説明

炭化水素油の接触分解触媒、炭化水素油の接触分解触媒の製造方法および炭化水素油の接触分解方法

【課題】
分解活性が高く、コーク選択性が低いとともに、磨耗強度が高い炭化水素油の接触分解触媒を提供する。
【解決手段】
ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤の加熱処理物を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、前記結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、前記結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10〜76質量%であることを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油の接触分解触媒、炭化水素油の接触分解触媒の製造方法および炭化水素油の接触分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への意識の高まりに伴って、地球温暖化への対策が重要視されるようになってきており、自動車の排気ガスが環境に与える影響を考慮して、自動車の排気ガスをクリーン化することが期待され、より高品質なガソリンが求められるようになっている。
【0003】
ガソリンは、原油の精製工程において得られる複数のガソリン基材を混合することによって製造される。特に、重質炭化水素油の接触分解反応によって得られるガソリン留分、具体的には、流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)装置(以下、適宜、FCC装置と呼ぶ)を用いて得られるガソリン基材(以下、適宜、FCCガソリンと呼ぶ)は、ガソリンへの配合量が多いことから、ガソリンの品質改善に与える影響が非常に大きい。
【0004】
重質炭化水素油の接触分解反応は、石油精製工程で得られる低品位な重質油を接触分解することによって、軽質な炭化水素油へと変換する反応であるが、FCCガソリンを製造する際に、FCCガソリンとともに、水素・コーク、液化石油ガス(Liquid Petrol eum Gas:LPG)、軽油留分(Light Cycle Oil:LCO)、重質留分(Heavy Cycle Oil:HCO)を副生する。このような流動接触分解反応において、効率的にFCCガソリンを製造するためには、分解活性が高く、ガソリン収率が高く、重質留分収率が低く、更には副生成物であるコークの生成量が少ない流動接触分解触媒(以下、適宜、FCC触媒と呼ぶ)が望まれる。
【0005】
しかしながら、近年、原油の重質化、低品位化に伴って、バナジウムやニッケル等の重金属や残留炭素分を多量に含む原料油をFCC装置に投入しなければならない事態が生じている。
バナジウムは、FCC触媒に沈着し堆積すると、FCC触媒の活性成分であるゼオライトの構造を破壊するため、触媒の著しい活性低下をもたらし、かつ水素・コークの生成量を増大させ、ガソリンの選択性(ガソリン収率)を低下させることが知られており、また、ニッケルも、FCC触媒表面に沈着堆積し、脱水素反応を促進するために、水素・コークの生成量を増加させ、ガソリンの選択性を低下させることが知られている。
このため、原油の重質化、低品位化に対応し得る、高い分解活性を有し、ガソリン留分の得率が高いFCC触媒が望まれるようになっている。
【0006】
また、FCC触媒は、装置内で反応と再生を繰返しながら高速で流動するものであるために、装置の運転中に触媒粒子同士で衝突したり管壁と衝突したりする。このため、磨耗強度が低い触媒は、装置内を流動し、循環するに連れて磨耗して微粒子を増加させてしまい、触媒ロスを生じたり、生成した微粒子の回収を困難にするだけでなく、装置エロージョンや精留塔の不具合を生じたりする。
このため、より磨耗強度に優れた触媒粒子からなるFCC触媒が望まれるようになっている。
【0007】
磨耗強度を向上させたFCC触媒としては、リン酸二水素アンモニウムを添加してなる触媒組成物(特許文献1参照)や、硝酸アルミニウムおよびリン酸の混合溶液と結晶性モレキュラーシーブゼオライト類とを接触させて成る触媒組成物(特許文献2参照)や、五酸化リンをペンタシル型ゼオライトに含有させてなる触媒組成物(特許文献3参照)が提案されている。
【0008】
また、分解活性を向上させたFCC触媒として、リンを含有させた触媒組成物が提案されている(特許文献4〜特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−64743号公報
【特許文献2】特開平4−354541号公報
【特許文献3】特開2007−244964号公報
【特許文献4】特表2003−514752号公報
【特許文献5】特開昭63−197549号公報
【特許文献6】特開2006−142273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示されている触媒は、リン酸二水素アンモニウムを添加して磨耗強度を向上させるものではあるものの、リン酸二水素アンモニウムの付着により活性成分であるゼオライトの表面積が低下してしまい、触媒活性が低下するために、FCCガソリンの収率が低下してしまう。
【0011】
また、特許文献2に開示されている触媒組成物は、硝酸アルミニムとリン酸の混合溶液と結晶性モレキュラーシーブゼオライト類とを接触させて磨耗強度の向上を図るものであるが、上記触媒組成物は、C3、C4オレフィン類(炭素数が3または4であるオレフィン類)やイソブチレンの収率を増大させるものであって、C5(炭素数5)以上の炭化水素の混合物からなるガソリン留分の収率を増大させる(接触分解触媒としての分解活性を増大させる)とともに、摩耗強度を向上させるものではない。
【0012】
さらに、特許文献3に開示されている触媒組成物は、触媒成分の結合剤として第一リン酸アルミニウムを用いて磨耗強度の向上を図るものであるが、上記触媒組成物は高価なペンタシル型ゼオライトを用いるものであり、また、ペンタシル型ゼオライトはその含有量を多くすると触媒粒子の摩耗強度を低下させてしまう。このため、上記触媒組成物は、工業上、フォージャサイト型ゼオライト系触媒等に添加するアディティブ触媒としてしか使用することができない。
【0013】
また、特許文献4〜6に開示されている触媒組成物は、いずれも、超安定化Yゼオライトを単独でリン酸処理した後に、触媒粒子化されてなるものであって、分解活性の向上には効果があるものの、十分な磨耗強度を発揮し難いものである。
【0014】
このような状況下、本発明は、分解活性が高く、コーク選択性が低いとともに、磨耗強度が高い炭化水素油の接触分解触媒、その製造方法および炭化水素油の接触分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記技術課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討した結果、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤の加熱処理物を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、上記結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10〜76質量%である炭化水素油の接触分解触媒により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、これ等の知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1)ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤の加熱処理物を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、
前記結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、前記結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10〜76質量%である
ことを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒、
(2)前記酸処理された擬ベーマイトが、擬ベーマイトを一価の酸で処理してなるものであり、
前記接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、前記擬ベーマイトが、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理されてなるものである上記(1)に記載の炭化水素油の接触分解触媒、
(3)上記(1)に記載の炭化水素油の接触分解触媒を製造する方法であって、
固形分換算したときに、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、
前記結合剤が第一リン酸アルミニウムを含み、前記結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜76質量%であり、
pHが2以上3以下である水性スラリーを、
加熱処理することを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒の製造方法、
(4)前記酸処理された疑ベーマイトを得る工程として、擬ベーマイトを一価の酸で処理する工程をさらに含み、該工程が、
前記接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、前記擬ベーマイトを、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理する工程である
上記(3)に記載の炭化水素油の接触分解触媒の製造方法、
(5)上記(1)もしくは(2)に記載の炭化水素油の接触分解触媒または上記(3)もしくは(4)に記載の方法で得られた炭化水素油の接触分解触媒と炭化水素油とを接触させることを特徴とする炭化水素油の接触分解方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分解活性が高く、コーク選択性が低いとともに、磨耗強度が高い炭化水素油の接触分解触媒を提供することができる。また、本発明によれば、上記炭化水素油の接触分解触媒の製造方法および炭化水素油の接触分解方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<炭化水素油の接触分解触媒>
先ず、本発明の炭化水素油の接触分解触媒について説明する。
本発明の炭化水素油の接触分解触媒は、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤の加熱処理物を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、前記結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、前記結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10〜76質量%であることを特徴とするものである。
【0019】
(ソーダライトケージ構造を有するゼオライト)
本発明の接触分解触媒は、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%含む。
ゼオライトのソーダライトケージは、アルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした形の十四面体のゼオライトの結晶構造により規定される空隙構造であって、四員環と六員環の細孔構造を有している。このソーダライトケージ同士の結合場所や方法が変化することによって種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有している。
本発明で用いるソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライトなどを挙げることができ、好ましくは安定化Y型ゼオライトが挙げられる。
【0020】
安定化Y型ゼオライトは、Y型ゼオライトを出発原料として合成され、Y型ゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対し耐性を示すものであり、一般には、Y型ゼオライトに対し高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより作製することができる。
上記の方法で得られた安定化Y型ゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Y型ゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0021】
安定化Y型ゼオライトとしては、
(I)化学組成分析によるバルクのSiO/Alモル比が、好ましくは4〜15、より好ましくは5〜10であり、
(II)単位格子寸法が、好ましくは24.35〜24.65Å、より好ましくは24.40〜24.60Åであり、
(III)ゼオライト内の全Al原子数に対するゼオライト骨格を形成するAl原子数の比(モル比)が、好ましくは0.3〜1.0、より好ましくは0.4〜1.0である
ものが挙げられる。
【0022】
この安定化Y型ゼオライトは、天然のフォージャサイトと基本的に同一の結晶構造を有し、酸化物として下記組成式を有する。
(0.02〜1.0)R2/mO・Al・(5〜11)SiO・(5〜8)H
(上記組成式において、Rは、Na、Kその他のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表し、mはRの原子価を表している)。
【0023】
化学組成分析によるバルクのゼオライトのSiO/Alモル比(I)は、接触分解触媒の酸強度を示しており、上記モル比が大きいほど接触分解触媒の酸強度が強くなる。上記SiO/Alモル比が4以上であると、重質炭化水素油の接触分解に必要な酸強度を得ることができ、その結果分解反応を好適に行うことができる。また、上記SiO/Alモル比が15以下であると、触媒の酸強度が強くなり、必要な酸の数を確保でき、重質炭化水素油の分解活性を確保し易くなる。
【0024】
ゼオライトの単位格子寸法(II)は、ゼオライトを構成する単位ユニットのサイズを示しているが、上記単位格子寸法が24.35Å以上であると、重質油の分解に必要なAl原子数が適当であり、その結果分解反応を好適に行うことができる。上記単位格子寸法が24.65Å以下であると、ゼオライト結晶の劣化を抑制しやすくなり、触媒の分解活性の低下を抑制することができる。
【0025】
ゼオライト結晶を構成するAlの量が多くなりすぎると、ゼオライトの骨格から脱落したAl粒子が多くなり、強酸点を発現しないために接触分解反応が進行しなくなる場合があるが、ゼオライト内の全Al原子数に対するゼオライト骨格を形成するAl原子数の比(モル比)(III)が0.3以上であると、上記現象を回避することができる。また、上記比が1.0に近いと、ゼオライト内のAlの多くがゼオライト単位格子に取り込まれていることを意味し、ゼオライト内のAlが強酸点の発現に効果的に寄与するため好ましい。
本発明の接触分解触媒は、以上述べたソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いることによって、所期の高分解活性を発揮することができる。
【0026】
化学組成分析によるバルクのゼオライトのSiO/Alモル比(I)は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定することができる。
【0027】
また、上記安定化Y型ゼオライトにおける単位格子寸法(II)は、X線回折装置(XRD)により測定することができる。
【0028】
さらに、ゼオライト内の全Al原子数に対するゼオライト骨格を形成するAl原子数の比(モル比)(III)は、化学組成分析によるバルクのSiO/Al比(I)及び単位格子寸法(II)から下記数式(A)〜(C)を用いて算出することができる(なお、数式(A)は、H.K.Beyer et al.,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,(81),2899(1985).に記載の式を採用したものである)。
【0029】
(A) NAl= (a0−2.425)/0.000868
(数式(A)において、NAlは単位格子あたりのAl原子数(個)、a0は単位格子寸法(nm)、2.425は単位格子骨格内の全Al原子が骨格外に脱離したときの単位格子寸法(nm)、0.000868(nm/個)は実験により求めた計算値であり、a0とNAlについて1次式で整理したとき(a0=0.000868NAl+2.425)の傾きを表している。)
【0030】
(B) (Si/Al)計算式=(192−NAl)/NAl
(数式(B)において、(Si/Al)計算式はバルクのゼオライトにおける計算上のSiO/Alモル比であり、NAlは数式(A)により算出される単位格子あたりのAl原子数(個)であり、192はY型ゼオライトの単位格子寸法あたりのSi原子とAl原子の原子数の総数(個)である。)
【0031】
(C) ゼオライト内の全Al原子数に対するゼオライト骨格を形成するAl原子数の比(モル比)=(化学組成分析によるバルクのゼオライトのSiO/Alモル比)/(Si/Al)計算式
(数式(C)において、(Si/Al)計算式は数式(B)により算出されるバルクのゼオライトにおける計算上のSiO/Alモル比である。)
【0032】
本発明の接触分解触媒は、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%含むものであり、30〜45質量%含むものであることが好ましく、30〜40質量%含むものであることがより好ましい。
【0033】
ソーダライトケージ構造を有するゼオライトの含有量が20質量%以上であると、所期の分解活性を得ることができ、また、50質量%以下であると、粘土鉱物や結合剤の相対量を所望範囲にすることができることから、触媒強度や触媒の嵩密度を維持して、FCC装置を好適に運転することができる。
【0034】
(結合剤の加熱処理物)
本発明の接触分解触媒は、結合剤の加熱処理物を、酸化物換算で5〜40質量%含むものであり、10〜35質量%含むものであることが好ましく、20〜30質量%含むものであることがより好ましい。
【0035】
接触分解触媒中における結合剤の含有割合が5質量%以上であれば、触媒の強度が保たれるため、触媒の散飛、生成油中への混入等の好ましくない現象を回避することができ、また、40質量%以下であると、使用量に見合った触媒性能の向上が認められ、経済的に有利となる。
【0036】
本発明の接触分解触媒において、結合剤の加熱処理物としては、アルミナゾル、シリカゾル、第一リン酸アルミニウム等の結合剤の加熱処理物等が挙げられる。
【0037】
アルミナゾルとしては、塩基性塩化アルミニウム[Al(OH)Cl6−n(ただし、0<n<6、m≦10)、無定形のアルミナゾル、擬ベーマイト型のアルミナゾル、市販のアルミナゾル、更にジブサイト、バイアライト、ベーマイト、ベントナイト、結晶性アルミナを酸溶液中に溶解させた粒子等を使用することができるが、好ましくは塩基性塩化アルミニウムである。
アルミナゾルやシリカゾルも、加熱によって脱水され、水分を失うと、酸化物形態となって安定化する結合剤である。
【0038】
本出願書類において、接触分解触媒が結合剤の加熱処理物としてアルミナゾルやシリカゾルの加熱処理物を含有するものである場合、その含有割合は、アルミナゾルやシリカゾルを、それぞれ、Al換算およびSiO換算した割合を意味する。
また、本出願書類において、第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の含有割合は、第一リン酸アルミニウムをAl・3Pに換算した割合を意味する。
【0039】
本発明の接触分解触媒においては、結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で(Al・3P換算で)10〜76質量%である。
本発明の接触分解触媒において、結合剤の加熱処理物である第一リン酸アルミニウムの加熱処理物は、ゼオライトや粘土鉱物等からなる触媒の構成成分粒子間に存在して、成分同士を結合するとともに、触媒を微粒子化する際の成形性を向上させ、球状化を容易にするとともに、得られる触媒微粒子の流動性及び耐摩耗性を向上させる。
【0040】
第一リン酸アルミニウムは、一般式[Al(HPO]で示される水溶性の酸性リン酸塩であり、第一リン酸アルミニウム、モノリン酸アルミニウム又は重リン酸アルミニウムとも称される。
第一リン酸アルミニウムは加熱によって脱水され、水分を失うと、酸化物形態(リン酸アルミニウム酸化物(AlPO))となって安定化する。また、第一リン酸アルミニウムの加熱処理物であるリン酸アルミニウム酸化物は他のアルミニウム源と比較して、水溶液中で多核錯体のポリマーとして存在しており、表面に多量の水酸基を含有しているため、結合剤として強い結合力を発揮することができる。本発明の接触分解触媒は、この第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含むことによって、所期の高い磨耗強度を有することができる。
【0041】
本発明の接触分解触媒においては、結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が、酸化物換算で10〜76質量%であり、25〜70質量%であることが好ましく、40〜65質量%であることがより好ましい。
結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10質量%以上であることにより、リン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)を形成するために必要なリン原子量を確保することができ、ソーダライトケージを含むゼオライトもしくは粘土鉱物との結合力が得られるために高い磨耗強度を有する触媒を供することができる。
また、結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で76質量%以下であれば、他の結合剤の加熱処理物の存在に拘わらず、リン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)を形成するために十分なアルミニウム原子とリン原子を供し得るため、同様に高い磨耗強度を有する触媒を供することができる。
【0042】
(擬ベーマイト)
本発明の接触分解触媒は、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%含む。
ベーマイトは、アルミニウム酸化物と水酸化物からなる、[AlO(OH)]で表わされる化合物であり、天然ベーマイトを100℃付近の温度で処理したものや人工的に合成したベーマイトが、擬ベーマイトと総称され、FCC触媒やリフォーミング触媒等の石油精製触媒の原料として用いられている。
本発明の接触分解触媒は、酸処理された擬ベーマイトを含むことにより、該酸処理された擬ベーマイトが触媒中に分散し易くなり、触媒被毒物質である重金属と不動態を形成し易くなるため、ゼオライトを保護して触媒活性を向上し得るとともに、脱水素反応を抑制してコーク選択性を低減することができる。
【0043】
擬ベーマイトとしては、様々な表面積や密度、粒子径を有するものが存在するが、本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトの処理原料となる擬ベーマイトとしては、特に制限されない。
【0044】
本発明において、酸処理された擬ベーマイトとしては、擬ベーマイトを一価の酸で処理してなるものが好ましく、一価の酸で処理してなる擬ベーマイトとしては、塩酸、硝酸、酢酸、フッ化水素酸、臭化水素などで処理されてなるものを挙げることができ、これらのうち塩酸で処理されてなる擬ベーマイトが好適である。
【0045】
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトは、擬ベーマイトを一価の酸で処理してなるものであるとともに、接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量(接触分解触媒に供する擬ベーマイト量)をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、上記擬ベーマイトが、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理されてなるものであることが好ましい。
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトが、上記関係式(a)〜(d)を満たすように擬ベーマイトを酸処理してなるものであることにより、十分に酸処理された擬ベーマイトを供するとともに、触媒中に高分散することができる。
【0046】
また、上記擬ベーマイトが、以下の関係式
(a’)0.5≦x≦12、
(b’)0.5≦y≦8、
(c’)y<5x、
(d’)y≧0.1x
(xおよびyは上記と同様である。)
を満たすように酸処理されてなるものであることがより好ましい。
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトが、上記関係式(a’)〜(d’)を満たすように擬ベーマイトを酸処理してなるものであることにより、より酸処理された擬ベーマイトを供することができ、重金属との接触効率をより向上させて触媒活性を向上させることができる。
【0047】
また、上記擬ベーマイトが、以下の関係式
(a’’)1≦x≦10、
(b’’)1≦y≦5、
(c’’)y<5x、
(d’’)y≧0.1x
(xおよびyは上記と同様である。)
を満たすように酸処理されてなるものであることがさらに好ましい。
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトが、上記関係式(a’’)〜(d’’)を満たすように擬ベーマイトを酸処理してなるものであることにより、さらに酸処理された擬ベーマイトを供することができ、重金属との接触効率をさらに向上させて触媒活性等の触媒物性を向上させることができる。
【0048】
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトは、擬ベーマイトを所定時間酸処理してなるものであることが好ましい。
擬ベーマイトの酸処理時間が短すぎる場合、擬ベーマイトは十分に酸処理されず、本発明の効果を発揮することができず、擬ベーマイトの酸処理時間が長すぎる場合、擬ベーマイトが溶解してしまい、同様に本発明の効果を発揮することができなくなる。
このため、酸処理された擬ベーマイトは、処理される擬べーマイト量に従い、酸処理時間を調整してなるものであることが好ましく、接触分解触媒量を100質量%とした場合において、処理される擬ベーマイト量が0.1質量%以上6質量%未満である場合、1〜15分間酸処理してなるものが好ましく、1〜10分間酸処理してなるものがより好ましい。接触分解触媒量を100質量%とした場合において、処理されるベーマイト量が6質量%〜15質量%である場合、1〜20分間酸処理してなるものが好ましく、5〜20分間酸処理してなるものがより好ましい。
【0049】
本発明の接触分解触媒において、酸処理された擬ベーマイトは、擬ベーマイトを所定温度で酸処理してなるものであることが好ましく、擬ベーマイトを5〜50℃で酸処理してなるものが好適である。酸処理温度が5℃より低温の場合では擬ベーマイトを十分に酸処理してなるものを供することができず、また、50℃より高温の場合は酸処理が進んで擬ベーマイトが溶解してしまい、本発明の効果を発揮することができなくなる。
【0050】
本発明の接触分解触媒は、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%含むものであり、0.5〜12質量%含むものであることが好ましく、1〜10質量%含むものであることがより好ましい。
酸処理された擬ベーマイトの含有割合が上記範囲内にあることにより、酸処理された擬ベーマイトが触媒中に分散し易くなり、触媒被毒物質である重金属と不動態を形成し易くなるため、ゼオライトを保護して触媒活性を向上させるとともに、脱水素反応を抑制してコーク選択性を低減することができる。
【0051】
(粘土鉱物)
本発明の接触分解触媒は、粘土鉱物を10〜74.9質量%含む。
粘土鉱物としては、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等を挙げることができる。
また、本発明の接触分解触媒においては、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、シリカ−マグネシア、アルミナ−マグネシア、リン−アルミナ、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア−アルミナ等の通常の接触分解触媒に使用される公知の無機酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用することもできる。
【0052】
本発明の接触分解触媒は、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むものであり、10〜70質量%含むものであることが好ましく、15〜70質量%含むものであることがより好ましい。
粘土鉱物の含有割合が10質量%以上であることにより、触媒強度を向上させるとともに、触媒の嵩密度を維持して好適な装置運転を可能にする。また、粘土鉱物の含有割合が74.9質量%以下であることにより、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトや結合剤を一定割合で含有させて、初期の分解活性を維持し、触媒調製を容易に行うことができる。
【0053】
本発明の接触分解触媒は、必要に応じて、希土類金属、無機酸化物微粒子等を含んでもよい。
希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム等から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等のうち、ランタンまたはセリウムが好ましい。
本発明の接触分解触媒が希土類金属を含有することにより、ゼオライト結晶の崩壊を抑制し、触媒の耐久性を向上させることができる。
本発明の接触分解触媒は、希土類金属を0.1〜1質量%含むものであることが好ましい。
【0054】
本発明の接触分解触媒は、特定の組成からなるものであることから、高い分解活性を有し、接触分解反応時にガソリン、LCOを高収率で得ることができる。一般に炭化水素油の接触分解は、その性質上、僅かでも分解活性が向上すると、装置の運転コスト及び負担を大幅に低減させることができる。
また、本発明の接触分解触媒は、特定の組成からなるものであることから、副生成物であるコークの生成量を低減することができ、装置にかかる負荷を低減し、かつ、経済的に燃料油を製造することができる。
そして、本発明に係る接触分解触媒は、特定の組成からなるものであることから、高い磨耗強度を有し、炭化水素油の流動接触分解プロセスにおいて磨耗による触媒ロスを軽減でき、触媒使用量を低減できるだけでなく、微粒子の飛散による装置エロージョンや精留塔の不具合の発生等を軽減し、安定的にFCC装置を運用することを可能ならしめる。
【0055】
<炭化水素油の接触分解触媒の製造方法>
次に、本発明に係る炭化水素油の接触分解触媒の製造方法について説明する。
本発明に係る炭化水素油の接触分解触媒の製造方法は、
本発明に係る炭化水素油の接触分解触媒を製造する方法であって、
固形分換算したときに、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、
前記結合剤が第一リン酸アルミニウムを含み、前記結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜76質量%であり、
pHが2以上3以下である水性スラリーを、
加熱処理することを特徴とするものである。
【0056】
本発明の製造方法において、ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、第一リン酸アルミニウム等の結合剤、酸処理された擬ベーマイト、粘土鉱物の具体的な内容や、上記成分以外に触媒中に含み得る成分は、本発明の接触分解触媒の説明で述べたものと同様である。
【0057】
本発明の製造方法においては、固形分換算したときに、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、上記結合剤が第一リン酸アルミニウムを含み、前記結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜76質量%である水性スラリーを使用する。
【0058】
本発明の製造方法において、水性スラリー中に含有される、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトの割合は、固形分換算したときに、20〜50質量%であり、30〜45質量%であることが好ましく、30〜40質量%であることがより好ましい。
【0059】
水性スラリー中に含有されるソーダライトケージ構造を有するゼオライトの含有量が20質量%以上であると、得られる接触分解触媒に所期の分解活性を付与することができ、また、50質量%以下であると、得られる接触分解触媒における粘土鉱物や結合剤の含有量を所望範囲にすることができることから、触媒強度や触媒の嵩密度を維持して、FCC装置を好適に運転し得る接触分解触媒を得ることができる。
【0060】
本発明の製造方法において、水性スラリー中に含有される、結合剤の割合は、固形分換算したときに5〜40質量%であり、10〜35質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
本出願書類において、水性スラリー中に含有される、結合剤の割合は、酸化物換算した割合を意味し、水性スラリーが結合剤としてアルミナゾルやシリカゾルを含有するものである場合、その含有割合は、アルミナゾルやシリカゾルを、それぞれ、Al換算およびSiO換算した割合を意味する。
また、本出願書類において、水性スラリーが結合剤として含有する第一リン酸アルミニウムの含有割合は、第一リン酸アルミニウムをAl・3Pに換算した割合を意味する。
【0061】
水性スラリー中に含有される結合剤の割合が5質量%以上であれば、得られる触媒の強度が保たれるため、触媒の散飛、生成油中への混入等の好ましくない現象を回避することができ、また、40質量%以下であると、得られる触媒において使用量に見合った触媒性能の向上が認められ、経済的に有利となる。
【0062】
また、本発明の製造方法において、水性スラリーは、結合剤として第一リン酸アルミニウムを含み、結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で(Al・3P換算で)10〜76質量%であり、10〜70質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましい。
【0063】
結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10質量%以上であることにより、得られる接触分解触媒において、リン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)を形成するために必要なリン原子量を確保することができ、ソーダライトケージを含むゼオライトもしくは粘土鉱物との結合力が得られるために高い磨耗強度を有する触媒が得られる。
また、結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で76質量%以下であることにより、他の結合剤の存在に拘わらず、リン酸アルミニウム酸化物の結晶構造(AlPO)を形成するために十分なアルミニウム原子とリン原子を含有しているため、同様に高い磨耗強度を有する触媒を得ることができる。
【0064】
本発明の製造方法においては、水性スラリー中に含有される、酸処理された擬ベーマイトの割合が、固形分換算したときに、0.1〜15質量%であり、0.5〜12質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。
酸処理された擬ベーマイトの含有割合が上記範囲内にあることにより、酸処理された擬ベーマイトが触媒中に分散し易くなり、触媒被毒物質である重金属と不動態を形成し易くなるため、ゼオライトを保護して触媒活性を向上し得るとともに、脱水素反応を抑制してコーク選択性を低減することができる。
【0065】
本発明の製造方法においては、水性スラリー中に含有される、粘土鉱物の割合が、固形分換算したときに、10〜74.9質量%であり、10〜70質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましい。
【0066】
水性スラリー中に含有される、粘土鉱物の割合が10質量%以上であることにより、得られる触媒の強度を向上させるとともに、嵩密度を維持して好適な装置運転を可能にする触媒を得ることができる。また、水性スラリー中に含有される粘土鉱物の割合が74.9質量%以下であることにより、得られる触媒中にソーダライトケージ構造を有するゼオライトや結合剤を一定割合で含有させて、初期の分解活性を維持しつつ、容易に触媒調整することができる。
【0067】
上記各成分を溶解させ、水性スラリーを得る際に使用する溶媒としては、水および水を主成分とする水と水溶性の有機溶媒との混合溶液を挙げることができる。
【0068】
本発明の製造方法において、擬ベーマイトの酸処理に使用される酸としては、一価の酸が好ましい。一価の酸は多価の酸に比べ、ベーマイトの溶解を抑制することができ、また、酸強度が多価の酸に比べて弱いために触媒調製時にゼオライトの溶解も抑制することができる。
一価の酸としては、塩酸、硝酸、酢酸、フッ化水素酸、臭化水素などを挙げることができ、これ等の酸のうち、触媒調製時に洗浄処理によって容易に除去することができ、排水処理負担も軽減できることから、塩酸が好ましい。
【0069】
また、本発明の製造方法においては、酸処理された疑ベーマイトを得る工程として、擬ベーマイトを一価の酸で処理する工程をさらに含み、該工程が、
前記接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、前記擬ベーマイトを、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理する工程であることが好ましい。
本発明の製造方法において、上記関係式(a)〜(d)を満たすように擬ベーマイトを酸処理する工程をさらに含むことにより、十分に酸処理された擬ベーマイトを得ることができ、触媒中に高分散することができる。
【0070】
また、上記関係式(a)〜(d)に代えて、以下の関係式
(a’)0.5≦x≦12、
(b’)0.5≦y≦8、
(c’)y<5x、
(d’)y≧0.1x
(xおよびyは上記と同様である。)
を満たすように酸処理する工程をさらに含むことがより好ましく、
上記関係式(a)〜(d)に代えて、以下の関係式
(a’’)1≦x≦10、
(b’’)1≦y≦5、
(c’’)y<5x、
(d’’)y≧0.1x
(xおよびyは上記と同様である。)
を満たすように酸処理する工程をさらに含むことがさらに好ましい。
上記関係式(a)〜(d)に代えて、関係式(a’)〜(d’)を満たすように酸処理したり、関係式(a’’)〜(d’’)を満たすように酸処理することにより、より酸処理された擬ベーマイトを得ることができ、重金属との接触効率をより向上させ、触媒活性等の触媒物性を向上させた触媒を得ることができる。
【0071】
擬ベーマイトを酸処理する場合、処理される擬べーマイト量に従い、酸処理時間を調整することが好ましく、接触分解触媒量を100質量%としたときに、処理される擬ベーマイト量が0.1質量%以上6質量%未満である場合は、1〜15分間酸処理することが好ましく、1〜10分間酸処理することがより好ましい。接触分解触媒量を100質量%としたときに、処理される擬ベーマイト量が6質量%以上15質量%以下である場合は、1〜20分間酸処理することが好ましく、5〜20分間酸処理することがより好ましい。
擬ベーマイトの酸処理時間が短すぎる場合、擬ベーマイトは十分に酸処理されず、所望の触媒を得ることができなくなり、擬ベーマイトの酸処理時間が長すぎる場合、擬ベーマイトが溶解してしまい、同様に所望の触媒を得ることができなくなる。
【0072】
擬ベーマイトを酸処理する場合、所定温度で酸処理することが好ましく、5〜50℃で酸処理することが好適である。酸処理温度が5℃より低い場合、擬ベーマイトを十分に酸処理することができず、また、50℃より高い場合は酸処理が進んで擬ベーマイトが溶解してしまい、所望の触媒を得ることができなくなる。
【0073】
本発明の製造方法において、触媒構成成分を混合してなる水性スラリー中の固形分の割合は、約5〜60質量%になるように調整することが好ましく、10〜50質量%になるように調整することがより好ましい。固形分の割合が上記範囲内であれば、蒸発させる水分量が適当となり、噴霧乾燥工程などで支障をきたすことがなく、また、水性スラリーの粘度が高くなり過ぎて、水性スラリーの輸送が困難になることがない。
【0074】
本発明の製造方法において、水性スラリーのpHは2以上3以下である。
第一リン酸アルミニウムを含む水溶液は酸性が強く、つまりpHが低く、また第一リン酸アルミニウム以外に結合剤原料としてアルミナゾル等を使用する場合、アルミナゾル等も酸性の水溶液であるため、pHが低いほど均一な水性スラリーが形成されるが、pHが2未満ではソーダライトケージ構造を有するゼオライトを構成するアルミニウム原子が溶出し、安定化Y型ゼオライトの結晶性が低下したり、固体酸性が低下したりする現象が生じ、分解活性の低下につながる。
一方、水性スラリーのpHが3を超えると、水性スラリーがゲル化して、触媒化することが困難となる。
【0075】
本発明の製造方法において、水性スラリーの調製方法の一例を示すと、以下のとおりとなる。
先ず、塩基性塩化アルミニウムの水溶液に第一リン酸アルミニウムの水溶液を添加して、これらの成分が均一に分散してなる結合剤水溶液を調製する。次いで、この結合剤水溶液に所定の条件で酸処理を行った擬ベーマイトスラリーを添加する。得られた混合液に対し、ソーダライトケージを含むゼオライト及び粘土鉱物を混合容器内で混合し、これらの成分が均一に分散した水性スラリーを得る。この際、結合剤、ソーダライトケージを含むゼオライト及び粘土鉱物の含有割合が所望割合となるように調整する。
【0076】
本発明の製造方法において、上記水性スラリーは加熱処理される。
加熱処理は、pHを2以上3以下に調整した上記水性スラリーをそのまま処理するものであることが好ましく、加熱処理方法としては、噴霧乾燥方法が好ましい。
【0077】
水性スラリーの噴霧乾燥は、噴霧乾燥装置により、約200〜600℃のガス入口温度、及び約100〜300℃のガス出口温度で行うことが好ましく、上記噴霧乾燥は大気雰囲気下で行うことが好ましい。
上記噴霧乾燥により、微小球体(触媒あるいは触媒前駆体)を得ることができ、この微小球体は、通常、約20〜150μmの粒子径、及び約5〜30質量%の水分を含有している。
上記微小球体は、200℃以上で焼成し、焼成微小球体とすることもでき、また、噴霧乾燥装置で混合スラリーの噴霧乾燥を行う際、ガス出口温度を200℃以上に保つことができる設備を備えている場合には、噴霧乾燥処理と、噴霧乾燥処理により得られた微小粒子の焼成処理を連続して行うこともできる。
【0078】
上記のようにして得られた微小球体は、必要に応じて、公知の方法で洗浄処理し、引き続いてイオン交換処理を行い、各種の原料から持ち込まれる過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等を除去した後、乾燥し、目的とする触媒を得ることもできる。
なお、焼成微小球体に過剰のアルカリ金属や可溶性の不純物等が存在しない場合には、洗浄処理やイオン交換処理等を行うことなくそのまま目的とする触媒とすることもできる。
【0079】
上記洗浄処理は、具体的には、水あるいはアンモニア水を用いて行うことが好ましく、洗浄処理により可溶性不純物量を低減させることができる。また、イオン交換処理を行う場合、具体的には、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、ホスフィン酸アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムなどのアンモニウム塩の水溶液によって行うことが好ましく、このイオン交換処理によって微小球体に残存するナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を低減させることができる。
【0080】
本発明の製造方法においては、得られる接触分解触媒中のアルカリ金属を、乾燥触媒基準で、約1.0質量%以下にすることが好ましく、約0.5質量%以下にすることがより好ましい。また、得られる接触分解触媒中の可溶性不純物は、乾燥触媒基準で、約2.0質量%以下にすることが好ましく、約1.5質量%以下にすることがより好ましい。本発明の製造方法において、アルカリ金属や可溶性不純物の含有割合を上記質量割合まで低減させることにより、得られる触媒の触媒活性を高めることができる。
また、上記の洗浄処理及びイオン交換処理は、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、順序を逆にして行うこともできる。
【0081】
上記洗浄処理及びイオン交換処理を行う場合、洗浄処理およびイオン交換処理後に、得られた微小球体を約100〜500℃の温度で再度乾燥し、水分含有量を約1〜35質量%にして、目的とする触媒を得ることができる。
【0082】
上記洗浄処理及びイオン交換処理後、あるいは、上記洗浄処理及びイオン交換処理を行うことなく、必要に応じて、希土類金属によるイオン交換を行い、上記微小粒子に希土類金属を含有させてもよい。
【0083】
希土類金属を上記微小粒子に含有させる方法としては、上記のようにソーダライトケージを含むゼオライトを含有する焼成微小球体を希土類金属でイオン交換する方法の他、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトに予め上記希土類金属を担持させ、いわゆる金属修飾型のソーダライトケージ構造を有するゼオライトをなし、該金属修飾型のソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いて触媒を製造してもよい。
例えば、希土類金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の化合物の単独あるいは2種以上を含有する水溶液を、乾燥状態あるいは湿潤状態にあるソーダライトケージ構造を有するゼオライト、あるいは該ゼオライトを含有する触媒にイオン交換あるいは含浸させ、必要に応じて加熱することにより行うことができる。
【0084】
なお、希土類金属を含有させる方法が、予め金属修飾型にしたソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いる方法である場合、修飾型でないソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用いて触媒を製造する場合と同様にして、触媒を製造することができる。即ち、金属修飾型のソーダライトケージ構造を有するゼオライトを用い、結合剤や粘土鉱物等と共に水性スラリーを調製し、次いで該水性スラリーを噴霧乾燥し、微小球体にした後、必要に応じて、アルカリ金属の洗浄除去および触媒の焼成処理を行うことで、目的とする触媒を得ることができる。
また、上記触媒には、本発明の所期の効果が得られる限りにおいて、希土類以外の金属も含有させることができる。
【0085】
希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、ホルミウム等の1種以上を挙げることができ、これ等の希土類金属のうちランタンまたはセリウムが好ましい。接触分解触媒に希土類金属を含有させると、ゼオライト結晶の崩壊を抑制することができ、触媒の耐久性を高めることができる。
また、希土類金属の含有量は、0.1〜1質量%であることが好ましい。
【0086】
本発明の製造方法によれば、分解活性が高く、コーク選択性が低いとともに、磨耗強度が高い本発明に係る炭化水素油の接触分解触媒を簡便に製造することができる。
本発明の製造方法で得られる炭化水素油の接触分解触媒の態様の詳細は、上述したとおりである。
【0087】
<炭化水素油の接触分解方法>
次に、本発明の炭化水素油の接触分解方法について説明する。
本発明の炭化水素油の接触分解方法は、本発明の炭化水素油の接触分解触媒または本発明の製造方法で得られた炭化水素油の接触分解触媒と炭化水素油とを接触させることを特徴とするものである。
本発明の接触分解方法において、接触分解される炭化水素油としては、ガソリンの沸点以上の温度で沸騰する炭化水素油(炭化水素混合物)を挙げることができる。
このガソリン沸点以上の温度で沸騰する炭化水素油としては、原油の常圧あるいは減圧蒸留で得られる軽油留分や常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油等を挙げることができ、もちろんコーカー軽油、溶剤脱瀝油、溶剤脱瀝アスファルト、タールサンド油、シェールオイル油、石炭液化油、GTL(Gas to Liquids)油、植物油、廃潤滑油、廃食油等も挙げることができる。 更に、上記炭化水素油としては、当業者に周知の水素化処理、即ちNi−Mo系触媒、Co−Mo系触媒、Ni−Co−Mo系触媒、Ni−W系触媒などの水素化処理触媒の存在下、高温・高圧下で水素化脱硫した水素化処理油も挙げることができる。
【0088】
商業的規模での炭化水素油の接触分解処理は、通常、垂直に据え付けられたクラッキング反応器と触媒再生器との2種の容器からなる接触分解装置に、上記触媒を連続的に循環させることにより行うことができる。
すなわち、触媒再生器から供給される高温の再生触媒を、クラッキング反応器中で炭化水素油と混合して接触させ、上記触媒をクラッキング反応器の上方向に導きつつ、炭化水素油を分解する。次いで、上記炭化水素油を接触分解することにより表面に析出したコークによって失活した触媒を、分解生成物から分離し、ストリッピング後、触媒再生器に供給する。触媒再生器に供給された失活した触媒は、該触媒上のコークを空気燃焼により除去、再生した後、再びクラッキング反応器に循環する。
一方、接触分解反応により得られたクラッキング反応器内の分解生成物は、ドライガス、LPG、ガソリン留分、LCO、HCOあるいはスラリー油のような1種以上の留分に分離する。もちろん、分解生成物から分離したLCO、HCO、スラリー油のような重質留分の一部あるいは全部を、クラッキング反応器内に再循環させて分解反応をさらに進めてもよい。
【0089】
クラッキング反応器の運転条件としては、反応温度が約400〜600℃であることが好ましく、約450〜550℃であることがより好ましく、反応圧力が常圧〜0.5MPaであることが好ましく、常圧〜0.3MPaであることがより好ましく、触媒/炭化水素油の質量比が約2〜20であることが好ましく、約4〜15であることがより好ましい。
クラッキング反応器における反応温度が400℃以上であると、炭化水素油の分解反応が進行して、分解生成物を好適に得ることができる。また、クラッキング反応器における反応温度が600℃以下であると、分解により生成するドライガスやLPGなどの軽質ガス生成量を軽減することができ、目的物のガソリン留分の収率を相対的に増大させることができるため経済的である。
クラッキング反応器における反応圧力が0.5MPa以下であると、モル数が増加する分解反応の進行が阻害されにくい。また、クラッキング反応器における触媒/原料炭化水素油の質量比が2以上であると、クラッキング反応器内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料炭化水素油の分解が好適に進行する。クラッキング反応器における触媒/原料炭化水素油の質量比が20以下である場合も、炭化水素油の分解反応が効果的に進行し、触媒濃度の上昇に見合った分解反応を進行させることができる。
【0090】
本発明の接触分解方法は、本発明の接触分解触媒または本発明の方法で得られた接触分解触媒を用いるものであるため、ガソリンやLCOを高収率で得ることができる。
一般に炭化水素油の接触分解は、その性質上、僅かでも分解活性が向上すると装置の運転コスト及び負担を大幅に低減させることができるため、本発明の接触分解方法を好適に適用することができる。
また、本発明の接触分解方法は、本発明の接触分解触媒または本発明の方法で得られた接触分解触媒を用いるものであるため、副生成物であるコークの生成量を低減することができ、装置にかかる負荷を低減し、かつ、経済的に燃料油を製造することができる。
そして、本発明の接触分解方法は、本発明の接触分解触媒または本発明の方法で得られた接触分解触媒を用いるものであるため、触媒が高い磨耗強度を有し、炭化水素油の接触分解時に磨耗による触媒ロスを軽減でき、触媒使用量を低減できるだけでなく、微粒子の飛散による装置エロージョンや精留塔の不具合の発生等を軽減し、安定的にFCC装置を運用することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらは例示であって、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0092】
実施例1
ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとして、表1の物性を有する安定化Y型ゼオライトを使用した。
【0093】
【表1】

【0094】
なお、上記化学組成分析によるバルクのSiO/Alモル比は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定したものである。また、上記単位格子寸法は、X線回折装置(Rigaku社製、RINT2500)を用いて測定したものである。さらに、上記ゼオライト内の全Al原子数に対するゼオライト骨格を形成するAl原子数の比(モル比)は、上述した数式(C)により算出したものである。
【0095】
また、結合剤として第一リン酸アルミニウム(Al・3P濃度41.5質量%)および塩基性塩化アルミニウム(Al濃度24.6質量%)、粘土鉱物としてカオリナイトを、それぞれ使用するとともに、擬ベーマイトとして、表2に示す物性を有するSasol社製Catapal Bを使用した。
【0096】
【表2】

【0097】
上記第一リン酸アルミニウム24.0g(乾燥基準)を蒸留水で希釈し、得られた希釈液を塩基性塩化アルミニウム18.0g(乾燥基準)含有する水溶液に加えて攪拌し、第一リン酸アルミニウムを含む結合剤水溶液を調製した。
次いで、触媒基準で(得られる接触分解触媒量を100質量%とした場合に)1質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に上記擬ベーマイトを2.0g(乾燥基準)添加し、5分間攪拌した後に攪拌液を上記結合剤水溶液に添加した。
一方、上記表1の物性を有する安定化Y型ゼオライト80.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。
上記の結合剤水溶液に、カオリナイト76.0g(乾燥基準)を加えて混合し、更に上記のゼオライトスラリーを添加して、更に10分間混合して水性スラリー(pH2.7)を得た。
次いで、噴霧乾燥装置(大川原化工機(株)製FOC−20)を用いて、上記水性スラリーを、210℃の入口温度、140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、触媒前駆体である微小球体を得た。
60℃の蒸留水2リットル(以下、「L」と記す)に上記触媒前駆体を入れ、アンモニア水を滴下して可溶性の不純物を取り除いた後、60℃の5質量%硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換し、更に3Lの蒸留水で洗浄し、乾燥機中、110℃で一晩乾燥処理することにより触媒A200gを得た。
【0098】
実施例2
擬ベーマイト添加量を14.0g(乾燥基準)、カオリナイトの混合量を64.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.8にした以外は、実施例1と同様にして、触媒B200gを得た。
【0099】
実施例3
擬ベーマイト添加量を20.0g(乾燥基準)、カオリナイトの混合量を58.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.6にした以外は、実施例1と同様にして、触媒C200gを得た。
【0100】
実施例4
触媒基準で5質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを14.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を64.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.4にした以外は、実施例1と同様にして、触媒D200gを得た。
【0101】
実施例5
触媒基準で5質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを20.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を58.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.4にした以外は実施例1と同様にして触媒E200gを得た。
【0102】
実施例6
触媒基準で5質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを22.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を56.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.4にした以外は実施例1と同様にして、触媒F200gを得た。
【0103】
実施例7
触媒基準で8質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを4.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を74.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.2にした以外は実施例1と同様にして、触媒G200gを得た。
【0104】
実施例8
触媒基準で8質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを14.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を64.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.2にした以外は実施例1と同様にして、触媒H200gを得た。
【0105】
実施例9
触媒基準で9質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを24.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を54.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.3にした以外は実施例1と同様にして、触媒I200gを得た。
【0106】
実施例10
触媒基準で15質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを6.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を72.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.1にした以外は実施例1と同様にして、触媒J200gを得た。
【0107】
実施例11
触媒基準で15質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを30.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を48.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.1にした以外は実施例1と同様にして、触媒K200gを得た。
【0108】
実施例12
触媒基準で2質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを30.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を48.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.5にした以外は実施例1と同様にして、触媒L200gを得た。
【0109】
実施例13
触媒基準で9質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを4.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を74.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.3にした以外は実施例1と同様の方法にして、触媒M200gを得た。
【0110】
実施例14
触媒基準で9質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを14.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を64.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.3にした以外は実施例1と同様にして、触媒N200gを得た。
【0111】
実施例15
触媒基準で10質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを24.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を54.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.2にした以外は実施例1と同様にして、触媒O200gを得た。
【0112】
実施例16
触媒基準で5質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを26.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を52.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.4にした以外は実施例1と同様にして、触媒P200gを得た。
【0113】
実施例17
安定化Y型ゼオライトの使用量を40.0g(乾燥基準)とし、カオリナイトの混合量を116.0gとし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.6にした以外は実施例1と同様にして、触媒Q200gを得た。
【0114】
実施例18
安定化Y型ゼオライトの使用量を100.0g(乾燥基準)とし、カオリナイトの混合量を56.0gとした以外は実施例1と同様にして、触媒R200gを得た。
【0115】
実施例19
第一リン酸アルミニウムの使用量を4.2g(乾燥基準)とし、塩基性塩化アルミニウムの使用量を37.8g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.6にした以外は実施例1と同様にして、触媒S200gを得た。
【0116】
実施例20
第一リン酸アルミニウムの使用量を31.6g(乾燥基準)、塩基性塩化アルミニウムの使用量を10.4g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.6にした以外は実施例1と同様にして、触媒T200gを得た。
【0117】
実施例21
第一リン酸アルミニウムの使用量を5.8g(乾燥基準)、塩基性塩化アルミニウムの使用量を4.2g(乾燥基準)、カオリナイトの混合量を108.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.6にした以外は実施例1と同様にして、触媒U200gを得た。
【0118】
実施例22
第一リン酸アルミニウムの使用量を45.8g(乾燥基準)、塩基性塩化アルミニウムの使用量を34.2g(乾燥基準)、カオリナイトの混合量を38.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.2にした以外は実施例1と同様にして、触媒V200gを得た。
【0119】
比較例1
酸処理された擬ベーマイトを添加せず、カオリナイトの混合量を78.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.8にした以外は実施例1と同様にして、触媒1を200g得た。
【0120】
比較例2
触媒基準で15質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを40.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を38.0g(乾燥基準)とした以外は実施例1と同様にして、触媒2を得ようとしたところ、触媒調製スラリーがゲル化し、触媒2を得ることができなかった。
【0121】
比較例3
触媒基準で10質量%の塩酸を含む塩酸水溶液100g中に擬ベーマイトを40.0g(乾燥基準)添加し、カオリナイトの混合量を38.0g(乾燥基準)とした以外は実施例1と同様にして、触媒3を得ようとしたところ、触媒調製スラリーがゲル化し、触媒3を得ることができなかった。
【0122】
比較例4
第一リン酸アルミニウムを添加せず、塩基性塩化アルミニウムの使用量を42.0g(乾燥基準)とし、噴霧乾燥に供した水性スラリーのpHを2.5にした以外は実施例1と同様にして、触媒4を200g得た。
【0123】
<触媒一覧>
上記各実施例で得た触媒の組成および擬ベーマイトの酸処理条件を表3に纏めて示す。また、上記各比較例で得た触媒の組成および擬ベーマイトの酸処理条件を表4に纏めて示す。
表3および表4において、各成分量は最終的に得られた触媒組成物に含まれる割合で示し、ゼオライト、結合剤、ベーマイト、粘土鉱物は乾燥基準での値を示している。
なお、結合剤の含有割合は触媒組成物に含まれる酸化物換算の割合、すなわち、第一リン酸アルミニウム[Al(HPO]は酸化物であるAl・3Pで、塩基性塩化アルミニウム[Al(OH)Cl6−n(ただし、0<n<6、m≦10)は酸化物であるAlでの換算値をそれぞれ示している。
また、上記実施例および比較例で得た触媒中において、第一リン酸アルミニウムはリン酸アルミニウム酸化物結晶の形態になっていることを確認した。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
<流動接触分解>
上記の実施例1〜22で調製した触媒A〜Vと、比較例1、4で調製した触媒1、4を、反応容器と触媒再生器とを有する流動床式接触分解装置であるベンチスケールプラントを用い、同一原料油、同一測定条件のもとで接触分解特性を試験した。また、比較例2および比較例3においては触媒2および触媒3を得ることができなかったので、これらの触媒については評価できなかった。
なお、試験に先立ち、上記各触媒について、実際の使用状態に近似させるべく、即ち平衡化させるべく、500℃にて5時間乾燥した後、各触媒に対し、ニッケル及びバナジウムの吸着量がそれぞれ1000質量ppm、2000質量ppmとなるようにナフテン酸ニッケル、ナフテン酸バナジウムを含むシクロヘキサン溶液を吸収させ、乾燥し、500℃で5時間の焼成を行った後、各触媒を100%水蒸気雰囲気中、785℃で6時間処理した。
続いて、上記実際の使用状態に近似させた触媒を用いて、表5に記載の反応条件で、表6に記載の性状を示す炭化水素油(脱硫減圧軽油(VGO)50質量%+脱流残油(DDSP)50質量%)の接触分解反応を行った。
【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】
得られた分解生成油は、Agilent technologies社製 AC Simdis Analyzerを用いてガスクロ蒸留法にて解析し、Dry Gas(C1、C2化合物)、LPG(C3、C4化合物)、ガソリン(沸点25〜190℃)、LCO(沸点190〜350℃)、HCO(沸点350℃以上)の生成物量を解析した。また、Cokeの生成量は再生塔におけるCOおよびCO濃度より解析、算出した。
【0130】
また、上記測定結果から、触媒/原料油(C/O)の質量比が5である場合における、触媒の分解活性を示す転化率(Conv.(質量%(wt%)))を、100%−LCOの質量%−HCOの質量%により算出した。結果を表7および表8に示す。
また、触媒/原料油(C/O)が3、4、5、6である場合の測定結果を用い、回帰分析した結果から、転化率が65%である場合の触媒/原料油の質量比(Catalist−to−oil、wt/wt)と、各留分の選択性(各留分の生成量、質量%)を算出した。結果を表7および表8に示す。
【0131】
さらに、上記の実施例1〜22で調製した触媒A〜Vと、比較例1および比較例4で調製した触媒1および触媒4を、触媒化成技報 Vol.13 No.1(1996)に記載の条件をもとに自社設計した磨耗強度測定装置を使用して、同一条件のもとで磨耗強度を測定した。なお、比較例2および比較例3においては触媒2および触媒3を得ることができなかったので、これらの触媒については評価できなかった。
磨耗強度の測定方法は次のとおりである。即ち、実施例及び比較例で得た各触媒を500℃で5時間乾燥処理を行った後、乾燥重量45gを測りとり、5gの添加水を加えた後、磨耗強度測定装置に導入し、ついで触媒管の流速を0.104m/secになるように、窒素供給量を調整し、測定開始から12時間までに飛散した微粒子の量を初期磨耗量(Initial Fines)とし、12〜42時間までに飛散した微粒子の量(g)を平均磨耗量(Average Attririon Rate)とする測定を行った。なお、磨耗強度の計算は、平均磨耗量を磨耗強度測定装置への充填量45gで割り、100をかけたパーセントにて表現しており、その値が小さいほど磨耗強度に優れていることを示す。結果を表7および表8に示す。
【0132】
【表7】

【0133】
【表8】

【0134】
表7より、実施例1〜22で得られた触媒A〜触媒Vは、分解活性が高く、コーク選択性が低く、磨耗強度が高いものであることが分かる。
これに対して、表8より、擬ベーマイトを添加していない比較例1で得られた触媒1は、転化率が低く、コーク選択性が高いことから、接触分解プロセス上、経済的に不利になるものであることが分かる。また、比較例2および比較例3では目的とする触媒2および触媒4が得られなかったため、評価することができなかった。さらに、第一リン酸アルミニウムを添加していない比較例4で得られた触媒4は、コーク選択性が高く、摩耗強度に劣り、装置運転上、経済的に不利になるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、分解活性が高く、コーク選択性が低いとともに、磨耗強度が高い炭化水素油の接触分解触媒を提供することができる。また、本発明によれば、上記炭化水素油の接触分解触媒の製造方法および炭化水素油の接触分解方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤の加熱処理物を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、
前記結合剤の加熱処理物が第一リン酸アルミニウムの加熱処理物を含み、前記結合剤の加熱処理物全体に占める第一リン酸アルミニウムの加熱処理物の割合が酸化物換算で10〜76質量%である
ことを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒。
【請求項2】
前記酸処理された擬ベーマイトが、擬ベーマイトを一価の酸で処理してなるものであり、
前記接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、前記擬ベーマイトが、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理されてなるものである請求項1に記載の炭化水素油の接触分解触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の炭化水素油の接触分解触媒を製造する方法であって、
固形分換算したときに、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトを20〜50質量%、結合剤を酸化物換算で5〜40質量%、酸処理された擬ベーマイトを0.1〜15質量%、粘土鉱物を10〜74.9質量%含むとともに、
前記結合剤が第一リン酸アルミニウムを含み、前記結合剤全体に占める第一リン酸アルミニウムの割合が酸化物換算で10〜76質量%であり、
pHが2以上3以下である水性スラリーを、
加熱処理することを特徴とする炭化水素油の接触分解触媒の製造方法。
【請求項4】
前記酸処理された疑ベーマイトを得る工程として、擬ベーマイトを一価の酸で処理する工程をさらに含み、該工程が、
前記接触分解触媒の量を100質量%とした場合に、前記処理される擬ベーマイトの量をx質量%とし、前記一価の酸の量をy質量%とすると、前記擬ベーマイトを、以下の関係式
(a)0.1≦x≦15、
(b)0.5≦y≦15、
(c)y<5x、
(d)y≧0.1x
を満たすように酸処理する工程である
請求項3に記載の炭化水素油の接触分解触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1もしくは請求項2に記載の炭化水素油の接触分解触媒または請求項3もしくは請求項4に記載の方法で得られた炭化水素油の接触分解触媒と炭化水素油とを接触させることを特徴とする炭化水素油の接触分解方法。

【公開番号】特開2011−67734(P2011−67734A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219332(P2009−219332)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】