説明

炭素数2以上のアルコールの製造方法

【課題】 工業的に石油由来の原料やバイオマスに因らずに二酸化炭素を原料として生産することができると共に、従来技術における課題を解決することができ、高い安全性かつ高収率・高選択率で、炭素数2以上のアルコールを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 二酸化炭素と還元剤とを反応させて炭素数2以上のアルコールを製造する方法であって、該製造方法は、窒素及び水素を含む化合物を還元剤として用いて二酸化炭素を還元する工程を含む炭素数2以上のアルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数2以上のアルコールの製造方法に関する。より詳しくは、二酸化炭素を原料として工業的に有用な炭素数2以上のアルコールを製造する方法に好適に用いることができる炭素数2以上のアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールを始めとする炭素数2以上のアルコールは、化合物合成の原料や溶剤等として広く用いられているが、殆どが石油由来の原料より合成されている。また最近では、石油等の化石燃料の代替燃料として、自動車用等の内燃機関の燃料用にバイオエタノール等のいわゆるバイオアルコール燃料が注目されている。一方で、バイオアルコール燃料は、地球の砂漠化や発展途上国の食糧難を引き起こすことが懸念される樹木やトウモロコシ等を原料にしなければならないという問題を抱えている。そのため、このようなアルコールを工業的に石油由来の原料やバイオマスに因らずに生産することが期待されるところである。
【0003】
従来のアルコールの製造方法としては、炭化水素の水和反応による合成方法、二酸化炭素の還元による合成方法等、種々の方法が開発されている。そのうち、二酸化炭素の還元による合成方法においては、一般的に水素による還元方法が用いられるが、水素ガスは高圧・可燃ガスであり、工業的な使用には法的な制限を充分に考慮する必要がある。すなわち、水素ガスの使用においては、危険を伴うため、その取り扱いには細心の注意が必要であり、装置もそれに準拠したものを用いなければならない。
【0004】
また、鉄、銅、亜鉛、及びカリウムを特定の割合で含む触媒を用いて二酸化炭素を接触水素化するエタノールの製造方法(例えば、特許文献1参照。)や、シリカに担持したロジウム−リチウム触媒、又は、シリカに担持したロジウム−鉄触媒を用いた、二酸化炭素の接触水素化反応により、エタノールが生成すること(例えば、非特許文献1参照。)が開示されている。更に、炭素及び水素を含有する化合物を、または同時に二酸化炭素を供給して、還元された金属触媒に400〜700℃で接触させる第1段反応と、第1段反応の反応混合物を、必要により水を外部から供給して、より低温で反応させることにより、低級アルコールと還元された金属触媒を得る第2段反応とからなる低級アルコールの製造方法の中で、メタン及び二酸化炭素を供給して、還元した酸化鉄触媒に接触させることで、メタノール、エタノール、プロパノールを含む低級アルコールが得られたことが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、リン酸触媒を用いたエチレンの水和によってエタノールを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2685130号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2004−143121号公報(第1−2、9−10頁)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】草間 仁、荒川 裕則「日本化学会誌」、2001年、第8巻、p.483−485
【非特許文献2】15509の化学商品(化学工業日報社)p.429−432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭素数2以上のアルコールの製造方法として、上述のように種々の方法が検討されているが、特許文献1や非特許文献1のように、触媒存在下での二酸化炭素の接触水素化反応による炭素数2以上のアルコールの製造においては、高圧下で水素を用いることが必須となり、その取り扱いや生産設備上の問題点等の課題があり、更には炭素数2以上のアルコールの収率及び選択率も充分なものではなかった。また、特許文献2の方法においても、炭素数2以上のアルコールの収率及び選択率は充分なものではなかった。このように従来から知られている方法は、炭素数2以上のアルコールを製造する際の製造の簡便さや合成の収率及び選択率の点において課題を有している。更に、近年は、バイオエタノールが注目されているが、樹木や食料となる植物等のバイオマスを原料としなければならない課題を抱えている。
ところで、二酸化炭素を原料としてアルコールを工業的に製造することができれば、二酸化炭素の排出規制等の世界的な環境問題の解決に寄与することが期待されるところである。
二酸化炭素を原料として炭素数2以上のアルコールを合成するためには、炭素数を増やす反応(増炭反応)及び還元反応の工程を経なければならず、これを効率よく、かつ、簡便に達成することができるということも課題の1つに挙げることができる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、工業的に石油由来の原料やバイオマスに因らずに二酸化炭素を原料として生産することができると共に、上述した従来技術における課題を解決することができ、高い安全性で、しかも高い収率及び選択性を維持した炭素数2以上のアルコールを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、炭素数2以上のアルコールを製造する方法の一つとして、二酸化炭素の増炭反応、還元反応による合成に焦点をあて、その合成方法について種々検討し、従来、一般に水素が用いられていた還元剤として他の化合物を適用することができないかという点に着目した。そして、窒素及び水素を含む化合物が還元剤として作用することを見出し、この還元剤を用い、二酸化炭素を反応原料として用いると、温和な反応条件で、炭素数2以上のアルコールを高収率かつ高選択的に製造することができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法では、還元剤として危険性の高い水素に代えてアンモニア等の窒素及び水素を含む化合物を還元剤として使用するものであることから、従来の二酸化炭素の接触水素化反応による炭素数2以上のアルコールの製造方法に比べ、より安全な化合物を還元剤として使用することから安全性が高く、還元反応を行う装置や輸送等の制約が少ない点において優れる方法であるだけでなく、従来までの二酸化炭素を原料とした炭素数2以上のアルコールの製造方法に比べ、アルコールを収率良く、かつ、選択的に製造することが可能であることから、技術的意義が大きく、工業的に非常に有用な方法であるといえる。
【0010】
すなわち本発明は、二酸化炭素と還元剤とを反応させて炭素数2以上のアルコールを製造する方法であって、上記製造方法は、窒素及び水素を含む化合物を還元剤として用いて二酸化炭素を還元する工程を含む炭素数2以上のアルコールの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法は、窒素及び水素を含む化合物を還元剤として用いて二酸化炭素を還元する工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法においては、反応原料として、二酸化炭素を用いるものであるが、二酸化炭素は、入手が容易であるだけでなく、近年は、工場等から排出される二酸化炭素が問題視され、排出量の低減が求められていることから、排出される二酸化炭素を有用な化合物に転換することができれば、環境問題への対応の点からも好ましく、特に世界的な二酸化炭素排出量規制の問題に対して、本発明は極めて重要な技術的意義を有するものである。二酸化炭素の純度は特に制限はない。
【0013】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法は、これまで一般に還元剤として用いられてきた水素に比べて安全性が高い窒素及び水素を含む化合物を還元剤として用いるものであるが、還元剤として用いる窒素及び水素を含む化合物としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、カルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、尿素、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミン類・アミド類;カルバミン酸、カルバミン酸アンモニウム、カルバミン酸炭酸水素二アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等のカルバミン酸やアンモニウム塩類等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アンモニア、ヒドラジン、尿素、カルバミン酸、カルバミン酸アンモニウム、カルバミン酸炭酸水素二アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、シュウ酸アンモニウムが好ましい。より好ましくは、アンモニア、尿素、カルバミン酸アンモニウムであり、特に好ましくはアンモニアである。上記窒素及び水素を含む化合物は、下記記載の触媒の選定により、系内で水素を発生し、該水素が還元剤として働くこともでき、また、二酸化炭素が還元されて発生する一酸化炭素やアルカン等も、増炭反応や還元反応に寄与することができる。この場合、反応は一段であってもよく、多段であってもよい。
【0014】
上記還元工程においては、二酸化炭素1モルに対して、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物を0.001〜1000モルの割合で用いて還元反応を行うことが好ましい。二酸化炭素1モルに対して、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物が0.001モルより少ないと、還元反応が充分に進行しないおそれがあり、1000モルより多くしても、還元反応で生成する炭素数2以上のアルコールの収率はそれ以上大きく向上せず、還元剤の有効利用の点から好ましくない。より好ましくは、二酸化炭素1モルに対して、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物を0.1〜100モルの割合で用いることであり、更に好ましくは、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物を1〜10モルの割合で用いることである。
なお、二酸化炭素、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物が気体である気相反応の場合には、このようなモル比となるような割合でそれぞれの化合物を流通させて反応を行うことができる。
【0015】
上記還元工程における反応が気相反応である場合、二酸化炭素、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物とともに、不活性ガスを流通させて反応を行ってもよい。例えば、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物としてアンモニアを用いた場合、反応系内でカルバミン酸アンモニウムや尿素等が生成し、反応管が閉塞する場合がある。このように、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物の種類によっては、固体の生成物が生成して反応管を閉塞することがあるが、二酸化炭素、還元剤となる窒素及び水素を含む化合物とともに、不活性ガスを流通させることで反応管の閉塞を防止することができる。不活性ガスは流通量を適宜設定して流通させることができる。不活性ガスとしては、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン、水蒸気等が好ましい。また、反応管を加熱することによりカルバミン酸アンモニウムや尿素等を分解し、閉塞を防ぐことも可能である。
【0016】
上記還元工程は、原料としての水の存在量は特に制限はないが、二酸化炭素に対し、等モル未満の条件下で還元反応を行う工程であることが好ましい。還元反応の系内に一定量以上の水が存在すると、触媒を大きく失活させる恐れがある。水の存在量は、より好ましくは、二酸化炭素1モルに対して0.9モル以下であり、更に好ましくは、0.8モル以下である。
【0017】
上記本発明の還元工程は、20〜1000℃で行われることが好ましい。このような温度で行うことで、得られる炭素数2以上のアルコールの収率を高めることができる。還元工程は、100〜900℃で行われることがより好ましく、200〜800℃で行われることが更に好ましい。
また、上記還元工程は、0.1〜20MPaの圧力下で行われることが得られる炭素数2以上のアルコールの収率を高める点から好ましい。より好ましくは、0.1〜15MPaの圧力下で行われることである。
また、上記還元工程の時間は、使用する二酸化炭素の量によって適宜設定すればよいが、10分以上行うことが好ましい。10分より短いと、還元反応が充分に進行せず、得られる炭素数2以上のアルコールの収率が低くなるおそれがある。本発明における還元工程は、下記のように触媒を用いて行うことが好ましいが、気相流通反応を行う場合には、触媒が劣化するまで連続的に反応を行うことができ、適宜劣化した触媒の再生を実施することも可能である。
【0018】
上記還元工程は、触媒を用いて行われるものであることが好ましい。還元工程における反応を促進する作用を発揮する触媒を用いることで、還元反応で生成する炭素数2以上のアルコールの収率をより高めることができ、還元剤として窒素及び水素を含む化合物を用いることと相まって、本発明の作用効果を相乗的に際立って優れたものとすることができる。
触媒の使用量としては、二酸化炭素100モル%に対して99〜0.00001モル%であることが好ましい。使用量が0.00001モル%より少ないと、充分な触媒性能を発揮することができないおそれがあり、99モル%より多くしても、それ以上還元反応によって得られる炭素数2以上のアルコールの収率を大きく向上することはできず、触媒の有効利用の点から好ましくない。より好ましくは、二酸化炭素100モル%に対して50〜0.0001モル%であり、更に好ましくは、20〜0.0005モル%である。
流通系の気相反応を行う場合、毎時空間速度(SV)は特に制限はないが、1hr−1以上の条件が通常用いられる。毎時空間速度(SV)とは、毎時反応器を通過する原料の体積(cm/hr)/反応容器中の触媒体積(cm)で定義される値であり、1hr−1以上となるように、二酸化炭素、窒素及び水素を含む化合物、並びに、触媒の量を決定すればよい。
【0019】
上記触媒の使用形態としては、触媒を液相に溶解させて行う均一系の形態、若しくは、触媒を液相に懸濁させたり、あるいは、触媒を固相としたりして反応を行う不均一系の形態が挙げられ、また、不均一系の形態としては、液相反応、気相反応のいずれの形態であっても良い。均一系の形態を取る場合には、後述する周期律表の3〜12族の元素を少なくとも1種の元素を含む触媒や周期律表の1〜2族及び/又は13〜17族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む助触媒となる酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、塩化物、臭化物、硝酸塩化合物、硫酸塩化合物、酢酸塩化合物、アルカリ金属塩化合物、アルカリ土類金属塩化合物、アンモニウム塩化合物、カルボニル化合物、アセチルアセトナート化合物、シュウ酸化合物、リン配位子含有化合物、窒素配位子含有化合物、カルベン配位子含有化合物等が反応溶媒である水または有機溶媒または水含有有機溶媒に溶解すればよい。不均一の形態を取る場合には、触媒の回収・再生・再利用が容易になるばかりでなく、特に気相反応の場合、反応後の気体を回収して再利用することも容易に可能である。
【0020】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法において、触媒を用いる場合、二酸化炭素を還元する工程に用いる前に、あらかじめ触媒を還元及び/又は窒化することが好ましい。このようにすることで、本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法に適した触媒活性種を構築することができる。
触媒を還元及び/又は窒化する方法としては特に制限されないが、アルカン、水素及びアンモニアの少なくとも1種を含むガスを用いて還元及び/又は窒化することが好ましい。アルカン、水素及びアンモニアの少なくとも1種を含むガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン、水蒸気等との混合ガスを用いることができ、アルカン、水素及びアンモニアの少なくとも1種を含むガス/不活性ガスを100/1〜0.01/100の割合で含むガスを用いることが好ましい。より好ましくは、水素及びアンモニアの少なくとも1種を含むガス/不活性ガスを50/1〜0.1/100の割合で含むガスである。
還元及び/又は窒化に用いるアルカン、水素及びアンモニアの少なくとも1種を含むガスの量は、触媒100モル%に対して、水素及び/又はアンモニアが0.1〜100000モル%となる量であることが好ましい。より好ましくは、触媒100モル%に対して、水素及び/又はアンモニアが0.5モル%〜10000モル%となる量である。未反応のアルカン及び/又は水素及び/又はアンモニアは回収して再利用することも可能である。
また、触媒の還元及び/又は窒化は、20〜1000℃で行うことが好ましい。より好ましくは、100〜700℃であり、特に好ましくは、100〜600℃である。
触媒を還元及び/又は窒化する時間は、10〜1440分が好ましい。より好ましくは、30〜720分であり、特に好ましくは、60〜300分である。
流通系の気相反応を行う場合、還元及び/又は窒化する毎時空間速度(SV)は特に制限はないが、1hr−1以上の条件が通常用いられ、該SV値をもって本発明の還元反応に適した触媒活性種を構築できるまで触媒の還元及び/又は窒化を行えばよい。
【0021】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法は、周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物を触媒として用いて行われることが好ましい。このような触媒の存在下で反応を行うことで、還元反応によって得られる炭素数2以上のアルコールの収率を充分に高めることができる。これらの中でも、触媒としては、周期律表の4〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物がより好ましい。更に好ましくは、周期律表の5〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物である。触媒は、1種又は2種以上を用いることができる。
なお、ここでいう「族」は、18族長周期型周期律表における族を意味する。
【0022】
本発明における触媒が有する元素としては、上記周期律表の3〜12族の元素の中でも、ランタノイド、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、及び、カドミウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が好ましい。より好ましくは、ランタノイド、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、最も好ましくは、ランタノイド、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀及び金からなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物を触媒として用いると、炭素数2以上のアルコールを特に高い収率で得ることができる。
特にニッケルを使用する場合には、それとは異なる他の元素を共存させることがより好ましい。
【0023】
また、本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法においては、上記周期律表の1〜2族及び/又は13〜17族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を助触媒として使用し、更に触媒活性を高めることもできる。助触媒とは、主成分である周期律表の3〜12族の元素が示す触媒作用を強化する作用を持つ補助成分を指す。上記周期律表の1〜2族及び/又は13〜17族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、錫、鉛、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルル、フッ素、塩素及び臭素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が好ましい。より好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、錫、鉛、リン、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルル、フッ素及び塩素からなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、最も好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、硫黄、セレン、テルル及びフッ素からなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
本発明においては、使用する触媒や助触媒によって、得られる炭素数2以上のアルコールの収率や選択率がかわるため、求められる炭素数2以上のアルコールの種類に合わせて、使用する触媒や助触媒を選択することができる。触媒性能が劣化した場合には焼成や上記還元及び/又は窒化等の操作により再生することが可能である。また、気相流通反応の場合、出口ガスを回収し、それを原料として反応を行うこともできる。
【0024】
上記触媒は、触媒に占める周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の含有量が触媒全体100質量%に対して99〜0.001質量%であることが好ましい。周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の含有量が0.001質量%より少ないと、充分な触媒性能を発揮することができないおそれがあり、また99質量%より多くても、還元反応によって得られる炭素数2以上のアルコールの収率を大きく向上することはできず、また経済的にも不利となる。より好ましくは、周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の含有量が触媒全体100質量%に対して50〜0.01質量%であり、更に好ましくは、20〜0.05質量%である。
なお、ここでいう触媒全体とは、下記のように触媒活性種が担体(特に多孔質担体)に担持されたものである場合は、担体も含んだ全体を意味する。
【0025】
上記触媒は、触媒活性種が担体、特に多孔質担体に担持されたものであってもよい。
本発明の反応形態に用いられる触媒の中には、担体に担持された形態となることによって、本発明の作用効果を発揮する又は際立って発揮するものがあるため、触媒を担体に担持された形態とすることは、本発明の好ましい実施形態の1つであるといえる。特に、触媒の種類によって担体に担持された形態を選択することが好ましい。例えば、ランタノイド、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛等は、担体に担持された形態とすることによって、本発明において触媒作用が充分に発揮されることになる。
【0026】
上記多孔質担体に担持されたものである場合、多孔質担体としては、酸化物、窒化物、硫化物等特に限定はされないが、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、メソ多孔体、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ランタノイド、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化錫、ポリオキソメタレート、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸バナジウム、リン酸ランタノイド、ハイドロタルサイト、アパタイト、セピオライト、モンモリロナイト、珪藻土、粘土化合物等に代表される酸化物や複合酸化物及び/又はその窒化物や硫化物、活性炭、イオン交換樹脂、有機無機複合化合物等が好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。担体を構成する元素は、触媒、助触媒成分と同じであってもよいし異なっていてもよいが、異なる元素であることがより好ましい。担体の形態としては、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、ペレット状、押し出し形状、リング状、ハニカム状等どの形態でもよく、担持形態も均一担持、外層担持、内層担持、中心担持等いずれの形態でもよい。
【0027】
上記担体に担持する方法は、沈殿法、共沈法、混錬法、ゲル化法、沈着法、含浸法(平衡吸着法・蒸発乾固法)、イオン交換法、溶融法、展開法、水熱合成法、合金化法、ナノ粒子化法、蒸着法等が挙げられる。例えば、含浸法等で担持に溶媒を用いる場合、触媒活性種となる元素を含む触媒前駆体と担体とを溶媒中で混合し、焼成することにより調製することができる。溶媒は水でも有機溶媒でも水含有有機溶媒でもよく、触媒前駆体を溶解できればよい。触媒調製溶媒やpH、調製圧力、調製温度は、多孔質担体や触媒前駆体の種類等により適宜設定すればよいが、水溶液を使用する場合には、好ましくは、pHを0.5〜14の間に設定した水溶媒もしくは水含有有機溶媒を使用し、0.5〜0.0001MPaにて10〜100℃で調製を行うことである。
焼成温度は、100〜1000℃が好ましい。より好ましくは、200〜900℃である。また、焼成時間は、10〜2880分であることが好ましい。より好ましくは、30〜1440分である。
また、焼成中の気相雰囲気は、空気、窒素、アルゴン、酸素等特に限定されるものではなく、空気中で行ってもよく、水素/窒素を100/1〜0.1/100の割合で含むガス雰囲気下で行ってもよい。
【0028】
上記触媒前駆体としては、上記周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素等のような触媒活性を発揮する元素の酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、塩化物、臭化物、硝酸塩化合物、硫酸塩化合物、酢酸塩化合物、アルカリ金属塩化合物、アルカリ土類金属塩化合物、アンモニウム塩化合物、カルボニル化合物、アセチルアセトナート化合物、シュウ酸化合物、リン配位子含有化合物、窒素配位子含有化合物、カルベン配位子含有化合物等を用いることが好ましい。これらの中でも、酸化物、窒化物、フッ化物、硝酸塩化合物、硫酸塩化合物、酢酸塩化合物、アルカリ金属塩化合物、アルカリ土類金属塩化合物、アンモニウム塩化合物、カルボニル化合物、アセチルアセトナート化合物、シュウ酸化合物等がより好ましい。
【0029】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法において、二酸化炭素が還元されて生成する炭素数2以上のアルコールは、還元剤として用いられる窒素及び水素を含む化合物や、触媒の種類、反応条件等によって異なるが、中でも、炭素数2〜12のアルコールであることが好ましく、より好ましくは、炭素数1〜6のアルコールである。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の炭素数2以上のアルコールの製造方法は、上述の構成よりなり、排出量の削減が求められている二酸化炭素を原料とし、更に還元剤として、これまで一般に用いられてきた水素よりも安全性が高く、取り扱いの容易な窒素及び水素を含む化合物を用いて炭素数2以上のアルコールを収率良く製造することができる方法であることから、炭素数2以上のアルコールの製造方法として好適に用いることのできる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0032】
触媒の調製例1(10%Ru−13%Cs/Al
ルテニウム含有率4.6%の硝酸ルテニウム水溶液22gにγ−アルミナ(BET比表面積103m/g)の粉体(9g)を加えて、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した後、90〜120℃で乾燥を行った。その後、300℃で1時間、5vol%水素/窒素ガスを用いて水素還元を行い、10%Ru/Alを得た(触媒A)。次に、硝酸セシウムを用いて、Cs/Ru=1(モル比)になるように水容液を調製し、ここに触媒Aを加えてロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した後、400℃で4時間、5vol%水素/窒素ガスを用いて水素還元を実施した。得られた粉体をプレス機で圧縮した後破砕して、ふるいに掛けて粒径を0.7〜1.0mmとし、10%Ru−13%Cs/Alを得た。
【0033】
触媒の調製例2(10%Ir/Al
イリジウムアセチルアセトナート(2.5g)を溶解させたテトラヒドロフラン溶液に粒径0.7〜1.0mmのAl(9g:空気雰囲気下950℃で10時間焼成)を加えて、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した。得られた固体を空気雰囲気下、400℃で3時間焼成し、10%Ir/Alを得た。
【0034】
触媒の調製例3(10%Pd/Al
硝酸パラジウム(2.2g)を溶解させた純水に粒径0.7〜1.0mmのAl(9g:空気雰囲気下950℃で10時間焼成)を加えて、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した。得られた固体を空気雰囲気下、400℃で3時間焼成し、10%Pd/Alを得た。
【0035】
触媒の調製例4(10%Rh/SiO−Al
ドデカカルボニルテトラロジウム(1.8g)を溶解させたテトラヒドロフラン溶液に粒径0.7〜1.0mmのSiO−Al(9g)を加えて、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した。得られた固体を空気雰囲気下、400℃で3時間焼成し、10%Rh/SiO−Alを得た。
【0036】
触媒の調製例5(5%Rh/MgO)
ドデカカルボニルテトラロジウム(0.9g)を溶解させたテトラヒドロフラン溶液に塩基性炭酸マグネシウム粉体(20g)を加えて、ロータリーエバポレーターを用いて水を蒸発させ乾固した。得られた固体を空気雰囲気下、400℃で3時間焼成した。これをプレス機で圧縮した後破砕し、ふるいに掛けて粒径を0.7〜1.0mmとして、5%Rh/MgOを得た。
【0037】
触媒の調製例6(CuO/ZnO/Al
下記公知文献に従って調製した。
M. Saito、T. Fujitani、M. Takeuchi、T. Watanabe、「ジャーナル オブ モレキュラー キャタリシス A: ケミカル(Journal of Molecular Catalysis A: Chemical)」、(蘭国)、1996年、第138巻、p.311−318
これらの触媒、及び、CuO/ZnO/Alを表1に示すように、それぞれ触媒(1)〜(6)とする。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1
5/8インチ反応管(長さ41cm)の最下部にデミスター及びガラスウールを詰め、石英砂を高さ20.5cmとなるまで加え、ガラスウールを詰めた。続いて10%Ru−13%Cs/Al触媒を高さ4.8cmとなるように加えてガラスウールを詰め、更に石英砂を11cmとなるように加えてガラスウールを詰めた。触媒層部分には1/16インチ管に入った熱電対を差し込み、内温を測定できるようにした。上記反応管を電気炉に入れ、常圧(1atm、0.1MPa)で窒素100mL/分、水素10mL/分を流通させながら1時間かけて400℃まで昇温し、更に同温度で2時間保持して触媒の還元操作を行った。還元終了後、窒素及び水素の流通を止め、常圧でアンモニア200mL/分、二酸化炭素100mL/分を400℃で1時間流通して反応を行った(SV=1000h−1)。反応管の出口から出てくる気体を市ノ瀬式洗浄瓶内の純水(150mL)に通し、更に30%硫酸水溶液(150mL)に通した後に得られた気体を100mL捕集瓶により捕集した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、メタノール19μmol、エタノール119μmol、アセトニトリル36μmolが検出された。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、水素55mmol、メタン29mmol、一酸化炭素0.36mmolが検出された。
【0040】
実施例2
触媒を10%Ir/Alとし、常圧でアンモニア200mL/分、二酸化炭素100mL/分、窒素100mL/分を400℃で1時間流通した以外は、実施例1に従って反応を実施した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、エタノール110μmolが検出された。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、水素6.1mmol、メタン5.3mmolが検出された。
【0041】
実施例3
触媒を10%Pd/Alとし、常圧でアンモニア200mL/分、二酸化炭素100mL/分、窒素100mL/分を400℃で1時間流通した以外は、実施例1に従って反応を実施した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、メタノール11μmol、エタノール44μmolが検出された。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、水素0.3mmol、メタン1.6mmolが検出された。
【0042】
実施例4
触媒を10%Rh/SiO−Alとし、常圧でアンモニア200mL/分、二酸化炭素100mL/分、窒素100mL/分を400℃で1時間流通した以外は、実施例1に従って反応を実施した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、エタノール14μmolが検出された。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、水素8.5mmol、メタン0.64mmol、一酸化炭素5.9μmolが検出された。
【0043】
実施例5
触媒を5%Rh/MgOとし、常圧でアンモニア200mL/分、二酸化炭素100mL/分、窒素100mL/分を400℃で1時間流通した以外は、実施例1に従って反応を実施した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、エタノール150μmolが検出された。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、水素4.7mmol、一酸化炭素4.1μmolが検出された。
【0044】
比較例1
還元温度を250℃とし、触媒をCuO/ZnO/Alとして、常圧で二酸化炭素90mL/分、水素30mL/分を250℃で1時間流通した以外は、実施例1に従って反応を実施した。市ノ瀬式洗浄瓶内の純水をFID型ガスクロマトグラフで分析したところ、メタノール、エタノール、アセトニトリルは検出されなかった。また、捕集した気体をTCD型ガスクロマトグラフで分析したところ、メタンや一酸化炭素は検出されなかった。
実施例1〜5、比較例1の結果を表2に示す。表2中、NDは、検出されなかったことを表す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、アンモニアを還元剤として、常圧で二酸化炭素を還元して、炭素数2以上のアルコールを得ることが可能であることが確認された。一方、水素を還元剤とした場合には、常圧では二酸化炭素を還元することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と還元剤とを反応させて炭素数2以上のアルコールを製造する方法であって、
該製造方法は、窒素及び水素を含む化合物を還元剤として用いて二酸化炭素を還元する工程を含むことを特徴とする炭素数2以上のアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記還元工程は、周期律表の3〜12族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物を触媒として用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の炭素数2以上のアルコールの製造方法。




【公開番号】特開2011−207843(P2011−207843A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79308(P2010−79308)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】