説明

炭素繊維強化樹脂複合材料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、機械的特性に優れた帯電防止用材料として用いられる炭素繊維強化樹脂複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、帯電防止用の樹脂材料としては1012〜105Ωcm程度の抵抗を有するものが好ましいことが知られており、かかる抵抗値の樹脂を得るために有機系の帯電防止剤を混入するもの、ないしは樹脂にカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、導電性酸化チタン等の導電性フィラーを混入するもの等が用いられてきた。
【0003】しかしながら有機系の帯電防止剤を用いた場合は帯電防止剤が表面にブリードアウトすることにより帯電防止効果を発揮するため、経時変化が起こったり、材料のある環境に左右されたり、ひどい場合は効果が失われたりする。また導電性フィラーを用いる場合、カーボンブラックや導電性酸化チタンの様なアスペクト比が小さいフィラーでは導電性を付与するに足るフィラー量を添加すると樹脂複合材料の機械的物性の低下が大きい。機械的物性を向上するためにガラス繊維等の補強等も考えられるが、カーボンブラックのような粉体を用いていると帯電防止の効果は得られるが粉体が樹脂から脱落することによる環境の汚染があり、クリーンルーム等の様な環境で使用するのに問題があった。また従来から機械的物性向上を考慮して使用されてきた炭素繊維や金属繊維の様な繊維状の導電性フィラーにおいてはかかる導電性フィラーの電気抵抗が低く配合量を多くすると電気抵抗が前述の好適な範囲の中の値にならず、スパークを起こしてしまう。一方、配合量を少ない範囲とすることにより、前述の好適な電気抵抗の樹脂複合材料を得ようとすると、わずかな配合量のズレの電気抵抗への影響が大きく、最終製品の製造ロット間や製品の各部位の電気抵抗のバラツキが大きくなり問題があった。また電気抵抗が所望の値にうまくコントロールされた場合においても、炭素繊維や金属繊維の様な繊維状の導電性フィラーはそのものの電気抵抗が低いため、局所的な低導電性部が生じ、例えば200V程度の高電圧がかかるとその部分でスパークがおこることがある。そのため、その様な電気的衝撃を嫌う半導体、IC、OA機器関連の材料として不向きであった。また、炭素繊維の量を減らせば、当然強度等の機械的特性も低下してしまう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の帯電防止材料のような帯電防止性の経時変化が無く、また、樹脂からのフィラーの脱落が無く、かつ所望の電気抵抗値を製造ロット間、製品の各部位でばらつくフィラー含有量によるバラツキがなく、高電圧下でもスパークが起こらない機械的特性にも優れた炭素繊維強化樹脂複合材料を供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の炭素繊維を使用し、特定の体積固有抵抗値を持つ炭素繊維強化複合材料の場合に、上記目的が達成されることを見いだし、本発明に到達した。即ち、本発明は体積固有抵抗値が1012〜105Ωcmであり、200Vの電圧下で実質的にスパークが起こらないことを特徴とする炭素繊維強化樹脂複合材料に存する。
【0006】以下、本発明をより詳細に説明する。一般に樹脂材料は帯電防止剤を用いない場合、ポリアミドの一部が1.0×1011Ωcm程度になる場合を除き、1.0×1012Ωcm以上の体積抵抗値をもつものが多い。本発明で使用する樹脂としては、複合材としての所望の体積抵抗値より低い体積抵抗値を有する樹脂であればよく、例えば上記ポリアミドの一部のように1.0×1011Ωcm程度のものであっても、それより低い体積抵抗値の複合材を製造する場合には使用できる。しかしながら好ましくは1.0×1014Ωcm以上の体積抵抗値をもつものであり、例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、通常のポリアミド、ABS樹脂、AS樹脂ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルホン、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ふっ素樹脂等の熱可塑性樹脂あるいはこれらの混合物、フェノール、エポキシイミド、ウレタン等熱硬化性樹脂あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらは使用する目的に応じて機械的強度、成形性等の特性から適宜選択する事ができる。
【0007】強化繊維としての炭素繊維は電気抵抗が5.0×108μΩcm以下4500μΩcm以上であることが好ましく、より好ましくは107μΩcm以下105μΩcm以上である。更に機械的強度として引っ張り強度が90kg/mm2以上、かつ引っ張り弾性率が3t/mm2以上、好ましくは5t/mm2以上であることが好ましい。
【0008】上記炭素繊維の製造方法としては特に限定されるものではないが、例えば、光学異方性の割合が80%以上、炭素含有率が93%以上、灰分量30ppm以下の液晶ピッチを紡糸、不融化後、700〜850℃で焼成すること等により得ることができる。本発明の炭素繊維強化樹脂複合材料には本発明の効果を損なわない範囲において、炭素繊維以外に、その他ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維、ガラスフレーク、無機物等の各種フィラー、可塑剤、着色剤、安定剤、難燃性付与剤等の各種樹脂用添加剤を用い得る。炭素繊維の添加量は使用する樹脂、炭素繊維の機械的強度や電気抵抗により、最適の範囲は相違するが通常は5重量%以上40%重量以下、好ましくは8重量%以上30重量%以下である。
【0009】本発明の炭素繊維強化樹脂複合材料の製造方法としては、特に限定されることなく採用できるが、例えば通常0.2〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%のサイジング剤を用いて集束させた炭素繊維集合体を製造し、該炭素繊維集合体を通常1〜30mm、好ましくは3〜10mmの任意の長さに切断したチョップドストランドを樹脂と混合すること等が挙げられる。ここで、サイジング剤としては公知のものが使用可能だが、前述の樹脂との相溶性等を考慮して選択することが好ましい。具体的なものとしてはエポキシ化合物、ポリアミド化合物、ポリウレタン化合物等が挙げられる。次に樹脂にチョップドストランド等の形状の炭素繊維を混合する方法としては、樹脂と炭素繊維を混練装置、押出し装置にて複合化する方法、あるいは溶融樹脂を炭素繊維に含浸する方法、樹脂と炭素繊維の混合物を加熱下圧縮する方法等が用いられるがその他の方法を用いてもよい。
【0010】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(炭素繊維の製造例1)コールタール1重量部に、沸点範囲が240〜290℃の予め水添された芳香族油を1重量部加え混合した後に、濾過助剤として、市販の珪藻土濾過助剤“セライト505”(商品名、セライト社製)を0.01重量部加え、目開き10μmのキャンドルフィルターを通して、濾過を行なった。得られた濾液を、温度450℃、水素圧力150kg/cm2 に維持されたオートクレーブに連続的に供給した。平均滞留時間は60分とした。得られた反応物を目開き0.5μmの焼結フィルターを通してさらに濾過を行った後、濾液を減圧下、蒸留して水添ピッチを得た。得られた水添ピッチを窒素ガスバブリング下、430℃で140分加熱処理し、光学的異方性割合100%、メトラー軟化点302℃で、炭素含有率96重量%、灰分量20ppmの紡糸ピッチを調製した。
【0011】次いで、該紡糸用ピッチをシリコン系油剤で集束させながら口金温度330℃で紡糸し、フィラメント数8000本、繊維径13μmの連続長ピッチ繊維トウを得た。次いで、ピッチ繊維トウを空気中で不融化処理後、窒素ガス中770℃、滞留時間2分の条件で焼成し炭素繊維を調製した。得られた炭素繊維は、炭素含有率89%、繊維径12.4μ、引張強度100kg/mm2 、引張弾性率5.0ton/mm2 であり、3500000μΩcmという高い体積固有電気抵抗を示した。
【0012】(実施例1) 炭素繊維としては製造例1で製造した引張強度100kg/mm2、引張弾性率が5t/mm2でありかつ電気抵抗が3500000μΩcmであるものを用いた。炭素繊維にサイジング剤としてエポキシ樹脂を6重量%添着した後、カッティングしたカット長6mmのチョップドストランドを炭素繊維の含有率を8重量%、10重量%、15重量%、20重量%と変えポリカーボネート樹脂とドライブレンドした後スクリュー押出し機にて混合し炭素繊維強化樹脂複合材料を得た。この物を射出成形機を用いて試験片を作成した。この試験片の曲げ試験(ASTMーD790)、電気抵抗測定(日本ゴム工業協会試験法)および横河ヒューレッドパッカード社HIGH RESISTANCEMETERを用いたスパークテストを行った。テスト法としては測定用端子の一方を試験片(平板80mm×80mm×3mm)にクリップで固定し、もう一方の端子を試験片上で軽く接触させながら走査させ、その端子と試験片の接点近傍でのスパーク発生状況を観察した。
【0013】(実施例2) 炭素繊維として引張強度170kg/mm2引張弾性率が11t/mm2でありかつ電気抵抗が4800μΩcmであるものを用い、実施例1と同様の処理を行い試験片を作成し、同様に試験片の曲げ試験、電気抵抗測定およびスパークテストを行った。
【0014】(比較例1) 炭素繊維として東邦レーヨン社製「HTAC6S」チョップドストランド(引張強度400kg/mm2、引張弾性率が24t/mm2でありかつ電気抵抗が1500μΩcm)を用いた。炭素繊維の含有率を5wt%、10wt%、20wt%と変えポリブチレンテレフタレート樹脂とドライブレンドした後スクリュー押出し機にて混合し炭素繊維強化樹脂複合材料を得た。この物を射出成形機を用いて試験片を作成した。実施例1と同様に試験片の曲げ試験、電気抵抗測定およびスパークテストを行った。
【0015】(比較例2) 炭素繊維として三菱化成社製「ダイアリード」(登録商標)K223GEチョップドストランド(引張強度240kg/mm2、引張弾性率が22t/mm2でありかつ電気抵抗が1800μΩcm)を用いた。比較例1と同様にして試験片を作成し、同様に試験片の曲げ試験、電気抵抗測定およびスパークテストを行った。 以上の結果を表1に示す。実施例1、2の樹脂複合材は、炭素繊維の添加率が大きくなっても体積固有抵抗率が1012〜105Ωcmの樹脂複合材を安定して得られるので、所望の強度の樹脂複合材を得ることができ、さらにスパーク開始電圧も高いものが安定して得られる。
【0016】
【表1】


【0017】
【発明の効果】従来問題であった帯電防止性の経時変化が無く、樹脂からのフィラーの脱落が無く、かつ所望の電気抵抗値を製造ロット間、製品の各部位でフィラー含有量によるバラツキがなくスパークが起こらない半導体及びOA機器関連用の樹脂複合材料を供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 体積抵抗値が1×1014Ωcm以上であるマトリクス樹脂に炭素繊維を5重量%以上40重量%以下添加してなり、体積固有抵抗値が1012〜105Ωcm、曲げ強度が1200kg/cm2以上、曲げ弾性率が30000kg/cm2以上であり、且つ、200Vの電圧下で実質的にスパークが起こらないことを特徴とする炭素繊維強化樹脂複合材料。

【請求項2】
電気抵抗が5.0×106μΩm以下45μΩm以上である炭素繊維を使用することを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化樹脂複合材料。

【請求項3】
引っ張り強度が90kg/mm2以上70kg/mm2以下、引っ張り弾性率が3ton/mm2以上11ton/mm2以下である炭素繊維を使用することを特徴とする請求項1又は2記載の炭素繊維強化樹脂複合材料。

【特許番号】特許第3493710号(P3493710)
【登録日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【発行日】平成16年2月3日(2004.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−24123
【出願日】平成6年2月22日(1994.2.22)
【公開番号】特開平7−228707
【公開日】平成7年8月29日(1995.8.29)
【審査請求日】平成12年7月21日(2000.7.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【参考文献】
【文献】特開 平5−117446(JP,A)
【文献】特開 平5−195440(JP,A)
【文献】特開 平5−286056(JP,A)
【文献】特開 昭59−196390(JP,A)
【文献】特開 昭61−97423(JP,A)
【文献】特開 平6−17319(JP,A)
【文献】特開 平6−279592(JP,A)
【文献】特開 平6−339469(JP,A)
【文献】特開 平7−166432(JP,A)