説明

炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックス及び該セラミックスの製造方法

【課題】炭化ホウ素セラミックスが本来有する高い比剛性を著しく損なうことなく、構造材料とした場合の課題であった破壊靱性値を改善し、比較的高強度化を維持でき、高速で可動する用途に使用した場合の信頼性をも満足できる炭化ホウ素系セラミックスの提供。
【解決手段】室温での曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上であり、かつ、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gである炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスであって、少なくとも、炭化ホウ素の含有量が50質量%よりも多く、炭化ケイ素の含有量が50質量%未満であり、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下であり、該その他の成分のうちの1つであるアルミニウムの含有量が1質量%以下である組成を有し、かつ、セラミックス中の粒子サイズの平均粒径が20μm以下である炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックス及び、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速で可動する機械部材や、化学的な反応が起こりうる環境下で使用される構造部材、さらには、バルブ等の耐摩耗性が要求される摺動部材にも適用可能なセラミックス、及び該セラミックスの製造方法に関する。さらに詳しくは、炭化ホウ素と炭化ケイ素との複合材料からなる優れた機械的特性を有する炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックス(以下、単に複合セラミックスとも呼ぶ)を経済的に製造することができる技術の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、金属材料と比較して軽量で硬く、弾性率の高い材料であることから、構造用部材として工業製品に幅広く応用されている。その代表的なものであるアルミナセラミックスは、かさ密度が3.9g/cm3と、セラミックスとしては比較的高く、構造部材の重量が相対的に高くなってしまうため、高速で可動する機械部材としては最適な材料とは言い難い。そのため、かさ密度が相対的に低く、アルミナと機械的特性がほぼ同等である炭化ケイ素セラミックスが、可動する機械部材の材料として期待されている。
【0003】
一方、近年、可動する機械部材の高速化は目覚しく、例えば、セラミックス材料が適用されている、半導体製造装置用露光装置やロボットアーム等においても高速化が進んでいる。これに対し、可動する機械部材の重要なパラメーターである比剛性(弾性率/かさ密度)を、アルミナセラミックスと炭化ケイ素セラミックスとについて比較すると、それぞれが約100GPa・cm3/gと、約128GPa・cm3/gであり、僅かな差異しかない。このことは、炭化ケイ素セラミックスは、従来のレベルであればアルミナセラミックスの代替品として十分であるものの、高速化が目覚しい半導体製造装置用露光装置やロボットアーム等への適用を考えた場合、十分とは言えない。
【0004】
これらの状況により、比剛性が高い材料の開発が行われ、軽量で高弾性率を示す炭化ホウ素セラミックスに注目が集まり、様々な研究機関や企業にて研究開発が行われている。しかしながら、炭化ホウ素セラミックスは共有結合性が強く、工業用セラミックスの一般的な製造方法である常圧焼結法により緻密化が困難であることから、常圧焼結によって緻密質のものを作製する場合には、焼結助剤である炭素や様々な化合物を添加することが行われている(特許文献1及び2等参照)。しかし、このような方法で得られたセラミックスは、添加する焼結助剤により炭化ホウ素セラミックスの有する優れた特性が阻害される傾向があり、工業製品として実用化するには至っていない。高純度の炭化ホウ素セラミックスは、微量の添加物、例えば、炭素を添加し、ホットプレスに代表される加圧焼結法により作製するのが一般的であることから、現状では、僅かに線引きダイスやサンドブラストノズル等、単純な形状の部材への応用が進んでいるのみである。
【0005】
上記した実情から、炭化ホウ素セラミックスの優れた特性を示すものが得られ、しかも、工業製品を提供する手段として有用な常圧焼結法によって、炭化ホウ素セラミックスを製造することが種々試みられている。代表的な例として、微量の炭素を添加し、焼成雰囲気をH2/Heとすることで焼結を阻害する要因を抑制し、常圧焼結法により緻密なセラミックスを得る方法についての提案がある(特許文献3等参照)。一方、焼成雰囲気中に、焼結を促進する金属アルミニウムやシリコンの蒸気を共存させることで、常圧で、高純度の炭化ホウ素を容易に緻密化することについての提案がある(特許文献4参照)。かかる技術によれば、優れた機械的特性を示し、比剛性としても、160GPa・cm3/gと、加圧焼結法により作製された炭化ホウ素セラミックスとほぼ同等なセラミックスを、容易に得ることができる。
【0006】
しかしながら、炭化ホウ素セラミックスは、軽量で高弾性で高硬度である特長とともに、他のセラミックスと比較して極めてもろい性質を示すことから、可動部材としての信頼性に欠けるという問題がある。これに対し、比較的、破壊靱性値の高い炭化ケイ素をベースとし、比剛性を高くする試みとして、炭化ケイ素に、炭化ホウ素を添加することで、比剛性が130GPa・cm3/g以上の複合セラミックス材料とすることが提案されている(特許文献5参照)。該文献には、焼成を不活性ガス雰囲気中(常圧)で行うことも記載されている。しかしながら、前記したように、近年、半導体製造装置(例えばステッパー)などでは、さらにセラミックス部材が高速に可動する条件に移行しており、後述するように、このようなものに適用する材料としては十分なものとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−156372号公報
【特許文献2】特公昭58−030263号公報
【特許文献3】米国特許第4,195,066号明細書
【特許文献4】国際公開第2008/153177号パンフレット
【特許文献5】特開2006−347806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術では、下記のことを具体的に開示しているが、これらの技術によって得られるセラミックス材料は、使用目的によっては十分なものとは言えず、改良の余地があった。前記した特許文献4では、炭化ホウ素セラミックスが相対密度89%以上で、アルミニウム含有量が0.03以上1.0質量%以下である緻密なセラミックスが簡易に得られること、さらに、その製造方法として、焼成雰囲気を、アルミニウムを少なくとも含有しているものとすることで、常圧焼結が可能となることを開示している。また、前記特許文献5には、炭化ケイ素50〜95質量部、炭化ホウ素5〜50質量部、遊離炭素0.1〜5質量部を含み、比剛性が130GPa・cm3/g以上であるセラミックス材料が開示されており、その製造の際に、焼結助剤として、原料混合時に、アルミニウム換算で0.1〜5質量部のアルミニウム或いはアルミニウム化合物を添加することが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載されている緻密質炭化ホウ素セラミックスは、可動する部材に求められている高比剛性の観点では極めて高い値を示すものの、高純度炭化ホウ素セラミックスであることから、破壊靱性値(もろさの指標)が低いという課題がある。すなわち、この場合は、構造部材、特に高速で可動する用途に適用することへの信頼性が低く、このことが、これらの用途への実用化の妨げになっている。これに対し、炭化ケイ素に炭化ホウ素を添加することにより得られた複合セラミックスは、炭化ケイ素セラミックスが、炭化ホウ素セラミックスに比較して破壊靱性値が高いことから、より高い破壊靱性値が期待される。ところが、特許文献5に記載されている複合セラミックスは、炭化ホウ素の含有量が50質量%以下であることから、複合則に従って緻密化したとして算出しても、その比剛性は炭化ケイ素の1.25倍程度が上限であり、この複合セラミックスの比剛性は、高純度炭化ホウ素セラミックスのおおよそ85%程度になってしまう。これに対し、半導体製造装置(例えばステッパー)などでは、近年、さらにセラミックス部材が高速に可動する条件に移行していることから、これに適用するためには、さらなる高比剛性化を達成した工業生産が可能なセラミックス材料が待望されている。
【0010】
従って、本発明の目的は、炭化ホウ素セラミックスが本来有する高い比剛性を著しく損なうことなく、構造材料とした場合に課題であった破壊靱性値を改善し、比較的高強度化を維持でき、高速で可動する用途に使用する場合における信頼性をも満足できる炭化ホウ素系セラミックスを提供することにある。より具体的には、本発明の目的は、室温での曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上であり、かつ、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gである複合セラミックスを提供することにある。本発明の別の目的は、上記の優れた特性の炭化ホウ素系セラミックスを、常圧下で、より低い焼成温度で、容易に、かつ、安定して製造することができる経済的な製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、室温での曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上であり、かつ、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gである炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスであって、少なくとも、炭化ホウ素の含有量が50質量%よりも多く、炭化ケイ素の含有量が50質量%未満であり、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下であり、該その他の成分のうちの1つであるアルミニウムの含有量が1質量%以下である組成を有し、かつ、セラミックス中の粒子サイズの平均粒径が20μm以下であることを特徴とする炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスである。
【0012】
上記炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの好ましい実施形態としては、アルミニウムの含有量が、0.03質量%乃至1.0質量%であることが挙げられる。
【0013】
本発明の別の実施形態としては、上記したいずれかの炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法であって、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下である炭化ホウ素の原料粉末を50質量%よりも多く含有し、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下である炭化ケイ素の原料粉末を50質量%未満で含有し、かつ、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下である組成を有する混合物からなるセラミックス材料で成形体を作成し、該成形体を加圧せずに常圧で焼成する際に、焼成雰囲気中にアルミニウムを少なくとも含有する蒸気を存在させ、焼成中に、上記成形体に該蒸気を含浸させることを特徴とする炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法である。
【0014】
上記炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法の好ましい形態としては、前記混合物中に遊離炭素を含有させる場合に、平均粒径が、0.05μm以上2.0μm以下である遊離炭素の原料粉末を用いること、あるいは、上記焼成する温度が2,200℃よりも低いことが挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭化ホウ素セラミックスが本来有している、例えば、軽量性や高い弾性率を著しく損なうことがなく、極めて高い比剛性を示し、優れた機械的特性をも示す安価な炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスが提供される。また、本発明によれば、従来から行われてきた、原料中への多量の焼結助剤の添加や、特殊な添加物を混合させること、また、特殊な処理や、その後の加工を必要とすることもなく、常圧焼成することで、極めて優れた特性を示し、さらに、単純な形状のものは勿論、複雑な形状のセラミックス製品をも、簡易にかつ安定的に得ることができる炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、上記の種々の特性を満足した極めて優れた複合セラミックスが、簡易かつ安価に提供できるようになるため、これまでは、限定的にしか使用されていなかった炭化ホウ素系セラミックスの、広範な分野での利用拡大が期待できる。また、本発明によれば、常圧下での製造が可能になることに加え、高純度炭化ホウ素セラミックスを製造する場合は、焼成温度が2,200〜2,300℃であったのに対して、これよりも100〜200℃程度低い、2,200℃よりも低い焼成温度で、上記優れた複合セラミックスを得ることができる。このため、製造コストの著しい削減が達成できる。さらに、比較的高額な材料である炭化ホウ素の一部を、安価な炭化ケイ素材料に置換することから、原料面においてもコストの低減が可能であることから、より安価に高性能の複合セラミックスを提供でき、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】セラミックス中の炭化ホウ素含有量と、相対密度及び比剛性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、これまで、常圧下での焼結によって、炭化ホウ素の含有量の多い炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの作製を行うことは困難であるとされてきたことに対し、これを可能とし、経済性の高い簡易な製造方法を開発すべく鋭意検討の結果、本発明に至ったものである。本発明者らは、優れた特性が期待できる、高い比率で炭化ホウ素を含有する炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスを得るための条件について検討する過程で、経済性に優れる条件で、期待する特性を満足した複合セラミックスの製造が可能となることを見出した。すなわち、そのためには、常圧焼成中の雰囲気や、原料の組成や粒径、さらには焼成温度を高度に制御することが有効であることを見出した。
【0019】
本発明者らは、さらに詳細な検討を行った結果、高い比剛性を示し、比較的高強度を維持でき、高速で可動する用途に適用した場合における信頼性を満足できる機械的特性にも優れた複合セラミックスであるためには、以下の2点が複合セラミックスの構成として必要であることを見出した。その一つは、複合セラミックスが、少なくとも、炭化ホウ素の含有量が50質量%よりも多く、炭化ケイ素の含有量が50質量%未満であり、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下であり、その他の成分の1つであるアルミニウムの含有量が1質量%以下である組成を有することである。また、二つめは、複合セラミックス中の粒子の平均粒径が20μm以下であることである。特に、上記その他の成分として含有されるアルミニウムの含有量が、0.03乃至1.0質量%であることが好ましい。上記要件をいずれも満足する炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスは、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gと高い値を示し、室温での曲げ強度が200MPa以上で、かつ、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上と、比較的高強度であり、高速で可動する用途にも適用可能なものである。
【0020】
さらに、上記した組成及び平均粒径を有する本発明の複合セラミックスは、下記の構成を有する本発明の製造方法によって、容易にかつ安定して得ることができる。すなわち、まず、少なくとも、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下の炭化ホウ素を原料粉末として用い、その含有量が50質量%よりも多くなるようにし、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下の炭化ケイ素を原料粉末として用い、その含有量が50質量%未満となるようにし、かつ、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下となるようにした組成の混合物からなるセラミックス材料を用意する。その際、必要に応じて遊離炭素を含有させる場合には、平均粒径が0.05μm以上2.0μm以下である原料粉末を用いることが好ましい。そして、該セラミックス材料で、常法にしたがって成形体を作成する。次に、該成形体を加圧せずに常圧で焼成するが、その際に、焼成雰囲気中にアルミニウムを少なくとも含有する蒸気を存在させ、焼成中に、これらの蒸気を上記成形体に含浸させるようにする。焼成温度は、炭化ホウ素セラミックスの焼成温度と比較して100℃〜200℃程度低くしても焼成が可能であるので、経済性を考慮して2,200℃よりも低い、例えば、2,100℃程度の温度で焼成することが好ましい。このように、焼成温度を低くすることにより、省エネ等の効果とともに、強度等、機械的性質の向上がさらに期待できる。
【0021】
本発明の製造方法において、焼成雰囲気中に、アルミニウムを少なくとも含有する蒸気を存在させる具体的な方法について説明する。例えば、アルミニウムを少なくとも含有してなる、粉末、成形体若しくは焼結体を炉内に配置するか、あるいは、アルミニウムを少なくとも含有してなる、粉末、成形体若しくは焼結体を炉内に配置すればよい。この際に使用するアルミニウムの純度は、特に限定されないが、例えば、純度90%以上のもの、さらには純度95%以上のものを使用することが好ましい。これらは、粉末である場合には、ルツボ内に収容した状態で炉内に配置すればよい。また、成形体若しくは焼結体である場合は、粉体材料を用いて作製したブロック状、多孔状、環状などの任意の形状のものを使用すればよい。アルミニウムを少なくとも含むものとしては、該金属を含むいずれの化合物を用いた場合にも、良好な複合セラミックスを得ることは可能である。本発明においては、特に、アルミニウムの金属、炭化物或いは窒化物を用いると、より安定して、所望する特性の複合セラミックスを得ることができるので好ましい。本発明者らの検討によれば、蒸気となったアルミニウム成分は、例えば、炉内のルツボ内に配置して焼結をした場合、容器材料のカーボンとの反応に一部が消費されることが認められるものの、ルツボを繰り返し使用すれば、ほぼ100%、含浸してセラミックス中へと移行することを確認した。このため、本発明の製造方法によれば、セラミックスにおけるアルミニウムの含有量を適宜に設計したものを容易に得ることができる。
【0022】
上記本発明の製造方法によれば、原料中への種々の添加物や特殊な処理を必要とすることなく、簡易な方法でありながら、得られる焼結体は、炭化ホウ素セラミックスが本来有している、例えば、軽量性や高い弾性率を著しく損なうことがなく、極めて高い比剛性を示し、優れた機械的特性を示す炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスとなる。具体的には、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gで、室温の曲げ強度が200MPa以上で、かつ、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上の特性を有する複合セラミックスが得られる。
【0023】
焼結体を製造する際に、原料粉末中にアルミニウム化合物を添加する方法はこれまでも提案されている。しかしながら、アルミニウム化合物は一般的に不安定であるため、原料粉末に混合する際に、混合させる量にもよるが爆発するおそれがあり、工程上の特殊な管理が必要となる。また、混合させる場合、アルミニウム化合物の添加量が少量である場合は、均一に混合することが困難である。また、本発明者らの検討によれば、混合状態が不均一である場合は、得られる焼結体の特性、特に機械的な信頼性を著しく阻害する傾向が高い。
【0024】
本発明の製造方法では、焼成雰囲気中にアルミニウムを少なくとも含有する蒸気を存在させ、この状態で、前記したような原料の組成及び粒径を特定してなる成形体について常圧焼成を行う。このようにすることで、前記した複合セラミックスに期待される優れた特性を示すものを容易に得ることができる。本発明者らは、この理由を、焼成中に気化したガス状のアルミニウムが、炭化ホウ素−炭化ケイ素複合材料からなる成形体に含浸され、その結果、その含有量が1.0質量%以下と微量な範囲でありながら、アルミニウム化合物が極めて高い均一性をもって混合された状態の複合セラミックスとできたことによって達成されたものと考えている。
【0025】
本発明の複合セラミックスは、高速で可動する部材として適用することを可能にすることを目的としていることから、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gであることに加えて、曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上であることを要す。本発明では、特に、複合セラミックスの組成において、炭化ホウ素の含有量を50質量%以上と高くしているにもかかわらず、炭化ホウ素及び炭化ケイ素以外の添加物の総含有量を3質量%以下と少量に抑制し、さらに、アルミニウムの含有量を1質量%以下と微少量にしたことで、複合セラミックスに上記特性を発現させている。さらに、本発明の製造方法では、焼成の際に、少なくとも、蒸気としたアルミニウム気体を利用して複合セラミックスを得る構成とすることで、材料中への固体(粉体原料)の混合では到底得ることができなかった高い再現性で、前記した所望する特性の複合セラミックスを安定して得ることができる。
【0026】
本発明の効果は、上記に加えて、下記のような構成とした場合に、特に顕著に得られる。先ず、焼成する対象物となる成形体は、複合セラミックスの主成分となる、炭化ホウ素粉末に所定量の炭化ケイ素を機械的に混合した原料を加圧成形したものを用いるが、上記原料中に、若干の遊離炭素を添加させてもよい。しかし、出発原料(入手した原料)に含まれる遊離炭素が原料中に存在している場合は、特に添加する必要はない。ここで、遊離炭素とは、金属と結合して炭化物や炭窒化物を構成する炭素成分を除いた以外の遊離の炭素成分を意味する。なお、遊離炭素量は、試料となるセラミックス又は原料粉末を微粉砕した後、融剤を添加し、高周波誘導加熱等により短時間で高温まで加熱し、試料を分解し、発生した二酸化炭素量を赤外分光法により総炭素量を算出し、ホウ素及びケイ素の含有量を別の方法により定量化し、エックス線等により結晶構造を測定することによりホウ素と炭素、ケイ素と炭素の比率を算出し、差より求める。
【0027】
本発明で使用する成形体は、主成分となる炭化ホウ素及び炭化ケイ素のセラミックス原料粉末に、それぞれ前記した特定の粒径範囲のものを用い、かつ、これらにより、加熱することなく特定の範囲の圧力で加圧成形してなるものが好ましい。具体的には、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下の、炭化ホウ素粉末及び炭化ケイ素粉末をそれぞれ特定量、さらに、必要に応じて、平均粒径が0.05μm以上2μm以下の遊離炭素を混合した粉末原料を用い、成形圧20MPa以上300MPa以下、より好ましくは、100〜200MPaで、加熱することなく加圧成形して成形体を得、これを被焼成体とすることが好ましい。本発明者らの検討によれば、平均粒径が上記範囲の出発原料を用い、成形圧20〜300MPaの範囲で、加熱することなく加圧成形して得られた成形体を用い、先に述べた条件で常圧焼成すれば、室温での曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上で、かつ、比剛性が150GPa・cm3/g乃至180GPa・cm3/gである複合セラミックスを容易に得ることができる。
【実施例】
【0028】
[例1]
原材料としての炭化ホウ素粉末(H.S.Starck社製)には、市販の平均粒径が0.8μmの、純度99.5質量%(酸素含有量1.2%、窒素含有量0.2質量%を除く)のものを使用した。この炭化ホウ素粉末材料中におけるアルミニウムの含有量は0.03質量%未満であり、アルミニウムが殆ど含有されていないことを確認した。また、炭化ケイ素粉末(屋久島電工社製)には、市販の平均粒径が0.7μmの、純度99質量%のものを使用した。いずれの粉末も、遊離している炭素量は0.3質量%未満であった。そして、上記の炭化ホウ素と炭化ケイ素との比率を、10質量%毎に変えてそれぞれ秤量した。その際、さらに炭素源として原料粉末中に、焼成後の残留炭素量が30質量%の樹脂を、炭素換算で2質量%となるようにそれぞれ添加し、エタノール中で混合乾燥した。このようにして得られた各混合粉末を、それぞれ直径25mmの金型に充填し、98MPaの加圧により、成形体を作製した。得られた各成形体をそれぞれ、アルミニウム換算でセラミックス中におけるアルミニウムの含有量が0.5質量%となるように金属アルミニウムを配置した密閉容器中に入れて、2,100℃の温度で、常圧で焼成して炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスをそれぞれ得た。本発明者らの検討によれば、上記したような条件で焼成を行った場合、炉内に配置した金属アルミニウムは、容器であるカーボンとの反応により、その一部が消費されるが、ルツボを繰り返し使用することによりほぼ100%、セラミックス中に移行する。
【0029】
上記のようにして得られた各複合セラミックスについて、相対密度と弾性率より算出した比剛性を求めた。そして、図1に、複合セラミックスを構成する炭化ホウ素含有量と相対密度(図中に黒丸で表示)、及び、炭化ホウ素含有量と比剛性(図中に白丸で表示)の関係を示した。図1に示したように、炭化ホウ素の含量の増加とともに相対密度は若干低下する傾向を示したが、大きくは損なわれないことを確認した。また、比剛性の値は、炭化ホウ素含有量が50質量%を超えると150GPa・cm3/g以上の値を示し、炭化ホウ素含有量の増加とともに、上昇する傾向を示した。
【0030】
炭化ホウ素含有量70質量%の複合セラミックスについて、強度と破壊靱性値を測定したところ、室温での曲げ強度が360MPaであり、破壊靱性値が3.7MPa・m0.5であった。これは、炭化ホウ素単味のセラミックスと比較した場合、室温での曲げ強度で20%、破壊靱性値で約2倍と、著しい改善効果を確認した。
【0031】
[例2]
例1で使用したと同様の原料粉末を用い、同様の方法で作成した成形体を、アルミニウム換算で、セラミックス中におけるアルミニウムが、1、1.5、2.0、3.0質量%となるように、それぞれの焼成雰囲気を調整し、2,100℃の温度で焼成して、複合セラミックスをそれぞれ作製した。アルミニウム含有量が1質量%の複合セラミックスは、強度、破壊靱性値いずれも高い値を示した。これに対し、アルミニウムの含有量が1質量%よりも増加した複合セラミックスでは、急激に強度、及び破壊靱性値が低下する傾向を示し、いずれのものも、室温での曲げ強度は200MPaよりも小さく、破壊靱性値は2.5MPa・m0.5よりも小さく、構造材料としては著しく信頼性に欠ける特性を示した。
【0032】
また、上記で得た種々の複合セラミックスについて電子顕微鏡で観察した結果、その粒子径が20μmを超えると、アルミニウムの含有量が増加した場合と同様に機械的特性が急激に低下した。このような複合セラミックスを高速で回転させる用途に使用したところ、可動時に発生する振動や応力により破壊する現象が見られた。ここで、複合セラミックスの粒径を決定する要因は、炭化ホウ素と炭化ケイ素の比率とともに、製造上認められる温度分布、存在するアルミニウム含有量により発生し、複合的に生じる要因である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例としては、本発明によれば、軽量で高い弾性率を示す、高比剛性な炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスを安価に提供できるために、高速で可動するような部材への利用拡大が図れ、可動用の駆動装置(例えば、モーター)を小型化することができ、省エネ化が可能となる。例えば、半導体製造装置の代表的な露光機(ステッパー)用部材は、複雑な形状のセラミックス製品であるが、下記に述べるように、本発明の製造方法によれば、このような形状のものを容易に得ることができ、特に有用である。すなわち、従来の加圧焼結法では、加圧する関係上、焼成できる成形体は単純な形状のものに限られており、複雑な形状の機械部品等を製造する場合は、単純な形状の炭化ホウ素系セラミックスを得た後、高価なダイヤモンド工具等により機械加工を行っている。しかし、常圧焼成できれば複雑な形状の成形体であっても焼成が可能となるため、加工工程を省略でき、この点での製造コストの削減効果は極めて大きい。このため、製品コストが高いことを理由に応用が果たせなかった分野での炭化ホウ素系セラミックス製品の利用拡大が期待される。これと同時に、本発明によれば、常圧で焼成できるので、加圧焼結の設備面での制約から解放されることで、従来より蓄積され培われているセラミックス製造における様々な技術を本発明の実施品に応用可能となるので、例えば、材料面におけるさらなる相乗効果等も期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温での曲げ強度が200MPa以上、破壊靱性値が2.5MPa・m0.5以上であり、かつ、比剛性が150乃至180GPa・cm3/gである炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスであって、少なくとも、炭化ホウ素の含有量が50質量%よりも多く、炭化ケイ素の含有量が50質量%未満であり、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下であり、該その他の成分のうちの1つであるアルミニウムの含有量が1質量%以下である組成を有し、かつ、セラミックス中の粒子サイズの平均粒径が20μm以下であることを特徴とする炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックス。
【請求項2】
前記アルミニウムの含有量が、0.03質量%乃至1.0質量%である請求項1に記載の炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法であって、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下である炭化ホウ素の原料粉末を50質量%よりも多く含有し、平均粒径が0.2μm以上2.0μm以下である炭化ケイ素の原料粉末を50質量%未満で含有し、かつ、遊離炭素及びその他の成分の合計含有量が3質量%以下である組成を有する混合物からなるセラミックス材料で成形体を作成し、該成形体を加圧せずに常圧で焼成する際に、焼成雰囲気中にアルミニウムを少なくとも含有する蒸気を存在させ、焼成中に、上記成形体に該蒸気を含浸させることを特徴とする炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記混合物中に遊離炭素を含有させる場合に、平均粒径が、0.05μm以上2.0μm以下である遊離炭素の原料粉末を用いる請求項3に記載の炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法。
【請求項5】
焼成する温度が、2,200℃よりも低い請求項3又は4に記載の炭化ホウ素−炭化ケイ素複合セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63453(P2011−63453A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213306(P2009−213306)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(391009419)美濃窯業株式会社 (33)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】