と同レベルの耐食性を有する炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有する。すなわち、本発明の第1の特徴は、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、不活性雰囲気下において、エチルシリケートとフェノール樹脂とを含む混合物を焼成し、炭化ケイ素粉体を生成する過程で生成され、ケイ素単体と一酸化ケイ素とを含むケイ素源の粉体を抽出する工程と、炭化ケイ素焼結体の表面に前記ケイ素源を蒸着させる蒸着工程を有することを要旨とする。
【0008】
本発明者らは、炭化ケイ素焼結体の耐食性を高める方法について鋭意検討を行った結果、炭化ケイ素焼結体の表面にケイ素単体と酸化ケイ素とを含むケイ素源を蒸着させることにより、例えば、CVD法を用いて炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜を形成した炭化ケイ素焼結体と同レベルの耐食性を実現できることを見出した。
【0009】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記蒸着工程の前に、炭化ケイ素焼結体の表面を表面粗さ2μm以下にする工程を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CVD法によって製造された炭化ケイ素焼結体と同レベルの耐食性を有する炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法を説明する説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る炭化ケイ素焼結体に蒸着する材料を抽出する装置を説明する構成図である。
【図3】図1に示した工程B,Cにおいて用いられる蒸着装置を説明する構成図である。
【図4】図1に示す工程P2〜P3において抽出される中間生成物の分析結果を示す図である。
【図5】図5(a)は、サンプルAの表面状態のSEM写真図であり、図5(b)は、サンプルBの表面状態のSEM写真図であり、図5(c)は、サンプルCの表面状態のSEM写真図である。
【図6】図6(a)は、サンプルDの表面状態のSEM写真図であり、図6(b)は、サンプルEの表面状態のSEM写真図であり、図6(c)は、サンプルFの表面状態のSEM写真図である。
【図7】図7は、サンプルFの表面の一部に、HF/HNOの混合溶液を滴下した後の表面の粗度プロファイルを説明する図である。
【図8】図8(a)は、プラズマ処理の前と後のサンプルDの表面状態のSEM写真図であり、図8(b)は、プラズマ処理の前と後のサンプルAの表面状態のSEM写真図であり、図8(c)は、プラズマ処理の前と後の処理の比較例として示すサンプルの表面状態のSEM写真である。
【図9】図9は、プラズマ暴露時間と炭化ケイ素焼結体との関係を示す図である。
【図10】図10は、炭化ケイ素焼結体を1800℃に加熱した状態におけるグロー放電質量分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法の実施形態について説明する。具体的には、(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法、(2)炭化ケイ素粉末の製造方法、(3)ケイ素源の抽出装置、(4)蒸着装置、(5)作用・効果、(6)その他の実施形態について説明する。
【0013】
(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法
図1は、実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法を説明する説明図である。炭化ケイ素焼結体の製造方法では、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜を形成することにより、炭化ケイ素焼結体の表面を改質する。
【0014】
実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、炭化ケイ素焼結体を作製する工程Aと、ケイ素単体、酸化ケイ素を含むケイ素源を加熱する工程Bと、加熱によって生成されたケイ素、及び酸化ケイ素ガスが炭化ケイ素焼結体の表面に蒸着する工程Cとを有する。工程Bでは、例えば、アルゴンガス雰囲気(Ar、0.1MPa以下)において、酸化ケイ素を1600℃以上に加熱する。
【0015】
実施形態では、炭化ケイ素焼結体は、炭化ケイ素粉末をホットプレスすることによって形成される。炭化ケイ素焼結体の製造方法で使用されるケイ素源は、ケイ素単体、酸化ケイ素を含み、炭化ケイ素を製造する工程の副生成物として得られる。ケイ素源は、工程P1〜P3を経て炭化ケイ素粉体を作製する過程で抽出することができる。
【0016】
具体的には、ケイ素源は、不活性雰囲気下において、エチルシリケートとフェノール樹脂とを含む混合物を生成する工程P1と、混合物を非酸化雰囲気下にて加熱する工程P2と、炭化ケイ素粉体を生成する工程P3とを有する炭化ケイ素粉体の製造方法の過程で生成される。工程P1〜P3を経て得られる炭化ケイ素の粉体には、ケイ素単体と一酸化ケイ素とが含まれる。
【0017】
上述のように、本実施形態では、炭化ケイ素焼結体の表面に蒸着するケイ素源は、炭化ケイ素を作製する工程で抽出されるものである。すなわち、工程Aで作製される炭化ケイ素焼結体は、工程P1〜P3によって作製された炭化ケイ素粉体を原料にすることができる。
【0018】
実施形態では、工程C(蒸着工程)の前に、炭化ケイ素焼結体の表面を表面粗さ2μm以下にする表面処理を行う。表面処理としては、例えば、鏡面処理、粗面処理などである。また、蒸着工程の前に行う表面処理は、複数回行うこともできる。ケイ素源が蒸着された炭化ケイ素焼結体の表面に、繰り返しケイ素源を蒸着させることもできる。
【0019】
以上説明したように、実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、工程P1〜P3を経て炭化ケイ素粉体が作製される過程で抽出された酸化ケイ素をケイ素源として炭化ケイ素焼結体の表面に蒸着することにより、炭化ケイ素焼結体の表面を改質している。工程P1〜P3の詳細は後述する。
【0020】
(2)炭化ケイ素粉末の製造方法(工程P1〜P3)
本実施形態では、酸化ケイ素(SiO)は、炭化ケイ素粉末の製造工程の過程において抽出される。本実施形態では、炭化ケイ素粉末は、以下のように作製される。
【0021】
すなわち、炭化ケイ素(SiC)粉末は、ケイ素源と炭素源とを混合した後、非酸化雰囲気下にて1600℃以上の温度で加熱することにより得られる。この化学反応は、次のように進むと考えられる。まず、(1)式に示されるように中間生成物として一酸化ケイ素(SiO)ガスが生成される。この一酸化ケイ素ガスをそのまま1600℃以上の温度で加熱し続けると、(2)式に示されるように炭化ケイ素粉末が生成される。
【0022】
本発明の発明者らは、炭化ケイ素粉末の生成後、速やかに1600℃未満の温度にて冷却すると、(3)式に示されるように、ケイ素(Si)微粒子を含む混合粉体が得られることを見出した。
【0023】
SiO+C→SiO+CO (1)
SiO+2C→SiC+CO (2)
2SiO→Si+SiO (3)
炭化ケイ素粉末としては、α型、β型、非晶質あるいはこれらの混合物等が挙げられる。また、高純度の炭化ケイ素焼結体を得るためには、原料の炭化ケイ素粉末として、高純度の炭化ケイ素粉末を用いることが好ましい。
【0024】
炭化ケイ素焼結体の作製に用いる場合の炭化ケイ素粉末の粒径は、具体的には、0.01μm〜10μm程度、さらに好ましくは、0.05μm〜5μmである。粒径が0.01μm未満であると、計量、混合等の処理工程における取扱いが困難となりやすい。また、10μmを超えると、比表面積(隣接する粉末との接触面積)が小さくなり、高密度化し難くなるため好ましくない。
【0025】
高純度の炭化ケイ素粉末は、例えば、少なくとも1種以上のケイ素化合物を含むケイ素源と、少なくとも1種以上の加熱により炭素を生成する有機化合物を含む炭素源と、重合又は架橋触媒とを溶媒中で溶解し、乾燥した後に得られた粉末を非酸化性雰囲気下で焼成する工程により得られる。
【0026】
ケイ素化合物を含むケイ素源(以下、「ケイ素源」という。)としては、液状のものと固体のものとを併用することができるが、少なくとも1種は液状のものから選ばれなくてはならない。液状のものとしては、アルコキシシラン(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)及びテトラアルコキシシランの重合体が用いられる。アルコキシシランの中ではテトラアルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、メトキシシラン、エトキシシラン、プロポキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられるが、ハンドリングの点からは、エトキシシランが好ましい。また、テトラアルコキシシランの重合体としては、重合度が2〜15程度の低分子量重合体(オリゴマー)及びさらに重合度が高いケイ酸ポリマーで液状のものが挙げられる。これらと併用可能な固体状のものとしては、酸化ケイ素が挙げられる。
【0027】
上記反応焼結法において酸化ケイ素とは、SiOの他、シリカゲル(コロイド状超微細シリカ含有液、内部にOH基やアルコキシル基を含む)、二酸化ケイ素(シリカゲル、微細シリカ、石英粉末)等を含む。これらケイ素源は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらケイ素源の中でも、均質性やハンドリング性が良好な観点から、テトラエトキシシランのオリゴマー及びテトラエトキシシランのオリゴマーと微粉末シリカとの混合物等が好適である。また、これらのケイ素源は高純度の物質が用いられ、初期の不純物含有量が20ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。ケイ素源としては、加熱により一酸化ケイ素を生成するものであることが好ましく、具体的にはエチルシリケートが好ましい。
【0028】
炭素源として用いられる物質は、酸素を分子内に含有し、加熱により炭素を残留する高純度有機化合物であることが好ましい。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂やグルコース等の単糖類、蔗糖等の少糖類、セルロース、デンプン等の多糖類などの各種糖類が挙げられる。これらはケイ素源と均質に混合するという目的から、常温で液状のもの、溶媒に溶解するもの、熱可塑性あるいは熱融解性のように加熱することにより軟化するものあるいは液状となるものが主に用いられる。なかでも、レゾール型フェノール樹脂やノボラック型フェノール樹脂が好適である。特に、レゾール型フェノール樹脂が好適に使用される。
【0029】
高純度の炭化ケイ素粉末の製造に用いられる重合及び架橋触媒としては、炭素源に応じて適宜選択でき、炭素源がフェノール樹脂やフラン樹脂の場合、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、しゅう酸、硫酸等の酸類が挙げられる。これらの中でも、トルエンスルホン酸が好適に用いられる。
【0030】
反応焼結法に使用される原料粉末である高純度炭化ケイ素粉末を製造する工程における、炭素とケイ素の比(以下、C/Si比と略記)は、混合物をl000℃にて炭化して得られる炭化物中間体を、元素分析することにより定義される。化学量論的には、C/Si比が3.0の時に生成炭化ケイ素中の遊離炭素が0%となるばずであるが、実際には同時に生成するSiOガスの揮散により低C/Si比において遊離炭素が発生する。生成した炭化ケイ素粉末中の遊離炭素量が焼結体等の製造用途に適当でない量にならないように予め配合を決定することが重要である。
【0031】
通常、1気圧近傍で1600℃以上での焼成では、C/Si比を2.0〜2.5にすると遊離炭素を抑制することができ、この範囲を好適に用いることができる。C/Si比を2.55以上にすると遊離炭素が顕著に増加するが、この遊離炭素は結晶成長を抑制する効果を持つため、得ようとする結晶成長サイズに応じてC/Si比を適宜選択しても良い。但し、雰囲気の圧力を低圧又は高圧とする場合は、純粋な炭化ケイ素を得るためのC/Si比は変動するので、この場合は必ずしも上記C/Si比の範囲に限定するものではない。
【0032】
以上より、特に高純度の炭化ケイ素粉末を得る方法としては、本願出願人が先に出願した特開平9−48605号の単結晶の製造方法に記載の原料粉末の製造方法が挙げられる。すなわち、高純度のテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン重合体から選択される1種以上をケイ素源とし、加熱により炭素を生成する高純度有機化合物を炭素源とし、これらを均質に混合して得られた混合物を非酸化性雰囲気下において焼成して炭化ケイ素粉末を得る炭化ケイ素生成工程と、得られた炭化ケイ素粉末を、1700℃以上2000℃未満の温度に保持し、上記温度の保持中に、2000℃〜2100℃の温度において5〜20分間にわたり加熱する処理を少なくとも1回行う後処理工程とを行って、各不純物元素の含有量が0.5ppm以下である炭化ケイ素粉末を得る。
【0033】
炭化ケイ素粉末を製造する工程において窒素を導入する場合は、まず、ケイ素源と、炭素源と、窒素源からなる有機物質と、重合又は架橋触媒とを均質に混合するが、上記如く、フェノール樹脂等の炭素源と、ヘキサメチレンテトラミン等の窒素源からなる有機物質と、トルエンスルホン酸等の重合又は架橋触媒とを、エタノール等の溶媒に溶解する際に、テトラエトキシシランのオリゴマー等のケイ素源と十分に混合することが好ましい。
【0034】
(3)ケイ素源の抽出装置
炭化ケイ素粉末の製造方法の過程において、炭化ケイ素焼結体に蒸着するケイ素源を抽出する抽出装置の概略を図2に示す。抽出装置1は、ケイ素源と炭素源を含む混合物Wを収容し、加熱雰囲気を形成する加熱容器2と、加熱容器2を保持するステージ8と、混合物Wを加熱する発熱体10a、10bと、加熱容器2と発熱体10a、10bを覆う断熱材12と、加熱容器2から吸引管21を介して反応ガスを吸引するブロア23と、混合粉体を収容する集塵機22、ガスを供給する供給管24を有する吸引装置20とを備える。吸引装置20は、加熱容器2内に加熱及び不活性雰囲気を維持しながらSiOガスを吸引することができる。吸引装置20の内はアルゴンガスが循環するようになっている。また、設定された圧力により自動開閉する電磁弁25を備える。
【0035】
(4)蒸着装置
図1に示した工程B,Cにおいて使用する蒸着装置100の概略を図3に示す。蒸着装置100は、坩堝101と、坩堝101を加熱するヒータ102と、炭化ケイ素焼結体120を支持する支持体103とを備える。蒸着装置100の全体は、不活性雰囲気に保たれたチャンバー(不図示)に覆われている。
【0036】
坩堝101は、開口部と底部とを有する略円筒形状を有し、底部には、工程P2〜P3において抽出されたケイ素単体と酸化ケイ素とを含む中間生成物であるケイ素源110が収容される。
【0037】
ヒータ102は、略円筒形状を有する坩堝101の外周部を取り巻くように巻回されており、坩堝101及び坩堝101内部に収容されたケイ素源110を所定の温度に加熱する。ヒータ102の開口部には、支持体103が設けられている。炭化ケイ素焼結体120は、坩堝101の開口部付近に支持体103により支持される。
【0038】
ヒータ102により坩堝101が加熱されると、ケイ素源110から酸化ケイ素(SiO)ガス及びケイ素が発生し、炭化ケイ素焼結体102に接触する。
【0039】
(5)作用・効果
実施形態に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法では、不活性雰囲気下において、エチルシリケートとフェノール樹脂とを含む混合物を焼成することによって炭化ケイ素粉体を生成する過程で生成される中間生成物を抽出する。この抽出した中間生成物には、ケイ素単体と一酸化ケイ素とが含まれる。この中間生成物をケイ素源として用い、炭化ケイ素焼結体の表面に蒸着させる。
【0040】
実施形態では、ケイ素源(SiO)から、ケイ素と酸化ケイ素ガスが生成され、炭化ケイ素焼結体の表面において、以下の反応が起こりうると考えられる。
【0041】
Si+C→SiC (4)
SiO+2C→SiC+CO (5)
ケイ素源からケイ素及び酸化ケイ素が発生されると、(4)式及び(5)式の化学平衡により、右向きの反応が促進され、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素(SiC)膜が形成されると考えられる。これにより、CVD法によって製造された炭化ケイ素焼結体と同レベルの耐食性を有する炭化ケイ素焼結体を製造することができる。
【0042】
また、本実施形態では、炭化ケイ素焼結体の表面に蒸着するケイ素源は、炭化ケイ素粉末を作製する工程(工程P1〜P3)で抽出されるものである。すなわち、工程Aで作製される炭化ケイ素焼結体は、工程P1〜P3によって作製された炭化ケイ素粉体を原料にすることができる。このように、本実施形態では、炭化ケイ素焼結体を製造する製造過程で得られる副生成物を表面改質のためのケイ素源として用いることができるため、原料に係るコストが抑えられる。従って、耐食性に優れた炭化ケイ素焼結体の製造コストを抑えることができる。
【0043】
また、従来のCVD法によって形成された炭化ケイ素膜は、抵抗が高いため、放電加工ができないという問題点もあった。これに対して、実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法によって形成される炭化ケイ素焼結体の抵抗は、1.0×10−3オーダであるため、放電加工が行えるという利点がある。
【0044】
(6)その他の実施形態
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。
【0045】
例えば、実施形態では、工程Bにおいて、ケイ素源を加熱しているが、ケイ素源を加熱し、蒸着を開始する前段階の処理として、炭化ケイ素焼結体を加熱しておくことが好ましい。図10は、炭化ケイ素焼結体を2000℃に加熱したときの1μm程度の表面層の炭素をグロー放電質量分析で測定した結果を示す。これによれば、炭化ケイ素焼結体の表面のケイ素が離脱し、炭化ケイ素焼結体の表面が炭素リッチな状態になると考えられる。これにより、離脱したケイ素によって、(4)式の反応が促進され、炭化ケイ素焼結体の表面において炭化ケイ素膜の成長が起こりやすくなると考えられる。
【0046】
この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0047】
図3に示す装置を用いて、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜を形成し、耐酸性及び耐プラズマ性の評価試験及び観察を行った。
【0048】
まず、ケイ素源としてエチルシリケートを用い、炭素源としてフェノール樹脂を用いて、炭化ケイ素焼結体を形成する原料としての炭化ケイ素粉体を作製した。また、この炭化ケイ素粉体の作製の過程で副次的に生成される中間生成物を抽出し、この中間生成物をケイ素源として用いて、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜を蒸着させた。蒸着工程(形工程B)の加熱プロファイルの一例は、次の通りである。すなわち、0℃から1800℃まで9時間かけて昇温し、1800℃で1時間保持した後、冷却する。加熱によってケイ素及び酸化ケイ素ガスが発生し、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜が形成された。
【0049】
(A)ケイ素源の分析
図1に示す工程P2〜P3において抽出される中間生成物であるケイ素源の組成を分析した結果を図4に示す。図4に示す結果から、ケイ素源には、酸化ケイ素とケイ素とが含まれることが判る。
【0050】
(B)炭化ケイ素焼結体の表面解析
図1に示す工程A〜工程Cを経て作製された改質後の炭化ケイ素焼結体の表面をSEMにて観察した。表面処理と、その回数を変えて複数のサンプルを作製した。得られたサンプルの表面状態をSEMにて観察した。結果を図5,図6に示す。図5(a)は、蒸着工程の前に鏡面処理を行わない炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルAという)の表面状態のSEM写真図であり、図5(b)は、蒸着工程の前に鏡面処理を1回行った炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルBという)の表面状態のSEM写真図であり、図5(c)は、蒸着工程の前に鏡面処理を2回行った炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルCという)の表面状態のSEM写真図である。
【0051】
図6(a)は、蒸着工程の前に粗面処理を行わない炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルDという)ときの表面状態のSEM写真図であり、図6(b)は、蒸着工程の前に粗面処理を1回行った炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルEという)の表面状態のSEM写真図であり、図6(c)は、蒸着工程の前に粗面処理を2回行った炭化ケイ素焼結体の表面に酸化ケイ素を蒸着させたサンプル(サンプルF)の表面状態のSEM写真図である。
【0052】
図5、図6に示されるように、未処理のサンプルA,Dの表面には、微細な凹部(ポアという)が存在する。プラズマ環境下では、ポアにフリーカーボンが集中し、ポアを起点として損傷されやすいため、ポアが少なければ、プラズマ耐性が高いといえる。実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、蒸着工程の前に表面処理を行うことにより、炭化ケイ素焼結体の表面のポアを減少させることができる。
【0053】
(C)耐酸性評価
サンプルA〜Fの表面の一部に、HF/HNOの混合溶液(強酸性)を滴下し、滴下領域を含む断面の粗度解析を行った。粗度プロファイルを図7に示す。図7の粗度プロファイルは、サンプルFのものである。図7は、サンプルFである炭化ケイ素焼結体の断面を表している。図7に示す滴下領域に、HF/HNOの混合溶液を滴下しても、表面が侵食されていないことが判る。すなわち、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜が形成された炭化ケイ素焼結体の表面には、酸化ケイ素がほとんど存在していないことを意味する。
【0054】
(D)耐プラズマ性
図8(a)は、プラズマ処理の前(上図)と後(下図)のサンプルDの表面状態のSEM写真図であり、図8(b)は、プラズマ処理の前(上図)と後(下図)のサンプルAの表面状態のSEM写真図であり、図8(c)は、プラズマ処理の前(上図)と後(下図)の処理の比較例として示すサンプル(サンプルRという)の表面状態のSEM写真である。
【0055】
また、図9は、プラズマ暴露時間と炭化ケイ素焼結体の損耗量との関係を示す図である。図9に示すサンプルNは、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜が形成されていないものである。図9に示す結果によれば、サンプルB,E,O,F,N,Rは、CVD法と同等レベルの耐プラズマ性を有することが判る。
【符号の説明】
【0056】
1…抽出装置、 2…加熱容器、 8…ステージ、 10a,10b…発熱体、 12…断熱材、20…吸引装置、 21…吸引管、 22…集塵機、 23…ブロア、 24…供給管、 25…電磁弁、 100…蒸着装置、 101…坩堝、 102…ヒータ、 103…支持体、 110…ケイ素源、 120…炭化ケイ素焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を含む炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
不活性雰囲気下において、エチルシリケートとフェノール樹脂とを含む混合物を焼成し、炭化ケイ素粉体を生成する過程で生成され、ケイ素単体と一酸化ケイ素とを含むケイ素源の粉体を抽出する工程と、
炭化ケイ素焼結体の表面に前記ケイ素源を蒸着させる蒸着工程を有する炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記蒸着工程の前に、
炭化ケイ素焼結体の表面を表面粗さ2μm以下にする表面処理工程を有する請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241135(P2011−241135A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117218(P2010−117218)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】