説明

炭素性物質の自然発火抑制方法、自然発火抑制施設、および自然発火抑制剤

【課題】環境に負荷をかけず、また、多大なエネルギーを費やすことなく、炭素性物質の自然発火を長期に抑制することのできる炭素性物質の自然発火抑制方法を提供する。
【解決手段】COを光合成原料に用いて微細藻を培養する微細藻培養工程と、微細藻の濃度を常温で調整することにより微細藻含有物を得る微細藻含有物製造工程と、微細藻含有物を石炭に散布する散布工程とから構成される自然発火抑制方法であって、微細藻は多糖類を含有するテトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属、クロレラ属等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所等にて燃料として用いられる石炭等の炭素性物質の自然発火抑制方法、自然発火抑制施設、および自然発火抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や製鉄所などにおいて燃料として石炭を用いる場合、石炭をストックしておく貯炭場を備えている。貯炭場においては、石炭が空気中の酸素と反応することで昇温し、自然発火する場合がある。特に若年炭は、屋外で山積みにされた際に石炭の山(以下、貯炭パイルと呼ぶ)の内部温度が上昇しやすい。また、大気が乾燥している状態が続くと自然発火現象が起こりやすい。更に、風が強い場合には、貯炭パイル表層部の石炭の一部が粉末状となって微粉炭が空気中に舞い上がり、周辺地域への粉塵拡散が問題となることもある。これらの現象を抑制するため、貯炭場においては水を日常的に散布している。
【0003】
貯炭場に積み上げられた石炭に水を散布しても、水は貯炭パイルの表面から1m位までしか内部に浸透せず、それより内部までは浸入しない。したがって、貯炭パイルの内部における昇温・発熱を十分に抑制することができない。さらに、貯炭パイルの内部の温度が高温になると、貯炭パイルの石炭を掘り起こし外気で冷却することも行われている。これにより、貯炭場の管理に手間がかかるという問題がある。
【0004】
水の散布よりも自然発火防止効果を高めるため、水と微粉炭スラリー混合物を散布する技術や、界面活性剤を用いる技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1においては、石炭を粗砕し、さらに水とともに微粉砕してスラリーを得て、そのスラリーを熱処理することにより改質し、改質後のスラリー(改質炭スラリー)を貯炭場に散布する方法が開示されている。スラリーの濾液中の溶解成分の浸透により貯炭パイルの内部を難燃性にすると共に、貯炭場に蓄えられた石炭の表層にスラリーに含まれる微粉炭による発火防止層を形成することで、石炭の発火防止を図るものである。
また、特許文献2に記載の技術は、ラジカル捕捉剤又は酸素捕捉化合物を含む界面活性剤を石炭に散布することで石炭の自然発火防止と昇温抑制を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−297288号公報
【特許文献2】特開2001−164254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、スラリーの熱処理による改質に多大なエネルギーが必要である。また、熱処理の際にCOも排出される。周知の通り、近年COの排出量を抑制することが推奨されており、環境に対する負荷軽減という観点からも多大なエネルギーを要する熱処理を用いるのは好ましくない。
特許文献2の技術においては、界面活性剤という人工物を石炭に散布するため、環境に与える負荷が高い。
したがって、本発明では、自然素材を用い、多大なエネルギーを費やすことのない炭素性物質の発火抑制方法を提供することを目的とする。なお、この方法は石炭に限らず木炭、コークス、下水汚泥炭化物等の炭素性物質全般に有効である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本発明の石炭等の炭素性物質の自然発火抑制方法は、光合成により水中で微細藻を培養する微細藻培養工程と、微細藻の濃度を調整する微細藻含有物製造工程と、微細藻含有物を炭素性物質に散布する散布工程とから構成される。
本発明によると、石炭等の炭素性物質に散布された微細藻含有物がそれ自身多量の水分を含むこと、及び微細藻含有物に含まれる多糖類によって貯炭パイル内部での昇温を抑制すると共に貯炭パイルの表層部にある炭素性物質からの水分蒸発を抑制し、炭素性物質の自然発火防止や強風時の飛散低減を可能とするものである。
また、本発明の自然発火抑制方法では、バイオマスである微細藻を用いるため、散布しても環境に対する負荷をかけることがない。さらに、COを光合成原料に用いて微細藻の成長が促進されるため、エネルギーを費やさずに多くの微細藻を短時間で培養することができる。
【0008】
この発明において、微細藻含有物における微細藻の濃度を1〜27重量%とすることができる。さらに、微細藻が、テトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属、クロレラ属のいずれか1種を含むものとすることができる。
【0009】
また、微細藻含有物を散布する際に、炭素性物質を積み上げて形成される貯炭パイルに穴を空け、穴に微細藻含有物を投入することもできる。また、散布工程と、炭素性物質を積み上げる工程とを交互に行い、微細藻含有物と炭素性物質を積層させることもできる。
【0010】
さらにまたこの発明は、微細藻と水とを混合して生成された微細藻含有物を炭素性物質に散布する炭素性物質の自然発火抑制方法とすることもできる。このとき、微細藻は多糖類を含有するものとすることができる。
【0011】
さらにこの発明は、光合成により水中で微細藻を培養する微細藻培養部と、微細藻の濃度を調整する微細藻含有物製造部と、微細藻含有物を炭素性物質に散布する散布部とから構成される炭素性物質の自然発火抑制施設とすることもできる。
【0012】
また、本発明は、多糖類を含有する微細藻と、液状媒体と、を含むことを特徴とする炭素性物質の自然発火抑制剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境に負荷をかけず、また、多大なエネルギーを費やすことなく、石炭等の炭素性物質の自然発火を長期に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態における自然発火抑制方法の概要を説明するための模式図である。
【図2】(a)は培養液にエアーにCOを付加した場合とCOを付加しない場合の微細藻の増殖速度を比較するためのグラフ、(b)は低濃度の微細藻を含む培養液と、微細藻を含まない水とをそれぞれ石炭に散布した場合の水蒸発抑制効果を比較するためのグラフである。
【図3】(a)は微細藻含有物を石炭に散布した場合の石炭の表面におけるコーティング効果を説明するための図、(b)は淡水を石炭に散布した場合の石炭の表面におけるコーティング効果を説明するための図、(c)は微細藻含有物と淡水をそれぞれパイル状の石炭に散布した後の石炭の含水量を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を以下に示す。
本実施形態においては、本発明を火力発電所の貯炭場に適用する場合の例を挙げる。
【0016】
図1に示すように、火力発電所1は石炭等の炭素性物質を燃料として、その燃料を燃焼させることで熱エネルギーを発生させる。ボイラー11により水を加熱して蒸気を発生させ、その蒸気により駆動されるタービン12と、タービン12により回転駆動されて電力を発生させ、外部に供給する発電機13と、タービン12で用いた蒸気を復水し、ボイラーに循環させる復水器14とを備える。このような火力発電所1は、ボイラー11で用いるための石炭を蓄える貯炭場15を備える。
【0017】
貯炭場15は、港湾Dに面して設けられていることが多い。石炭運搬船25により搬入された石炭(炭素性物質)Cは、コンベヤ16を介し、スタッカー17に一時的に蓄えられた後に、このスタッカー17から貯炭場15に山積みされる。貯炭場15の周囲には、防風フェンス18が設けられている。
【0018】
この貯炭場15には、自然発火抑制剤Aを散布する散布手段20が設けられている。散布手段20は、自然発火抑制剤Aを蓄える微細藻含有物貯留手段33から自然発火抑制剤Aを吸い上げるポンプ21と、ポンプ21で吸い上げた自然発火抑制剤Aを送る配管22又はホースと、配管22又はホースの先端に取り付けられて自然発火抑制剤Aを噴出するノズル23とを備える。ノズル23は、複数種類が用意されており、散布時の風の向きや強さ等により適宜交換することができる。
【0019】
本実施形態においては、自然発火抑制剤Aとして、微細藻を含む微細藻含有物Sを用いる。このため、貯炭場15の近傍には、微細藻含有物製造施設30が設置されている。微細藻含有物製造施設30は、微細藻を培養する培養池31と、培養池31で培養した微細藻を含む培養液を回収し、その培養液の濃度を調整して微細藻含有物Sを製造する微細藻含有物製造手段32と、製造した微細藻含有物Sを蓄える微細藻含有物貯留手段33と、を備える。
【0020】
培養池31において、微細藻含有物Sに用いる微細藻を培養する。培養する微細藻としては、大きさ3〜30μm程度の微細藻類が好ましく、例えば、テトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属、クロレラ属等が挙げられる。大きさ10μm以上のテトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属は培養液中で自然沈降しやすいため、後に微細藻を含有した培養液を濃縮する際に取り扱いやすい。
【0021】
また、培養池31において微細藻は光合成により生育され、光独立栄養的に培養を行うことができる。すなわち、培養液を日光に曝しながら緩やかに攪拌することによって微細藻を培養することができる。この場合、培養池31の培養液としては、窒素、リンなどの各種塩類を添加した淡水、汽水、海水のいずれかを用いることができる。但し、海水を用いる場合は、微細藻含有物Sを石炭Cに散布する際に必要に応じて淡水で希釈して利用する。培養液の組成としては、例えば表1に示す2/f培地(×8倍)や、表2に示す改変ES培地(×3倍)を用いることができる。もちろん、これら以外の培地を用いることも可能である。培養液の温度は5〜35℃、好ましくは、20〜30℃に維持するのが好ましく、これにより効率のよい微細藻の生育ができる。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
微細藻の培養液にはエアーを付加するのが好ましい。培養池31の外部からポンプ等によりエアーを培養池31に供給することで培養液にエアーを付加することができる。このエアーには、通常0.035体積%のCOが含有されるが、このようなエアーに加え、さらなるCOを付加するのも好ましい。エアーに付加するCOは0.2〜15体積%とするのが好ましい。0.2体積%未満ではCO付加による効果を十分得られないからである。1体積%を超えるCOが付加されたエアーを供給する場合であっても、微細藻の増殖によるCO消費によって培養液中のCO濃度が低い状態になるよう、COが付加されたエアーの供給量を調整すれば、培養液のpH低下は少なく、微細藻の増殖速度を高い状態で健全に保つことができる。但し、エアーに付加するCOが15体積%を超えると、COの付加による効果が飽和する。
このようなCOは、火力発電所1のボイラー11で石炭を燃焼させることによって発生する排気ガス中から回収するのが好ましい。このため、ボイラー11から排気ガスを排出する煙道にCO回収手段311を備える。CO回収手段311としては、アミンやゼオライトなどのCO吸着剤を備えるものを用いることができる。CO吸着剤で吸着したCOを、アミンの場合は110〜130℃で加熱することにより放出し、また、ゼオライトの場合は減圧することにより放出する。放出させたCOをポンプ312などで培養池31に供給する。これにより、微細藻の培養液中にCOを付加したエアーを供給することができる。
【0025】
微細藻としてクラミドモナス属を用い、培養池31の培養液中にエアーのみを付加した場合と、エアーに0.5体積%のCOをさらに付加した場合の微細藻の増殖速度を調べた。その結果を図2(a)に示すが、エアーにCOを付加することで、培養池31における微細藻の増殖速度がエアーのみを使用した場合に比べ促進されることが確認された。また、テトラセルミス属、ユーグレナ属、クロレラ属についても同様にCOの添加による増殖向上効果が得られている(図2(a))。
【0026】
培養池31にて培養された微細藻を含む培養液は、微細藻含有物製造手段32に供給され、自然沈降や重力濃縮の他、遠心分離機やベルトフィルタ321等により微細藻の固形分が1〜27重量%(乾燥重量)、好ましくは3〜25重量%になるように濃縮される。培養液の濃縮により回収された微細藻はそのままの濃度、または水(液状媒体)中に分散されたスラリー状で石炭に散布される原料となる。
微細藻の量が1重量%未満では炭素性物質からの水の蒸発を抑制する効果を十分に得られない。微細藻としてクラミドモナス属を0.5重量%含有した培養液を石炭Cに散布した場合と、クラミドモナス属を含まない水を石炭Cに散布した場合と、における石炭Cからの水蒸発抑制効果を調べた。その結果を図2(b)に示すが、クラミドモナス属を含む培養液を散布した石炭Cの残存水分量と、クラミドモナス属を含まない水を散布した石炭の残存水分量との差はごくわずかであり、培養液に含有される微細藻の濃度が低いと石炭Cからの水の蒸発を抑制する効果がほとんど無いことが確認された。これは、微細藻の濃度が低い培養液を散布しても、石炭Cの表面全体を微細藻で覆うことができず、後述の微細藻からなるコーティング層が形成されないため、石炭C内部の湿潤状態を維持することができないためである。
微細藻の固形分が10重量%以上の高濃度の微細藻含有物を石炭パイルの内部に投入したり、石炭Cと交互に積層する場合には、石炭Cに接する微細藻の細胞内に含まれる微細藻細胞水が石炭Cの昇温を長期的に抑制して石炭Cの発火温度以下に維持できる。また、貯炭パイル内が100℃以上になるとその近傍の微細藻の細胞内は蒸発し始め水の高い蒸発潜熱のため、それ以上の昇温を更に抑制する効果を奏する。副次的に微細藻の水分が大幅に低下することにより石炭Cに同伴させてボイラで燃焼させる際には、微細藻自体が有する発熱量(絶乾ベースで4000〜5000kcal/kg)が高まり燃焼熱の増加に寄与できる。
また、培養池31が貯炭場15と離れている場合には、20〜27%程度と、より高濃度にすることが搬送上、コンパクトになり運搬上有利となる。
但し、微細藻の量が27重量%を超えると、微細藻が多糖類を含むため粘性が極端に高くなり、その結果、微細藻が塊になり易く機器類にこびり付いて搬出操作が困難となり、かつ石炭Cに投入しても塊のままで、広がり難い性状を示し操作上困難となる。
このようにして得られた微細藻含有物Sは次いで、微細藻含有物貯留手段33に蓄えられる。
【0027】
微細藻含有物貯留手段33に蓄えられた微細藻含有物Sは、前述の散布手段20のポンプ21で吸い上げられ、配管22を通り、ノズル23から噴出することにより貯炭場15の石炭Cに散布される。
貯炭場15の石炭Cに微細藻含有物Sを散布する場合、図1に示すように貯炭場15の上方から山積みされた石炭Cの表面に微細藻含有物Sを散布してもよい。石炭Cの表面に微細藻含有物Sを散布することにより、微細藻含有物Sが山積みされた石炭Cの山の内部に浸入していく。
また、山積みされた石炭Cの山に重機などにより穴を開け、その穴の中に微細藻含有物Sを投入してもよい。これにより、石炭Cの山の内部まで確実に微細藻含有物Sを浸入させることができる。また、貯炭場15に石炭Cを山積みしていく際に、石炭Cを貯炭場15に投入する工程と微細藻含有物Sを散布する工程を交互に繰り返すことで微細藻含有物Sと石炭Cを積層させることもできる。また、石炭Cを貯炭場15に投入する工程と、微細藻含有物Sを散布する工程とを並行して行ってもよい。
【0028】
尚、微細藻含有物Sの散布は貯炭場15だけでなく、石炭運搬船25などから石炭Cを搬入するためのコンベヤ16にて行ってもよい。この場合、微細藻含有物貯留手段33からコンベヤ16に微細藻含有物Sを送るための配管24を設けることができる。また、微細藻含有物Sは、その他の石炭Cの運搬経路に散布してもよい。
【0029】
このようにして石炭Cに微細藻含有物Sを散布することにより、図3(a)に示すように石炭Cの表面が微細藻含有物Sに含まれる成分により覆われる。微細藻の細胞(微細藻細胞40)は、細胞内に水(細胞水)を含むと共に、その表面に粘性を有する多糖類成分41を含有しているため、従来粉塵防止剤として使用されていたグリセリンと同等の効果を奏する。すなわち、微細藻細胞40の多糖類成分41が微細藻細胞40の表面から一部遊離して石炭Cの表層に付着することにより、石炭Cの表層に付着した付着多糖類成分42と微細藻細胞40とからなるコーティング層43が形成される。これにより、石炭Cに浸入した微細藻含有物Sの水分44が石炭Cの表面から蒸発しにくくなり、石炭Cの湿潤状態を長期に維持することが可能となり、石炭Cの昇温防止効果、自然発火防止効果を高めることができる。更に、前述の細胞水は細胞外へ蒸発し難いため更なる水の保有効果、即ち、蒸発抑制効果を示すものである。これに対し、図3(b)に示すように、微細藻が含まれない淡水を石炭Cに散布した場合には、微細藻含有物Sを散布した場合のように石炭Cの表層に水分の蒸発を抑制するコーティング層が形成されないため、石炭Cに浸入した水分50が石炭Cの表層から蒸発しやすく、石炭Cの湿潤状態を長期に維持することが難しい。
クラミドモナス属を微細藻として用いた微細藻含有物Sと、微細藻を含まない淡水とをそれぞれ別に石炭Cに散布し、30℃で8時間放置した後、石炭Cに残存する含水量を調べた。なお、微細藻含有物Sにおけるクラミドモナス属の含有量は8重量%である。図3(c)に示す通り、微細藻含有物Sを散布した石炭の含水量を100とすると、淡水を散布した石炭の含水量は60となり、微細藻含有物Sを石炭Cに散布することで石炭Cに浸入した水分の蒸発が抑制されることが確認された。また、クロレラ属、テトラセルミス属、ユーグレナ属をそれぞれ微細藻として用いた微細藻含有物Sについても同様に確認したところ、石炭Cに浸入した水分の蒸発抑制効果を得ることができた。
また、石炭Cの表層にコーティング層43が形成され、散布した微細藻含有物Sの水分44の蒸発量を抑制することが可能となることから、散布する微細藻含有物Sの使用量を減らす効果もある。さらに、微粉炭粉塵の拡散を防止することも可能である。
このようにして、貯炭場15などの石炭Cに微細藻含有物Sを散布することにより、石炭Cの昇温防止効果、自然発火防止効果を得ることができる。
【0030】
また、微細藻は単位面積当たりの生産性が高いバイオマスである。微細藻含有物Sが散布された石炭Cをそのまま火力発電所1のボイラー11に投入しても、環境に負荷を与えることなくバイオマス燃料として用いることができる効果も奏する。
バイオマス材としては、例えばとうもろこし由来のものをはじめとして様々な種類があり、これらの中には多糖類を含有し、微細藻と同様の作用効果が期待できるものもある。しかし、とうもろこし等は食料としても用いられるため、それをバイオマス資源として用いることにより食料不足や価格高騰などの問題を招いている。これに対し、微細藻は食料問題にも影響せず、この点からも有力である。
【0031】
なお、上記実施の形態では、本発明の自然発火抑制方法を火力発電所に適用する場合を説明したが、本発明の適用対象は、発電所に限らない。
石炭を蓄えるのであれば、例えば、製鉄所、石炭運搬船、石炭採掘場等にも適用できる。また、石炭に限らず、酸化反応により発熱・発火する可能性があるものであれば、本発明を適用することができる。
また、微細藻含有物Sを散布する場で、微細藻の培養、微細藻含有物Sの濃度の調整を行うことは必須ではない。例えば、予め調製された微細藻含有物Sを搬入し、石炭等に散布してもよい。また、微細藻含有物Sの濃縮物を搬入し、現場で、水や海水等を加えて濃度を調整し、これを散布してもよい。
また、微細藻含有物Sは、テトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属、クロレラ属に限らず、多糖類を含有するものであれば、他の種のものであっても良く、それらにおいても上記と同様の効果が得られる。
【0032】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…火力発電所、11…ボイラー、12…タービン、13…発電機、14…復水器、15…貯炭場、16…コンベヤ、17…スタッカー、18…防風フェンス、20…散布手段、21…ポンプ、22…配管、23…ノズル、24…配管、25…石炭運搬船、30…微細藻含有物製造施設、31…培養池、32…微細藻含有物製造手段、33…微細藻含有物貯留手段、311…CO回収手段、312…ポンプ、321…ベルトフィルタ、40…微細藻細胞、41…多糖類成分、42…付着多糖類成分、43…コーティング層、44、50…水分、C…石炭、D…港湾

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成により水中で微細藻を培養する微細藻培養工程と、
前記微細藻の濃度を調整する微細藻含有物製造工程と、
前記微細藻含有物を炭素性物質に散布する散布工程と、から構成されることを特徴とする炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項2】
前記微細藻含有物中における前記微細藻の濃度が1〜27重量%であることを特徴とする請求項1に記載の炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項3】
前記微細藻が、テトラセルミス属、クラミドモナス属、ユーグレナ属、クロレラ属のいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項4】
前記炭素性物質を積み上げて形成される貯炭パイルに穴を空け、前記穴に前記微細藻含有物を投入することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項5】
前記散布工程と、前記炭素性物質を積み上げる工程とを交互に行い、前記微細藻含有物と前記炭素性物質を積層させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項6】
微細藻と水とを混合して生成された微細藻含有物を炭素性物質に散布する炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項7】
前記微細藻は多糖類を含有するものであることを特徴とする請求項6に記載の炭素性物質の自然発火抑制方法。
【請求項8】
光合成により水中で微細藻を培養する微細藻培養部と、
前記微細藻の濃度を調整する微細藻含有物製造部と、
前記微細藻含有物を炭素性物質に散布する散布部と、
から構成されることを特徴とする炭素性物質の自然発火抑制施設。
【請求項9】
多糖類を含有する微細藻と、液状媒体と、を含むことを特徴とする炭素性物質の自然発火抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162738(P2011−162738A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30032(P2010−30032)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】