説明

炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料およびその製造方法

【課題】一様な特性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】シリコンとの反応性が異なる複数種の炭素繊維と、炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種と、樹脂粉末の造粒物とを含有する炭素繊維成形体を炭化焼成して得られる炭素繊維強化炭素基材の一部を炭化ケイ素化した炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料であって、炭素繊維成形体が、1.5体積%以上5.5体積%以下の炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種を含有し且つ30%以上40%以下の空隙率を有することを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量・高精度光学センサー部材に適した炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素セラミックスは、高温耐食部材、ヒーター材、耐摩耗部材、研削材、砥石等の用途に幅広く用いられているが、破壊靭性値が低いために高温用構造部材としては実用化されていない。
【0003】
このため、炭化ケイ素セラミックスの破壊靭性を向上させることを目的として、繊維状の強化材を複合化させた炭化ケイ素複合材料が提案されている。一般的に、繊維強化炭化ケイ素複合材料は、有機金属ポリマーの含浸、熱分解焼成の繰り返し法、化学蒸着法(CVI法)、シリコン溶融含浸法(反応焼結法)等により製造されている。
【0004】
しかしながら、有機金属ポリマーの含浸や熱分解焼成の繰り返しにより製造する方法では、一回の含浸で密度も強度特性も低いものしか得られない。この方法で強度特性を上げるには、10回程度の含浸・焼成を繰り返して開気孔率を10%以下に減少する必要がある。このため、製造期間が長くなって、実用化には大きな問題点がある。
【0005】
また、化学蒸着により製造する方法では、1100℃程度の比較的低温で、かつ複雑な形状のものも製造し得るが、充填に数週間という長時間を要する上、使用するガスが有毒であるなどの欠点がある。しかも、この化学蒸着により製造する方法、又は上述した有機金属ポリマーの含浸や熱分解焼成の繰り返しにより製造する方法のみでは開気孔率が5%以下の複合材料を得ることは非常に困難である。
【0006】
反応焼結法は、反応時間も短く、短期間に緻密な複合材料が製造できるという長所がある。従来のシリコンの溶融含浸法による繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造には、繊維束部分を樹脂からのガラス状炭素で緻密に覆い、シリコンと樹脂からの炭素との体積減少を伴った炭化ケイ素生成反応により生じるポーラスな部分をマトリックスの特定部分のみに生成させ、このポーラスな部分にシリコンの溶融含浸を行うものが提案されている。これにより、繊維表面にBN等のコーティングを施すことなく、繊維強化炭化ケイ素複合材料を製造することが可能である。
【0007】
例えば、特許文献1には、上述したシリコンの溶融含浸法による繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法が開示されている。この方法を簡単に説明すると、先ず、シリコン粉末と炭素源としての樹脂と繊維からなるプリプレグを作製して成形するか、又は樹脂を含んだ繊維のプリプレグと、シリコン粉末および樹脂を含んだプリプレグとを交互に積層して成形する。次に、不活性雰囲気下で900℃〜1350℃程度の温度で炭素化する。続いて、得られた複合材料に樹脂を含浸し、再び不活性雰囲気下で900℃〜1350℃程度の温度で炭素化する。この樹脂含浸および炭素化処理を繰り返した後、真空或いは不活性雰囲気下で1300℃以上の温度で反応焼結する。この後、最終的に真空或いは不活性雰囲気下において1300℃〜1800℃程度の温度でシリコンを溶融含浸することにより、繊維強化炭化ケイ素複合材料を得るというものである。
【0008】
このようにして得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料は、非線形な破壊挙動を示し緻密質であるとされる。しかし、特許文献1に開示の方法では、強化繊維としての炭素繊維に連続繊維を用いてプリプレグを作製し、それを積層して成形しているため、強化繊維の配向の影響により炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の材料物性に異方性が生じてしまい、この成形体を各種構造部材に適応する際に構造設計が複雑になり汎用性が低いという課題があった。さらに、この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料は、炭素繊維および炭素マトリックス含有率が高いため、焼結SiCと比較して強度や剛性が低いという課題があった。
また、特許文献1に開示の方法では、製造プロセスが比較的長く、製造に長期間を要する。さらに、炭素化や反応焼結において1300℃以上の温度で処理をする必要があり、焼成炉としてかなり特別な仕様の設備が必要である。このため、製造コストがかさむという課題があった。
【0009】
これらの課題を解決する得るものとして、特許文献2には、シリコンとの反応性が異なる複数種類の炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末を混合して得られる混合物を加熱加圧成形して炭素繊維成形体を形成し、これを炭化して炭素繊維強化炭素基材とした後、シリコンの溶融含浸により炭素繊維の一部を炭化ケイ素化する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法が開示されている。特許文献2では、シリコンとの反応性が異なる種類の炭素繊維および炭素マトリックスの組み合わせや配合比率を制御することにより、炭素繊維の一部をシリコンと反応させずに残し、残りの炭素質部分をシリコンと反応させて炭化ケイ素化している。これにより、SiC化を促進させることができ、SiC比率の高い組織が得られる。この結果、焼結SiC並みの優れた強度、剛性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料が製造可能になり、耐熱構造部材への適応性を向上させることができるとされる。
【0010】
【特許文献1】特開2000−313676号公報
【特許文献2】特開2006−290670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2に開示の方法で比較的大型、特に厚さのある炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得ようとすると、炭素繊維基材を炭化する際に変形やクラックが発生し、これが後工程の炭化ケイ素化にも影響を及ぼし、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の表面と内部とで物性に差が生じるということが分かった。
【0012】
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、一様な特性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来の製造方法で得られる炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料で表面と内部とで物性に差が生じる原因について調査した。まず、炭素繊維成形体は、緻密ではなくポーラスであるため、これを加熱加圧成形する際に樹脂が溶融して流動し易くなり、炭素繊維成形体中で偏在してしまい、分布が一様になり難いということが分かった。特に、大型で厚さのある炭素繊維成形体では、加熱加圧成形時に表面と内部との温度勾配の発生が不可避であることから、表面付近と内部とで樹脂の溶融開始時期が異なり圧縮性に顕著な差が生じることが分かった。このように圧縮性に差が生じると、毛細管現象により生じる毛管力により炭素繊維成形体の緻密な部分に樹脂が偏在したり、重力により炭素繊維成形体の下部に樹脂が偏在し、炭素繊維成形体における密度分布幅が大きくなる。
【0014】
このように炭素繊維成形体における密度分布幅が大きくなると、後工程の炭化焼成において、炭素繊維成形体の表面と内部または上部と下部で熱分解による収縮挙動の差に起因する歪みや内部応力が生じ、炭素繊維強化炭素基材における反りやクラックの発生につながることが判明した。
【0015】
そこで、本発明者らは、炭素繊維成形体中における樹脂の流動性を制限する手段について鋭意検討したところ、樹脂粉末の造粒物を用いることで、樹脂を炭素繊維成形体中に一様に分布させることができ、大型で厚さのある炭素繊維成形体を炭化焼成しても反りやクラックの発生を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、シリコンとの反応性が異なる複数種の炭素繊維と、炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種と、樹脂粉末の造粒物とを含有する炭素繊維成形体を炭化焼成して得られる炭素繊維強化炭素基材の一部を炭化ケイ素化した炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料であって、炭素繊維成形体が、1.5体積%以上5.5体積%以下の炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種を含有し且つ30%以上40%以下の空隙率を有することを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光学センサー部材等に適した一様な物性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
本発明では、軽量・高精度光学センサー部材に適した素材として、以下の(1)〜(4)に示す条件を満たすものを考える。
(1)比強度、比剛性が高く破壊靭性値が高い素材であること。
(2)従来の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料よりも物性にばらつきがなく、均質であること。
(3)製造プロセスが簡単で、形状加工性が優れていること。
(4)汎用設備による製造が可能で、素材の加工性が優れていること。
【0018】
本発明は、軽量・高精度光学センサー部材に要求される諸特性を得るために、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料における構成要素の組み合わせ、配合比率の制御、製造プロセスの改善とともに、SiC比率を高め、物性を均質化することを実現したものである。以下に、実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、実施の形態1による繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法のフローを示す図であり、実質的に炭化ケイ素からなるマトリックスに強化用の炭素繊維が分散された炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料で軽量・高精度光学センサー部材を構成する工程を示している。
【0020】
先ず、図1(a)に示す工程では、シリコンとの反応性が異なる2種類の炭素繊維であるピッチ系炭素繊維1とPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維2、黒鉛粉末3および樹脂粉末の造粒物4を特定重量比で混合し、ミキサーに装填して均一に混合させて混合体5を得る。図1(b)に示す工程では、均一に混合された混合体5を成形型に充填し、加熱加圧して一定の形に成形した後、型から取り出し、シリコンとの反応性が異なる2種類の炭素繊維1,2によるハイブリッド炭素繊維、樹脂バインダーおよび黒鉛粉末3からなる炭素繊維成形体6を得る。
【0021】
この(a)および(b)に示す工程では、炭素繊維成形体6中に含有される黒鉛粉末3の量が1.5体積%以上5.5体積%以下となるように且つ炭素繊維成形体6の空隙率が30%以上40%以下となるように、出発原料の混合割合および成形圧力を設定する必要がある。
炭素繊維成形体6中に含有される黒鉛粉末3の量を1.5体積%以上5.5体積%以下と規定する理由は、黒鉛粉末3の量が1.5体積%未満である場合、炭素繊維及び樹脂の流動性が悪くなり分散が不均一になるためである。一方、黒鉛粉末3の量が5.5体積%を超える場合、シリコン含浸時の反応が過剰となり、クラックが発生しやくすなるためである。また、炭素繊維成形体6の空隙率を30%以上40%以下と規定する理由は、空隙率が30%未満である場合、シリコン含浸経路が不十分なためシリコン含浸不良によりケイ化反応不良となるためである。一方、空隙率が40%を超える場合、ケイ化される炭素が不足するためシリコンが多く残り特性が不良となるためである。
【0022】
次に、図1(c)に示す工程に進む。この工程では、炭素繊維成形体6を真空或いは不活性雰囲気中で加熱して樹脂バインダー成分を炭化し、炭素繊維強化炭素基材7を得る。
【0023】
図1(d)の工程では、炭素繊維強化炭素基材7を軽量・高精度光学センサー部材の形状に切削加工して軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭素基材8を得る。
【0024】
この後、図1(e)の工程に進み、真空中で熔融金属シリコンを軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭素基材8に含浸させて炭化ケイ素化処理を施し、軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9を得る。
【0025】
最後に、図1(e)の工程では、炭素繊維1,2、炭化ケイ素を主体とした少量の炭素とシリコンを含むマトリックスからなる軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9に対して詳細寸法仕上げ加工を施すことにより、軽量・高精度光学センサー部材10が得られる。
【0026】
本実施の形態1において、出発原料としてピッチ系炭素繊維1とPAN系炭素繊維2とを混ぜる理由は、ピッチ系炭素繊維1はシリコンと反応し難いが、PAN系炭素繊維2はピッチ系炭素繊維よりもシリコンと反応し易いので、この反応性の差を利用して炭素繊維部分もSiC化させてSiCの生成比率を高めるためである。ピッチ系炭素繊維1とPAN系炭素繊維2との混合割合は、重量比で3:1〜1:5とすることが好ましい。
【0027】
炭素繊維としてピッチ系炭素繊維1だけを使用した場合、SiC化を促進さるためには、シリコンの含浸温度を高くし、さらに反応時間を長くする必要がある。しかし、シリコンの溶融含浸は減圧下で行うので、含浸温度を上げたり、反応時間を長くすると、シリコンが気化し易くなり、気化・消失により炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9に多量のボイドが発生する。このボイドは、強度低下の原因となり、好ましくない。また、シリコンが気化されると、処理設備内部に多くのシリコンが付着したり、シリコンとの反応によって設備内部の劣化、排気ラインへのシリコン蒸気の引き込み等の影響がある。そのため、高温での含浸や長時間処理は実際上困難である。一方、炭素繊維としてPAN系炭素繊維2だけを使用した場合、容易に脆化し、所望の材料強度を得ることができない。
【0028】
また、出発原料として黒鉛粉末3(炭素粉末でもよい)を使用する理由は、黒鉛粉末3(炭素粉末でもよい)を炭素マトリックスとして予め添加し、炭化焼成時の収縮の影響を低減するためである。炭素マトリックスの生成において樹脂バインダーだけを用いて炭素化して炭素マトリックスを生成する場合、樹脂の含有率を多くする必要がある。樹脂の含有率が多くなると炭化焼成時の樹脂の炭化に伴う分解収縮の影響が大きくなり、クラックの発生が起こり易くなる。そのため、大型の炭素繊維成形体6の炭化焼成が実際上困難となり、大型の炭素繊維強化炭素基材7を得ることができない。
【0029】
また、出発原料として樹脂粉末の造粒物4を使用する理由は、混合体5を加熱加圧成形する時に樹脂の流動を制限し、樹脂の偏在をなくすためである。また、樹脂粉末を造粒して平均粒径を大きくすることで、流動性が改善され、他の出発原料との混合を均一化することができるという効果を奏する。更に、樹脂粉末の造粒物4を使用することで、混合体5の流動性や嵩密度が高まり、混合体5の成形型への充填を均一化し、充填効率を向上させることができる。それにより、混合体5の充填後の嵩が小さくなるため、加熱加圧成形時の表面と内部との温度勾配が小さくなり、同じ厚さの炭素繊維成形体6の調製において内外部の温度差を低減できるという効果も奏する。樹脂粉末としては、熱硬化性を有するものであれば特に限定されるものではないが、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂などが挙げられる。また、樹脂粉末には、1μm以上10μm以下の平均粒径を有するものを使用することが好ましい。
【0030】
樹脂粉末の造粒物4を用いることによって加熱加圧成形時に樹脂の流動が制限され、樹脂の偏在がなくなる理由は、造粒プロセスにおいて樹脂粉末に熱が一旦掛かることで、樹脂の加熱硬化時の挙動に変化が生じたためであると考えられる。つまり、熱が掛かっていない新しい樹脂を加熱加圧成形する場合、樹脂は融点で溶けて粘度が低下し流動性を生じるが、熱を一旦掛けて冷却した樹脂を加熱加圧成形する場合、樹脂が溶融し難くなる上に、溶融した場合の粘度もより高くなるため、流動し難いと考えられる。なお、このような樹脂粉末の造粒物4を使用しても、加熱加圧成形時における成形性は十分に確保することができる。樹脂粉末の造粒プロセスとしては、スプレードライ法などが挙げられる。
【0031】
実施の形態1によれば、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9を製造するための炭素繊維成形体6の調製プロセスにおいて、2種類の炭素繊維であるピッチ系炭素繊維1およびPAN系炭素繊維2と、黒鉛粉末3と樹脂粉末の造粒物4との混合体5を用いているため、混合体5の流動性や各原料の均一分散性が改善され、混合体5を成形型に容易に均一充填可能することができる。また、このような混合体5では、加熱加圧成形時に樹脂の溶融・流動を制限することができ、結果として、密度分布幅の非常に小さい炭素繊維強化炭素基材7が得られる。更に、このような混合体5では、加熱圧縮成形時の圧縮量が少なくて済むため、成型用の治具をよりコンパクトにすることが可能となる。こうして得られる炭素繊維強化炭素基材7にシリコンを溶融含浸させ、炭素繊維1,2の一部をシリコンと反応させずに残し、残りの炭素質部分をシリコンと反応させることでSiC化を促進し、焼結SiC並みの優れた強度、剛性を有し且つSiC比率の高い組織を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料が得られる。この炭素繊維1,2の部分的な炭化ケイ素化は、炭素繊維1,2、黒鉛粉末3、樹脂粉末の造粒物4の配合比率等により制御可能である。実施の形態1による炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料は、物性が均質化されているため、軽量・高精度光学センサー部材として有用である。
【0032】
実施の形態2.
本実施の形態2は、実施の形態1における炭素繊維成形体6の構成要素として用いる樹脂粉末の造粒物4の平均粒径を5μm以上800μm以下と規定した点に特徴がある。
樹脂粉末の造粒物4の平均粒径を5μm以上800μm以下に規定する理由は、樹脂粉末の造粒物4の平均粒径が800μmを超える場合、混合体5中に占めるバインダーとしての樹脂の接触面積が不足し、炭素繊維成形体6を調製できなくなることがあるためである。一方、樹脂粉末の造粒物4の平均粒径が5μm未満である場合、混合体5の嵩密度も従来原料と変わらず、流動性があまり改善されず、混合体5を成形型に均一に充填することが難しくなることがあるためである。樹脂粉末の造粒物4の平均粒径は、より好ましくは10μm以上200μm以下である。
【0033】
実施の形態2によれば、炭素繊維成形体6中に炭素繊維1,2が均質に分散し、さらに、炭素繊維成形体6の調製工程において樹脂の流動や偏在がより発生し難くなるため、より均質な炭素繊維成形体6が得られる。その結果、変形やクラックを発生させることなく、大型で厚さのある炭素繊維強化炭素基材7の調製が可能となり、物性が均質化された大型で厚さのある炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9を得ることができる。
【0034】
実施の形態3.
本実施の形態3は、実施の形態1における炭素繊維成形体6の構成要素として用いるピッチ系炭素繊維1の平均繊維長を1mm以下とし、PAN系炭素繊維2の平均繊維長を0.5mm以下とし、黒鉛粉末3の平均粒径を100μm以下と規定した点に特徴がある。
ピッチ系炭素繊維1の平均繊維長を1mm以下、PAN系炭素繊維2の平均繊維長を0.5mm以下、黒鉛粉末3の平均粒径を100μm以下と規定する理由は、ピッチ系炭素繊維1の平均繊維長が1mmを超えるか、PAN系炭素繊維の平均繊維長が0.5mmを超えるか、または黒鉛粉末3の平均粒径が100μmを超える場合、炭素繊維成形体6において炭素繊維1,2の均一な分散が得られ難くなり、結果として、等方性の材料物性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9が得られないことがあるためである。ピッチ系炭素繊維1の平均繊維長は、より好ましくは100μm以上500μm以下であり、PAN系炭素繊維2の平均繊維長は、より好ましくは20μm以上200μm以下であり、黒鉛粉末3の平均粒径は、より好ましくは5μm以上50μm以下である。
【0035】
実施の形態3によれば、炭素繊維成形体6において炭素繊維1,2が均質に分散するようになり、炭化ケイ素化工程でシリコンとPAN系炭素繊維2との反応が好ましい程度に促進され、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9におけるSiC比率が適度に増大するとともに、SiC組織を均一に分散させる効果がある。その結果、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9は、異方性の物性を示さず、等方性の物性になり、機械的強度・剛性が向上する。
【0036】
実施の形態4.
本実施の形態4は、実施の形態1における炭素繊維成形体6中に含有されるピッチ系炭素繊維1とPAN系炭素繊維2との合計量を15体積%以上40体積%以下と規定した点に特徴がある。
炭素繊維1,2の体積含有率を上記範囲内とする理由は、シリコンとの反応性が異なる2種類の炭素繊維であるピッチ系炭素繊維1とPAN系炭素繊維2との合計量が15体積%未満である場合、シリコンを溶融含浸させる前の炭素繊維強化炭素基材7におけるマトリックス炭素および炭素繊維1,2の分散性が悪くなる上に、炭素繊維1,2の量そのものが不足し、シリコンの溶融含浸によるSiC反応が不十分となることがあるためである。マトリックス炭素および炭素繊維1,2の分散性が悪くなったり、SiC反応が不十分となると、得られる炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料9中に多くの未反応シリコンが内在してしまうばかりか、反応せずに残る炭素繊維1,2の量が少ないものとなってしまい、十分な機械的強度、剛性が得られなかったり、熱膨張係数が大きくなることがある。一方、ピッチ系炭素繊維1とPAN系炭素繊維2との合計が40体積%を超える場合、炭素繊維1,2を均質分散させるのが困難になるため、物性に異方性が生じてしまう上に、シリコンを溶融含浸させ難くなることがある。
【0037】
実施の形態4によれば、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料からなる最終製品としての軽量・高精度光学センサー部材において、等方性の物性を有し、曲げ強度、破壊靭性値等において従来の製品よりも優れた特性が得られ、実用に適した軽量・高精度光学センサー部材を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が約2μmのフェーノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を10μmにしたものを用いた。
【0039】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で56:117:12.4:99の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約31.5体積%の炭素繊維および約2体積%の黒鉛粉末を含有し、約38.5%の空隙率を有するものであった。
【0040】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.80g/cm3以上0.84g/cm3以下であった。従来のプロセスによる炭素繊維強化炭素基材の密度分布は0.75g/cm3以上0.88g/cm3以下であることから、実施例1の基材では密度分布が改善されてより均一化されたことが明らかである。
【0041】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素とPAN系炭素繊維は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないことが確認された。また、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料のボイドはシリコンの含浸によってほぼ完全に埋まっており、ボイドは1%以下であった。また、この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は340GPaとなり、従来の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料とヤング率は同等であり、さらに物性の異方性はなく、等方性の物性であった。これらの結果を表1にまとめて示した。
【0042】
<実施例2>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を10μmにしたものを用いた。
【0043】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で50:121:31:108の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約32体積%の炭素繊維および約5体積%の黒鉛粉末を含有し、約32%の空隙率を有するものであった。
【0044】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.89g/cm3以上0.93g/cm3以下であった。従来のプロセスによる炭素繊維強化炭素基材の密度分布は0.75g/cm3以上0.88g/cm3以下であることから、実施例2の基材では密度分布が改善されてより均一化されたことが明らかである。
【0045】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素とPAN系炭素繊維は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないことが確認された。また、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料のボイドはシリコンの含浸によってほぼ完全に埋まっており、ボイドは1%以下であった。また、この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は330GPaとなり、従来の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料とヤング率は同等であり、さらに物性の異方性はなく、等方性の物性であった。これらの結果を表1にまとめて示した。
【0046】
<実施例3>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0047】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で55:109:25:97の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および約4体積%の黒鉛粉末を含有し、約38.5%の空隙率を有するものであった。
【0048】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.82g/cm3以上0.84g/cm3以下であった。従来のプロセスによる炭素繊維強化炭素基材の密度分布は0.75g/cm3以上0.88g/cm3以下であることから、実施例3の基材では密度分布が改善されてより均一化されたことが明らかである。
【0049】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素とPAN系炭素繊維は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないことが確認された。また、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料のボイドはシリコンの含浸によってほぼ完全に埋まっており、ボイドは1%以下であった。また、この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は355GPaとなり、従来の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料とヤング率は同等であり、さらに物性の異方性はなく、等方性の物性であった。これらの結果を表1にまとめて示した。
【0050】
<実施例4>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を500μmにしたものを用いた。
【0051】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で55:115:26:97の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および約4体積%の黒鉛粉末を含有し、約39.5%の空隙率を有するものであった。
【0052】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.82g/cm3以上0.84g/cm3以下であった。従来のプロセスによる炭素繊維強化炭素基材の密度分布は0.75g/cm3以上0.88g/cm3以下であることから、実施例4の基材では密度分布が改善されてより均一化されたことが明らかである。
【0053】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素とPAN系炭素繊維は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないことが確認された。また、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料のボイドはシリコンの含浸によってほぼ完全に埋まっており、ボイドは1%以下であった。また、この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は340GPaとなり、従来の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料とヤング率は同等であり、さらに物性の異方性はなく、等方性の物性であった。これらの結果を表1にまとめて示した。
【0054】
<比較例1>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を10μmにしたものを用いた。
【0055】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で54:111:145:6.3の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および約1%の黒鉛粉末を含有し、約28%の空隙率を有するものであった。
【0056】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材を解析したところ、炭素化により発生したクラックが認められた。
【0057】
このように、樹脂の充填率を高め、炭素繊維基材の空隙率を28%と小さくすると、上記結果のように炭化焼成時に樹脂の熱分解による収縮の影響により炭素繊維強化炭素基材にクラックが発生した。このため、炭素繊維強化炭素基材の空隙率を30%未満とすることは、好ましくないことが確認された。
【0058】
<比較例2>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0059】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で61.9:103.7:30.9:81.3の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および約5体積%の黒鉛粉末を含有し、約42%の空隙率を有するものであった。
【0060】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.82g/cm3以上0.84g/cm3以下であった。
【0061】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素とPAN系炭素繊維は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないことが確認された。また、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料中には反応せずに残ったSiが多く存在していることが確認された。この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は260GPaであった。
【0062】
このように、炭素繊維基材の空隙率を42%と大きくすると、上記結果のようにSiC化反応が不十分となり、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料中に未反応のシリコンが多く存在するため、強度、剛性が低くなった。このため、炭素繊維強化炭素基材の空隙率を40%超とすることは、好ましくないことが確認された。
【0063】
<比較例3>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0064】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で61.9:103.7:37.1:84.8の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および約6体積%の黒鉛粉末を含有し、約40%の空隙率を有するものであった。
【0065】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。
【0066】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、シリコンの含浸によるSiC化で発生したクラックが認められた。
【0067】
このように、炭素繊維成形体の空隙率を40%としても、黒鉛粉末を6体積%と多くした場合は、上記結果のように、SiC化反応による体積膨張で炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料にクラックが発生した。このため、炭素繊維成形体における炭素粉末の配合割合を6体積%超とすることは、好ましくないことが確認された。
【0068】
<比較例4>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0069】
これらピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維および樹脂粉末の造粒物を重量比で61.9:103.7:141.4の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維を含有し、約30%の空隙率を有するものであった。
【0070】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.79g/cm3以上0.85g/cm3以下であった。
【0071】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素の一部がシリコンと反応せずに残っており、SiC化反応が不十分であった。この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は250GPaであった。
【0072】
このように、炭素繊維成形体の空隙率を30%としても、黒鉛粉末の添加をしなかった場合は、炭素マトリックスが多くなり、上記結果のように、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料で未反応のマトリックス炭素が発生し、SiC化反応が不十分となる。このため、炭素繊維成形体に黒鉛粉末を配合しないことは、好ましくないことが確認された。
【0073】
<比較例5>
PAN系炭素繊維としては、平均繊維長さが130μmのもの(東レ株式会社製MLD−300のミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0074】
これらPAN系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で155.5:6.2:120.2の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および1体積%の黒鉛粉末を含有し、約35%の空隙率を有するものであった。
【0075】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。
【0076】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、シリコンの含浸によるSiC化で発生したクラックが認められた。
【0077】
このように、炭素繊維成形体にピッチ系炭素繊維を配合せずPAN系炭素繊維だけを配合した場合、上記結果のように、SiC化反応による体積膨張で炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料にクラックが発生した。このため、炭素繊維成形体に炭素繊維としてPAN系炭素繊維だけを配合することは、好ましくないことが確認された。
【0078】
<比較例6>
ピッチ系炭素繊維としては、平均繊維長さが200μmのもの(三菱化学株式会社製K7351Mのミルドファイバー)、黒鉛粉末としては、平均粒径が30μmのもの(和光純薬工業株式会社製の黒鉛粉末)を用いた。また、樹脂粉末の造粒物としては、平均粒径が2μmのフェノール樹脂粉末(群栄化学工業株式会社製PG652)を造粒して平均粒径を100μmにしたものを用いた。
【0079】
これらピッチ系炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物を重量比で185.6:24.7:109.6の比率でV型ミキサーを用いて均一な混合体になるように混合させた。この後、混合体を金型に移し、プレスで加熱加圧して一定の形状に成形した。これにより、炭素繊維、黒鉛粉末および樹脂粉末の造粒物からなる炭素繊維成形体を得た。この炭素繊維成形体は、約30体積%の炭素繊維および4体積%の黒鉛粉末を含有し、約35%の空隙率を有するものであった。
【0080】
次に、この炭素繊維成形体を不活性雰囲気(真空中或いは窒素やアルゴンなどの不活性ガス)中で約800℃まで昇温することにより炭素化して炭素繊維強化炭素基材を得た。この炭素繊維強化炭素基材の密度分布を評価したところ、0.92g/cm3以上0.94g/cm3以下であった。
【0081】
続いて、炭素繊維強化炭素基材を真空中で1700℃に加熱し、金属シリコンを溶融させて含浸することにより炭化ケイ素化し、炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を得た。得られた炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を解析したところ、マトリックス炭素と黒鉛粉末は、含浸したシリコンと殆ど反応してSiCに変化していたが、ピッチ系炭素繊維は殆ど反応していないで残っており、さらに炭素繊維が成形面内に配向していることが確認された。この炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の特性を評価したところ、ヤング率は240GPaであった。
【0082】
このように、炭素繊維成形体にPAN系炭素繊維を配合せずピッチ系炭素繊維だけを配合した場合、上記結果のように炭素繊維が成形面内に配向し、物性に異方性が生じる。このため、炭素繊維成形体に炭素繊維としてピッチ系炭素繊維だけを配合することは、好ましくないことが確認された。
【0083】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施の形態1による繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 ピッチ系炭素繊維、2 PAN系炭素繊維、3 黒鉛粉末、4 樹脂粉末の造粒物、5 混合体、6 炭素繊維成形体、7 炭素繊維強化炭素基材、8 軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭素基材、9 軽量・高精度光学センサー部材の形状に加工された炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料、10 軽量・高精度光学センサー部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンとの反応性が異なる複数種の炭素繊維と、炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種と、樹脂粉末の造粒物とを含有する炭素繊維成形体を炭化焼成して得られる炭素繊維強化炭素基材の一部を炭化ケイ素化した炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料であって、
炭素繊維成形体が、1.5体積%以上5.5体積%以下の炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種を含有し且つ30%以上40%以下の空隙率を有することを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【請求項2】
前記樹脂粉末の造粒物が、5μm以上800μm以下の平均粒径を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【請求項3】
前記炭素繊維が、ピッチ系炭素繊維およびPAN系炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【請求項4】
前記ピッチ系炭素繊維が1mm以下の平均繊維長を有するものであり、前記PAN系炭素繊維が0.5mm以下の平均繊維長を有するものであり、且つ前記炭素粉末および黒鉛粉末が100μm以下の平均粒径を有するものであることを特徴とする請求項3に記載の炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【請求項5】
シリコンとの反応性が異なる複数種の炭素繊維と、炭素粉末および黒鉛粉末の少なくとも1種と、樹脂粉末の造粒物とを混合した後、この混合体を加熱加圧成形して炭素繊維成形体を調製する第一工程と、炭素繊維成形体を炭化焼成して炭素繊維強化炭素基材を調製する第二工程と、シリコンの溶融含浸により炭素繊維強化炭素基材を炭化ケイ素化して炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料を調製する第三工程とを備えることを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法であって、
第一工程において得られる炭素繊維成形体が、1.5体積%以上5.5体積%以下の炭素粉末及び黒鉛粉末の少なくとも1種を含有し且つ30%以上40%以下の空隙率を有するように原料の混合割合および成形圧力を設定することを特徴とする炭素繊維強化炭化ケイ素複合材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−274889(P2009−274889A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125640(P2008−125640)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】