説明

炭素繊維マットの製造方法及び製造装置

【課題】短繊維化した炭素繊維をそのまま使用しつつ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】短繊維に切断した炭素繊維原料から開繊された綿状繊維53を所定の厚みに積層してフリース状繊維マット61Cを形成する炭素繊維マットの製造方法において、前記綿状繊維53を開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間に設けた空気室5にて浮遊させてから、前記吸引ケージ6に吸引して積層させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維化した炭素繊維原料からフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維マットは、高温における耐熱性、断熱性等に優れているため、各種高温炉の断熱材やディーゼルエンジン車の排ガスフィルタ材、溶接現場での遮熱材等として使用されている。
しかし、炭素繊維は、繊維自体に捲縮性を持たず、滑りやすいので、繊維同士が絡みにくいという問題があった。また、無理に開繊すると炭素繊維が折損する問題もあった。そのため、従来のカード機を用いて、短繊維化した炭素繊維原料から均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成することは、困難であった。
【0003】
この問題に対応するために、例えば、特許文献1〜3の技術が開示されている。
特許文献1の技術は、炭化処理等した繊維からなるバット層の少なくとも片面に焼成により炭化又は黒鉛化する高分子繊維の織布等を載置し、その載置面側からニードルパンチングで一体化し、これを焼成する炭素繊維製高密度フェルトの製造方法に関する技術である。
また、特許文献2の技術は、レーヨン繊維と、レーヨン繊維が炭化する温度以下の温度で軟化、溶融する有機質繊維とを所定の割合で混紡し、ニードルパンチングした不織布を複数枚積層して、加圧しながら非酸化性雰囲気中で加熱処理する炭素繊維質断熱材の製造方法に関する技術である。
また、特許文献3の技術は、炭素繊維等の無機短繊維を搬入コンベアで予備処理室に一定量ずつ搬入させて送り込みローラで予備開繊シリンダに定量ずつ連続して供給して予備開繊させ、続いて複数の本開繊シリンダにより本開繊させ、この本開繊中に予備処理室内上部に設置された予備処理剤噴霧ノズルから予備処理剤を噴霧させ、無機短繊維をすべりやすくし、かつ、ふわっとした良好な開繊状態を付与し、搬出コンベアで搬出しながらエージング処理を行わせる、炭素繊維等の不織布製造工程の予備処理に関する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−33249号公報
【特許文献2】特開2009−73715号公報
【特許文献3】特開2000−328419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載された技術には、次のような問題があった。
特許文献1、2の技術では、炭化処理等する前の高分子繊維又は有機質繊維をニードルパンチング後に、焼成等の加熱処理をする必要がある。そのため、積層した繊維マットを加熱処理する工程及び加熱処理装置に、多大なコストが掛かるという問題が生じることになる。
また、焼成等の加熱処理においては、加熱処理工程での温度管理が焼成等した炭素繊維の耐熱性等に対する品質に直接影響するので、予め一定レベルに品質保証がされた炭素繊維をそのまま使用する場合に比べて、安定した品質を得にくい問題がある。
【0006】
この点、特許文献3の技術では、炭素繊維をそのまま使用しているので、積層した繊維マットを加熱処理する必要はないが、本開繊中に予備処理剤を噴霧し、その後、エージング処理(乾燥)させる必要がある。そのため、予備処理剤の噴霧処理及びエージング処理(乾燥)のための新たな工程及び装置を必要とし、コスト増大の問題は生じてしまう。
また、予備処理剤を噴霧しても、予備処理剤を繊維全体へ均一に塗布することは、必ずしも、容易ではない。そのため、予備処理剤が不十分な箇所は、本開繊シリンダで均一に開繊することができない。結局、従来のカード機を用いて、上記予備処理した炭素繊維原料から均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成することは、容易ではない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、短繊維化した炭素繊維をそのまま使用しつつ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維マットの製造方法及び製造装置は、次のような構成を有している。
(1)短繊維に切断した炭素繊維原料から開繊された綿状繊維を所定の厚みに積層してフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法において、
前記綿状繊維を開繊シリンダと吸引ケージとの間に設けた空気室にて浮遊させてから、前記吸引ケージに吸引して積層させることを特徴とする。
【0009】
(2)(1)に記載された炭素繊維マットの製造方法に使用する炭素繊維マットの製造装置において、
前記空気室には、前記開繊シリンダ側から前記吸引ケージ側に向けて送風する送風口が設けられていることを特徴とする。
(3)(2)に記載された炭素繊維マットの製造装置において、
前記吸引ケージは、上部吸引ケージと下部吸引ケージとからなり、両吸引ケージの隙間を前記炭素繊維マットが通過することを特徴とする。
(4)(3)に記載された炭素繊維マットの製造装置において、
前記両吸引ケージの隙間は、前記空気室の底面より上方に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
次に、本発明に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置の作用及び効果について説明する。
(1)短繊維に切断した炭素繊維原料から開繊された綿状繊維を所定の厚みに積層してフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法において、綿状繊維を開繊シリンダと吸引ケージとの間に設けた空気室にて浮遊させてから、吸引ケージに吸引して積層させることを特徴とするので、短繊維化した炭素繊維をそのまま使用しつつ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成することができる。
【0011】
具体的には、綿状繊維を開繊シリンダと吸引ケージとの間に設けた空気室にて浮遊させるので、開繊シリンダで開繊された綿状繊維を空気室の中で1本1本バラバラに分離させることができる。そのため、綿状繊維は、空気室の中で束状の塊を形成することなく、均一に分散することができる。このとき、綿状繊維は、空気中に浮遊して分散するので、炭素繊維が折損する問題も生じない。
また、綿状繊維を空気室にて浮遊させてから、吸引ケージに吸引して積層させるので、1本1本の炭素繊維がバラバラの向きで吸引ケージの外周面又は吸引ケージ前の空気室底面に積層させることができる。つまり、炭素繊維がバラバラの向きで吸引ケージに積層して繊維マットを形成するので、繊維マットにおける繊維の配向性がランダムとなり、マット自体の繊維密度が均一となる。また、マット自体の引張り強度も、全方向に対して均一となる。
さらに、綿状繊維を吸引ケージに吸引して積層させるので、仮に、積層途中で繊維マットの厚みに不揃いが生じても、厚い箇所の吸引力は低下し、薄い箇所の吸引力は上昇するので、空気室中に浮遊又は空気室底面に滞留する綿状繊維は、吸引力の上昇した薄い箇所に集まってくる。その結果、吸引ケージに積層された繊維マットの内、薄い箇所に集中的に綿状繊維が吸引されて、全体として均一な厚さの繊維マットを形成することができる。
よって、(1)の発明によれば、短繊維化した炭素繊維をそのまま使用しつつ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法を提供することができる。
【0012】
(2)(1)に記載された炭素繊維マットの製造方法に使用する炭素繊維マットの製造装置において、空気室には、開繊シリンダ側から吸引ケージ側に向けて送風する送風口が設けられていることを特徴とするので、綿状繊維の量が多く、開繊シリンダと吸引ケージとの間の空気室底面に綿状繊維が滞留しても、送風口からの風によって、滞留した綿状繊維の固まりを吸引ケージ側に移動させることができる。
具体的には、積層した繊維マットが一定の厚みを有するためには、一定量の綿状繊維の固まりが必要であるが、均一な厚みの繊維マットを形成するためには、綿状繊維の固まりが均一に分布していなくてはならない。そして、綿状繊維の固まりを均一に分布させるために重要な要素は、綿状繊維が量的に十分浮遊できる空間的余裕のある空気室と、空気室底面に滞留した綿状繊維の固まりを開繊シリンダ側から吸引ケージ側へ移動させる風力の大きさである。開繊シリンダは、開繊用の突起を有するシリンダであり、高速で回転するので、回転による風力を発生させる。また、吸引ケージは、排気ダクトに連通して空気室の空気をケージ内に吸引するので、風力を吸引方向に発生させる。
しかし、開繊シリンダと吸引ケージが発生させる風力のみでは、綿状繊維の量が多くなると、開繊シリンダと吸引ケージとの間の空気室底面に滞留した綿状繊維の固まりを吸引ケージ側に移動させる風力としては、不十分な場合がある。
そこで、空気室に、開繊シリンダ側から吸引ケージ側に向けて送風する送風口を設けて、不足する風力を補充したのである。この送風口には、案内板を設けて、風向や風量等を調節するとより効果的である。
【0013】
(3)(2)に記載された炭素繊維マットの製造装置において、吸引ケージは、上部吸引ケージと下部吸引ケージとからなり、両吸引ケージの隙間を炭素繊維マットが通過することを特徴とするので、より均一な厚みの繊維マットを、より早く形成することができる。
具体的には、上部吸引ケージに積層した繊維マットと下部吸引ケージに積層した繊維マットとが両吸引ケージの隙間を通過するときに重なり合うので、均一な厚みの繊維マットを形成する速度が向上する。また、両吸引ケージの隙間を炭素繊維マットが通過する際、繊維マットの厚みの不揃いが多少生じていても修正されるので、より均一な厚みの繊維マットを形成することができる。
【0014】
(4)(3)に記載された炭素繊維マットの製造装置において、両吸引ケージの隙間は、空気室の底面より上方に設けられていることを特徴とするので、下部吸引ケージに積層する綿状繊維を、より均一に積層させることができる。
具体的には、両吸引ケージの隙間を空気室の底面より上方に設けることによって、空気室底面に滞留した綿状繊維は、下部吸引ケージの空気室に対向する円弧面を経由しないと、両吸引ケージの隙間を通過することができない構造になっている。そのため、下部吸引ケージに積層された繊維マットの内、薄い箇所と厚い箇所が有ったとき、送風口からの風によって、空気室底面に滞留した綿状繊維の固まりを移動させる際、薄い箇所に集中的に綿状繊維を供給することができ、全体として均一な厚さの繊維マットを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置の実施形態を含む炭素繊維不織布の製造工程の全体図である。
【図2】本実施形態における装置主要部の断面図である。
【図3】本実施形態における吸引ケージに綿状繊維が吸引されて積層する状態を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、はじめに炭素繊維不織布を製造する製造工程の全体構成を説明した上で、本実施形態に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置について詳細に説明し、その動作及び作用効果について説明する。
【0017】
<炭素繊維不織布製造工程の全体構成>
はじめに、炭素繊維不織布を製造する製造工程の全体構成について説明する。図1に、本発明に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置の実施形態を含む炭素繊維不織布の製造工程の全体図を示す。
図1に示すように、炭素繊維不織布の製造工程は、炭素繊維切断工程1と混打工程2、3とウェブ(ここでは、「炭素繊維マット」と称する。)形成工程10とニードリング工程8と裁断工程9とを備えている。
炭素繊維切断工程1は、ボビンにコイル状で巻回された炭素繊維束を所定の長さに切断する工程である。炭素繊維束は、例えば、PAN系炭素繊維の束で、一般的に密度1.7〜2.0g/cm3程度で直径5〜10ミクロン程度の長繊維(フィラメント)が数千から数万本程度集合した集合体である。炭素繊維切断工程1では、ボビン11を巻戻し台17に載置して炭素繊維束12を巻き戻すとともに、巻き戻した炭素繊維束12を案内ローラ13を経由して切断機14に挿入して所定の長さに切断する。炭素繊維束12を切断する長さは任意に設定すればよいが、例えば、10cm程度の長さに切断する。切断して短繊維化した炭素繊維原料15は、パレット16に収容する。なお、炭素繊維原料15は、炭素繊維100%の原料である。
【0018】
混打工程2、3は、短繊維化した炭素繊維原料15を一般的な混打機にてほぐして、繊維の方向が揃って所定の大きさの綿状の固まり又は連続状になった粗綿を作る工程である。混打機には、図示しない複数のドラムやローラを備えていて、供給された繊維を小さい方のドラムが掻き込み、もう一つのドラムに渡すとき、繊維を分離して方向を揃える。炭素繊維束12は、非常に細い繊維が集合した繊維束であるので、フィラメント径に近い細径の繊維に分離した綿状の固まりを形成するためには、混打機を複数使う場合がある。ここでは、2台の混打機2、3を使用している。
【0019】
パレット16に収容した短繊維状の炭素繊維原料15は、第1混打機2の投入口21から投入され、粗綿化されて排出口から出てくる。この粗綿化された炭素繊維原料23は、より一層細径化して綿状の固まりとするため、第2混打機3の投入口31へ搬送コンベア24によって搬送される。第2混打機3に投入された炭素繊維原料23は、異物等が除去されながら1本1本のフィラメント径に近い状態に細径化された綿状の固まりとなって、排出口32から排出される。
第2混打機3から排出される炭素繊維原料34は、搬送コンベア35に載置されて搬送される途中に、予備ローラ33にて連続綿となるよう均らされた上で、本実施形態に係る炭素繊維マットの形成工程10に投入される。
【0020】
炭素繊維マットの形成工程10は、連続綿となった炭素繊維原料34から均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成する工程である。炭素繊維マットの形成工程10では、綿状繊維を互いに同期して回転する開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間に設けた空気室5にて浮遊させてから、吸引ケージ6に吸引して積層させ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成する。空気室5には、下方から送風機7にて所定の向きに風が供給されている。炭素繊維マットの形成方法及び装置の詳細については、後述する。
炭素繊維マットの形成工程10にて形成されたフリース状繊維マットは、搬送コンベア83に載置されてニードリング工程8に搬送される。その搬送の際、複数本の押えローラ82にて、フリース状にふわふわした炭素繊維マットを圧縮して、繊維密度を高めている。
【0021】
ニードリング工程8は、炭素繊維マット84の繊維密度をより高めるとともに、厚さ方向で繊維を混絡させて、炭素繊維不織布としての強度を向上させる工程である。ニードリング工程8では、先端に鉤状部を有する複数の針85を炭素繊維マットの上面から突き挿して、針85の鉤状部が引っ掛けた繊維を上方に引き上げながら繊維同士を厚さ方向で絡ませている。なお、あまり頻繁にニードリングすると炭素繊維の折損に繋がりやすいので、最低限の回数に控える必要がある。
最後の裁断工程9は、ニードリングした炭素繊維不織布を必要なサイズに裁断する工程である。ここでは、搬送コンベア91の上にカッターを設置して、必要な裁断を行っている。また、裁断された炭素繊維不織布92は、製品パレット93に収納される。
【0022】
<炭素繊維マットの製造方法及び製造装置>
次に、本実施形態に係る炭素繊維マットの製造方法及び製造装置100を説明する。図2に、本実施形態における装置主要部の断面図を示す。図3に、本実施形態における吸引ケージに綿状繊維が吸引されて積層する状態を説明する斜視図を示す。
図2に示すように、炭素繊維マットの製造装置100は、開繊シリンダ4と空気室5と吸引ケージ6と送風機7とを備えている。
開繊シリンダ4は、複数の突起部42を外周に設置した円筒状の開繊シリンダ本体41を有している。開繊シリンダ本体41は、回転中心43で軸支され、反時計方向(矢印Pの方向)に所定の回転速度で回転する。回転速度は、綿状繊維原料34の送込み量等によって最適な速度に設定する。例えば、800〜1000rpm程度である。
【0023】
また、開繊シリンダ4には、開繊シリンダ本体41の外周に設置した突起部42と干渉しない位置で、円弧状のカバー部材44が覆設されている。第2混打機3から排出される炭素繊維原料34の投入口には、カバー部材44が切り欠かれ、投入ローラ49A、49Bが設置されている。投入ローラ49A、49Bの回転によって、搬送コンベア35で搬送されてきた連続綿の炭素繊維原料34は、開繊シリンダ本体41の下方に投入される。開繊シリンダ本体41の回転により、投入された連続綿の炭素繊維原料34が、突起部42によって開繊される。開繊された綿状繊維53は、開繊シリンダ本体41の回転により発生する風によって、後方に飛ばされる。なお、カバー部材44の切り欠き下部には、風切板45が設けられ、投入ローラ49Bからの風の侵入を防止している。
【0024】
図2に示すように、空気室5は、開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間に設けられている。空気室5は、開繊シリンダ本体41の突起部42によって開繊され、後方に飛ばされた綿状繊維53を、内部に浮遊又は滞留させるための空間である。空気室5は、天井板51と底板52とを有し、天井板51と底板52とで画成された空間は、綿状繊維53が量的に十分浮遊できる空間的余裕を備えている。天井板51と底板52とは、略平行に形成され、開繊シリンダ4に対面する空間的広さと吸引ケージ6に対面する空間的広さが、略等しく形成されている。そのため、開繊シリンダ4の起こす風は、空気室5の中を均等に流れていく。空気室5内の風が均等に流れるので、綿状繊維53は、空気室5全体に均等に分散して浮遊することができる。
なお、天井板51と開繊シリンダ4のカバー部材44との連結部には、風切板46が設けられ、開繊シリンダ本体41とカバー部材44との隙間に風が侵入するのを防止している。
【0025】
また、空気室5の下端には、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて送風する送風口47が形成されている。送風口47の空気室出口には、送風機7から送風される風の風向、風量、風速等を調節する案内板48が、設けられている。案内板48で調節された風は、略水平に設けられている底板52に沿って吸引ケージ6側に流れる。なお、送風機7のファン本体71と送風口47とは、送風ダクト72によって連結されている。
【0026】
図2に示すように、吸引ケージ6は、開繊シリンダ4で開繊され、空気室5に浮遊又は滞留した綿状繊維53を吸引して積層させる円筒状の吸引ケージ本体62、63を備えている。吸引ケージ本体62、63の外周面には、吸引した綿状繊維53と空気とを分離するフィルター部材622、632が設置されている。フィルター部材622、632の材質は、特に限定しない。例えば、全面に細孔を明けたステンレス製の網や薄板でもよい。
【0027】
本実施形態では、吸引ケージ本体62、63を2個有している。2個の吸引ケージ本体62、63は、外径が略同寸法に形成され、上下方向に配置されている。各吸引ケージ本体62、63は、回転中心621、631で軸支され、空気室5側の外周面がお互いに近接する方向に回転する。すなわち、上部吸引ケージ本体62は反時計方向(矢印Qの方向)に回転し、下部吸引ケージ本体63は、時計方向(矢印Rの方向)に回転する。上部吸引ケージ本体62及び下部吸引ケージ本体63の回転速度はお互いに等しく、開繊シリンダ本体41の回転速度と同期するよう制御されている。ただし、両吸引ケージ本体62、63の回転速度は、開繊シリンダ本体41の回転速度よりも遅く設定されている。開繊シリンダ本体41を高速で回転させるのは、綿状繊維53の1本1本を細かく分離させて、空気室5内に均一に分散させるためである。また、吸引ケージ本体62、63を低速で回転させるのは、吸引ケージ6に吸引して積層した繊維マット61A、61Bを所定の厚みで均一に形成するためである。
【0028】
また、両吸引ケージ本体62、63は、所定の厚さの炭素繊維マット61Cが通過するよう、所定の隙間64を開けて設置されている。より均一な厚みの繊維マットを、より早く形成することができるためである。
また、両吸引ケージ本体62、63の隙間64は、空気室5の底板52より上方に設けられている。そのため、空気室5の底板52に滞留した綿状繊維53は、下部吸引ケージ本体63の空気室5に対向する円弧面を経由しないと、両吸引ケージ本体62、63の隙間64を通過することができない構造になっている。
【0029】
また、両吸引ケージ本体62、63の上下方向の外周側には、円弧状のカバー部材65A、65Bが覆設されている。カバー部材65A、65Bの両側(図面の表裏方向)には、角筒状の排気導入筒66が接続されている。排気導入筒66は、吸引ケージ本体62、63の内壁に連通していて、吸引ケージ本体62、63からの空気が導入される。排気導入筒66の上端67には、排気ダクトが連結されていて導入された空気は、図示しない集塵機によって吸引される。
炭素繊維マットの出口側のカバー部材64、65は、切り欠かれていて、デリバリローラ81A、81Bが設置されている。デリバリローラ81A、81Bは、両吸引ケージ本体62、63の隙間から排出される炭素繊維マット61Cを搬送コンベア83に送り出す役割を持っている。
ここで、デリバリローラ81A、81Bは、吸引ケージ本体62、63と連動して回転するとともに、回転速度も調節することができる。
【0030】
<動作説明>
次に、本実施形態に係る炭素繊維マットの製造装置100の動作方法を図2及び図3を用いて説明する。
図2に示すように、搬送コンベア35で搬送されてきた連続綿の炭素繊維原料34は、投入ローラ49A、49Bの回転によって、開繊シリンダ本体41の下方に投入される。投入された連続綿の炭素繊維原料34は、開繊シリンダ本体41が矢印Pの方向に高速回転することにより、突起部42によって開繊されながら、1本1本の綿状繊維53に分離されるとともに、開繊シリンダ本体41の回転により、矢印Sの方向に発生する風によって、後方の空気室5に飛ばされる。
【0031】
空気室5は、開繊シリンダ本体41の回転により飛ばされた綿状繊維53が量的に十分浮遊できる空間的余裕を備えているので、綿状繊維53は、空気室5の中で1本1本バラバラに分離され、束状の塊を形成することなく、均一に分散して浮遊する。
ここで、上部吸引ケージ62は矢印Vの方向に、また、下部吸引ケージ63は矢印Uの方向に、集塵機から排気ダクトを通じて吸引されている。そのため、空気室5に浮遊する綿状繊維53は、両吸引ケージ本体62、63に吸引(矢印V1、V2、V3・・・、及び矢印U1、U2、U3・・・)される。吸引された綿状繊維61A、61Bは、1本1本の炭素繊維がバラバラの向きで両吸引ケージ本体62、63の外周面に設けたフィルター部材622、632に積層する。
【0032】
また、図3に示すように、吸引ケージ本体62、63の外周面に設けたフィルター部材622、632に積層した炭素繊維の厚みが、薄い領域が生じる場合がある。例えば、領域K1が他の領域に比べて、炭素繊維の厚みが薄いとする。薄い領域K1では、炭素繊維による風の抵抗が少ないので、吸引力UL1が他の領域に比べて上昇する。すると、空気室5に浮遊する綿状繊維53は、吸引力UL1が上昇した領域K1に集中して吸引されていく。薄い領域K1の炭素繊維が、他の領域の厚みと等しくなるまで、この吸引力の差は生じているので、結局、領域K1の炭素繊維の厚みは、他の領域の厚みと略等しくなる。
【0033】
また、図2に示すように、空気室5の下端には、送風口47が設けられ、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて一定の風Tが送風されている。送風口47からの風Tによって、空気室5の底板52に滞留した綿状繊維53の固まりは、下部吸引ケージ本体63側に移動する。
このとき、図3に示すように、下部吸引ケージ63に積層された繊維マット61Bの内、厚みが薄い領域K2があると、前述の上昇した吸引力UL2に加えて、送風口47からの風Tによって、薄い領域K2に集中的に綿状繊維53が供給されて、全体として均一な厚さの繊維マット61Cを形成する。
【0034】
また、図2に示すように、各吸引ケージ本体62、63は、空気室5側の外周面がお互いに近接する方向(矢印Q、Rの方向)に、同一の速度で回転する。
また、上部吸引ケージ本体62に積層した繊維マット61Aと下部吸引ケージ本体63に積層した繊維マット61Bとが両吸引ケージの隙間64を通過するときに重なり合うので、均一な厚みの繊維マット61Cを形成する。また、両吸引ケージの隙間64を炭素繊維マットが通過する際、繊維マットの厚みの不揃いが多少生じていても修正されるので、より均一な厚みの繊維マットを形成する。
両吸引ケージ本体62、63の隙間64から排出される炭素繊維マット61Cは、デリバリローラ81A、81Bの回転によって、搬送コンベア83に送り出している。なお、デリバリローラ81A、81Bは、吸引ケージ本体62、63と連動して回転するとともに、回転速度も調節できるので、排出される炭素繊維マット61Cの厚みの管理が、精度良く迅速にできる。
【0035】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、短繊維化した炭素繊維原料をそのまま使用しつつ、均一な厚みに積層するフリース状繊維マットを形成することができる。ここで、炭素繊維原料は、炭素繊維100%の原料であるので、積層したフリース状繊維マットを焼成等する加熱処理をすることなく、耐熱材、断熱材、遮熱材等として使用することができる。
【0036】
具体的には、綿状繊維53を開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間に設けた空気室5にて浮遊させるので、開繊シリンダ4で開繊された綿状繊維53を空気室5の中で1本1本バラバラに分離させることができる。そのため、綿状繊維53は、空気室5の中で束状の塊を形成することなく、均一に分散することができる。このとき、綿状繊維53は、空気中に浮遊して分散するので、炭素繊維が折損する問題も生じない。
【0037】
また、綿状繊維53を空気室5にて浮遊させてから、吸引ケージ6に吸引して積層させるので、1本1本の炭素繊維がバラバラの向きで吸引ケージ6の外周面又は吸引ケージ6前の空気室5の底面に積層させることができる。つまり、炭素繊維がバラバラの向きで吸引ケージ6に積層して繊維マット61A、61Bを形成するので、繊維マットにおける繊維の配向性がランダムとなり、マット自体の繊維密度が均一となる。また、マット自体の引張り強度も、全方向に対して均一となる。
【0038】
さらに、綿状繊維53を吸引ケージ6に吸引して積層させるので、仮に、積層途中で繊維マットの厚みに不揃いが生じても、厚い箇所の吸引力は低下し、薄い箇所の吸引力は上昇するので、空気室5中に浮遊又は空気室5の底面に滞留する綿状繊維53は、吸引力の上昇した薄い箇所に集まってくる。その結果、吸引ケージ6に積層された繊維マット61A、61Bの内、薄い箇所に集中的に綿状繊維53が吸引されて、全体として均一な厚さの繊維マットを形成することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、空気室5の下端には、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて送風する送風口47が設けられていることを特徴とするので、綿状繊維53の量が多く、開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間の空気室5の底面に綿状繊維53が滞留しても、送風口47からの風Tによって、滞留した綿状繊維の固まりを吸引ケージ6側に移動させることができる。
具体的には、積層した繊維マットが一定の厚みを有するためには、一定量の綿状繊維53の固まりが必要であるが、均一な厚みの繊維マットを形成するためには、綿状繊維53の固まりが均一に分布していなくてはならない。そして、綿状繊維53の固まりを均一に分布させるために重要な要素は、綿状繊維53が量的に十分浮遊できる空間的余裕のある空気室5と、空気室5の底面に滞留した綿状繊維53の固まりを開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側へ移動させる風力の大きさである。開繊シリンダ4は、開繊用の突起42を有するシリンダであり、高速で回転するので、回転による風力を発生させる。また、吸引ケージ6は、排気ダクトに連通して空気室5の空気をケージ内に吸引するので、風力を吸引方向に発生させる。
しかし、開繊シリンダ4と吸引ケージ6が発生させる風力のみでは、綿状繊維53の量が多くなると、開繊シリンダ4と吸引ケージ6との間の空気室5の底面に滞留した綿状繊維53の固まりを吸引ケージ6側に移動させる風力としては、不十分な場合がある。
そこで、空気室5の下端に、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて送風する送風口47を設けて、不足する風力を補充したのである。この送風口には、案内板48を設けて、風向や風量等を調節するとより効果的である。
【0040】
また、本実施形態によれば、吸引ケージ6は、上部吸引ケージ62と下部吸引ケージ63とからなり、両吸引ケージの隙間64を炭素繊維マットが通過することを特徴とするので、より均一な厚みの繊維マットを、より早く形成することができる。
具体的には、上部吸引ケージ62に積層した繊維マット61Aと下部吸引ケージ63に積層した繊維マット61Bとが両吸引ケージの隙間64を通過するときに重なり合うので、均一な厚みの繊維マットを形成する速度が向上する。また、両吸引ケージの隙間64を炭素繊維マットが通過する際、繊維マットの厚みの不揃いが多少生じていても修正されるので、より均一な厚みの繊維マットを形成することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、両吸引ケージの隙間64は、空気室5の底面より上方に設けられていることを特徴とするので、下部吸引ケージ63に積層する綿状繊維53を、より均一に積層させることができる。
具体的には、両吸引ケージの隙間64を空気室5の底面より上方に設けることによって、空気室5の底面に滞留した綿状繊維53は、下部吸引ケージ63の空気室5に対向する円弧面を経由しないと、両吸引ケージの隙間64を通過することができない構造になっている。そのため、下部吸引ケージ63に積層された繊維マット61Bの内、薄い箇所と厚い箇所が有ったとき、送風口47からの風Tによって、空気室5の底面に滞留した綿状繊維53の固まりを移動させる際、薄い箇所に集中的に綿状繊維53を供給することができ、全体として均一な厚さの繊維マットを形成することができる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
(1)上述した本実施形態では、吸引ケージ6を上部吸引ケージ62と下部吸引ケージ63に分割して、吸引ケージ6が2個存在するが、1個のみでもよい。例えば、上部吸引ケージ62を圧縮ローラに変更して、下部吸引ケージ63のみで吸引してもよい。炭素繊維マットの形成速度は低下するが、装置全体がコンパクトになる。
また、この場合に、圧縮ローラへニードリング針を装着すれば、ニードリング工程8を省略することもできる。
(2)また、上述した本実施形態では、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて送風する送風口47が、空気室5の下端に設けられているが、空気室5の下端に限ることはない。例えば、空気室の側壁に設けてもよい。送風口47から送風される風が、開繊シリンダ4側から吸引ケージ6側に向けて流れていれば、送風口47からの風Tによって、空気室5の底面に滞留した綿状繊維53の固まりを移動させることができるからである。
(3)また、上述した本実施形態では、炭素繊維100%の炭素繊維原料を使用したが、これに限定する必要はない。例えば、耐熱温度等の使用環境によって、炭素繊維以外の繊維を混合することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば各種高温炉の断熱材やディーゼルエンジン車の排ガスフィルタ材、溶接現場での遮熱材等として使用される炭素繊維マットの製造方法及び製造装置として利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 炭素繊維切断工程
2、3 混打工程
4 開繊シリンダ
5 空気室
6 吸引ケージ
7 送風機
8 ニードリング工程
9 裁断工程
10 炭素繊維マット形成工程
41 開繊シリンダ本体
42 突起部
47 送風口
48 案内板
51 天井板
52 底板
62 上部吸引ケージ本体
63 下部吸引ケージ本体
64 隙間
100 炭素繊維マットの製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短繊維に切断した炭素繊維原料から開繊された綿状繊維を所定の厚みに積層してフリース状繊維マットを形成する炭素繊維マットの製造方法において、
前記綿状繊維を開繊シリンダと吸引ケージとの間に設けた空気室にて浮遊させてから、前記吸引ケージに吸引して積層させることを特徴とする炭素繊維マットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された炭素繊維マットの製造方法に使用する炭素繊維マットの製造装置において、
前記空気室には、前記開繊シリンダ側から前記吸引ケージ側に向けて送風する送風口が設けられていることを特徴とする炭素繊維マットの製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載された炭素繊維マットの製造装置において、
前記吸引ケージは、上部吸引ケージと下部吸引ケージとからなり、両吸引ケージの隙間を前記炭素繊維マットが通過することを特徴とする炭素繊維マットの製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載された炭素繊維マットの製造装置において、
前記両吸引ケージの隙間は、前記空気室の底面より上方に設けられていることを特徴とする炭素繊維マットの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83009(P2013−83009A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222726(P2011−222726)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【特許番号】特許第4965730号(P4965730)
【特許公報発行日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(598015121)
【出願人】(511243989)
【出願人】(511243990)
【出願人】(511244001)
【Fターム(参考)】