説明

炭化水素用脱硫剤及びその製造方法、炭化水素の脱硫方法並びに燃料電池システム

【課題】本発明は、水素非共存下であっても炭化水素、特に灯油中の硫黄分を低濃度(20質量ppb程度)まで除去する脱硫性能を有し、耐久性に優れ、且つ製造工程が簡略化可能な炭化水素用脱硫剤を提供することを目的とする。
【解決手段】脱硫剤全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、3〜40質量%の酸化亜鉛と、酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子とを含み、ニッケル原子の還元度が50〜80%であり、脱硫剤単位質量当りの水素吸着量が3.5〜4.6ml/gであることを特徴とする炭化水素用脱硫剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素、とりわけ燃料電池などの原燃料に使用される炭化水素用の脱硫剤及びその製造方法、並びに燃料電池システム用炭化水素用脱硫剤の製造方法に関する。また本発明は前記脱硫剤を用いて硫黄化合物を含有する炭化水素を脱硫する方法、さらに前記脱硫剤を用いた炭化水素の脱硫装置を備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術のひとつとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、燃料の燃焼反応による自由エネルギー変化を直接電気エネルギーとして取り出すことができるため、高いエネルギー効率が得られるという特徴がある。さらに有害物質を排出しないことも相俟って、様々な用途への展開が図られている。特に固体高分子形燃料電池は出力密度が高く、コンパクトで、しかも低温で作動可能との特徴がある。
【0003】
一般的に燃料電池用の燃料ガスとしては水素を主成分とするガスが用いられるが、この水素を含む燃料ガスを得るための原燃料として、天然ガス、LPG、ナフサ、灯油等の炭化水素、あるいはメタノール、エタノール等のアルコール、若しくはジメチルエーテル等のエーテルなどが用いられる。これら炭素と水素とを含む原燃料を水蒸気と共に触媒上で改質反応を行う、酸素含有気体で部分酸化反応を行う、あるいは水蒸気と酸素含有気体が共存する系において自己熱回収型の改質反応を行うことにより、水素と一酸化炭素とを含むガスを生成せしめ、さらに一酸化炭素を低減あるいは除去する工程を経て、燃料電池用の燃料とすることが一般的である。
【0004】
しかし、これらの原燃料、特に石油由来の原燃料中には不純物として、あるいは天然ガス等の場合には漏洩検出のための着臭剤として、硫黄化合物が存在することが多く、これらの原燃料を使用した場合には、燃料電池用燃料水素中に硫黄含有化合物が混入することが避けられない。燃料電池用燃料水素を製造するための原燃料改質、一酸化炭素除去の各工程、さらに陰極の電極触媒としては貴金属又は銅などの金属を還元状態で使用することが多く、このような状態の金属触媒に対して、硫黄化合物は触媒毒として作用し、水素製造工程又は電池そのものの触媒活性を低下させ、電池としての効率を低下させてしまうという問題がある。従って、原燃料中に含まれる硫黄分を十分に除去することが、水素製造工程に用いられる触媒、さらには電池の電極触媒を本来の性能にて長時間安定して使用可能ならしめるために必要不可欠である。
【0005】
燃料電池用原燃料中の硫黄分濃度は、改質工程に用いる触媒が十分機能する程度まで低減する必要があることから、原燃料中の硫黄分を除去する脱硫工程は、基本的に水素製造工程の前に設けられる。従来は脱硫工程にて処理された原燃料中の硫黄分濃度は、硫黄原子として0.1質量ppm以下あるいは0.05質量ppm(50質量ppb)以下と言われてきたが、近年、脱硫の要求性能は厳しくなっており、0.02質量ppm(20質量ppb)以下とすることが求められるようになってきた。
【0006】
これまで、燃料電池用原燃料の脱硫方法としては、水素化脱硫触媒を用いて難脱硫性有機硫黄化合物を水素化脱硫して、一旦吸着除去し易い硫化水素に変換し、適当な吸着剤で処理する方法が適していると思われてきた。しかし、一般的な水素化脱硫触媒は高い水素圧力を必要とするのに対し、燃料電池システムにおける圧力は大気圧か、高くても1MPa程度の圧力とする技術開発を目指しているため、従来の水素化脱硫触媒を用いた脱硫工程を採用できないのが現状である。
【0007】
このため燃料電池発電システムの開発においては、低圧、あるいは水素非共存下においても十分に脱硫機能を発現することができる脱硫剤について研究が行われ、ニッケルを無機担体に担持した脱硫剤が提案されている。そしてその脱硫活性及び寿命を向上する検討が種々行われ、例えば下記特許文献1には、全ニッケル含有量に対して95%以上の金属ニッケルを含有する脱硫剤が開示されている。また、下記特許文献2には、ニッケル成分の80モル%以上が金属状態であり、かつ金属結晶子径が4.0nm以下である脱硫剤が開示されている。また、下記特許文献3には、ニッケルと銅が担体に担持され、ニッケルの60%以上が金属であり、かつ水素吸着量が0.15mmol/g以上である脱硫剤が開示されている。これらの先行技術において、活性金属としてニッケルのみを用いた場合、脱硫性能を高めるために必要な、高いニッケルの還元度(全ニッケル含有量に対する金属ニッケル量の比率)及び良好なニッケル金属粒子の分散を両立させることは困難であり、ニッケルと共に銅を活性金属として用いている。ところで、家庭用燃料電池システムにおいては、「Daily Start−up Shut−down (DSS)運転」と呼ばれる、1日単位で起動と停止が繰り返される運転が想定される。この運転に伴い、同システムに使用される脱硫剤は、昇温/降温の繰り返し熱履歴を受けることとなる。前記の担持されたニッケル−銅を活性金属とする脱硫剤は、前記熱履歴により金属粒子が容易に凝集し、脱硫性能が短期間のうちに低下するという問題を有している。そこで、銅を含まない脱硫剤の開発が望まれている。
【0008】
一方、本出願人は、酸化ニッケル、酸化亜鉛、シリカを含有し、炭素析出が抑制され、高活性、長寿命の灯油用脱硫剤について特許出願している(下記特許文献4参照)。しかし、より高い性能、長寿命に対する市場のニーズに対し、更なる性能の向上が望まれている。
【0009】
また、下記特許文献5には、シリカ担体に担持されたニッケル炭酸塩あるいはニッケルヒドロキシ炭酸塩を含むニッケル化合物、アルミナ助触媒及びアルカリ土類金属化合物の助触媒を含有する触媒吸着剤が開示され、該触媒吸着剤は従来の脱硫剤に比較してより低温での還元処理により活性化可能であるとの記載がある。しかし、好ましい還元温度は400℃と依然として高温であり、それにより得られる脱硫剤の性能も更なる改良が望まれる。
【0010】
更に、従来の燃料電池システム用の脱硫剤は、その前駆体を還元処理して活性化する際の温度が高温であることに起因して、その製造工程が煩雑となり、製造コストが増加していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−279259号公報
【特許文献2】特開2005−146054号公報
【特許文献3】特開2004−75778号公報
【特許文献4】特開2008−115309号公報
【特許文献5】特表2006−501065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、炭化水素を原料とする燃料電池システムにおいて、従来の脱硫剤を用いた脱硫工程にあっては、低圧、特に水素非共存下に、その後の燃料水素の製造工程及び発電工程が長時間安定して運転可能な程度に十分な脱硫を、長時間維持することが困難であった。そこで、炭化水素中の硫黄分を十分に除去可能であり、且つ長時間にわたりその脱硫性能を維持することが可能であり、更に製造工程が簡略化可能である脱硫剤の開発が望まれていた。
【0013】
本発明は、水素非共存下であっても炭化水素、特に灯油中の硫黄分を低濃度(20質量ppb程度)まで除去する脱硫性能を有し、耐久性に優れ、且つ製造工程が簡略化可能な炭化水素用脱硫剤を提供することを目的とする。また、前記脱硫剤の製造方法、並びに前記脱硫剤を用いた炭化水素の脱硫方法、さらには前記脱硫剤を使用した炭化水素を原燃料とし用いる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる課題について鋭意研究した結果、特定の性状を有する炭化水素用脱硫剤の前駆体を特定の条件により焼成処理及び/又は還元処理することにより、従来の技術では得られなかった構造をもち、優れた脱硫性能及び耐久性を有する炭化水素用脱硫剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明のある態様は、脱硫剤全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、3〜40質量%の酸化亜鉛と、酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、を含み、ニッケル原子の還元度が50〜80%であり、脱硫剤単位質量当りの水素吸着量が3.5〜4.6ml/gであることを特徴とする炭化水素用脱硫剤である。
【0016】
上述した態様の炭化水素用脱硫剤においては、多孔性無機酸化物がシリカ又はアルミナであることが好ましい。
【0017】
また、上述した態様の炭化水素用脱硫剤においては、シリカがアルミニウムで修飾されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の他の態様は、脱硫剤前駆体全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、3〜40質量%の酸化亜鉛と、酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、炭素原子と、を含み、炭素原子/ニッケル原子のモル比が0.065〜0.094である炭化水素用脱硫剤前駆体を、200〜300℃にて還元処理する工程を備えることを特徴とする炭化水素用脱硫剤の製造方法である。
【0019】
また、本発明のさらに他の態様は、脱硫剤前駆体全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、3〜40質量%の酸化亜鉛と、酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、炭素原子と、を含み、炭素原子/ニッケル原子のモル比が0.065〜0.094である炭化水素用脱硫剤前駆体を、160〜300℃にて焼成処理して焼成前駆体を製造する工程と、前記焼成前駆体を200〜300℃にて還元処理する工程と、を備えることを特徴とする炭化水素用脱硫剤の製造方法である。
【0020】
上述した態様の炭化水素用脱硫剤の製造方法においては、多孔性無機酸化物がシリカ又はアルミナであることが好ましい。
【0021】
また、上述した態様の炭化水素用脱硫剤の製造方法においては、シリカがアルミニウムで修飾されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明のさらに他の態様は、前記還元処理する工程において、炭化水素用脱硫剤前駆体又は焼成前駆体が、燃料電池システム用脱硫反応器に充填されていることを特徴とする前記炭化水素用脱硫剤の製造方法による燃料電池システム用炭化水素用脱硫剤の製造方法である。
【0023】
また、本発明のさらに他の態様は、上述した態様の炭化水素用脱硫剤と硫黄化合物を含む炭化水素とを接触させることを特徴とする炭化水素の脱硫方法である。
【0024】
上述した態様の炭化水素の脱硫方法においては、炭化水素が灯油であることが好ましい。
【0025】
更に、本発明のさらに他の態様は、上述した態様の炭化水素用脱硫剤を充填してなる反応器を有する炭化水素の脱硫装置を備えることを特徴とする炭化水素を原燃料に用いる燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、炭化水素、特に灯油中に含まれる硫黄分を、水素非共存下であっても効率的に除去することが可能であり、また一定の脱硫性能を維持可能な耐久時間が著しく向上された長寿命の炭化水素用脱硫剤が提供される。また、前記脱硫剤を充填した脱硫工程を備える炭化水素を原燃料に用いる燃料電池システムは、長時間安定して効率よく発電を行うことが可能となる。さらに、低温での還元処理により高い脱硫性能を有する脱硫剤が提供可能となり、高温での還元処理のための設備及び安定化処理が不要となり、脱硫剤の製造工程の簡略化及びコスト低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい態様について詳述する。
【0029】
実施形態に係る炭化水素用脱硫剤(以下、「本実施形態の脱硫剤」ということもある。)について説明する。なお、本願において、炭化水素用脱硫剤とは、炭化水素中に含まれる硫黄化合物を吸着する機能、前記硫黄化合物をより吸着され易い硫黄化合物へと変換する触媒機能、及び前記変換された硫黄化合物を吸着する機能の少なくとも1種を有するものをいう。
【0030】
本実施形態の脱硫剤が含有する多孔性無機酸化物の脱硫剤全質量基準での含有量は10〜30質量%であり、好ましくは15〜30質量%である。前記含有量が10質量%未満の場合には、脱硫剤の比表面積が減少することから脱硫性能及び脱硫性能を維持可能な耐久時間、すなわち耐久性が低下する傾向にある。一方、前記含有量が30質量%を超える場合には、相対的にニッケル成分の含有量が少なくなり、脱硫剤の脱硫性能及び耐久性が低下する傾向にある。
【0031】
前記多孔性無機酸化物としては特に限定されないが、シリカ、アルミナ、ボリア、マグネシア、ジルコニア、チタニア及び酸化マンガンなどの少なくとも1種、あるいはこれらの混合物、これら成分からなる複合酸化物が好ましく用いられる。特に脱硫剤上に炭素状物質が沈着することを抑制し、耐久性を向上するとの観点から、シリカが好ましい。
【0032】
また、前記多孔性無機酸化物は、本実施形態の脱硫剤の脱硫性能及び耐久性を高めるとの観点から、アルミナが好ましい。
【0033】
また、前記多孔性無機酸化物は、本実施形態の脱硫剤の脱硫性能及び耐久性を更に高めるとの観点から、シリカはアルミニウムで修飾されていることが好ましい。ここで、アルミニウムで修飾されたシリカとしては、アルミニウム原子を含有するシリカであれば特に限定されないが、アルミニウム原子はアルミナとしてシリカ中に導入されることが好ましい。アルミナはシリカに混合されていてもよいが、シリカとアルミナ成分とからなる複合酸化物であるシリカ・アルミナであることが好ましい。アルミニウムで修飾されたシリカにおけるアルミニウムの含有量は、シリカ/アルミナのモル比率として5〜20であり、好ましくは7〜15である。
【0034】
本実施形態の脱硫剤が含有するニッケル原子の含有量は、酸化ニッケル(NiO)換算にて、全脱硫剤質量基準で45〜75質量%であり、好ましくは50〜70質量%である。前記含有量が45質量%未満の場合には、ニッケル原子の量が不足するために脱硫剤の脱硫性能及び耐久性が低下する傾向にあり、一方、75質量%を超える場合には、相対的に多孔性無機酸化物の含有量が少なくなるため脱硫剤の比表面積が小さくなり、またニッケル成分の凝集が生じやすくなり、その分散が低下することから脱硫性能及び耐久性が低下する傾向にある。
【0035】
本実施形態の脱硫剤に含まれるニッケル原子の還元度は50〜80%であり、好ましくは60〜80%である。前記還元度が50%未満の場合には、活性種が不足し脱硫性能及び耐久性が不十分となる傾向にある。また、前記還元度が80%を超える場合には、ニッケル金属粒子の分散が低下し、有効な活性点の量が不足し脱硫性能及び耐久性が不十分となる傾向にある。なお、本願においてニッケル原子の還元度とは、脱硫剤に含まれる全ニッケル原子に対する金属ニッケル(Ni(0))の比率(%)をいう。なお、還元度の測定はTPR測定装置を用いて行った。すなわち、同装置内で所定条件による還元処理を行った後TPR測定を行い、同様にTPR測定を行った未還元処理試料との間の発生するMASS18(HO)量比から算出する。
【0036】
本実施形態の脱硫剤の脱硫剤単位質量当りの水素吸着量は、3.5〜4.6ml/g、好ましくは4.0〜4.6ml/gである。前記水素吸着量が3.5ml/g未満の場合には、脱硫性能及び耐久性が不十分となる傾向にある。一方、水素吸着量が4.6ml/gを超えることは技術的に困難である。なお、本願において、水素吸着量の測定は、高機能比表面積/細孔分布測定装置(SHIMAZU社製ASAP2020(商品名))を用いて行った。触媒を所定の条件にて水素還元した後、真空下、50℃で水素を吸着させて吸着等温線を求める。ついで、排気して物理吸着分の水素を除き、化学吸着している水素量を算出する。なお、本実施形態の脱硫剤において、水素は主として金属ニッケル粒子の表面に吸着されることから、その吸着量はニッケル金属粒子の分散を反映する指標となる。
【0037】
本実施形態の脱硫剤は、多孔性無機酸化物、ニッケル原子以外に、脱硫剤全質量基準にて3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%の酸化亜鉛(ZnO)を含有することが望ましい。酸化亜鉛が3質量%未満である場合には、炭素状物質の生成を抑制し、脱硫剤の耐久性を向上せしめるという酸化亜鉛の添加効果が不充分となる傾向にある。一方、40質量%を超える場合には、相対的にニッケル成分、多孔性無機酸化物の含有量が少なくなることから、脱硫性能が低下する傾向となる。前記範囲の酸化亜鉛を含有することにより、脱硫剤の脱硫性能及び耐久性が向上する。
【0038】
本実施形態の脱硫剤は、活性金属成分として、ニッケル原子の他に銅原子を含有してもよいが、その含有量は、CuO換算にて全脱硫剤基準で10質量%未満、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、最も好ましいのは本実施形態の脱硫剤が実質的に銅原子を含有しないことである。ここで「実質的に銅原子を含有しない。」とは、本実施形態の脱硫剤が、それを製造する際に使用する各原料中に含まれる不純物由来の銅原子以外の銅原子を含有せず、意図した銅原子の添加を行わずに製造されたものであることを意味する。銅原子を、特に10質量%以上、含有する場合には、当該脱硫剤をDSS運転に供される燃料電池システムに使用した場合、繰り返される昇温/降温の熱履歴により、銅を含むニッケル金属粒子が凝集し、経時的な脱硫活性の低下が速やかに進行する傾向にある。
【0039】
次に、本実施形態の脱硫剤の製造方法について説明する。
【0040】
本実施形態の脱硫剤は、脱硫剤前駆体全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、3〜40質量%の酸化亜鉛と、酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、炭素原子とを、含み、炭素原子/ニッケル原子のモル比が0.065〜0.094である脱硫剤前駆体を、200〜300℃にて還元処理する工程を備えることを特徴とする脱硫剤の製造方法により製造されることが好ましい。なお、本願でいう脱硫剤前駆体とは、それを焼成処理及び/又は還元処理することにより炭化水素用の脱硫剤を与えるものをいう。
【0041】
また、本実施形態の脱硫剤は、前記脱硫剤前駆体を、160〜300℃にて焼成処理して焼成前駆体を製造する工程と、前記焼成前駆体を200〜300℃にて還元処理する工程と、を備えることを特徴とする脱硫剤の製造方法により製造されることが好ましい。
【0042】
ここで、本実施形態の脱硫剤の製造において使用される脱硫剤前駆体(以下、「本実施形態の前駆体」ということがある。)について説明する。
【0043】
本実施形態の前駆体を製造する方法は特に限定されないが、以下の製造方法によることが好ましい。
【0044】
本実施形態の前駆体の好ましい製造方法においては、多孔性無機酸化物及び/又はその前駆体の存在下に、ニッケル化合物を含む水溶液と、炭酸基若しくは炭酸水素基を含有する塩基性塩を含む水溶液とを混合して、多孔性無機酸化物上に水に難溶性のニッケル化合物の沈殿を形成させる。多孔性無機酸化物及び/又はその前駆体は、前記ニッケル化合物を含む水溶液及び/又は塩基性塩を含む水溶液に溶解又は懸濁されることが好ましい。
【0045】
より具体的には、ニッケル化合物を含む水溶液に多孔性無機酸化物及び/又はその前駆体を混合し、該混合液に炭酸基若しくは炭酸水素基を含有する塩基性塩の水溶液を滴下して、あるいは塩基性塩の水溶液に多孔性無機酸化物及び/又はその前駆体を混合し、該混合液にニッケル化合物を含む水溶液を滴下して、ニッケル化合物の沈殿を多孔性無機酸化物上に形成させる。後者の方法がより好ましい。
【0046】
多孔質無機酸化物としてシリカを用いる場合のシリカ源としては、シリカ粉末、シリカゾル、シリカゲルから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。これらの平均粒径は、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜25nmである。
【0047】
多孔質無機酸化物としてアルミナを用いる場合のアルミナ源としては、アルミナ粉末、擬ベーマイト、ベーマイトアルミナ、バイヤライト、ジプサイトなどのアルミナ水和物が挙げられる。
【0048】
多孔質無機酸化物としてアルミニウムにより修飾されたシリカを用いる場合には、シリカ源としては前述の化合物を用い、アルミニウム源としては、前述のアルミナ源となる化合物の他に、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0049】
本実施形態の脱硫剤前駆体の製造方法において原料として使用するニッケル化合物としては、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等が好ましい。
【0050】
沈殿剤として用いる炭酸基又は炭酸水素基を含有する塩基性塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素アンモニウムなどが好ましく使用できる。これらの塩を沈殿剤として用いることにより、生成する沈殿、すなわち本実施形態の前駆体中に炭酸基を含有するニッケル化合物が生成する。
【0051】
前記塩基性塩の量としては、ニッケル化合物の沈殿を確実に生成せしめるとの観点から、使用するニッケル化合物の当量に対して、1.0〜1.5倍、好ましくは1.1〜1.4倍が望ましい。また、生成ニッケル化合物を含む水溶液と塩基性塩を含む水溶液との混合溶液のpHは7〜9程度とすることが好ましい。
【0052】
前記ニッケル化合物を含む水溶液と、前記塩基性塩を含む水溶液とを混合して沈殿を形成させる際の溶液の温度は、50〜100℃、好ましくは70〜90℃が望ましい。
【0053】
本実施形態の前駆体に含まれる炭素原子は、主としてニッケル原子を含むニッケル化合物を構成する炭酸基に由来する。炭酸基を含むニッケル化合物(以下、「炭酸基含有ニッケル化合物」ということがある。)としては、炭酸ニッケル、ニッケルヒドロオキシ炭酸塩などが挙げられる。本実施形態の脱硫剤前駆体は、上記炭酸基含有ニッケル化合物以外に、水酸化ニッケル、酸化ニッケル等のニッケル化合物を含有する。
【0054】
本実施形態の前駆体における炭素原子/ニッケル原子のモル比(C/Ni)は、0.065〜0.094、好ましくは0.070〜0.092である。C/Niの値が大きい程、全ニッケル化合物に占める炭酸基含有ニッケル化合物の比率が高いことを意味し、これが0.065未満の場合は、当該前駆体から得られる脱硫剤の脱硫性能が十分でない傾向にある。一方、C/Niが0.094を超える本実施形態の前駆体を得ることは困難である。C/Niが前記範囲内にあることにより、これから得られる脱硫剤は優れた脱硫性能及び耐久性を有する。
【0055】
本実施形態の前駆体の製造においては、ニッケル化合物を含む水溶液が更に亜鉛化合物を含み、ニッケル化合物と多孔性無機酸化物と亜鉛化合物とを含む沈殿物を得る沈殿工程を備えることが好ましい。その際に用いる亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛などが好ましい。
【0056】
ニッケル化合物の沈殿を多孔性無機酸化物上に形成させた後、生成した固形物をろ過し、イオン交換水などにて洗浄する。洗浄が不十分であると触媒上に塩素、硝酸根、硫酸根、酢酸根、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが残り、脱硫剤の性能に悪影響を与えるので、十分な洗浄を行う。イオン交換水では十分に洗浄できない場合、洗浄液として、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基の水溶液を使用してもよい。この場合、まず塩基の水溶液で固形物を洗浄し、続いてイオン交換水で洗浄するのが好ましい。特にナトリウムイオンの残留は脱硫剤の性能に悪影響を与えるので、残存ナトリウム量が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下となるまで洗浄を行うのが望ましい。
【0057】
洗浄後の固形物を粉砕し、次いで乾燥を行う。乾燥方法としては特に限定されるものではなく、例えば、空気中での加熱乾燥、減圧下での脱気乾燥、スプレードライ法等を挙げることができる。空気雰囲気下に加熱乾燥する場合、100〜150℃で5〜15時間乾燥を行うことが好ましい。
【0058】
上述の本実施形態の前駆体は、そのまま炭化水素の脱硫に供してもよいし、また、還元処理を行い、本実施形態の脱硫剤としてもよい。しかし、脱硫剤の脱硫性能及び耐久性の向上の観点から、還元処理の前に特定の条件にて焼成処理を行い焼成前駆体とし、その後還元処理を行って本実施形態の脱硫剤とすることが好ましい。なお、本願において、焼成前駆体とは前記本実施形態の前駆体を焼成処理したものをいう。
【0059】
本実施形態の脱硫剤の製造において使用される前記焼成前駆体(以下、「本実施形態の焼成前駆体」ということがある。)は、本実施形態の前駆体を、160〜300℃、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは220〜300℃にて、好ましくは分子状酸素を含む雰囲気下、より好ましくは空気雰囲気下に焼成して得られるものである。焼成温度が160℃より低温である場合には、焼成による上記効果が充分でない傾向にあり、一方、300℃を超える場合には、本実施形態の焼成前駆体を還元処理して得られる脱硫剤の脱硫性能及び耐久性が充分向上しない傾向にある。焼成時間は焼成温度によっても異なるが、一般的に0.1〜10時間、好ましくは1〜5時間が望ましい。なお、前述の本実施形態の脱硫剤前駆体の製造において、沈殿後の洗浄が不十分であった場合には、焼成処理後に再び洗浄を行ってもよい。この場合もイオン交換水あるいは上述の塩基の水溶液を使用することができる。
【0060】
本実施形態の前駆体に含まれるニッケル化合物の構造の詳細は定かではないが、本実施形態の前駆体が含有する炭酸基含有ニッケル化合物の一部が酸化ニッケルに、また、水酸化ニッケルの一部が酸化ニッケルに分解反応により変換される。
【0061】
本実施形態の前駆体あるいは本実施形態の焼成前駆体は、そのまま炭化水素の脱硫に供することもできるが、脱硫性能及び耐久性の向上の観点で、本実施形態の脱硫剤の製造方法によって還元処理を行い、本実施形態の脱硫剤とすることが好ましい。還元処理は水素流通下に、150〜300℃、好ましくは200〜300℃、より好ましくは250〜300℃の温度にて行うことが望ましい。還元処理時間は、還元処理温度によっても異なるが、一般的に0.1〜15時間、好ましくは2〜10時間であることが望ましい。
【0062】
本実施形態の脱硫剤の製造方法を用いて、燃料電池システム用の炭化水素用脱硫剤を製造する場合においては、本実施形態の前駆体あるいは本実施形態の焼成前駆体を、燃料電池システム用の脱硫反応器に充填し、これを還元処理することが好ましい。従来の脱硫剤前駆体あるいは焼成前駆体の還元処理は、典型的には水素雰囲気下、350〜450℃程度の温度にて行われる。そのため、設備上の問題から、還元処理は燃料電池システムの製造場所において行うことは困難な場合が多い。また燃料電池システムを構成する脱硫反応装置の運転温度は、典型的には100〜260℃程度であり、その設計上、脱硫剤前駆体又は焼成前駆体を同装置の反応器に充填し、同装置を用いて350〜450℃程度の温度にて還元処理を行うことも困難な場合が多い。そのため、高温での還元処理が可能な設備を有する触媒メーカー等において、脱硫剤前駆体あるいは焼成前駆体をバルクの状態(個々の燃料電池システム用の脱硫反応器に充填していない状態)にて還元処理することが一般的である。活性化されたバルク状態の脱硫剤は、燃料電池システムの製造場所まで移送される。活性化された脱硫剤は、空気との接触による失活及び安全上の問題を有するため、通常、還元処理に続いて、その表面層のみを軽度に酸化する所謂安定化処理を施した上で出荷される。そして、燃料電池システムの製造場所においては、燃料電池システム用の個々の脱硫反応器にこれを充填し、安定化処理層を除去して再活性化するために、比較的低温にて還元処理を行う。
【0063】
本実施形態の脱硫剤の製造方法においては、本実施形態の前駆体又は本実施形態の焼成前駆体を、300℃以下という、従来技術に比較して低温で還元処理することにより、高い脱硫性能及び耐久性を有する脱硫剤を与えることができる。したがって、これら前駆体は、その製造場所において還元処理及び安定化処理を施されることなく、燃料電池システムの製造場所に移送され、燃料電池システム用の個々の脱硫反応器に充填され、低温での還元処理により活性化することが可能となる。これにより、バルク状態での高温による還元処理及び安定化処理の2つの工程が不要となり、これに応じて脱硫剤の製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0064】
本実施形態の前駆体の形状については、特に限定されるものではなく、粉体として得られたものそのままであってもよいし、成型体としてもよい。炭化水素の脱硫における反応器内での炭化水素の圧力損失の軽減、あるいはチャンネリング防止の観点から、脱硫剤は成型体であることが好ましく、その前駆体も成型体であることが好ましい。成型方法としては、打錠成形であってよく、また、その成型体を粉砕後適当な範囲に整粒してもよい。更に、押出成型であってもよい。成型に際しては、適当なバインダを配合してもよい。バインダとしては特に限定されるものではないが、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、カーボンブラック若しくはそれらの混合物等が用いられる。バインダの配合量としては、本実施形態の前駆体の質量との合計量に対して通常30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。また、成型に際して有機物からなる成型助剤を用いることもできる。成型体とされた本実施形態の前駆体は、焼成処理及び/又は還元処理され、成型体としての本実施形態の脱硫剤となる。また、本実施形態の焼成前駆体を成型体とし、これを還元処理することにより、成型体としての本実施形態の脱硫剤としてもよい。
【0065】
本実施形態の脱硫剤を用いて脱硫を行う対象である炭化水素としては、天然ガス、LPG、ナフサ、灯油等が挙げられるが、中でも灯油が好ましい。以下灯油を用いる場合について説明する。
【0066】
本実施形態の炭化水素の脱硫方法において原料として用いられる灯油は、硫黄分を含有する灯油であり、一般的な燃料として使用される灯油であってよい。該灯油中の硫黄分濃度は0.1〜30質量ppmであり、好ましくは1〜25質量ppm、より好ましくは5〜20質量ppmであることが望ましい。該灯油の硫黄分含有量は性能面からは少ないほど好ましいが、通常の石油精製工程において硫黄分を0.1質量ppm未満まで脱硫することは、設備コスト及び運転コストが大きくなり好ましくない。一方、硫黄分が30質量ppmを超える場合には、本実施形態の脱硫方法に使用する本実施形態の脱硫剤が短時間で脱硫性能を維持することができなくなることから好ましくない。なお、本実施形態でいう硫黄分とは、炭化水素中に通常含まれる各種の硫黄、無機硫黄化合物、有機硫黄化合物を総称するものである。また、硫黄分濃度としては、灯油の質量基準、硫黄原子換算での表記とし、化学発光硫黄検出器付きガスクロマトグラフィー(GC−SCD)法により定量された値を用いる。
【0067】
本実施形態の炭化水素の脱硫方法において原料として灯油を用いる場合、灯油を液相、気相、気液混相のいずれの相で本実施形態の脱硫剤に接触せしめてもよいが、脱硫剤上への炭素状物質の沈着による経時的な脱硫性能の低下を抑制し、脱硫性能を長時間維持するとの観点から、液相を採用することが好ましい。
【0068】
本実施形態の炭化水素の脱硫方法において、炭化水素として灯油を用いる場合、運転圧力は、燃料電池システムの経済性、安全性等も考慮し、常圧〜0.9MPaの範囲の低圧が好ましく、特に常圧〜0.7MPaが好ましい。反応温度としては、硫黄分濃度を低下させる温度であれば、特に限定されるものではないが、機器スタート時も考慮して、低温から有効に作用することが好ましく、また定常時も考慮して、0℃〜400℃が好ましい。より好ましくは0℃〜300℃、特に好ましくは100℃〜260℃が採用される。このような条件を選択することにより、灯油を液相状態に保つことができる。LHSVは高すぎると脱硫効率が低下し、一方低すぎると装置が大きくなるため適した範囲に設定される。LHSVとして0.01〜15h−1の範囲が好ましく、0.05〜5h−1の範囲がさらに好ましく、0.1〜3h−1の範囲が特に好ましい。本実施形態の脱硫方法においては、水素非共存条件下でも灯油中の硫黄分を十分に脱硫できることが特徴であるが、少量の水素を導入してもよい。そのときの水素の流量は、例えば、灯油1gあたり0.05〜1.0NLである。
【0069】
本実施形態の炭化水素の脱硫方法に用いる脱硫装置の形態は特に限定されるものではないが、例えば流通式固定床方式を用いることができる。脱硫装置の形状としては、円筒状、平板状などそれぞれのプロセスの目的に応じた公知のいかなる形状を取ることができる。
【0070】
本実施形態の炭化水素の脱硫方法において灯油を原燃料として使用する場合、前記した硫黄分を含有する灯油の硫黄分濃度を水素非共存条件下に20質量ppb以下にまで低減することができる。
【0071】
以下、本実施形態の炭化水素を原燃料に用いる燃料電池システムについて、原燃料として灯油を用いた場合について説明する。
【0072】
硫黄分濃度が好ましくは20質量ppb以下程度に脱硫された灯油は、次いで、改質反応工程に供され、水素に富むガスを生成せしめる。改質反応工程としては、特に限定されるものではないが、原燃料を水蒸気とともに触媒上で高温処理して改質する水蒸気改質反応や、酸素含有気体を用いた部分酸化反応、また水蒸気と酸素含有気体が共存する系において自己熱回収型の改質反応を行うオートサーマルリフォーミングなどを用いることができる。使用される触媒は、ルテニウムを含むものが一般的である。改質反応工程の反応条件は限定されるものではないが、反応温度は200〜1000℃が好ましく、特に500〜850℃が好ましい。反応圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。LHSVは0.01〜40h−1が好ましく、特に0.1〜10h−1が好ましい。
【0073】
改質反応工程により得られる一酸化炭素と水素とを含む混合ガスは、固体酸化物形燃料電池のような場合であればそのまま燃料電池用の燃料として用いることができる。また、リン酸形燃料電池や固体高分子形燃料電池のように燃料ガス中に含まれる不純物、特に一酸化炭素の除去が必要な燃料電池に対しては、前記混合ガスは一酸化炭素含有量を低減するために、シフト反応工程に供せられる。
【0074】
シフト反応工程は、一酸化炭素と水とを反応させ、水素と二酸化炭素に転換する工程であり、例えば、鉄−クロムの混合酸化物、銅−亜鉛の混合酸化物、白金、ルテニウム、イリジウムなどを含有する触媒等の触媒を用い、混合ガス中の一酸化炭素含有量を2vol%以下、好ましくは1vol%以下、さらに好ましくは0.5vol%以下に低減させる。シフト反応の条件は、原料となる改質ガス組成等によって、必ずしも限定されるものではないが、反応温度は120〜500℃が好ましく、特に150〜450℃が好ましい。圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。GHSVは100〜50000h−1が好ましく、特に300〜10000h−1が好ましい。なお、シフト反応工程は、高温シフト反応器と、低温シフト反応器の2つの反応器を直列に設けてもよい。高温シフト反応器には鉄−クロム系触媒、低温シフト反応器には銅−亜鉛系触媒などが好ましく用いられる。通常、リン酸形燃料電池ではこの状態の混合ガスを燃料として用いることができる。
【0075】
固体高分子形燃料電池では、一酸化炭素濃度をさらに低減させることが必要であるので、一酸化炭素を更に除去する工程を設けることが望ましい。この工程としては、特に限定されるものではなく、吸着分離法、水素分離膜法、一酸化炭素選択酸化工程などの各種の方法を用いることができるが、装置の小型化及び経済性の面から、一酸化炭素選択酸化反応を用いる工程を採用することが特に好ましい。この工程では、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、亜鉛、銀、金などを含有する触媒を用い、残存する一酸化炭素モル数に対し0.5〜10倍モル、好ましくは0.7〜5倍モル、さらに好ましくは1〜3倍モルの酸素を添加し、一酸化炭素を選択的に二酸化炭素に転換することにより一酸化炭素濃度を低減させる。この方法の反応条件は限定されるものではないが、反応温度は80〜350℃が好ましく、特に100〜300℃が好ましい。圧力は常圧〜1MPaが好ましく、特に常圧〜0.2MPaが好ましい。GHSVは1000〜50000h−1が好ましく、特に3000〜30000h−1が好ましい。この場合、一酸化炭素の酸化と同時に共存する水素と反応させメタンを生成させることで一酸化炭素濃度の低減を図ることもできる。
【0076】
以下、燃料電池システムについて、固体高分子形燃料電池を一例として図1にて説明する。
【0077】
燃料タンク3内の原燃料(灯油)は燃料ポンプ4を経て脱硫器5に流入する。この時、必要であれば一酸化炭素選択酸化反応器11または低温シフト反応器10からの水素含有ガスを添加できる。脱硫器5には、本実施形態の脱硫触剤が充填されている。脱硫器5で脱硫された燃料は水タンク1から水ポンプ2を経た水と混合した後、気化器6に導入され、改質器7に送り込まれる。
【0078】
改質器7は加温用バーナー18で加温される。加温用バーナー18の燃料には主に燃料電池17のアノードオフガスを用いるが必要に応じて燃料ポンプ4から吐出される燃料を補充することもできる。改質器7に充填する触媒としてはニッケル系、ルテニウム系、ロジウム系などの触媒を用いることができる。
【0079】
この様にして製造された水素と一酸化炭素を含有するガスは高温シフト反応器9、低温シフト反応器10、一酸化炭素選択酸化反応器11を順次通過させることで一酸化炭素濃度は燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。
【0080】
燃料電池17はアノード12、カソード13、固体高分子電解質14からなり、アノード側には上記の方法で得られた高純度の水素を含有する燃料ガスが、カソード側には空気ブロアー8から送られる空気が、それぞれ必要であれば適当な加湿処理を行なったあと(加湿装置は図示していない)導入される。この時、アノードでは水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、カソードでは酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行する。これらの反応を促進するため、それぞれ、アノードには白金黒、活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが、カソードには白金黒、活性炭担持のPt触媒などが用いられる。通常アノード、カソードの両触媒とも、必要に応じてポリテトラフロロエチレン、低分子の高分子電解質膜素材、活性炭などと共に多孔質触媒層に成形される。
【0081】
次いでNafion(デュポン社製、登録商標)、Gore(ゴア社製、登録商標)、Flemion(旭硝子社製、登録商標)、Aciplex(旭化成社製、登録商標)等で知られる高分子電解質膜の両側に該多孔質触媒層を積層しMEA(Membrane Electrode Assembly)が形成される。さらにMEAを金属材料、グラファイト、カーボンコンポジットなどからなるガス供給機能、集電機能、特にカソードにおいては重要な排水機能等を持つセパレータで挟み込むことで燃料電池が組み立てられる。電気負荷15はアノード、カソードと電気的に連結される。アノードオフガスは加温用バーナー18において消費される。カソードオフガスは排気口16から排出される。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
<脱硫剤前駆体の製造>
硝酸ニッケル六水和物(市販試薬特級)43.7gと硝酸亜鉛六水和物(市販試薬特級)5.30gをイオン交換水に溶解し、150mlとした水溶液をA液とした。炭酸ナトリウム(市販試薬特級)24.0gをイオン交換水に溶解し、市販のシリカゾル(粒径約7nm)20.6g(シリカ含有量3.30g)と混合、300mlとした溶液をB液とした。B液を80℃に保ちながら攪拌し、ここにA液を滴下して沈殿を形成せしめた。滴下終了後、加温及び攪拌を2時間継続し、沈殿生成を完結させた。その後、沈殿をろ過により採取後イオン交換水で洗浄し、得られたケーキを粉砕し、空気中、120℃で10時間乾燥して末状の脱硫剤前駆体を得た。この一部をサプリングし、高周波発熱型炭素・硫黄分析装置により含有する炭素原子の定量を行い、C/Niを算出した。
【0084】
<焼成前駆体の製造>
上記により得た脱硫剤前駆体を、空気中、230℃で3時間焼成し、粉末状の焼成前駆体15gを得た。その組成はNi(NiO換算)/ZnO/SiO=65質量%/10質量%/25質量%、残存Naは0.05質量%以下であった。また、脱硫剤前駆体と同様にして、含まれる炭素原子の定量を行い、C/Niを算出した。
【0085】
<脱硫剤の製造>
上記により得た焼成前駆体を打錠成形し、更に粗く粉砕した後、1.18−2.0mmに粒径をそろえた。この1gを直径1.27cmの流通式反応管に充填し、水素気流中、280℃にて7時間還元して脱硫剤を得た。なお、脱硫剤中のニッケル原子の還元度及び脱硫剤の水素吸着量は、それぞれ、前記焼成前駆体の少量をサンプリングし、前述の方法により、前記条件と同一の還元処理条件にて前処理を行った後測定を行った。
【0086】
<脱硫試験>
上記により得た脱硫剤を窒素雰囲気下にステンレス鋼製オートクレーブ反応器に移した。続いて、灯油のモデル原料として、試薬のノルマルドデカンに硫黄化合物としてベンゾチオフェンをノルマルドデカンの質量基準にて硫黄原子として200質量ppmとなるように添加した溶液を用い、反応温度200℃、常圧の窒素雰囲気下、脱硫試験を行った。2時間反応を行った後、反応器を冷却し、GC−SCD法によりモデル原料中の残存硫黄分濃度を定量し、脱硫剤単位質量当りの硫黄吸着量を算出し、脱硫剤の性能指標とした。なお、経験上、当該試験にて高い硫黄分吸着量を示す脱硫剤は、連続流通法による長期間の実灯油の脱硫試験においても、高い脱硫活性及び優れた耐久性を示すことを把握している。表1に、脱硫剤前駆体(脱硫剤)の組成、C/Ni、焼成温度、焼成前駆体のC/Ni、水素による還元処理の条件、脱硫剤中のニッケル原子の還元度及び脱硫反応2時間後の硫黄吸着量を示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例2〜9)
それぞれ、脱硫剤前駆体の製造において、実施例1にて使用した原料の仕込量を調整した以外は、実施例1と同様の操作により、表1記載の組成をもつ脱硫剤前駆体を製造した。なお、実施例8においては多孔性無機酸化物として実施例1のシリカに替えてアルミナを、実施例9においてはシリカ・アルミナを用いた。
【0089】
また、それぞれ、得られた脱硫剤前駆体を表1に記載の焼成条件により焼成処理することにより、焼成前駆体を得た。なお、実施例4においては、焼成処理を行わなかった。
【0090】
更に、各焼成前駆体あるいは(実施例4においては)脱硫剤前駆体を、表1に記載の条件により還元処理することにより、それぞれ脱硫剤を製造した。
【0091】
それぞれ得られた脱硫剤を用いる以外は実施例1と同様の操作にて、灯油のモデル原料を用いた脱硫試験を実施した。表1に、それぞれの脱硫剤前駆体(脱硫剤)の組成、C/Ni、焼成温度、脱硫剤焼成前駆体のC/Ni、水素による還元処理の条件、脱硫剤中のニッケル原子の還元度及び脱硫反応2時間後の硫黄吸着量を示す。
【0092】
(比較例1〜7)
表2に記載の脱硫剤前駆体の組成となるように、それぞれの仕込原料組成を調整し、実施例1と同様の操作により、それぞれの脱硫剤前駆体を製造した。
【0093】
【表2】

【0094】
上記により得られた各脱硫剤前駆体を、それぞれ表1に記載の条件にて焼成し、更にそれぞれの条件により還元してそれぞれの脱硫剤を製造した。
【0095】
それぞれ得られた脱硫剤を用いる以外は実施例1と同様の操作にて、灯油のモデル原料を用いた。表1に、それぞれの脱硫剤前駆体(脱硫剤)の組成、C/Ni、焼成温度、脱硫剤焼成前駆体のC/Ni、水素による還元処理の条件、脱硫剤中のニッケル原子の還元度及び脱硫反応2時間後の硫黄吸着量を示す。
【0096】
表1および表2の結果から、特定の範囲のC/Niを有する脱硫剤前駆体を、特定の温度範囲で焼成処理し、特定の温度範囲で還元処理して得られる脱硫剤は、優れた脱硫性能を有することが明らかとなった。
【0097】
図1の燃料電池システムにおいて、脱硫器5に、実施例1で得られた脱硫剤を充填して、1号灯油(硫黄濃度:27質量ppm)を燃料とし、発電試験を行なった。200時間の運転中、脱硫器は正常に作動し、脱硫剤の活性低下は認められなかった。脱硫条件は、温度220℃、0.25MPa(ゲージ圧)、水素流通なし、LHSV=0.5h−1であった。このとき水蒸気改質にはルテニウムを含む触媒を用い、S/C=3、温度700℃、LHSV=1h−1の条件で、シフト工程(低温シフト反応器10)では銅−亜鉛を含む触媒を用い、200℃、GHSV=2000h−1の条件で、一酸化炭素選択酸化工程(一酸化炭素選択酸化反応器11)ではルテニウムを含む触媒を用い、O/CO=3、温度150℃、GHSV=5000h−1の条件で運転を行った。燃料電池も正常に作動し電気負荷15も順調に運転された。
【符号の説明】
【0098】
1 水タンク
2 水ポンプ
3 燃料タンク
4 燃料ポンプ
5 脱硫器
6 気化器
7 改質器
8 空気ブロアー
9 高温シフト反応器
10 低温シフト反応器
11 一酸化炭素選択酸化反応器
12 アノード
13 カソード
14 固体高分子電解質
15 電気負荷
16 排気口
17 燃料電池
18 加温用バーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱硫剤全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、
3〜40質量%の酸化亜鉛と、
酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、
を含み、
ニッケル原子の還元度が50〜80%であり、脱硫剤単位質量当りの水素吸着量が3.5〜4.6ml/gであることを特徴とする炭化水素用脱硫剤。
【請求項2】
多孔性無機酸化物がシリカ又はアルミナであることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素用脱硫剤。
【請求項3】
シリカがアルミニウムで修飾されていることを特徴とする請求項2に記載の炭化水素用脱硫剤。
【請求項4】
脱硫剤前駆体全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、
3〜40質量%の酸化亜鉛と、
酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、
炭素原子と、
を含み、
炭素原子/ニッケル原子のモル比が0.065〜0.094である炭化水素用脱硫剤前駆体を、200〜300℃にて還元処理する工程を備えることを特徴とする炭化水素用脱硫剤の製造方法。
【請求項5】
脱硫剤前駆体全質量を基準として10〜30質量%の多孔性無機酸化物と、
3〜40質量%の酸化亜鉛と、
酸化ニッケル換算にて45〜75質量%のニッケル原子と、
炭素原子と、
を含み、
炭素原子/ニッケル原子のモル比が0.065〜0.094である炭化水素用脱硫剤前駆体を、160〜300℃にて焼成処理して焼成前駆体を製造する工程と、
前記焼成前駆体を200〜300℃にて還元処理する工程と、
を備えることを特徴とする炭化水素用脱硫剤の製造方法。
【請求項6】
多孔性無機酸化物がシリカ又はアルミナであることを特徴とする請求項4又は5に記載の炭化水素用脱硫剤の製造方法。
【請求項7】
シリカがアルミニウムで修飾されていることを特徴とする請求項6に記載の炭化水素用脱硫剤の製造方法。
【請求項8】
前記還元処理する工程において、炭化水素用脱硫剤前駆体又は焼成前駆体が、燃料電池システム用脱硫反応器に充填されていることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法による燃料電池システム用炭化水素用脱硫剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化水素用脱硫剤と硫黄化合物を含む炭化水素とを接触させることを特徴とする炭化水素の脱硫方法。
【請求項10】
炭化水素が灯油であることを特徴とする請求項9に記載の炭化水素の脱硫方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化水素用脱硫剤を充填してなる反応器を有する炭化水素の脱硫装置を備えることを特徴とする炭化水素を原燃料に用いる燃料電池システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−235901(P2010−235901A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88376(P2009−88376)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】