説明

炭化珪素ナノワイヤーの製造方法

【課題】高温における半導体特性や電界電子放出特性の優れた竹状形態を有する炭化珪素ナノワイヤーの製造方法を提供する。
【解決手段】一酸化ケイ素粉末、グラファイト粉末及び窒化ガリウム粉末の混合物を不活性ガス気流中で、所定温度で所定時間加熱し、炭化珪素ナノワイヤーを合成する。上記粉末の混合物を不活性ガス気流中で、1300〜1400℃で、40分〜2時間加熱することにより、直径が80〜300nmで、長さ数百μmの竹状形態を有する立方晶系炭化珪素ナノワイヤーを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温における半導体特性や電界電子放出特性の優れた竹状形態を有する炭化珪素ナノワイヤーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、高温においても高熱伝導性や硬度を維持することができる広いバンドギャップエネルギーを有する半導体材料である。一次元の炭化珪素のナノ構造体として、例えば、非特許文献1にはナノワイヤーが報告されている。
【0003】
非特許文献2, 3などにはナノロッドが報告されている。非特許文献4などにはナノチューブが報告されている。非特許文献5〜7などにはナノケーブルが報告されており、さらには、中空の球状ナノ粒子(例えば、非特許文献8参照)及びナノボックス(例えば、非特許文献9参照)などが知られている。
【0004】
【非特許文献1】Z. W. Pan 他、Adv. Mater. 12巻、1186頁、2000年
【非特許文献2】H. J. Dai 他、Nature 375巻、769 頁、1995年
【非特許文献3】X. T. Zhou 他、Chem. Phys. Lett. 318 巻、58頁、2000年
【非特許文献4】X. H. Sun 他、J. Am. Chem. Soc. 124 巻、14464 頁、2002年
【非特許文献5】C. C. Tang 他、Adv. Mater. 14巻、1046頁、2002年
【非特許文献6】Y. B. Li 他、Adv. Mater. 17巻、545 頁、2005年
【非特許文献7】Y. B. Li 他、Adv. Mater. 16巻、93頁、2004年
【非特許文献8】G. Z. Shen 他、Chem. Phys. Lett. 375 巻、177 頁、2003年
【非特許文献9】C. H. Wang 他、Adv. Mater. 17巻、419 頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、各種のナノワイヤー、ナノチューブ、ナノロッド、ナノケーブル、ナノボックスなどが知られてはいるが、現在まで、竹状の形態を有する立方晶系炭化珪素ナノワイヤーは得られていない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、高温における半導体特性や電界電子放出特性に優れ、竹状の形態を有する、立方晶系炭化珪素ナノワイヤーの新規な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、一酸化ケイ素粉末、グラファイト粉末及び窒化ガリウム粉末の混合物を不活性ガス気流中で、所定温度で所定時間加熱し、炭化珪素ナノワイヤーを合成することを特徴とする。
上記構成において、一酸化ケイ素粉末とグラファイト粉末とのモル比は、好ましくは、1:0.5〜1:0.6の範囲である。この場合、一酸化ケイ素粉末1モルに対し、窒化ガリウム粉末が0.02〜0.07モルの範囲であればさらに好ましい。
加熱温度は、好ましくは、1300〜1400℃の範囲であり、このときの加熱時間は、好ましくは40分〜2時間の範囲である。
不活性ガスは、好ましくはアルゴンガスであり、この不活性ガスの流量は、好ましくは150〜400sccmの範囲である。
上記構成によれば、直径が80〜300nmで、長さが数百μm暗緑色の炭化珪素ナノワイヤーを製造することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、幹並びにそれよりも太い節を有する竹状形態の立方晶系の結晶構造を有する炭化珪素ナノワイヤーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
最初に、一酸化ケイ素粉末、グラファイト粉末および窒化ガリウム粉末の混合物をグラファイト製の容器に入れ、この容器を縦型高周波誘導加熱炉の中央部に設置する。
次に、加熱炉内を減圧にした後、不活性ガスを流し、この不活性ガス気流中において、容器の内容物を加熱することで、炭化珪素ナノワイヤーを合成することができる。
【0010】
上記の原料粉末の内、一酸化ケイ素粉末とグラファイト粉末とのモル比は1:0.5〜1:0.6の範囲が好ましい。一酸化ケイ素粉末のモル比がこの範囲よりも多いと、珪素のナノワイヤーが得られ、目的とする炭化珪素ナノワイヤーが得られないので好ましくない。逆に、一酸化ケイ素粉末のモル比がこの範囲よりも少ないと、上記加熱炉中に多量のグラファイト粉末が残存するので好ましくない。
【0011】
窒化ガリウム粉末は、一酸化ケイ素粉末1モルに対し、0.02〜0.07モルの範囲が好ましい。窒化ガリウム粉末が0.07モルよりも多いと最終生成物中に金属ガリウムが共存するので好ましくない。逆に、窒化ガリウム粉末が0.02モルよりも少ないと、直径のより太い炭化珪素ナノロッドが得られ、炭化珪素ナノワイヤーが得られないので好ましくない。
【0012】
上記加熱温度は、1300〜1400℃の範囲が好ましい。加熱温度が1400℃よりも高いと、直径がおおよそ1μmの太いナノロッドが得られるので好ましくない。逆に、加熱温度が1300℃よりも低いと、一酸化ケイ素が分解せず、炭化珪素ナノワイヤーが得られないので好ましくない。
【0013】
上記加熱時間は、40分〜2時間の範囲が好ましい。加熱時間は2時間以内で反応が完結するので、これ以上の時間をかける必要はない。逆に、加熱時間が40分よりも短いと収量が低下するので好ましくない。
【0014】
不活性ガスとしては、アルゴンガスなどを使用することができる。その流量は150〜400sccm(cm3 /分)の範囲が好ましい。不活性ガスの流量が400sccmよりも多いと生成物が反応系の外に飛散してしまうので好ましくない。逆に、不活性ガスの流量が150sccmよりも少ないと、反応性の蒸気の移送が不十分のために炭化珪素ナノワイヤーが得られず、粒子状物質になってしまうので好ましくない。
【0015】
上記のような操作を施すことにより、直径が80〜300nmで、長さが数百μmの暗緑色のウール状物質が加炉中の反応管に堆積する。
【実施例】
【0016】
次に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
最初に、一酸化ケイ素粉末(和光純薬工業(株)製、純度99.9%)0.8gと、グラファイト粉末(和光純薬工業(株)製、純度98%)0.1gと、窒化ガリウム粉末(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.99%)0.04gと、の混合物をグラファイト製坩堝に入れ、この坩堝を断熱材のカーボンファイバーで覆われたグラファイト製誘導加熱円筒管を有する縦型高周波誘導加熱炉の中央部に設置した。
次に、縦型高周波誘導加熱炉を0.2Torr(26.7Pa)の圧力まで減圧した後、流量200sccmのアルゴンガスを流しながら、1350℃で1時間加熱した。
最後に、縦型高周波誘導加熱炉を室温まで冷却すると、加熱時におおよそ1250℃になっていた断熱材の部分に暗緑色のウール状物質が34.6mg堆積した。
【0017】
次に、実施例で合成したウール状物質について、さらに詳しく説明する。
図1は、実施例で合成したウール状物質のX線回折像を示す図である。図1において、縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示し、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。
図1から明らかなように、実施例で合成したウール状物質は、立方晶系の炭化珪素(3C−SiC)であることが分かった。なお、図中のsで示す強度が弱い回折ピークは積層欠陥によるものである。
【0018】
図2は、実施例で合成したウール状物質の中倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。図2から明らかなように、実施例で得たウール状物質は平均直径が80〜300nmで、長さが数百μmの炭化珪素ナノワイヤーであることが分かった。
【0019】
図3は、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの高倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。図3から明らかなように、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーは、周期的に節を持つ竹状形態のナノワイヤーであることが分かった。つまり、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーは、幹とそれよりも太い節からなるナノワイヤーである。
【0020】
図4は、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの断面の高倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。図4から明らかなように、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの断面は、六角形の形状を有することが分かった。
【0021】
図5は、実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの電界電子放出特性の測定結果を示す図である。図5において、縦軸は電流密度(μA/cm2 )を示し、横軸は印加した直流電圧(V)を示している。
炭化珪素ナノワイヤーの試料と陽極間の距離は100μmであり、電圧は、0〜1000Vの直流を印加して測定した。このときの真空度は約5×10-7Torr(6.7×10-5Pa)であった。電流密度が10μA/cm2 となるときの電圧を開始電圧、電流密度が10mA/cm2 となるときの電圧を閾値電圧とすると、ターンオン時の開始電界強度(Eto)は、10.1V/μmであった。
なお、図5中の挿入図は、ファウラー−ノルドハイム(Fowler−Nordheim)プロットであり、電流電圧特性が二つの直線部分から成ることを示している。
【0022】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、炭化珪素ナノワイヤーの寸法については、所望の寸法が得られるように合成条件を適宜選択すればよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法により、竹状形態を有する炭化珪素ナノワイヤーが得られたので、電界電子放出デバイスをはじめとして微小エレクトロニクス分野に利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例で合成したウール状物質のX線回折像を示す図である。
【図2】実施例で合成したウール状物質の中倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの高倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの断面の高倍率走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図5】実施例で合成した炭化珪素ナノワイヤーの電界電子放出特性の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化ケイ素粉末、グラファイト粉末及び窒化ガリウム粉末の混合物を不活性ガス気流中で、所定温度で所定時間加熱し、炭化珪素ナノワイヤーを合成することを特徴とする、炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記一酸化ケイ素粉末とグラファイト粉末とのモル比が、1:0.5〜1:0.6の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
前記一酸化ケイ素粉末1モルに対し、窒化ガリウム粉末が0.02〜0.07モルの範囲であることを特徴とする、請求項1又は2記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
前記加熱温度が、1300〜1400℃の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
前記加熱時間が、40分〜2時間の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
前記不活性ガスが、アルゴンガスであることを特徴とする、請求項1に記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。
【請求項7】
前記不活性ガスの流量が、150〜400sccmの範囲であることを特徴とする、請求項1又は6に記載の炭化珪素ナノワイヤーの製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−223853(P2007−223853A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47781(P2006−47781)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】