説明

炭化水素の製造方法

【課題】フィルターを往復して繰り返し通過する液体炭化水素の量を少なくしてフィルターの負荷を減少させた、炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを保持し、上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いて、フィッシャー・トロプシュ合成反応により炭化水素を合成する合成工程と、反応器の内部及び/又は外部に配置されたフィルターにスラリーを流通させて重質液体炭化水素を分離し、重質液体炭化水素を抜き出す抜き出し工程と、フィルターにスラリーの流通方向と逆方向に液体炭化水素を流通させ、触媒粒子を反応器内に戻す逆洗工程と、気相部から排出される炭化水素を冷却し、凝縮した軽質液体炭化水素を分離回収する冷却・気液分離工程と、を備える炭化水素の製造方法である。逆洗工程にて流通させる液体炭化水素が冷却・気液分離工程で得られる軽質液体炭化水素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応による、炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油・軽油等の液体燃料製品の原料として利用される、幅広い炭素数分布を有する炭化水素を製造する方法として、一酸化炭素ガス(CO)及び水素ガス(H)を原料としてフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」ということもある。)を利用する方法が知られている。そして、天然ガス等を原料として、改質反応により合成ガス(COおよびHを主成分とする混合ガス)を製造し、合成ガスからFT合成反応により炭化水素を合成し、この炭化水素を水素化処理および分留することにより液体燃料を製造する技術は、GTL(Gas To Liquids)プロセスと呼ばれている。
FT合成反応により炭化水素を製造する方法としては、例えば特許文献1に、液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー(以下、単に「スラリー」ということもある。)中に合成ガスを吹き込んでFT合成反応させる、気泡塔型スラリー床反応器を用いる方法が開示されている。
【0003】
この方法では、スラリーを保持してFT合成反応を行う反応器(気泡塔型スラリー床反応器)と、合成ガスを反応器の底部に吹き込む導管(ガス供給部)と、反応器内のスラリーから触媒粒子を分離するフィルターと、反応器内で合成され前記フィルターを通過した液体炭化水素(重質液体炭化水素)を抜き出す導管と、この導管を介して抜き出された液体炭化水素の一部を前記反応器内に返送し、前記フィルターを洗浄する機構と、を備えた反応システムにより、炭化水素を製造するようにしている。
【0004】
また、前記フィルターを洗浄する機構、すなわち、フィルターにより捕捉され、フィルター上に堆積した触媒粒子を再度スラリー中に戻すための機構として、フィルターにより濾過され、導管を介して抜き出された液体炭化水素(重質液体炭化水素)の一部を、前記フィルターに対し、スラリーを濾過する際の流通方向とは逆の方向に流通させる逆洗処理が採用されている。
【0005】
一方、前記反応器内のスラリーの上部には気相部が設けられ、スラリー中を通過する間に反応しなかった合成ガス(未反応の合成ガス)、およびFT合成反応により生成し、反応器内の条件にて気体である軽質炭化水素は、スラリー床から前記気相部に移行し、更に前記気相部を通過し、反応器上部に接続された導管から排出される。排出された未反応の合成ガスおよび軽質の炭化水素は冷却されて、軽質炭化水素の一部は凝縮して液体の炭化水素(軽質液体炭化水素)となり、この軽質液体炭化水素はガス分(未反応の合成ガスおよび主としてC4以下の炭化水素ガス)と気液分離される。そして前記ガス分は前記反応器にリサイクルされて未反応の合成ガスが再利用され、一方、軽質液体炭化水素は液体炭化水素の精製工程に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−516065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示された技術における前記フィルターの逆洗処理においては、スラリーの濾過時にフィルターを通過した液体炭化水素(重質液体炭化水素)の一部が、該フィルターをスラリーの濾過時の流通方向とは逆の方向に通過し、再度反応器内に返送され、その後スラリーとなってフィルターを再度通過して抜き出される過程を繰り返す。すなわち、重質液体炭化水素の一部は、反応器の内外を往復することで、フィルターを繰り返し通過することになる。したがって、スラリーの濾過時には、FT合成反応器から抜き出され、後段の液体炭化水素の精製工程に単位時間当たり供給される重質炭化水素の量に比較して、多量の重質液体炭化水素が単位時間当たりにフィルターを通過することとなる。
【0008】
このような運転においては、フィルターが多量のスラリーを濾過する必要があり、すなわちフィルターの負荷が大きくなり、また、これに伴って逆洗処理の負担も大きくなる。この場合、必要となるフィルターの負荷を賄うためには、フィルターの濾過面積を大きくする必要があり、設備の大型化に伴う設備コストの上昇、およびそれに伴うメンテナンス・コストの上昇の問題があった。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、フィルターを往復して繰り返し通過する液体炭化水素の量を少なくしてフィルターの負荷を減少させた、炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭化水素の製造方法は、触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いて、フィッシャー・トロプシュ合成反応により炭化水素を合成する合成工程と、前記反応器の内部および/または外部に配置されたフィルターに前記スラリーを流通させて触媒粒子と重質液体炭化水素とを分離し、重質液体炭化水素を抜き出す抜き出し工程と、前記フィルターに前記スラリーの流通方向と逆方向に液体炭化水素を流通させ、前記フィルターに堆積した触媒粒子を前記反応器内のスラリー床中に戻す逆洗工程と、前記反応器の気相部から排出される該反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却し、凝縮した軽質液体炭化水素を気体成分から分離して回収する冷却・気液分離工程と、を備える炭化水素の製造方法であって、前記逆洗工程において流通させる液体炭化水素が、前記冷却・気液分離工程で得られる軽質液体炭化水素を含むことを特徴とする。
【0011】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記軽質液体炭化水素が、前記冷却・気液分離工程において、前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を、180℃以上且つ前記反応器内の温度よりも低い温度に冷却することにより凝縮する軽質液体炭化水素であることが好ましい。
【0012】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記軽質液体炭化水素を更に冷却する再冷却工程を備え、該工程を経た軽質液体炭化水素を前記逆洗工程に供することが好ましい。
【0013】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記逆洗工程において流通させる液体炭化水素が、前記軽質液体炭化水素と、前記抜き出し工程で抜き出された重質液体炭化水素との混合物であることが好ましい。
【0014】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記混合物中の重質液体炭化水素は、前記抜き出し工程で抜き出された重質液体炭化水素が含有する触媒粒子の少なくとも一部が、更に除去されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭化水素の製造方法によれば、逆洗工程においてフィルターに流通させる液体炭化水素として、反応器の気相部から排出される該反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却し、凝縮した軽質液体炭化水素を用いているので、スラリーの濾過時にフィルターを往復して繰り返し通過する液体炭化水素(重質液体炭化水素)の量を低減できる。すなわち、逆洗工程で反応器内に返送された軽質炭化水素は、反応器内で気化して反応器の気相部から抜き出されるため、スラリーの一部となってフィルターを通過することはない。よって、スラリーの濾過時にフィルターを単位時間当たりに通過する液体炭化水素の量が低減されてフィルターの負荷を軽減することができる。これによってフィルターの濾過面積を低減することが可能となり、製造設備の小型化や簡易化、およびこれに伴うメンテナンスの軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る液体燃料合成システムの一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係るFT合成ユニットの概略構成図である。
【図3】(a)はフィルターの概略構成説明図、(b)はフィルターエレメントの概略構成説明図である。
【図4】本発明に係るFT合成ユニットの変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の炭化水素の製造方法を詳しく説明する。
まず、本発明の炭化水素の製造方法を実施するのに好適な、合成反応システムの一例について、図1を参照して説明する。
図1に示す液体燃料合成システム1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。
この液体燃料合成システム1は、合成ガス製造ユニット3と、FT合成ユニット5と、アップグレーディングユニット7とから構成されている。合成ガス製造ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを製造する。FT合成ユニット5は、合成ガス製造ユニット3において製造された合成ガスからFT合成反応により液体炭化水素を合成する。アップグレーディングユニット7は、FT合成反応により合成された液体炭化水素を水素化・精製して液体燃料(主として灯油、軽油)の基材を製造する。
以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0018】
合成ガス製造ユニット3は、例えば、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。脱硫反応器10は、水素化脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄化合物を除去する。改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分として含む合成ガスを生成する。排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
【0019】
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収液を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、該炭酸ガスを含む吸収液から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、当該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。ただし、前記脱炭酸装置20は場合によっては設ける必要がないこともある。
【0020】
このうち、改質器12は、例えば、下記の化学反応式(1)、(2)で表される水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。なお、この改質器12における改質法は、前記水蒸気・炭酸ガス改質法の例に限定されず、例えば、水蒸気改質法、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
【0021】
CH+HO→CO+3H ・・・(1)
CH+CO→2CO+2H ・・・(2)
【0022】
また、水素分離装置26は、脱炭酸装置20又は気液分離器18と気泡塔型スラリー床反応器30(以下、「反応器30」ということもある。)とを接続する主配管から分岐した分岐ラインに設けられる。この水素分離装置26は、例えば、圧力差を利用して水素の吸着と脱着を行う水素PSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)装置などで構成できる。この水素PSA装置は、並列配置された複数の吸着塔(図示せず。)内に吸着剤(ゼオライト系吸着剤、活性炭、アルミナ、シリカゲル等)を有しており、各吸着塔で水素の加圧、吸着、脱着(減圧)、パージの各工程を順番に繰り返すことで、合成ガスから分離した純度の高い水素ガス(例えば99.9%程度)を、水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器60、中間留分水素化精製反応器61、ナフサ留分水素化精製反応器62など)へ連続して供給することができる。
【0023】
水素分離装置26における水素ガス分離方法としては、前記水素PSA装置のような圧力変動吸着法の例に限定されず、例えば、水素吸蔵合金吸着法、膜分離法、或いはこれらの組合せなどであってもよい。
【0024】
次に、FT合成ユニット5について、図1、図2を参照して説明する。図1、図2に示すようにFT合成ユニット5は、気泡塔型スラリー床反応器30と、気液分離器32と、外部型触媒分離器34と、気液分離装置36と、逆洗液槽38と、第1精留塔40とを主に備える。
気泡塔型スラリー床反応器30は、合成ガスから液体炭化水素を合成するもので、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。この反応器30は、反応器本体80と、冷却管81とを主に備えており、内部が例えば190〜270℃程度に加熱され、かつ大気圧より加圧された条件下で運転される。
【0025】
反応器本体80は、略円筒型の金属製の容器である。反応器本体80の内部には、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容されており、該スラリーによってスラリー床が形成されている。
この反応器本体80の下部においては、水素ガスおよび一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスがスラリー中に噴射されるようになっている。そして、スラリー中に吹き込まれた合成ガスは、気泡となってスラリー中を反応器本体80の高さ方向(鉛直方向)下方から上方へ向かって上昇する。その過程で、合成ガスは液体炭化水素中に溶解し、触媒粒子と接触することにより、液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が進行する。具体的には、下記化学反応式(3)に示すように水素ガスと一酸化炭素ガスとが反応して炭化水素を生成する。
【0026】
2nH+nCO→(−CH−)+nHO ・・・(3)
【0027】
また、合成ガスが気泡として反応器本体80内を上昇することで、反応器本体80の内部においてはスラリーの上昇流(エアリフト)が生じる。これにより、反応器本体80内部にスラリーの循環流が生じる。
【0028】
反応器本体80内に収容されるスラリーの上部には気相部が設けられており、前記気相部とスラリーとの界面において、気液分離がなされる。すなわち、スラリー中で反応することなくスラリーと前記気相部との界面を通過した合成ガス、およびFT合成反応により生成した、反応器本体80内の条件において気体状である比較的軽質の炭化水素は、気体成分として前記気相部に移る。この際に、この気体成分に同伴する液滴、およびこの液滴に同伴する触媒粒子は重力によりスラリーに戻される。そして、反応器本体80の頂部まで上昇した気体成分(未反応の合成ガスおよび前記軽質の炭化水素)は、反応器本体80の頂部に接続された導管を介して抜き出され、後述するように冷却された上で気液分離装置36に供給される。
【0029】
冷却管81は、反応器本体80の内部に設けられ、FT合成反応の反応熱を除去することにより、系内の温度を所定の温度に保つ。この冷却管81は、例えば、1本の管を屈曲させ、鉛直方向に沿って上下に複数回往復するように形成されていてもよい。また、例えば、バイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器本体80の内部に複数配置してもよい。すなわち、冷却管81の形状および本数は前記形状および本数に限られるわけではなく、反応器本体80内部に配置されて、スラリーを冷却することに寄与できるものであればよい。
【0030】
この冷却管81内には、気液分離器32から供給される冷却水(例えば、反応器本体80内の温度との差が−50〜0℃程度の水)が流通しており、冷却管81内を流通する過程で、スラリーと冷却管81の管壁を介して熱交換することにより、反応器本体80内部のスラリーが冷却される。冷却水の一部は、水蒸気となって、気液分離器32に排出され、中圧スチームとして回収できるようになっている。
反応器本体80内のスラリーを冷却するため媒体としては、前記のような冷却水に限定されず、例えば、C〜C10の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルカン、オレフィン、低分子量シラン、シリルエーテル、シリコーンオイルなどを使用することもできる。
【0031】
図1に示す気液分離器32は、反応器本体80内に配設された冷却管81内を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。この気液分離器32で分離された液体は、冷却水として再び冷却管81に供給される。
【0032】
反応器本体80内に収容されるスラリーを構成する触媒は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ等の無機酸化物からなる担体に、コバルト、ルテニウム、鉄等から選択される少なくとも1種の活性金属が担持された、固体粒子状の触媒が好ましく使用される。この触媒は、活性金属の他に、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、レニウム等の触媒の活性を高めるため等を目的として添加される金属成分を有していてもよい。この触媒の形状は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点、および、流動に際して触媒粒子どうし、および触媒粒子と反応器本体80の内壁、冷却管81等との衝突、摩擦により触媒粒子が崩壊あるいは磨耗して、微粉化された触媒粒子が発生することを抑制するとの観点から、略球状であることが好ましい。
また、触媒粒子の平均粒径は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点から、40〜150μm程度であることが好ましい。
【0033】
外部型触媒分離器34は、図2に示すように反応器30の外部に配設された分離槽50と、分離槽50内に設けられたフィルター52とを備えている。分離槽50の上部には、反応器本体80の中央部に接続された流出管34aが設けられ、分離槽50の下部には、反応器本体80の下部に接続された返送管34bが設けられている。ここで、反応器本体80の下部とは、反応器本体80の底部から、反応器本体80の1/3以下の長さの範囲にある部分のことであり、反応器本体80の中央部とは、反応器本体80の上部と下部との間の部分のことである。また、分離槽50には第1配管41および第2配管44が接続されており、これら第1配管41および第2配管44は分離槽50内のフィルター52に接続している。
【0034】
フィルター52は、図3(a)に示すようにフィルターエレメント53が水平方向において縦横に多数配置されて構成されている。また、必要に応じてこれら縦横に配置された単段のフィルターエレメント53群が、スラリーの流れ方向、例えば鉛直方向に複数段配設され、多段構造に構成されていてもよい。
これら各フィルターエレメント53には、系統ごとに濾液(液体炭化水素)を抜き出す第1導管54がそれぞれに接続して設けられており、これら第1導管54は、一つの第2導管55に接続している。第1導管54には、必要に応じてそれぞれに独立して開閉弁(図示せず)が設けられている。また、第2導管55には、弁56が設けられており、第3導管57には弁58が接続されている。第2導管55は、図2に示す第1配管41に接続しており、第2導管57は、図2に示す第3配管44に接続している。
【0035】
フィルターエレメント53は、図3(b)に示すように例えば一対のプレート53a、53a間に多数の濾過媒体53bを積層した柱状(円柱状または角柱状)のもので、下側のプレート53aに、前記第1導管54を接続している。このような構成によってフィルターエレメント53は、流出管34aを介して反応器30から抜き出されたスラリーを濾過媒体53bで濾過し、スラリー中の触媒粒子を捕捉する。また、スラリー中の液体炭化水素については、濾液として第1導管54に導出する。ここで、このフィルターエレメント53の濾過媒体53bとしては、その目開きが5〜30μm、好ましくは5〜25μm、更に好ましくは5〜20μmであることが望ましい。
【0036】
図2に示すように返送管34bは、外部型触媒分離器34において、フィルター52の逆洗処理により、フィルター52(濾過媒体53b)から除去された触媒粒子および液体炭化水素(炭化水素油)、更に濾過により濃縮されたスラリーを反応器本体80に返送するための配管である。
【0037】
第1配管41には、濾過装置45および貯槽46がこの順に配設されている。濾過装置45は内部にフィルター(図示せず。)を有し、このフィルターによって導入された重質液体炭化水素を濾過する。すなわち、この濾過装置45内のフィルターは、前記外部型触媒分離器34内のフィルター52(濾過媒体53b)で捕捉されずに重質液体炭化水素に同伴する粒径の比較的小さな触媒粒子の少なくとも一部を捕捉し、除去する。なお、濾過装置45のフィルターの目開きとしては、例えば5μm程度とされる。また、貯槽46は、前記外部型触媒分離器34内のフィルター52および前記濾過装置45を通過した重質液体炭化水素を一旦貯留する。
【0038】
濾過装置46の下流には第1配管41を介して第1精留塔40が接続されている。また、濾過装置46の下流の第1配管41からは、中途に弁47が配設された第3配管48が分岐し、逆洗液槽38に接続されている。
逆洗液槽38は、後述する軽質液体炭化水素を貯留するようになっているが、上記の配置により、必要に応じて、外部型触媒分離器34および前記濾過装置46で濾過された重質液体炭化水素をこの逆洗液槽38に供給し、前記軽質液体炭化水素と混合することができるようになっている。この逆洗液槽38には前記第2配管44が接続されており、これによって逆洗液槽38は、貯留した軽質液体炭化水素または軽質炭化水素と重質炭化水素との混合物(混合油)を逆洗液として第2配管44に導出し、外部型触媒分離器34に供給するようになっている。
【0039】
前記反応器30には、その反応器本体80の気相部(塔頂部)に抜出管82が接続されている。抜出管82は、熱交換部83を介して気液分離装置36に接続しており、反応器本体80内の塔頂まで上昇した気体成分、すなわち未反応の合成ガスおよびFT合成反応の生成物であり、反応器本体80内の条件にて気体である軽質炭化水素を、気液分離装置36に移送する。熱交換部83は、合成ガス製造ユニット3から供給された合成ガスと反応器本体80から抜き出された気体成分とを熱交換させ、相対的に温度が低い合成ガスを加熱するとともに、相対的に温度が高い前記気体成分を冷却して、前記気体成分に含まれる比較的沸点の高い成分を、軽質液体炭化水素の一部として凝縮させる。
【0040】
気液分離装置36は、第1ドラム84、第2ドラム85、第3ドラム86と、第1凝縮器87、第2凝縮器88とを備えて構成されている。第1ドラム84は、抜出管82に直接接続したもので、前記気体成分が前記熱交換部83において冷却されることにより、その一部が凝縮して得られる気液混合物を気液分離する。ここで、熱交換部83は、反応器本体80から抜き出された前記気体成分を、反応器30に供給される合成ガスとの熱交換によって冷却し、前記気体成分の一部を液化させる。熱交換部83により、前記反応器本体80から抜き出された気体成分を冷却する温度(熱交換部83の出口温度)は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。また、前記温度は、必然的に前記反応器本体80から排出される気体成分の温度、すなわち反応器本体80の温度よりも低い温度となる。この反応器本体80内の温度は選択する反応条件によって変化するため一概にはいえないが、例えば190〜270℃、好ましくは200〜260℃である。前記気体成分を前記範囲の温度に冷却することで、前記気体成分の中でも比較的に高沸点の成分のみを選択的に液化することができ、したがって得られる液体炭化水素を後述するように逆洗液として良好に機能させることができる。すなわち、逆洗液が、前記フィルター52を通過するまでに、周囲の温度によってその温度が上昇し、気化することを抑制することができ、効率的に逆洗を行なうことができる。
【0041】
また、軽質液体炭化水素の中でも、反応器本体80の気相部から排出された気体成分を、熱交換部83によって、好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上、特に好ましくは210℃以上であって、且つ反応器本体80内の温度よりも低い温度に冷却して、凝縮する軽質液体炭化水素をフィルター52の逆洗液として使用することにより、FT合成反応に使用する触媒の経時的な活性の低下を抑制することができる可能性がある。すなわち、FT合成反応においては、主生成物である炭化水素に加えて、副生成物として一酸化炭素由来の酸素原子を有する、アルコール類等の含酸素化合物が生成する。この含酸素化合物は、FT合成反応に使用される触媒の活性を低下させる可能性がある。一方、FT合成反応の特性から、含酸素化合物は、炭素数がより少ない留分(沸点がより低い留分)により多く含まれる傾向にある。このため、フィルター52の逆洗液として、沸点の低い留分(軽質留分)をより多く含む液体炭化水素を用いるほど、逆洗液中に含まれる含酸素化合物の濃度が高くなり、この逆洗液が流入する反応器本体80内の液体炭化水素中の含酸素化合物の濃度が高まる傾向となる。この場合、FT合成反応用の触媒の経時的な活性の低下がより進行しやすくなる可能性がある。
これに対して、反応器本体80の気相部から排出された気体成分を、熱交換部83により上記範囲の温度に冷却して凝縮する軽質液体炭化水素を逆洗液として用いることで、軽質液体炭化水素の中でも比較的に含酸素化合物の濃度が低い成分を利用することとなり、FT合成反応に用いる触媒の活性低下に与える影響を減じることができる可能性がある。
【0042】
なお、本実施形態では合成ガスの冷熱を利用する熱交換部83によって前記気体成分を冷却する例について述べたが、これに代えて別の単一または複数の冷却器(図示せず。)を備え、反応器本体80から抜き出された気体成分を前記範囲の温度に冷却するようにしてもよい。
このようにして第1ドラム84での気液分離により得られた液体炭化水素(軽質液体炭化水素)は、後述するように逆洗液として好ましく使用され、一方、この液体炭化水素から分離された気体成分は第2ドラム85側に排出される。
【0043】
第1凝縮器87は、第1ドラム84と第2ドラム85との間を連通させる配管に設けられ、第1ドラム84から流出した気体成分を水等の冷却媒体と熱交換させ、その一部を液化させる。第1凝縮器87においては、その出口温度を例えば100℃に設定することにより、第1ドラム84から供給された気体成分中の沸点がおおよそ100℃を超える炭化水素が液化する。そして、第2ドラム85は、沸点がおおよそ100℃を超える液体炭化水素(軽質液体炭化水素)と沸点がおおよそ100℃以下の気体成分とを分離し、該気体成分を第3ドラム86側に排出する。
【0044】
第2凝縮器88は、第2ドラム85と第3ドラム86との間を連通させる配管に設けられ、第2ドラム85から排出された気体成分を水等の冷却媒体と熱交換させ、その一部を液化する。第2凝縮器88においては、その出口温度を例えば40℃に設定することにより、第2ドラム85から供給された気体成分中の沸点がおおよそ40℃を超える炭化水素が液化する。そして、第3ドラム86は、沸点がおおよそ40℃を超える液体炭化水素(軽質液体炭化水素)と沸点がおおよそ40℃より低い気体成分とを分離し、該気体成分を返送管89から排出する。前記気体成分は返送管89によって合成ガスの供給管49に返送される。
この気体成分は、未反応の合成ガス(CO、H)およびC以下の炭化水素を主として含み、合成ガスの供給管49において、合成ガス製造ユニット3から供給される合成ガスと混合され、反応器30にリサイクルされ、未反応の合成ガスが再利用される。この第3ドラム86から排出される気体成分については、少なくともその一部は、合成ガスの供給管49に返送することなく、フレア・ガスとして焼却する、あるいは燃料として用いるようにしてもよい。
【0045】
第1ドラム84には、その底部に第1導出管90が接続されている。第1導出管90は、図2中実線で示すように前記逆洗液槽38に接続して設けられ、第1ドラム84から軽質液体炭化水素を逆洗液槽38に供給する。この第1導出管90には、必要に応じてフィルターを有する槽93が設けられている。この槽93内のフィルターは、第1ドラム84から導出された液体炭化水素中に僅かながら含まれる触媒粒子を捕捉し、除去する。すなわち、反応器本体80内の気相部から抜き出される気体成分中にはスラリーの飛沫(ミスト)が含まれ、この飛沫中には触媒粒子が含まれることがある。すると、この触媒粒子は主に第1ドラム84内で沈降し、導出される液体炭化水素とともに第1導出管90に導出される。したがって、導出された液体炭化水素を槽93内のフィルターで濾過することにより、後述するように逆洗処理の際に、少量の触媒粒子がフィルターに対して逆方向から供給されることを回避することができる。
【0046】
また、第1導出管90には、前記槽93の下流側(逆洗液槽38側)に再冷却部94が設けられている。再冷却部94は、第1導出管90を流通する軽質液体炭化水素と水等の冷却媒体とを熱交換させ、第1導出管90を流通する軽質液体炭化水素を更に冷却する。すなわち、反応器本体80内の気相部から抜き出された気体成分を合成ガスとの熱交換部83で冷却し、得られた軽質液体炭化水素を、この再冷却部94で冷却する。再冷却部94の出口温度としては特に限定されず、熱交換部83の出口温度より低い温度であればよいものの、100℃以上200℃以下の温度であることが好ましく、120℃以上190℃以下の温度であることがより好ましい。
【0047】
前記再冷却部94の出口温度が100℃よりも低い温度である場合、例えば再冷却部94内の配管にワックス分が析出して付着し、伝熱の悪化に伴う冷却効率の低下等の問題を生じる懸念がある。また、再冷却部94にて再冷却した軽質液体炭化水素を、逆洗液槽38および第2配管44を経て、逆洗液として外部型触媒分離器34内のフィルター52に濾過時とは逆方向に流通させる際に、該軽質液体炭化水素が有する冷熱によって、フィルター52の周辺に存在する重質液体炭化水素が冷却され、一部のワックスが析出して、フィルター52の差圧が上昇する等の問題を生じる懸念がある。一方、前記再冷却部94の出口温度を190℃を超える温度とする場合、軽質液体炭化水素が外部型触媒分離器34内のフィルター52に供給されたときに、該軽質液体炭化水素が気化するまでの時間が十分に遅延されず、フィルター52を通過する時点で該軽質液体炭化水素が気化し、フィルター52上に堆積した触媒粒子を効率的に除去することが困難となる可能性がある。
【0048】
このように第1ドラム84から導出された軽質液体炭化水素を再冷却する目的は、後述するようにこの軽質液体炭化水素を逆洗液として、内部の温度が反応器本体80内の温度と同等(例えば190〜270℃)である外部型触媒分離器34に導入した際、外部型触媒分離器34内の温度(例えば190〜270℃)によって軽質液体炭化水素の温度が短時間にその沸点まで上昇して、該軽質液体炭化水素が気化し、逆洗液としての機能を充分に発揮できなくなることを避けるためである。すなわち、前記軽質液体炭化水素をその沸点より充分に低い温度にまで冷却しておくことにより、この軽質液体炭化水素を逆洗液として外部型触媒分離器34に導入した際、軽質液体炭化水素が気化するまでの時間を遅延させることができる。したがって、この軽質液体炭化水素が液体である状態のうちに、逆洗処理を終了させることができるようになり、これによりフィルター52上に堆積した触媒粒子を効率的に除去することができる。
【0049】
このようにして第1ドラム84から排出され、第1導出管90を流通して再冷却部94で再冷却された軽質液体炭化水素は、逆洗液槽38に流入し、逆洗液としてここに一時的に貯留される。また、この逆洗液槽38において前記軽質液体炭化水素は、第3配管48を経て流入した液体炭化水素と混合され、逆洗処理用の混合物(混合油)を形成してもよい(詳細は後述)。
【0050】
第2ドラム85には、その底部に第2導出管91が接続されており、第3ドラム86には、その底部に第3導出管92が接続されている。これらの導出管は合流して一つの配管となり、前記第1配管41の、前記第3配管48との分岐点の下流側に接続する。
第1精留塔40は、第1配管41に接続して配設され、前記第1配管41を経て供給される重質液体炭化水素、すなわち外部型触媒分離器34から導出された液体炭化水素と、第2導出管91および第3導出管92をそれぞれ経て供給される軽質液体炭化水素、すなわち第2ドラム85および第3ドラム86から導出された軽質液体炭化水素とを蒸留し、沸点に応じて各留分に分離する。
なお、上記では気液分離装置36は第1ドラム84、第2ドラム85、第3ドラム、第1凝縮器87および第2凝縮器88から構成されるものとしたが、このような構成とすることにより、軽質液体炭化水素を確実に回収することが可能となる。
但し、気液分離装置36は上記の構成に限定されることはなく、第2ドラム85、第2凝縮器88および第2導出管91を設けず、第1凝縮器87の出口配管を第3ドラム86の入口配管と接続する構成としてもよい。その場合の第1凝縮器87の出口温度は40℃程度に設定する。
【0051】
また、上記の例では、第1ドラム84で分離された軽質液体炭化水素のみを第1導出管90により逆洗液槽38に移送して、逆洗液とする例を示したが、逆洗液として使用する軽質液体炭化水素はこれに限定されるものではなく、第2ドラム85で分離された軽質液体炭化水素および/または第3ドラム86で分離された軽質液体炭化水素と、前記第1ドラムで分離された軽質液体炭化水素との混合物を用いてもよい。すなわち、第2ドラム85から第2導管91により排出された軽質液体炭化水素、および/または第3ドラム86から第3導管92により排出された軽質液体炭化水素を、配管90の破線で示した部分を使用して、第1導出管に合流させ、第1ドラム84から排出された軽質液体炭化水素と前記軽質液体炭化水素との混合物を形成し、この混合物を逆洗液槽38に移送して、逆洗液として用いてもよい。
【0052】
図1に示すようにアップグレーディングユニット7は、例えば、ワックス留分水素化分解反応器60と、中間留分水素化精製反応器61と、ナフサ留分水素化精製反応器62と、気液分離器63,64,65と、第2精留塔70と、ナフサ・スタビライザー72とを備える。ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底に接続されている。中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部に接続されている。ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部に接続されている。気液分離器63,64,65は、これら水素化反応器60,61,62のそれぞれに対応して設けられている。第2精留塔70は、気液分離器63,64から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。ナフサ・スタビライザー72は、気液分離器65及び第2精留塔70の塔頂から供給されたナフサ留分の液体炭化水素を精留し、C以下の気体成分は例えばフレア・ガスとして排出し、炭素数が5以上の成分は製品のナフサとして回収する。
【0053】
次に、以上のような構成の合成反応システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
合成反応システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず。)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH)が供給される。前記合成ガス製造ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0054】
まず、前記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、前記水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄化合物を公知の水素化脱硫触媒で水素化して硫化水素に転換し、更にこの硫化水素を酸化亜鉛のような吸着材により吸着・除去することにより、天然ガスの脱硫を行う。このようにして天然ガスを予め脱硫しておくことにより、改質器12及び気泡塔型スラリー床反応器30、アップグレーディングユニット7の水素化処理反応器で用いられる触媒の活性が硫黄化合物により低下することを防止できる。
【0055】
このようにして脱硫された天然ガス(炭酸ガスを含んでもよい。)は、炭酸ガス供給源(図示せず。)から供給される炭酸ガス(CO)と、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後で、改質器12に供給される。改質器12は、例えば、水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。このとき、改質器12には、例えば、改質器12が備えるバーナー用の燃料ガスと空気とが供給されており、該バーナーにおける燃料ガスの燃焼熱および改質器12の炉内の輻射熱により、吸熱反応である前記水蒸気・炭酸ガス改質反応に必要な反応熱がまかなわれている。
【0056】
このようにして改質器12で製造された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。このとき、排熱ボイラー14において合成ガスにより加熱された水は気液分離器16に供給され、この気液分離器16から気体分が高圧スチーム(例えば3.4〜10.0MPaG)として改質器12または他の外部装置に供給され、液体分の水が排熱ボイラー14に戻される。
【0057】
一方、排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、または気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。吸収塔22は、貯留している吸収液内に、合成ガスに含まれる炭酸ガスを吸収することで、該合成ガスから炭酸ガスを分離する。この吸収塔22内の炭酸ガスを含む吸収液は、再生塔24に導入され、該炭酸ガスを含む吸収液は例えばスチームで加熱されてストリッピング処理され、放散された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、前記改質反応に再利用される。
【0058】
このようにして、合成ガス製造ユニット3で生成された合成ガスは、図2に示す供給管49を介して前記FT合成ユニット5の気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。このとき、気泡塔型スラリー床反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。なお、この合成ガスは、本実施形態では気泡塔型スラリー床反応器30の気相部から抜き出された気体成分を熱交換部83において冷却する冷媒となる。したがって、該気体成分を所望温度に冷却するべく、必要に応じて予備冷却されるように構成されていてもよい。また、この合成ガスは、脱炭酸装置20と気泡塔型スラリー床反応器30とを接続する配管に設けられた圧縮機(図示せず。)により、FT合成反応に適切な圧力(例えば3.6MPaG)まで昇圧されるように構成されていてもよい。
【0059】
また、前記脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスの一部は、水素分離装置26にも供給される。水素分離装置26は、前記のように圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。分離された水素ガスは、ガスホルダー(図示せず。)等から圧縮機(図示せず。)を介して、合成反応システム1内において水素ガスを利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器50、中間留分水素化精製反応器52、ナフサ留分水素化精製反応器54など)に、連続して供給される。
【0060】
次いで、前記FT合成ユニット5は、前記合成ガス製造ユニット3によって製造された合成ガスから、FT合成反応により、炭化水素を合成する。以下、FT合成反応による炭化水素の合成方法に基づき、本発明の炭化水素の製造方法の第1実施形態を説明する。
【0061】
前記合成ガス製造ユニット3において生成した合成ガスは、熱交換部83で熱交換して反応器30の反応器本体80の気相部から抜き出された気体成分を冷却することで加熱された後、気泡塔型スラリー床反応器30を構成する反応器本体80の底部から流入し、反応器本体80内に収容されたスラリー内を上昇する。この際、反応器本体80内では、前述したFT合成反応により、該合成ガスに含まれる一酸化炭素ガスと水素ガスとが反応して、炭化水素が生成する。
さらに、この合成反応時には、冷却管81内に水を流通させることでFT合成反応の反応熱を除去する。この熱交換により加熱された水は、気化して水蒸気となる。この水蒸気に含まれる液体の水は、気液分離器32で分離されて冷却管81に戻され、気体分が中圧スチーム(例えば1.0〜2.5MPaG)として外部装置に供給される。
【0062】
気泡塔型スラリー床反応器30の反応器本体80内の、液体炭化水素および触媒粒子を含有するスラリーの一部は、図2に示すように反応器本体80の中央部から流出管34aを介して抜き出され、外部型触媒分離器34に導入される。
外部型触媒分離器34では、導入されたスラリーをフィルター52によって濾過し、触媒粒子を捕捉する。これにより、スラリーを固形分と液体炭化水素からなる液体分とに分離する。この外部型触媒分離器34による濾過処理により、反応器30内から液体炭化水素を抜き出す(抜き出し工程)。ここで、外部型触媒分離器34内の温度や圧力については、基本的には反応器本体80内と同じ条件で運転される。したがって、フィルター52によって濾過分離されて得られる液体分は、前述したように反応器本体80内の条件において液体状である炭化水素、すなわち重質液体炭化水素である。
【0063】
外部型触媒分離器34は、本実施形態では図3に示すフィルター52のうちの一部のフィルターエレメント53群が、それぞれに接続する第2導管55に設けられた弁56の制御により、通常の濾過工程をなすようになっている。また、残部のフィルターエレメント53群が、それぞれに接続する第2導管55に設けられた弁56および第3導管57に設けられた弁58の制御により、後述する逆洗工程をなすようになっている。すなわち、本実施形態では、図3に示すフィルター52のうちの一部のフィルターエレメント53群は通常の濾過処理を行い、残りのフィルターエレメント53群は逆洗処理を行うようになっている。このような濾過処理と逆洗処理との切換は、弁56および弁58の切換操作によって行うことができる。なお、このような濾過処理、逆洗処理は、所定時間毎に交互になされるようになっており、したがって所定時間が経過すると、制御部(図示せず)による制御によって各弁56および弁58が自動的に切り換えられるようになっている。
したがって、濾過工程で捕捉された触媒粒子は、その後になされる逆洗工程においてフィルター52表面から取り除かれ、逆洗液とともに返送管34bを経て反応器本体80のスラリー床に戻されるようになっている。
【0064】
外部型触媒分離装置34における濾過処理によってフィルター52で触媒粒子から分離され、第1導管54、第2導管55を介して第1配管41に導出された重質液体炭化水素(液体分)は、図2に示すように、濾過装置45により再度濾過処理されてもよい。濾過装置45では、内部に配置したフィルターによって重質液体炭化水素を濾過することにより、外部型触媒分離器34のフィルター52(濾過媒体53b)で捕捉されずに重質液体炭化水素中に混入した、反応器本体80内で触媒粒子の摩擦、崩壊等により発生した微粉化した触媒粒子の少なくとも一部を捕捉し、除去する。
【0065】
濾過装置45で再度濾過処理された重質液体炭化水素は、貯槽46に一旦貯留される。そして、貯槽46から排出された重質液体炭化水素は、第2ドラム85および第3ドラム86から排出される軽質液体炭化水素と合流し、第1精留塔40に供給される。また、場合により、その重質液体炭化水素の一部は、弁47によって必要量が逆洗液として逆洗液槽38に供給され、その他は第1精留塔40に供給される。但し、以後の本実施形態の説明では、重質液体炭化水素は逆洗液用として逆洗液槽38に供給されることなく、全量が第1精留塔40に供給されるものとする。
【0066】
前述のように、反応器本体80の気相部から抜き出された気体成分は、抜出管82を経て熱交換部83で熱交換され、合成ガスによって冷却されてその一部が液化した後、気液混合状態で気液分離装置36の第1ドラム84内に流入する。第1ドラム84内に流入した気液混合物はここで気液分離され、液体分、すなわち軽質液体炭化水素は、第1ドラム84から第1導出管90に排出される。
【0067】
第1導出管90に排出された軽質液体炭化水素は、前述のように槽93に導入され、この槽93内のフィルターによって該軽質液体炭化水素中に僅かに含まれる触媒粒子が捕捉され、除去される。さらに、槽93から導出された軽質液体炭化水素は、再冷却部94において所定温度に再冷却される(再冷却工程)。その後、再冷却された軽質液体炭化水素は、逆洗液槽38に導入され、逆洗処理用の液、すなわち逆洗液として貯留される。
このようにして得られる軽質液体炭化水素を逆洗液として用いれば、逆洗液は反応器本体80内に戻された後、気化して気体成分の一部として反応器本体の頂部から排出され、スラリーの一部として外部型触媒分離器34のフィルター52で濾過処理されることはない。したがって、この軽質液体炭化水素からなる逆洗液はフィルター52を往復して繰り返し通過することがないため、逆洗液として重質液体炭化水素を用いていた従来に比べ、フィルター52の負荷を格段に軽減することができる。
【0068】
また、第1ドラム84において液体成分から分離されて排出された気体成分は、第1凝縮器87により冷却されてその一部が液化し、液化した成分(軽質液体炭化水素)は第2ドラム85にて気体成分と分離されて第1精留塔40に供給される。また、第2ドラム85において液体成分から分離されて排出された気体成分は、第2凝縮器88で冷却されてその一部が液化し、液化した成分(軽質液体炭化水素)は第3ドラム86にて気体成分と分離されて第1精留塔40に供給される。
なお、第1ドラム84および/または第2ドラム85に流入する液体成分中には、反応器30内で副生する水が含まれている。したがって、第1ドラム84および/または第2ドラム85の底部には、水抜き用の配管(図示せず。)を設けておくのが好ましい。
【0069】
また、外部型触媒分離器34において濾過処理と並行してなされる逆洗処理(逆洗工程)は、逆洗液槽38から第2配管44に導出された逆洗液(軽質液体炭化水素)を、図3(a)に示す第3導管57を介してフィルターエレメント53群に流通させることで行う。すなわち、逆洗液槽38内の逆洗液を図示しないポンプ等によって第2配管44中に圧送し、第3導管57、第1導管54を介してフィルターエレメント53群に流通させる。すると、逆洗液は外部型触媒分離器34内に導入され、第3導管57を介して第1導管54を逆流し、フィルターエレメント53の濾過媒体53bを洗浄(逆洗)する。これにより、濾過媒体53bに堆積した触媒粒子は濾過媒体53bから除去され、逆洗液に同伴されて返送管34bを経て、逆洗液とともに反応器30内のスラリー床中に戻される。
【0070】
ここで、外部型触媒分離器34内に導入された逆洗液としての軽質液体炭化水素は、反応器本体80内の条件において気体状である炭化水素であり、外部型触媒分離器34内は基本的に反応器本体80内と同じ条件になっているため、外部型触媒分離器34内に導入されることで加熱され、気化を開始する。しかし、逆洗液として用いている軽質液体炭化水素は、第1ドラム84で気液分離した比較的高沸点の炭化水素であり、更に再冷却部94で再冷却されている(再冷却工程)ことにより、充分に冷熱が付与されているため、外部型触媒分離器34内に導入されてもしばらくは液体の状態に維持される。したがって、フィルター52を逆洗処理する間は液体の状態にあることで逆洗液としての機能を充分に発揮し、スラリーの濾過時に濾過媒体53bに堆積した触媒粒子を濾過媒体53bから良好に除去する。
【0071】
逆洗液とともに反応器本体80内のスラリー床中に返送された触媒粒子は、スラリー床中にて他の触媒粒子とともにスラリーを形成する
一方、逆洗液としての軽質液体炭化水素は、反応器本体80内にて気体となり、反応器本体80の気相部から抜き出され、気液分離装置36に送られる。なお、第1ドラム84に接続する第1導出管90は、図2中に示す配管90の破線部分により、第2導出管91、第3導出管92が合流する配管に接続しており、切換弁(図示せず。)の切換制御等によって液体(軽質液体炭化水素)の流れる方向を逆洗液槽38側と第1精留塔40側とのいずれかに切り換えられるようになっている。これにより、反応系内を循環する、逆洗液としての軽質液体炭化水素が過剰になった際には、過剰分を第1精留塔40側に排出することができる。
【0072】
次に、第1精留塔40は、前記のようにして反応器30から外部型触媒分離器34及び濾過装置46を介して供給された重質液体炭化水素、及び気液分離装置36を介して供給された軽質液体炭化水素を分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃より低い。)と、中間留分(沸点が約150〜360℃)と、ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分離する。この第1精留塔40の底部から取り出されるワックス留分の液体炭化水素(主としてC22以上)は、ワックス留分水素化分解反応器60に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC11〜C21)は、中間留分水素化精製反応器61に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0073】
ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底から供給された炭素数の多いワックス留分の液体炭化水素(概ねC22以上)を、前記水素分離装置26から供給される水素ガスを利用して水素化分解して、その炭素数を概ねC21以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス留分水素化分解反応器60により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器63において気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、中間留分水素化精製反応器61及びナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0074】
中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部から供給された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C21)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応では、主に、燃料油基材としての低温流動性を向上する目的で、分岐状飽和炭化水素を得るために、前記液体炭化水素を水素化異性化し、また、前記液体炭化水素中に含まれる不飽和炭化水素に水素を付加して飽和させる。更に、前記炭化水素中に含まれるアルコール類等の含酸素化合物を水素化して飽和炭化水素に変換する。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器64で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0075】
ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部から供給された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC10以下)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。これにより、供給されるナフサ留分に含まれる不飽和炭化水素及びアルコール類等の含酸素化合物は飽和炭化水素に変換される。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器65で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサ・スタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0076】
次いで、第2精留塔70は、前記のようにしてワックス留分水素化分解反応器60及び中間留分水素化精製反応器61から供給された液体炭化水素を、炭素数がC10以下の炭化水素(沸点が約150℃より低い。)と、灯油留分(沸点が約150〜250℃)と、軽油留分(沸点が約250〜360℃)及びワックス留分水素化分解反応器60からの未分解ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分留する。第2精留塔70の下部からは軽油留分が取り出され、中央部からは灯油留分が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC10以下の炭化水素が取り出されて、ナフサ・スタビライザー72に供給される。
【0077】
さらに、ナフサ・スタビライザー72では、前記ナフサ留分水素化精製反応器62及び第2精留塔70から供給された炭素数がC10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C〜C10)を分離・精製する。これにより、ナフサ・スタビライザー72の塔底からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサ・スタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下(C以下)の炭化水素を主成分とするフレア・ガスが排出される。このフレア・ガスは、外部の燃焼設備(フレアスタック、図示せず。)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0078】
本実施形態の炭化水素の製造方法によれば、逆洗工程(逆洗処理)においてフィルター52に流通させる液体炭化水素として、反応器本体80の気相部から抜き出された軽質液体炭化水素を用いているので、フィルター52を往復して繰り返し通過する液体炭化水素(重質液体炭化水素)をなくすことができる。すなわち、軽質液体炭化水素は逆洗工程で反応器本体80内に返送されても、その後は反応器本体80内で気化してフィルター52を流通することなく反応器本体80の気相部から抜き出されるため、スラリーの一部となってフィルター52を流通しない。よって、フィルター52を往復して繰り返し通過する重質液体炭化水素をなくすことができるため、フィルター52において単位時間あたりに濾過するスラリーの量を少なくすることによってフィルター52の負荷を軽減することができ、これによって濾過面積の低減化を可能にし、製造設備の小型化や簡易化を図ることができる。
【0079】
また、反応器30の気相部から抜き出された気体成分を、熱交換部83によって180℃以上でかつ反応器本体80内の温度より低い温度に冷却して、軽質液体炭化水素を得るようにしたので、この軽質液体炭化水素を逆洗液として外部型触媒分離器34内に導入した際、しばらくは液体の状態に維持されることで逆洗液としての機能を良好に発揮させることができる。
また、前記軽質液体炭化水素を再冷却部94(再冷却工程)で更に冷却するようにしたので、逆洗工程の際に液体の状態に維持される時間を長くすることができ、したがって逆洗液としての機能をより良好に発揮させることができる。
【0080】
次に、FT合成反応による炭化水素の合成方法に基づき、本発明の炭化水素の製造方法の第2実施形態を説明する。
本実施形態が前記第1実施形態と異なるところは、逆洗液として、前記軽質液体炭化水素に重質液体炭化水素を混合した混合液を用いる点である。
【0081】
すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態と同様にして、第1導出管90に排出した軽質液体炭化水素を槽93に導入し、さらに再冷却部94において所定温度に再冷却した後、逆洗液槽38に導入する。一方、第1配管41中の弁47により、外部型触媒分離器34から導出された重質液体炭化水素の一部を逆洗液槽38内に導入する。これにより、反応器本体80の気相部から抜き出された気体成分からなる軽質液体炭化水素と、外部型触媒分離器34から導出された重質液体炭化水素の一部とを混合し、混合物(混合油)からなる逆洗処理用の液、すなわち逆洗液を得る。
【0082】
ここで、逆洗液中の軽質液体炭化水素と重質液体炭化水素との混合比については、弁47によって逆洗液槽38に導入する重質液体炭化水素の量を調整することにより、適宜に制御することができる。また、このように制御される混合比、すなわち軽質液体炭化水素量対重質液体炭化水素量は、特に限定されないものの、8:2〜2:8程度とするのが好ましい。軽質液体炭化水素の量を増やすことにより、相対的に重質液体炭化水素の量を減らすことができ、これによって外部型触媒分離器34のフィルター52を往復して繰り返し通過する液体炭化水素の量を少なくすることができる。一方、重質液体炭化水素の量を増やせば、この重質液体炭化水素は外部型触媒分離器34内においても液状であるため、混合液からなる逆洗液の洗浄機能(逆洗機能)を高めることができる。
【0083】
また、このような逆洗液を用いた逆洗処理(逆洗工程)については、前記第1実施形態と同様にして行われる。すなわち、逆洗液槽38から第2配管44に導出された逆洗液(混合液)を、図3(a)に示す第3導管57を介してフィルターエレメント53群に流通させることで逆洗処理を行う。これにより、濾過媒体53bに堆積した触媒粒子は濾過媒体53bから除去され、逆洗液に同伴されて返送管34bを経て、逆洗液とともに反応器30内のスラリー床中に戻される。
【0084】
外部型触媒分離器34内に導入された逆洗液中の軽質液体炭化水素は、前述したように反応器本体80内の条件において気体状である炭化水素であるため、外部型触媒分離器34内に導入されることで加熱され、気化を開始する。しかし、逆洗液として用いている軽質液体炭化水素は、第1ドラム84で気液分離した比較的高沸点の炭化水素であり、更に再冷却部94で再冷却している(再冷却工程)ことで充分に冷熱が付与されているため、外部型触媒分離器34内に導入されてもしばらくは液体の状態に維持される。したがって、フィルター52を逆洗処理する間は液体の状態にあることで逆洗液としての機能を充分に発揮し、重質液体炭化水素とともに濾過媒体53bに堆積した触媒粒子を濾過媒体53bから良好に除去する。
【0085】
逆洗液とともに反応器30内のスラリー床中に返送された触媒粒子は、スラリー床中にて他の触媒粒子とともにスラリーを形成する。また、逆洗液中の重質液体炭化水素は、濾過処理の際に他の重質液体炭化水素とともに再度外部型触媒分離器34に導入され、フィルター52を流通する。
一方、逆洗液中の軽質液体炭化水素は、反応器本体80内にて気体となり、反応器本体80の気相部から抜き出され、気液分離装置36に送られる。
【0086】
したがって、本実施形態の炭化水素の製造方法によれば、逆洗工程(逆洗処理)においてフィルター52に流通させる液体炭化水素として、反応器本体80の気相部から抜き出された軽質液体炭化水素を用いているので、フィルター52を往復して繰り返し通過する液体炭化水素(重質液体炭化水素)の量を少なくすることができる。すなわち、軽質液体炭化水素は逆洗工程で反応器30内に返送されても、その後は反応器30内で気化してフィルター52を流通することなく反応器30の気相部から抜き出されるため、スラリーの一部となってフィルター52を流通しない。よって、フィルター52を往復して繰り返し通過する液体炭化水素の量を少なくすることができるため、フィルター52によって単位時間あたりに濾過されるスラリーの量を少なくすることによってフィルター52の負荷を軽減することができ、これによって濾過面積の低減化を可能にし、製造設備の小型化や簡易化を図ることができる。
【0087】
また、逆洗液として軽質液体炭化水素と反応器30から抜き出された重質液体炭化水素との混合物(混合油)を用いているので、特に重質液体炭化水素が逆洗時に気化せずしたがって逆洗液として高い機能を有していることにより、フィルター52を良好に洗浄することができる。
【0088】
また、上記第2実施形態においては、反応器本体80から外部型触媒分離器36内のフィルター52による濾過により抜き出された重質液体炭化水素を、濾過装置46で再度濾過し、該重質液体炭化水素が含有する微粉化した触媒粒子の少なくとも一部を更に除去しているので、この重質液体炭化水素を逆洗液の一部としてフィルター52に流通させた際、該逆洗液中に含まれる触媒粒子によりフィルター52を濾過時とは逆の方向から目詰まりさせるおそれを回避することができる。
【0089】
なお、前記実施形態では、スラリーを濾過するフィルター52を外部型触媒分離器34の分離槽50内に配置したFT合成ユニット5を用いて、本発明の製造方法を実施するようにしたが、本発明はこれに限定されることなく、図4に示すように反応器30内にフィルター52を配置する、内部型の触媒分離機構を設けたFT合成ユニット100を用いて炭化水素を製造するようにしてもよい。
【0090】
図4に示すFT合成ユニット100において、図2に示したFT合成ユニット5と異なるところは、外部型触媒分離器34に代えて、反応器30内にフィルター52を設け、反応器30に内部型の触媒分離機構を形成している点である。この触媒分離機構は、図2に示した外部型触媒分離器34の分離槽50内に設けられてフィルター52を主とする構成と同様の構成からなり、図3(a)、(b)に示したようなフィルターエレメント53や第1導管54、第2導管55、第3導管57、弁56、弁58等を備えている。
【0091】
このような内部型の触媒分離機構を形成した反応器30を備えるFT合成ユニット100を用いても、図2に示した外部型触媒分離器34を用いた反応器30を備えるFT合成ユニット100を用いた場合と同様に、逆洗液としてフィルター52を往復して繰り返し通過する重質液体炭化水素をなくすことができる、またはその量を少なくすることができる。したがって、フィルター52の負荷を軽減することができ、これによって濾過面積を低減することが可能になり、製造設備の小型化や簡易化を図ることができる。
【0092】
なお、本発明の製造方法を実施するFT合成ユニットとしては、触媒分離機構として外部型と内部型とを併用したものを用いることもできる。すなわち、図2に示した外部型触媒分離器34を備えるとともに、図4に示したように反応器30内にフィルター52を備えた構成のFT合成ユニットを用いて、本発明の製造方法を実施してもよい。
【0093】
さらに、本発明では、反応器30から抜き出した濾過処理後の重質液体炭化水素について、該重質液体炭化水素が含有する微粉化した触媒粒子の少なくとも一部を更に除去することなく、そのまま逆洗液槽38又は第1精留塔40に供するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、フィルター52の一部のフィルターエレメント53群で濾過を行うと同時に、他のフィルターエレメント53群で逆洗を行うようにし、したがって濾過工程と逆洗工程とを同時に並行して行うようにしたが、濾過工程と逆洗工程とを同時に行うことなく交互に行うようにしてもよい。
【0094】
さらに、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1に供給される炭化水素原料に天然ガスを用いたが、例えば、アスファルト、残油など、その他の炭化水素原料を用いてもよい。
また、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1を用いて本発明の製造方法を実施する形態について述べたが、本発明は少なくとも水素ガス及び一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスと触媒粒子を含むスラリーとの接触によって炭化水素を合成する、炭化水素の製造方法に適用されるものである。
【0095】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1…液体燃料合成システム、5…FT合成ユニット、30…気泡塔型スラリー床反応器(反応器)、34…外部型触媒分離器、36…気液分離装置、38…逆洗液槽、40…第1精留塔、52…フィルター、46…濾過装置、82…抜出管、83…熱交換部、90…第1導出管、94…再冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いて、フィッシャー・トロプシュ合成反応により炭化水素を合成する合成工程と、
前記反応器の内部および/または外部に配置されたフィルターに前記スラリーを流通させて触媒粒子と重質液体炭化水素とを分離し、重質液体炭化水素を抜き出す抜き出し工程と、
前記フィルターに前記スラリーの流通方向と逆方向に液体炭化水素を流通させ、前記フィルターに堆積した触媒粒子を前記反応器内のスラリー床中に戻す逆洗工程と、
前記反応器の気相部から排出される該反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却し、凝縮した軽質液体炭化水素を気体成分から分離して回収する冷却・気液分離工程と、
を備える炭化水素の製造方法であって、
前記逆洗工程において流通させる液体炭化水素が、前記冷却・気液分離工程で得られる軽質液体炭化水素を含むことを特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記軽質液体炭化水素が、前記冷却・気液分離工程において、前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を、180℃以上且つ前記反応器内の温度よりも低い温度に冷却することにより凝縮する軽質液体炭化水素であることを特徴とする請求項1記載の炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記軽質液体炭化水素を更に冷却する再冷却工程を備え、該工程を経た軽質液体炭化水素を前記逆洗工程に供することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記逆洗工程において流通させる液体炭化水素が、前記軽質液体炭化水素と、前記抜き出し工程で抜き出された重質液体炭化水素との混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記混合物中の重質液体炭化水素は、前記抜き出し工程で抜き出された重質液体炭化水素が含有する触媒粒子の少なくとも一部が、更に除去されたものであることを特徴とする請求項4記載の炭化水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201842(P2012−201842A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69395(P2011−69395)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】