説明

炭化水素処理流体における炭化水素汚染物質を分散させる方法

【課題】炭化水素処理プラントの塔、導管、管路、オーバーヘッドほかの金属表面に堆積する重油、タール類、アスファルテン類、多環芳香族炭化水素類、コークス、ポリマー類、軽油、酸化炭化水素、熱分解産物類等を含む炭化水素汚染物質を炭化水素処理装置から除去する方法を提供する。
【解決手段】高沸点でハロゲンを含まない、処理温度において水よりも大きな密度の水非混和有機溶剤と接触させて、炭化水素汚染物質を分散、溶解またはその粘性を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油、タール類、アスファルテン類、多環芳香族炭化水素類、コークス、ポリマー類、軽油、酸化炭化水素、熱分解産物類等を含む炭化水素汚染物質を、炭化水素処理装置から除去する、および、高沸点な、ハロゲンを含まない、水非混合有機溶媒を用いて、炭化水素処理装置と接触する流体中の汚染物質を分散させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精製所から石油化学プラントの炭化水素処理プラントは、上流塔、導管、管路、オーバーヘッドおよびその他の炭化水素処理装置の金属表面への炭化水素汚染物質の堆積の結果としての汚損に悩まされている。炭化水素汚染物質は、炭化水素精製処理の副産物のみならず原油中にも存在し得る多種多様な炭化水素を含む。
【0003】
例えばアスファルテンは、原油の中で最も重く最も極性が高い成分である。通常これらは、多分散物の溶解性クラスであり、非極性溶媒に不溶な分子量の大きな炭化水素と定義される。アスファルテン粒子は、原油の他の成分によって安定化されたコロイド分散物の形で存在すると考えられている。これらの自然に発生する分散物は、石油の生産および処理に伴う種々の機械的および化学的条件によって不安定化され得る。これはアスファルテンの凝集、沈殿および結果としてタール状の残渣の堆積をもたらす。他の高分子量炭化水素汚染物質には、重油、タール類、多環芳香族炭化水素類、コークス等が含まれる。
【0004】
他の炭化水素汚染物質にはスチレン、ブタジエン、シクロペンタジエン等の重合により形成されるもの、水の密度よりも小さい密度を有する脂肪族および芳香族の炭化水素、一般的に軽油、酸化炭化水素および、メチル第3ブチルエーテル、ポリマー類などの大きな分子の分解、またはその他の大きな分子のより小さな分子への分解から生じる熱分解産物と呼ばれるものを含む。
【0005】
エチレンプラントにおいて希釈蒸気システム(DSS)は炭化水素からのエチレンクエンチ水を分離および回収し、熱を回収し、高温加熱炉用の蒸気を発生させる。希釈蒸気は、炭化水素分圧を低減し、エチレンの形成を促進し、望まない重化合物の形成を低減し、炉管におけるコークスの形成を低減するために必須である。希釈蒸気は、炉原料の約50%である。約50〜150psigプラント蒸気である、蒸気−炭化水素比率を満たすほどに十分な希釈蒸気を形成しないエチレンユニットは、その後炉へ投入される。
【0006】
DSSは、処理水回収、炭化水素ストリッピングおよび希釈蒸気形成を含む数々の個別の機能を内蔵する。各機能は、プラントオペレーションにおける変化、すなわち分解率、原材料、および取り込まれるまたはリサイクルされる蒸気に密接に関連する。
【0007】
エチレンクエンチ水は、流入する高温の、熱分解されたガスが圧縮に適した温度まで冷却される場所であるクエンチ貯水塔(QWT)において形成される。上記冷却は、上昇する高温ガス流に対して塔の頂上から冷水を噴射することによって成される。上記ガスは圧縮トレーンへと続き、処理される。これらのガスは、反応し、汚染物質を生じる多くの分子を含む。このコンプレッサ内の汚染物質は圧縮効率を低減し得る。いったん十分な効率が失われるとそのプラントは、コンプレッサを取り降ろして清掃する必要がある。これはエチレンプラントの予定外の停止につながる。
【0008】
上記ガスは、三重結合を二重結合へ低減するためにしばしば水素化処理される。一般的にはこれはアセチレンコンバータなどの装置によって成される。上記コンバータは特に、三重結合に水素分子を付加して二重結合分子を形成する。上記三重結合分子は高反応性であり、関連する装置を汚染する、重く、不揮発性の分子を容易に形成する。
【0009】
主な蒸気の圧縮はクエンチングオペレーション中に生じ、システム内の蒸気の量を劇的に低減させる。この処理において、大量の潜熱が処理水に移譲される。この熱せられた処理水は、上記プラントの至るところに熱媒体として用いられ、このようにしてクラッキング処理において用いられたエネルギーの主要部分を回収する。QWTの頂上では、恒常的な低温が望まれる。
【0010】
QWT内に蓄積する高分子量の重タール類は、熱の移譲を大幅に低減し、QWTがどの程度働くかに影響する。効率的な熱の移譲なしでは、オーバヘッドガスが高温で圧縮トレーンに流入する。いったん温度限界に達すると、結局はプラントを停止してQWTの清掃が必要となるまで、速度が低減されなければならない。
【0011】
クエンチング処理後、水蒸気はQWSDへ流れる。この水蒸気は通常、熱分解ガソリン、処理水、リサイクルクエンチ水および重炭化水素のタール類の混合体である。沈降タンク内の熱分解ガソリンは、取り除かれる場所であるドラムの頂上へと移動する。この蒸気は一般的にパイガス(pygas)として公知である。タール類または重炭化水素は通常上記ドラムの底で収集される。これらは、水よりも重い炭化水素である。全てのQWSDにこの相分離が装備されているわけではなく、多くのプラントにおいては低い流速および上記流れの重い、ポリマー状組成物が原因となり、ドレインまたはボトムラインが閉塞し得る。
【0012】
炭化水素相からの分離を達成するために、上記処理水およびリサイクルクエンチ水はQWSD内での適切な保持時間を要する。QWSDの底近くから、水はくみ出され、コアレッサユニットまたは処理水ストリッパー(PWS)または両方へ供給され、蒸気の形成の前にさらに浄化される。下流へ運ばれた炭化水素は、下流のユニットの運転効率を低減させる。
【0013】
QWSDの底に重タール類が蓄積し、低流速と、高粘性と、比較的高い凝固点との組合せから、ボトムラインは閉塞し得る。いったんラインが閉塞されると、上記タールが積み重なり、結果として下流のユニットに影響を与えるのに十分な量蓄積する。
【0014】
QWTおよびQWSD内に蓄積した重タール類は、除去し難いことで悪名高い。従って、清掃のためのシステムの中断を防止し、下流の装置を保護し、炭化水素精製処理の全体的な効率を上げるために、これらの汚染物質を効率よく除去する新しい方法および組成物に対する持続的なニーズがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
しかしながら本発明は、クエンチ水回収システムにおける使用には限定されない。その低い蒸気圧および高い溶解力のため、本発明の有機溶媒は通常蒸留オペレーションにおける重成分のオーバーヘッド巻き込み(overhead entrainment)の低減の目的に有用である。本発明の有機溶媒を蒸留塔の頂上または還流中へ導入することにより、それはより重い成分を溶解するように作用し、上昇する蒸気に巻き込まれる量を低減する。
【0016】
また、本発明の有機溶媒は、それらの主たる使用を超えてオペレーションに有用な効果もある。そのより高い溶解力は、それが清掃剤として機能し、例えばエチレンプラント内の供給ガスコンプレッサの内壁上に沈殿した、処理のより重い成分を除去することを可能にする。これは、各ホイール上への、またはコンプレッサのサクションへ直接注入することにより達成し得る。同様に、本発明の有機溶媒は、熱分解ガス水素化処理機(hydrotreators)およびアセチレンコンバータなどの触媒表面を清掃するために用いることができる。これらの触媒床上のタール類およびより重い炭化水素蓄積は、処理流と触媒との接触を制限し、非効率的な反応をもたらす。このような触媒ユニットへの供給に伴う上記有機溶媒の注入は、タール類およびより重い炭化水素を除去し、処理流によりきれいな触媒表面を提供することができる。このような方法での使用は、固定床触媒リアクタにとって効果的であり得る。
【0017】
このように、本発明は、炭化水素処理装置と接触する流体中の炭化水素汚染物質を分散させる方法であって、上記汚染物質を、効果的に分散させる量の、ハロゲンを含まない、処理温度において水よりも大きな密度を有する水非混和有機溶媒と接触させることを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1はクエンチ貯水塔1、クエンチ水ドラム分離機2、フィン扇風機3および熱交換器4a、4b、5a、5b、6a、6bおよび7を示す、代表的なクエンチ水ループの概略図である。
【図2】図2は、フィン扇風機3の(%設計Uとしての)効率データ対、本発明における有機溶媒での清掃の前および後の両方の時間のプロットである。
【図3】図3は、熱交換器6aおよび6bの(%設計Uとしての)効率データ対、本発明における有機溶媒での清掃の前および後の両方の時間のプロットである。
【図4】図4は、熱交換器5aおよび5bの(%設計Uとしての)効率データ対、本発明における有機溶媒での清掃の前および後の両方の時間のプロットである。
【図5】図5は、熱交換器4aおよび4bの(%設計Uとしての)効率データ対、本発明における有機溶媒での清掃の前および後の両方の時間のプロットである。
【図6】図6は、熱交換器7の(%設計Uとしての)効率データ対、本発明における有機溶媒での清掃の前および後の両方の時間のプロットである。
【図7】図7は、ここに述べられた有機溶媒がクエンチ水分離機ドラム8の清掃に用いられた、本発明の実施例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
用語の定義
「アルケニル」は、単一の水素原子の除去による1以上の炭素−炭素二重結合を有する直鎖または枝分れ鎖炭化水素に由来する一価の基を意味する。代表的なアルケニル基は、エテニル、プロペニル、ブテニル、1−メチル−2−ブテン−1−イル等を含む。
【0020】
「アルコキシ」は、アルキル−O−基を意味し、アルキルはここで定義されるものである。代表的なアルコキシ基は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等を含む。
【0021】
「アルキル」は、単一の水素原子の除去による直鎖または枝分れ鎖の飽和炭化水素に由来する一価の基を意味する。代表的なアルキル基は、エチル、n−およびイソ−プロピル、n−、二級、イソおよび三級ブチル、ラウリル、オクタデシル等を含む。
【0022】
「アルキレン」は、2つの水素原子の除去による直鎖または枝分れ鎖の飽和炭化水素に由来する2価の基を意味する。代表的なアルキレン基は、メチレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン等を含む。
【0023】
「アリール」は、約5〜約14の環原子を有する飽和および不飽和の芳香性炭素環式ラジカル、および飽和および不飽和芳香性ヘテロサイクリックラジカルを意味する。代表的なアリールは、フェニルナフチル、フェナントリル、アントラシル、ピリジル、フリル、ピロリル、キノリル、チエニル、チアゾリル、ピリミジル、インドリル等を含む。アリールは、ヒドロキシ、C〜CのアルキルおよびC〜Cのアルコキシから選択される1以上の基で任意に置換される。
【0024】
「アリールアルキル」は、アリール−アルキレン−基を意味し、アリールおよびアルキレンはここで定義されるものである。代表的なアリールアルキルは、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、1−ナフチルメチル等を含む。
【0025】
「炭化水素汚染物質」は、炭化水素ベースの物質を意味し、炭化水素処理装置上に堆積物の成分を形成する。上記炭化水素汚染物質は、一般的には、まだ堆積物に取り込まれていない無定形固体として堆積物へ取り込まれ、または炭化水素処理流体に巻き込まれ得る。炭化水素汚染物質は、多分散系であり、重油、タール類、アスファルテン類、多環芳香族炭化水素類、コークスなどの非極性溶媒に不溶な高分子量炭化水素、およびポリマー類、軽油、酸化炭化水素、熱分解産物類等を含む水より低い密度を有する炭化水素ベースの物質を含む。
【0026】
「処理温度」は、ここで述べられている清掃が行われる温度を意味する。
【0027】
「処理流体」は、水性液体または非水性液体またはガスを意味する。処理流体は、炭化水素処理流および、ここで述べられる清掃を行うために採用される流体を含む。代表的な処理流体は水、濃縮炭化水素、エチレンガス等を含む。
【0028】
「置換アニソール」は、式COCHの化合物を意味し、1以上の芳香族水素原子が、アルキル、アルコキシおよびニトロから選択される1以上の基で置換されている。代表的な置換アニソールはニトロアニソールである。
【0029】
「置換シアノ酢酸」は、式NCCH2CO2R´の化合物を意味し、R´はアルキル、アリールおよびアリールアルキルから選択される。代表的な置換シアノ酢酸はシアノ酢酸メチルである。
【0030】
「置換マレイン酸」は、式R´O2CCH=CHCO2R´´の化合物を意味し、R´およびR´´はそれぞれH、アルキル、アリールおよびアリールアルキルから選択され、提供されたR´およびR´´が共にHではない。好ましい置換マレイン酸は、C−Cのマレイン酸アルキルエステルを含む。より好ましい置換マレイン酸は、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等を含む。
【0031】
「置換フェノール」は、式COHの化合物およびそのオキシアルキレート誘導体を意味し、1以上の芳香族水素原子が、アルキル、アルコキシおよびニトロから選択される基で置換される。代表的な置換フェノールは、エトキシレートノニルフェノール、プロポキシレートブチルフェニル等を含む。
【0032】
「置換フタル酸」は、式C(COR´)の化合物を意味し、R´はアルキル、アリールおよびアリールアルキルから選択され、1以上の芳香族水素原子がアルキル、アルコキシおよびニトロから選択される基と任意に置換される。好ましい置換フタル酸は、C−Cのフタル酸アルキルエステルを含む。より好ましい置換フタル酸は、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等を含む。
【0033】
好ましい態様
本発明において分散剤として用いるのに好ましい有機溶媒は、巻き込まれた炭化水素汚染物質および炭化水素汚染物質を含む堆積物が処理流体中で分散されて移送されるように、処理温度において水よりも大きな密度、および処理流体中の炭化水素汚染物質を分散、溶解、またはその粘度を低減させる能力を有する種々の溶媒から適宜選択される。好ましい有機溶媒には、置換フェノール類、置換フタル酸類、置換マレイン酸類、置換アニソール類、置換シアノ酢酸類が含まれる。
【0034】
本発明の好ましい態様においては、上記有機溶媒が、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、シアノ酢酸メチルおよび2−ニトロアニソールから成る群から選択される。
【0035】
他の好ましい態様においては、上記有機溶媒が、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジエチルおよびフタル酸ジメチルから成る群から選択される。
【0036】
より好ましい態様においては、上記有機溶媒が、フタル酸ジメチルである。
【0037】
上記有機溶媒は炭化水素処理装置の清掃に用いることができ、装置と接触する流体中の低分子量から高分子量の汚染物質を分散、溶解、またはその粘性を低減させる。上記溶媒は、そのまま用いてもよいし、他の溶媒中の溶液として用いられてもよい。本発明における液体有機溶媒は、加熱されてもよい。室温で固体である有機溶媒は溶かされてもよく、室温において炭化水素流体中でそれが溶媒和されたままでいるように、高温であり、液体の溶媒は、溶かして汚染物質を溶媒和するために用いることができる。
【0038】
本発明の好ましい態様においては、上記炭化水素汚染物質が、重油、タール類、アスファルテン類、多環芳香族炭化水素類およびコークスから成る群から選択される。
【0039】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、精製装置である。
【0040】
他の好ましい態様においては、上記精製装置が、水素化処理機(hydrotreator)である。
【0041】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、エチレンプラント装置である。
【0042】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、水素化処理装置(hydrotreating equipment)である。
【0043】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、コンプレッサである。
【0044】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、アセチレンコンバータである。
【0045】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、エチレン炉である。
【0046】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、希釈蒸気システム処理装置である。
【0047】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、クエンチ貯水塔である。
【0048】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、クエンチ水分離機である。
【0049】
他の好ましい態様においては、上記炭化水素処理装置が、クエンチ水分離ドラムと関連がある、ボトムライン類、貯蔵タンク類、導管類、ポンプ類等である。
【0050】
有機溶媒の効果的な量およびそのアプリケーション方法は、汚染物質の特性、処理流体および清掃される処理装置に依存する。
【0051】
例えばQWTを清掃するための溶媒供与量は、系内の清掃流体に基づいて約10ppm〜約5重量%、好ましくは約0.5〜約5重量%の範囲である。有機溶媒は、脱ベンゼン(debenzenized)芳香族凝縮物または重芳香族凝縮物などの不飽和炭化水素溶媒で希釈され、QWT内へ回帰(returning)クエンチ水と共に同時注入されることが好ましい。それはそのまま注入されてもよい。それはバッチまたは連続的な処理において用いることができる。有機溶媒は単独で使用されてもよく、また他の一般的なQWT処理剤(pH調整および乳化破壊のためのものを含む)と組み合せて使用してもよい。
【0052】
QWT内に蓄積する高分子量の重タール類は分散し難い。ほとんどの稼動中に行われる(on-line)清掃剤は高分子量汚染物質には有効には働かないか、水中で不良な乳化物を形成するか、またはその両方であり、これらの全ては下流の運転に影響する。有機溶媒は、塔の清掃、および重タール物質が炭化水素相中に分散されたままに維持することには大いに役立つ。このことは上記汚染物質が塔から除去され、DSSにおける下流の運転に影響しないことを意味する。
【0053】
QWSDにおける重タール除去ラインの清掃のためには、有機溶媒はそのまま、初期のタール除去用に約10から約1000ガロンの供給量、ユニットを清潔に保つ(保守)ために分離機1つあたり1日につき約0.5〜約50ガロン投与される。好ましい投与量は、初期にタールを除去するために約100〜約400ガロンであり、ユニットを清潔に保つためには分離機1つあたり1日につき約1〜約5ガロンである。清掃は、バッチワイズまたはスラグ方式で行われる。清潔さの維持のためには、バッチワイズまたはスラグ方式または連続的のいずれかにより行われる。このアプリケーションにおいては、本発明の有機溶媒は他の処理と共に同時に注入されてもよく、他の処理がクエンチ水分離機において発生している間に用いることもできる。上記注入はクエンチ水分離機の底へのものでなくてはならず、軽炭化水素層とは混合し得ない。クエンチ水分離機の運転温度において有機溶媒は比較的低い粘性を有するため、上記有機溶媒はボトムラインを開いた状態に維持することができ、これによりタールを連続的に除去してラインを開いた状態に維持することができる。タールは除去され、回収され、処分される。
【0054】
高温清掃作業のための一般的な有機溶媒供給量は、少なくとも約10ppmである。効果的な供給量は、汚染物質および位置に依存する。清掃はバッチ/スラグ処理として行われ、大気圧における温度は約5℃〜約275℃の範囲であり得る。一般的に清掃は、有機溶媒単独または他の処理と共同して行われる。有機溶媒と共同して、他の洗浄化学薬品を用いることができる。現在の溶液に対する本発明の利点は、上記方法は高温で働き、高温においては清掃時間が低減される傾向にあるということである。
【0055】
上記は、下記の実施例を参照することによってより理解されるかもしれないが、下記の実施例は説明のために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1
実験室試験
クエンチ水、軽炭化水素および汚染物質試料が米国南部のエチレンプラントのクエンチ水ドラム分離機から回収される。約5グラムの汚染物質が2オンスのガラス瓶の底に沿って塗り付けられ、約30mLのクエンチ水がジャーに添加される。試験試料と共に、比較試料がセットアップされる。5mLのフタル酸ジメチル(「DMP」)が試験瓶へ添加され、両方の瓶は穏やかに振られた。上記フタル酸ジメチルは、即座に汚染物質の粘性を低減させる。期待されたようにその密度に基づいて、フタル酸ジメチルは瓶の底に留まる。
【0057】
実施例2
現場試験
実施例1で述べた試験を、エチレンプラントにおいて新鮮な試料についても行った。この試験において、フタル酸ジメチルは、カスタマーの重芳香族溜出(HAD)溶媒に混合された際、タール類、アスファルテン類、およびコークス微粉類を分散させること、および流れ内に汚染物質を懸濁させたままにすることについてすばらしい働きをした。
【0058】
実施例3
エチレンプラントの稼動中(on-line)清掃試験
試験は3つの段階から成る。第1段階は、クエンチ水ループおよびエチレンプラントの塔に亘って炭化水素溶媒中の1%DMP溶液(連続的にん2L/分で注入される)を循環させてクエンチ貯水塔および熱交換器を清掃することである。図1はクエンチ貯水塔1(QWT)、クエンチ水ドラム分離機2(QWDS)、フィン扇風機3および熱交換器4、5、6および7を示す。図2〜5は、クエンチループ内の異なる熱交換器の熱伝達効率を示す。熱効率は、設計(design)U係数のパーセントとして測定された。
【0059】
図2は、フィン扇風機熱交換器バンク3のU値のデータを示す。フィン扇風機のバンクは分離し難いため、それらはめったに清掃されない。図2に示されるように、DMPの注入開始後にフィン扇風機は、即座および劇的な改善を示した。
【0060】
図3は、熱交換器6aおよび6bのデータを示す。これらの熱交換器は、クエンチ塔の中間部に供給(feed)する。これらの熱交換器、特に6bは、DMP注入の前は、下降線をたどる。DMP注入後の最初の6bデータポイントは、まだ下降線をたどっているが、2番目のポイントでは急激に上向いている。6aの効率も、DMP注入後に上向いている。
【0061】
図4および5は、トップの熱交換器バンク4aと4bおよび5aと5bをそれぞれ示す。両バンクは約15日目に清掃され、U値は急激に増加した。清掃に続き、U係数は素早く低減し、フィン扇風機のように、U係数はいったんDMPが注入されると即座の改善を示した。
【0062】
図6は、熱交換器7のU値データを示す。上記交換器のU値は、初期は一定であり、その後DMP注入中に増加する。注入後、U値は急激に下降する。85日頃、上記交換器は清掃され、U値は元に戻るが、すぐに悪化する。本発明の清掃方法の効果の他の兆候は、クエンチ貯水塔にわたる差圧である。トップ部分においては、試験開始前の差圧は15ポンドである。4日後、差圧は14ポンドへ降下し、1週間後、差圧は12.6ポンドまで下がった。試験開始前の塔全体の差圧は21.7ポンドであり、1週間後には18.9ポンドまで下がった。工程技師はクエンチ塔のオーバーヘッド温度が低減されたという報告もしている。
【0063】
実施例4
クエンチ水分離機ドラムの清掃
この実施例は、クエンチ水分離機ドラム(QWDS)用の汚染物質抑制剤としてのDMPの使用について述べる。QWDSの概略図が図6に示されている。ドラム8の底に沿ってタールのインベントリーがある。ここでタールは、系内の重汚染物質を意味し、任意のタール類、アスファルテン類、またはコークス微粉類を含む。このタールの層は、リターンライン9内へQWTへと、およびライン10内へ処理水ストリッパー(PWS)へと引き戻される。いったんタールがこれらのユニットへ戻ると、タールはユニットを汚染し、ユニットの運転寿命を低減させる。図8に、分離機ドラムの底層におけるタールインベントリーの除去方法を示す。DMPは小さなタンク11に貯蔵される。溶媒は分離機ドラムのボトムドロー12の一つへ注入され、他のボトムドロー13から除去され、小さな貯蔵タンク11へと戻される。この循環は、溶媒がタール物質で飽和されるまで継続される。タール飽和溶媒は、小さな貯蔵タンク11の底に沈み、炭化水素溶媒と混合され、生成物としてタールと共に精製装置へ送られる。小さな貯蔵タンクにおいて捕らえられたいくらかの水はQWTへ戻される。
【0064】
特許請求の範囲に規定される発明の概念および範囲から外れることなく、ここに記載された発明の方法の構成、操作およびアレンジメントの変更ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素処理装置と接触する流体中の炭化水素汚染物質を分散、溶解またはその粘性を低減させる方法であって、
効果的に分散、溶解または低減させる量の、ハロゲンを含まない、処理温度において水よりも大きな密度を有する水非混和有機溶媒と、前記汚染物質とを接触させることを含む方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、フェノール類、フタル酸類、マレイン酸類、アニソール類、シアノ酢酸類およびこれらの組合せから成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、シアノ酢酸メチル、2−ニトロアニソールおよびこれらの組合せから成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、C−Cのマレイン酸アルキルエステルおよびC−Cのフタル酸アルキルエステル、これらの組合せから成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチルおよびこれらの組合せから成る群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、フタル酸ジメチルであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素汚染物質が、重油、タール類、アスファルテン類、多環芳香族炭化水素類およびコークスから成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炭化水素汚染物質が、ポリマー類、軽油、酸化炭化水素および熱分解産物類から成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記炭化水素処理装置が、精製装置であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記精製装置が、水素化処理機(hydrotreator)であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化水素処理装置が、エチレンプラント装置であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化水素処理装置が、水素化処理装置(hydrotreating equipment)であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記炭化水素処理装置が、コンプレッサであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記炭化水素処理装置が、アセチレンコンバータであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記炭化水素処理装置が、エチレン炉であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記炭化水素処理装置が、希釈蒸気システム処理装置であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記炭化水素処理装置が、クエンチ貯水塔であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記炭化水素処理装置が、クエンチ水分離機であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記炭化水素処理装置が、クエンチ水分離ドラムと関連がある、ボトムライン類、貯蔵タンク類、導管類、ポンプ類等であることを特徴とする請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102334(P2012−102334A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282002(P2011−282002)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2007−515101(P2007−515101)の分割
【原出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(507248837)ナルコ カンパニー (91)
【Fターム(参考)】