説明

炭素繊維構造体

【課題】 少量の添加にて、マトリックスの特性を損なわずに電気的特性、機械的特性、熱特性等の物理特性を向上させることのできる炭素繊維構造体を提供することを課題とする。
【解決手段】 外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素繊維構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な炭素繊維構造体に関し、特に多様な構造を持つ微細な炭素シートの筒状積層体からなる微細な炭素繊維から構成される炭素繊維構造体であって、樹脂、セラミックス、金属等の固体材料の電気特性、機械的特性、熱特性等の物理特性の向上に適した添加剤、あるいは、燃料、潤滑剤等の液体の電気特性、熱特性等の物理特性向上に適した添加剤として利用可能な炭素繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、従来より、その優れた力学特性や高い導電性などの特性を有するため、各種複合材料に用いられている。
【0003】
一方、近年においては、各種材料に一段と高い機能性が求められるようになっており、樹脂、セラミックス、金属等の固体材料からなるマトリックスの特性を損なわずに電気特性、機械的特性、熱特性等の物性を大きく改良できる添加剤が求められており、また、燃料油、潤滑剤等の液体の物性を向上する添加剤等も求められている。
【0004】
ところで、炭素繊維としては、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が、各種の分野において注目を集めている。
【0005】
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では、規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、例えば、各種樹脂、セラミックス、金属等の固体材料、あるいは燃料油、潤滑剤等の液体材料中に、このような微細炭素繊維を分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、その添加剤としての用途が期待されることとなる。
【0006】
しかしながら、一方で、このような微細炭素繊維は、生成時点で既に塊となってしまい、これをそのまま使用すると、マトリックス中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。従って、樹脂等のマトリックスに導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とするものであった。
【0007】
特許文献1には、3.5〜70nmの直径の炭素フィブリルが互いに絡み合った凝集体で、その最長径が0.25mm以下で、径が0.10〜0.25mmの凝集体を含有する樹脂組成物が開示されている。なお、特許文献1における実施例等の記載から明らかなように、この炭素フィブリル凝集体の最長径、直径等の数値は、樹脂へ配合する前の凝集体の特性値である。また、特許文献2には50〜5000nmの直径の炭素繊維の凝集体であって、その繊維同士の接点が炭素質物の炭化物によって固着された大きさが5μm〜500μmの構造体を主体とする炭素繊維材料をマトリックス中に配合してなる複合体が開示されている。この特許文献2においても、構造体の大きさ等の数値は、樹脂へ配合する前の特性値である。
【0008】
このような炭素繊維凝集体を用いることにより、樹脂マトリックスへの分散性の向上は、より大きな塊で混合した場合よりもある程度期待される。しかしながら、特許文献1に記載される凝集体は、例えば、炭素フィブリルを振動ボールミル等でせん断力をかけて分散処理することによって得られるものであるが、嵩密度は高いため、少量の添加にて効率良く、導電性等の特性を改善する添加剤としては、未だ満足のいくものではなかった。また、特許文献2において示される炭素繊維構造体においては、繊維同士の接触点の固着が、炭素繊維の製造後に、この炭素繊維集合体を圧縮成形して繊維同士の接触点と形成した状態において熱処理し、炭素繊維表面に残留するピッチ等の残留有機物あるいはバインダーとして添加された有機物を炭化することによって形成されるものであることから、接触点の固着力が弱く、また、その構造体自体の電気的特性はあまり良好なものとはいえないものであった。従って、樹脂等のマトリックス中に配合された場合に、容易にその接触点が解離してしまうためその構造体形状を保持できないものとなり、例えば、少量添加にて、良好な電気的特性を発揮する上での、良好な導電パスをマトリックス中に形成することが困難であった。さらに、接触点の固着のためにバインダー等を添加して炭化すると、その接触点の部位のみにバインダー等を付着させることが困難であり、繊維全体にも付着するため、得られる構造体においては、繊維径が全体として太くかつ表面特性に劣るようなものしか得られないこととなる虞れが高いものであった。
【特許文献1】特許第2862578号公報
【特許文献2】特開2004−119386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、少量の添加にて、マトリックスの特性を損なわずに電気的特性、機械的特性、熱特性等の物理特性を向上させることのできる炭素繊維構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、その添加量が少なくても十分な特性向上を発揮させるためには、可能な限り微細な炭素繊維を用い、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体で樹脂中に保持されるものであること、また炭素繊維自体の一本一本が極力欠陥の少ないものであることが有効であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0012】
本発明はまた、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【0013】
本発明はさらに、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【0014】
本発明はさらに、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下であることを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【0015】
本発明はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上であることを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、前記炭素繊維の結合箇所において、前記粒状部の粒径が、前記炭素繊維の外径よりも大きいことを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【0017】
本発明はさらに、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものであることを特徴とする前記炭素繊維構造体を示すものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、樹脂等のマトリックス中に配合した場合に、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま容易に分散し、少量の添加量においても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができる。このように、マトリックス全体に微細な炭素繊維を均一に分散分布させ得るため、例えば、電気的特性に関しては、少量添加においてもマトリックス全体に良好な導電性パスが形成され、導電性向上させることができ、また機械的特性、熱特性等に関しても、少量添加においてマトリックス全体に微細炭素繊維からなるフィラーが満遍なく配されることで、特性向上が図れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0021】
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
【0022】
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
【0023】
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0024】
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、樹脂等のマトリックス中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のままマトリックス中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。
【0025】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0026】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0027】
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
【0028】
さらに、本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、少量添加によって、樹脂等のマトリックスの物性を改善することが難しくなるためである。
【0029】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
【0030】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
【0031】
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
【0032】
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
【0033】
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
【0034】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0035】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0036】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0037】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0038】
触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0039】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
【0040】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0041】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0042】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
【0043】
本発明に係る微細炭素繊維構造体は、
A)嵩密度が低い、
B)樹脂等のマトリックスに対する分散性が良い、
C)導電性が高い、
D)熱伝導性が高い、
E)摺動性が良い、
F)化学的安定性が良い、
G)熱的安定性が高い、
などの特性があり、これらを活かして樹脂、セラミックス、金属等の固体材料に対する複合材フィラーとして、あるいは、燃料、潤滑剤等の液体に対する添加剤として広い範囲に利用できる。
【0044】
これを機能別に具体例を示すと、次のようなものが例示されが、もちろん、これらに何ら限定されるものではない。
【0045】
1)導電性を利用するもの
樹脂に混合することによる、導電性樹脂及び導電性樹脂成型体として,例えば包装材、ガスケット、容器、抵抗体、導電性繊維、電線、接着剤、インク、塗料等に好適に用いられる。また、樹脂との複合材に加え、無機材料、特にセラミックス、金属等の材料に添加した複合材においても同様の効果が期待できる。
【0046】
2)熱伝導性を利用するもの
上記導電性の利用の場合と同様の態様に加え、熱伝導性を高めるために燃料に添加することも可能である。
【0047】
3)電磁波遮蔽性を利用するもの
樹脂に混合することにより、電磁波遮蔽性塗料や成形して電磁波遮蔽材等として好適である。
【0048】
4)物理的特性を利用するもの
摺動性を高めるために樹脂、金属に混合してロール、ブレーキ部品、タイヤ、ベアリング、潤滑油、歯車、パンタグラフ等に利用する。
【0049】
また、軽量で強靭な特性を活かして電線、家電・車輌・飛行機等のボディ、機械のハウジングに利用できる。
【0050】
このほか、従来の炭素繊維、ビーズの代替としても使用でき、例えば電池の極材、スイッチ、防振材に応用する。
【0051】
5)熱的安定性を利用するもの
燃料、潤滑剤等の可燃性液体の貯蔵ないし運搬時における安全性を高めるために、これら可燃性液体へと配合する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0054】
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
【0055】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0056】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0057】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0058】
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0059】
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
【0060】
(実施例1)
CVD法によって、トルエンを原料として微細炭素繊維を合成した。
【0061】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(中間体)を得た。合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第二中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0062】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
【0063】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0064】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
【0065】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
【0066】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンI/I比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
【0067】
さらに、得られた炭素繊維構造体の含有量が2質量%となるように、0.22gの炭素繊維構造体を、エポキシ樹脂(アデカレジン EP4100E、エポキシ当量190、旭電化工業(株)製)10g、硬化剤(アデカハードナー EH3636−AS、旭電化工業(株)製)に配合し、10分間混練後、200μmのギャップでドクターブレードを用いて製膜した。170℃で30分間硬化後表面電気抵抗を測定したところ、276Ω/cmであった。
【0068】
また、炭素繊維構造体の含有量が0.5質量%となるようにして、同様にエポキシ樹脂被膜を製膜した。得られた被膜の光学顕微鏡写真を図8に示す。この写真から明らかなように、樹脂マトリックス中において炭素繊維構造体が良好な分散性を示している。
【0069】
なお、実施例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明に係る炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】それぞれ本発明に係る炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明に係る炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明に係る炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図6】本発明に係る炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
【図7】本発明に係る炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
【図8】本発明に係る炭素繊維構造体を用いた複合材料の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであることを特徴とする炭素繊維構造体。
【請求項2】
前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維構造体。
【請求項3】
前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維構造体。
【請求項4】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【請求項5】
前記炭素繊維構造体は、空気中での燃焼開始温度が750℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【請求項6】
前記炭素繊維の結合箇所において、前記粒状部の粒径が、前記炭素繊維の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【請求項7】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1〜6のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、当該粒状部の粒径は前記炭素繊維の外径よりも大きく、かつ前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものであり、また前記炭素繊維構造体は圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が0.02Ω・cm以下であることを特徴とする炭素繊維構造体。
【請求項2】
前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維構造体。
【請求項3】
前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維構造体。
【請求項4】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【請求項5】
前記炭素繊維構造体は、空気中での燃焼開始温度が750℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。
【請求項6】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の炭素繊維構造体。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−183225(P2006−183225A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75437(P2005−75437)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【特許番号】特許第3776111号(P3776111)
【特許公報発行日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】