説明

炭素材料及びその製造方法

【課題】パーティクルが発生するのを抑制することにより、発塵性が低いことが重要視される半導体製造分野等においても用いることができる炭素材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素基材の表面に炭化クロム層が形成された炭素材料において、上記炭化クロム層がCrから構成されていることを特徴とするものであり、炭素基材の表面に、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成する第1ステップと、上記炭素基材を還元性雰囲下で加熱処理し、上記Cr以外の炭化クロムをCrに転化させる第2ステップとを経ることにより作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料およびその製造方法に関するものであり、特に表面改質され、パーティクルが発生するのが抑制された炭素材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材は、軽量であるとともに、化学的・熱的安定性に優れ、非金属でありながら熱伝導性および電気伝導性が良好であるという特性を有している。しかし、発塵性を有するため、半導体製造工程等における材料としては使用が制限される。
【0003】
そこで、下記特許文献1や、特許文献2に示されるように、ハロゲン化クロムガスにて炭素基材を処理することによって、炭素基材の表面にCr23からなる炭化クロム層を設ける発明が提案されている。しかしながら、Cr23等のクロムの組成比が大きな炭化クロムを形成した場合には、炭化クロムの硬度が高くなって、ハンドリング等で欠損が生じ易くなる。この結果、パーティクルが発生するため、半導体製造装置内部に使用される部材(例えば、冶具)等、発塵性が低いことが重要視される部材に用いることができないという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−143384号
【特許文献2】特開平8−143385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、パーティクルが発生するのを抑制することにより、半導体製造分野等においても用いることができる炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、炭素基材の表面に炭化クロム層が形成された炭素材料において、上記炭化クロム層がCrを主成分とすることを特徴とする。
炭化クロム層がCrを主成分としていれば、Cr23等に比べてクロムの組成比が小さくなる(炭素比率の組成比が大きくなる)ため、硬度が低くなり(柔軟になり)、ハンドリング等で欠損が生じ難くなる。この結果、パーティクルの発生(発塵性)を抑制することができるので、半導体製造分野等、発塵性が低いことが重要視される分野で炭素材料を用いることができる。尚、Crを主成分とするとは、炭化クロム層におけるCrの割合が50重量%を超えている場合をいう。
【0007】
ここで、炭素材料を純水に浸して洗浄した後、洗浄後の炭素材料を3000mLの純水中で超音波をかけて粒子を抽出し、パーティクルカウンタでパーティクル数を測定した際、0.2μm以上のパーティクル数が前記炭素材料の表面積100mm当たり100個未満であることが好ましく、50個未満であることが一層望ましい。
【0008】
また、炭素材料を純水に浸して洗浄した後、洗浄後の炭素材料を3000mLの純水中で超音波をかけて粒子を抽出し、パーティクルカウンタでパーティクル数を測定した際、0.1μm以上のパーティクル数が前記炭素材料の表面積100mm当たり1000個未満であることが好ましく、500個未満であることが一層望ましい。
さらに、前記炭化クロム層は、主として斜方晶の構造となっていることが好ましい。
【0009】
また、本発明は上記目的を達成するために、炭素基材の表面に、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成する第1ステップと、上記炭素基材を還元性雰囲下で加熱処理し、上記Cr以外の炭化クロムをCrに転化させる第2ステップと、を有することを特徴とする。
このような方法により、上述した炭素材料を作製することができる。尚、過熱処理前の炭化クロム層にはCr以外の炭化クロムが含まれていれば良く、したがって、Cr以外の炭化クロムのみで構成されていても、CrとCr以外の炭化クロムとで構成されていても良い。
【0010】
上記第1ステップにおいて、クロム粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することにより、炭素基材の表面にCr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成することが望ましい。
このような方法であれば、炭化クロム層を容易に形成することができる。
【0011】
上記Cr以外の炭化クロムが、CrC、Cr、及びCr23からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることが望ましく、また、上記還元性雰囲気は水素ガス雰囲気であることが望ましい。
【0012】
上記第2ステップにおける加熱処理は500℃以上1500℃以下で行うことが望ましい。
ここで、第2ステップにおける加熱処理時の温度を500℃以上1500℃以下に規制するのは、当該温度が500℃未満ではCrC等がCrに転化しないことがある一方、当該温度が1500℃を超えても転化速度をそれ以上高めることができないばかりか、エネルギー損失が大きくなって、炭素材料の製造コストが高騰するからである。尚、Crに円滑に転化させ、且つ、炭素材料の製造コストを低減するためには、当該温度は800℃以上1100℃以下であることが特に好ましい。
【0013】
上記第2ステップにおける加熱処理は10〜1000Paの減圧下で行うことが望ましい。
このように規制するのは、圧力が1000Paを超えたり、10Pa未満では、装置や処理に使用するガス等のコストがかかりすぎるため実用的ではなくなるからである。また、10〜1000Paの圧力であれば装置上の構成が簡単になるとともに、転化効果を十分発揮でき、好ましい。そして、処理後の上記の炭化クロム層は、Crを主体とする斜方晶となっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パーティクルの発生(発塵性)を抑制することができるので、発塵性が低いことが重要視される半導体製造分野等においても炭素材料を用いることができる。例えば、本発明の炭素材料を半導体製造分野における治具として使用した際に、相手材へのパーティクル付着を防止することが可能となるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の炭素材料の製造方法に用いられる装置の一例を示す図である。
【図2】比較材料Z1の表面のSEM画像である、
【図3】本発明材料Aの表面のSEM画像である。
【図4】本発明材料Aと比較材料Z1とのX線回折チャートを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。
本発明は、炭素基材の表面に、Crから構成された炭化クロム層を有する炭素材料である。この炭素材料は、炭素基材の表面に、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成する第1ステップと、還元性雰囲気下で加熱処理する第2ステップを経ることにより作製することができる。この際、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層(以下、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を、単に、炭化クロム層と称することがある)を炭素基材の表面に形成する第1ステップでは、CVR法を用いるのが好ましい。第2ステップにおける加熱処理は、10〜1000Paの減圧下で、500℃以上1500℃以下の温度範囲で行うのが好ましい。
以下、加熱処理前の炭素材料について説明する。
【0017】
上記炭素材料(第2ステップにおける加熱処理を行う前の炭素材料)は、例えば、クロム粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤等とを含む表面改質剤(粉体状)に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することにより作製できる(第1ステップ)。
上記炭素部材としては、黒鉛坩堝等の炭素からなる容器、炭素粉末などが挙げられる。このように、炭素部材とともに、処理されるべき炭素基材を加熱処理することにより、短時間で炭素基材に炭化クロム層を形成することができる。
【0018】
第1ステップにおける加熱処理は、1時間未満の処理にて炭素基材に炭化クロム層を色むらなくほぼ均一に形成することができる。この炭化クロム層は、30分もあれば十分形成することができる。この処理時間は、炭化クロム層を厚くする必要がある場合には、より長時間、たとえば1時間以上であってもよい。また、上記第1ステップにおける加熱処理は、500℃以上1500℃以下で行うことが好ましく、特に、800℃以上1200℃以下で行うことが好ましい。この温度範囲内で処理することにより、効率的に炭素基材を処理することができる。
【0019】
また、上記第1ステップにおける加熱処理は、常圧で行うことが好ましい。常圧で処理できることにより、真空ポンプ等の設備が不要であって、減圧にかかる時間が不要となり、処理が簡易となるとともに、処理時間の短縮となる。
【0020】
以下、本発明において使用される各部材について一例を示す。
上記炭素基材としては、特に限定されるものではなく、たとえば等方性黒鉛材、異方性黒鉛材、炭素繊維材等が挙げられる。この炭素基材は、かさ密度が1.0〜2.1g/cmであることが好ましく、気孔率40%以下であることが好ましい。
【0021】
上記熱分解性ハロゲン化水素発生剤とは、常温・常圧では固体状態を保ち、加熱により分解して、塩化水素、フッ化水素、臭化水素等のハロゲン化水素を発生するものである。この熱分解性ハロゲン化水素発生剤の熱分解温度としては、200℃以上の温度であることが、加熱する前の取り扱いが容易であり好ましい。この熱分解性ハロゲン化水素発生剤から発生したハロゲン化水素は、加熱処理中にクロムと反応してハロゲン化クロムガスを発生する。このハロゲン化クロムガスにより炭素基材を処理することにより炭素基材の表面に炭化クロム層を形成することができる。このように炭素基材の処理がガスによるものであるため、炭素基材に穴、溝等を形成したような複雑な形状である場合においても、炭素基材にほぼ均一に炭化クロム層を形成することができる。この熱分解性ハロゲン化水素発生剤としては、入手のしやすさから塩化アンモニウムが好ましい。
【0022】
上記炭素部材としては、たとえば黒鉛坩堝等の炭素からなる容器、炭素粉末などが挙げられる。
炭素部材を用いることにより、炭素基材の処理時間を短縮することができるとともに、水素ガスの供給を不要にすることができ、より簡易に炭素基材を表面改質することができる。
【0023】
上記炭素部材としては、黒鉛坩堝を用いることが好ましい。処理する際に黒鉛坩堝を用いることにより、埋め込まれた炭素基材の周囲における気体の流れを抑制することができ、炭素基材の表面に色むらなくより均一に炭化クロム層を形成することができる。また、粉体から発生したガスを黒鉛坩堝内にある程度留めておけるため、発生したガスを有効利用することができる。この黒鉛坩堝には蓋をしておくことが好ましく、この蓋により炭素基材の周囲における気体の流れをより抑制することができる。この蓋としては、黒鉛製のもの、黒鉛からなるシート等が挙げられる。また、容器内で発生する気体を逃がすために、容器または蓋に通気孔を設けておくことが好ましい。なお、黒鉛からなるシートを使用する場合には、単に覆っているだけであるため、特に通気孔は必要ではない。
【0024】
炭素部材として、炭素粉末を使用する場合には、クロム粒子、熱分解性ハロゲン化水素発生剤および炭素粉末を含む粉体を容器に充填し、この容器に充填した粉体に炭素基材を埋め込み加熱処理すればよい。なお、この炭素部材として炭素粉末を使用する場合には、容器は特に限定されることはない。そして、処理する際に、蓋をする、あるいは黒鉛からなるシートを被せる等して、容器内の気体の流れを抑制してもよい。また、容器として上記の黒鉛坩堝を用いてもよい。
【0025】
炭素基材を埋め込んだ容器には、直接導入ガスを吹き込まないようにしている。逆に、水素ガスを導入しつつ処理しようとしても、黒鉛坩堝等の容器が水素ガスの妨げとなり、効率よく水素ガスを用いた処理を行うことは困難である。
【0026】
次に、炭素材料(第2ステップにおける加熱処理を行う前の炭素材料)の製造及び、加熱処理において用いられる装置の一例について、図1を用いて説明する。ここで、炭素材料(加熱処理前の炭素材料)の製造では、炭素部材として黒鉛坩堝を使用した場合について説明する。
【0027】
(1)炭素材料(第2ステップにおける加熱処理を行う前の炭素材料)の製造に用いる場合
上記装置は、加熱ヒーターを有する加熱炉1を備え、この加熱炉1内に載置された処理物を加熱処理するようになっている。この加熱炉1には、吸気口4および排気口5が設けられている。上記吸気口4からは、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが導入できるようになっている一方、上記排気口5からは上記不活性ガス等が自然に排気されるようになっている。
【0028】
また、本装置には、加熱炉1内に黒鉛坩堝6が配置されるようになっている。この黒鉛坩堝6には、粉体(表面改質剤)3が充填され、この充填された粉体3に処理される炭素基材2が埋め込まれるようになっている。上記粉体3には、熱分解性ハロゲン化水素発生剤、及び、クロム粒子が含まれている。尚、上記黒鉛坩堝6は蓋体7で蓋がされるようになっており、この蓋体7には通気孔が設けられている。
【0029】
上記図1の装置で炭素材料(第2ステップにおける加熱処理を行う前の炭素材料)を製造する場合には、炭素部材としての黒鉛坩堝6に粉体3を充填し、この充填した粉体3に炭素基材2を埋設して、蓋体7をする。そして、この黒鉛坩堝6を装置に配置し、800℃以上1500℃以下で加熱する。これにより、炭素材料の製造方法を実施することができる。
【0030】
(2)第2ステップにおける加熱処理に用いる場合
炭素材料(第2ステップにおける加熱処理前の炭素材料)の製造に用いる場合と異なる点についてのみ説明する。
第2ステップにおける加熱処理を行う際には、上記吸気口4からはHガス等の還元ガスが導入できるようになっている一方、上記排気口5は図示しない真空ポンプと連結されており、加熱炉1内を減圧できるようになっている。炭素材料(加熱処理前の炭素材料)は黒鉛坩堝6との間に配置された図示しない炭素材料からなる支持板に配置されるようになっている。
【0031】
上記図1の装置で加熱処理を行なう場合には、炭素材料を直接装置内に配置した後、真空ポンプを用いて、装置内の圧力が10Pa以上10000Pa以下となるまで減圧する。次に、吸気口4からはHガス等の還元ガスを導入しつつ、装置内の温度を500℃以上1500℃以下(好ましくは、800℃以上1100℃以下)まで上昇させる。このような状態を、1分以上30時間以下保持することによって、加熱処理が実施される。このように規制するのは、加熱処理の時間が1分未満であれば、CrC、Cr、及びCr23等をCrに転化することができないことがある一方、30時間もあれば十分に転化が行われるからである。このような観点、及びエネルギーの損失を抑制するという観点を考慮すれば、第2ステップにおける加熱処理の時間は5時間以上25時間以下であることが特に好ましい。
【0032】
尚、クロムの量は炭素基材の表面積に応じて変化させる必要があるが、炭素基材1cm当たり0.6〜0.9g(特に、0.7〜0.8g)程度に規制するのが好ましい。このように規制すれば、後述の膜厚の炭化クロム層を得ることができるからである。
【0033】
また、熱分解性ハロゲン化水素発生剤として塩化アンモニウムを用いる場合には、クロム粉末と塩化アンモニウムとの重量比は6:1〜7:1に規制するのが好ましい。塩化アンモニウム粉が少な過ぎると、炭素基材上に炭化クロム層が十分に生成されない一方、塩化アンモニウム粉が多過ぎると、ハロゲン化水素の過剰供給により炭化金属層の生成が不十分となるという問題が生じるからである。このようなことを考慮すれば、クロム粉末と塩化アンモニウムとの重量比は、6:1〜7:1であることが特に望ましい。
【0034】
更に、炭化クロム層の厚さは1μm以上50μm以下であることが好ましい。これは、炭化クロム層の厚さが1μm未満の場合には、処理されるカーボンの全面改質が困難であるという不都合が生じることがある一方、炭化クロム層の厚さが50μmを超える場合には、最終の炭素材の寸法変化が大きくなりすぎるため、寸法制御が困難であるという不都合が生じることがあるという理由による。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例>
図1に示す装置を用い、黒鉛坩堝(東洋炭素株式会社製、型番IG−11)にクロム粉末(106.8g)、塩化アンモニウム(NH4Cl)粉末(15.6g)、アルミナ(Al)粉末(520.4g)からなる混合粉体を充填し、この充填された混合粉体に、炭素基材(冷間等方圧加圧成形を経た緻密質等方性黒鉛;かさ密度1.8g/cm、平均気孔半径5μm、気孔率20%、大きさ(概寸)10mm×10mm×60mm〔表面積:2600mm〕)を埋め込み、蓋をして加熱炉に配置して加熱処理した。加熱時、吸気口から窒素を導入し、排気口から自然排気させた。これにより、加熱処理前の炭素材料が作製される。尚、上記加熱処理における温度は1000℃で、処理時間は30分である。また、炭化クロム層の膜厚は2〜3μmであり、また、炭化クロム層はほぼCrCで構成されていた。
【0036】
次に、同一の装置を用い、上記のようにして作製した炭素材料を直接装置内に配置した後、真空ポンプを用いて、装置内の圧力が150Paとなるまで減圧する。次いで、吸気口4からはHガスを導入しつつ、装置内の温度を1100℃まで上昇させ、このような状態を20時間保持することによって、加熱処理を行った。これにより、上記CrCがCrに転化し、後述の実験3で示すように、炭化クロム層はCrを主成分として構成されることになった。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料Aと称する。
【0037】
<比較例1>
加熱処理を施さなかった他は、上記実施例と同様にして炭素材料を作製した。これにより、CrCがCrに転化しないため、後述の実験4で示すように、炭化クロム層はほぼCrCで構成される。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z1と称する。
【0038】
<比較例2>
炭素基材を炭素材料として用いた(炭素基材の表面には炭化クロム層は形成されていない)。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z2と称する。
【0039】
<実験1>
上記本発明材料A及び比較材料Z1、Z2のパーティクル量を、下記の方法で測定したので、その結果を表1に示す。
・パーティクル量の測定方法
各材料を純水に浸して十分に洗浄(5分間以上洗浄)した後、洗浄後の試験片を3000mlの純水中で超音波をかけて粒子を抽出し、パーティクルカウンタ(リオン社製XP−L7W)でパーティクル数を測定した。そして、各材料の単位表面積(100mm)当たりのパーティクル数を求めた。
【0040】
【表1】

【0041】
<実験2>
また、本発明材料Aおよび比較材料Z1に対し他材が触れる、擦れるといった状況による発塵を想定し、パーティクル数の測定を行った。その結果を表2に示す。
・気中パーティクルの測定方法
比較材料Z1および本発明材Aの表面(490mm)を1分間に15回、指でつまんだ針の腹でなぞった。放出された粒子を、表面粒子測定器(PENTAGON TECHNOLOGIES製Surface Particle Detector QIII+)を用いて捕集し測定した。そして、各材料の単位表面積(100mm)当たりの発生パーティクル数を求めた。
【0042】
【表2】

【0043】
上記表1および表2から明らかなように、炭素基材の表面に炭化クロム層が形成された比較材料Z1は、炭素基材の表面に炭化クロム層が形成されていない比較材料Z2に比べて、パーティクル量は少なくなっているが、半導体製造分野等で使用するには、パーティクルを更に低減する必要がある。これに対して、炭素基材の表面に炭化クロム層を形成した後に加熱処理を行った本発明材料Aでは、比較材料Z2のみならず比較材料Z1と比較しても、パーティクル量が飛躍的に低減しており、半導体製造分野等であっても十分に使用することができることがわかる。また、本発明材料Aでは、他材との摩擦が生じた場合においてもパーティクルの発生は明らかに低く抑えられているため、その使用、取扱いに際しパーティクル発生の懸念が非常に小さい。この摩擦により生じるパーティクル数は、単位面積(100mm)当たり500個未満が好ましく、100個未満であることがより好ましい。
【0044】
<実験3>
上記本発明材料Aと比較材料Z1との表面において、炭素とクロムとの割合について下記の方法で調べたので、その結果を上記表1に併せて示す。また、比較材料Z1の表面のSEM画像を図2に示し、本発明材料Aの表面のSEM画像を図3に示す。
・炭素とクロムとの割合の測定方法
この測定は、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)装置を用いて行った。具体的には、電子プローブを各材料の表面に照射し、放出される特性X線を測定して元素分析を行なった。
【0045】
表1、2から明らかなように、本発明材料Aは比較材料Z1に比べて、クロムの割合が少なく、炭素の割合が多くなっていることが認められる。本発明材料Aは、炭素とクロムの割合から見ても、ほぼCrの組成に等しく、安定した炭化クロム層となっていると考えられる。一方、比較材料Z1では、クロムの割合が多いことから、反応しきっていないクロムが残存しており、炭化クロム層として不安定であると考えられる。それにより発生するパーティクルを抑制しきれないと考えられる。
【0046】
<実験4>
上記本発明材料Aと比較材料Z1のX線回析パターンの測定(線源:CuKα)を行ったので、その結果を図4に示す。図4において、上段は比較材料Z1のチャートであり、下段は本発明材料Aのチャートである。
図4から明らかなように、本発明材料Aでは炭化クロム層がCrを主とした斜方晶の構造となっている。一方、比較材料Z1では炭化クロム層が主にCrCから構成されていることが認められる。
【0047】
このように、本発明材料Aでは炭化クロム層が主として斜方晶の構造をとることにより炭化クロム層が安定化しており、パーティクルの発生をより抑制しているものと考えられる。さらに、図3からわかるように本発明材料Aでは、表面における結晶が発達しており、パーティクルの抑制効果が高いものと考えられる。
それに対して比較材料Z1の表面の炭化クロム層は、CrCを主とした結晶構造となっている。さらに、図2からわかるように、比較材料Z1では、表面における結晶が発達しておらず、はっきりしていない構造となっており、不安定になっていると考えられる。
【0048】
(その他の事項)
(1)上記実施例では、炭素材料(第2ステップにおける加熱処理を行う前の炭素材料)として、クロム粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤等とを含む表面改質剤に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することにより作製したものを用いたが、これに限定するものではなく、上記特許文献1や上記特許文献2で示したもの等、如何なる製法で作製した炭素材料であっても、熱処理を行うことにより、Cr以外の炭化クロムがCrに転化するので、パーティクルを低減することが可能である。
【0049】
(2)上記実施例では、加熱処理前の炭化クロム層はCrCで構成されていたが、これに限定するものではなく、CrやCr23で構成されていても良く、また、これらの混合物で構成されていても良い。また、加熱処理前の炭化クロム層には、Crが含まれていても良い。この場合、加熱処理を行うと、Cr以外の炭化クロムはCrに転化し、Crはそのままの状態が保持される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の炭素材料及びその製造方法は、半導体製造装置の部材、電子デバイス(センサー等)製造用の治具、他材同士を接着する際の位置決め治具として用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 加熱炉
2 炭素基材
3 粉末
4 吸気口
5 排気口
6 黒鉛坩堝
7 蓋体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基材の表面に炭化クロム層が形成された炭素材料において、
上記炭化クロム層がCrを主成分としていることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
炭素材料を純水に浸して洗浄した後、洗浄後の炭素材料を3000mLの純水中で超音波をかけて粒子を抽出し、パーティクルカウンタでパーティクル数を測定した際、0.2μm以上のパーティクル数が前記炭素材料の表面100mm当たり100個未満である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
炭素材料を純水に浸して洗浄した後、洗浄後の炭素材料を3000mLの純水中で超音波をかけて粒子を抽出し、パーティクルカウンタでパーティクル数を測定した際、0.1μm以上のパーティクル数が前記炭素材料の表面100mm当たり1000個未満である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記炭化クロム層は斜方晶の構造となっている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
炭素基材の表面に、Cr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成する第1ステップと、
上記炭素基材を還元性雰囲下で加熱処理し、上記Cr以外の炭化クロムをCrに転化させる第2ステップと、
を有することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項6】
上記第1ステップにおいて、クロム粒子と熱分解性ハロゲン化水素発生剤とを含む表面改質剤に埋め込まれた炭素基材を、該炭素基材以外の炭素部材とともに加熱処理することにより、炭素基材の表面にCr以外の炭化クロムを含む炭化クロム層を形成する、請求項5に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項7】
上記Cr以外の炭化クロムが、CrC、Cr、及びCr23からなる群から選択される少なくとも1種から構成される、請求項5又は6に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項8】
上記還元性雰囲は水素ガス雰囲気である、請求項5〜7の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項9】
上記第2ステップにおける加熱処理は、500℃以上1500℃以下で行う、請求項5〜8の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項10】
上記第2ステップにおける加熱処理は10〜1000Paの減圧下で行う、請求項5〜9の何れか1項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかの炭素材料からなる治具。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−171823(P2012−171823A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34384(P2011−34384)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】