説明

炭化水素流を完全に水素化するための方法及び装置

本発明は、軽アルカンを触媒使用による脱水素によりアルケンを製造するために、プラントの脱水素反応器への炭化水素流を完全に水素化する方法、及びこの方法を実施するための装置を提供する。脱水素反応器への炭化水素流全体は、原料アルカン及び再循環アルカンからなり、脱水素反応器の上流で、その中に存在する全不飽和炭化水素の完全水素化処理に付される。これにより、脱水素反応器のコークス生成を著しく減少させることができる。反応剤流の反応温度への予備加熱に必要なエネルギーは、発熱水素化で放出されるエネルギーが炭化水素流に実質的に完全に留まっているので、減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽アルカンを触媒使用による脱水素によりアルケンを製造するために、プラントの脱水素反応器への炭化水素流を完全に水素化する方法、及びこの方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二、三十年前まで、プロピレン及びイソブテン等のアルケンは、主に、例えば、スチームクラッカーによるエチレン等の製造における副生物として得られるものであった。しかしながら、このような方法では、特定のアルケン/エチレン比を超えることは不可能である。プロピレンについては、その限界値は、例えば約0.65である。例えば、プロピレンの市場は、最近の二、三十年では、エチレン市場より一層強力に発展しており、このため上昇する要求に応えるために、この物質を工業的規模で製造する新規な方法を見いだすことが必要となっている。精製所のクラッキングガスからのアルケン回収に加えて、重要な方法は、脱水素、即ち水素脱離であることが分かった。この場合、例えば、経済的に価値ある方法で、プロピレンはプロパンから得られ、イソブテンはイソブタンから得られる。
【0003】
最近の二,三年では、軽アルカンの工業的脱水素のための種々の方法が開発され、そのいくつかは工業的規模で実施されてきている。例えば、UOP Oleflex, Lummus Catofin, Linde PDH, Snamprogetti/Yarsintez FBD 及びPhilips STAR 法を挙げることができる。
【0004】
これらの全ての相違について、上述の方法は、共通の基本原理を有し、それはプロパン脱水素化の図を参照して説明されるであろう。これは他のアルカンの脱水素にも有効である。
【0005】
供給される原料プロパンは、まずC3/C4分離段階(1)で精製され、通常不純物として存在するようなより重い構成成分(C4+)が除去され、そして反応温度に予備加熱(2)した後、触媒で促進される吸熱的脱水素反応が進行する反応器(3)に供給される。熱力学的及び処理技術的理由により、50%と70%の間のプロパンが化学的変化(転化)すること無く反応器に残る。これらの方法のどれも100%選択率を持たない、即ち、化学反応に含まれるプロパン分子から、所望のプロピレン生成物(C38⇒C36+H2)に加えて、他の物質もある割合(<20%)で形成される。例えば、クラッキング反応により形成されるCH4及びC24、2重脱水素により形成されるアセチレン及びジオレフィン(主としてメチルアセチレン及びプロパジエン)、及び異種の長鎖オリゴマーの混合物であるグリーンオイルを挙げることができる。この混合物は、数個の処理工程(4)によって留分に分離される。軽い留分(C2-)、グリーンオイル及びプロピレンはこのプロセスから排出され;プロパンは再循環され、C3/C4分離段階(1)の上流で新たに供給されるプロパンと混合される。
【0006】
時間の経過と共に、コークスの付着(堆積)が、脱水素反応器内の触媒を不活性にするので、それを燃焼除去して再び活性化する必要がある。付着するコークスの量が少なければ少ないほど、活性化の複雑さ及び費用のレベルが低下する。オレフィンに加えて、コークスの生成に特に寄与するものは、高不飽和成分(例、アセチレン及びジオレフィン)であり、これらは脱水素反応器(原料プロパン及び再循環物)への炭化水素流に存在する。別の否定的側面は、炭化水素流中の不飽和成分の存在の結果として生じる脱水素反応選択率の低下のため、プロピレン収率が低下することである。このため、上述の方法では、プロパンの再循環の前に、アセチレンとジオレフィンを選択的水素化によりプロピレンに転化するか、或いは完全水素化によりプロパンに転化する。水素化装置は、異なる地点で、プラントに組み込まれる。例えば、Olfex法の一態様では、選択的水素化は、脱水素反応器(5)から離れた液体生成物流において行われ、一方、別の態様では、プロパン再循環物は完全な水素化(6)に付される。Linde PDH法では、選択的水素化は、プロパンの再循環の直前に、C3スプリッタの底部で実施される(即ち、液相(6)におけると同様に)。
【0007】
上述の方法を選択的水素化に使用する場合、少量のプロピレンがプロパン再循環物に、及びこのため脱水素反応器への炭化水素流に存在する。供給原料中に存在し得る不飽和成分と共に、このプロピレンのために上述の不都合な現象がもたらされ、この方法の経済的価値を低下させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、冒頭に記載された方法を設定し、及びこの方法を、軽アルカンを脱水素化するプラントの脱水素反応器への炭化水素流の全不飽和成分を経済的価値ある方法で除去する様に実施するための装置をも設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
方法において、この目的は、脱水素反応器へ流れる炭化水素流全体の不飽和成分全部を完全に(十分に)水素化する工程を実施する本発明により達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に描かれた基本原理に従い、脱水素反応器への炭化水素流(原料アルカン及び再循環アルカン)の完全水素化を、好ましくは分離工程(1)の後及び予備加熱(2)の前に、気相において行う。このため、水素を炭化水素流に予備混合し、その後適当な触媒上に導かれる。触媒床において、それが予備加熱段階に入ると、実質的に主成分であるアルカンと過剰の水素が炭化水素流に存在する状態で、水素化発熱反応が進行する。
【0011】
完全な水素化は、一般に、化学量論的条件ではなく、水素過剰の条件で実施することが好ましい。結果として、水素量を調節しない場合でさえ、水素化は、操作条件を変更しながらいつでも完結まで進行し得る。炭化水素流の不飽和成分の含有量が上昇した場合、水素化で放出されるエネルギーが増加する。どんな場合も、炭化水素流は予備加熱して反応温度を上昇させる必要があるので、この効果は不利ではない。
【0012】
過剰の水素は炭化水素流から除去されない。このため、不飽和成分の含有量の減少により、炭化水素流のより強力な水素希釈の結果がもたらされるが、このことはより高い選択率及びグリーンオイルの生成の抑制をもたらす。さらに、水素の過剰は水素化反応器の運転時間を延ばすことができる。
【0013】
発熱完全水素化において放出されるエネルギーは、脱水素反応器(3)への炭化水素流を予備加熱するために直接利用することができる。従って、プラントの予備加熱段階(2)で必要なエネルギーは、低下する。このため、炭化水素流を、水素化反応器の出口で適宜冷却されることはなく;その代わり、水素化を断熱条件で行うことが好ましい。結果として、放出された全てのエネルギーは、実質的に流内に保持される。
【0014】
本発明は、さらに、軽アルカンを触媒使用による脱水素によりアルケンを製造するために、プラントの脱水素反応器への炭化水素流を水素化する装置に関する。
【0015】
装置において、本発明の目的は、好ましくは、分離装置(1)の下流及び予備加熱段階(2)の上流に配置された装置において、脱水素反応器へ流れる炭化水素流全体を、その中に存在する不飽和成分全部を完全に水素化する処理を行うことにより達成される。
【0016】
水素化が、水素が過剰な全ての操作条件にて、そして極端な場合でも決して水素不足とならない化学量論的条件にて行うように、水素流を調節し得る水素供給素子(機能)を用いて、炭化水素流を完全に水素化する装置が好ましい。
【0017】
水素化反応器は、適宜、断熱反応器として設計される。即ち、反応器は、吸熱反応中に放出されたエネルギーを除去する装置を備えていない。その代わりに、反応器は、放出されたエネルギーが炭化水素流に実質的に完全に留まることを保証する断熱材を適宜備えている。水素化エネルギーは、脱水素化に必要な反応温度への、反応剤流の予備加熱に部分的に寄与する。
【0018】
実際の予備加熱段階に要求されるエネルギーは、結果として、従来技術に比較して低いので、後者は、より小さく、そしてより廉価に設計することができる。
【0019】
本発明の装置を使用することにより、従来技術の状態、例えばプロパン脱水素化用の工業的規模のプラントのような、選択的に水素化する装置、或いは再循環物を完全に水素化する装置の設置を省くことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の基本原理を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽アルカンを触媒使用による脱水素によりアルケンを製造するために、プラントの脱水素反応器へ流れる炭化水素流を完全に水素化する方法であって、
脱水素反応器へ流れる炭化水素流全体の不飽和成分全部を完全に水素化する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
完全な水素化を、全て水素が過剰な操作条件で行い、極端な場合でも決して水素不足とならない化学量論的条件にて行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
完全な水素化を気相で行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水素化発熱反応で放出されたエネルギーを水素化流に実質的に保持し、それを脱水素反応温度に予備加熱するためのエネルギーの一部に利用する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アルカンとしてプロパンを使用し、生成物としてプロピレンを得る請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
軽アルカンを触媒使用による脱水素によりアルケンを製造するために、プラントの脱水素反応器に流れる炭化水素流を完全に水素化する装置であって、
脱水素反応器の上流に配置された装置において、脱水素反応器へ流れる炭化水素流全体を、その中に存在する不飽和成分全部を完全に水素化する処理に付すことを特徴とする装置。
【請求項7】
完全水素化装置が、操作条件を変更する場合でさえ、完全水素化を、水素過剰の条件或いは決して水素不足とならない化学量論的条件にて行うことができるように調節され得る調節可能な水素供給素子を備えている請求項6に記載の装置。
【請求項8】
完全水素化装置が断熱反応器として作製されている請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
完全水素化装置がガス流処理用として設計されている請求項6〜8のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−520603(P2008−520603A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541781(P2007−541781)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012284
【国際公開番号】WO2006/053733
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】