説明

炭化水素油の脱硫方法

【課題】 本発明は、特定の脱硫剤を用い、特定の条件下で炭化水素油を長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 炭化水素油とニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤とを、水素の存在下で、反応温度100〜400℃、反応圧力0.2〜5.0MPa、及び液空間速度(LHSV)が2.0h−1を超え50.0h−1以下の条件下で接触する炭化水素油の脱硫方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油中の硫黄分を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀の自動車及びその燃料においては環境問題への対応が大きな課題であり、地球温暖化ガスであるCO排出削減とNOx等のいわゆる自動車排出ガス削減との両方の観点から、燃料の硫黄分低減が益々求められている。具体的には、ガソリンや軽油の硫黄分は、近い将来サルファー・フリー(硫黄分10質量ppm以下)に規制され、さらに低硫黄分、すなわちゼロ・サルファー(硫黄分1質量ppm以下)の燃料油も求められている。
【0003】
従来、主に用いられてきた脱硫技術である水素化脱硫方法をそのまま用い、ガソリンや軽油などの燃料油に残存する硫黄化合物を除去して硫黄分10質量ppm以下、さらには1質量ppm以下にすることは、高温・高圧な反応である水素化脱硫反応を従来よりもさらに高温・高圧での操作が求められるため、エネルギー消費が大きくなり、また、水素消費量なども膨大になる。空間速度を下げてマイルドな条件で反応させようとすれば、膨大な触媒量を要する。いずれにせよ多大なコストアップとなることは避けられない。さらに、ガソリン基材については、オレフィン分まで水素化されてしまうためにオクタン価のロスが大きい。
【0004】
中軽質油を水素の存在下、酸化亜鉛にニッケルを担持した触媒を用いて、特定の条件下脱硫する方法が、開示されている(特許文献1参照)。しかし、この方法は液空間速度(LHSV)が0.1〜2h−1と低く、通油量が限定されてしまったり、またはリアクターが大きくなったりして経済的とはいえず好ましくない。
【0005】
一方、炭化水素油を、特定の条件下、吸着剤と接触させて硫黄化合物を吸着させる工程と、吸着剤に水素を通気させることにより吸着剤から硫黄化合物を脱離する工程を繰り返すことにより、オレフィンの水素化反応など不要な反応を抑制し、ガソリンの基材となる炭化水素油に含まれる硫黄分を連続的に低減する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このような吸着剤を用いる方法も、水素非存在下であることや、原料油に含有される特定の炭化水素化合物によるため、硫黄の吸着能が阻害されて硫黄分を効率よく継続的に低減することができず、必ずしも満足できる方法ではない。
【0006】
また、硫黄分が5〜10質量ppmの水素化精製油を水素化触媒の存在下で深度水素化処理して、硫黄分を5質量ppm以下の深度水素化精製軽油を得、この深度水素化精製軽油と未精製油及び/又は水素化精製油を原料とし、水素化精製触媒の存在下に硫黄分5質量ppm以下、全芳香族分が3〜12容量%或いは10容量%以下の軽油組成物を製造する方法が、開示されている(特許文献3、4参照)。しかし、この方法は深度水素化処理において、2〜10MPaという高圧水素存在下で反応を行うことや、0.1〜2h−1という低いLHSVが必要であるため大きな反応器を要することや、芳香族分をほとんど水素化してしまうため水素消費量がかなり大きいことから、経済的な製造といった観点からは問題がある。また、全芳香族分が12容量%以下まで低減されているために密度が低下し、発熱量が低減するため燃費の悪化や出力低下が起こり、さらには、燃料噴射系で使用しているシールゴム部材等への影響により、燃料の漏れ(リーク)等も懸念される。
【0007】
これに対して、本出願人は、先に吸着脱硫によって芳香族分をほとんど減らすことなく軽油中の硫黄分を10質量ppm以下に低減する方法を見出した(特許文献5)。しかし、この吸着脱硫では硫黄を取り込む能力が低く、長期間にわたって運転を行う場合には頻繁に再生処理を行う必要があり経済的ではない。
【特許文献1】特許第2961585号公報
【特許文献2】特開2003−277768号公報
【特許文献3】特開2004−269683号公報
【特許文献4】特開2004−269685号公報
【特許文献5】国際公開第03/097771号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、炭化水素油の硫黄分を10質量ppmさらには、1質量ppm以下まで、長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫する方法は未だ確立されていない。本発明は、特定の脱硫剤を用い、特定の条件下で炭化水素油を長期間にわたって安定にかつ経済的に脱硫する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、炭化水素油を特定の条件のもと、特定の多孔質脱硫剤によって処理することで、長期間安定的に硫黄分を低減できることを見出しこの発明に至った。
すなわち、本発明は、ニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤と炭化水素油を、水素の存在下で、温度100〜400℃、圧力0.2〜5.0MPa、液空間速度(LHSV)が2.0h−1を超え50.0h−1以下の条件下で接触させる炭化水素油の脱硫方法である。
【0010】
本発明の炭化水素油の脱硫方法は、活性が低下した脱硫剤を水素処理によって活性を回復させて繰り返し使用することが好ましい。また、本発明の炭化水素油の脱硫方法に用いる多孔質脱硫剤は、ニッケル含有量が33質量%以下、及び亜鉛含有量が30質量%以上であり、かつ、亜鉛含有量に対するニッケル含有量の比率(質量)が0.5以下であることが好ましい。
さらに、本発明の炭化水素油の脱硫方法は、炭化水素油と多孔質脱硫剤とが接触するリアクター2基以上に直列に通油し、炭化水素油と多孔質脱硫剤とが最初に接触するリアクターの出口における生成油の硫黄分が接触前の炭化水素油の硫黄分の5%以上になった場合に、あるいは、最初に接触するリアクターの出口における生成油の硫化水素濃度が10質量ppm以上になった場合に、あるいは、最初に接触するリアクターの出口における生成油の硫黄分が0.5質量ppm以上になった場合に炭化水素油と多孔質脱硫剤とが最初に接触していたリアクターをオンオイル系から切り離して、炭化水素油と多孔質脱硫剤とが最初に接触するリアクターを2番目以降に接触していたリアクターに切り替える脱硫方法である。なお、硫黄分及び硫化水素濃度は、特別に断らない限り、硫黄(S)換算された値である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱硫方法をガソリン、軽油などの炭化水素油の脱硫に適用すると、硫黄分10質量ppm以下、さらには1質量ppm以下まで脱硫された油を長期間安定的にかつ経済的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔炭化水素油〕
本発明による脱硫方法の対象となる原料の炭化水素油は硫黄分を含む炭化水素油であれば特に限定されないが、硫黄分を2質量ppm以上含むものが好ましく、より好ましくは2〜1000質量ppm、特に好ましくは2〜100質量ppm、さらに好ましくは2〜40質量ppm含むものである。硫黄分が1000質量ppmを超えると脱硫剤の寿命が短くなり好ましくない。
【0013】
原料の炭化水素油としては、具体的には、製油所などで一般的に生産されるLPG留分、ガソリン留分、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分などに相当する基材が挙げられる。LPG留分は、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンなどを主成分とする燃料ガスおよび工業用原料ガスである。通常は、LPG(液化石油ガス)と称されるように、加圧下の球状タンクに液相の状態で貯蔵されるか、大気圧に近い状態で、液相で低温貯蔵される。ガソリン留分は、一般に炭素数4〜11の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.783g/cm以下、10%留出温度が24℃以上、90%留出温度が180℃以下である。ナフサ留分は、ガソリン留分の構成成分(ホールナフサ、軽質ナフサ、重質ナフサ、又はそれらの水素化脱硫ナフサ)あるいはガソリン基材を製造する接触改質の原料(脱硫重質ナフサ)となる成分などの総称であり、沸点範囲がガソリン留分と殆ど同じ範囲か、ガソリン留分の沸点範囲に包含されるものである。したがって、ガソリン留分と同じ意味で用いられることも多い。灯油留分は、一般に沸点範囲150〜280℃の炭化水素混合物である。軽油留分は、一般に沸点範囲190〜350℃の炭化水素混合物である。
また、原料の炭化水素油は、製油所などで生産されるものには限らず、硫黄分を2〜1000質量ppm含有し、さらに脱硫したものであれば、石油化学から生産される石油(炭化水素)ガスや前記と同様な沸点範囲を有する留分でも構わない。好ましく使用できる炭化水素油として、重質油を熱分解、又は接触分解して得られた炭化水素をさらに分留したものが挙げられる。
【0014】
〔多孔質脱硫剤〕
本発明の多孔質脱硫剤は、ニッケルと亜鉛を含むものである。本発明におけるニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤の製造方法は特に限定されないが、アルミナのような多孔質担体に亜鉛やニッケルなどの金属成分を含浸、担持して焼成する製造方法や、あるいは共沈法によって亜鉛やニッケルなどの金属成分を沈殿させてろ過洗浄し、成形、焼成等の工程を経る製造方法が、好ましい方法として挙げられる。特に好ましいのは、共沈法であり、脱硫に有効なニッケルと亜鉛を脱硫剤中に多く含ませることができ脱硫剤の長寿命化を達成できる。ニッケルと亜鉛以外にも、鉄、銅等の他の元素を含んで構わないがニッケルと亜鉛は必須成分である。例えば、銅亜鉛系の脱硫剤を用いた場合、ガソリン中に多く含まれるチオフェン類や灯軽油中に多く含まれるベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類を長期間にわたって脱硫することが困難である。亜鉛含有量に対するニッケル含有量の比(質量)は0.5以下、好ましくは0.35以下、特には0.02〜0.5である。亜鉛含有量に対するニッケル含有量の比(質量)が0.5を超えると多孔質脱硫剤の寿命が著しく短くなり好ましくない。
【0015】
脱硫剤総質量に対するニッケル含有量は33質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。また、脱硫剤総質量に対する亜鉛含有量は30質量%以上であり、好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上である。ニッケル含有量が33質量%を超えたり、亜鉛含有量が30質量%未満であったりすると、多孔質脱硫剤の寿命が短くなり好ましくない。
さらに、本発明に用いる脱硫剤は、ナトリウム含有量が脱硫剤総質量に対して1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらには0.2質量%以下である。ナトリウムが脱硫剤総質量に対して1.0質量%を超えて含まれると脱硫性能が低下するため好ましくない。
好ましい脱硫剤は、ニッケル、亜鉛などの金属成分を0.5〜85質量%、特には1〜80質量%含有する。また、成形、焼成された脱硫剤にさらに金属成分を含浸、担持して、焼成してもよい。脱硫剤は、水素雰囲気下で処理して用いるのが好ましい。脱硫剤の比表面積は、好ましくは30m/g以上、特には50〜600m/gである。
【0016】
本発明の多孔質脱硫剤とは、硫黄収着機能を持った多孔質脱硫剤が好ましい。ここでいう硫黄収着機能を持った多孔質脱硫剤とは、有機硫黄化合物中の硫黄原子を脱硫剤に固定化するとともに、有機硫黄化合物中の硫黄原子以外の炭化水素残基については、有機硫黄化合物中の炭素−硫黄結合が開裂することによって脱硫剤から脱離させる機能をもった多孔質脱硫剤をいう。この炭化水素残基が脱離する際には、硫黄との結合が開裂した炭素に、系内に存在する水素が付加する。したがって、有機硫黄化合物から硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が生成物として得られることになる。ただし、硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が、さらに水素化、異性化、分解等の反応を受けた生成物を与えることがあっても構わない。一方、硫黄は脱硫剤に固定化されるため、水素化精製処理とは異なり、生成物として硫化水素などの硫黄化合物を発生しない。そのため水素をリサイクルして使用する場合、硫化水素を除去する設備が不要となり、経済的に有用である。
【0017】
〔脱硫装置〕
本発明のニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤による脱硫処理においては、脱硫剤中に硫黄が取り込まれニッケルおよび亜鉛が硫化物に変化する。これら硫化物は水素化脱硫触媒として作用し硫化水素が発生する場合もあるが、ニッケルおよび亜鉛が完全に硫化物でない場合はニッケルまたは亜鉛と結合して硫黄として取り込まれるので、生成油中に硫化水素が含まれることはない。ただし、ニッケルおよび亜鉛が完全に硫化物になると硫黄の取り込み能力がなくなるので、本発明のニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤は触媒としてのみ作用し、生成油中に硫化水素が含まれてしまう。これを防ぐため以下に示すようなシステムで脱硫を行うことが好ましい。
【0018】
2つ以上のリアクターに直列に通油できる装置を用い、原料炭化水素油を直接通油していたリアクター出口の生成油中に硫化水素が認められたら、原料炭化水素油を直接通油するリアクターを別のリアクターに切り替えるという方式が好ましい。2つのリアクターを用いる場合について、図1(a)〜(d)に基づいて切り替え操作手順を説明する。なお、図1(a)にのみ符号を付した。図1(b)〜(d)においても、部材は全て対応する符号であるが、煩雑になるので、これらの図には符号の付与を省略した。
【0019】
図1(a)は、リアクターA(7)とリアクターB(8)にこの順序で直列に通油するケースである。原料炭化水素油は、原料炭化水素油供給配管1、バルブ11をとおり、直接リアクターA(7)に供給され、脱硫剤に硫黄分が取り込まれ脱硫される。次いでリアクターA(7)を出た反応混合物は、リアクターA(7)の出口配管2、第1の切替配管3、バルブ15を通って、リアクターB(8)に通油され、脱硫剤に硫黄分が取り込まれ、さらに脱硫される。リアクターA(7)及びリアクターB(8)で脱硫された炭化水素油は、リアクターB(8)の出口配管4、バルブ14を通って系外に移送される。なお、図1のバルブ11〜16において、黒く塗りつぶしたバルブは、閉じたバルブを示し、白抜きのバルブは開いたバルブを示す。
【0020】
リアクターA(7)の出口配管2で得られる油に硫化水素が10質量ppm以上、より好ましくは5質量ppm以上、さらに好ましくは1質量ppm以上認められた場合、あるいは硫黄分が原料炭化水素油硫黄分の5%以上(すなわち、原料炭化水素油の硫黄分をX質量ppm、1番目のリアクター出口の炭化水素油中の硫黄分をY質量ppmとしたとき、(Y/X)×100の値が5以上)、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上になった場合、あるいは硫黄分が0.5質量ppm以上、好ましくは1質量ppm以上になったら、バルブ12を開き、バルブ11及び15を閉じて、原料炭化水素油を直接リアクターB(8)に通油し、リアクターB(8)のみで脱硫を行う(図1(b)参照)。リアクターの出口における反応生成油中の硫黄分が原料炭化水素油の硫黄分の5%未満だと、多孔質脱硫剤への硫黄取り込み容量が最大限利用できず好ましくない。リアクターB(8)のみで脱硫を行なっている間、リアクターA(7)に充填されていた脱硫剤は水素による活性回復処理を行うか、あるいは新しい脱硫剤に交換する。脱硫剤の活性回復処理は、リアクターA(7)に充填したまま、いわゆるオンサイトで行ってもよいし、リアクターA(7)から抜き出してオフサイトで行うこともできる。新しい脱硫剤に交換した場合は水素による還元処理を行う。
【0021】
水素による処理が終わったら、バルブ16及び13を開き、バルブ14を閉じて、原料炭化水素油を、リアクターB(8)からリアクターA(7)の順序で直列に通油する(図1(c)参照)。
【0022】
リアクターB(8)の出口配管4で得られる油に硫化水素が10質量ppm以上、より好ましくは5質量ppm以上、さらに好ましくは1質量ppm以上認められた場合、あるいは硫黄分が原料炭化水素油硫黄分の5%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上になった場合、あるいは硫黄分が0.5質量ppm以上、好ましくは1質量ppm以上になったら、バルブ11を開き、バルブ12及び16を閉じて、原料炭化水素油を直接リアクターA(7)に通油し、リアクターA(7)のみで脱硫を行う(図1(d)参照)。その間に、リアクターB(8)に充填されていた脱硫剤は水素による活性回復処理あるいは新しいものに交換する。新しい脱硫剤に交換した場合は水素による還元処理を行う。
【0023】
この操作を繰り返すことで、すなわち、活性回復処理した、あるいは新しい脱硫剤に交換した活性の高いリアクターは、常に、運転中のリアクターの後段に配置され、前段に充填された脱硫剤の硫黄取り込み能力を最大限に使うことから、生成油中に硫化水素が入ることなく、連続的に脱硫を行うことができる。また、3塔以上の脱硫リアクターに対しても同様の考え方を適用できる。
【0024】
〔脱硫反応条件〕
本発明の炭化水素油を多孔質脱硫剤と接触させる条件としては、反応温度が100〜400℃であり、好ましくは200〜350℃、特に好ましくは250〜350℃である。反応温度が100℃未満であると、脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。また、反応温度が400℃を超えると、脱硫剤がシンタリングし脱硫容量が低下し好ましくない。
反応圧力はゲージ圧で0.2〜5.0MPa、好ましくは0.5〜3.0MPa、特に好ましくは0.5〜2.0MPaである。反応圧力が0.2MPa未満だと脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。反応圧力が5.0MPaを超えると、炭化水素油中に含まれるオレフィン分や芳香族分の水素化等の副反応が進行し好ましくない。
【0025】
LHSVは2.0h−1を超え50.0h−1以下であり、好ましくは2.0h−1を超え20.0h−1以下であり、特に好ましくは2.0h−1を超え10.0h−1以下である。LHSVが2.0h−1以下だと、通油量が制限されたり、脱硫リアクターが大きくなりすぎたりするため、経済的に脱硫できず好ましくない。LHSVが50.0h−1を超えると脱硫するのに十分な接触時間が得られず、脱硫率が低下するため好ましくない。
水素/油比は特に限定しないが、好ましくは1〜1000NL/L、より好ましくは10〜500NL/Lであり、特に好ましくは10〜300NL/Lである。
水素としては、メタン等の不純物を含んでいてもよいが、水素コンプレッサーが大きくなりすぎないよう、水素純度は50容量%以上が好ましく、さらには80容量%以上、特には95%以上が好ましい。水素中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれると脱硫剤の寿命が低下するので、水素中の硫黄分は、1000容量ppm以下が好ましく、さらには100容量ppm以下、特には10容量ppm以下が好ましい。
【0026】
〔活性回復処理〕
本発明に使用するニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤は、水素処理によって活性回復させることができる。水素処理によって、なぜ活性が回復するのか、そのメカニズムは必ずしも明確ではないが、次のようにして活性が回復されるものと推察される。炭化水素油中の硫黄化合物の多くはニッケル上で脱硫され、すなわち、硫黄原子はまずニッケルに取り込まれる。ニッケルに取り込まれた硫黄原子は水素の存在下で亜鉛に移動する。ニッケルから亜鉛への硫黄の移動速度が十分でない状況(反応温度が低い、水素分圧が低い、水素/油比が低い)では、ニッケルと亜鉛に対する硫黄取り込み量が化学量論量に達する前に、大きく脱硫性能が低下してしまう。このような場合、水素処理をすることによって活性を回復させることができる。水素処理において、ニッケルから亜鉛への硫黄の移動が促進されて活性が回復されるものと推察される。活性回復中は硫化水素が発生しないことからも、ニッケルから亜鉛に硫黄の移動が起きるだけと考えられる。
【0027】
活性回復処理に用いる水素ガスは、通常コンプレッサーによってリサイクル使用される。メタン等の不純物を含んでいてもよいが、水素コンプレッサーが大きくなりすぎないよう、水素純度は50容量%以上が好ましく、さらには80容量%以上、特には95%以上が好ましい。水素中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれると脱硫剤の寿命が低下するので、1000容量ppm以下が好ましく、さらには100容量ppm以下、特には10容量ppm以下が好ましい。硫化水素濃度は、リサイクルガスの循環ラインに公知の硫化水素洗浄装置を設けて除去したり、あるいはパージガスの量を制御したりして調整することができる。処理温度としては200〜400℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。処理圧力は、特に限定されるものではないが、0.1〜1.0MPaが好ましい。
ただし、ニッケルと亜鉛に硫黄が化学量論量まで取り込まれ、完全に硫化物となってしまった脱硫剤は、水素処理を行っても活性はほとんど回復しない。このような場合には、過熱されないように酸素濃度をコントロールして、硫黄化合物を酸化(燃焼)してSOガスとしてニッケルや亜鉛から切り離して活性を取り戻すことができる。脱硫剤として使用する際には、新品の脱硫剤を用いる場合と同様に、通油前に水素による還元処理を行う。
【0028】
以下に、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0029】
炭酸ナトリウム106gを水に溶かした溶液を60℃に加温し、これに硝酸亜鉛六水和物214gを水に溶かした溶液に硝酸ニッケル六水和物23gを加えたものを滴下した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成し脱硫剤Aを得た。脱硫剤Aはニッケル含有量が6.9質量%、亜鉛含有量が71.0質量%、ナトリウム含有量が0.01質量%であった。また、亜鉛に対するニッケルの割合は9.7質量%であった。リアクターXおよびリアクターYに脱硫剤Aを等量充填し、それぞれを水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。
【0030】
n−ヘプタンに2−メチルチオフェンを混合し炭化水素油を調製した。この炭化水素油の硫黄分は913質量ppmであった。
リアクターXとリアクターYが直列となるよう(リアクターXが前段、リアクターYが後段)に流路を設定し、反応温度300℃、反応圧力1.0MPa、水素/油比=450NL/L、リアクターXのLHSV=10.0h−1、リアクターYのLHSV=10.0h−1の条件下、炭化水素油をリアクターXの入口から通油を開始した。この時間を0時間とする。51時間後のリアクターX出口生成油の硫黄分は0.12質量ppmであり、リアクターY出口生成油硫黄分は0.10質量ppm以下であった。78時間後のリアクターX出口における生成油硫黄分は91質量ppm、生成油中の硫化水素濃度は硫黄(S)として6.6質量ppmであったが、リアクターY出口における生成油硫黄分は0.10質量ppm以下、生成油中の硫化水素濃度は0.10質量ppm以下であった。79時間後に、炭化水素油の通油をリアクターYのみにした。リアクターYのみに炭化水素油を通油している間、リアクターXの使用済み脱硫剤を抜き出し、脱硫剤Aを充填し、水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。105時間後のリアクターY出口生成油の硫黄分は0.20質量ppmであった。110時間後にリアクターYとリアクターXが直列となるよう(リアクターYが前段、リアクターXが後段)に流路を変更した。151時間後のリアクターY出口生成油の硫黄分は85質量ppm、生成油中の硫化水素濃度は4.3質量ppmであったが、リアクターY出口における生成油硫黄分は0.10質量ppm以下、生成油中の硫化水素濃度は0.10質量ppm以下であった。
なお、硫黄分は、ASTM D 5453(紫外蛍光法)に準拠して測定した。生成油中の硫化水素濃度は、化学発光によって硫黄化合物を選択的に検出、定量するANTEK製硫黄化学発光検出器を備えた島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。オレフィン分は、ヒューレットパッカード社製PIONA装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。
【実施例2】
【0031】
炭酸ナトリウム106gを水に溶かした溶液を60℃に加温し、これに硝酸亜鉛六水和物179gを水に溶かした溶液に硝酸ニッケル六水和物58gを加えたものを滴下した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成し脱硫剤Bを得た。脱硫剤Bはニッケル含有量が17.9質量%、亜鉛含有量が58.7質量%、ナトリウム含有量が0.02質量%であった。また、亜鉛に対するニッケルの割合は30.4質量%であった。リアクターに脱硫剤Bを充填し水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。
反応温度300℃、反応圧力1.0MPa、水素/油比=450NL/L、LHSV=10.0h−1の条件下、実施例1で調製した炭化水素油をリアクターに通油した。40時間後の生成油の硫黄分は0.44質量ppmであり、56時間後の生成油の硫黄分は6.1質量ppmであった。
【比較例1】
【0032】
炭酸ナトリウム106gを水に溶かした溶液を60℃に加温し、これに硝酸亜鉛六水和物119gを水に溶かした溶液に硝酸ニッケル六水和物116gを加えたものを滴下した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成し脱硫剤Cを得た。脱硫剤Cはニッケル含有量が35.9質量%、亜鉛含有量が40.8質量%、ナトリウム含有量が0.28質量%であった。亜鉛に対するニッケルの割合は88.0質量%であった。リアクターに脱硫剤Cを充填し水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。
実施例1で調製した炭化水素油を用い、実施例1と同様の方法で炭化水素油を通油した。8時間後の生成油の硫黄分は40.5質量ppmであった。
【比較例2】
【0033】
炭酸ナトリウム106gを水に溶かした溶液を60℃に加温し、これに硝酸亜鉛六水和物119gを水に溶かした溶液に硝酸銅六水和物97gを加えたものを滴下した。得られた沈殿物をろ過した後、水で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成し脱硫剤Dを得た。脱硫剤Dは銅含有量が39.5質量%、亜鉛含有量が39.6質量%、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であった。リアクターに脱硫剤Cを充填し水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。
実施例1で調製した炭化水素油を用い、実施例1と同様の方法で炭化水素油を通油した。12時間後の生成油の硫黄分は169質量ppmであった。
【実施例3】
【0034】
中東系原油の減圧軽油留分を水素化精製処理したものを主たる原料油として、流動接触分解して得られた接触分解ナフサを、酸化型のスイートニング装置によって処理した後、分留して得られる重質分を脱硫処理し、接触分解重質ナフサを得た。この接触分解重質ナフサは硫黄分が17質量ppm、オレフィン分が11.0容量%であった。リアクターに実施例2にて調製した脱硫剤Bを充填し、水素気流中350℃で16時間還元処理を行った。反応温度300℃、反応圧力0.5MPa、LHSV=2.1h−1、水素/油比=20NL/Lの条件下、接触分解重質ナフサをリアクターに559時間通油した。559時間通油した時点での生成油硫黄分は0.58質量ppm、オレフィン分は10.5容量%であった。
リアクターから接触分解重質ナフサを除去後、300℃、1MPaの条件下16時間水素気流中で活性回復処理を行った。
【0035】
再び、接触分解重質ナフサをリアクターに通油し、反応温度300℃、反応圧力0.1MPa、LHSV=2.1h−1、水素/油比=20NL/Lの条件にて接触分解重質ナフサを121時間通油した。121時間通油した時点における生成油中の硫黄分は1.18質量ppm、オレフィン分は10.7容量%であった。
再び、リアクターを前述の条件(300℃、1MPa)で活性回復処理を行った。その後、再度、接触分解重質ナフサをリアクターに、反応温度300℃、反応圧力0.5MPa、LHSV=2.1h−1、水素/油比=20NL/Lの条件下で3,742時間通油した。30時間通油した時点での生成油硫黄分は0.30質量ppm、オレフィン分は10.0容量%、3,742時間通油した時点での生成油硫黄分は0.55質量ppm、オレフィン分は10.6容量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】リアクター切り替え操作手順を説明する概要図であり、リアクター周りのフロー、バルブの切り替えを示す。図1(a)はリアクターAからBに直列で通油するフローを示す。図1(b)はリアクターBにのみ通油し、リアクターAをオンオイル系からアイソレートした状態を示す。図1(c)はリアクターBからAに直列で通油するフローを示す。図1(d)はリアクターAにのみ通油し、リアクターBをオンオイル系からアイソレートした状態を示す。
【符号の説明】
【0037】
1 原料炭化水素油供給配管
2 リアクターAの出口配管
3 第1の切替配管
4 リアクターBの出口配管
5 第2の切替配管
6 生成油移送配管
7 リアクターA
8 リアクターB
11〜16 切替バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素油とニッケルと亜鉛を含む多孔質脱硫剤とを、水素の存在下で、反応温度100〜400℃、反応圧力0.2〜5.0MPa、及び液空間速度(LHSV)が2.0h−1を超え50.0h−1以下の条件下で接触することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
【請求項2】
活性が低下した多孔質脱硫剤を水素処理によって活性を回復し、繰り返し使用する請求項1に記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項3】
多孔質脱硫剤は、ニッケル含有量が33質量%以下、及び亜鉛含有量が30質量%以上であり、かつ、亜鉛含有量に対するニッケル含有量の比(質量)が0.5以下である請求項1または2に記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項4】
多孔質脱硫剤を保持するリアクター2基以上に直列に炭化水素油を通油し、炭化水素油が最初に通油されるリアクターの出口における反応生成油中の硫黄分が通油前の炭化水素油の硫黄分の5%以上になった場合に、炭化水素油を最初に通油していたリアクターをオンオイル系から切り離して、炭化水素油を最初に通油するリアクターを2番目以降に通油していたリアクターに切り替える請求項1〜3の何れかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項5】
多孔質脱硫剤を保持するリアクター2基以上に直列に炭化水素油を通油し、炭化水素油が最初に通油されるリアクターの出口における反応生成油中の硫化水素濃度が硫黄分として10質量ppm以上になった場合に炭化水素油を最初に通油していたリアクターをオンオイル系から切り離して、炭化水素油を最初に通油するリアクターを2番目以降に接触していたリアクターに切り替える請求項1〜3の何れかに記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項6】
多孔質脱硫剤を保持するリアクター2基以上に直列に炭化水素油を通油し、炭化水素油が最初に通油されるリアクターの出口における反応生成油中の硫黄分が0.5質量ppm以上になった場合に、炭化水素油を最初に通油していたリアクターをオンオイル系から切り離して、炭化水素油を最初に通油するリアクターを2番目以降に通油していたリアクターに切り替える請求項1〜3の何れかに記載の炭化水素油の脱硫方法。

【図1】
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