説明

炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法

【課題】非定常運転時において気液分離装置の冷却器にワックスが付着することを防止した、炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】触媒粒子と液体炭化水素を含むスラリーを内部に保持した気泡塔型スラリー床反応器30を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応による、炭化水素の製造装置である。反応器30の気相部82から抜き出された気体状の炭化水素を冷却して炭化水素の一部を液化させて気液分離を行う気液分離装置36を備える。気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット86より下流側のラインで、かつ、曇り点が最後段の気液分離ユニット86における冷却器86aの出口温度未満の軽質炭化水素が流通する下流側液体炭化水素下流側ラインと、気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット86より上流側の上流側ラインとの間に、軽質炭化水素を供給する軽質液体炭化水素供給ライン91を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応による、炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低く、環境にやさしいクリーンな液体燃料が求められている。このような観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素を含まず、脂肪族炭化水素に富む燃料油基材、特に灯油・軽油基材を製造できる技術として、一酸化炭素ガス(CO)及び水素ガス(H)を原料ガスとしたフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)を利用する方法が、検討されている。この方法は、天然ガスを改質して合成ガス(COとHを主成分とする混合ガス)を製造し、この合成ガスからFT合成反応により幅広い炭素数分布を有する炭化水素を合成し、得られた炭化水素を水素化処理及び分留することにより液体燃料基材を製造するもので、GTL(Gas To Liquids)技術と呼ばれている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
また、FT合成反応により炭化水素を製造する方法として、液体炭化水素中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリー(以下、単に「スラリー」ということもある。)中に合成ガスを吹き込んでFT合成反応を行う、気泡塔型スラリー床反応器を用いる方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
この気泡塔型スラリー床反応器を用いる方法では、該反応器内のスラリーの上部に気相部を形成し、スラリー中を通過する間に反応しなかった合成ガス(未反応の合成ガス)、及びFT合成反応により生成し、反応器内の条件にて気体である軽質の炭化水素を、反応器上部に接続された導管から排出している。
【0004】
このような気泡塔型スラリー床反応器では、通常は反応器上部に接続された導管から排出された軽質炭化水素を分離回収すべく、該導管を気液分離装置に接続し、この気液分離装置の冷却器によって反応器上部からの気体排出分を冷却し、凝縮した軽質液体炭化水素を気液分離槽によって気体成分と分離する。そして、分離された未反応の合成ガスを含む気体成分は反応器にリサイクルされ、分離された液体成分(軽質液体炭化水素)は、後述する重質炭化水素と共に後段の蒸留工程へ供される。ここで、FT合成反応によって生成した重質炭化水素は、基本的には反応器のスラリー床から液体として抜き出されるものの、反応器内の条件において僅かながら蒸気圧を持つため、その一部が気体として気相部中に存在し、前記気体排出分の一部として導管から排出される。さらに、液状の重質炭化水素が、飛沫となって排出されるガスに同伴され、排出分に含まれることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【特許文献2】特表2007−516065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記の気泡塔型スラリー床反応器では、例えば、運転を停止した状態から合成ガス(原料ガス)の供給を開始するスタートアップの前段階や、何らかの事情により一時的にFT合成反応を停止する必要がある場合等に、原料ガスの供給を停止し、窒素ガスを反応系内に循環させ、反応は停止するもののスラリーの流動を保つ運転を行うことがある。また、このような運転から通常の運転に移行する途中の段階等、原料ガスの供給は行なうものの、反応温度を通常運転に比較して低温に設定し、FT合成反応を実質的に進行させない、あるいは通常運転に比較して大幅に低い一酸化炭素の反応転化率において運転を行なう場合もある。
【0007】
このような非定常的な運転においては、前記気泡塔型スラリー床反応器の気相部から排出される気体排出分を冷却してその一部を液化させるための冷却器において、冷却効率が低下して該冷却器出口の温度が上昇する傾向が見られることがある。これは、気泡塔型スラリー床反応器内に保持されたスラリーを構成する液状の炭化水素から気化し、気体排出分の一部となった重質炭化水素が前記冷却器において冷却され、冷却器の配管に固体(ワックス)として析出して付着することによる。そして、前記冷却器出口温度の上昇によりFT合成ユニットの運転継続が困難となったり、極端な場合には、冷却器の配管が閉塞する等の問題が生じてしまうおそれもある。
【0008】
このような前記冷却器におけるワックス分の付着に起因する不都合への対策としては、冷却器の冷却効率が一定の水準まで低下した段階で、例えばスチームによって付着したワックスを融解させて除去する方法も考えられる。しかし、その場合には、一時的に気液分離装置の運転を停止しなければならないため、FT合成ユニットの稼働率が低下してしまう。また、気液分離装置の運転を停止しないように気液分離装置を複数並列させて設置することも考えられるが、その場合には、設備の大型化や設備コストの上昇を招いてしまう。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、気泡塔型スラリー床反応器を用いたFT合成反応により炭化水素を製造するに際して、非定常運転時において、前記反応器の気相部から排出される気体排出分を冷却し、その一部を液化させて液体成分を回収するための気液分離装置の冷却器にワックスが付着することにより生じる不都合を防止する、炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
上記冷却器内におけるワックスの付着について、以下の原因を推測した。すなわち、前述のように、気泡塔型スラリー床反応器内に保持される液状の炭化水素に含まれる重質炭化水素の一部は気化し、該反応器の気相部から排出される気体排出分に同伴する。通常運転の場合は、前記気液分離装置においては、気体排出分が含む、反応器から排出される多量の軽質炭化水素が冷却器によって冷却され、凝縮して生成する軽質液体炭化水素が多量に冷却器内を流通する。したがって、気体排出分に同伴する重質炭化水素が冷却器内において冷却されても、冷却器内に付着することなく、多量の軽質液体炭化水素によって「洗い流される」ものと考えられる。一方、FT合成反応による新たな炭化水素の生成が停止あるいは大幅に抑制された状態においては、反応器内の液体炭化水素から気化して気体排出分として反応器気相部から排出される軽質炭化水素の量が大幅に減少する。これにより、前記冷却器において凝縮して生成する軽質液体炭化水素の量が大幅に減少し、同時に固体として析出する重質炭化水素(ワックス)を「洗い流す」効果が大幅に低下すると考えられる。
また、一酸化炭素の反応転化率を大幅に低下させるために反応温度を通常運転に比較して低温に設定する運転においては、FT合成反応の特性から、反応により生成する炭化水素の炭素数が増加し、相対的に軽質炭化水素の生成量が減少し、重質炭化水素の生成量が増加することも、前記ワックスの付着を助長すると推定される。
そして、このような知見に基づき、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の炭化水素の製造装置は、触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造装置において、前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して該炭化水素の一部を液化させて気液分離を行う、冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを有する気液分離装置を備えてなり、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより下流側のラインであって、内部を曇り点が前記最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素が流通する下流側軽質液体炭化水素ラインと、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインとの間に、前記下流側軽質液体炭化水素ライン内の前記軽質液体炭化水素を前記上流側ラインに供給する軽質液体炭化水素供給ラインを設けたことを特徴とする。
【0012】
また、前記炭化水素の製造装置においては、前記下流側軽質液体炭化水素ラインが、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットに接続して該気液分離ユニットから液体炭化水素を導出するラインであることが好ましい。
【0013】
また、前記炭化水素の製造装置においては、前記上流側ラインが、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットの直前に位置するラインであることが好ましい。
【0014】
本発明の炭化水素の製造方法は、触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造方法において、冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを有した気液分離装置により、前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して前記炭化水素の一部を液化させた後気液分離を行う、気液分離工程を備え、前記反応器での反応が停止している間に、又は該反応器での一酸化炭素反応転化率が20%以下である間に、曇り点が、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素を、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインに供給することを特徴とする。
【0015】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記軽質液体炭化水素として、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットから導出される液体炭化水素を用いることが好ましい。
【0016】
また、前記炭化水素の製造方法においては、前記軽質液体炭化水素を、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットの直前に位置する配管に供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭化水素の製造装置によれば、気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインに、曇り点が該最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素を供給するための軽質液体炭化水素供給ラインを設けたので、反応器でのFT合成反応を停止している間に、あるいは一酸化炭素の反応転化率が20%以下の間に、前記上流側ラインに前記軽質液体炭化水素を供給することができ、これにより、前記最後段の気液分離ユニットにおける冷却器にワックスが付着することを確実に防止でき、また、付着したワックスを除去できるので、FT合成ユニットの稼働率の低下や、設備の大型化や設備コストの上昇を招くことなく、ワックスの付着に伴う不都合の発生を防止することができる。
また、本発明の炭化水素の製造方法によれば、FT合成反応を停止している間に、あるいは一酸化炭素の反応転化率が20%以下の間に、曇り点が、気液分離装置の最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素を、前記最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインに供給するようにしたので、該最後段の気液分離ユニットにおける冷却器にワックスが付着することを確実に防止でき、また、付着したワックスを除去できるので、FT合成ユニットの稼働率の低下や、設備の大型化や設備コストの上昇を招くことなく、ワックスの付着に伴う不都合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る液体燃料合成システムの一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係るFT合成ユニットの概略構成図である。
【図3】本発明に係るFT合成ユニットの変形例の概略構成図である。
【図4】第2冷却器の出口温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法を詳しく説明する。
まず、本発明の炭化水素の製造装置の一実施形態を含む液体燃料合成システムを、図1を参照して説明する。
図1に示す液体燃料合成システム1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。
【0020】
この液体燃料合成システム1は、合成ガス製造ユニット3と、FT合成ユニット5と、アップグレーディングユニット7とから構成されている。合成ガス製造ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを製造する。FT合成ユニット5は、合成ガス製造ユニット3において製造された合成ガスからFT合成反応により液体炭化水素を合成する。アップグレーディングユニット7は、FT合成反応により合成された液体炭化水素を水素化・精製して液体燃料(主として灯油、軽油)の基材を製造する。
以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0021】
合成ガス製造ユニット3は、例えば、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。脱硫反応器10は、水素化脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄化合物を除去する。改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分として含む合成ガスを生成する。排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
【0022】
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収液を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、該炭酸ガスを含む吸収液から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。ただし、前記脱炭酸装置20は場合によっては設ける必要がないこともある。
【0023】
このうち改質器12は、例えば下記の化学反応式(1)、(2)で表される水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。なお、この改質器12における改質法は、前記水蒸気・炭酸ガス改質法の例に限定されず、例えば、水蒸気改質法、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
【0024】
CH+HO→CO+3H ・・・(1)
CH+CO→2CO+2H ・・・(2)
【0025】
また、水素分離装置26は、脱炭酸装置20又は気液分離器18と気泡塔型スラリー床反応器30とを接続する主配管から分岐した分岐ラインに設けられる。この水素分離装置26は、例えば、圧力差を利用して水素の吸着と脱着を行う水素PSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)装置などで構成できる。この水素PSA装置は、並列配置された複数の吸着塔(図示せず)内に吸着剤(ゼオライト系吸着剤、活性炭、アルミナ、シリカゲル等)を有しており、各吸着塔で水素の加圧、吸着、脱着(減圧)、パージの各工程を順番に繰り返すことで、合成ガスから分離した純度の高い水素ガス(例えば99.999%程度)を、水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器60、中間留分水素化精製反応器61、ナフサ留分水素化精製反応器62など)へ連続して供給することができる。
【0026】
水素分離装置26における水素ガス分離方法としては、前記水素PSA装置のような圧力変動吸着法の例に限定されず、例えば、水素吸蔵合金吸着法、膜分離法、あるいはこれらの組合せなどであってもよい。
【0027】
次に、FT合成ユニット5について、図1、図2を参照して説明する。図1、図2に示すようにFT合成ユニット5は、気泡塔型スラリー床反応器30(以下、「反応器30」ということもある。)と、気液分離器32と、外部型触媒分離器34と、気液分離装置36と、第1精留塔40とを主に備える。
反応器30は、合成ガスから液体炭化水素を合成するもので、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。この反応器30は、反応器本体80と、冷却管81とを主に備えており、内部温度は例えば180〜270℃程度で、かつ大気圧より加圧された条件下で運転される。
【0028】
反応器本体80は、略円筒型の金属製の容器である。反応器本体80の内部には、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容されており、該スラリーによってスラリー床が形成されている。
この反応器本体80の下部においては、水素ガス及び一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスがスラリー中に噴射されるようになっている。そして、スラリー中に吹き込まれた合成ガスは、気泡となってスラリー中を反応器本体80の高さ方向(鉛直方向)下方から上方へ向かって上昇する。その過程で、合成ガスは液体炭化水素中に溶解し、触媒粒子と接触することにより、液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が進行する。具体的には、下記化学反応式(3)に示すように水素ガスと一酸化炭素ガスとが反応して、炭化水素を生成する。
【0029】
2nH+nCO→(−CH−)+nHO ・・・(3)
ここで、このような反応において、反応器に供給された一酸化炭素ガス(CO)に対して、反応器内で消費された一酸化炭素ガスの割合を、本願では一酸化炭素の反応転化率(以下、単に「反応転化率」ということもある。)としている。この反応転化率は、反応器本体80に単位時間当たりに流入するガス中の一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)と、後述するように反応器本体80の気相部82から単位時間当たりに抜き出される気体排出分中の一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)とから、百分率で算出される。すなわち、反応転化率は、以下の式(4)によって求められる。
反応転化率=
[(入口COモル流量−出口COモル流量)/入口COモル流量]×100
・・・(4)
なお、前記反応器の気相部から排出される気体排出分に含まれる、反応器本体80内で未反応であった合成ガスを再利用するために、気体排出分を冷却して凝縮する液体成分から分離されたガス成分を反応器にリサイクルして、再度反応に供することが通常行われる。その場合は、前記入口COモル流量は、新たに供給される合成ガスと前記リサイクルされるガスとから構成される反応器入口ガス中の一酸化炭素ガスのモル流量をいう。
【0030】
反応器本体80に単位時間当たりに流入する合成ガス中の一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)は、例えば反応器本体80に合成ガスを供給する供給管49に設けられたガスクロマトグラフィー装置及び流量計(図示せず)によって連続的に、又は定期的に測定される。なお、上述のように、未反応の合成ガスを含むガスを反応器本体80にリサイクルする場合には、前記ガスクロマトグラフィー装置及び流量計を供給管49上に設置する位置は、前記リサイクルされるガスが流通するラインとの合流点よりも下流であってもよい。また、反応器本体80の気相部82から単位時間当たりに抜き出される排出分中の一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)は、後述する排出管88に設けられたガスクロマトグラフィー装置及び流量計(図示せず)によって連続的に、又は定期的に測定される。したがって、このような測定値から、前記式(4)に基づいて一酸化炭素の反応転化率が連続的に、又は定期的に計算され、この結果により運転が監視される。
【0031】
また、合成ガスが気泡として反応器本体80内を上昇することで、反応器本体80の内部においてはスラリーの上昇流(エアリフト)が生じる。これにより、反応器本体80内部にスラリーの循環流が生じる。
【0032】
なお、反応器本体80内に収容されるスラリーの上部には気相部82が設けられており、該気相部82とスラリーとの界面において、気液分離がなされる。すなわち、スラリー中で反応することなくスラリーと気相部82との界面を通過した合成ガス、及びFT合成反応により生成した、反応器本体80内の条件において気体状である比較的軽質の炭化水素は、気体成分として前記気相部82に移る。この際に、この気体成分に同伴する液滴、及びこの液滴に同伴する触媒粒子は重力によりスラリーに戻される。そして、反応器本体80の気相部82まで上昇した気体成分(未反応の合成ガス及び前記軽質の炭化水素)は、反応器本体80の気相部(上部)に接続された導管(抜出管83)を介して抜き出され、気体排出分となる。気体排出分は、その後、後述するように冷却された上で気液分離装置36に供給される。
【0033】
冷却管81は、反応器本体80の内部に設けられ、FT合成反応の反応熱を除去することにより、系内の温度を所定の温度に保つ。この冷却管81は、例えば、1本の管を屈曲させ、鉛直方向に沿って上下に複数回往復するように形成されていてもよい。また、例えば、バイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器本体80の内部に複数配置してもよい。すなわち、冷却管81の形状及び本数は前記形状及び本数に限られるわけではなく、反応器本体80内部に配置されて、スラリーを冷却することに寄与できるものであればよい。
【0034】
この冷却管81には、図1に示す気液分離器32から供給される冷却水(例えば、反応器本体80内の温度との差が−50〜0℃程度の水)が流通するようになっている。この冷却水が冷却管81を流通する過程で、冷却管81の管壁を介してスラリーと熱交換することにより、反応器本体80内部のスラリーが冷却される。冷却水の一部は、水蒸気となって気液分離器32に排出され、中圧スチームとして回収されるようになっている。
スラリーを冷却するための媒体としては、前記のような冷却水に限られず、例えば、C〜C10の直鎖、分岐鎖及び環状のアルカン、オレフィン、低分子量シラン、シリルエーテル、シリコンオイルなどを使用することができる。
【0035】
気液分離器32は、反応器30内に配設された冷却管81を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。この気液分離器32で分離された液体は、前述したように冷却水として再び冷却管81に供給される。
【0036】
反応器本体80内に収容されるスラリーを構成する触媒は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ等の無機酸化物からなる担体に、コバルト、ルテニウム、鉄等から選択される少なくとも1種の活性金属が担持された、固体粒子状の触媒が好ましく使用される。この触媒は、活性金属の他に、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、レニウム等の触媒の活性を高めるため等に添加される金属成分を更に有していてもよい。この触媒の形状は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点、及び、流動に際して触媒粒子どうし、及び触媒粒子と反応器本体80の内壁、冷却管81等との衝突、摩擦により触媒粒子が崩壊あるいは磨耗して、微粉化された触媒粒子が発生することを抑制するとの観点から、略球状であることが好ましい。
また、触媒粒子の平均粒径は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点から、40〜150μm程度であることが好ましい。
【0037】
外部型触媒分離器34は、図2に示すように反応器30の外部に配設された分離槽50と、分離槽50内に設けられたフィルター52とを備えている。フィルター52は、触媒粒子を捕捉し、スラリーを構成する液体炭化水素と分離するためのもので、スラリーの流れ方向に対して単段、あるいは多段に設置されている。フィルターの目開き(フィルターを多段に設置する場合は最も小さいものの目開き)としては、5μm〜30μm、好ましくは5〜20μm、更に好ましくは5〜15μmであることが望ましい。また、分離槽50の上部には、反応器本体80の中央部に接続された流出管34aが設けられ、分離槽50の下部には、反応器本体80の下部に接続された返送管34bが設けられている。
【0038】
ここで、反応器本体80の下部とは、反応器本体80の底部から、反応器本体80の1/3以下の長さの範囲にある部分のことであり、反応器本体80の中央部とは、反応器本体80の上部と下部との間の部分のことである。流出管aは反応器本体80内のスラリーの一部を外部型触媒分離器34に供給するための配管であり、返送管34bは、フィルター52で捕捉した触媒粒子及び炭化水素油を反応器本体80に返送するための配管である。
【0039】
また、配管41は、分離槽50内のフィルター52に接続し、触媒粒子と分離された液体炭化水素を導出する。また、この配管41には、必要に応じて濾過装置(図示せず)や貯槽(図示せず)がこの順に配設されている。濾過装置は、内部にフィルター(図示せず)を有し、このフィルターによって導入された液体炭化水素を濾過する。すなわち、この濾過装置のフィルターは、前記フィルター52で捕捉されずに流出した、液体炭化水素中の微粉となった触媒粒子の少なくとも一部を捕捉し、除去する。貯槽は、前記フィルター52で濾過されて、更に前記濾過装置で再度濾過された液体炭化水素を一旦貯留する。そして、配管41にはこのような濾過装置(図示せず)や貯槽(図示せず)が必要に応じて配設された後、さらにその下流側に第1精留塔40が接続されている。
【0040】
また、前記反応器30には、その反応器本体80の気相部82(塔頂部)に抜出管83が接続されている。抜出管83は、熱交換部84を介して気液分離装置36に接続し、反応器本体80の塔頂まで上昇してきた気相部82中の気体成分を、気体排出分として気液分離装置36に移送する。熱交換部84は、合成ガス製造ユニット3から供給された合成ガスと反応器本体80から抜き出された気体成分とを熱交換させ、相対的に温度が低い合成ガスを加熱するとともに、相対的に温度が高い気体排出分を冷却する。
【0041】
気液分離装置36は、本実施形態では第1気液分離ユニット85と第2気液分離ユニット86とからなり、第1気液分離ユニット85が上流側に配置されて前段を構成し、第2気液分離ユニット86が下流側に配置された後段を構成している。したがって、本実施形態では、第2気液分離ユニット86が気液分離装置36の最後段の気液分離ユニットとなっている。なお、本発明の気液分離装置36は、二段構成のものに限定されることなく、三段以上であっても、また、単段構成であってもよい。気液分離装置36を多段の構成とすることにより、気体排出分に含まれる液化可能な成分(軽質液体炭化水素)をより確実に液化して回収することができる。なお、単段構成の場合には、単一の気液分離ユニットが本発明の気液分離装置36における最後段の気液分離ユニットとなる。
【0042】
第1気液分離ユニット85は、第1冷却器85aとこれの下流側に配置された第1気液分離槽85bとからなり、第2気液分離ユニット86は、第2冷却器86aとこれの下流側に配置された第2気液分離槽86bとからなっている。第1気液分離ユニット85の第1冷却器85aは、抜出管83に直接接続し、前記熱交換部84を通って冷却された排出分を水等の冷却媒体と熱交換させることでさらに冷却し、その一部を液化する。例えば、この第1冷却器85aは、熱交換部84を通って冷却された排出分をさらに冷却することにより、その出口の温度を110℃程度にするように構成されている。第1気
液分離槽85bは、第1冷却器85aの出口に第1配管85cを介して接続され、沸点が約110℃を超える液体炭化水素を沸点が約110℃よりも低い気体成分から分離するとともに、該気体成分を第2気液分離ユニット86側に排出する。
【0043】
第2気液分離ユニット86の第2冷却器86aは、第1気液分離槽85bの頂部に接続配管87を介して接続され、第1気液分離槽85bから抜き出された気体成分を水等の冷却媒体と熱交換させてさらに冷却し、その一部を液化する。例えば、この第2冷却器86aは、第1気液分離槽85bから抜き出された気体成分をさらに冷却することにより、その出口の温度を35℃〜40℃程度にするように構成されている。第2気液分離槽86bは、第2冷却器85aの出口に第2配管86cを介して接続され、沸点が35℃〜40℃程度を超える液体炭化水素を沸点が35℃〜40℃よりも低い気体成分から分離するとともに、該気体成分を、その頂部に設けられた排出管88から排出する。
【0044】
排出管88から排出された気体成分は、未反応の合成ガス(CO、H)やC以下のガス状炭化水素を主として含む。この第2気液分離槽86bから排出される気体成分は、通常運転においては、その一部又は全部を、リサイクル管(図示せず)により合成ガスの供給管49に返送して、新たに供給される合成ガスと共に再度FT合成反応に供することが通常である。また、排出管88から排出される気体成分の一部、場合により全部はフレアガス等として焼却してもよい。
なお、第2配管86cには温度センサ(図示せず)が設けられており、これによって第2冷却器86aの出口温度が連続的に監視されるようになっている。
【0045】
第1気液分離槽85bの底部には、気体成分から分離された液体炭化水素を導出する第1導出管85dが接続されており、第2気液分離槽86bの底部には、気体成分から分離された液体炭化水素を導出する第2導出管86dが接続されている。これら第1導出管85d、第2導出管86dは、一つの配管89に接続しており、この配管89は前記配管41に接続している。
第1精留塔40は、配管41に接続して配設されたもので、配管41を経て供給される重質液体炭化水素、すなわち外部型触媒分離器34から導出された液体炭化水素と、第1導出管85d、第2導出管86d、さらに配管89を通って供される軽質液体炭化水素、すなわち第1気液分離槽85b、第2気液分離槽86bから導出された液体炭化水素とを蒸留し、沸点に応じて各留分に分離する。
【0046】
ただし、本実施形態では、気液分離装置36の最後段の気液分離ユニットとなる第2気液分離ユニット86の、下流側のラインとなる第2導出管86dに、三方弁等からなる切換弁90が設けられており、該切換弁90には軽質液体炭化水素供給配管(軽質液体炭化水素供給ライン)91が接続されている。また、この軽質液体炭化水素供給配管91は、本実施形態では第2気液分離ユニット86(気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット)の直前に位置する配管、すなわち第2冷却器86aの直前に位置する接続配管87に接続している。そして、この軽質液体炭化水素供給配管91には例えばポンプ(図示せず)が設けられることにより、第2導出管86dを流通する軽質液体炭化水素を接続配管87に供給するようになっている。すなわち、軽質液体炭化水素供給配管91は、その基端が第2導出管86dに接続し、その末端が接続配管87に接続している。
【0047】
ここで、第2気液分離ユニット86(気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット)の下流側ラインである第2導出管86dに導出される軽質液体炭化水素は、第2冷却器86aで凝縮した液体炭化水素であり、JIS K2269に規定される曇り点(CP)が、第2気液分離ユニット86における第2冷却器86aの出口温度(通常運転時35℃〜40℃程度)よりも低い軽質炭化水素となっている。また、前記配管89を流通する軽質炭化水素も、その曇り点が第2冷却器86aの出口温度よりも低い軽質炭化水素となっている。
【0048】
切換弁90は、第2気液分離槽86bから導出された軽質液体炭化水素の全量が配管89に排出されるようにする形態と、全量が軽質液体炭化水素供給配管91に排出されるようにする形態と、一部が配管89に排出され、残部が軽質液体炭化水素供給配管91に排出されるようにする形態との、三通りに切り換え可能になっている。また、前記軽質液体炭化水素の一部が配管89に排出され、残部が軽質液体炭化水素供給配管91に排出されるようにする形態では、各配管89、91に排出される軽質液体炭化水素の量の比率を適宜に変更できるようになっている。
【0049】
図1に示すようにアップグレーディングユニット7は、例えば、ワックス留分水素化分解反応器60と、中間留分水素化精製反応器61と、ナフサ留分水素化精製反応器62と、気液分離器63,64,65と、第2精留塔70と、ナフサ・スタビライザー72とを備える。ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底に接続されている。中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部に接続されている。ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部に接続されている。気液分離器63,64,65は、これら水素化反応器60,61,62のそれぞれに対応して設けられている。第2精留塔70は、気液分離器63,64から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。ナフサ・スタビライザー72は、気液分離器65及び第2精留塔70から供給されたナフサ留分の液体炭化水素を精留し、C以下の気体成分はフレアガスとして排出し、炭素数が5以上の成分は製品のナフサとして回収する。
【0050】
なお、このような構成のアップグレーディングユニット7は、基本的に全て前記気液分離装置36の第2気液分離ユニット86(気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット)の下流側ラインとなる。そして、例えば第1精留塔40と中間留分水素化精製反応器61との間を接続する配管75a、第1精留塔40とナフサ留分水素化精製反応器62との間を接続する配管75b、気液分離器64の底部に接続する導出管75d、気液分離器65の底部に接続する導出管75e、第2精留塔70に接続する導出管75f及び導出管75g、ナフサ・スタビライザー72の底部に接続する導出管75hを流通する炭化水素も、通常はその曇り点が第2冷却器86aの出口温度(通常運転時35℃〜40℃程度)よりも低い軽質炭化水素となり、気液分離器63の底部に接続する導出管75cを流通する炭化水素も、ワックス留分水素化分解反応器61の運転条件によっては前記要件を満たす場合もある。
【0051】
次に、以上のような構成の合成反応システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
合成反応システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH)が供給される。前記合成ガス合成ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0052】
まず、前記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、前記水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄化合物を公知の水素化脱硫触媒で水素化して硫化水素に転換し、さらにこの硫化水素を酸化亜鉛のような吸着材により吸着・除去することにより、天然ガスの脱硫を行う。このようにして天然ガスを予め脱硫しておくことにより、改質器12及び気泡塔型スラリー床反応器30、アップグレーディングユニット7等で用いられる触媒の活性が硫黄化合物により低下することを防止できる。
【0053】
このようにして脱硫された天然ガス(炭酸ガスを含んでもよい。)は、炭酸ガス供給源(図示せず)から供給される炭酸ガス(CO)と、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後に、改質器12に供給される。改質器12は、例えば、水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。このとき、改質器12には、例えば、改質器12が備えるバーナー用の燃料ガスと空気とが供給されており、該バーナーにおける燃料ガスの燃焼熱及び改質器12の炉内の輻射熱により、吸熱反応である前記水蒸気・炭酸ガス改質反応に必要な反応熱がまかなわれている。
【0054】
このようにして改質器12で製造された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。このとき、排熱ボイラー14において合成ガスにより加熱された水は気液分離器16に供給され、この気液分離器16から気体分が高圧スチーム(例えば3.4〜10.0MPaG)として改質器12または他の外部装置に供給され、液体分の水が排熱ボイラー14に戻される。
【0055】
一方、排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、または気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。吸収塔22は、貯留している吸収液中に、合成ガスに含まれる炭酸ガスを吸収することで、該合成ガスから炭酸ガスを分離する。この吸収塔22内の炭酸ガスを含む吸収液は、再生塔24に導入され、該炭酸ガスを含む吸収液は例えばスチームで加熱されてストリッピング処理され、放散された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、前記改質反応に再利用される。
【0056】
このようにして、合成ガス製造ユニット3で生成された合成ガスは、図2に示す供給管49を介して前記FT合成ユニット5の気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。このとき、気泡塔型スラリー床反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。なお、この合成ガスは、本実施形態では気泡塔型スラリー床反応器30の気相部から抜き出された気体成分を熱交換部84において冷却する冷媒となる。したがって、該気体成分を所望温度に冷却するべく、必要に応じて予備冷却されるように構成されていてもよい。また、この合成ガスは、脱炭酸装置20と気泡塔型スラリー床反応器30とを接続する配管に設けられた圧縮機(図示せず)により、FT合成反応に適切な圧力(例えば3.6MPaG)まで昇圧されるように構成されていてもよい。
【0057】
また、前記脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスの一部は、水素分離装置26にも供給される。水素分離装置26は、前記のように圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。分離された水素ガスは、ガスホルダー(図示せず)等から圧縮機(図示せず)を介して、合成反応システム1内において水素ガスを利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器60、中間留分水素化精製反応器61、ナフサ留分水素化精製反応器62など)に、連続して供給される。
【0058】
次いで、前記FT合成ユニット5は、前記合成ガス製造ユニット3によって製造された合成ガスから、FT合成反応によって炭化水素を合成する。以下、FT合成反応による炭化水素の合成方法に基づき、本発明の炭化水素の製造方法の一実施形態を説明する。
【0059】
FT合成ユニット5の通常運転においては、前記合成ガス製造ユニット3において生成した合成ガスは、供給管49により供給され、供給管49にリサイクル管(図示せず)により合流する、反応器30において未反応であった合成ガスを含むリサイクルガスが混合された後、熱交換部84において、反応器30から抜き出された気体排出分との熱交換によって加熱され、気泡塔型スラリー床反応器30を構成する反応器本体80の底部から流入し、反応器本体80内に保持されたスラリー内を気泡となって上昇する。この際、反応器本体80内では、前述したFT合成反応により、該合成ガスに含まれる一酸化炭素ガスと水素ガスとが反応して、炭化水素が生成する。なお、前述のように、供給管49により供給される合成ガスと前述のリサイクルガスとの混合ガスについては、反応器本体80に流入する前に、流量計(図示せず)によりその流量が測定され、また、ガスクロマトグラフィー装置(図示せず)によりその中に含まれる一酸化炭素ガスの濃度が測定される。そしてこれらの値から、単位時間当たりに反応器本体80に流入する一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)が算出される。
【0060】
また、この合成反応時には、冷却管81に水を流通させることでFT合成反応の反応熱を除去する。この熱交換により加熱された水は、気化して水蒸気となる。この水蒸気に含まれる液体の水は、気液分離器32で分離されて冷却管81に戻され、気体分が中圧スチーム(例えば1.0〜2.5MPaG)として外部装置に供給される。
【0061】
気泡塔型反応器30の反応器本体80内の、液体炭化水素及び触媒粒子を含有するスラリーの一部は、図2に示すように反応器本体80の中央部から流出管34aを介して抜き出され、外部型触媒分離器34に導入される。外部型触媒分離器34では、導入されたスラリーをフィルター52によって濾過し、触媒粒子を捕捉する。これにより、スラリーを固形分と液体炭化水素からなる液体分とに分離する。外部型触媒分離器34のフィルター52には、捕捉した触媒粒子をフィルター表面から取り除くと共に反応器本体80に戻すために、適宜、通常の流通方向とは逆方向に炭化水素油を流通させる。このとき、フィルター52により捕捉された触媒粒子は、返送管34bを介して、一部の液体炭化水素と共に反応器本体80に戻される。
【0062】
また、反応器本体80の気相部82から抜き出された気体排出分は、抜出管83を通って熱交換部84で反応器本体80に供給される合成ガス(リサイクルガスを含む)との熱交換によって冷却された後、気液分離装置36に流入する。なお、気液分離装置36から気体成分を導出する排出管88を流通する気体成分は、前述したように、流量計により流量が測定され、またガスクロマトグラフィー装置により、その中に含まれる一酸化炭素ガスの濃度が測定される。これらの値から、反応器本体80の塔頂に接続する抜出管83から単位時間当たりに抜き出される一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)が算出される。これにより、反応器30での反応転化率が連続的に、又は定期的に計算・監視される。
なお、FT合成ユニット5における通常運転では、この反応転化率は50%〜90%程度であり、合成ガスの供給を開始するスタートアップ時やその他の非定常的な運転時でない限り、通常は反応転化率が20%以下になることはない。
【0063】
気液分離装置36に流入した反応器本体80の塔頂からの気体排出分は、第1気液分離ユニット85の第1冷却器85aでさらに冷却され、気液混合状態で第1気液分離槽装置85bに流入する。第1気液分離槽85bに流入した気液混合物は、ここで気液分離され、液体分、すなわち軽質液体炭化水素は第1導出管85dから導出される。
【0064】
また、第1気液分離槽85bに流入して液体成分と気液分離され、その後接続配管87を流通する気体成分は、第2気液分離ユニット86の第2冷却器86aでさらに冷却され、気液混合状態で第2気液分離槽装置86bに流入する。第2気液分離槽86b内に流入した気液混合物は、ここで気液分離され、液体分、すなわち軽質液体炭化水素は第2導出管86dから導出される。FT合成ユニット5が通常運転にある場合は、第2導出管86dに設けられた切換弁90は、該第2導出管86dを流通する軽質液体炭化水素の全量を配管89に排出する形態となっている。
【0065】
したがって、第2導出管86dを流通する軽質液体炭化水素は、第1導出管85dを流通する軽質液体炭化水素と同様に配管89に流入し、その後配管41を通って第1精留塔40に流入する。なお、第2気液分離槽86bにて分離された気体成分は、前述したように排出管88より排出される。また、第2気液分離槽86bに流入する液体成分中には、反応器30内で副生する水が含まれている。したがって、第2気液分離槽86bの底部には、水抜き用の配管(図示せず)を設けておくのが好ましい。
【0066】
気液分離器86bにおいて液体成分から分離され、排出管88に排出された気体成分は、前述のように反応器本体80内で未反応であった合成ガス及びFT合成反応により生成したC4以下のガス状炭化水素を主成分とし、FT合成ユニット5が通常運転にあるときには、リサイクル管(図示せず)により合成ガスの供給管49に供給され、新たに供給される合成ガスと混合され、反応器本体80にリサイクルされ、未反応の合成ガスが再度FT合成反応に供される。
また、排出管88により排出される気体成分の少なくとも一部は、フレアガス等として焼却されてもよい。
【0067】
一方、例えば前記スタートアップの前段階や何らかの理由により一時的にFT合成反応を停止する必要がある場合などには、前述したように合成ガス(原料ガス)の供給を行なわず、反応系内に窒素ガスを循環する運転を行うことがある。また、前記窒素ガスを循環する運転から通常運転に移行する途中段階などにおいては、合成ガスの供給は行なうものの、反応温度を通常運転に比較して低温に設定し、実質的にFT合成反応が進行しないようにする、あるいは通常運転に比較して一酸化炭素ガスの反応転化率を大幅に低い値とする運転を行なうことがある。
【0068】
このような非定常的な運転を行う場合にあっては、気液分離装置36の冷却器、特に後段(最後段)の第2気液分離ユニット86の第2冷却器86aにワックスが付着し蓄積されて、伝熱が低下し、該冷却器出口の温度が通常の運転温度(35℃〜40℃程度)を超えて上昇する場合がある。本発明者は、前記冷却器内のワックスの付着の原因について、前述のように、FT合成ユニット5が通常運転にあるときには前記冷却器により凝縮した軽質液体炭化水素が該冷却器内を多量に流通するのに対して、上記非定常的な運転においてFT合成反応が実質的に進行しない、あるいは反応転化率が大幅に低下する場合には、前記冷却器内を流通する軽質液体炭化水素の量が大幅に減少し、付着するワックスを「洗い流す」効果が大幅に低下することにあると推定した。
【0069】
そこで、本実施形態では、反応器30において、FT合成反応が実質的に進行しない運転、あるいは反応転化率が20%以下である運転を実施する際に、第2導出管86dに設けた切換弁90を切り換え、該第2導出管86dを流通する軽質液体炭化水素の一部又は全量を、軽質液体炭化水素供給配管91に流入させる。軽質液体炭化水素供給配管91に流入させる軽質液体炭化水素の量については、転化率等によって適宜に決定する。すなわち、第2冷却器86aに付着し蓄積されるワックスに対して充分な洗い流し効果が得られる量となるように、切換弁90を調節する。
【0070】
このように切換弁90を切り換えると、所定量の軽質液体炭化水素が軽質液体炭化水素供給配管91に流入し、さらに軽質液体炭化水素供給配管91を経て第2冷却器86aの直前に位置する接続配管87に流入する。そして、軽質液体炭化水素はこの接続配管87を経て、再度第2冷却器86aを流通する。軽質液体炭化水素供給配管91を経て第2冷却器86aに流通する軽質液体炭化水素の曇り点(CP)は第2冷却器86aの出口温度よりも低いので、前記温度において該軽質液体炭化水素中にワックスが析出することはなく、第2冷却器86aに付着したワックスを前記軽質液体炭化水素によって再溶解し、洗い流すことができる。また、新たにワックスが付着することを防止できる。
【0071】
本実施形態において、軽質液体炭化水素供給配管91により軽質液体炭化水素を接続配管87に供給する期間について、FT合成ユニット5のスタートアップの場合を例にとって、以下説明を行なう。
FT合成ユニット5のスタートアップにおいては、原料ガス(合成ガス)を反応器30に供給する前段階として、通常、スラリーを保持した反応器30の系内に窒素ガスを循環させスラリーの流動を確保する。この段階ではFT合成反応は進行していないが、スラリーを構成する液体炭化水素に含まれる重質炭化水素の一部が気化し、反応器本体80の塔頂から抜出管83により排出される窒素ガスを主成分とする気体排出分に同伴する。スタートアップ時のスラリーを構成する液体炭化水素としては、一般的に、軽質炭化水素を殆ど含まない重質炭化水素を用いるため、液体炭化水素から気化し、抜出管83から排出される軽質炭化水素の量は少なく、したがって、前記冷却器で凝縮する軽質液体炭化水素の量は少ない。このため、この窒素ガスを循環させる運転においては、ワックスが冷却器に付着しやすい。このワックスの付着を防止するために、この窒素ガスの循環を行なう運転の期間に、軽質液体炭化水素供給配管91により第2気液分離槽86bに予め張り込んだ軽質液体炭化水素を接続配管87に供給してもよい。
【0072】
FT合成ユニット5のスタートアップにおいては、次に合成ガスの反応器30への供給を開始する。一般的に、合成ガスの供給を開始しても、すぐに反応転化率を通常運転の値に設定することはせず、徐々に反応転化率を増加させる運転を行なう。この段階においても、新たな炭化水素の生成は通常運転に比較して大幅に少ない。また、反応温度が低く設定されているので、FT合成反応の特性として、生成する炭化水素の炭素数が大きくなる(相対的に重質炭化水素が多く生成する)。したがって、この運転期間においても、気液分離装置36の冷却器にはワックスが付着しやすい。この期間内に、ワックスの付着を防止するために、軽質液体炭化水素供給配管91により第2気液分離槽86bに予め張り込んだ軽質液体炭化水素を接続配管87に供給してもよい。
【0073】
一般的に、気液分離装置36の冷却器にワックスが付着するのは、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が20%以下の期間であり、特にワックスが付着しやすいのは、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が10%以下の期間である。したがって、本実施形態において、軽質液体炭化水素供給配管91により軽質液体炭化水素を接続配管87に供給する期間としては、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が20%以下の期間が好ましく、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が10%以下の期間が特に好ましい。
上記期間内であれば、任意の期間に軽質液体炭化水素供給配管91により軽質液体炭化水素を接続配管87に供給してよく、例えば運転開始当初は前記軽質液体炭化水素の供給は行なわず、冷却器86aの出口温度を監視し、該温度の上昇が見られた段階で前記軽質液体炭化水素の供給を開始してもよい。あるいは、窒素ガスの循環を行なう段階において前記軽質液体炭化水素の供給を開始し、その後合成ガスの供給を開始し、反応転化率を増加させ、反応転化率が20%に達するまで継続して前記軽質液体炭化水素の供給を行なってもよい。このような実施態様とすることにより、最も確実に冷却器へのワックスの付着を防止できる。あるいは、反応転化率が例えば10%に達した段階で、前記軽質液体炭化水素の供給を停止してもよい。なお、場合により、反応転化率が20%を超える段階においても、前記軽質液体炭化水素の供給を継続してもよいが、一般的には、反応転化率が20%を超えると、前記軽質液体炭化水素の供給を停止しても、冷却器へのワックスの付着は生じなくなる。これは、FT合成反応による軽質炭化水素の生成が増加し、前記冷却器内で凝縮し、該冷却器を流通する軽質液体炭化水素の量が増加し、「洗い流し」効果が十分となるためと推定される。
【0074】
このような軽質液体炭化水素供給配管91による接続配管87への軽質液体炭化水素の供給は、反応器30での反応転化率を連続的に又は定期的に監視し、上述のように、反応転化率に応じて、軽質液体炭化水素の供給、停止を行なうことができる。また、更に、冷却器86aの出口温度を監視することにより、軽質液体炭化水素の供給、停止を行なってもよい。
【0075】
なお、本実施形態では、軽質液体炭化水素供給配管91の基端を第2冷却器86a第2導出管86dに接続し、末端を接続配管87に接続しているが、本発明はこれに限定されることなく、軽質液体炭化水素供給配管91の基端については第2気液分離ユニット86より下流側のラインに接続すればよく、末端については第2気液分離ユニット86より上流側のラインに接続すればよい。
【0076】
具体的には、前述したようにアップグレーディングユニット7における、第1精留塔40と中間留分水素化精製反応器61との間を接続する配管75a、第1精留塔40とナフサ留分水素化精製反応器62との間を接続する配管75b、気液分離器64の底部に接続する導出管75d、気液分離器65の底部に接続する導出管75e、第2精留塔70に接続する導出管75f及び導出管75g、ナフサ・スタビライザー72の底部に接続する導出管75hを流通する炭化水素も、通常はその曇り点が第2冷却器86aの出口温度(通常運転時35℃〜40℃程度)よりも低い軽質炭化水素となり、気液分離器63の底部に接続する導出管75cを流通する炭化水素も、ワックス留分水素化分解反応器61の運転条件によっては前記要件を満たすことから、これら配管75a〜配管75hのいずれか一つ又は複数に、軽質液体炭化水素供給配管91の基端を接続してもよい。場合によっては、外部より相当する軽質液体炭化水素を受け入れ、これを受け入れた貯槽の出口配管に軽質液体炭化水素供給配管91の基端を接続してもよい。
【0077】
また、軽質液体炭化水素供給配管91の末端については、抜出管83、反応器30内、さらには合成ガスの供給管49等のライン(上流側ライン)に接続してもよい。
このように構成しても、曇り点が第2冷却器86aの出口温度よりも低い軽質炭化水素を、第2冷却器86aの上流側に供給することができるため、第2冷却器86a内のワックスの付着を防止することができ、また付着したワックスを除去することができる。
【0078】
なお、第2冷却器86aの出口温度は、例えば第2配管86cに設けられた温度センサ(図示せず)によって連続的に監視することができる。前記軽質液体炭化水素の上流側ラインへの供給の開始時期を前記出口温度により判断してもよい。また、前記軽質液体炭化水素の上流側ラインへの供給を行なう際に、供給する軽質液体炭化水素を選択する場合、前記出口温度を基準として、曇り点が前記出口温度より低い軽質液体炭化水素とすることが好ましい。また、前記軽質液体炭化水素の上流側ラインへの供給を行なっている場合は、その効果を前記出口温度から判断することができ、これに基づき、供給する軽質液体炭化水素の流量を調整することもできる。また、供給している軽質液体炭化水素の曇り点を測定し、前記出口温度よりも低いことを確認することも好ましい。
【0079】
次に、第1精留塔40は、前記のようにして反応器30から外部型触媒分離器34を介して供給された重質液体炭化水素、及び気液分離装置36を介して供給された軽質液体炭化水素を分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃より低い。)と、中間留分(沸点が約150〜360℃)と、ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分離する。この第1精留塔40の底部から取り出されるワックス留分の液体炭化水素(主としてC22以上)は、ワックス留分水素化分解反応器60に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC11〜C21)は、中間留分水素化精製反応器61に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0080】
ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底から供給された炭素数の多いワックス留分の液体炭化水素(概ねC22以上)を、前記水素分離装置26から供給される水素ガスを利用して水素化分解して、その炭素数をC21以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス留分水素化分解反応器60により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器63において気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、中間留分水素化精製反応器61及びナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0081】
中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部から供給された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C21)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応では、主に、燃料油基材としての低温流動性を向上する目的で、分枝鎖状飽和炭化水素を得るために、前記液体炭化水素を水素化異性化し、また、前記液体炭化水素中に含まれる不飽和炭化水素に水素を付加して飽和させる。更に、前記炭化水素中に含まれるアルコール類等の含酸素化合物を水素化して飽和炭化水素に変換する。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器64で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0082】
ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部から供給された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC10以下)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。これにより、供給されるナフサ留分に含まれる不飽和炭化水素及びアルコール類等の含酸素化合物は飽和炭化水素に変換される。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器65で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサ・スタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0083】
次いで、第2精留塔70は、前記のようにしてワックス留分水素化分解反応器60及び中間留分水素化精製反応器61においてそれぞれ水素化分解及び水素化精製された液体炭化水素を、炭素数がC10以下の炭化水素(沸点が約150℃より低い。)と、灯油留分(沸点が約150〜250℃)と、軽油留分(沸点が約250〜360℃)及びワックス留分水素化分解反応器60からの未分解ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分留する。第2精留塔70の下部からは軽油留分が取り出され、中央部からは灯油留分が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC10以下の炭化水素が取り出されて、ナフサ・スタビライザー72に供給される。
【0084】
さらに、ナフサ・スタビライザー72では、前記ナフサ留分水素化精製反応器62及び第2精留塔70から供給された炭素数がC10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C〜C10)を分離・精製する。これにより、ナフサ・スタビライザー72の塔底からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサ・スタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下(C以下)の炭化水素を主成分とするフレアガスが排出される。このフレアガスは、外部の燃焼設備(図示せず)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0085】
本実施形態の炭化水素の製造装置及びこれを用いた製造方法によれば、気液分離装置36の第2気液分離ユニット86(最後段の気液分離ユニット)より上流側の上流側ラインに、曇り点が該第2気液分離ユニット86における第2冷却器86aの出口温度よりも低い軽質炭化水素を供給する、軽質液体炭化水素供給配管91を設けたので、例えば反応器30での反応を停止している間に、又は該反応器における反応転化率が20%以下の間に、前記上流側ラインに前記軽質炭化水素を供給することにより、第2気液分離ユニット86における第2冷却器86aにワックスが付着することを防止することができ、また、付着したワックスを除去することができる。したがって、非定常運転時などにおいて気液分離装置86の冷却器(例えば第2冷却器86a)にワックスが付着することによる不都合を、FT合成ユニット5の稼働率を低下させたり、設備の大型化や設備コストの上昇を招くことなく、確実に防止することができる。
【0086】
また、軽質液体炭化水素供給配管91の基端を、気液分離装置36の第2気液分離装置86(最後段の気液分離ユニット)に接続して該気液分離ユニット86から液体炭化水素を導出する第2導出管86d(配管)に接続しているので、軽質液体炭化水素供給配管91を比較的短くして装置の大型化を抑えることができる。
また、軽質液体炭化水素供給配管91の末端を、気液分離装置86の第2気液分離装置86(最後段の気液分離ユニット)の直前に位置する接続配管87に接続しているので、これによって軽質液体炭化水素供給配管91を比較的短くして装置の大型化を抑えることができる。
【0087】
なお、前記実施形態では、スラリーを濾過するフィルター52を外部型触媒分離器34の分離槽50内に配置したFT合成ユニット5を用いて、本発明の製造方法を実施するようにしたが、本発明はこれに限定されることなく、図3に示すように反応器30内にフィルター52を配置する、内部型の触媒分離機構を設けたFT合成ユニット100を用いて炭化水素を製造するようにしてもよい。
【0088】
図3に示すFT合成ユニット100において、図2に示したFT合成ユニット5と異なるところは、外部型触媒分離器34に代えて、反応器30内にフィルター52を設け、反応器30に内部型の触媒分離機構を形成している点である。この触媒分離機構は、図2に示した外部型触媒分離器34の分離槽50内に設けられてフィルター52を主とする構成と同様の構成からなる。
【0089】
また、本発明の製造方法を実施するFT合成ユニットとしては、触媒分離機構として外部型と内部型とを併用したものを用いることもできる。すなわち、図2に示した外部型触媒分離器34を備えるとともに、図3に示したように反応器30内にフィルター52を備えた構成のFT合成ユニットを用いて、本発明の製造方法を実施してもよい。
【0090】
さらに、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1に供給される炭化水素原料に天然ガスを用いたが、例えば、アスファルト、残油など、その他の炭化水素原料を用いてもよい。
また、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1を用いて本発明の製造方法を実施する形態について述べたが、本発明は少なくとも水素ガス及び一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスと触媒粒子を含むスラリーとの接触によって炭化水素を合成する、炭化水素の製造方法に適用されるものである。
【0091】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【実施例】
【0092】
図2に示す気泡塔型スラリー床反応器30において、スタートアップとして、通常運転に比較して一酸化炭素転化率を大幅に低下させた運転を実施した。
原料として合成ガス製造ユニットから供給される合成ガス(CO:Hモル比=1:2)を気泡塔型スラリー床反応器30に供給し、反応温度を180℃〜190℃として運転を行い、一酸化炭素が反応器30を通過する際の一酸化炭素の反応転化率を5〜10%とした。
【0093】
上記運転を開始してから約70時間後に、図1においてナフサ留分水素化精製反応器62にナフサ留分を供給するための配管75b中に設けられたタンク(図示せず)から、気液分離装置36における第2気液分離ユニット86の第2冷却器86aの上流の接続配管87に接続する軽質液体炭化水素供給ライン(図示せず)によって、ナフサ留分の供給を開始した。なお、供給するナフサ留分の曇り点(CP)を調べたところ、該ナフサ留分は測定を実施した最低温度である−50℃において曇りを発生しなかった。したがって、該ナフサ留分の曇り点は−50℃より低い温度となり、該ナフサ留分は、その曇り点が第2冷却器86aの通常運転時の出口温度(35℃〜40℃程度)よりも低い軽質炭化水素となる。
【0094】
図4に、上記運転を開始してからの、第2冷却器86aの出口温度(冷却器出口温度)の経時変化を示す。本実施例における低い一酸化炭素の反応転化率での運転開始から、第2冷却器86aの出口温度が経時的に上昇している。これは、反応器30内のスラリーを構成する液状炭化水素に含まれるワックス留分の一部が気化し、該反応器30の頂部に接続した抜出管83を経て熱交換部84や第1冷却器85aで冷却され、さらに第2冷却器86aにて冷却されることにより、その少なくとも一部が凝固してその内部に固体又は半固体となって付着し、伝熱を低下させたことにより、所定の冷却を行なうことができなくなったことによると考えられる。
【0095】
すなわち、一酸化炭素の反応転化率が低い運転を行なっているため、生成する炭化水素の量が減少し、第2冷却器86a内で凝縮する液体成分の量が低下し、通常運転時には液体成分によって洗い流されるワックス分が除去されずに、第2冷却器86a内に経時的に付着、蓄積したと考えられる。
【0096】
一方、ナフサ留分を第2冷却器86aの上流側である接続配管87に流通させると、経時的に第2冷却器86aの出口温度は低下した。これは、前記第2冷却器86a内に付着・蓄積したワックス分が、ナフサ留分によって一部再溶解され、洗い流されることにより、第2冷却器86aの伝熱が良化することにより冷却効率が回復したためと考えられる。
以上のように、気泡塔型スラリー床反応器30において一酸化炭素の反応転化率が低い運転を行なった際に、第2冷却器86aの上流側に所定の液体炭化水素を流通させることにより、該第2冷却器86aの冷却効率を通常運転と同等に保つことができることが明らかとなった。
なお、合成ガスを窒素ガスに置換し、該窒素ガスを反応系内に循環させる際に、同様にナフサ留分を第2冷却器86aの上流に供給する運転を行なった場合にも、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0097】
1…液体燃料合成システム、5…FT合成ユニット、30…気泡塔型スラリー床反応器(反応器)、36…気液分離装置、40…第1精留塔、82…気相部、83…抜出管、84…熱交換部、85…第1気液分離ユニット、86…第2気液分離ユニット、86a…第2冷却器、87…接続配管、91…軽質液体炭化水素供給配管(軽質液体炭化水素供給ライン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造装置において、
前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して該炭化水素の一部を液化させて気液分離を行う、冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを有する気液分離装置を備えてなり、
前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより下流側のラインであって、内部を曇り点が前記最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素が流通する下流側軽質液体炭化水素ラインと、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインとの間に、前記下流側軽質液体炭化水素ライン内の前記軽質液体炭化水素を前記上流側ラインに供給する軽質液体炭化水素供給ラインを設けたことを特徴とする炭化水素の製造装置。
【請求項2】
前記下流側軽質液体炭化水素ラインが、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットに接続して該気液分離ユニットから液体炭化水素を導出するラインであることを特徴とする請求項1記載の炭化水素の製造装置。
【請求項3】
前記上流側ラインが、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットの直前に位置するラインであることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素の製造装置。
【請求項4】
触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造方法において、
冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを有した気液分離装置により、前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して前記炭化水素の一部を液化させた後気液分離を行う、気液分離工程を備え、
前記反応器での反応が停止している間に、又は該反応器での一酸化炭素反応転化率が20%以下である間に、曇り点が、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットにおける冷却器の出口温度よりも低い軽質液体炭化水素を、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットより上流側の上流側ラインに供給することを特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記軽質液体炭化水素として、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットから導出される液体炭化水素を用いることを特徴とする請求項4記載の炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記軽質液体炭化水素を、前記気液分離装置の最後段の気液分離ユニットの直前に位置する配管に供給することを特徴とする請求項4又は5に記載の炭化水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−193302(P2012−193302A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59343(P2011−59343)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】